コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


妖刀・落葉
「さんしたクン。ちょっと!」
碇麗香の声に、三下忠雄はずりかけた眼鏡を直しながら自分のデスクを立った。
「みのしたですぅ〜編集長」
「そうだったわね」
なんとも気弱な三下の言葉を二つ返事で聞き流し、碇はひとつのパンフレットを取り出した。
博物館や動物園など、ちょっとした館内見取り図や説明のかかれているような三つ折の細長いものだった。
「なんですか?これ」
三下が拾い上げ、広げてみると、簡略化された館内の見取り図といくつかの日本刀の写真が掲載されていた。
「今度オープンする予定の刀具資料館のパンフレットよ」
「へぇ……」
「そこに取材に行ってもらいたいの。そこの館長である佐上尚彦さんは刀のコレクターでね。佐上さんがどうやら妖刀を持ってるらしいのよ」
「妖・・刀、ですか?でも、そんなの迷信じゃ……」
「それを調べるのがあなたの役目でしょ?」
に〜っこりとその綺麗な口唇を半月状につり上げた碇の目は、冷たいまでの光を放っている。
「は…はいっ!」
怯えながら返事をした三下に、碇はひとつの書類を渡した。
「佐上館長の関係者を調べておいたわ。しっかりね」
妙に優しい碇に不安お覚えつつ手元の書類に視線を落とし、三下は何が何でもしっかりとネタを仕入れてこなければ、と冷や汗を流していた。

*****
ファイル・1
 ●佐上尚彦・53歳 近日オープン予定の刀具資料館の館長。日本刀コレクター。
 ●佐上尚仁・74歳 尚彦の父。刀鍛冶師。
 ●佐上正宗・25歳 尚彦の息子。現在、刀鍛冶見習い。美術大金属工芸科卒。

 ●小野謙哉・57歳 会計士。資料館の会計係であり佐上家とは古い付き合い。
*******



「やれやれ……妖刀か。聞くんじゃなかったな」
面倒臭そうに頭を掻きながらぼやく長身痩躯の男に別の声が響く。
『妖刀…同胞にまみえる機会とあれば往かぬ訳には行くまい』
「まだ本当に妖刀かどうか決まった訳じゃねぇだろ。……ただの迷信かもしれねーし」
『今回はそれを確かめる為の仕事であろうが。ぐちぐち言うで無い!』
「やれやれ……」
忌引弔爾は頭を振り、オープンを待ちわびる刀具資料館の門を潜った。
弔爾は一人。だが、彼は一人ではなかった。
弔爾の持っている刀は無名ではあるが妖刀と呼ばれる代物であり、しかも意思を持っていた。
弔丸という妖刀は今回、同じ妖刀に逢えるかも知れない事で多少なりとも浮かれていた。
『貴様では佐上殿に失礼な事を言うやもしれん。拙者が話をする』
「あぁ、そうしてくれ」
弔爾も興味も何も無い刀の話なんかしたくもなく、あっさり全てを弔丸に任せる事にした。
ふっと感覚が変わる。
次には弔爾の体は弔丸が操っていた。
「さて、往くとするか」
弔丸は刀具資料館の扉を叩いた。


「いや、まさか貴方のようにお若い方がこれほどまで知識がおありとは驚きました」
にこにこと頬を紅潮させ、初老に近い男が言った。
「いや、貴殿の話は実に勉強になる。礼を言う」
頭を下げた弔丸に、佐上尚彦は慌てて手を振った。
「そんな、頭を上げて下さい。こちらこそ、いろいろと勉強させて頂きました」
と、今度は尚彦が頭を下げた。
(………うぜぇ)
うんざりと、弔爾は心の中で呟いた。
この二人、もうかれこれ一時間以上刀の意義や歴史、造りから意匠や細工に至るまで語り続けていた。
途中で何度か弔爾が弔丸に本題を促したのだが、今の今まで一切妖刀のよの字も出て来なかった。
だが、そろそろ頃合だろう。
おもむろに弔丸は自らの本体である妖刀を取り出し、テーブルの上に置いた。
「これを見て頂きたい」
「では……ほぉ」
尚彦は刀を抜き、姿を見て、感嘆を漏らした。
「良いつくりをしてますね。茎を見てもよろしいですか?」
尚彦の問いに静かに弔丸は頷く。
それを確認すると、尚彦は目釘穴から目釘を抜き、刀身と柄を分けた。
『おいおい、いいのか?バラバラにされちまったぞ?』
(刀とはあのようにして銘を観るものだ。覚えておけ)
心中で言い合う弔爾と弔丸に気付かず、尚彦は鑑定を続けまた刀を元に戻した。
「有難う御座いました」
尚彦から己自身を受け取り、弔丸は刀袋に仕舞う。
「銘はありませんね。造込は縞造。刃文は蛙子丁子。播磨国吉の作に似てはいるが違いますね……」
腕組みをし、考え始める尚彦に弔丸は口を開いた。
「これは世に謳われし妖刀というもの。御存知か?」
「妖刀?」
顔を上げ、目を丸くする尚彦に更に続ける。
「名こそ世に埋もれしものなれど、意匠、切れ味共に貴殿のものと同等か、凌ぐかというもの」
明らかに意を込めた物言いに、尚彦は黙る。
「風の噂に拠りて、是非とも同胞に会い、話をと思い参った次第。何卒」
神妙に頭を下げた弔丸に、尚彦は言葉を発しない。
『失敗じゃねーか?』
弔爾の諦めの声の後、弔丸の頭の上で溜息が聞こえた。
「仕方ありませんね……ですが、私はあの太刀は資料館には展示するつもりはありません。ので、他言無用でお願いしますよ」
「かたじけない!」
「では、少しお待ち下さい」
そう言って尚彦は部屋を後にした。
『おい……他言無用だとよ』
「うむ」
『うむ、じゃねーよ。じゃ、取材の意味ねーじゃねーかよ!』
「何を言うか。同胞との邂逅が果たせるのだ。それだけで充分ではないか!」
すでに当初の目的が抜けてしまっている弔丸に、弔爾は溜息をついた。


「エマさん!」
オープン前の刀具資料館前に車を停めたシュラインの側に、三下と月姫がちょうどやって来た。
「どうだった?二人とも」
「いい話を聞けましたよ。これならきっと編集長も喜びますぅ!」
「妖刀の存在確認がまだでございますよ、三下様」
すでにウキウキと嬉しそうに声を弾ませる三下に、月姫は先走りし過ぎないようにぴしゃりと言う。
そして、シュラインと共に車から降りた正宗を見た。
「あちらの方はどなたですか?」
「彼は佐上正宗さんよ」
「あぁ、佐上館長の息子さん」
シュラインの言葉に三下も正宗を見た。
正宗は軽く会釈をすると、資料館へと歩き出した。
それに続き、三人も歩き出す。
「いろいろ分かりました。佐上氏の所有している刀は刀銘・落葉。呪いの刀といって、良いでしょう……」
重くそう言った月姫の顔をシュラインはしばらく見ていたが、視線を前に戻した。
「そう……妖刀なんてものがこの世に存在するのね」
「でも、見せてくれるんでしょうか?」
ぼそっと頼り無さ気に呟いた三下に確信をもった答えを返せる事はシュラインには出来なかった。
ただ、前を歩く正宗の後姿を見ていた。
資料館の裏口へとまわり、正宗が扉に手をかけた時彼を呼び止める声がした。
「正宗くん?何をしてるんだい?」
「謙哉小父さん」
小父さんと呼ばれた人物は眼鏡をかけたぷっくらとした丸顔の愛嬌のある顔立ちの中年男性で、名前から彼が会計士の小野謙哉なのだろう。
「その人たちは?」
「父さんに会いたいんだそうです」
しばらく黙り、正宗は小野に問い掛けた。
「謙哉小父さん。父さんが妖刀を持ってるというのをご存知ですか?」
正宗の言葉に、小野は目を皿のように丸くした。
「どこでそれを聞いたんだい?!」
それだけで充分だった。
正宗は小野に目もくれず、中へと入る。
慌てて小野は正宗を追った。
「ま、正宗くん!ちょっと待ってくれ!!」
その様子を三人は訝しげに見ていた。
「一体…なんなんでしょう?」
首を傾げた三下にシュラインも訳が分からず頭を振った。
「兎に角、わたくし達も行きましょう」
月姫の言葉に三人は資料館へと入った。

資料館の応接室の中で、尚彦は弔爾の体を操っている弔丸に白木の箱を見せた。
その中には丁寧に刀袋に納められた一振りの太刀があった。
「これが妖刀と呼ばれているものです。名は落葉」
刀袋から取り出し、弔丸へと渡す。
「これが……」
だが、さっきまでの浮かれ気分は吹き飛んでいた。
弔丸はピリピリするほどの緊張感の中、鞘に収まったままの太刀を見た。
同じ妖刀だから分かる事。
弔丸と落葉は同じ妖刀であっても、その向かうべき所は異なるという事。
『おい、なんだ?こいつ。胸くそ悪いぜ……』
弔爾も何か感じるのだろう。弔丸に言った。
弔丸は鞘に左手を置き、刀を抜いた。
静かに姿を見せた刀身は、蛍光灯の光を反射し白く輝きゆらりと一瞬蠢いたような気がした。
「むう……」
禍々しいまでの想いに弔丸はうめき声を漏らす。
と、扉の外で騒々しい声がした。
「なんだ?」
刀身を鞘へと戻しながら、扉へと目を向けると、一人の青年が立っていた。
目は落葉を凝視している。
「正宗!」
「……父さん」
ゆっくり尚彦へ視線をむける正宗。
尚彦は弔丸の手から落葉を奪い取ると、すぐに片付け立ち上がった。
「用は済みました。お引取り下さい」
「父さん!」
そして、慌しく部屋を後にする尚彦を追い、正宗もまた部屋を出て行った。
「なんだというのだ?」
『さぁ…?』
二人して首を傾げる。
と、三人がやって来た。
「弔爾さん!妖刀は?!」
勢い込んで尋ねる三下に、弔丸は頷く。
「うむ。存在したぞ」
「本当ですか?!」
「あぁ、この眼でしかと確認した」
大きく頷いた弔丸に三下は小躍りして喜んだ。
だが、シュラインと月姫は尚彦と正宗、そして小野の去って行った方を不安気に見ていた。
「どうしたのかしら?本当に」
「分かりません……ですけど、何も、起こらなければ良いのですが……」
そう呟いた月姫は不安を祓う様に、頭を振ったのだった。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0845/忌引弔爾(キビキチョウジ)/男/25歳/無職】
【1124/夜藤丸月姫(ヤトウマルツキ)/女/15歳/中学生兼占い師】
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家
                    +時々草間興信所でバイト】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
忌引弔爾様
四度目のご参加、有難う御座います。
ほとんど弔丸が主体でしたが、如何でしたでしょうか?

今回は三人とも、それぞれ本編が異なっておりますので、
他の方のものも読むと、より分かりやすいと思います。
そして、今回最後があやふやな終わりなのは
次回に続く予定となっているからです。
時期は未定ですが、もし見かけた場合
ご都合が宜しければどうぞよろしくお願いします。

まだ、何かと至らない点もあるかと思います。
気づいた事、感想等があればなんでもお知らせ頂けると幸いです。
では、またお会いできる日を楽しみにしております。