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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


「恋人たちの約束 冬の贈り物」

<オープニング>
●記事
「お願いしたいことがあるの。もう40年近くも前の新聞なんだけど・・」
その時の新聞の切り取りをファイルから抜き出し持ってきた。
ずいぶん古いと言うのに保管がとてもいいためか初めは古い記事だとは
誰も思わなかっただろう。
それは少年の事故死を取り上げた記事だった。
それからもう一つはまだ新しく、なにかがコピーされた用紙だ。

題:「恋人への思い」
内容:
「はじめまして、霊感師の立川・大樹といいます。
最近、この世に彷徨っている1人の男の子を見つけました。

40年ほど前に『瀬都・優』と言う19歳の少年の事故死のことで
世間は話題が絶えなかったと言うことがありました。
彼は恋人へ指輪をプレゼントするため公園に向かっていました。
しかし彼女の元へ向かう途中、事故死を遂げてしまいました。
そして、彼女へ指輪を届けることがかないませんでした。
付き合って5年、少し誕生日の早い彼女の20歳の誕生日・・
『必ず迎えに行くから・・』彼と彼女の約束でした。
それはつまり【結婚】と言う意味を持っていました。
でも、彼は事故死してしまった。

けれど・・彼は一つも話してはくれないので情報提供だけをココに残します。」

このような内容だった。
「この時、世間は青年の事故死でもちきりだったの・・けれど彼の意思が
確認されたわけじゃないから1年間保存しておいたんだ。
けれど最近、立川さんがいつも公園にいる彼と接触できたの。
『彼女に・・会いたい』
それが彼の言った言葉。
それってつまり、彼女に会えなかったからじゃないかって思うの。
だから『恋人』の思いを伝えてあげて欲しいの・・・
恐らく彼女は今、60歳前後、けれど彼女に関しての足取りが一切ないの。
それに人と霊は時が違うよね。
だから彼女は20歳の彼女ではないよ。
けれど恋人を思う心は時間なんか関係ないよね!!
だから再び叶わなかった恋人たちの思いをかなえて欲しいの。
依頼者は 立川・大樹 、彷徨える霊は 瀬都・優」

こんな依頼だ。



●美しく儚い白き少年----「彼の想い」
東京の都心から少し離れた場所にある小さな町。
高層ビルが立ち並ぶ都心とは違い、あまり大きくはない住宅地や一戸世帯や一軒家が
目立つ。
今、向かっているのは立川の家である。
立川の家は公園から程近い所にあり、その際に必ず公園を通るためやや
七森・慎(ななもり・しん)は緊張をしていた。
「12月は寒いな・・本当。」
数センチ積もった雪を踏みしめながら慎は着実に足を公園の方へと向かわせる。
1人の人を永遠に愛し続け、名のみを知る彼。愛という感情に対してはこの世に
『永遠』とよばれるものは何処にもないかもしれない。
しかし彼の想いは『永遠』であろう。その『永遠』が彼を縛り付けているのだろうか。
彼女も同じ想いであってくれればよいのに・・・。
「想いを告げられずに消えた命・・・哀しいな」
そして慎はふっと足を止めた。こんな事を考えながら歩いているうちに公園の前に着いた。
本当は立川にあってから優に会おうと思っていたのだが気持ちがそうもいかなかった。
一度だけ彼を見ておきたかったのだ。

そして慎の目に映し出された彼は慎の予想を裏切っているのかそれとも予想通りなのか
慎自身判らない。
彼の印象は白くけれど儚き少年・・それだと想う。色白の綺麗な彼は白い羽根をもち
ぼーと空を見上げていた。
羽が本当にあり、見えるわけではないが慎にはそう見えるほど綺麗な少年だった。
彼はずっとこうして時という針の音も聞こえずたっていたのだろうか。
しかし彼は今にも消えてしまいそうなほどの羽を持っているようにも見えた。
「あんた・・・誰?俺のこと見えてるみたいだな」
我に返った時には彼はこちらを見ていた。
「こんにちは、俺は七森慎。ずっとここにいるのか?」
彼の第一声を放った時にはイメージが変わっていた。話し方も男の子らしい。
しかし彼のかわいらしい顔のギャップには魅了されてしまう。
「へぇー、慎さんか。俺は瀬都優・・優でいいよ。けど立川さん以外の人と話すのは
久しぶりだ。今日はいい日になるかもしれないな」
意外と元気に話してくれる優に慎は少し安心して微笑した。
「ねぇー所で慎さん、あんたここ(地元)の人じゃないだろ?珍しいなーーこんな所に
来る人って・・」
楽しそうにベンチに座って優は楽しげに慎に話しかけてくる。
「あ・・こっちに用事があってな。」
優はやや首を右に傾げて慎を見る。慎に興味を持ったのか軽く微笑んでくる。
それがまた綺麗だ。
立川さんの話ほど優は弱くは見えない。いくら興味を持ったからと言ってこんなに明るくなることはまずないだろう。
「仕事ねーー、俺のこと助けてくれるの?」
その瞬間、すべての時間が止まったかのように風のさえずる声しか聞こえなかった。
「・・・・冗談だよ。」
一瞬、彼の目の色が変わったように見えた。本当に冗談でそんなことをいったのだろうか・・。
「!!っでなんで知ってんだよ!」慎は慌てて聞き返した。
「そんなに騒ぐなって。判るよ・・だって、霊が見える人なんて少ないだろ?ましてや・・・」
優の言葉が止まった。
「・・・まして?」
慎は聞き返すが優はベンチにもたりかかったまま腕で顔をおおい表情が見えない。
彼はその続きを聞いても答えなかった。

●認めた証----「天性」
「はじめまして、立川さん、七森慎です」
立川は慎をソファーへと誘導してコーヒーを差し出してきた。
そして立川は窓の側にたった。
「寒い中すまなかったね。優をみたかい?」
立川は予測が出来ているようで一瞬、慎は目を見開いたが慌ててコーヒーを一口飲んだ。
「ええ、会ってきました。なんと言うか・・【綺麗だけど儚い少年】っていうのが第一
印象でした。けれど話して見ると明るくていい子でした」
立川はこちらを振り返りなににビックリしているのかカップを落としかけそうになった。
「君の霊力はあふれるほどにすごいように見て取れる・・桁外れの霊力、それに惹かれたのだろう。」
慎は普通の霊能力者とは違い、天性に持った桁外れの霊力を備えもっていた。
「君なら・・彼を救える気がする」
立川はオルゴールの中から一枚の封筒を取り出した。手渡された封筒を開けて見ると中に鍵が入っていた。
「これは優を救うための一つの鍵になるだろう。優の気がかすかに残っているだろう。昔、公園で拾った物だ。錆びていたので復元には手間を取ったがなんの鍵かは分からない。」
そう言って立川は慎にその鍵を預けた。
慎はその鍵をポケットししまった。


●40年の想い----「希望と恐れ」
やはり優はまた空を見上げ今にも消えそうな少年に戻っていた。そうだ、第一印象の
ように・・。
しかしその表情がまた変わる。慎と会話する時の顔だ。どうやらこちらに気づいたようだ。
「お帰り、立川さんに会ってきたのか?」
「うん、優の話を聞かせてもらった」
優は少し寂しげな顔をした。なぜかと聞く前に優が口を開いた。
「俺は・・彼女に会いたい。けど、俺は目的を果たしてしまったら消えてしまうんだろ?
動かなかった時が動き出すくらいならここでこの空気を・・・空も木々も緑も小鳥も見続け感じたい」
彼の目からは涙がこぼれていた。彼女と会いたくて何年の時を過ごしたのだろうか。ここに居過ぎた事が彼を苦しめてしまっているのだろうか。消えるという不安。未来がないという不安。
「そんなことない。消えると言う事は優が存在しなくなるわけじゃない。」
「わかんねーよ・・そんなこと言われても・・それは慎さんが生きてるから・・
言えるんだ・・・」
この少年は成仏と言う本当の意味を知らないのだろうか。けして消えるとこではない。光を見出し風となり緑となるのだ。けれどそれは学ぶものではない・・慎はそう思いしばし無言でたたずんでいた。
「大丈夫だ・・優には俺がいるだろ?成仏する時にだって側にいるし、それに・・
消えたりしない」
優はやや斜めに首をかしげた。
「・・言ってる事むちゃくちゃだ・・慎さん」
そういいながら優は少し笑顔を見せながら答えた。
「ほら、運命の神様だ来た・・」
空を見上げるとやって来たのは慎の式神だ。式神は降りてきて何かを慎に届けた。
それは指輪だ。
慎は優の気をたどって想いが一番こもっている指輪を探させていた。

優は少し間を開けてからゆっくりと慎のポケットを指差した。
「俺・・会うよ。ずっとこうしていても仕方がない。立川さんにも、もう迷惑はかけたくないしな。その鍵は彼女と住むはずの家だった・・今はきっと廃墟になっているだろうけど・・彼女の場所は俺にも分からない」
優はまた空を見上げながら言った。何故そんなに空を見上げるのだろうか。
「手がかりがあるかも知れない・・言ってみるか?」
慎は優の頭を軽く撫でながら言った。
「でも・・俺、公園から出られない・・自分の想いが強すぎてコントロールできないんだ」
優の想いは強すぎ、そして時が経ちその層は更にまし、コントロールさえ効かなくなったのだ。
「分かった、ここで待ってろよ。俺が連れてきてやるから。俺ができるのは彼女を探しつれてくる事だ」
そう言って慎は公園を後にした。


●約束----「40年の時」
慎は優から教えてもらった家に到着した。
「・・・どういうことだ・・」
40年もほっとけば誰が見ても住んでいないと判るほど汚れてしまい廃墟同然になる
だろう。
それなのにその姿は誰かが住んでいるかのように綺麗だ。
慎はゆっくりと玄関前に経ち事情を把握できぬまま呼び鈴を鳴らした。
「は〜い」
そこから出てきたのは若い10代の少女だ。見知らぬ顔に少女は少し焦りながら応答した。
「お婆様〜お客さまよ」
そう言って少女は家の中に入って行き誰かを呼びに行った。
「どなた・・?」
そこに出てきたのは車椅子に乗った優しそうなお婆さんだ。こちらに向かって微笑して尋ねる。
彼女は恐らくあの人だろう。しかし60代前後の歳にしてはわりと若く見えるし幼い顔立ちをしている。
「初めまして。七森慎です。唐突で悪いのですが瀬都優と言う少年をご存知だろうか」
お婆さんは驚いたように慎の事を見て来た。ある程度事情は呑み込んでいるようだ。
「ええ・・もちろん。私の夫となる人でした。しかし・・交通事故で亡くなって。もう、何年経つでしょうか?
優の事を昨日の事のように思います。妹や弟たちは結婚して・・周りは心配してお見合いさえも持ちかけて来ましたが優を忘れる事はありませんでした。」
この人こそが優の恋人なのだ。
「残念ですが貴方のお会い人とは会えなくて残念です・・」
一つ深々とお辞儀をしてきた。
「貴方のお名前は?」
彼女は少し驚いた。何故自分の名を訊くのだろうかと思ったのだろう。
「笹原・深月(ささはら・みつき)といいます」
「そうか・・俺は貴方にようが会ってきたんだ。どうか願いを聞いてもらえないだろうか。」
深月は首を傾げて慎に耳を傾けた。そして慎は一つ息継ぎをしてから話をきりだした。
「俺はある少年を助けるためにここに来た。彼は恋人とある『約束』をした。
しかし彼は事故死してしまった。けれど彼は恋人との約束を守るために今もずっと公園で彼女を待ち続けている。それって誰の事かわかるか?」
深月はキョトンとした目で慎の顔を見つめる反面、今にも涙が零れ落ちそうなほど目は潤んでいた。
「け・・けれど優は時の人・・もうこの世にはいません」
深月は冷静を保つように言葉を発した。
「そうだな・・。では何故わざわざ知らない奴に依頼をしたりするかわかるか?それは世間でいう特殊能力ってやつかな?俺は霊感がある。霊の中にも成仏できない奴だっている。その手助けをするのも俺の仕事だ。」
普通の人にしてみれば信じられない話し出しこう言う体験をする人もはっきりいって少ないだろう。
後は深月がそれを信じるかどうかだけだ。深月はしばらく目を閉じたままうつむいて何かを考えているようだ。
「分かりました・・それが本当ならば私も彼に会いたい・・けしてそれが最後でも私は後悔したくはありません。もう・・お婆さんになってしまい年老いてしまいました。優に分かるかな・・」
深月は軽く笑って見せた。彼女なりの強がりであり勇気だろう。
「じゃー支度してくるので少し待っていただけますか?」
「ええ・・」
そう言うと彼女は家の中へ入っていった。慎はそれを見ながら軽く息を吐いた。


----10分後
「お待たせしてすみません!」
「いいえ、どーぞ。車の方はご用意できていますよ」
足の不自由な深月の手を引いて深月を車へ乗せた。
「(くすくす)・・ありがとうございます、慎さん。」
「いいえ」
そして優の居る公園へと車をはしらせた。

●再開----誓った約束
「優」
後ろからふと声を掻けると優はこちらに姿勢を戻しじっと見てきた。
「あれ?慎さんお帰りなさい」
慎は真剣な顔で優に近づいた。優はその目にびくんっと体を振るわせた。
「な・・に?」
優は何かに脅えるように尋ねた。そんな優に慎の暖かい大きな手を頭に乗せた。
「優・・俺ができるのはここまでだ。あとはお前次第。40年前の約束を果たす時だ」
そう言うと慎はそっと指輪を渡した。
「えっ?」
優は手に取った指輪を見たため視線を下げてから再び視線を上げ慎の顔を見た。
優の整った顔立ちが少し揺らいだ。
「大丈夫。優・・『成仏』と言う言葉の意味は消えてしまう事じゃない・・だから」
もう一度慎は優しく優の頭を撫でた。
「ありがとう・・慎さん。」
そう言うと決意したように歩き出した。
慎はあらかじめ念のせいで邪魔者が入らないように公園に不可侵の結界を張っていた。
あんなに脆いように見えた優の姿は今ではずっとしっかりとしていた。強い決意がここまで変えてしまえるのだ。

「深月・・・久しぶり・・」
ゆっくりと深月の方へ近づくと声に反応して深月が振り向いた。
「優・・?」
時がたっても変わらぬ優と時を経て変わっていく深月。しかし心は互いに変わっていないだろう。
慎はベンチに腰を下ろし二人の結末をじっと見守る事にした。
「優・・変わっていないのね。私はこんなにも歳を老いてしまった。けれど・・貴方に会えて後悔はしてないよ。私の中に永遠に残っているのだから・・」
溢れんばかりの涙を必死にこらえるが深月の目からは涙が止まらない。
「深月・・ごめん。触れてやりたいけど・・もう・・暖かい手で触ってもやれない」
優は自分の手を見ていった。
「けど・・この指輪だけは君に届けたい。長年のせいで少し錆びてしまった・・けれど俺の想いは変わっていないようだ。こうして優しい念がこもる指輪に触れることができる・・。」
優はそっと深月が差し出した手に指輪をはめた。
「優・・ありがとう。」
深月は涙ながら笑顔を見せた。そして優の体は成仏の道をたどる証を見せ始めていた。
「深月・・これ以上一緒に居られないみたいだ・・体が消え始めている・・」
「そんなことないわ。優は私の心の中で生きてる!」
そんな言葉に優は涙でなく笑顔を最後に見せた。そして空を一度見上げてからもう一度深月に微笑んだ。深月はけして目を逸らさず優を見守った。
「深月さん・・」
慎はそっと後ろから声をかけた。
「ありがとうございます。慎さん・・優は私を見守っていてくれている気がします・・。きっと優しい風となって一緒に居てくれる気が・・変かしら。」
「いいえ、俺もそんな気がします」
そう、成仏はけして消えてしまう事ではない。闇から光へと導きそして大地とともになりこうして見守るのだ。


●大切な想い----守りたい者
「お疲れ、慎くん。どうだったかい?あの子の結末は」
慎は立川から差し出された暖かいコーヒーを手に取った。
「素敵な結末でしたよ」
「私は少し優の邪魔をしていたようだ。親しくなるという事はそれだけ深入りをして
しまう。心のどこかで消えないで欲しいと望んでいた」
立川は窓ごしから見える空を見ながら言った。その行動を見た慎は軽く笑った。
「優の癖は立川さんからのものなんだな・・」
優が最後に空を見上げたのは立川への感謝の気持ちもきっと込められていたのだろう。
立川は慎の理由が分からずただ首を傾げていた。


----追伸
優、この声が届くかは分からないけれど俺も大切な者を最後まで大切にしたい。
そして風になって見守ってゆくのも悪くはないよな。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0565/七森・慎(ななもり・しん)/27/男/陰陽師

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■         ライター通信          ■
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慎さんお久しぶりです。葵桜です。
葵桜の久しぶりの依頼にご参加ありがとうございます。
今回はちょっと切ないけれどハッピーエンドを目指しがんばりました。
気に入ってもらえたでしょうか?
慎さんは沙耶さんを大切にしている優しい心の持ち主なのでとても書きやすかったです。
少し文章の勉強もしてきましたので前よりはお恥ずかしくない文章を書けるようにがんばりました。
少し長めの文章になってしまいましたが私的には少し大好きな作品にしあがりました。
あとは慎さんが喜んでくれると幸いです。
                        葵桜