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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:呪われた七つ道具

■ オープニング ■


『前略 草間武彦様』
 銜えタバコを唇の端に寄せ、草間は一通の封書を開いた。差出人は不明である。
「先日、とある家へ忍び込んだ際、持ってきた物の中に曰く付きの一品を発見致しました。持っていると妙な事ばかり起きる嫌な品です。持ち主に返したいのですが、それでは泥棒を働いたと名乗りでるようなもの。どうか怪奇探偵と名高い貴殿から、お返しして頂けないでしょうか。ただし、せっかく盗ってきた物を簡単に返すのも惜しい。そこで少しばかりひねらせて頂きました」
 誰が怪奇探偵だ……。
 草間はブツブツ言いながら、封書の中を覗き込んだ。そこには小さな紙切れが二枚入っているのみ。一枚はメモ、一枚は新聞の切り抜きだ。一体何を返すのだろう。切り抜きを開く。
 
『発見者に金一封。シャーロキアン、垂涎の的。かのシャーロック・ホームズ愛用の『探偵七つ道具』を忠実に再現した骨董品が盗難に。最初の持ち主がこれを巡って刺殺され、犯人も逃走中に足を滑らせて川へ転落、溺死している事から呪われていると噂される曰く付きの一品。連絡先・岸和田──』
 パラリ、二枚目。
 
『廃呪・●●区立○○第一小学校
 ■アイテム
   ヒゲ・眼鏡・カツラ・パイプ・拡大鏡・ステッキ・ムチ
 
 ・ベートーベン
 ・ビーナス
 ・骨
 ・裸の男
 ・南じゃない、一階じゃない、三階じゃない、端の部屋
 ・黒いカーテンと白いスクリーンの部屋
 ・本の部屋』
 
 草間はどこかで見た記事を思い出した。
 第一小学校と言えば去年、少子化で児童数が減り、廃校を余儀なくされた学校だ。来年には鉄筋四階建ての校舎を潰し、中規模スーパーが新しく建つ予定となっている。
 その中に犯人はアイテムを隠したようだ。
「ベートーベンと言えば音楽室だが、まさかそこにヒゲをつけたんじゃないだろうな。やれやれ、宝探しをしている暇は無いんだが……」
 草間の脳裏にはヒゲ面のベートーベンが浮かんでいた。
 
 
 
 
 ====================================================
 
 七不思議というものを、皆さんはもちろんご存じだろう。トイレに女の子の霊が出て、とか、誰もいない音楽室からピアノの音が、とか、どこの学校にも一つや二つはあるそれだ。
 今回の依頼の舞台となったこの板橋にある小学校にも、やはりそれは存在する。
 すでに廃校となり人気は失せたが、だからこそ退屈している彼らが、侵入者が来るのを手ぐすね引いて待っている。
 重ねて宝自体にかかっている呪いもある。
 さあ、心してかかれ、皆の衆。
 
====  呪われた七つ道具  ===
 
 ■■ 六つの影 ■■
 
 さて、一行は深夜遅く、現場である小学校の校門に集まった。街灯に照らし出されたメンバーはシュライン・エマ、真名神慶悟、レイベル・ラブ、浄業院是戒、御子柴荘、北波大吾の六人である。
 静まり帰った声なき建物を前に、大吾はどこか寂しげな顔をしていた。今でこそ、学ランに身を包んだ高校生ではあるものの、山奥育ちの大吾は近所で手習いを受けていて、小学校へ通った思い出が無かったのだ。
 そしてその隣でも神妙な顔が一つ。
 是戒だ。是戒は近代事情が絡む事柄に、からっきし弱い。今日も事前に草間から、『現代小学校における諸事情』をレクチャーしてもらったのだが、何かを聞き逃したような気がしてならなかった。
 対照的にその『聞き逃した何か』に対してただ一人、用意周到な荘は、自らに気をかけた。ニコニコと微笑みながら、荘がした事に気が付いた者はいない。
 その傍らでは、慶悟がレイベルの呟きを気にしていた。
「わかった。呪いについても発端の事件に付いても犯人についても考えない、これで良いだろう?」
 誰に何を突っ込んでいるのか──
 慶悟は眉を潜めた。
「……もしかすると、何かが見えるようになる呪いなのか?」
 寂しげな者、神妙な顔の者、微笑んでいる者、呟く者。確かに何かと対話しているように見えなくもない。
 そんな慶悟の背後から、放っておいた式神が戻ってきた。回るべき部屋はおおよそ分かっていたのだが、その最短ルートを探らせていたのだ。
 慶悟は式神の念を読んだ。
「北校舎二階から、三階と四階。南校舎二階に回って三階、四階……?」
 部屋数は六つ。一つ足りない。
 シュラインは慶悟の顔を見やった。その手には、日中入手しておいた鍵の束と図面がある。それを広げて、慶悟の言葉の裏を取り始めた。その動作に抜かりはない。
「北校舎二階は……例の『南じゃない……』っていう部屋ね。それらしい部屋は……『資料室』かしら。それから三階は『理科室』? 四階は『図書室』。南校舎の方は二階が『音楽室』、三階が『図工室』で四階なら『視聴覚室』かしら。んー……真名神君、それで全部なの?」
「らしいな。『裸の男』が足りないようだが……」
「そうね。それが人体模型なら保健室かとも思ったんだけど……。あとは外に置かれた銅像とか……」
 式神の言う事に間違いがないのなら、シュラインの予想もほぼ当たっている。ただ北校舎二階は、さらに高度な解読法を用いて、一、三以外の二(ニ)と四(シ)、それに北と言う方角を絡めて『西』という言葉をはじき出していた。
 是戒はそれを聞くと、感心したように何度も頷いた。そんな是戒も『裸の男』と『端の部屋』以外は慶悟と同じ考えだった。
「え? 『裸の男』ってプールじゃなかったのか!」
「人体模型なら骨と同じ、理科室でいいんじゃないのか?」
 大吾とレイベルが言う。
 レイベルはただ一人、最初から部屋は六つだと踏んでいた。
 保健室なのか、プールなのか、理科室なのか。
 とにかく探してみなければ始まりはしないと、一行は図面を覗き込んだ。
 配置図、東側断面図、南側断面図と三枚ある。
 なぜ東側なのかは、北校舎の配置に理由があった。
 校舎全体の形は、頭が短く足の長いL字型をしており、長手が南校舎で、短手が北校舎となっている。つまり北という名前がついているが、北へ向かって延びているだけで、面の長手は東であり西を向いていた。教室のある側が西、廊下側が東となっている。この図面は視点を東に置いたもので、北校舎を正面から見ることが出来た。
 そして北と南はひと続きでは無かった。個々の建物が、直角に曲がった渡り廊下で繋がっている。ただ一階部分にはそれが無く、行き来する為の昇降口がそこにあった。
 なお、プールと体育館は校舎裏に配置されていた。
 次に南側断面図と東側断面図を見比べる。
 南校舎正面には三つの昇降口があった。一番右から教室を一つずれた場所と真ん中、それに左端だ。この一番右の教室が特別教室にあてられている。上から順に『視聴覚室』、『音楽室』、『図工室』、『保健室』とあった。
 北校舎の配置は左から渡り廊下、トイレ、教室、教室、突き当たりに特別教室だ。上から『図書室』、『理科室』、『資料室』、『家庭科室』となっている。
 こう見ると、先ほど言っていた南と北の教室は、折れ曲がった校舎の端と端に位置している。慶悟の式神は、きっちりと一通りを回ってきたようだ。となると、やはり重複はするが『裸の男』は『理科室』になるのだろうか。
 それにしても全ての隠し場所を全員で回ろうとすると、校内を一周しなければならない事になり、かなり効率が悪い。
「二手に分かれるか……。それとも個々に当たるか」
 そこで話し合った結果、一行は二手に分かれる事にした。南側は、ベートーベンとビーナスを知らない大吾、保健室を確認する為にシュライン、ベートーベンにヒゲは許さんとレイベル。
 一方、北側は『端の部屋』探索に手っ取り早く式神を使うと慶悟、それに人数の割り振りから是戒と荘だ。
 シュラインは鍵を慶悟に、図面をそれぞれの手に配った。慶悟は受け取りながら、小さく溜息をつく。感心と驚きの意だ。
「毎度の事になるが、よく手に入ったな。まさか『宝探し』をするから貸してくれ、とでも言ったのか?」
「まさか。夜の校舎を撮影に使いたい、とか。そんな感じかしら」
 シュラインは肩をすくめて笑った。
「ひとまず持ち場のチェックが済んだら、一度ここに戻りましょ。それで見つからない物は、回る班を逆にしてもう一度探すって言うのはどうかしら」
 一同は頷いた。

 ■■ 一つ目の宝 ■■

 北校舎の玄関を潜った三人は、ひとまず辺りを伺った。川の字に並んだ下駄箱と、左手に階段。先には真っ直ぐに続く廊下が見える。
 電気は通っておらずどこも暗い。非常灯だけがぼんやりと緑の光を放っていた。
「一つ確認しておきたいのだがな。べーとーべんは音楽家……音楽室。骨は理科室。びーなすは美の女神と聞いた……となると弁財か、はたまた吉祥か……まあ、美術室に違いはあるまい。それにシチョウナントカと……本の部屋は書庫……図書室。これで間違いは無いか?」
「ああ。間違いない」
「そうか。失せ物探しは得手ではないが、己の脚を以て求めし物を追うは、まこと救世の道を往く事に同じ……まして偸盗されし物であるならば、早々に返して貰わねばな。うむ、頑張るとしよう」
 揚々と張り切る是戒の傍らで、慶悟はさらに細かく隠し場所の予想を立てていた。肖像画の裏、ピアノの周辺、視聴覚室なら映写室や座席の辺り、それに図書室ならホームズの本がある場所など、だ。
 北側ではその半分の部屋を調べられる。果たしてどれだけ当たっているか。しかし、今日の所は構えも気楽で、慶悟は単に宝探しを楽しむつもりだった。
 三人は階段を昇り始める。一番近い部屋は二階の『南じゃない、一階じゃない、三階じゃない、端の部屋』だ。三つの足音が静寂の校舎に響いた。
「面白くなってきましたね。俺は部屋じゃなく、どこに何があるか予想を立てて来ましたよ。まあ、草間さんの言うとおり、百歩譲ってベートーベンはヒゲとしましょう」
 荘はニコニコとしている。
 踊り場から方向を反転させてさらに上へ。
「残りですが、恐らく鞭はビーナス。裸の男はカツラ。黒いカーテンと白いスクリーンの部屋にはステッキ。本の部屋には拡大鏡・骨にはパイプ。南じゃない、一階じゃない、三階じゃない、端の部屋には眼鏡、だと思います」
 階段を昇りきると、そこは一階よりもほんの少し明るかった。窓から月光が差し込んでいる。通路は左右に分かれ、南校舎へ行く為の渡り廊下と、北校舎側の廊下に繋がっていた。
 一行はもちろん左を選んだ。
 ツヤツヤと光る廊下。左手前にはトイレがあり、以降規則正しく教室の扉が並んでいる。少し行った右側には手洗い場があり、そこにポンプ式のソープが置き去りにされていた。
 校舎内はどこも綺麗で、廃校と言う事がまるで嘘のようだ。
 慶悟はそこで式神を放った。教室の数は三つしかないのだが、一つ一つ回っていては手間がかかる。第一、どこに何が隠されているか分からない上、道具も隙間や棚、引き出しに隠せる程小さいものばかりだ。見落としもかなりの確立で発生するだろう。探す場所も物も、絞れるなら絞るに限る。
 立ち止まった慶悟の傍らで、是戒と荘は会話を続けていた。
「なるほど。してその根拠は?」
「ありません。感です」
 荘はニッコリと微笑んだ。人懐こい笑顔だ。
 その背後で白い何かがニッコリと微笑んだ。人懐こい笑顔だ。そしてスーッと去っていった。
「……なんでしょう、今のは」
「うむ。『通りすがりの魂』のようだ」
「なるほど。通りすがりの」
 面白い。
 二人のやりとりを耳にしながら、慶悟は思った。
 さすがにこれくらいで動じる者はいない。
 式神は何故か放った位置から動こうとしなかった。
 さてはこれも呪いか。
 そう思う慶悟の前で、式神はゆっくりと真横にある教室を指さした。
 動かないはずだった。
 トイレの横、一つ目の教室だ。
 慶悟の視線が、ドアにチラリと挟まっている物体に気が付いた。しかし是戒は気が付いていないらしく、「ふむ、ここか」と頷いてガラリと戸を開けた。
 ポソッ──
 何かがおごそかに是戒の頭に降ってきた。
「む? 何だ?」
 おもむろにそれを引っ張ってみる。何かモジャモジャとしたモノだ。
「取れんな」
 どうやら皮膚に貼り付いてしまったようだ。引っ張ろうと、掴もうと一向に取れる気配が無い。
 是戒は後ろを振り返った。
 慶悟と荘は一緒に振り返った。
 是戒に二人の背中が向けられている。
 何事か。
 肩が震えていた。
「……どうかしおったのか」
 フ──
 笑いが漏れた。是戒は尚も『それ』を引っ張る。
「それにしてもこれは何なのだ。さっぱり取れなくなってしまったぞ?」
 荘は震える声で言った。
「……『カツラ』です、金髪の……」
 説明しよう。
 ドアに挟まっていた物体はカツラだったのだ。慶悟にはそれが見えたので立ち止まった。しかし是戒はまんまと黒板消しのイタズラのごとくに、それをまともに頭で受けてしまったのだ。
「おお! では早くも一つ目の『道具』を見つけたのだな。それは良かった」
 良くないかも。
 二人は躊躇いがちに是戒を振り返った。是戒はカツラを引っ張っている。
 引っ張る、下ろす、引っ張る、下ろす。その度に吊り上がったり、元に戻ったりする目。
「……あの(ぜひ今すぐ俺達の為に)止めた方が……その内取れますよ、ね、ねえ真名神さん」
「あ、ああ」
 チラ。
 荘と慶悟は是戒を見上げた。
 いかつい顔に金ヅラ。名前をつけるなら『アントニオ』がピッタリ。
「そうか! それもそうだな。他にはもう無いのか?」
 そう言って教室の中へ入っていくアントニオ。大きな背中に月明かりを受けて煌めく金髪。定着してしまったのか、諦めてしまったのか。是戒は颯爽と歩き回る。
 心なしか、美しいかもしれないと、思えなくもないような気もするが、それは気のせいかも?
「真名神さん。俺、死にそうです」
「俺もだ」
 二人は笑いを堪えながら、教室へと足を踏み入れた。刹那──
 ピシャン!
 ドアが勢いよく閉まった。
「まだ何かあったんですか!?」
 荘が慌ててドアを開こうとするが、びくともしない。是戒は逆側のドアへ回り込み、それに手をかけた。
 ガラッ。
 何かあっさりと開いた。
 そして三人の視線がそこに固まる。
 顔だ。
 ドア一杯に入道のような顔があった。何となく是戒に似ていなくもない。それがギョロリと是戒を睨んだ。
「む」
 是戒も顔を見つめ返した。
 慶悟と荘は笑いを堪えた。
 真剣になればなる程に、浮き立つ金髪。
 静かな静かな時間が流れる。
 パラ……
 是戒の肩から金の髪が零れた。
 その光景は儚い──
 か、どうかは疑問。
 入道の顔が突然歪んだ。顔がグシャッとひしゃげ、号泣する。
『なあにい? これぇ、恐〜い』
 えーん、と泣きながら、顔はゴロリゴロリと廊下を転がっていった。
 是戒は神妙な顔で二人を振り返る。
「何が恐いのだ?」
 慶悟と荘は首を横に振った。

 ■■ 二つ目の宝・音楽室 ■■

 シュラインはまず校舎に入る前に、その冷たい壁に手を触れた。
 子供達を抱え、そして今ではその賑わいを無くした学舎。
 労いと、侵入の許しを請う眼差しで見上げた後、玄関に鍵をさした。
 南校舎は左に続く長い廊下と、右に突き当たって教室が一つ。そして目の前に階段があった。トイレが階段の横に見える。
 大吾は「ちょっと待っててくれ」と言葉を残し、そこに駆け込んだ。
 その間、シュラインは保健室を覗いてみた。ベッドや細かい器具は片付けられ、部屋はガランとしている。探すまでも無く、それらしい物は見あたらなかった。
 レイベルは下駄箱に投げ出されている、潰れた上履きを見つめていた。
(いまさら少々の呪いを受けた所で、二万五千トンの重量に髪の毛一筋を乗せた様な物だ)
 ありとあらゆる呪いと祝福を受けているレイベルに取って、小さな道具に秘められている呪いの一つや二つ、恐れるに足りない。しかし、その小さな呪いで、保っていたバランスが崩れるという事も大いにあり得るのだが、そんな事で臆するレイベルでは無かった。
 シュラインが保健室から出てくるのと、大吾がトイレのドアを開けたのは、ほぼ同時だった。
「よし、戦闘準備オッケーだぜ!」
 再び現れた大吾は、学ランから山伏姿に着替えていた。
「駄目みたい、見あたらないわ」
「『裸の男』? 何だ、残念。それが一番害が無さそうだったのになあ」
 そう言いながらも、大吾はちっとも残念そうではない。むしろ嬉しそうだ。
「呪いって何だろうな! 実はこっそりそれに期待してたりー。どんな事が起こるんだろうな」
 ウキウキ顔で、階段に足をかけた大吾に二人は続いた。
「まずは『音楽室』ね。んー、ベートーベンて犬の映画じゃないわよね。ビーナスもここで飼ってた動物の名前──なんて」
「ベートーベンって犬なのか? ビーナスってのは動物?」
「あ、混乱させちゃったかしら。音楽家と彫刻よ」
 肝試しには最適の環境だと言うのに、ひるむ者はやはりいない。和気藹々と足取りも軽く階段を昇っていく。
 と──
 ビシッ。
 階段上部から妙な音が聞こえた。
「何?」
「ラップ音だな」
 三人は音の発生場所を突き止めようと首を巡らせる。
 ビシッビシビシビシッ。
 早くも洗礼が始まったのだろうか。一行はつづら折りの階段を駆け上がった。
 ビシッビシッビシッ!
「何なんだ、一体! いるなら姿を見せろ!」
 大吾が叫ぶ。
 ビシッ、ビシッ、ビシッ!
「な、何かこれって」
 シュラインは困惑した。
 ビシッ、ビシッ、ビシッ!
 ビシッ、ビシッ、ビシッ!
 ダンダンダカダカダンダンダー、ダンダンダカダカダンダンダー。
 ラップ音が勇ましいリズムを刻んでいた。
 ダンダンダカダカダンダンダー、ダンダンダカダカダンダンダー、ダンダンダカダカダンダンダカダカ、ダンダカダンダンダン! ビシッ!
 シーン。
「……」
 終わったらしい。
「……何だったんだ?」
「入場行進曲か?」
「大歓迎みたいね」
 三人は、首を傾げながら左突き当たりの『音楽室』の前に立った。
 ドアにはやはり鍵がかかっている。シュラインが鍵を使った。
 扉を開けると、三人を迎えたのは保健室と同じ、ガランとした教室だった。グランドピアノはすでに持ち出され、端に寄せられた机の上にはイスが積み上げられている。
 肖像画は正面の壁の上部にかけられていた。
「『べーとーべん』ってどれだ?」
 大吾が言うと、シュラインはその中の一人を指さした。八つある肖像画の一番左だ。
「あれよ」
 ふうん、と言って大吾は近づいて行く。
「なんだ、普通のオヤジじゃねえか。随分、髪が乱れてるな。それに変わった眼鏡をかけてるぜ」
 眼鏡?
 大吾の声に、シュラインとレイベルはベートーベンに駆け寄った。
 違和感無く片眼鏡を着用している。
「許さん! 何だそのひねりの無い『隠し方』は!」
 レイベルが吠えて壁を叩いた。
 ドーンと校舎さえ揺れる程の怪力。
 ボロッと眼鏡が剥がれて落ちた。それをシュラインが受け止めようと手を伸ばす。しかし、弾んだ眼鏡は手からこぼれ落ち、シュラインの左つま先に落っこちた。
 ベト。
 妙な感じだった。なんだか貼り付いてしまったような。
 シュラインは足を軽く振ってみた。
 片眼鏡のレンズがキラッキラッと輝く。
 取れない。
 指で剥がそうと試みる。が、やっぱりうんともすんとも動かない。
「……呪われちゃったみたい」
 レイベルと荘は黙り込んだ。
 とりあえず音楽室のアイテムは、シュラインの靴で回収できた。
 
 ■■ 三つ目の宝・音楽室 ■■

 ところ変わって北校舎三階。長い廊下を歩く三人の耳に、突然、男の絶叫が飛び込んできた。突き当たりにある『理科室』からだ。
『死ぬなビリー!』
 見ればドアにはめ込まれた磨りガラスに、男の影が映っている。
 三人は走った。荘が扉に手をかける。
 スル、とそれは抵抗もなく横滑りに開いた。
 机、イス、ガラス戸付きの棚にはビーカーやフラスコ。そして──
『俺はもう駄目だ、オドネル……』
『バカな事を言うな! お前は死んだりしない!』
 骨と人体模型が妙な芝居を展開していた。
 窓に映っていた男の影は、人体模型だったようだ。そしてその手には『ムチ』を持っている。
 骨格標本は床に倒れていて、折れたステッキを手にしていた。
『ああ、神様! 俺が遊び半分で決闘を申し込んだばかりに、ビリーを倒してしまった!』
『いいのさ、オドネル。俺はもう死ぬ運命だったんだ。“骨粗鬆症”で後三ヶ月の命さ』
『なんて事だ! 骨はお前の命じゃないか! そんな病気に蝕まれていたのか!』
 倒れている骨を人体模型が抱き起こす。
『ああ、そうさ、オドネル。俺は“食事”も、“軽い運動”も、“日光浴”もままならなかった。いつもケースの中で同じ体勢、何も与えられず、日陰に追いやられていた。気が付いた時には、こんな病気にかかっていたのさ』
『くそっ。人間め……。俺の大切な親友の体を“スカスカ”にしやがって!』
 是戒は神妙な顔(金髪)で相づちを打っている。慶悟はドアにもたれかかり、興味半分に二人(?)の話に耳を傾けていた。荘は苦笑を浮かべている。
 骨がやっとそんな三人に気がついた。
『見ろ、オドネル! お迎えが来たぜ』
『何だって! お前を連れて行くなんて誰にも出来やしない。俺が守って見せるさ』
『ああ、友情って何て素晴らしいんだ。俺はもう思い残す事は無い。これで安心してあの世に行ける……』
『駄目だ! 死ぬな、ビリー!』
 ガックリと骸骨が首を傾けた。人体模型が激しく揺さぶると、歯がガシャガシャと打ち合わさって騒々しい音を立てた。
『ビリーッ!』
 骨は人体模型の声に反応しなかった。手に握っていた折れステッキがポロリと落ちる。
『ビリー、お前の敵は俺が取って見せるからな。ゆっくり眠れ』
 人体模型は、骨の顔に手をかざした。瞼を閉じさせるような仕草で真っ黒い空洞を撫でる。
「……芸が細かいんですね」
 荘の声に、人体模型がキッと顔を向けた。半分筋と血管の顔に、うっすらと涙が流れている。
『こうして──』
 真剣な眼差し。何かを起こす気なんだろうか。
『ビリーの敵討ちを誓ったオドネルであった。完』
 二つとも動かなくなった。
 しばらく待ってみても、やはり動かない。
 終わってしまったようだ。
 何がしたかったんだろうか。
「何だか分からないけど、これ頂いときましょう」
 荘は骨と模型の手から、二つのアイテムを抜き取った。労せずしてムチとステッキの回収が終わる。それを片方の手にまとめる荘に、慶悟の視線が止まった。
「……呪いを封じたのか?」
 荘はニッコリと微笑む。
「はい。最初に」
 触れる前にそうするか──
 是戒と荘を見比べて、慶悟はそう決めた。
「む、お主らは『呪い』の事を知っておったのか?」
 金髪に二つの視線が向く。
 是戒は呪いの事を聞き逃していた。
 だからこの何て言うか──アレなのか……。
 二人は妙に納得だった。
「まあ、他に支障も無い。無理に剥がす事もなかろう。儂は剥がれるまで気長に待つぞ」
 いや、直ぐに剥がした方が……
 二人は心からそう思わずにはいられなかった。
 
 ■■ 五つ目の宝・美術室 ■■
 
 キラッキラッ。
 歩くたびに光るステキな足下。
 これで今年のクリスマスは貴方が主役。そんなキャッチの聞こえてきそうな片眼鏡は、月光を受けるたびにステキに輝いた。
「どうにかならないかしら、これ」
「単にくっつくだけなのか? 呪いって……」
 少しガッカリ気味に大吾は呟く。
 レイベルは先ほどのアイテムの隠し場所に怒っていた。
「ただでさえ泥棒は大っっ嫌いだというのに、まして何なのだ、あの隠し方は! 僕は絶望したよ、ワトソン君」
 わ――
「わとそんくん?」
 大吾は眉根を寄せた。シュラインは別の意味で眉根を寄せた。
 『ワトソン』と言えば、あのシャーロックホームズの片腕だ。
 レイベルが壊れた。
 シュラインは悩ましい顔でレイベルを見た。
「ねえワトスン君。今回の事件、僕は僕の行動を7種類に限定してやってみたいのだよ」
 もしかするとこういうのが好きなのかも、止まらないレイベルに、シュラインはひっそりとそう思った。
 階段を登り終え、美術室に到着する。
「ここはまともであってもらいたいもんだよなあ、次元」
「……」
 今度は某怪盗アニメだった。
 三人は美術室に足を踏み入れて愕然とした。 
 部屋の中には大きな八人がけのテーブルが七つあり、一番奥の棚に石膏像がいくつか乗せられていた。中に一つだけ異彩を放っている物がある。ハンチングを目深に被り、パイプを銜えているのだ。
「まさか、とは思うけど」
「いや、間違いないだろう」
「何だ、あれ?」
 近寄るとやはりビーナスだった。
 動きそうな気配は無いが……。
「何だ? 何も起こらないぞ?」
 そう言って大吾が手を伸ばしかけたその時──
 ブッ。
 ビーナスがパイプを吹きだした。
 フェイントだ!
 それが飛び退った大吾の袴にぶら下がった。
「な、何て事すんだよ!」
『何て事するんでしょう』
 ウフフ、とビーナスが笑った。大吾はパイプを引っ張っている。しかし袴が持ち上がるだけだ。パイプはしっかりと布にくっついている。
「取れねえぞ!」
『取れないわ』
「何とかしろ!」
『しないわ』
 大吾は二人を振り返った。レイベルとシュラインは肩をすくめている。
「無事、回収だな」
『無事、回収ですね』
「諦めて次に行きましょう」
『諦めて次にお行きなさい』
 ジロ。
 一行はビーナスを見る。
 ジロ。
 一行をビーナスは見る。
『真似する石膏像、シャーロック・“オウム”ズ、なんちゃって』
 ──寒い。
 ──何か今、背筋がゾクッとしたわ。
 ──なあなあ、シャーロック・『オウム』ズって誰?
 部屋の中にシンシンとした冷たいしじまが訪れる。
 三人は白い目をビーナス像に向けた。

 ■■ 六つ目の宝・図書室 ■■

 早く見慣れろ。
 張り切って階段を上っていく背中で、ユラユラとたゆたう金の髪。それが茶色か黒ならいくらかましだったかも。
 そんな事を慶悟と荘は考えていた。
「次の部屋で最後だな。何事もなく済みそうではないか?」
 是戒は言った。
 それはまあ、カツラが落っこっちてきて貼り付いただけで、それ以外、特に危険な目には遭わず、順調は順調だが……何事も無く――?
 ともかく一行は四階へ到達した。左手の奥に図書室がある。
 三つの足がそちらを向いた時だった。
 ずるっ。
 ずるっ。
 何かが階段をゆっくりと昇ってくる。
 慶悟に荘、それに是戒は耳を澄ました。
 ずるっ。
 ずるっ。
 規則正しく――
 ずるっ。
 ずるっ。
 重い布を引きずるような音。
「何でしょう、あの音」
「何だろうな」
 慶悟は階段を振り返った。落ちていく段差。そこには何もいない。しかし確実に何かが上へと上がってくる。
 ずるっ。
 荘は手すりから階下に身を乗り出した。
 ここからでは何も見えない。
 ずるっ。
「まだ少し遠いな。歩きながら様子を見るか」
「うむ。今のところ、悪しき気はあまり感じられん」
 三人は歩き出す。
 ずるっ。
 付いてくるモノの移動速度が少し速くなった。
 ずるっ。
 ずるっ。
 なおも歩き続けていると、それはさらに激しい早さに変わった。
 ずるっ。
 ずるっ。
 ずるっ。
 ずるっ。
「来るぞ」
 廊下の中程まで来た所で三人は歩みを止め、後ろを振り返った。
 ずるっ。
 ずるっ。
 ずるっ。
 ずるっ。
 ずるっ。
 階段の上段にバタッと手がかかった。節くれ立った真っ青な指。どうやら男のようだ。
 ずるっ。
 ずるっ。
 ずるっ。
 肩から胴、胴から──
 ずるっ。
 下が無い!
 それが、ほふく前進で這いずってくる。
「む」
 是戒は表情を固くした。
 男はどんどん近づいてくる。
 五メートル、四メートル、三メートル……
 三つの影は本能的に身構えた。
 二メートル、一メートル――
 ずるっ。
 ずるっ。
 ずるっ。
 男が三人に追いついた。
 ずるっ。
 ずるっ。
 ずるっ。
 男は三人を追い越した。
「……」
 男はそのまま三人には目もくれず、図書室までの廊下を進みながら消えていった。
 ただそこを目指していただけだったらしい。
「……この学校の七不思議が知りたくなってきたな」
「同感です」
 慶悟と荘が、男の消えた場所を見つめて頷いた。
 やがて一行は図書室の前に辿り着いた。
 ここには鍵がかかっている。
 慶悟はシュラインから預かった鍵を使った。
 ガラッ。
 ゴッツ。
 慶悟の頭に何かが落ちてきた。ドアを開けると吊ってある紐が切れて物が落ちる仕掛けになっていたようだ。上を見上げると、吊るし金具がキラリと光った。
「……」
 相当痛かったが、一瞬頭をよぎったのは、先ほどの是戒の金ヅラだった。恐る恐る手を頭にやる。固くて――丸い……何か棒がついていて手鏡のような……?
「拡大鏡ですね」
「カツラの方が良かったか? それでは痛いであろう」
 いや、これでよかったのさ──
 カツラヨリハ。
 慶悟はゆっくりと振り返った。やけに清々しい顔の二人。
「こっちの回収はこれで全部終わりましたね」
「うむ。では戻るとしよう!」
 カツラにムチ、ステッキ、それに『この』拡大鏡。
 触れる前に呪を使おうと考えていたのは誰だったのか。
 不可抗力だ、仕方ない。
 荘と是戒の後ろ──慶悟は拡大鏡を頭に乗せたまま、遠い目で窓の外に浮かぶ月を眺めた。
 
 ■■ 七つ目の宝・視聴覚室 ■■

 そして同じ頃。
 シュラインとレイベル、大吾の三人も南校舎四階通路に辿り付いていた。
「視聴覚室。ここで最後ね」
 言いながらシュラインは扉を開けた。
 黒いカーテンを引かれた部屋は、唯一の明かりである月光さえも締め出し、墨を塗ったように真っ暗だった。
 だが一点。
 目を凝らすと、淡いグリーンの光を放っている物体がある。
 それはズラリと並べられた、折り畳みイスの一つに腰掛けていた。
 少年だ。
 年は十歳前後。短くかった髪に、半袖のシャツと短パンを履いている。
「はっきりとは見えないけど……気のせいじゃないわよね?」
 日頃、霊を直視できないはずのシュラインの目にも、それはぼんやりと見て取れた。
 しかし暗い。
「暗幕を開くわね」
 シュラインが窓にかかる暗幕を引くと、月光が暗闇を照らし出した。
 少年がいなくなっている。
 と、思ったらイスから降りて、その場に屈み込んでいた。何かを拾っているようだ。そして起きあがり、イスに腰掛ける。
 しばらくすると同じモーションを繰り返した。少年には『それ』が拾えないらしい。
「何があるんだ?」
 レイベルは少年に近づいた。
 少年はレイベルには構わず、その動作を繰り返している。
 レイベルが少年の脇まで来ると、床に『ヒゲ』が落ちているのが見えた。
「あったぞ」
 後ろの二人に声をかける。レイベルが一瞬の隙を見せた時だった。今まで掴めなかったそれを、少年が突然手に取り、レイベルに向かって勢いよく放ったのだ。
 ボイッ!
「ッ!」
 レイベルは咄嗟によけた。しかし至近距離過ぎた。
 ベタッ。
 レイベルの鼻の脇に、口ひげがモシャッと貼り付いた。
 何が起こったのか。
 シュラインと大吾にはよくわからない。
 レイベルがゆっくりと振り向いた。
 少年はクスッと笑って消えてしまった。
「行こう。回収は済んだ」
 シュラインと大吾の横を、鼻の脇から目に向かってヒゲを生やしたレイベルが、涼やかに通りすぎていった。

 シュラインは靴に、大吾は袴に、レイベルは頬に。
 それぞれが妙な所に妙なものを貼りつけて、二階踊り場までやってきた。
「……何か音がするぜ」
 ずるっ。
 ずるっ。
 ずるっ。
 大吾が後ろから付けてきている『何か』に気が付いた。
「何かしら、この音」
 ずるっ。
 ずるっ。
「どんどん降りてくるな」
 スピードが増した。
 ずるっ。
 ずるっ。
 ずるっ。
 それは急スピードで、一行との距離を縮めている。
 三人は階段を見上げた。
 その瞬間、音は止んだ。
 ずるっ──
「!」
 今度は背後から聞こえた。
 三人は一斉に振り返った。
 ずるっ。
 ずるずるずるーッ。
 爺さんの霊だ。
 カップうどんを啜っている。
 ズズーッ! ズッズズズーッ!
「……」
 爺さんは三人の見ている前で、最後の一滴まで旨そうに汁を飲み干した。
『うーん、まずいぃ、もう一杯ぃ』
 空のカップを突き出して、爺さんは爽快な笑みを浮かべた。
「この小学校って、こういう妙な幽霊のせいで廃校になったわけじゃないのよね」
「つまらん」
「小学校ってこういう所だったのか」
 それぞれが神妙な顔をする中、爺さんは二杯目のうどんを取り出した。
 
 ■■ 大団円? ■■

 校庭に集まった六人は、あえて言い出すまでもなく、『互いのあちこち』に呪われた道具を確認しあった。
 シュラインは靴に片眼鏡を、慶悟は頭に拡大鏡を、レイベルの鼻から目にかけては、斜めにヒゲが生えているし、是戒はどこからどう見ても隠しようのない、ふさふさのシルエットだ。大吾はパイプを袴にぶらさげ、荘はムチとステッキを手にしている。
 何があったのか。
 もういいか、聞かなくて……。
 これで終わったとホッとした瞬間――それは起こった!
 シュラインの耳が何かの音楽を捉えたのだ。
「何か聞こえるわ」
 それはどこかで聞いた事のある懐かしい調べ。
 遠くから──近くへ。
「……マイムマイム?」
 そう──フォークダンスで有名なあの名曲だった。
 それがどこか明後日の方から聞こえてくる。
 と、思ったら、全員が突然手を打ち鳴らした。
 パシャン!
 クルリとその場で一回転。はい、もう一度。
 パシャン!
 横にいた者の手を取って、前進したり後退したり、足をヒョイと上げてみたり、そうかと思えばグルグルと皆で輪を描いて回ったり。
 夜中の暗い校庭で、六人がひっそり激しくマイムマイム。
 それは少し異様な光景。
 全員がハトが豆鉄砲を喰らったような顔をしている。
 しかし、終わりは突然訪れた。
 音楽が鳴り止んだのだ。
 刹那、取れなかった呪いのアイテムがあっさりと外れた。それを手に手に、一同は大きく腕を振りかざした。
 口々に叫ぶ!
『死ねーーッ!』
 わけがわからぬまま、近場で動く腹に向かってそれを突き刺した!
 シュラインは慶悟に! 
 慶悟はレイベルに!
 レイベルは大吾に!
 大吾は是戒に!
 是戒は誰もいない空間に向かって!
 ブスリ! 
『うわー!』
 一同はガックリと膝を折り手をついた。
 でも傷ついた人は一人もいない。
 何故ならそれは、ナイフでも刀でもなく、眼鏡で、カツラで、拡大鏡で、パイプで、ヒゲだからだ。モノがちょっぴりひしゃげたり、歪んだりしただけだった。
 長い沈黙の後、口を開いたのは慶悟だった。
「……どこまでが『呪い』で、どこまでが『ここにいる連中の仕業』なんだ?」
 頷くシュライン。
「ええ……見事な連係プレイね」
 そして五人は静かに立ち上がり、膝の砂を叩いた。
 パムパム。
 ちょっぴり汚れた膝に哀愁。
「……大丈夫ですか?」
 荘は一人平気だった。始めに呪い除けをしていたのだ。そして一部始終を、輪の片隅でひっそりと見守っていた。これを一人勝ちと言う。
 ずるいぜ……。
 大吾の言葉とその他一同の眼差し。
 それを是戒が豪快に笑い飛ばした。
「まあ、良いわ! 皆、怪我も無く無事、これもまた一興ではないか」
 荘はホッと安堵して、ニッコリと笑った。
「そうですよ。早く帰って草間さんに、特盛りラーメンでもおごってもらいましょう!」
「ラーメンか、いいな」
 慶悟は口の端に笑みを浮かべる。是戒も大吾もその考えに大乗り気だった。
「儂は般若湯が欲しい気分だ」
「俺は激辛ラーメン特盛りで、分厚いチャーシューを乗せるぜ!」
「どうせ暇だ。付き合うか」
 レイベルは言って肩をすくめてみせた。
 すっかり冷えた体を抱え、一行は歩きだす。
 気が付けば、校門に長身の影が佇んでいた。その手が挙がる。
 どうやらラーメンをおごらされる羽目になるなど知らない探偵が、様子を見にやってきたようだ。
 経済難の懐を知るシュラインは、一人最後尾で苦笑を浮かべていた。




                        終




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 (年齢) > 性別 / 職業 / 入手アイテム】
     
【0086 / シュライン・エマ(26)】
     女 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
     片眼鏡
     
     
【0389 / 真名神・慶悟 / まながみ・けいご(20)】
     男 / 陰陽師 / 拡大鏡
     
【0606 / レイベル・ラブ(395)】
     女 / ストリートドクター / ヒゲ
     
【0838 / 浄業院・是戒 / じょうごういん・ぜかい(55)】
     男 / 真言宗・大阿闍梨位の密教僧 / カツラ
     
【1048 / 北波・大吾 / きたらみ・だいご(15)】
     男 / 高校生 / パイプ
     
【1085 / 御子柴・荘 / みこしば・しょう(21)】
     男 / 錬気士 / ムチ・折れステッキ
     

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■          あとがき           ■
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 こんにちわ、紺野です。
 期間一杯になってしまいましたが、『呪われた七つ道具』をお届けします。
 最近、遅筆が加速しています……
 大変申し訳ございません!!
 
 さて、今回は少しある意味で原点へ帰らさせて頂きました。
 プレイングの内容を上手く反映できているといいのですが……。
 ともかく、ご参加頂き本当にありがとうございました。
 今回のあとがきは長いです……多分今までで一番だと思います。

== シュライン様 ==
   いつもありがとうございます。
   部屋の正解数は四つでした。
   あの『西』へ導かれた暗号解読法は、とても面白かったです。
   それを利用させて頂いた方が面白かったかな、とも思いました。

== 慶悟様 ==
   いつもありがとうございます。
   部屋の正解数は六つ、『裸の男』だけが残念でした。
   色々と細かな洞察が楽しかったです。
   呪いに対しては様子見との事でしたので、少し遊ばせて頂きました。
   ごめんなさい(汗)
   
 == レイベル様 ==
   お久しぶりです。
   二度目のご参加ありがとうございました。
   『紫野』以来ですね。
   今回は唯一の全問正解者でした!
   色々と書かれていたので、それを取り込んでみたのですが、
   いかがでしたでしょうか。
   
 == 是戒様 ==
   久しぶりにお逢いできて嬉しいです。
   なので、少し遊んでしまいました……(汗)
   物を壊す事はできなかったのですが、是戒様の人の良さが
   出せたら、と思いました。
   なお、部屋の正解数は五つでした。
   
 == 大吾様 ==
   初めまして、こんにちわ。
   この度は当依頼を選んでくださってありがとうございました。
   小学校探検はいかがでしたでしょうか。
   『裸の男』を追えなくてごめんなさい。
   ベートーベンとビーナスを見て頂きたくて(汗)
   
 == 荘様 ==
   荘様も初めまして、こんにちわ。
   この度は当依頼を選んでくださってありがとうございました。
   唯一、呪いを封じられての参戦でしたが、
   五人のフォークダンスを傍らで見ていた感想などありましたら
   宜しくお願い致します。
   
 
 それから今回の笑度は『30%』くらいです。
 前回に書いたお話(占拠)が暗く後味の悪い物でしたので、
 私的に口直しと、ほのぼのでクスッと出来る物を目指しました。
 
 さて、紺野の『年内の怪談』はひとまず終了とさせて頂きます。
 (多分ですが……あやかし荘やシングルノベルでは動くかもしれません)
 まだ早いご挨拶となりますが皆様、
 どうか楽しいクリスマスとお正月をお過ごし下さいませ。
 インフルエンザなども流行る時期ですので、
 体調などにも気を付けて下さいね。
 
 それとここからは前回同様のコメントとなります。
 シュライン様と慶悟様には重複になりますので、飛ばしてくださいませ。
 
 新年第一弾は『鬼奇譚 その弐』となる予定です。
 鬼奇譚はすっとこキャラの『四月朔日(わたぬき)』が
 皆様の足を引っ張る?お話です。
 
 少しネタバレになりますが、鬼奇譚には一つの謎が隠されています。
 それは話数にも関係してくる事なのですが、
 今後はぜひ地図を片手に、オープニングだけでも
 お付き合い頂ければな、と思います。
 一話はオムニバスなので、話自体の繋がりはありませんが、
 とある何かが、どこかに隠されています。
 誰かにそれをご指摘頂いた時点で、最終章へと突入します。
 これから確実にやってくる四月朔日への不幸も、
 防ぐ事ができるかもしれません。
 皆様のご参戦、心よりお待ちしております。
 
 それでは今後ますますの皆様のご活躍を祈りながら、
 またお逢いできますよう……
 
                   紺野ふずき 拝