 |
霊カウンセラー一日体験☆
雫＠管理人：霊カウンセラー……って、霊のカウンセラー？
八曲 ：はい。あ、でも、僕が霊ってわけじゃないですよ？ 患者さんが霊。
雫＠管理人：お金とかもらえるの？
八曲 ：現金もたまに貰えますが……まあ、大抵はモノですね。
雫＠管理人：例えば？
八曲 ：庭の木の下に埋まってる小判とか。隠された資産、ってのが多いですね。
あ、ファーストキッス、ってのもあったかな。
雫＠管理人：……やらしー。
八曲 ：ごごご誤解はよしてくださいっ。キス止まりですからね！ ホントですよ！
雫＠管理人：まあ、それはそれとして……モニター募集って、どういうことなんですか？
八曲 ：僕のやり方以外にも、患者さんに応じた方法論はあるかもしれないですよね。
そこをちょっと、勉強して見たいかな、って。
雫＠管理人：それで、霊や超常現象になじみ深い人募集、ってことなのね。
八曲 ：はい。以前のメールの通りで、よろしくお願いできますでしょうか？
雫＠管理人：はいはい了解ですよ！ そのつてにちゃんと連絡してみますね☆
◆ ◆ ◆
「……ふぅ」
チャットから退出し、八曲大（はちまがり・だい）は大きく椅子ごと伸びをした。
一週間後には、雇った各自の仕事を見ていなければならないとは言え、ひさびさにのんびり出来る。
彼は霊カウンセラーである。もちろん、こんな職業は世間で認められてはいない。
それでも、自分の仕事に誇りを持って望む……大はそんな青年であった。
成仏したくても出来ない霊魂は、数多い。
霊が見えない人間からしてみれば、自分の認識は、空想めいた気狂いにも程があるのかもしれない。
それでも、幼い頃から霊を見、触れ合い、心通わせて来た彼は、今の仕事を己の使命だと思っている。
今、こうして――もぐりではあるものの――霊カウンセラーをすることに、義務にも似たものを感じている。
残した家族のこと、好きな人のこと、これからのこと……彼らの悩みは、生きている人間と何一つ変わらない。
だからこそ、今の現状、とりわけ自分の方法論に固執したくなかった。
一つ一つ話を聞いていく以外にも、彼らの心の悩みを解消する方法はあるはずだ、と切に感じている。
それは、ただ傍にいるだけのことなのかもしれない。
冷酷に現状を指摘することも、時として良い方法なのかもしれない。
……無限のケースが、彼の頭の中でシミュレートされていく。
だから彼は動いた。
自分のように、霊とか、そういった超常的な存在に接している人間は他にもいる。
その人間は、霊とどのような言葉を交わし、そして接していくのか――故に大は、そうした人物とのコンタクトを取るために、ゴーストネット管理人・瀬名雫に接触したのであった。
「に、日給五〇万円!? ……か、管理人さんにも紹介手数料として同額を!?」
八曲大から届いていたメールを開いた雫は、突如飛び込んできた額面に目を剥いた。
五〇万円で出来ること――なんて健全な夢想が、彼女の脳裏を一瞬支配する。
ぶるぶる、と首を振った。
いけない。
相手は真剣にこの件を考えている上で、この金額を提示したのだ……冷静な感覚が、意識に戻ってきたのを確認し、雫は再度、メールに目を通し――そして、首をかしげた。
「事前に参加者を確認し、その方のご希望になるべく添った、一人の患者さんのカウンセリングを各自行って頂く所存です。カウンセリングのために必要なことであれば、各自特殊なことをして頂いても構いませんが、そのための経費は一万円までとさせて頂きます。なお、男女共に白衣貸与、仕事が終わったら差し上げます……白衣？」
白衣って、何だろう。
そんなことをふと思いながら、雫は頭の中で簡単な人選を始めたのだった――
--------------------------------------------
草の葉擦れの音。
花の匂い。
土の香……そして、生命の息づき。
「んっ……？」
八曲大は、自分の足元に絡みついた感触に、視線を下げた。
「……おぉ」
二匹のリスが、大のスラックスをかりかりと爪でこすっていた。
どうやら、つがいであるらしく、二匹の行動のタイミングは揃っていて、ある種の愛らしさを感じさせた。
大の視線に気付いたか、その手の動きを止め、目の前――獣道とも見受けられる間道へと小走りに去っていく。
姿を消す直前、こちらの方をじっと見たことに何かを感じ、大はその道へと足を踏み入れた。
放々に生い茂った草をかき分けながら、大はその道をゆっくりと進む。
足元の土が、よく見える。
人が何度も通っている形跡だった。
二分ほど、林道から逸れて、歩き続けた頃。
視界が一気に開けると同時に――見えた。
こじんまりとした、洋の匂いを強く感じさせる、小さな別荘。
その庭に出たらしい。
季節の草花が、好き好きに咲き乱れる中、中央に置かれたテーブルと二つの座椅子。
その内の一つに、美しい女が座っていた。
椅子の足のふもとに寝転んでいた、白い毛並みの整った大きな犬が、きらびやかなドレスの裾をくいくいと引っ張り――女は大に気付き、彼に透明感のある微笑を見せた。
「シャルロット・レイン、さんですよね？」
「ええ……ようこそ……八曲さん」
話は数日前に遡る。
東京都内某区某喫茶店。
本来の職が――と言い切って良いのかどうかは分からないが――心理カウンセラーである彼女……シャルロット。
自らの日常の延長とも言える今回の話を、特別なものとはあまり考えていなかったのだが、そんな彼女の目測は大きく予想を違えることとなった。
「あなたを？」
口に含んでいたアプリコット・ティーのカップを、心持ち急ぎに置きながら、シャルロットは目の前の青年――大に聞き返した。
流麗な銀髪と、浮世の香を漂わす紅の瞳に、浮揚感漂わすその容姿。
手つかずだったブラックを一口流し込み、大はそんな彼女の言葉に、ゆっくりと肯いた。
「ええ……僕を」
「でも……あなたは……霊体ではなくて生身の人間でしょう」
シャルロットの言うことはもっともである。
大が要請していたのは、霊体を相手にしたカウンセリングのモニターである。
それなのに、大がそのカウンセリングを自身に求めるとはどういった了見なのか。
半ば戸惑ったような表情を見せながら、それでもシャルロットは、いつものように、カップの水面に鼻先を近づける。
……自宅で煎れる紅茶の方が、とっても香ばしい。
もちろん、そう思うのはいつものことなのであるが。
「確かにその通りです――」
カップを両手に抱えながら、しかし大は誠実を以ってうなづいた。
「けれども、時を漂うというあなたにしてみれば、どちらも大差無いのではないでしょうか」
「これは言葉の問題なの……あなたがそう思うのは構わない。けど、あなたが事前におっしゃったことと、今のあなたの言うことが食い違っているということが……それが……問題ではなくて？」
「ええ……それは自分でも分かっています。けれど」
大は、指摘に目を伏せることは、しかし、しなかった。
「あなたにならば、僕の抱えている疑問に、道を示してくれる――あなたのことを知った時、そう感じたんです」
「直感……ということかしら？」
「ええ」
大の返事に、シャルロットは腕を組んで見せた。彼女にしてみれば、とても珍しい仕草であると言えた。
「若いわね……あなた」
「……ええ」
悪びれることなく、頭を垂れる大に、シャルロットが見せた表情は――静かな笑み。
「確かに……生きていようとも、死していようとも……わたしにとっては同じ……」
「じゃあ！」
「お受けいたします……なんだか、奇妙なことになってしまいましたけども……」
野鳥のさえずりが聞こえていた。
暖かな日の光が、テーブルを挟んだ二人の影を照らしていた。
「じゃあ……始めましょうか……」
「はい」
淀み無く応じ、大は瞳をゆっくりと閉じた。
……瞬間、あらゆる認識が霞みがかったように薄らいでいくのを大は感じ――
シャルロットは純白の地平に立っていた。
どこまでも広がっている地平線をなぞるかのように、ゆらゆらとその身を漂わせる。
腕を伸ばし、虚空に線を描くかの如く、その細く白い指を緩やかに疾らせると……地平が、大きく二つに割れて行った。
その大きなクレバスから、様々な情景が飛びだしては消えて行く。
宇宙から見た地球。
一面の菜の花。
川べりに吹きぬける風。
人たちの笑顔。
そして――水の鏡にゆらめく、一条の波紋。
その中心にシャルロットが指を伸ばすと、波紋は渦状に線を歪め、また新たな海面を導き出していく。
「……ここね……」
呟きながら、シャルロットはその面を腕で招き入れ――その内へと入って行った。
始めに見えたのは、湖の側にわだかまっている、人の群れだった。
その中心に、少年が倒れている。シャルロットには、それが幼い頃の大であることがすぐに分かった。
どうやら、水に溺れ、意識を失っているようであった。
「……やっぱり」
シャルロットは小さく自嘲した。その意味の取るところは、彼女の視線の先に。
小さな身体から、はっきりと見えぬ靄のようなモノが生じていた。
それは、彼女の認識で言うところの魂であり、そのもやは……力を失ったかのように、宙空へと霧散して行った。
シャルロットが、大に対するカウンセリングを了承したのは、この現象を事前に――喫茶店で茶を共にした時に――彼女の感覚が捉えたからであった。
人の心を覗くことの出来る、彼女ゆえのアプローチであった。
「この時に……魂は彼岸へと旅立ってしまっているのね……」
それは、大が、霊的な意味では死人であることに他ならない。
「どうして自分が死んだのかも分からなかった……その迷いが、意志を肉体に繋げて……蘇生の原動となったのね……」
それを無意識では自覚していないにしろ、他の迷える魂を安らげさせるという行動の原点であるのだろう。
大に死人が見えるのも、当然の話であった。
彼は、肉体を持ちながら、霊たちと同じ位相に在るのだから。
「"器"だけの彼を動かしているのは……精神力とか……そういったものなのかしら？」
過去の一面から純白の地平へと抜け出し、シャルロットは少しだけ首をかしげた。
永劫の時を生きる彼女でも、魂を持たぬ肉体が、己の意志を持って行動し続けている――そんな事実を知るのは初めての出来事であった。
「魂と、人を突き動かすもの……意志や精神、そしてそれらの命をこなす肉体は、別個のモノである……そういうことなのかしらね……？」
ふと、シャルロットは、自分もそうなのではないか、などという思いにとらわれた。
既に自分の魂はここに無く、意志や精神といったものの力が、肉体を枯らすこと無く維持させているだけなのではないか……？
「考えても……宣無い……ことよね……」
それでも、彼女の薄い微笑が崩れることは、無い。
彼女にとって、自己についての考察など、過去に飽きてしまった玩具に触れることと同じような行為……つまり、気まぐれの産物にしか過ぎないのであった。
また、瞳をすっと閉じる。
ドレスの裾が、見えぬ風にはたはたと舞った。
自分のとは違った、大きな別個の存在を認知し、シャルロットは眼（まなこ）を見開いた。
小さな光がそこにあった。
球状――あらゆる面からパルスを放射する源のように、光源はその光を瞬かせていた。
「なぜ、自分がそこにいるのか……それを考えるのは、とても良いこと」
光に指を這わせると、小動物のように、ビクン、と震えた。
その様に、シャルロットは微笑を浮かべ、優しく言った。
「けれど……それよりも……あなたにはやらなければならないことがあるわ……」
その言葉に、凛、と光球が輝く。
「あなたの疑問に答えてくれる人はいなくても……あなたは……誰かの疑問に答えることが出来るのだから……」
凛、凛。
光の塊が、まるで肯くかのようにスペクトルを放った。
「そう……わたしに出来るのは、あなたの望みを聞くことだけ」
その光の束は――無形の空間を。
真っ白い地平線を。
風に吹かれるシャルロットを。
「……わかったわ……いつでも、何気なくお茶を飲みにいらして」
そして――自分自身をも包み込んで――
「あなたの好きなブラックも……ちゃんと用意しておくわ……」
木漏れ日が挿していた。
ひとつ、大きく息を吐き、シャルロットは椅子からすっと立ち上がった。
犬はひとつ、わん、と吠え――大の方へとその身を寄せる。
リクライニングにもたれて、微かな寝息を立てている客人の下へ。
「今日は……コーヒーは無いから……何かお飲みになってもらおうかしら……？」
ティータイムには、まだ時間がある。
買い出しにいくか、それとも自分のお勧めのお茶を出すか。
どっちにしようか迷いながらも、シャルロットの、洋館へと向かう足取りは軽く。
Mission Completed.
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／職業】
【0332／九尾・桐伯 ／男／27／バーテンダー】
【1092／城之木・伸也／男／26／自営業】
【1158／シャルロット・レイン／女／999／心理カウンセラー】
【0830／藤咲・愛／女／26／歌舞伎町の女王】
【1026／月杜・雫／女／17／高校生】
（ペアごと、及び整理番号順に列記）
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
どうも皆様はじめまして。
さっそく度重なる〆切にぜぇぜぇ言っている、
鳴らずモノ入りの新人ライター・Obabaでございます。
今回はペア、もしくは個人によって文章どころか話が全く違います。
よって展開はもちろんのこと、
ＵＰのタイミングも各自異なることをご了承下さいませ。
さてさて、プレイヤー名で失礼いたします。
この話はシャルロットさん単体でした。
なんと大は広義的な意味での死人で、それをカウンセリングするという、
とんでもない展開と相成りましたが……いかがでしたでしょうか？
好きにしても良い、との心強い言葉を頂いたので、
自分なりのイメージで読心のくだりを描いてみました。
が……まだまだ修行が足りないようです（汗）。
それでは、今回はどうもありがとうございました。
ＡＮＤ、〆切ぎりぎりで本当にすみませんでした……
|
|
 |
