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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


ダンディメン!三下!?

0.オープニング

何時もの様に出勤した碇が、まず気がついたのはその人だかりだった。
殆どの編集員が一つ所に集まって口々に驚きの声を上げている場所……
記憶を手繰るまでもなく碇は知っている。
そう、三下の机がある場所だ。
「何?皆仕事もしないでどうしたの?」
些か語気を強くした碇の言葉に、皆一斉に振り返るがその顔は困惑に染
まっていた。
「お早う御座います!碇編集長!」
飛び切り元気のいい声が聞こえて来たが、その声に聞き覚えがある碇に
とってそれは絶対有り得ない声だった。
そう、三下 忠雄その人である。
「いや〜今日も清々しい朝ですね!それに、今日の編集長もお美しい!」
つかつかと歩み寄り、ふぁさっと髪を掻き揚げながら三下はにっと笑う。
どこかの少女漫画のノリである。
「……病院行ってきなさい、三下君。」
半ば呆れ口調で、それだけ言うと碇は自分の机に向かった。その間も三下
は「編集長まで僕を変人扱いだ!」とか何とか言っている。碇は自分の机
に着くと、三下の様子を伺った。芝居がかっている物の、素である事には
間違いない。長年人を使う立場に居るのだ、それ位は分る。三下の行動は
全てが自然だった。そして、仕事振りまで変化していた。まるで、人が変
わったかの様な仕事振りに流石の碇も目を見張る。
「やれば出来る……って感じじゃないわね。何が彼をそうさせたのかね。」
そう碇が呟くのも頷ける。何せ昨日までは、何時もの三下であったのだ。
碇は、携帯のメモリーから番号を探し始めた。

1.ときめく胸騒ぎ

湖影 梦月が守護鬼 蘇芳と共に何時もの様にアトラスのドアを叩く。大
好きな兄の代わりに届け物をしに来ただけで、正直三下には会いたくなか
った。いや、会わなかった方が良かったかもしれない……
「こんにちは〜、失礼します〜。三下 忠雄様は居られますでしょうか〜?」
多少棘が入っていそうな感じだが、それでも精一杯優しくしている方だ。
「おや?梦月さんじゃありませんか?この僕に用ですか?」
ふぁさっと髪を掻き揚げ、近付きながら語り掛ける三下。傍から見たら、
不気味そのもの。
『なっなんだ!?あいつ、何時もと全然違うじゃねぇか!?』
蘇芳の上げた声は編集部一同の気持ちそのものだったのだろう、碇までも
がウンウンと頷いている。
「あっあの……三下様……龍兄様からお届け物なんですけど……」
「うん?ああ〜龍之助君からか。ふっ彼もまめだね。有難う、梦月さん。」
荷物を受け取り、三下は徐に梦月の手を取るとその甲に口付けをする。
『てってめぇ!!何しやがる!!』
思いもよらぬ事に、蘇芳は思わず三下を殴り飛ばした。殴り飛ばされた三
下は鼻から血を垂らしながら満面の笑顔だ。
「はっはっは!蘇芳君は照れ屋だな。そんな事では、彼女が出来ないぞ♪」
『うっうるせぇ!!てめぇの知った事か!!』
そんな二人のやり取りの中、梦月は顔を赤らめ三下を見詰める。胸がドキ
ドキする。こんな事は、龍之助と居る時意外無いと思っていたその高鳴り
が、梦月には何なのか分らなかった。
「ねぇ蘇芳〜……胸がドキドキするのですけど……これって恋ですの〜?」
思いも寄らない梦月の言葉に、蘇芳は噴出す。
『馬鹿!んなわけねぇだろ!!そりゃただ単に、怖くてドキドキしてるだ
けだ!ぜってぇそんな事ねぇ!!』
「そうですわよね〜私には龍兄様と言う慕うべき相手が居りますもの〜で
も、なんだか良く分かりませんの〜」
蘇芳と三下を交互に見詰めながら、困惑の表情を浮かべる梦月。そんな、
梦月に三下が語り掛ける。
「梦月さん、体調良くないんですか?もし良かったら、少しお休みになら
れては?」
優しく語り掛けながら、近付いてくる三下。ドキドキしながら身を硬くす
る梦月。
『うぜぇ!!てめぇは、寄るんじゃねぇ!!!!』
その二人の空気を切り裂くような、蘇芳の拳が三下を捉える。再び吹っ飛
ぶ三下を尻目に、蘇芳は未だ惚けている梦月を引っ張り出て行く。
「ちょっ!?蘇芳〜何処行くんですの〜?」
『兎に角、あいつを元に戻す!あんなの気持ち悪くてやってられっか!!』
「でも〜私はあの三下様の方が〜……」
『俺はぜってぇ嫌だ!!!』
こうして、二人(?)は三下を元に戻す事を決意するのだった。
「ふっ、本当に照れ屋さんだな〜蘇芳君。」
三下の言葉を、編集部員一同無視した事は言うまでも無い。

2.作戦会議inアトラス会議室

机の上に肘を置き、顔の前で手を組みながら碇は口を開く。
「これより、三下君元に戻そう作戦を実行致します。」
「は〜い♪」
『おう!さっさとケリ付けようぜ!』
「蘇芳〜」
「……はぁなんだかな〜」
それぞれに、色んな反応を見せる面々。奇抜な組み合わせであるのは見れ
ば分る。幼稚園児に学生に半透明な鬼に格好良いお姉さん。これを奇抜で
無いと言える人間が、果たして世の中に居るだろうか?いや、断じて居な
いと思う。
そもそも、アトラスを飛び出した蘇芳と梦月が何故この場にいるのか?そ
れは遡る事数分前、飛び出したは良いが何をどうすれば良いのか分らない
蘇芳と梦月は仕方ないが三下に話を聞こうと言う事で戻って来たのだ。だ
が、戻った二人を捕まえたのは碇だった。そして、現在に至るのである。
「事態は深刻よ。このままでは、我が編集部が三下君の手によって意味も
無く蹂躙されてしまうわ!」
きっと唇の端を結び、苦々し気に言う碇。
「そんなに深刻だとは思えないけどね。だって、三下だろう?別に良いん
じゃない?放っておけば、その内治るわよ。」
「問題発言ですよ!南美のおばちゃん!」
「おっおば!?なゆちゃん〜おばちゃんって誰の事かな〜?」
『おう!問題発言だ!このままじゃ、梦月の教育上良くない!』
「私は別に〜まあ、普通で無いなら戻して上げた方が、三下様にも良いで
しょうね〜でも、あのままでも〜」
「そうだよ!戻したほうが良いもん!三下のおじちゃんはあんなのじゃ駄
目だよ!」
「なゆちゃ〜ん?お姉さんって呼んでくれる?」
『ちょっと待て梦月!何だその「あのままでも」って!駄目だぞそんな事
じゃ!絶対に戻すんだ!』
「はぁ〜蘇芳がそこまで言うなら〜……」
作戦会議というか痴話げんかモードに突入した三人+鬼一人を見つつ、碇
のこめかみがピクピク動いている。
「はっはっは!皆さん仲が宜しくて羨ましいですね〜」
突然響き渡った三下の声に一同キッと三下を見ると一斉に物を投げ付ける。
「「「『「お前が言うな!!」』」」」
椅子に縛られ拘束されている三下に逃れる術はなく、全てまともにクリー
ンヒット!誰が投げたかは分らないが、電子ポットまでその中にはあった。
そんなものをまともにうけたにも拘らず、鼻血を垂らしながら三下は笑っ
ている……不気味この上ない。
「兎に角!何が原因か探らないといけないわ!何か思い当たる事がある人
は挙手して言って!」
碇の言葉に、真っ先に手が上がったのはなゆ。
「はい!なゆちゃん!」
「挙手って何?」
その言葉に、一同の体から力が抜ける。無理も無い、いきなりの発言がそ
れなのだ。一人、その様を不思議そうに見詰めるなゆに、梦月は優しく諭
す様に言う。
「挙手って言うのはね〜さっきなゆちゃんがやった、手を上げる事なの〜」
「ふ〜ん、そうなんだ〜分った〜有難う〜♪」
満面の笑みを返すなゆを見ながら、南美は力なさ気に手を上げる。
「はい!南美!」
「頭打ったんじゃないの?だったら、でっかい衝撃でも与えれば戻ると思
うんだけど?ちょっと、調べてみるよ。」
そう言うと、席を立ち三下の方に歩み寄る南美。未だ鼻血をそのままにニ
コニコして居る三下が妙に不気味だが、その頭を調べる。
「や〜女性に頭を触られるのはなかなか無いので嬉しいですね〜」
ニコニコしながら言う三下の言葉に、思わず南美は殴りつけていた。しか
も、グーで……
「いた!?いきなりですね〜何を照れているんです?」
「ちっ……戻らないか……じゃ〜次はこれで……」
そう言うと、持ってきた荷物袋の中からかなり大き目のハンマーを取り出
す南美。
「ちょっと、南美さん?それをどうするんですか?」
流石の事に、三下の顔から笑みが消える。
「ん?いや、大丈夫よ。痛いのは最初だけだから。」
「ちょっ!?ちょっと南美!三下君殺す気!?」
碇の言葉に、南美は碇を見やり一言。
「冗談よ。」
その言葉に、安心したのか碇と三下は安堵の表情を見せる。
「もう〜南美さんも人が悪いですね〜はっはっは〜」
「ごめんね〜はっはっは〜」
笑顔とは裏腹に、目が笑ってない南美を見つつ、蘇芳は思う。
『あいつ……マジだったんだな……』

3.作戦会議パート2

「駄目ね。取り敢えず、頭を打った形跡は無いわ。」
席に着いた南美の一言に、一同頷く。対して南美は、少々残念そうである。
続いて手を上げたのは、梦月。
「はい!梦月ちゃん!」
「あの〜ですね〜三下様に悪い幽霊さんが憑依してると思うのですけど〜」
確かに一理ある……が、その言葉に南美と蘇芳の両方が首を振る。
「違うんですの〜?」
「俺の携帯に反応が無い。まあ、害意が無いだけなのかも知れないけど……」
『こいつからは、そんな感じはねぇな。素だぜ。』
二人の言葉に、なゆまでも首をうなだれる。なゆも、同じ様に幽霊が憑依
して居る物と思っていたのだ。
「では〜なんでこうなってしまったんでしょう〜?」
「それが分らないから、こうして皆で考えてるのよ梦月ちゃん。」
苦笑いと溜息を同時に碇は言う。決定的に、何が原因か分らない為ほとほ
と困っている一同を尻目に、三下は呑気に鼻歌なんぞを歌っていたりする。
「くっ!?呑気な奴ね、やっぱりこれで……」
でっかいハンマーを再び取り出し、南美は三下を睨みつける。
「それは〜止めた方がいいと思うんですぅ。」
「そうだよ〜三下のおじちゃんが可愛そうだよ〜」
年下の二人から止められ、止む無くハンマーをしまう南美。その時、すっ
と一つの手が上がる。
「はい!なゆちゃん!」
「三下のおじちゃん、昨日まで普通だったんだよね?じゃあ、昨日何処に
行ったか聞けば、分るんじゃないかなぁ?」
なゆ以外の全員がはっとする。そう、そう言えば昨日の行動を三下に聞い
た者は誰も居ない。慌てて、碇は三下に問う。
「三下君、昨日仕事終わってから何処に行ったの?」
「何ですか編集長?僕のプライベートに興味があるんですか?」
「そんな物無いわよ!良いから、話しなさい!!」
一瞬本気で殺意を覚え、南美からハンマーを借り様かとも思った碇だが、
一応踏み止まった様である。
「ふっ、昨日ですか……あれはそう、仕事が終わってへとへとになった帰
り道。僕はお腹が空いたので、優雅に夕食を食べようと思い一人飯田屋に
行きました。」
『優雅って……牛丼をどうやって優雅に食うんだよ……』
「さあ〜何とかして優雅に食べる方法が有るんじゃありませんの〜?」
「無いわね。牛丼なんて、優雅に食べるもんでも無いし。」
「そうか〜牛丼は優雅に食べれないんだね。」
「そこ……話しずれてるわよ。」
碇の突っ込みに、静まる部屋。そんな中、やたら浸って話し続ける三下。
はっきり言って、どうでも良い話ばかり、たくあんが不味いだの、道行く
人達が僕を見てるだの、もうまるっきり関係ない話が30分は続いた。何
時しかなゆは寝ており、梦月もあくびを噛み殺すのに必死だし、蘇芳はも
うやる気なさそうに窓の外を見ている始末。南美に至っては、MDウォー
クマンなんぞを聞き始めている。碇ももうどうでも良くなりかけ、仕事に
戻ろうとしたその時……
「……そこで見つけた、仕立て屋にこのスーツを作って貰ったんです。仕
上がりから何からもう言う事なしで、僕も大満足ですよ。」
にっこりと微笑む三下。確かに、三下のスーツは何時もと違ってパリッと
して居る。色合いなども何時もと違う感じがして見えるのはその話を聞い
た後だからだろうか?別にスーツが怪しいと決まった訳ではないのだが、
三下の話からまともに聞けたのはこれくらいだった。(余り聞いてなかっ
たとも言う)
「皆!調べる場所が、決まったわよ!」
振り返った碇が見た光景は、言うまでもなくだらけ切った三人+鬼一人の
姿。数瞬後、怒声が木霊したのは言うまでも無い……

4.ダンディメン!

昼下がりの歩道を、四人+鬼一人が歩いている。とは言っても、往来のど
真ん中で蘇芳が姿を見せるのは流石にまずいので、蘇芳は姿を消している。
「はぁ〜ったく、まだ耳が痛い……麗香の奴がでかい声出すから……」
『そんな事より、何でこいつが一緒なんだよ!』
姿の見えない蘇芳が言うこいつとは、三下忠雄その人である。
「だって、碇のおば!?じゃなかった、お姉ちゃんが一緒に連れて行って
って言うんだもん。」
「道案内は〜三下様の方が良いだろうって仰ってたでしょ〜?」
そう、碇は仕事の為抜けられない上、場所も然程分かっている訳ではない
のだ。至極当然の事だが、蘇芳にはやはり納得出来なかった。
「まあまあ、蘇芳君。梦月ちゃんは僕がちゃんと守るから。」
三下の言葉に、プツッと何処かが切れる音がする。
『てめぇは近付くなって言ってんだろうが!!』
手だけを実体化させ、殴りつける蘇芳と吹っ飛ぶ三下。手加減して居ると
は言えその威力は大きい。いきなり吹っ飛んだ人を見て、周囲がどよめく。
「ほら、三下。何やってるの。早く行くわよ。」
冷たく言い放ち、南美はスタスタと歩いていく。その後ろをちょこちょこ
と着いて行くなゆと、些か心配気な梦月と未だ猛り狂った蘇芳が続く。
「やれやれ、もてる男は辛いですね。ふぐ!?」
ファサっと髪を掻き揚げた三下の顔面に、南美の放った指弾がクリーンヒ
ットした。

道中は決して楽ではなかった。兎に角、三下が五月蝿いのだ。道行く人々
に、やたらと声を掛け捲るし、喉が渇いたと言えば喫茶店のオープンカフ
ェで無いと嫌だとダダをこね、遅々として進めなかったのである。実際そ
の店に着くまでに、優に4時間は費やし到着した頃には既に日が陰ってい
た。
「ふっ、着きましたよ。ここです。」
「随分と掛かってしまいましたですぅ。」
「なゆ、疲れちゃったよ〜」
「この馬鹿!本当に、どうしようもないわね。どんなになっても、足を引
っ張るんだから!」
『全くだ……なんで、たった1km程の距離をこんなに掛からなきゃなん
ねぇんだよ。』
そう、その問題の店『ダンディショップ』はアトラスからほんの1km程
しか離れて居なかった。どれだけ、三下が足を引っ張ったかは過分に想像
してもおつりが来そうに無い程だ。
その店の外観は、その辺にあるクリーニング屋と然程変わらず、仕立て屋
と言うには程遠い感じがする建物だった。でっかい電飾で「ダンディショ
ップ」と書いてあるのが怪しさを倍増させているのは言うまでも無い。
「兎に角、入るわよ。」
南美の言葉に、全員頷き(三下は髪を掻き揚げ)同意する。引き戸を開け
て店内に入れば、所狭しと置かれたスーツや服が嫌でも目に入る。客の来
店を告げるセンサー音が奥の方から聞こえて来たかと思うと、そいつは姿
を見せた。
「まぁぁ!!いらっしゃい☆」
やたらでかい図体に髭面。腕の筋肉など、なゆの腰周りほどはあるのでは
無いかと思わせる位、ごっつい男だった。しかし、その物腰はなよなよし
どう見たって男のそれではない。
「……ひょっとして、おかまさんという奴でしょうか〜?」
『だろうな……良くこんな所で服作る気になったなこいつは……』
全員の(三下は除く)冷たい視線が男を見続けたが、そんな視線に気付い
ていないのか男はやたらクネクネしながら近付いてくる。
「まあまあまあ!こんなに団体さんが来られるなんて初めてよ♪」
怖い。はっきり言って怖い。思わず後ずさる、三人+鬼一人。だが、三下
は至って平然と語りかけていた。
「ふっ、篠原さん。今日も来ましたよ。」
「まぁ!三下さんじゃないですか〜今日も来てくれるなんて、嬉しいわ♪
それに、そのスーツちゃんと着てくれているのね♪篠原感激♪」
感激の余り抱きつく篠原を三下は受け止める。キラキラと輝く星の群れ。
二人の世界は、輝いていた。
「……」
「……」
『……』
「おじちゃん……そう言う趣味があったんだね……」
なゆの一言が痛い。だが、未だ二人の世界に居る彼等にとってそんな台詞
も届かない。
「……あ〜コホン。そろそろ良いかしら?」
いい加減耐え兼ねた南美の言葉に、二人は我に返り離れる。
「ふっ僕とした事が、お恥かしい。」
「いや〜ん♪そんなに見詰めないで、照れちゃうわ(ポッ♪)」
ヒクヒクと口の端を引き攣らせながら、南美は耐える。はっきり言って、
教育上宜しくない事この上ない。ましてや、幼稚園児のなゆには宜しくな
い所の騒ぎではない。南美はさっさと終わらせる事を心に決めた。
「篠原さんと言ったかしら?昨日の三下がどんな感じだったか教えて欲し
いのだけど?」
「いや〜ん♪ダ・ン・ディ・イって呼んで♪」
次の瞬間、南美の放った指弾と蘇芳のパンチとなゆの衝撃波(良く分かっ
て無いが一応攻撃)が篠原を襲う。我慢の限界だったようだ。姿を見せた
蘇芳は、篠原の服を掴むとこめかみをヒクつかせながら言い放つ。
『あのよ〜俺たちゃ別にここに来たくて来てる訳じゃねぇんだ。さっさと
答えてくれや。』
その威圧感に負けたのか、篠原はビクビクしながらも口を開いた。
「きっ昨日の三下さんは、ちょっとオドオドしてて頼りなさ気な感じだっ
たから……私が、男らしく成れる様祈りを込めてスーツを作ったのよ。そ
したら、男らしくなってくれて……私の祈りが通じたのね♪」
胸倉掴まれて目を輝かせる篠原に、嫌悪を感じたのか蘇芳はその手を離す。
「という事は〜スーツが原因なんですの〜?」
「見たいね。スーツを着てからこうなったんでしょう?」
「そんな事って有るんだね。」
兎角世の中は謎だらけ……それを改めて感じる三人+鬼一人だった。
「と、言う訳で三下。そのスーツ脱ぎなさい。」
「ふっ!何を馬鹿な。このスーツは僕の物、何で脱ぐ必要があるんですか?」
南美の一言を、あっさり返す三下。確かに理に叶っている為、返す言葉も
無い。だが、そんな三下の元になゆが歩み寄る。
「あのね三下のおじちゃん。おじちゃんがそのままだったら、なゆ嫌なの。
なゆは、何時ものおじちゃんの方が良いと思うの。だって、三下のおじち
ゃん今のまんまじゃ楽しく無いもん。だからね、そのお洋服着替えた方が
良いと思うの。」
熊の縫いぐるみをぎゅっと抱き締めたなゆの言葉に三下は悩み、篠原はハ
ンカチを噛んで涙を流す。暫く考えていた三下だったが、不意にかがむと
なゆの頭を撫でながら言う。
「ふっ、分ったよ。まあ、これは僕の物だからね。何時でも着れるさ。今
日はなゆちゃんの為に、着替えるとするよ。」
それだけ言うと、三下は篠原と共に店内のスーツを見て回る。不安になっ
た一同は、後を追いながら至って何も考えずに作ったスーツを探させた。
結局、30分程して目的のスーツを見付けると、三下は着替える為ドレス
ルームへと消えた。
「大丈夫でしょうか〜?ここの衣装だとまた何か有りそうな感じがするん
ですけど〜」
些か複雑な表情を浮かべながら言う梦月の言葉に、皆も不安が募る。何せ
元凶はこの店の物なのだ……不安にならない方がどうかしている。
「取り敢えず、無難なのを選んだんだし……待つしかないわ。」
「うん、そうだね。」
暫し待つ面々。そして、開かれたドレスルームのカーテンの奥からパリッ
としたスーツ姿の三下が現れる。
「三下様〜?大丈夫ですか〜?」
『おい、どうなんだよ?』
「三下?」
「おじちゃん?」
その言葉が聞こえてないのかどうなのか分らないが、三下はきょろきょろ
と辺りを見回すと一言呟く。
「あれ?此処って昨日の……僕は何で此処に居るんだ?」
そして、目の前に立つ三人+鬼一人に気が付く。
「あれ?南美さんになゆちゃんに梦月ちゃんに蘇芳さんじゃないですか?
どうしたんですか?こんな所で?」
どうやら記憶が無いらしい……良いのか悪いのか分らないが、なんだか無
性に腹が立つのを覚え、蘇芳は掴みかかる。
『あのな〜お前のお陰で今日は散々だったんだ!覚えてないじゃすまさね
ぇぞ!』
「えっえっ!?何?何なんですか〜!?南美さん〜助けて〜」
「知らないわ。全く……とんだ人騒がせね。」
「でも〜良かったですわ〜取り敢えず元に戻られて〜」
「うん、良かったね♪」
泣き喚く三下を掴み腹癒せにいたぶる蘇芳・その様を見ながら呆れた様な
南美・ちょっと残念そうでそれで居て穏やかな笑顔の梦月・満面の笑顔で
元に戻った事を喜ぶなゆ。それぞれの長い長い一日は終わりを告げた。


「あの〜……お勘定宜しいかしら?」
ダンディ・篠原の言葉は、四人+鬼一人に深く深く突き刺さった……

5.何時もの光景

「良い天気ですわね〜蘇芳〜」
言う梦月に答える蘇芳の表情は不機嫌そうだ。
『ああ、天気は良いな。だが、何であいつのとこに行かなきゃなんねぇん
だ?かったりぃ上にやってらんねぇぜ!』
どうやら、三下に会いに行くのが嫌そうだ。だが、その言葉に梦月も不機
嫌になる。
「龍兄様のお使いで行くのですわ〜嫌だったら、蘇芳は帰って下さい〜」
ぷく〜っと頬を膨らませる梦月を見て、『しょうがねぇな〜』とか呟きな
がら蘇芳は梦月の後を付いて行く。何時もの様に、エレベーターでアトラ
ス編集部のある階に。ドアをノックし、静かにノブを回した瞬間、碇の声
が響き渡る。
「三下君!これの調査報告来て無いじゃない!何処にあるのよ!?直ぐ要
るって言ったでしょ!?」
「えっ!?確かこの辺に……わっわわ!?」
「何やってるの!?もう〜早く頂戴ね!!」
崩れ落ちた原稿をわたわたと回収する三下を見ながら、蘇芳はにやりと笑
い梦月ははぁっと溜息と共にぼやく。
「龍兄様は、どうしてあの方に好意を寄せてらっしゃるのかしら〜」
『さあな〜俺にはわかんねぇよ。』
ニヤニヤしながら答える蘇芳を引き攣れ、兄からの届け物を三下に渡す為
に机に向かう梦月。その姿に気が付いたのか、三下が顔を上げる。
「あっ梦月ちゃん。今日は何?」
「龍兄様からお届け物ですわ〜はいどうぞ〜」
荷物を差し出し、受け取ったのを確認するとスタスタと碇の元に行く。
「何時もご苦労様。その後どう?」
「はい〜特に変わり有りませんわ〜やはり、あの時のは勘違いですわね〜」
『当たり前だ。そんな事が有ってたまるか。』
フンと鼻を鳴らし、そっぽを向く蘇芳にフフっと碇は微笑みかける。
「いま少し時間が空いてるの。どう?ラウンジでお茶でも?」
「あっ、頂きますぅ。」
『おう!悪くねぇな!』
「三下君!少し出てくるから、見付けたらデスクに置いておいて!」
「はっはい〜」
返って来る返事に、蘇芳と梦月……二人は何時も通りの雰囲気をシミジミ
と感じるのであった……





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0684 / 湖影 梦月 / 女 / 14 / 中学生

0969 / 鬼頭 なゆ / 女 /  5 / 幼稚園生

0424 / 水野 想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター

1121 / 深奈 南美 / 女 / 25 / 金融業者

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■         ライター通信          ■
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どうも!初めまして、凪 蒼真と申します。
この度は依頼に参加して下さって有難う御座います。

全編ギャグにしようと思って作ったシナリオでは有りましたが、上手く表
現出来たでしょうか?(苦笑)
最後の締めだけは、少しほのぼのとしてみようと思って書いております。
単純に幽霊の仕業としてみても良かったのですが、捻くれ者のライターで
すので妙な奴が登場しております。(苦笑)
今後、奴が活躍するかは分りかねますが(オイ!)取り敢えず、あんな奴
が居たな〜位に覚えて置いて頂けると嬉しいですね。(爆)

今後、またおいらの依頼に参加される機会が有りましたら、精一杯書かせ
て頂きたいと思います。
本当に有難う御座いました。(礼)