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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


ダンディメン!三下!?

0.オープニング

何時もの様に出勤した碇が、まず気がついたのはその人だかりだった。
殆どの編集員が一つ所に集まって口々に驚きの声を上げている場所……
記憶を手繰るまでもなく碇は知っている。
そう、三下の机がある場所だ。
「何?皆仕事もしないでどうしたの?」
些か語気を強くした碇の言葉に、皆一斉に振り返るがその顔は困惑に染
まっていた。
「お早う御座います!碇編集長!」
飛び切り元気のいい声が聞こえて来たが、その声に聞き覚えがある碇に
とってそれは絶対有り得ない声だった。
そう、三下 忠雄その人である。
「いや〜今日も清々しい朝ですね!それに、今日の編集長もお美しい!」
つかつかと歩み寄り、ふぁさっと髪を掻き揚げながら三下はにっと笑う。
どこかの少女漫画のノリである。
「……病院行ってきなさい、三下君。」
半ば呆れ口調で、それだけ言うと碇は自分の机に向かった。その間も三下
は「編集長まで僕を変人扱いだ!」とか何とか言っている。碇は自分の机
に着くと、三下の様子を伺った。芝居がかっている物の、素である事には
間違いない。長年人を使う立場に居るのだ、それ位は分る。三下の行動は
全てが自然だった。そして、仕事振りまで変化していた。まるで、人が変
わったかの様な仕事振りに流石の碇も目を見張る。
「やれば出来る……って感じじゃないわね。何が彼をそうさせたのかね。」
そう碇が呟くのも頷ける。何せ昨日までは、何時もの三下であったのだ。
碇は、携帯のメモリーから番号を探し始めた。

1.行け行け!幼稚園児!

鬼頭 なゆが目にした光景は、何時もとは何か違うアトラス編集部だった。
何がどう違うのか?それは、ある人物を見れば直ぐ分る。言わずと知れた
三下だ。
「三下のおじちゃん……変……気持ち悪い。」
なゆの第一声は、その言葉だった。
時々、アトラスに遊びに来ては三下に遊んで貰っていたなゆにとって、変
に芝居がかった三下の行動は異常以外の何者でも無い。ましてや、なゆは
幼稚園児、そのストレートな感情表現は余りにも的を得すぎている。
「ねね、碇のおばちゃん。」
「お・ね・え・さ・ん♪よ!」
額に青筋を浮かべ、笑顔を引きつらせながらなゆの言葉を訂正する碇。そ
の剣幕にちょっと後ずさりしてなゆは「お姉ちゃん」と訂正する。
「な〜に、なゆちゃん?今日、幼稚園どうしたの?」
「うん、休んだよ。だって、詰まんないもん。ねね、それより三下のおじ
ちゃんどうしちゃったの?」
「さ〜ね〜分らないのよ。今日来たらああだったのよ。昨日は大丈夫だっ
たのに……それより、なゆちゃん。ちゃんと幼稚園行かないと駄目だよ?」
そんな碇の言葉は、『昨日まで大丈夫だった』と言う辺りから後は削除さ
れていた。見れば分る。ふつふつと浮かんでくるなゆの笑顔。嫌な予感を
覚えて、碇は語り掛ける。
「なゆちゃん!?駄目だよ、危ない事とか有ったらどうするの!」
「平気♪なゆ、怖く無いもん♪それに、あのままじゃ碇のおばちゃんも嫌
でしょ?」
そう言ってなゆは三下を指差す。
「お・ね・え・さ・ん!!」
「うっうん……碇の……お姉ちゃんも……」
どうやら碇にとって、三下よりも自分が『おばちゃん』と言われる事の方
が重要らしい。
「宜しい。まあね……でも、他の人に頼んでるからなゆちゃんは……」
それから先の言葉を碇は飲み込まざるを得なかった。ぎゅっとクマの縫い
ぐるみを抱いたなゆの肩がプルプル震えている。この後の事が予想出来た
碇は、なゆの頭を慌てて撫でた。
「そうね!そうよね!もう、なゆちゃんに頼むしかないわ!宜しくね!」
その言葉で、機嫌が直ったのかなゆはぱぁっと表情を変えた。
「うん♪なゆ、頑張るよ!」
やたら元気ななゆを尻目に、碇はほうっと溜息を吐いたのだった。

2.作戦会議inアトラス会議室

机の上に肘を置き、顔の前で手を組みながら碇は口を開く。
「これより、三下君元に戻そう作戦を実行致します。」
「は〜い♪」
『おう!さっさとケリ付けようぜ!』
「蘇芳〜」
「……はぁなんだかな〜」
それぞれに、色んな反応を見せる面々。奇抜な組み合わせであるのは見れ
ば分る。幼稚園児に学生に半透明な鬼に格好良いお姉さん。これを奇抜で
無いと言える人間が、果たして世の中に居るだろうか?いや、断じて居な
いと思う。
「事態は深刻よ。このままでは、我が編集部が三下君の手によって意味も
無く蹂躙されてしまうわ!」
きっと唇の端を結び、苦々し気に言う碇。
「そんなに深刻だとは思えないけどね。だって、三下だろう?別に良いん
じゃない?放っておけば、その内治るわよ。」
「問題発言ですよ!南美のおばちゃん!」
「おっおば!?なゆちゃん〜おばちゃんって誰の事かな〜?」
『おう!問題発言だ!このままじゃ、梦月の教育上良くない!』
「私は別に〜まあ、普通で無いなら戻して上げた方が、三下様にも良いで
しょうね〜でも、あのままでも〜」
「そうだよ!戻したほうが良いもん!三下のおじちゃんはあんなのじゃ駄
目だよ!」
「なゆちゃ〜ん?お姉さんって呼んでくれる?」
『ちょっと待て梦月!何だその「あのままでも」って!駄目だぞそんな事
じゃ!絶対に戻すんだ!』
「はぁ〜蘇芳がそこまで言うなら〜……」
作戦会議というか痴話げんかモードに突入した三人+鬼一人を見つつ、碇
のこめかみがピクピク動いている。
「はっはっは!皆さん仲が宜しくて羨ましいですね〜」
突然響き渡った三下の声に一同キッと三下を見ると一斉に物を投げ付ける。
「「「『「お前が言うな!!」』」」」
椅子に縛られ拘束されている三下に逃れる術はなく、全てまともにクリー
ンヒット!誰が投げたかは分らないが、電子ポットまでその中にはあった。
そんなものをまともにうけたにも拘らず、鼻血を垂らしながら三下は笑っ
ている……不気味この上ない。
「兎に角!何が原因か探らないといけないわ!何か思い当たる事がある人
は挙手して言って!」
碇の言葉に、真っ先に手が上がったのはなゆ。
「はい!なゆちゃん!」
「挙手って何?」
その言葉に、一同の体から力が抜ける。無理も無い、いきなりの発言がそ
れなのだ。一人、その様を不思議そうに見詰めるなゆに、梦月は優しく諭
す様に言う。
「挙手って言うのはね〜さっきなゆちゃんがやった、手を上げる事なの〜」
「ふ〜ん、そうなんだ〜分った〜有難う〜♪」
満面の笑みを返すなゆを見ながら、南美は力なさ気に手を上げる。
「はい!南美!」
「頭打ったんじゃないの?だったら、でっかい衝撃でも与えれば戻ると思
うんだけど?ちょっと、調べてみるよ。」
そう言うと、席を立ち三下の方に歩み寄る南美。未だ鼻血をそのままにニ
コニコして居る三下が妙に不気味だが、その頭を調べる。
「や〜女性に頭を触られるのはなかなか無いので嬉しいですね〜」
ニコニコしながら言う三下の言葉に、思わず南美は殴りつけていた。しか
も、グーで……
「いた!?いきなりですね〜何を照れているんです?」
「ちっ……戻らないか……じゃ〜次はこれで……」
そう言うと、持ってきた荷物袋の中からかなり大き目のハンマーを取り出
す南美。
「ちょっと、南美さん?それをどうするんですか?」
流石の事に、三下の顔から笑みが消える。
「ん?いや、大丈夫よ。痛いのは最初だけだから。」
「ちょっ!?ちょっと南美!三下君殺す気!?」
碇の言葉に、南美は碇を見やり一言。
「冗談よ。」
その言葉に、安心したのか碇と三下は安堵の表情を見せる。
「もう〜南美さんも人が悪いですね〜はっはっは〜」
「ごめんね〜はっはっは〜」
笑顔とは裏腹に、目が笑ってない南美を見つつ、蘇芳は思う。
『あいつ……マジだったんだな……』

3.作戦会議パート2

「駄目ね。取り敢えず、頭を打った形跡は無いわ。」
席に着いた南美の一言に、一同頷く。対して南美は、少々残念そうである。
続いて手を上げたのは、梦月。
「はい!梦月ちゃん!」
「あの〜ですね〜三下様に悪い幽霊さんが憑依してると思うのですけど〜」
確かに一理ある……が、その言葉に南美と蘇芳の両方が首を振る。
「違うんですの〜?」
「俺の携帯に反応が無い。まあ、害意が無いだけなのかも知れないけど……」
『こいつからは、そんな感じはねぇな。素だぜ。』
二人の言葉に、なゆまでも首をうなだれる。なゆも、同じ様に幽霊が憑依
して居る物と思っていたのだ。
「では〜なんでこうなってしまったんでしょう〜?」
「それが分らないから、こうして皆で考えてるのよ梦月ちゃん。」
苦笑いと溜息を同時に碇は言う。決定的に、何が原因か分らない為ほとほ
と困っている一同を尻目に、三下は呑気に鼻歌なんぞを歌っていたりする。
「くっ!?呑気な奴ね、やっぱりこれで……」
でっかいハンマーを再び取り出し、南美は三下を睨みつける。
「それは〜止めた方がいいと思うんですぅ。」
「そうだよ〜三下のおじちゃんが可愛そうだよ〜」
年下の二人から止められ、止む無くハンマーをしまう南美。その時、すっ
と一つの手が上がる。
「はい!なゆちゃん!」
「三下のおじちゃん、昨日まで普通だったんだよね?じゃあ、昨日何処に
行ったか聞けば、分るんじゃないかなぁ?」
なゆ以外の全員がはっとする。そう、そう言えば昨日の行動を三下に聞い
た者は誰も居ない。慌てて、碇は三下に問う。
「三下君、昨日仕事終わってから何処に行ったの?」
「何ですか編集長?僕のプライベートに興味があるんですか?」
「そんな物無いわよ!良いから、話しなさい!!」
一瞬本気で殺意を覚え、南美からハンマーを借り様かとも思った碇だが、
一応踏み止まった様である。
「ふっ、昨日ですか……あれはそう、仕事が終わってへとへとになった帰
り道。僕はお腹が空いたので、優雅に夕食を食べようと思い一人飯田屋に
行きました。」
『優雅って……牛丼をどうやって優雅に食うんだよ……』
「さあ〜何とかして優雅に食べる方法が有るんじゃありませんの〜?」
「無いわね。牛丼なんて、優雅に食べるもんでも無いし。」
「そうか〜牛丼は優雅に食べれないんだね。」
「そこ……話しずれてるわよ。」
碇の突っ込みに、静まる部屋。そんな中、やたら浸って話し続ける三下。
はっきり言って、どうでも良い話ばかり、たくあんが不味いだの、道行く
人達が僕を見てるだの、もうまるっきり関係ない話が30分は続いた。何
時しかなゆは寝ており、梦月もあくびを噛み殺すのに必死だし、蘇芳はも
うやる気なさそうに窓の外を見ている始末。南美に至っては、MDウォー
クマンなんぞを聞き始めている。碇ももうどうでも良くなりかけ、仕事に
戻ろうとしたその時……
「……そこで見つけた、仕立て屋にこのスーツを作って貰ったんです。仕
上がりから何からもう言う事なしで、僕も大満足ですよ。」
にっこりと微笑む三下。確かに、三下のスーツは何時もと違ってパリッと
して居る。色合いなども何時もと違う感じがして見えるのはその話を聞い
た後だからだろうか?別にスーツが怪しいと決まった訳ではないのだが、
三下の話からまともに聞けたのはこれくらいだった。(余り聞いてなかっ
たとも言う)
「皆!調べる場所が、決まったわよ!」
振り返った碇が見た光景は、言うまでもなくだらけ切った三人+鬼一人の
姿。数瞬後、怒声が木霊したのは言うまでも無い……

4.ダンディメン!

昼下がりの歩道を、四人+鬼一人が歩いている。とは言っても、往来のど
真ん中で蘇芳が姿を見せるのは流石にまずいので、蘇芳は姿を消している。
「はぁ〜ったく、まだ耳が痛い……麗香の奴がでかい声出すから……」
『そんな事より、何でこいつが一緒なんだよ!』
姿の見えない蘇芳が言うこいつとは、三下忠雄その人である。
「だって、碇のおば!?じゃなかった、お姉ちゃんが一緒に連れて行って
って言うんだもん。」
「道案内は〜三下様の方が良いだろうって仰ってたでしょ〜?」
そう、碇は仕事の為抜けられない上、場所も然程分かっている訳ではない
のだ。至極当然の事だが、蘇芳にはやはり納得出来なかった。
「まあまあ、蘇芳君。梦月ちゃんは僕がちゃんと守るから。」
三下の言葉に、プツッと何処かが切れる音がする。
『てめぇは近付くなって言ってんだろうが!!』
手だけを実体化させ、殴りつける蘇芳と吹っ飛ぶ三下。手加減して居ると
は言えその威力は大きい。いきなり吹っ飛んだ人を見て、周囲がどよめく。
「ほら、三下。何やってるの。早く行くわよ。」
冷たく言い放ち、南美はスタスタと歩いていく。その後ろをちょこちょこ
と着いて行くなゆと、些か心配気な梦月と未だ猛り狂った蘇芳が続く。
「やれやれ、もてる男は辛いですね。ふぐ!?」
ファサっと髪を掻き揚げた三下の顔面に、南美の放った指弾がクリーンヒ
ットした。

道中は決して楽ではなかった。兎に角、三下が五月蝿いのだ。道行く人々
に、やたらと声を掛け捲るし、喉が渇いたと言えば喫茶店のオープンカフ
ェで無いと嫌だとダダをこね、遅々として進めなかったのである。実際そ
の店に着くまでに、優に4時間は費やし到着した頃には既に日が陰ってい
た。
「ふっ、着きましたよ。ここです。」
「随分と掛かってしまいましたですぅ。」
「なゆ、疲れちゃったよ〜」
「この馬鹿!本当に、どうしようもないわね。どんなになっても、足を引
っ張るんだから!」
『全くだ……なんで、たった1km程の距離をこんなに掛からなきゃなん
ねぇんだよ。』
そう、その問題の店『ダンディショップ』はアトラスからほんの1km程
しか離れて居なかった。どれだけ、三下が足を引っ張ったかは過分に想像
してもおつりが来そうに無い程だ。
その店の外観は、その辺にあるクリーニング屋と然程変わらず、仕立て屋
と言うには程遠い感じがする建物だった。でっかい電飾で「ダンディショ
ップ」と書いてあるのが怪しさを倍増させているのは言うまでも無い。
「兎に角、入るわよ。」
南美の言葉に、全員頷き(三下は髪を掻き揚げ)同意する。引き戸を開け
て店内に入れば、所狭しと置かれたスーツや服が嫌でも目に入る。客の来
店を告げるセンサー音が奥の方から聞こえて来たかと思うと、そいつは姿
を見せた。
「まぁぁ!!いらっしゃい☆」
やたらでかい図体に髭面。腕の筋肉など、なゆの腰周りほどはあるのでは
無いかと思わせる位、ごっつい男だった。しかし、その物腰はなよなよし
どう見たって男のそれではない。
「……ひょっとして、おかまさんという奴でしょうか〜?」
『だろうな……良くこんな所で服作る気になったなこいつは……』
全員の(三下は除く)冷たい視線が男を見続けたが、そんな視線に気付い
ていないのか男はやたらクネクネしながら近付いてくる。
「まあまあまあ!こんなに団体さんが来られるなんて初めてよ♪」
怖い。はっきり言って怖い。思わず後ずさる、三人+鬼一人。だが、三下
は至って平然と語りかけていた。
「ふっ、篠原さん。今日も来ましたよ。」
「まぁ!三下さんじゃないですか〜今日も来てくれるなんて、嬉しいわ♪
それに、そのスーツちゃんと着てくれているのね♪篠原感激♪」
感激の余り抱きつく篠原を三下は受け止める。キラキラと輝く星の群れ。
二人の世界は、輝いていた。
「……」
「……」
『……』
「おじちゃん……そう言う趣味があったんだね……」
なゆの一言が痛い。だが、未だ二人の世界に居る彼等にとってそんな台詞
も届かない。
「……あ〜コホン。そろそろ良いかしら?」
いい加減耐え兼ねた南美の言葉に、二人は我に返り離れる。
「ふっ僕とした事が、お恥かしい。」
「いや〜ん♪そんなに見詰めないで、照れちゃうわ(ポッ♪)」
ヒクヒクと口の端を引き攣らせながら、南美は耐える。はっきり言って、
教育上宜しくない事この上ない。ましてや、幼稚園児のなゆには宜しくな
い所の騒ぎではない。南美はさっさと終わらせる事を心に決めた。
「篠原さんと言ったかしら?昨日の三下がどんな感じだったか教えて欲し
いのだけど?」
「いや〜ん♪ダ・ン・ディ・イって呼んで♪」
次の瞬間、南美の放った指弾と蘇芳のパンチとなゆの衝撃波(良く分かっ
て無いが一応攻撃)が篠原を襲う。我慢の限界だったようだ。姿を見せた
蘇芳は、篠原の服を掴むとこめかみをヒクつかせながら言い放つ。
『あのよ〜俺たちゃ別にここに来たくて来てる訳じゃねぇんだ。さっさと
答えてくれや。』
その威圧感に負けたのか、篠原はビクビクしながらも口を開いた。
「きっ昨日の三下さんは、ちょっとオドオドしてて頼りなさ気な感じだっ
たから……私が、男らしく成れる様祈りを込めてスーツを作ったのよ。そ
したら、男らしくなってくれて……私の祈りが通じたのね♪」
胸倉掴まれて目を輝かせる篠原に、嫌悪を感じたのか蘇芳はその手を離す。
「という事は〜スーツが原因なんですの〜?」
「見たいね。スーツを着てからこうなったんでしょう?」
「そんな事って有るんだね。」
兎角世の中は謎だらけ……それを改めて感じる三人+鬼一人だった。
「と、言う訳で三下。そのスーツ脱ぎなさい。」
「ふっ!何を馬鹿な。このスーツは僕の物、何で脱ぐ必要があるんですか?」
南美の一言を、あっさり返す三下。確かに理に叶っている為、返す言葉も
無い。だが、そんな三下の元になゆが歩み寄る。
「あのね三下のおじちゃん。おじちゃんがそのままだったら、なゆ嫌なの。
なゆは、何時ものおじちゃんの方が良いと思うの。だって、三下のおじち
ゃん今のまんまじゃ楽しく無いもん。だからね、そのお洋服着替えた方が
良いと思うの。」
熊の縫いぐるみをぎゅっと抱き締めたなゆの言葉に三下は悩み、篠原はハ
ンカチを噛んで涙を流す。暫く考えていた三下だったが、不意にかがむと
なゆの頭を撫でながら言う。
「ふっ、分ったよ。まあ、これは僕の物だからね。何時でも着れるさ。今
日はなゆちゃんの為に、着替えるとするよ。」
それだけ言うと、三下は篠原と共に店内のスーツを見て回る。不安になっ
た一同は、後を追いながら至って何も考えずに作ったスーツを探させた。
結局、30分程して目的のスーツを見付けると、三下は着替える為ドレス
ルームへと消えた。
「大丈夫でしょうか〜?ここの衣装だとまた何か有りそうな感じがするん
ですけど〜」
些か複雑な表情を浮かべながら言う梦月の言葉に、皆も不安が募る。何せ
元凶はこの店の物なのだ……不安にならない方がどうかしている。
「取り敢えず、無難なのを選んだんだし……待つしかないわ。」
「うん、そうだね。」
暫し待つ面々。そして、開かれたドレスルームのカーテンの奥からパリッ
としたスーツ姿の三下が現れる。
「三下様〜?大丈夫ですか〜?」
『おい、どうなんだよ?』
「三下?」
「おじちゃん?」
その言葉が聞こえてないのかどうなのか分らないが、三下はきょろきょろ
と辺りを見回すと一言呟く。
「あれ?此処って昨日の……僕は何で此処に居るんだ?」
そして、目の前に立つ三人+鬼一人に気が付く。
「あれ?南美さんになゆちゃんに梦月ちゃんに蘇芳さんじゃないですか?
どうしたんですか?こんな所で?」
どうやら記憶が無いらしい……良いのか悪いのか分らないが、なんだか無
性に腹が立つのを覚え、蘇芳は掴みかかる。
『あのな〜お前のお陰で今日は散々だったんだ!覚えてないじゃすまさね
ぇぞ!』
「えっえっ!?何?何なんですか〜!?南美さん〜助けて〜」
「知らないわ。全く……とんだ人騒がせね。」
「でも〜良かったですわ〜取り敢えず元に戻られて〜」
「うん、良かったね♪」
泣き喚く三下を掴み腹癒せにいたぶる蘇芳・その様を見ながら呆れた様な
南美・ちょっと残念そうでそれで居て穏やかな笑顔の梦月・満面の笑顔で
元に戻った事を喜ぶなゆ。それぞれの長い長い一日は終わりを告げた。


「あの〜……お勘定宜しいかしら?」
ダンディ・篠原の言葉は、四人+鬼一人に深く深く突き刺さった……

5.何時もの光景

幼稚園をサボったなゆが、アトラス編集部に遊びに来たのは昼過ぎの事。
何時もの様に、エレベーターを操作(してもらい)編集部に入る。
ドアノブを背伸びしながら回し、ようやく開けると碇の声が響き渡る。
「三下君!これは何なの!?こんなの使える訳無いでしょう!やり直し!
今日中よ今日中!!」
「えぇ〜そんな〜折角頑張ったのに〜」
「つべこべ言わない!!さっさとやる!!」
半べそかきながら、自分の机に戻る三下を見ながら、なゆはちょっとニッ
コリした。
「やっぱり、三下のおじちゃんはああでないとね。」
一人呟くと、碇の元に歩を進める。極力、三下に気付かれぬ様にしてよう
やく碇の元に辿り着くとツンツンと碇の足を突付く。
「なゆちゃん!?またサボったの?」
「うん♪でっ、三下のおじちゃんどう?」
「どうもこうも、これだったらあのままの方が良かったかも知れ無いわね。」
苦笑いと共に言う碇だが、目は優しい笑みを見せている。そんな碇を見て、
なゆは少しだけ意地悪してみたくなった。
「じゃあ、もう一回あれ着せる?」
ニコニコ笑顔のなゆを見て、碇は顔を強張らせて答えた。喉元過ぎたあの
日の事が思い出される。
「嫌よ。もう、あれは見たく無いわ。」
あれとは、ダンディ・篠原の事。お金を持っていなかった彼等は、篠原を
編集部まで連れて来たのである。その時の事を思い出し、碇は身震いした。
そんな碇を見て、ニンマリ笑うとなゆは一言「冗談♪」と言うと、三下の
所に駆けて行った。
「三下のおじちゃん〜♪遊ぼう〜♪」
「わっ!?なゆちゃん!?駄目だよ〜まだ仕事中なんだから〜」
何時も通りの光景が、清々しく感じられた昼下がりだった……





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0684 / 湖影 梦月 / 女 / 14 / 中学生

0969 / 鬼頭 なゆ / 女 /  5 / 幼稚園生

0424 / 水野 想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター

1121 / 深奈 南美 / 女 / 25 / 金融業者

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■         ライター通信          ■
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どうも!初めまして、凪 蒼真と申します。
この度は依頼に参加して下さって有難う御座います。

全編ギャグにしようと思って作ったシナリオでは有りましたが、上手く表
現出来たでしょうか?(苦笑)
最後の締めだけは、少しほのぼのとしてみようと思って書いております。
単純に幽霊の仕業としてみても良かったのですが、捻くれ者のライターで
すので妙な奴が登場しております。(苦笑)
今後、奴が活躍するかは分りかねますが(オイ!)取り敢えず、あんな奴
が居たな〜位に覚えて置いて頂けると嬉しいですね。(爆)

今後、また依頼に参加される機会が有りましたら、精一杯書かせて頂きた
いと思います。
本当に有難う御座いました。(礼)