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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


不思議の国から零れ落ちた波紋


------<オープニング>--------------------------------------


[45] 丸秘情報だよvv 投稿者:アリス
聞いた? 相手を憎いと思うだけでその人を殺しちゃうことができる人がいるんだって。

[46] ? 投稿者:イカレ帽子屋
なにそれ。知らない。

[47] 今噂だよね〜。 投稿者:チシャ猫
それ知ってる〜。呪いをかけてくれるんだよね。
私の知りあいがそれで死んだ人がいるって言ってたよ。
すごいよねー。

[48] マジ? 投稿者:イカレ帽子屋
やだー。怖くない?

[49] 私も知ってる。 投稿者:ハートのクイーン
でも、本当に死んじゃえって思う奴っているよね。
そんな人が身近にいるなら絶対頼んじゃうと思う。

[50] Re:丸秘情報だよvv 投稿者:スペードのジャック
>ハートのクイーン
最低。

[51] はあ? 投稿者:ハートのクイーン
>スペードのジャック
なにいい子ぶってんの。キショッ。
どうせあんただってそう思ったことあるんでしょ。



 そのあとはあまりにひどい言葉の応酬だったので、瀬名雫はそれ以上読みたくなくなった。「不思議の国」というサイトの掲示板で面白い噂をしていると聞いてアクセスしてみたが、すでに投稿者同士でケンカを始めてしまっている。
「……はあ、呪いをかけてくれるって本当かしら?」
 疑い深い内容も、口に出すと途端に美しい宝石に見えるから不思議だ。雫は気になって仕方がなくなってしまった。
「やっぱ調べてみる価値アリよね?! 何でも頭から否定するのは間違ってるわ!」
 意気揚々と拳を握り締めたものの、ふと時計を見てカレンダーを見て固まる。
「……やばい。テスト期間だわ! 前回すっごくやばかったんだった!」
 雫はまだ生々しく記憶に残る、親の顔を思い出して震え上がった。
「せっかく自分で調べれると思ったのに〜!」
 泣きながら雫はキーボードを叩いた。
「誰か私の代わりに調査してきてっ!」



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「憎むだけで人の命を奪う…か。」
 パソコンの画面に連ねられた掲示板のログを覗き込み、東鷹栖・号は興味深そうに呟いた。
 それはどのように行われるのだろうか。陰陽師等の様に術を使用するのか。それとも何も使用せず念じるだけなのか。
 遠距離でも可能なのか、接触が必要なのか。そして、媒体は一体何になるのだろうか?
 画面の前で考えても埒があかないので、東鷹栖は少し考え込んでからおもむろにキーボードを叩き出した。
『呪をかけてくれる人のホームページを教えて下さいませんか。』
 ハンドルネームを「ODD EYE HOWK」として、掲示板にそう書き込んだ。
 東鷹栖は少しパソコンから顔を背け、かけていた眼鏡を外した。露になった両眼は、片目は黒だがもう一方は白に近い薄い茶色をしている。軽く後ろで束ねていた髪をほどくと、細い直髪が肩まで落ちる。
 東鷹栖は髪を括り直し、グラスを軽く拭いて再びかけ直した。
 パソコンに向き直り、ネットサーフィンによって他にその話をしているところはないかと探すと、掲示板関係が面白いほど引っかかってきた。ネットの中ではかなり有名な噂のようだった。学生が作っていると思しきサイトでよく話をされている。
 その中の「ゴーストネットOFF」というサイトの管理人の書き込みを見て、少し笑った。
『この噂が本当かどうか調べてきてください。お願いします。あと、詳細も詳しく教えてくれると嬉しいです。』
『調べてみます。』
 つい、そう書き込んでしまっていた。
 これ以上収穫はなさそうだと見切りをつけて、東鷹栖は「不思議の国」に戻ってみた。すると返事が来ている。
 投稿者名は、話題提供をした後、雲行きが険悪になったことに責任を感じたのか、ずっと沈黙を保っていたアリスだった。
『ホームページは携帯用のだけです。中にはBBSしかありませんが……。』
 東鷹栖は教えてもらったアドレスへ飛び、サイトの中を確認した。ただ一言、「憎い相手を呪い殺します。」とかかれており、掲示板が置いてあるだけだった。
 入ってみると、そこは多くの恨み言で溢れていた。変わっているのは、その掲示板には、投稿者名や投稿日時が初期設定からして入っていなかったことだ。そして、文面には直接に呪って欲しい人の本名が書かれている。
 東鷹栖もその中に短い一文を紛れ込ませた。
『呪って欲しい人物が居るのですが……。その人の名前は、東鷹栖・号です。』
 書いたのは自らの名前。
「さて、お手並み拝見と行きましょうか。」
 ネットで噂される人物の実力とその手法に、一種病気とも言える知的好奇心が疼く。そのために自分を危険に晒すことに躊躇いは感じなかった。



 2日ほど何ごともなく過ぎた。3日目の夕方、東鷹栖はちょうど街へと出ていた。目的のコンピュータ部品を手に入れるため、人込みに流されるように歩いているところだった。
 赤になった信号の前で立ち止まる。ふと視線を感じて振り返った。
 人がたくさんいて視界が遮られるはずなのに、その場所だけぽっかりと空いていた。吸い込まれるように遠く離れた人物と目が合う。
 それは制服を来た少女だった。おかっぱの漆黒の髪のせいか、肌が不気味なほど白く見える。彼女は無表情のまま東鷹栖を見つめていた。周囲に東鷹栖と彼女しかいないような錯覚を覚える。
 身体が金縛りにあったように動けなかった。否、動かなかったのか。
 信号が青に変わり、東鷹栖と少女の間を人が通っていくが、彼女の視線は通行人を透視してこちらを見透かしているかのようだった。
「あなたは一体誰ですか。」
 口の動きだけで伝える。彼女も同じように口を動かした。
「私の名前は月影杏子。あなたが東鷹栖・号ね。私はあなたを1週間以内に呪い殺すわ。」
「え?」
「そういう依頼を受けているの。あなたは誰かに殺したいほど恨まれているらしいわね。」
「……まさか!」
「どこに逃げても無駄よ。必ず殺すわ。」
「ちょっと待ってください!」
 はっとして杏子と名乗った彼女のほうへ歩み寄ろうとした瞬間に、相手が先に一歩踏み出してくる。そのまま、東鷹栖の目の前で人込みの中へと紛れ込んでしまった。あんなにも強い存在感を放っていたのに、東鷹栖はすぐに杏子の姿を見失ってしまった。
「……これが呪う方法?」
 東鷹栖は呆然と立ち竦んだ。まさか、直接コンタクトを取ってくるとは思わなかった。
 名前から住所を割り出して直接家にやってきたわけではなく、雑踏の中でピンポイントで東鷹栖を見つけてみせた杏子。一体何者なのか。
 予定は諦め、東鷹栖は即家へと帰ってきた。パソコンを立ち上げ、自らお抱えの情報屋に依頼を送る。聞きたい内容は、ずばり月影杏子の身元だった。
 そして自分は、例の携帯用のサイトへアクセスし、ハッキングをかけてみたが、発信人のデータが全く引っかかって来ない。生物であろうが無生物であろうが侵入できるテレパシストという東鷹栖の特殊能力を持ってしても何も読み取ることは出来なかった。むしろ不自然なほど向こう側の相手の存在が感じられない。
 情報屋から受け取った回答も思わしくなかった。ただ一言「そんな名前の人間はこの世界にはいない。」ということだけ。
「どうなってるんだ?」
 不思議に思いはすれど、焦りは感じなかった。
 杏子が何者か分からないのならば、それはそれでいい。ここまでしても分からないことは、これ以上どんなにやっても収穫は見込めそうにない。ならば、次考えるべきことは、杏子がどのように東鷹栖を殺そうとするかという1点に尽きる。
 わざわざ姿を見せ、口では恐ろしいことを言っていたが、杏子からは全く殺気を感じ取れなかった。本当にただ言葉を伝えに来た、という風体。その割には明確な意思。
 これから起こる呪いとはどのようなものなのか。
 東鷹栖は興奮で乾いた唇をぺろりと舐めた。



[213] 呪いの噂 投稿者:アリス
この噂は本当です。
現に、スペードのジャックさんが亡くなったそうです。
呪い殺すためには本名を知っていないといけないはずなのに……。

[214] Re:呪いの噂 投稿者:ハートのクイーン
先に言っておくけど私じゃないわよ! そんなことを知っているアリスのほうがおかしいわ!

[215] Re:呪いの噂 投稿者:イカレ帽子屋
真っ先に弁解に回るハートのクイーンの方が怪しいわ。第一、あんた前、呪い殺せるなら、スペードのジャックにするって言ってたもんね。

[216] Re:呪いの噂 投稿者:ハートのクイーン
言いがかりはよしてちょうだい。私はスペードのジャックの本名なんて知らないもの。
どうしてアリスは死んだこととか知ってるわけ? どう考えてもそっちの方がおかしいじゃない。
イカレ帽子屋は変に思わないの?



 呪いを受けた次の日、ちょっとした用事で外へと出ていた東鷹栖は、地下道を通ろうと階段を降りようとしたところを、突然誰かに背後から押された。
 転げ落ちたかけたが、段差が低かったため、すぐに体勢を立て直すことが出来たので大事には至らずに済んだ。
 もしやと思って急いで周囲を見回すが、杏子の姿は見つからない。あの時のように、素早く人込みに逃げ込んだのだろうかと思ったが、この場所はあまり人の往来が激しくないため、目に付かない方がおかしかった。
 しかし、東鷹栖の近くに人がいた気配もなかった。通行人には、東鷹栖が何かに躓いてこけそうになったのだと思われているのかもしれない。
 それにしてもこのような手法を取るということは。
「……子供騙しですね。」
 東鷹栖は思わず苦笑を洩らしていた。
 呪い殺すと言っておきながら、階段から突き落とそうとするのでは、女子学生の悪戯の線が濃くなる。
「やっぱりただの噂でしたか。」
 話だけ大きくなってしまって、どうしようもなくなってしまったのだろう。
 東鷹栖はなんだか気が削がれてしまった。期待が大きすぎた反動だろう。東鷹栖の中で終わったことになってしまい、興味を無くしてしまった。
 それから3日間、東鷹栖は情報収集に余念がなく、ずっと家に篭りきったままだった。おかしいことや変わったことは何もなく、東鷹栖はあの呪い殺すという噂がますます子供の遊びである可能性が高くなったことを感じていた。
「もう少しくらい付き合ってあげるべきですかねえ。」
 このまま1週間が過ぎてしまうのでは、自分も張り合いがない。手を出して来やすい状況を作って、逆に相手を捕まえることにしよう。
 東鷹栖は外出の準備をし始めた。



[214] そういえば…。 投稿者:アリス
最近イカレ帽子屋さんを見ませんね。どうしたんでしょうか…。

[255] もうイヤ! 投稿者:ハートのクイーン
次は私の番なのね! まるで全て私が呪い殺しているみたいな言い方して!! 一体なんなのよ!! 私は知らないわ!!



 わざと交通量の多い道路を選び、東鷹栖は信号待ちをしている横断歩道の前列に並んだ。見るともなしに煌々と自己主張をしている赤いランプを眺めてみる。
 目の前ではひっきりなしに大型トラックや乗用車などが行き交っていた。轟音に耳をやられながら、東鷹栖はずっと背後の気配を窺っている。
 案の定、おかしな行動をする気配が感じられ、背中を押された。予想していたことであったので、すぐに車道に乗りだした体制を整え、後ろを振り返った。
「誰ですっ……えっ……?」
 東鷹栖は絶句するしかなかった。思わず我が目を疑ってしまう。
 目の前にいたのは、肩まで伸びた細い直髪を軽く後ろで束ねた、眼鏡をかけた知的な顔をした青年。
「…………俺?!」
 東鷹栖にそっくりな彼は、にやりと笑って踵を返した。
「待って!」
 慌てて追いかけようとしたが、相手の身のこなしが素早く、しかも横断歩道の前にいたことが災いして逆走する人込みに行く手を阻まれ、すぐに見失ってしまった。人に肩がぶつかるたびに、文句を言われる。
「ドッペルゲンガーなのか……?」
 しかし、それならばおかしい。ドッペルゲンガーは本人と顔を会わした時が死ぬときであるはずだ。
 他に気になることといえば、同じ人間が2人も同じ場所にいたのに、通行人は驚いた様子もなかった。まさか双子だと思ったわけでもないだろうに。
 ただ、自分が最も信用している霊力を持つ薄茶色の片目が、霊や身を隠している魔を映し出さなかったことが全てを物語っているような気がした。
「……まさか、本当に俺自身が。」
 慌てて首を振ったが、悪戯だと決め付けていただけに衝撃は大きかった。
 東鷹栖はふらふらと家まで帰ってきた。結局あの後ドッペルゲンガーに会うこともなく、今に至っている。
 よく考えてみれば、明日が約束の1週間目だ。明日さえ乗り切れば、杏子は自分を諦めるのだろうか。



[299] 知らず知らず。 投稿者:アリス
知らないうちに、誰かに殺してやりたいと思われるほど恨まれているのは怖いものですね……。



 東鷹栖は息苦しさに目が覚めた。胸が圧迫されているようで、息が上手く出来ない。
 はっと目を開けると、東鷹栖に馬乗りになって自分を見下ろしてきている瞳と出会う。
「っ!!」
 相手の顔がにやりと顔が歪み、東鷹栖は咄嗟に首を庇おうとした。時はすでに遅く、相手の手が東鷹栖の首を締め付けてきていた。
「かはっ!」
 相手の指と自分の首の間にかろうじて自分の指を挟み込むことができた。これで少しは時間が稼げるはずだ。
 東鷹栖はぎりぎりと相手に締める力を強められながら、自分に備わるテレパスの力で相手の心にハッキングをかける。
「滅びろ!」
 そう命じると、自分の心臓の方ががきりきりと痛んだ。自分が放った力で、自分の内側から破壊される感触。
「……やはり俺自身なのか……。」
 冷や汗をかきながらも、東鷹栖は攻撃を止めなかった。ここで止めたら相手の思う壺だという意識がかろうじて東鷹栖を繋ぎとめている。
「滅びろ滅びろ滅びろ!」
 首を締め付けてくる手を精一杯押さえながら、東鷹栖は相手を睨みつけた。痛みを感じないらしい死神の顔が、酸欠のため霞んでいく。それでも最後まで目は逸らさなかった。
「滅びろ。闇に帰れ!」
 最後に振り絞った声はもう空気を震わせる力もなかった。



[300] …………。 投稿者:アリス
もう誰もいないのね……。

 「不思議の国」はアリスが一人……。



 次に東鷹栖が目を覚ましたとき、死神の姿はなく、代わりに杏子がいた。驚いて飛び起きると、杏子は興味を失ったようにくるりと背を向けて窓辺の方へと行ってしまう。
「あなたよく耐えたわね。」
 カーテンを開けて、杏子は部屋に光を入れた。そして、また東鷹栖を振り返ってくる。
 東鷹栖は声を出そうとして痛みを訴える咽喉に触れた。近くにある鏡を覗き込むと、くっきりと手の形に跡がついていた。どうやらあれは悪い夢ではなかったようだ。
「あなたは一体何者なんですか?」
「私は鏡。あなたの想いを反射してあなたに返していただけ。」
「鏡……?」
「そう。あなたのもしかして死ぬかもしれないという想いを増幅したの。そんな軽い想いが引き起こした出来事を見れば、本当に恨みを持っている人ではどうなるかが分かるわよね?」
「…………。」
 東鷹栖は決して自分が死ぬなんて思っていなかった。もしかしたら死ぬかもしれないな、くらいは思ったかもしれないが。自分に僅かに負けたその心はもう一人の自分を作り出して、自らを襲ったというのか。
 それならば、本当に死んでしまえと願った心は一体何を生み出すのか、想像もつかない。
「あなたが私を試したように、私もあなたを試していたの。呪い殺せなかったのは残念だったけど。」
 杏子はそれだけ言い置いてベランダへと通じる窓を開けた。カーテンが風で翻り、杏子の姿が一瞬隠れたと思ったあと、その場に彼女の姿はなかった。
 東鷹栖はしばらく呆然と硬直したまま、杏子がいた場所を見つめていた。
 枕元で1週間の終わりを告げる時計のアラームがジリリリリと鳴り出していた。



 「ゴーストネットOFF」で雫は1つの書き込みを見つけた。ハンドルネームははODD EYE HOWKとなっている。

『憎いと思うだけで人を殺すという噂は本当でした。』



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1056 / 東鷹栖・号 / 男 / 27歳 / 情報屋】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、龍牙 凌です。
この度は初仕事を受注いただきまして、本当にありがとうございます。
自分を呪いの対象とされましたので、微かにホラーっぽくしてみました。
如何でしたしょうか? お気に召したら幸いです。
それでは、また機会があったらお目にかかりたいです。