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学園祭は踊る【１日目】
●オープニング【０】
２００２年１１月、今年の天川高校学園祭、そしてエミリア学院文化祭は例年と色々な面で異なっていた。
まず、日程を両校ともに２３日・２４日という同日に持ってきたのだ。普通なら同一地域にある学校の場合、人が分散してしまわないよう日程をずらすものである。けれども今年はそれを行った。何故か？
それにはこのような理由があった。あえて同日に行うことにより、相乗効果を狙おうと。そのために、来場者はもとより両校の生徒にも相互移動を許可したのである。また、両校の交流のあるクラブの一部は、連動して企画を立ち上げたりもしていた。具体例を挙げれば演劇部なんかがそうだ。
この両校の取り組みが成功するか否か、それは２日間の来客数で分かること。例年よりも多ければ、翌年以降も続けられてゆくかもしれない。
ともあれ――２日間楽しんでみますか。
●足止め【２】
「たくよぉ、冗談じゃねぇっつー話だぜ……」
強面の青年が、ぶつくさと文句を言いながら天川高校の中庭を歩いていた。向こうから歩いてくる者たちは青年――征城大悟を見ると、一様に左右に避けている。
「俺はただ遊びに来ただけだっつーの。善良な一般参加者つかまえて、『問題起こさないでくださいね』はねーだろ、たくよぉ」
大悟は正門をくぐってすぐの所で、職員に足止めを喰らっていた。そこで職員から言われたのが今の言葉である。もちろん大悟にそんなつもりはこれっぽっちもない。純粋に学園祭を楽しみに来ただけである。
けれども職員が勘違いするのも無理もない話だった。紫色の坊主頭に額の鋭い剃り込み、さらにサイドの３本ラインの剃り込み。これだけでもあれなのに、鼻・唇・耳の各々にピアスしており、耳にはボルトがピアスされているのだ。強面の顔と相まって、独特のオーラを放っていたのだから。
「あー……何か面白いイベントはねえかなっと」
プログラムを開き、どこで何が行われているか確かめる大悟。真っ先に確かめたのは、本命のイベントが行われる時間だった。
「よし、１４時だな……遅れないようにしねぇとな」
大悟は時刻を確かめた。現在時刻は正午前、まだ本命のイベントまで２時間ほどあった。
「それまではどうすっかな……おっ、これ面白そうじゃねえかっ」
大悟がプログラムに顔を近付けた。そこには『フリースローコンテスト（バスケットボール部／体育館）』という文字が書かれていた。
「よーっし、いっちょスカッとしてくっか！」
ニカッと笑ってさっそく体育館へ向かう大悟。体育館へ向かう道中でも、他の参加者は自然と道を開けてくれていた……。
●記録達成【３Ｂ】
体育館に人だかりが出来ていた。だが騒がしい訳ではなく、人数に反比例するかのように静まり返っていた。
その集まった観客の前には、大悟の姿があった。大悟はバスケットボールを抱え、遠くのリングを睨み付けるように見つめていた。
そして大悟の手からバスケットボールが離れる。バスケットボールは綺麗な弧を描いて飛んでゆき――ダイレクトにリングの中へ吸い込まれていった。
破顔する大悟。それと同時に観客が沸き上がった。
「うおーっ、すげえーっ！」
「２０投連続でフリースロー成功だよっ！」
「どっかの３ｏｎ３の選手じゃねえのっ？」
「顔に似合わず、凄いよほんと！！」
顔に似合わずは余計だと思うが、観客は口々に大悟の偉業を褒めていた。
「おめでとうございますっ！ ２０投連続成功を記念して、駄菓子の詰め合わせをプレゼントしまーす！」
バスケットボール部のユニフォームに身を包んだ少女が、駄菓子のぎっしり詰まった大きな袋を持って来て大悟に手渡した。トラックに積み込めば、移動中でもしばらく楽しめそうな分量である。
「おっ、こんなにもらっていいのか？」
嬉しそうな表情の大悟。十二分に楽しんだ挙句に、賞品までもらっては言うことはなかった。
「ひょっとして、昔選手だったりするんですか？」
他の部員が大悟に尋ねてきた。
「いーや。これも、タマがでかくなっただけだしなぁ」
さらりと答える大悟。部員たちが首を傾げた。きっと『タマ』が何を指しているか分からなかったのだろう。もし『タマ』が『パチンコ玉』だと知ったなら……果たしてどういう顔をするのか、見物である。
●ウェイトレスさんのごった煮【４Ｂ】
フリースローをひとしきり楽しんだ後、大悟はもう１つの本命である場所へ向かっていた。それはコスプレ喫茶だった。
プログラムにはコスプレ喫茶は３ケ所で開かれていると書かれていた。とりあえず大悟は３−Ｈのコスプレ喫茶を選ぶと、まっすぐにそこへ向かっていった。
３−Ｈの前に来ると『ファミレスコスプレ喫茶』という看板が出ていた。どうやらここで間違いないようだ。
（けど、ファミレスコスプレ喫茶って何だ？）
そんな疑問を抱きつつ、教室へ足を踏み入れる大悟。
「いらっしゃいませっ☆」
可愛らしい少女の挨拶が聞こえてきた。そして大悟は、その少女の姿を見て深く納得した。というのも、少女は某パイの美味しいファミレスのウェイトレスの制服に身を包んでいたからである。ちなみに胸強調系の制服だ。
大悟はその少女に案内されて席についた。窓際で、教室内が見まわせるベストポジションであった。
「ビールは……ねぇよな？」
そんなことを言いながらメニューを見る大悟。当然ビールは置いてないので、代わりにコーラを注文してから教室内をじっくりと見回してみた。
ファミレスコスプレ喫茶と銘打ってるだけあって、様々なウェイトレスの制服に身を包んだ少女たちの姿があった。某スパゲティが美味しいファミレスの袴姿の制服やら、某珈琲の美味しい喫茶店のメイド姿の制服などといったように。
（いいなぁ、いいなぁ……うんうん）
大悟は心の中で何度も頷きながら、マイペースで目の保養をしていた。
そのうちに、大悟は微妙な空気が周囲に漂っていることを感じるようになった。周囲の客が、ちらちらとこちらを見ているのだ。
大悟は残っていたコーラを一気に飲み干すと、席から立ち上がった。時刻は１３時半過ぎ、頃合としてはちょうどよい頃でもあった。
「ごちそーさん」
大悟は短く告げると、飄々とファミレスコスプレ喫茶から退散していった。
●待望の……【７Ｃ】
大悟が次に向かったのは講堂だった。先に行われていたバンド演奏が終わり、今は次のイベントの準備が行われている最中だった。
大悟は最前列の席に陣取ると、プログラムを開いて最終確認を行った。
「よーし、いよいよだ……」
大悟は内心わくわくしていた。間もなく１４時から、楽しみにしていた鏡巴トークショーが始まるのだから。これこそが大悟の大本命イベントであった。
開始時刻が近付くにつれ、次第に席が埋まってくる。開始３分前には、ほとんどの席が埋まっていた。それだけ人気があるということだろう。
そして１４時になり、待望のトークショーが始まった。最初に主催である情報研究会の副会長・和泉純が簡単に挨拶をしたその後に、巴の登場となった。
上手から舞台に登場するなり、大きな拍手と歓声に包まれる巴。中には『巴さーん！』とのっけから叫ぶ者たちも居る始末。そこに大悟も含まれていることは言うまでもなかった。
トークショーの前半は、近況報告を兼ねたラジオパーソナリティとしての巴の話であった。
普段の放送をどのように行っているのか、生放送中の失敗談、ラジオパーソナリティを志したきっかけなど、地味だけれども分かりやすく観客に語りかけるように話してくれていた。
「私がパーソナリティを志したのはですね、中学生の頃に聞いたあるラジオ番組がそもそもの始まりだったんです。まだまだその方の足元にも及ばないと思っているんですけれど……」
（ラジオの声もキレーだが、見た目もまさにその通りだな）
大悟は巴の一言一句に耳を傾けながら、浮かれ気分で巴の姿を見つめていた。
後半に入ると、情報研究会の会長で巴の妹でもある鏡綾女が乱入し、普段の巴についての話が繰り広げられていった。例えば巴の意外なドジエピソードや、何気ない姉妹の会話の披露など。けれども決して険悪な空気にならず、穏やかなものだった。
観客席からは何度も笑いが起こる。こういう話が出来るのは、やはり肉親の強みというものだろう。実に充実した内容であった。
しかし充実した内容だからこそ、時間が経つのは早く感じてしまう。瞬く間にトークショーの終了時刻を迎えることとなった。それは約４０分間の夢の時間であった。
巴は最後の挨拶を終えてから、綾女とともに舞台の下手へと消えていった。大悟はそれを見届けてから、すぐさま講堂を飛び出していった。――先回りするために。
●出待ち【８】
階段を駆け降り、講堂の真下へ出てくる大悟。そこには大悟と同様の目的を持つと思われる者が数人ほど居た。いわゆる出待ちという奴だ。
それから待つこと５分、綾女とともに巴が姿を現した。巴に群がろうとする者たち。大悟はすうっと息を吸ってから、巴に大きく声をかけた。
「お疲れさんでした！」
その声に、群がろうとした者たちの動きがぴたっと止まった。一斉に視線がこちらを向く。驚きの視線である。
驚いたのは、巴たちも同様だった。足を止めて、きょとんと大悟の方を見ていた。大悟は素早く巴に駆け寄ると、一気に捲し立てた。
「巴さんのラジオ、しょっちゅう聴いてます！ 握手して下さい！」
右手をすっと出し、真剣な強面で迫る大悟。
「あ……ありがとうございます」
戸惑いを隠そうとしないまま、巴は素直に握手に応じてくれた。柔らかく温かい手だった。
「申し訳ないんスけど、もしよかったらサインいただけないっスか？」
大悟はポケットからサインペンを取り出すと、シャツの前面をぐいと引っ張った。書きやすいように、ピンと生地を張ったのだ。
「サインですね、構いませんよ……ここでいいんですか？ お名前も書いた方がいいんでしょうか？」
いくつか質問を投げかけてくる巴。大悟はその１つ１つに、生真面目に答えていった。
巴がさらさらとペンを走らせる。あっという間に大悟のシャツに巴のサインが描かれた。しかも『大悟さんへ』とも書かれている。
「ありがとうございまっす！！」
終わるや否や、大悟はびしっと頭を下げた。それからその場がちょっとしたサイン会場と化した後、綾女が巴の手を引っ張って去っていった。
目的を最大限に達成した大悟は、至福の表情を浮かべてその場に立ち尽くしていた――。
【学園祭は踊る【１日目】 了】
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【 整理番号 ／ ＰＣ名（読み）
／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業 】
【 ０２４９ ／ 志神・みかね（しがみ・みかね）
／ 女 ／ １５ ／ 学生 】
【 ０３８９ ／ 真名神・慶悟（まながみ・けいご）
／ 男 ／ ２０ ／ 陰陽師 】
【 ０４６１ ／ 宮小路・皇騎（みやこうじ・こうき）
／ 男 ／ ２０ ／ 大学生（財閥御曹司・陰陽師） 】
【 ０６６２ ／ 征城・大悟（まさき・だいご）
／ 男 ／ ２３ ／ 長距離トラック運転手 】
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■ ライター通信 ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてＰＣを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、１から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は（オープニングを除き）全１７場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、学園祭・文化祭の１日目をお届けします。純粋に楽しまれた方も居られれば、裏で色々と調べてみた方も居ることでしょう。もちろん本文に書かれたこと以外でも、進行している物事は存在しています。中にはプレイングの影響を受けて、当初の予定から方向を変えた物事も存在しているようですが。
・本文では特に触れていないんですが、実は執筆前にダイスで天気を決定しました。結果は晴時々くもりで、別段影響はありませんでした。
・学園祭・文化祭はもう１日残っています。２日目が終わると、その次の依頼で遅ればせながら１２月に突入します。年が変わる前に、事態が大きく推移する可能性は十分にありますので。
・あ、今回のアンケートの内容ですが、今後の依頼に関わる予定はないはずですので、あまり気にされなくて結構ですよ。
・征城大悟さん、２度目のご参加ありがとうございます。どのコスプレ喫茶へ向かわれるかが記されていませんでしたので、高原の方でランダムに決めさせていただきました。駄菓子やらサインやらが手に入り、悪くない結果だったのではと思います。特にアイテムとして発行はいたしませんが、巴のサイン入りシャツはどうぞ大事にしてやってください。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。
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