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鍋をしよう 4th ―秋の行楽大作戦!―
●オープニング【0】
『変熊』騒動も無事に解決し、草間武彦たち一行が無事にキャンプ場へやってきたのはちょうど昼前のことだった。
「着いたな……ついに」
大きく溜息を吐く草間。それから皆の方に向き直り、言葉を続けた。
「よーし、ここで鍋をする。分かっているとは思うが……世間一般的に言う、ごく普通の鍋だからな?」
草間の妙な言葉の言い回しに、瀬名雫と草間零が顔を見合わせた。鍋が普通なのは当たり前ではないのか、と。
けれどそれは鍋に秘められた恐怖を知らない者の考え。過去3度、何が起こったのか……草間は黙して語らず。
「ああ、火を熾す必要があるな。確か向こうの管理小屋で炭を用意してくれるらしい。誰か取ってきてくれないか?」
草間が言うように、このキャンプ場には管理小屋が隣接していた。今回は普段と違って野外での鍋なので、まずは火を熾さなければ何も出来ない。従来より手間がかかると言えよう。
「さて……」
ちらりと碇麗香の隣に居た三下忠雄を見る草間。気のせいか、その視線は妙に鋭かった。何となく、考えていることが分かるような気がするんですが……。
何にせよ――鍋だ! 鍋をするのだ!
●新たなる参加者たち【1】
鍋パーティに参加しないという者と別れ、今この場に残ったのは草間、零、雫、麗香、三下の他に8人だった。
順不同で挙げてゆくと、シュライン・エマ、湖影龍之助、小日向星弥、真名神慶悟、巳主神冴那、志神みかね、ベバ・ビューン、エルトゥール・茉莉菜が残りの参加者である。……そこ、小さな声で『犠牲者?』と言わないよーに。
さて、ざっと分担を決めて動き出そうとしたその時だ。自分たちが歩いてきたのとは反対方向から、こちらへ向かって歩いてくる者たちの姿があった。
「あれ? あれって桐伯さんたちじゃあ?」
指差すみかね。やってきたのは、クーラーボックスを携えた九尾桐伯に草壁さくら、それから中華風の衣服に身を包んでリュックを背負っている細身の青年であった。
「いやァ……ほんま、車も速よおすなァ。人の情けが身に染みるとはこのことどすな……」
その青年、李杳翠はしきりに桐伯に礼を言っていた。で……何で京都訛りなんですか?
「おい、ここで何やってるんだ?」
草間がやってきた桐伯たちに声をかけた。自分たちの後ろからやってくるならともかく、全くの反対側からやってきたのが不思議だったのだ。
「何をと言われても……鍋がこちらであると聞きましたから、参加させていただこうかと」
「それはいいが、どうやって来たんだ?」
「愛車のACコブラでほんの近くまで駆けてきましてね。麓の所で、行き先が同じお2人の姿をお見かけしたのでご一緒に、という訳です」
桐伯は草間に一気に説明しながら、手でさくらと杳翠を示した。こくこくと頷く2人。もし出会ってなければ、到着までもう少し時間がかかったかもしれなかった。
「……来る途中で、豆腐屋のパンダ・トレノにバトルを挑まれたのは困りましたが」
「どこ通ったのよ、どこを」
ふと遠い目をして笑みを浮かべた桐伯に対し、麗香が突っ込みを入れた。すると雫がびっくりしたように言った。
「えっ? ここって車じゃ登れなかったはずじゃ? ほらっ、この地図には載ってないし」
がさごそと地図を取り出す雫。
「いえ、載っていますよ?」
さくらも雫の言葉に首を傾げながら、地図を取り出した。
互いに地図を見せ合う雫とさくら。結論から言うと、どちらも同じ出版社の地図だった。しかし決定的に違う部分が1ケ所。
「……97年版ですわね」
茉莉菜がさらりと言い、零の言葉が後に続いた。
「あ、こっちは02年版ってあります」
雫の地図の表紙には『97年版』と、一方さくらの地図の表紙には『02年版』と書かれていたのだ。
「うっそーっ?」
目を丸くして、慌てて地図を見比べる雫。5年もあれば、道路事情など変わって当然だった。
●電波が叫んでいる【2】
「そういえばさくら、誰から聞いたの?」
シュラインが何気にさくらに尋ねる。
「ええ。それでしたら星弥ちゃんに……」
と、さくらが言いかけた所で、突然星弥が叫んだ。
「あーっ! 忘れてたのー!」
そしてすぐにうさぎの形をしたリュックから、ピンク色の携帯電話を取り出してボタンをぽちっと押した。携帯電話には、愛らしい熊やらうさぎやらのチャームがたくさんついていた。
「せーや、おしごとがあったの……」
何やら真剣な表情でつぶやく星弥。一同は不思議そうに星弥の行動を見つめていた。ややあって、携帯電話の向こうから女性の声が漏れ聞こえてきた。
「お声が聞こえてきたの……もしもーし、タマちゃん〜?」
タマちゃんといっても、もちろんどこぞの川に居るアザラシではない。念のため。
「せーやの場所? んっとね……んっとねー……」
きょろきょろと周囲を見回す星弥。それから電話の相手にこう告げた。
「おやまがきれーに見えるとこなの〜☆」
「間違ってはないっスけどねえ、三下さん」
漠然とした星弥の説明に、龍之助がくすりと笑った。すると、だ。
「ここにゃーっ!!」
森の中から絶叫が聞こえてき、弾丸のような速さで女性が1人飛び出してくる。携帯電話を手にした白雪珠緒であった。
「あっ、タマちゃん〜!」
「見付けたにゃ、せ〜にゃ!!」
にこぱーと微笑んで手を振る星弥を、珠緒がびしっと指差していた。
「あの説明でよく分かるもんだな……」
呆れたといった様子で、慶悟がぼそりとつぶやいた。
「せ〜にゃと珠緒姐さんは、見えない電波で繋がってるのにゃ!!」
「のにゃ〜☆」
珠緒が胸を張って威張り、星弥がそれに同調した。
……すみません、電波は洒落になりません。電波は。ついでに、それを言うなら見えない『糸』なのではっ?
●増える参加者たち【3】
「まだ誰か来るのかしら……?」
冴那が森の方をじっと見つめて言った。即座に答えたのは麗香であった。
「まさか。いくら何でも、そうそう来るはずないでしょ」
だが――そのまさかだった。木が1本がさがさっと揺れたかと思うと、木の上から忍者装束に身を包んだ少年がすたっと降り立ったのである。その顔は、下半分が布で覆われていてまだよく分からなかった。
「何やらのロケどすか?」
杳翠がとぼけたことを口にしたかと思うと、龍之助が三下を守るようにして周囲に目をやった。つい先程の『変熊』騒動のことが頭にあったからだろう。
けれども近くにビデオカメラやらロケ隊やらは見当たらない。少年は足早にこちらへ近付いてきたかと思うと、草間に向かっておもむろにこう言い放った。
「草間にシュラインさん……こんな所で何やってんだ?」
そして少年は、顔の下半分を覆っていた布をくいとずらした。顔が露になる。
「守崎……北斗だったか、確か?」
慶悟が見覚えのある顔の少年に声をかけた。だが少年は首を横に振った。
「いや俺は啓斗、兄の方だ。片方だけと知り合いだったら、間違っても仕方ないけどな」
少年、守崎啓斗はそう慶悟に説明した。その後で、シュラインから皆がここに居る理由を説明された。
「こんな所で鍋か? ここ……外だぞ?」
「たまには気分を変えたくてな」
呆れる啓斗に対し、草間がしれっと答えた。
「それより、どうだ。一緒に食べてかないか? ど……こほん、参加者は多いほどいいからな」
「……ちょうど腹減ってたんだ。混ぜてもらうよ。材料調達と調理手伝うから」
こうして啓斗も鍋パーティに参加することとなり、犠牲者……もとい参加者は着々と増えていた。
「あれっ? 何だか揺れてません?」
その時、三下が草間のリュックの異変に気付いた。何故か揺れているのだ。多くの者の視線が、すぐに一斉に1ケ所へ向かった。
そこではベバが、もそもそと別のリュックから抜け出そうとしている所だった。多くの視線に気付いたベバが、首を傾げて言葉を発した。
「えへ?」
ベバは居た。なら、今揺れているのはいったい何なのだろう?
誰もが不思議に思った瞬間、リュックの中からぽんっと何かが飛び出してきた。それは銀色の毛に覆われた、愛くるしい顔の子狐であった。
「! お前……」
草間が急いでリュックへ駆け寄り、尻尾をぱたぱたさせている子狐――こんこんを抱え上げた。
「いったいいつ紛れ込んだんだ?」
すると、こんこんは草間の腕の中からするりと降り、リュックの中に顔を突っ込んでずるずると袋を引っ張り出してきたのである。
その拍子に、袋にくっついていた紙切れがはらりと地面に落ちた。茉莉菜が紙切れを拾い、書かれていた文字を淡々と読み上げた。
「請求書。油揚げ10枚、5000円なり……元祖・菊屋というお店だそうですわ」
茉莉菜はそのままくるっと請求書をひっくり返し、草間に見せた。名前の所にしっかり『草間武彦様』と書かれていた。
「元祖・菊屋の油揚げですかっ!? そこの油揚げはたいそう美味しいと聞いていましたが……これがそうなのですね」
さくらが驚いて言った時、草間も別の意味で驚いていた。
「俺が払うのか!?」
名指しで請求されているのだからそりゃ当然ですとも、ええ。
かくして請求書は草間のポケットへねじ込まれ、ようやく鍋の準備に取りかかることとなったのである。
●鍋奉行誕生!【4C】
「どんとこーい! にゃっ!」
「どんとこーい、にゃ〜☆」
珠緒と星弥が、右手のこぶしを天高く突き上げながらそう叫んでいた。
「……何が『どんとこい』なのかしら」
茉莉菜と秘密の内緒話――いや、本当に誰かさんにとっては秘密にしてほしい内容で――をしていたシュラインが、ふと会話を中断して珠緒と星弥を見つめた。鍋の前だからだろうか、視線は自然と厳しくなってしまっていた。
「『あの』話ではないとは思いますけど……気になりますわね。何せ、噂に聞く鍋の前ですから」
シュラインの警戒感と緊張感を読み取ってしまったせいだろう、茉莉菜も若干不安げな台詞を口にしていた。
「……うふふ、鍋……お鍋……避けられない運命なのね……」
過去3回、鍋パーティに参加していたシュラインが虚ろな目でつぶやいた。
「何だかこれまでの鍋は、聞きしにまさる凄まじさだったようですねえ……」
「ええ、わたくしもそんな噂を聞いてましたわ」
さくらと茉莉菜が口々に言う。するとシュラインが、無言である物を取り出して2人に見せた。胃薬と、何故か保険証だった。草間の分もちゃんとあった。
「シュライン様お気の毒に……」
シュラインの心中を察してむせび泣くさくら。茉莉菜はというと、保険証を目の当たりにして言葉を失っていた。
「準備は万端にしてるから、もういいの。とにかく、死人と山火事にならなければそれで……携帯も通じるみたいだし……」
そう言って遠くを見つめるシュライン。こういう状態を達観の域とでも言うのか。
「分かりました!」
突然、さくらが叫んだ。
「ここはこの鍋奉行、遠山さくらの守に任せていただきましょう。鍋奉行の名にかけて、どんな材料が放り込まれても、どんな見た目になろうとも『食べられる味』にしてみます!」
「さくら……」
シュラインが呆然としてさくらを見た。
「お残しして鍋の平和を乱す者は、市中引き回しの上、打ち首獄門。このさくらさんの桜吹雪、散らせるもんなら散らしてみやがれい!! ですっ」
右手をぐっと握り締め、勢いよく宣言するさくら。あー……ひょっとして、近頃は某『金さん』にはまってたりしますか、さくらさん?
「ありがとうっ!」
ひしっとさくらに抱きつくシュライン。さくらがぽんぽんとシュラインの肩を叩いてあげた。
「……何だか、もの凄く嫌な予感がしますわね……」
溜息を吐く茉莉菜。それはたぶん予感じゃなくて、9割方は現実になるんじゃないかと……茉莉菜さん。
●準備進行中【6A】
「よーし、火が熾ったぞ」
「こっちもだ」
草間と慶悟の声が相次いで聞こえてきた。隣接した2ケ所のかまどで炭が赤々と燃え、炎が強く揺らめいていた。
炭で上手く火を熾すのは意外に難しい作業なのだが、思ってたより短時間で済んだ。順調にいった結果なのかもしれないし、そこに何かが介在していたからかもしれない。まあ、どちらでもいいことだが。
「似合ってるわよ、2人とも」
くすりと笑みを浮かべるシュライン。
「本当に似合ってますわね。……草間さんはあちらの方がお気に入りかもしれませんけれど」
白い飼い猫をバスケットから出して抱えてきた茉莉菜が、シュラインの言葉に同調するようにくすくすと笑った。
「……あなたもそう思うでしょ。ねぇ、シロちゃん?」
「なーお」
茉莉菜の問いかけに、腕の中の白猫が賛成するかのごとく高らかと鳴いた。
「探偵より向いてたりして?」
「おい、それはないだろ」
麗香がからかうように言うと、草間がすぐに抗議の声を上げた。
シュラインや茉莉菜たちが笑みを浮かべてるのには理由があった。その理由は草間や慶悟の腰から下にある物だ。
2人とも、デザインは異なるが前掛けを身に付けていた。草間の方にはご丁寧に『くさま』とひらがなで刺繍まで入っていた。
「少し照れるな……」
作業で汚れるからという理由で渡されたから付けてはみたが、慶悟は若干の気恥ずかしさを感じていた。
「いいじゃないの、せっかく皆の分作ってきてくれたんだから。でしょ?」
「えへ☆」
シュラインに話を振られ、胸を張って威張るベバ。いずれの前掛けも、ベバが作って持ってきた物であった。ちなみに草間と慶悟の他に前掛けを身に付けているのは、シュライン、ベバ、雫、零、みかね、冴那、さくらといった面々だ。ちなみに杳翠は自前のエプロンを持参していた。
「ねえ、そろそろお鍋持ってきてもらえる?」
「あ、はーいっ☆」
麗香の言葉に、雫が元気よく答えた。そして雫と零、みかねとさくらの手によって2つの鉄鍋がかまどへと運ばれてきた。中には水が張られ、だし昆布が数枚浸かっていた。
「大丈夫ですか?」
「うー……大丈夫です、たぶん」
鉄鍋を運んでから心配そうに言うさくら。みかねは頭を手で押さえながら答えた。
「少し休んでたら?」
シュラインがみかねの様子を見兼ねて休息を勧めた。
「……あう、お言葉に甘えます〜」
みかねはそう言って、近くにあった木の長椅子に向かってふらふらと歩いていった。
「大丈夫なのか?」
草間がみかねの後姿に目をやってつぶやく。すると間髪入れずに珠緒が言い放った。
「大丈夫にゃ! あたしが持ってきた物食べたら、一気に元気になるはずにゃっ!」
妙に自信満々な珠緒。草間はそんな珠緒を疑いの目で見ていた。
「その疑いの目は何にゃ?」
「……別に」
「珠緒姐さんを疑うと、罰が当たるにゃ!」
「ほう、どう当たるんだ?」
「それはもう、ばちっとにゃっ!!」
「ああそうかい……」
珠緒の答えを聞いた草間は、一気に脱力してしまった……。
●きのこにまつわるエトセトラ【7A】
何だかなあという空気が漂いかけたその時、草間はずるずると籠を引きずって戻ってきたこんこんの姿を見付けた。籠の中には、様々な種類のきのこが詰まっていた。
「お前、きのこ探してきてたのか? そうかそうか、えらいな」
草間は足元に戻ってきたこんこんの頭を、身を屈めて撫でてあげた。
「きゅぅぅぅ♪」
嬉し気に鳴くこんこん。その様子を間近に見た星弥が、頬をぷぅっと膨らませていた。
「……せーやもきのこさがしてくるもん」
そう言って駆け出そうとしたその時、星弥の襟首を草間がむんずとつかんだ。
「だから探してこなくていいと言ってるだろ?」
「や〜ん! せーやもきのこさがすの〜っ! きのこ、きのこぉ〜!!」
じたばたじたばたじたばた。暴れる星弥だったが、やっぱり逃げることは出来なかった。
「……武彦ぉ〜」
不意に星弥が動きを止め、草間を見た。
「何だ」
「せーや、泣いてもいいぃ〜?」
小首を傾げ、星弥が草間に尋ねた。しかしその答えは極めて単純なる物であった。
「ダメだ」
「やっぱりきのこさがすのぉ〜っ!!」
じたばたじたばたじたばた。先程の繰り返しとなってしまった。
「耐えるのにゃ、せ〜にゃ……」
いつの間にか森まで行っていた珠緒が、木陰から半分だけ顔を出してぼそっとつぶやいた。……誰ですか、あなた?
「これは全部食べることの出来るきのこなんでしょうか? まいたけなどは分かるんですけど」
さくらが誰ともなく尋ねた。万一毒きのこが含まれていたなら大事だ。鍋奉行を宣言したさくらが憂慮するのも当然だった。
「ただいま。……やっぱきのこだよな」
そこに風呂敷包みを手にした啓斗が戻ってきた。風呂敷包みからは、太ネギや青ネギが顔を出していた。
「ちょっと見せてくれないか?」
人を掻き分け、啓斗が籠の前にやってくる。そしておもむろに、きのこの選別を始めた。
「食べられる、食べられない、食べられる、食べられる、食べられない、食べられない、食べられない……」
時間をあまりかけることもなく、手早く選別をしてゆく啓斗。たいした手際であった。
「凄いじゃない」
感嘆したように麗香がつぶやいた。
「これが分からないといざという時に困るからな」
選別の手を止めることなく、啓斗が答えた。
「ただいまーっス。何やってんス?」
今度は、管理小屋に炭を入れたバケツを返しに行っていた龍之助が戻ってきた。
「きのこの選別よ。あ、そうだ。三下く……」
「あっ、忘れてたっス!」
麗香の言葉を遮るように、龍之助が叫んだ。そしてクーラーボックスを取りに行って戻ってくると、中から蟹や牡蠣、それに牛肉の塊を取り出して麗香に見せた。
「これ、華那姉からの差し入れっス! この肉なんかあれっス、松坂牛っスよ!」
『松坂牛』という響きに、感嘆の声があちこちから上がった。
「あらそうなの? ……悪いわねえ」
「華那姉がよろしく伝えてくれって言ってたっス」
「分かったわ。今度奢らないとねえ」
笑みを浮かべながら言う麗香。先程言いかけた言葉など、すっかり頭から消え去っていた。
●追いかけて【8】
「そうそう、もう1つあったっス。誰っスか? 『届いてる物がある』って、管理小屋で渡されたんスけど?」
龍之助が皆に聞こえるように言った後、離れた場所に置かれていた段ボール箱を指差した。気のせいか、がたごとと動いているような。
「……たぶんあたしね」
静かに冴那が答えた。そしてゆっくりと段ボール箱へ向かって歩いてゆく。
「素材は新鮮な物を使い、素材を活かし、狂おしいほどの愛憎を込めて……」
冴那がそこまで口にすると、小声で『愛憎?』という疑問の声がひそひそと聞こえてきた。
「愛情だったかしら……中華街の料理長は仰っていたわ」
なるほど。つまり段ボール箱の中には、『新鮮食材』が入っていると、そういう訳ですね?
冴那は段ボール箱の前に立つと、身を屈めて蓋を開こうと手をかけた。
「……包丁捌きと手順は教わっておいたわ……」
「おい。その中、何が……」
草間が尋ねようとしたのと、冴那が蓋を開いたのはほぼ同時のことだった。途端に、けたたましい鶏の鳴き声が響き渡った。
「コケェーッ!!」
「……に、鶏なのぉっ!?」
雫が驚いたように叫んだ。
「食用蛙は卒業できたから、次は鶏……。ちょっと自信がないけれど……こきっ、とやったらすぐだって料理長は言ってたから、大丈夫……」
表情も変えずに言い放つ冴那。そして腕捲くりをし、中から鶏を取り出そうとしたのだが――。
「あら」
この冴那の短い一言が全てを物語っていた。鶏が飛び出して、逃げ出したのである。
「せ〜にゃ、追いかけるにゃ!」
「タマちゃん、追っかけるの〜っ!」
逃げ出した鶏を追いかける珠緒と星弥。さすがにこれは、草間も止めることはなかった。……単に呆れていただけかもしれないけど。
珠緒と星弥は懸命に鶏を追いかけるが、意外にすばしっこくなかなか捕まえることが出来ない。
「やっぱり『手』作業は苦手ね……私」
ぎこちなく笑いながら、冴那がつぶやいた。けれども捕まえに行く様子は見られない。……放置ですか?
「待つにゃ〜!」
「待つの〜!」
なおも追いかけ続ける珠緒と星弥。逃げ惑っていた鶏はあちこち駆け回った挙句、何と休憩していたみかねの方に向かってきたのである。
「えっ? 何でっ? どうしてっ!?」
パニック状態に陥りながらも、逃げ出すみかね。それを追う――何故か何度もふわりと宙に浮き上がっていた――鶏。さらにそれを追いかける珠緒と星弥。3人と1匹は、ぐるぐるぐると同じ所を回っていた。
慌ててみかねの救出へ向かう慶悟と龍之助。この場が軽いパニック状態となっていた。しかし、その中にあってマイペースな2人が居た。
「桐伯さん、火つけるのお上手どすなァ。お見事の一言どす」
「いや、慣れてますから」
そう言葉を交わす杳翠と桐伯。2人は別のかまどのそばに立っていた。
何をしているかといえば、杳翠の方は鉄瓶で沸かしている烏龍茶の番を。桐伯の方はやかんで湯を沸かしながら、氷の塊をピックで割ってクラッシュアイスを作ったり、酒の準備を行っていた。
「本場モンの烏龍茶は一番どす」
「酒も百薬の長と言って……」
熱心に言葉を交わし続ける杳翠と桐伯。あー……マイペース撤回。どうやら2人とも、自分の世界に熱中・没頭して、周囲の様子に気付いていない模様です……。
そうこうしているうちに、みかねは無事怪我もなく救出され、珠緒と星弥は鶏を追いかけることを諦めた。結果、鶏はしばらく広い大地を駆け回ることとなった。
ちなみに――鉄鍋の方は2つとも、いい具合に沸騰をしていた。
●食べるのだ!【9】
2つの鉄鍋の中で、ごく普通の食材がぐつぐつと煮られていた。見え隠れする蟹や牡蠣がなかなかいい感じで、美味しそうな匂いがこの場に漂っていた。
「いただきまーす!」
一斉に食事の前の挨拶。そして銘々が、取り鉢に食材を取ってゆく。
「そちらはあと少し、ほんの少しだけ待ってください。ああっ、そんなに取り過ぎるとバランスがっ!」
鍋奉行、遠山さくらの守……もとい、さくらが鍋を仕切るべく奮闘していた。傍らにはさくらが揃えることの出来た、調味料や香辛料がぎっしりと並んでいた。さすが鍋奉行と言うべきか。
「酒が必要な方は言ってください。すぐにご用意しますから」
「飲まへん人は、うちに言うてくれはったら、ぬく〜い烏龍茶入れますから、どうぞ遠慮のう言うておくれやす」
桐伯と杳翠が相次いで言った。たちまちあちらこちらから希望する声が上がった。飲み物に関しては、心配は要らないようだ。
「ビールならこっちにもあるぞ」
はふはふと鍋を食べながら言う慶悟。心配要らない所ではない、もう鉄壁の布陣だ。ちなみに慶悟、すでに缶ビールを5本ほど空けていた。
「きゅぅ♪」
草間の左膝の上に陣取ったこんこんは、草間に厚揚げを食べさせてもらいながら喜びの声を上げた。
「あ〜ん、せーやもぉ」
こんこんに対抗するかのように口を開けて待つ星弥。こちらは草間の右膝の上に陣取っていた。
「熱いから気を付けろよ」
そう言って草間が星弥に油揚げを食べさせた。満足げな表情を見せる星弥。しばらくの間、こんこんと星弥の応酬が続き、草間はなかなか鍋を食べることが出来なかった。
「えへ☆」
ベバはもぎゅもぎゅと美味しそうに鍋を食べていた。取り鉢が空いては食べ、食べては空きの繰り返し。
「……負けないわ」
それに対抗するかのように、鍋を食べる冴那。まあ冴那の場合はこれに酒がついてくるのだから、レベルが違うのだが。
「ねえ、そういえば三下く……」
「編集長、どうぞ飲んでくださいっス!」
麗香の言葉を遮って、龍之助が缶ビールを手渡した。
「Rの月は牡蠣が旨いそうっスから、どんどん食べてほしいっス! ほら、こんなにぷりぷりっスよ!」
「そ、そう? そりゃあ食べるけど……」
質問はどこへやら、麗香の興味は牡蠣の方へ移っていた。
「……大丈夫ですか?」
「本当に大丈夫なの?」
零と雫が相次いでみかねに尋ねてきた。ぼーっとしていたみかねは、2人の言葉で我に返った。
「逃げ回ったせいか、少し楽になりました……」
薄く笑うみかね。ショック療法となったのか、先程鶏に追い回されたのがいい方向へ転んでいた。
「それに、ご飯はきちんと食べるように……って言われてるから食べます……」
みかねはそう言って箸を持ち直した。雫と零の顔に、安堵の表情が浮かんだ。
「案外まともなんだな」
鍋を食べながら、啓斗がぼそっとつぶやいた。
「ですわね。噂では、とんでもない物が出ると聞いていましたけど……。意外に普通ですわね」
頷く茉莉菜。啓斗が話を続けた。
「怪奇探偵草間が絡んでいるから、とんでもない鍋になるかと思ってたけれど」
「だからその呼び名は止めろって言ってるんだっ! 俺はそっち方面で売り出す気はないって言ってるだろっ!」
「けど事実にゃ」
「う……」
短くさらりとあっけらかんと言い放った珠緒の一言が、草間の胸を抉るように傷付けた。
「うちに広告出す? 何ならインタビュー記事でもいいけど」
からかうように追い打ちをかける麗香。草間はむすっとして黙り込んだ。
「皆、騙されてるわ……鍋の本当の恐怖はこれからなのに……」
シュラインが、皆に聞こえるか聞こえないかの声でぼそりとつぶやいた。最初の内はいいのだ、怖いのは中盤以降のことだ。
そして、そのシュラインの言葉は後に実証されることとなるのだが――。
●珠緒の乱・ディレクターズカット【10】
「皆さん、喜んでくれはってますなァ……うちの持ってきた薬草も、こないに食べてもろうて。幸せモンですわァ……」
薬草を含めた食材が全体的に順調に減っていた最中、上気した顔で突然杳翠がそんなことを言い出した。視線が杳翠へ集まってくる。
「ああ、人様のお役に立つて素晴らしいコトやわァ……。こうしてお誘いもろて、皆さんと鍋を囲めるようになれるなんて、少し前まではよう考えられへんことでしたわ……」
目に涙を浮かべながら、切々と語る杳翠。視線を向けていた者の多くは、怪訝な表情を浮かべていた。
そして杳翠は、にんじんのたっぷりと入った取り鉢を置いて立ち上がり、明後日の方角を向いて叫び出した。
「うちは頑張ってますえ〜!!」
こだまする杳翠の叫び声。果たして誰に対して叫んでいるのか、激しく疑問であった。
「……酔ってるな」
草間がぼそりとつぶやいて、桐伯を見た。桐伯は首を傾げていた。
「見た所、飲んでいなかったはずですがね」
「あれはどう見たって酔ってるだろ?」
「……鍋にも入れてないんですけどね」
原因不明だった。
「きゅぅぅ……」
不意にこんこんが草間の身体をトントンッと駆け上がり、頭の上に着地した。
「お、おい?」
困惑する草間。するとこんこんは、くるっと身体を丸めて両目を閉じた。お腹一杯になったのだろう、しばし眠るつもりのようだ。
「武彦のお膝はせーやのなのっ」
星弥がもそもそと移動をし、草間の両膝の膝に改めて陣取った。草間はやれやれといった様子で、星弥の頭を撫でてくれた。
「ふっふっふ……そろそろにゃ。そろそろ真打ちの登場にゃっ!」
頃合と見たのか、珠緒が不穏な言葉を口にした。すかさず茉莉菜が珠緒を指差して言った。
「ちょっと。あなた、得体の知れない物を入れようとしていません? ええ、その目を見ればわかりますわっ!」
「得体の知れない物じゃないにゃっ! ちゃんとこの珠緒姐さんが食べられる物にゃ!」
茉莉菜の指摘に反論する珠緒。一見筋の通った反論だが、よくよく考えれば少し妙だ。珠緒が食べられる物が、世間一般で食べることの出来る物とは限らない訳で……。
「そんな物、わたくしが許しませんわっ!」
止めようと試みる茉莉菜。だが実力行使をするには、離れた珠緒の所まで移動しなければならなかった。その間に、珠緒はぽんぽんっと食材を鍋の中へ投げ入れた。
「ふう……任務完了にゃ」
額の汗を拭って、珠緒が自分の取り鉢に視線を落とした。
「にゃっ!?」
驚きの声を上げ、目を真ん丸くする珠緒。何と今入れたはずの食材――マタタビや猫缶の中身、そして何かの干物が自分の取り鉢の中に入っていたのである。
「おかしいにゃ……もう1度入れるにゃ」
再びぽんぽんっと食材を鍋の中へ投げ入れる珠緒。再度視線は取り鉢へ。
「うにゃっ!?」
先程よりも驚きの声は大きくなっていた。またもや食材が戻ってきていたのだ。
「珠緒姐さんに挑戦するとはちょこざいな鍋にゃ……今度こそ入れてみせるにゃっ!!」
3度目の正直とばかりに、食材を入れようとする珠緒。その両手を、移動してきた茉莉菜と指示を受けた龍之助ががしっとつかんだ。
「何するにゃっ! せめて1つ、せめて1つにゃ〜っ!」
忠臣蔵の『松の廊下』を思わせる珠緒の言葉。けれど、だからといって『はい、そうですか』と放す訳がない。珠緒の行動は、こうして阻止されたかに見えた。
しかし、珠緒には最後の手段が残っていた。
「うにゃ〜……せっかくいいお出汁が出るのを入れられないなんてにゃ〜! こうなったら、負けずにいい味の出る、化け猫出汁の出番にゃっ!」
両手をつかまれたまま、またもや不穏なことを言い出す珠緒。もしやとは思うがまさか……?
「珠緒姐さん、出汁になってあげるにゃ〜!」
そのまさかだった。珠緒はどろんと白い猫になると、そのまま勢いよく鉄鍋の中に飛び込んでいったのである!
当然のことながら、悲鳴が上がった。こうして世にも珍しい化け猫鍋の完成――とは、実はならなかった。
「……え?」
麗香が目をぱちくりとさせた。これはどうしたことか、猫となった珠緒の身体は鉄鍋の中に全く入ることもなく、水面より10センチほどの所で浮いていたのである。
「にゃっ?」
驚いたのは珠緒も同様。浮いていることに加え、何だか支えられているような感触を感じていたのだ。
すると突然、鉄鍋と珠緒を包み込むかのように炎が勢いよく立ち上がった。周囲に居た者たちが思わず引いてしまうほどに。
炎は一瞬にして元に戻り、直後珠緒は外にぽんと放り出されてしまった。まるで何かに投げられるがごとく。
着地した珠緒は人間の姿に戻ったが――前髪が少しちりちりっとなってしまっていた。
「焦げたにゃ……」
半べそをかく珠緒。まあ自業自得という気もするのだが……。
「火気が暴挙に怒ったのだろう」
半ば酔いながら、しれっと言い放つ慶悟。この時点で飲んだ缶ビールは、1ダースを突破していた。
「……未遂だったから、とにかく食べよう……」
何かを耐え忍ぶような表情を浮かべ、鍋から具を取る啓斗。さすがは忍者、これしきのことには動揺しないようだ。
(うう……忍びは刃の下に心……耐えろ、辛抱だ。これも修行の一環と思えば……)
――前言撤回。多少は動揺してるみたいです、やっぱり。
啓斗は取り鉢に取った具を口の中へ放り込んだ。ところが。
「うぐっ!」
突然に、啓斗は口元を押さえて呻いたのである。周囲の者たちが騒然となる。
「ま、さ、か……この味は……」
口元を押さえたまま、啓斗は珠緒を睨んだ。
「生クリーム……かっ!」
「入れたにゃ。珠緒姐さんの好物なのにゃ」
珠緒は啓斗の指摘をあっさりと認めた。
「む……無念っ……!」
啓斗はそのまま後ろに卒倒し、気絶してしまった。零が慌ててそばに行って、介抱を始めた。
「何かおかしいのかしら……?」
冴那は同じ鍋から、平然と具を取って食べ続けていた。
「……珠緒さん」
「にゃっ?」
不意に桐伯に呼ばれ、返事する珠緒。すると桐伯は小さなグラスを差し出した。なみなみと酒が注がれていた。
「何も言わず飲んでいただけますか?」
笑みを浮かべる桐伯。珠緒は何の疑いも抱かず、グラスを受け取り一気にそれを飲み干した。
それから3秒後。
「にゃうっ!!」
珠緒は後ろにひっくり返ってしまった。
「あ〜っ、タマちゃ〜ん!!」
星弥が珠緒に呼び掛ける。けれども珠緒はぐるぐると目を回しており、返事を返すことが出来なかった。
「あれは何だ?」
草間が桐伯に尋ねた。恐らくは普通の酒でないはずだ。
「名は『這い寄る混沌』。レシピは、カルーアとスピリタスを」
ちなみにスピリタスは、アルコール度数96のウォッカです。火、つきます。
「……洒落にならないだろ、それは」
呆れる草間。桐伯が不敵な笑みを浮かべた。
「鍋の味を整えましょう!!」
さくらが鍋の状態を回復させるべく奮闘を始めた。そんな鍋奉行の活躍もあって、10分の後には鍋の現状回復も終了していた。
「煮れば消毒できますし! 味も混ざって解りにくくなっていますし!」
さくらが奮闘中、みかねは何故か変なフォローを入れていた。それでもあながち間違っていない所が何とも……。
●ちょっとした異変【11A】
中盤で混乱し、気絶者2名を出しつつも、さくらの仕切りとそれ意外の何かの力の働きで、鍋はほぼ平穏に終わろうとしていた。
「結果的には普通ですわね」
茉莉菜が物足りな気につぶやいた。シュラインがちらっと茉莉菜を見る。
「……え? いえ、別に期待していた訳ではありませんのよ。ふふふ……」
視線に気付き、茉莉菜はそうシュラインに言った。
「そんなことよりも……大方平穏に鍋が食べられたなんて、何て嬉しいことなのかしら……」
ハンカチを取り出し、涙を拭う仕草を見せるシュライン。鍋が普通に終わろうとしていることが、よっぽど嬉しいようだ。
シュラインはハンカチを仕舞うと、小さく欠伸をした。
「安心したせいかしら。少し眠くなったみたい」
苦笑するシュライン。さくらがそんなシュラインに対し、にっこりと微笑んだ。
「眠いよお……」
欠伸がうつったのか、雫が大きな欠伸をしてつぶやいた。見ると、みかねもこっくりこっくりと船を漕いでおり、冴那は箸と取り鉢を持ったまま目を閉じて動かなくなっていた。どうもこのままの体勢で眠ってしまったらしい。
「……確かに眠気がある」
目が少しとろんとした慶悟がぼそりとつぶやいた。この時点で飲んだ缶ビールは20本を突破していた。
「皆、どうしたのかしら? お腹が一杯になったにしては妙だわ。草間、あなたはどう……」
奇妙に思った麗香が草間の方を見ると、草間も何とも眠そうにしていた。
「……悪い、眠気覚ましにその辺歩いてくる。ここでおとなしくしといてくれよ」
頭上のこんこんを降ろし、膝上の星弥も降ろして立ち上がる草間。そして森の方へふらふらと歩き出した。
草間が森へ向かったことに気付いたこんこんが、その後を追おうとしたが、星弥の手が一瞬早かった。こんこんの尻尾をつかんで、阻止したのである。
「おとなしくしてるの〜っ!」
抜け駆けはさせぬとばかり、しっかとこんこんの尻尾をつかんで放さない星弥。
じたばたじたばたじたばた。こんこんは動くことが出来なかった。やがて睨み合いが始まる。ますます動けない。
「ええどすか? うちがこないなるまで、そらしんどいことも仰山あったんどす。あれはそう、雪の吹き荒れる日のことどしたなァ……」
いつしか泥酔状態となっていた杳翠は、桐伯相手に身の上話を始めていた。傍から見てると絡み上戸に見えるのは気のせいだろうか?
「……失礼ですが、何を飲まれたんですか?」
「烏龍茶どす!」
桐伯の問いかけに、杳翠はきっぱりと答えた。烏龍茶では普通酔う者は居ないはずなのだが、はてこれはいったい?
まあ、こんな状況であるのだ。こっそりと誰かが居なくなっていても、別に気付かれたりはしなかった――。
●何てあなたはミステリー【12A】
「草間、どこ行ったのかしらねえ……?」
麗香が森の中を歩いていた。隣にはさくらの姿が。さくらが心配そうにつぶやいた。
「どこに行かれたんでしょう、草間様……」
結局あれから雫とシュラインも眠ってしまったため、茉莉菜と零に皆の介抱役を頼んで、2人で森の中に入ってきたのだ。
ちなみに――こんこんと星弥は互いにデッドロックの状態となって動けず、桐伯は杳翠の相手で動けず、慶悟も泥酔状態の上に眠気があるとのことで動けなくなっていた。珠緒と啓斗はまだ気絶から覚めていないし、みかねと冴那は睡眠状態なので詳しい説明は不要だろう。
やがて、麗香とさくらは草間の姿を見付けた。
「……これはどういうことなのでしょう?」
さくらが麗香に視線を向けた。『説明してください』と言わんばかりに。
「私に聞かれても……ねえ」
麗香もコメントに困っていた。
2人の目の前には、草間がすうすうと寝息を立てて眠っていた。そして草間の右腕の下に、何故か白目を剥いたベバの姿があった。
どうしてこうなっているのか、2人とも説明することが出来なかった……。
【鍋をしよう 4th ―秋の行楽大作戦!― 了】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0033 / エルトゥール・茉莉菜(えるとぅーる・まりな)
/ 女 / 26 / 占い師 】
【 0069 / ベバ・ビューン(べば・びゅーん)
/ 女 / 子供? / 不明 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
/ 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0102 / こんこん・ー(こんこん・ー)
/ 男 / 1 / 九尾の狐(幼体) 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
/ 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0218 / 湖影・龍之助(こかげ・りゅうのすけ)
/ 男 / 17 / 高校生 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
/ 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
/ 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
/ 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0375 / 小日向・星弥(こひなた・せいや)
/ 女 / 6、7? / 確信犯的迷子 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
/ 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
/ 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
/ 男 / 17 / 高校生 】
【 0707 / 李・杳翠(り・ようすい)
/ 男 / 青年? / 夢魔 】
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■ ライター通信 ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全24場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・メリークリスマス! 大変お待たせいたしました、このような時期であるというのに、まだ秋である鍋パーティの模様をお届けいたします。ちなみにこれに続く第3の依頼の宴会は、忘年会・新年会のノリでご参加くださって結構ですので。時期は違いますけど。
・次回の宴会にご参加予定の方は、OMCのコメント欄にはくれぐれもご注意ください。次回も途中参加が可能となっていますが、続けて参加される方にはなるべく配慮を考えています。お話をお届け出来るのは、まず年明けになるかと思いますが。
・今回のお話の説明ですが、物事にはちゃんと理由が存在しています。『どうしてこうなったのだろう』と疑問を感じられた場合は、他の参加者の方の文章に目を通されると納得されることもあるかと思いますよ。
・今回の参加者は14人……高原自己記録更新しました。人数が増えると、どうしてもプレイングがぶつかり合うものですね。
・シュライン・エマさん、36度目のご参加ありがとうございます。奇跡が起こりました。鍋、一応平穏に終わってます。別の意味で泣くことになりましたね、鍋で。何故か眠ってしまいましたが、この理由はきちんとありまして、判定を行った上であのようになりました。
・無事に『東京怪談』も1周年を迎えることが出来ました。本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。
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