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<PCシナリオノベル(シングル)>


閉ざされた学園 絶望を映す鏡

●ネットカフェモナス
 真夜中の都会のネットカフェ。
 店の表のドアには、「CLOSE」の看板が出ている。
 照明も半分落とした、暗い店内の中では、小柄な幼さを表情に残した少女が、熱心にパソコンに向かっていた。
「今夜は冷えますね」
 そっと彼女の背に、ハーフケットをかけながら、メイド服の女性が優しく告げる。
「ありがとう、モナ」
 少女は、僅かに振り向き、再びパソコンに向かった。
 モナと呼ばれた女性は、微笑み返し、再び店の奥へと姿を消す。人間にしか見えない‥‥彼女の正体はアンドロイドだ。他にもう一体、リナというメイドと、人間並のAIを持つ、自動販売機ロボがこの店内には存在する。
「ふう‥‥」
 やがて少女はアクセスの結果、得た情報をディスプレイに並べて、溜息をつく。
 最近よく活用している情報サイトの一つが、「ゴーストネット」というサイトだ。
 そこで最近、頻繁に掲示板にあがる情報の一つに「池袋の占い師」という話があった。
 彼女はそこで、ある少女が、自分の行方不明になった親友のために、同じく占い師を営む少女と共に、池袋へ出かけたことを知っていた。
 けれど、それから数日、まだ彼女の親友は戻らない。

 可能性。
 
 彼女の頭に、その言葉が浮かんだ。

 実は、昨日、彼女−−ササキビ・クミノ。日本人だが、その名を示す漢字は示すことは、事情により出来ない−−は、サイト名と同じく、ゴーストネットと名のついたネットカフェへと足を運んでいた。
 そこで、雪森・李理という少女と、夜藤丸・月姫(やとうまる・つき)という美しい占い師の少女が、話しているのを聞いたのだ。
「私の親友が占い師の元に行ったまま、帰ってこないんです。こんなものを残して」
 泣きそうな声で、李理は、月姫やゴーストネットの管理人、雫に告げた。
 李理の手には、一枚の黒いビラが握られていた。
 そこには、こう書かれていた。
『世界はいつかあなたを殺すだろう‥‥未来を護るために戦おう‥‥虚無の境界』

 (虚無の境界!?)

 クミノは三人の様子を振り返って見つめた。
 虚無の境界が関わっているのか。
 何か嫌な予感がして、彼女は席を立った。あまり関わりたくない連中だった。
 しかし、後になっても、その印象が忘れられない。クミノは、ゴーストネットにアクセスして、彼女達のその後の情報を知ろうとしたのだ。
 残念なことにあまり詳しくはわからなかった。
 だが、李理のその後の書き込みを掲示板に発見した。

 name>リリ子。
meseege>>先日は、お付き合いくださいましてありがとうございました、先生。
  私、池袋に行ってきたんです。‥‥はっきりいって、その内容は今でも思い出したくありません。
  占い師は私に鏡を見せました。
  未来を映すというその鏡を覗いたら、そこにあったのは‥‥世界の滅亡。
  私の家族や親友の百桃が、次々と目の前で死んで‥‥私は取り残されて‥‥
  今でもおぞましく、目に焼きついて離れません。あんなの、未来だなんて、私は絶対に信じない‥‥
  占い師は未来を守るために、自分に協力しろといいました。知らない学校に通えと。
  月姫先生がいなかったら、私、どうなっていたか‥‥。
  百桃は、今日も戻ってきません。
  あの子は、本当に未来を救うために行ってしまったのかな‥‥
  私は、‥‥どうしたらいいんでしょう。百桃を助けたい‥‥

「‥‥」
 クミノは、黙ってその文字を見つめた。
 世界の終りを見せて、少女の心を動揺させ、連れ去る気であったのだろうか。
 池袋では、最近姿を消す学生が多いという情報は、別の口から得ていた。

(近ヅクナ。危険、危険、危険)

 胸の中で、何かが叫ぶ。
 最近、世間を騒がせている連中−−世間とはいっても、裏世間の方だが−−、IO2と虚無の境界。
 虚無の境界という狂信的なテロ組織と、それを阻もうとする、国際的な秘密組織International OccultCriminal Investigator Organization(IO2)。
 けして表には出ないが、東京のどこかで、この二つの組織はそれぞれに力を凌ぎあい、時には衝突して破壊を生んでいる。
 どちらかというと、IO2なら、まだ良かったのに。
 クミノは苦笑した。
 彼女には裏の顔がある。否、裏の顔が多すぎる。
 まだクミノは13歳の幼い少女だ。だが、幼いというのは何をさしてそう言うのか。
 彼女を庇護するべき両親は、とある巨大企業に拉致されている。彼女の能力を我が物にするための、人質として、捕らえられているのだ。
 そして、それは、もう数年も前のこと。
 彼女がその企業に雇われた企業傭兵として、殺してきた人の数、破壊の限りを尽くしていたその時間は、いつから始まっていたのか、もう思い出せないほどだ。
 ましてや、それ以前に、両親と共に過ごした幸せな子供時代があったのかどうか、‥‥そんなことは‥‥考えたことすらない。

 Pi!
 
 新着メールを知らせる、機械的な音が響く。
 クミノは小さな吐息をつくと、そのメールを開いた。
 それは、彼女へある情報をもたらすものだった。
「‥‥!」
 クミノはその内容を読み、息を飲んだ。
 それは、IO2に所属する者からの情報だった。
『虚無の境界は、潜在的能力を持つ青少年を集めて、洗脳戦闘集団を作り上げているらしい。ベイビー、君も気をつけな』
 クミノはそれを見て、苦笑する。
 何故、クミノが虚無の境界に興味を持ったことを、彼は知ったのか。
 IO2は彼女の味方ではない。敵対はしてないが、敵ではあるだろう。
 超常能力者が民間に影響を及ぼすことを、防ぐ目的で作られたのが、IO2であるのだから。
 彼は、彼女を監視している任務にあるのか。
 真意は分からないが、この情報は、役に立つ。
 クミノは、苦笑しつつ、感謝した。

■池袋
 翌日、彼女は池袋にいた。
 未来を見せる占い師とやらに会うためである。
(標的にされるわけにはいかない)
 クミノは自分に言い聞かせるように、心で呟いた。
 彼女のその秘めた恐るべき能力のために、彼女の両親は捕らえられた。
 クミノを利用しようと、虚無の境界が考え、そして再び両親を利用しようなどとしたら?
 嫌な想像ばかり、働いてしまっていた。
 それを阻止するためには、ただひとつ。
(虚無の境界の活性化を防ぐ‥‥)
 潜在能力を秘めた青少年の洗脳戦闘集団を作り出す、その入り口になっている占い師に会い、そこまでの糸口を掴むのだ。
 池袋サンシャインシティの中を歩き、占いコーナーへと歩く。
 噂によると、鏡を使う占い師は、週に数日、決まった時間もなく、突然現れて店を開くという。
 そして、店が開くとたちまち長蛇の列になるというのだ。
「‥‥いないな」
 コーナーには、たくさんの占い師がそれぞれに店を開いている。
 黒い幕に区切られたいくつかの部屋があり、看板がそれぞれに出ているのだが、その中に鏡を使う占い師は無かった。
 クミノは下唇を噛んだ。
 その時。
 彼女の肩に、誰かがとん、と手を乗せた。
「私に御用でも? お嬢さん」
 振り返ると、そこには金髪碧眼の美しい青年が黒い衣装を身につけ立ち、微笑んでいた。
「‥‥鏡の占い師か?」
「ええ」
 占い師は、邪気なく微笑む。
「今から店を開くところだったのです、あなたは特別、最初に占ってあげましょう。並ぶと厄介ですからね」
「‥‥それは、どうも」
 クミノは微笑を作り、占い師に返した。

■鏡の中の未来
 黒い幕の向こうは、3畳程の広さがあった。
 その奥に白いテーブルがあり、占い師はそこに腰かけ、丸い鏡を取り出すとテーブルの前に置いた。
「この鏡をよく覗いてみてください。きっとあなたの未来が見えます」
 微笑ながら、占い師は鏡をクミノの前に向けた。
 クミノは鏡に視線を向けずに、占い師を見つめた。
「私は、予言は信じない」
「ほう」
「見ても、それ以外の未来を探す」
「同感ですね」
 占い師は微笑んだ。
「私も、未来の運命を認めたくはないのです」
 そして、再び、クミノの視線に鏡を運んだ。クミノは渋々、その中を覗き見る。

 そこは、闇だった。
 だんだん目が慣れてきて、視界がはっきりしてくる。
 彼女は、両親と共にいた。
 背後に両親を庇い、敵から身を守るために戦う決意をしているところだった。
 仲間は既にみんな敵だった。否、仲間なんて元からいない。それは、彼女を今まで利用してきた組織の顔見知りといったところか。
 両親を棄てて逃げるわけにもいかず、絶体絶命といったところかもしれない。
 けれど、何故か、心は満ちていた。
 大切なものが、身近にある。この人達を守る。そのために死ぬかもしれないが、これで、全てが終わるのかもしれない。
 それも、また、よし‥‥。
 そう思って、彼女は最後の攻撃をかけようとした。
 背後の人を巻き込まない手段で。
 その瞬間‥‥。
 目の前が真っ白になった。

 何が起きた?
 一瞬わからなかった。
 熱風が彼女の体を包んだ。
 痛みが頬を横切っていく。光がまばゆくて、瞼が開けられない。
 
 やがて、目が慣れてきて、ようやくクミノは瞼を開いた。
 そこは、廃墟の中だった。
 何故か彼女だけ助かった。
 辺りには、死体が転がっている。何かわからない大きな爆発と爆風。それに建物の破片が礫のように人々の上に、降り注いだのだ。
 頬の痛みは、鮮血を垂らし、頬をつたい地面に雫として落ちる。
「‥‥!」
 はっとして、クミノははっとして、背後を振り返った。
 そこには彼女の両親が折り重なるようにして、大きな破片の下敷きになって死んでいた。
 父は、母を守るようにして抱きしめている。けれど、その瞼は開かれ、どこか遠くをむいていた。
「‥‥あ、‥あ、‥ああ」
 クミノの口から呻き声が漏れた。
 その場所で生き残っているのは彼女だけだった。 
 恐ろしい程の喪失感が胸に穴を開ける。
 だが、叫んでも、ひゅうひゅうという風の音しか聞こえない。

 やがて、静寂を裂くようにして、携帯が音をたてた。
 慌ててそれを手にする。それは、メールの着信を知らせるものだった。
 震える手で、クミノはそのメールを表示する。
『せかいのおわり』
 メールには、ただ、それだけの文字が書かれていた。


「いかがでしたか?」
 ふと、気付くと目の前には、金髪碧眼の占い師が微笑んでいた。
 クミノは占い師を見つめ返す。 
「いかが‥‥って」
「今のが、未来です」
 占い師はテーブルの上で指を組み、息をついた。
「あなたも見ましたでしょう? 世界の終り。 人間は愚かです。今、気付かせてやらなければ、過ちを犯し続けます。自らの手で、自らの国を滅ぼしあうのも時間の問題‥‥」
「‥‥」
 占い師は答えないクミノの表情を、伺うように、視線をおろす。
 クミノは占い師を睨みつけた。
「信じない」
 クミノは椅子から立ち上がった。
「ええ、あなたならそういうと思いました。あなたは力を持っていて、その使い方も知っている。だから、この未来にしないために、一つだけ方法があるのです」
 何をこの占い師が次に告げるかを、クミノは察知した。
(どうか、私たちに力を貸してください。虚無の境界に所属して‥‥)
 クミノは、首を横に振り、彼に向けて両手を伸ばした。
 彼女を中心に、目に見えない壁が広がる。
 占い師は、それには気付かず、彼女を不思議そうに見つめ続けていた。
「‥‥協力はできない。未来は、自分で変えてみせる。‥‥」
 クミノは呟き、瞼を閉じた。
 彼女の両手の間に、小型拳銃が現れた。
 占い師の表情がみるみる変わった。
「な、何を‥‥」
「‥‥消えて」
 ご丁寧に消音装置までついていた、拳銃のトリガーが引かれる。
 おしゃべりな占い師は、ようやく静かになった。
 クミノは吐息をつくと、テーブルの上の鏡を手に、静かに去っていった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 1166  ササキビ・クミノ 女性 13 殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。
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■         ライター通信          ■
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 初めまして。鈴猫(すずにゃ)と申します。
 大変お待たせいたしました。
 ■閉ざされた学園1 絶望を映す鏡■ をお届けいたします。
 
 どなたかが鏡に出かけた後ほどのストーリーということでしたので、こういう展開になりましたがいかがだったでしょうか?
 クミノさんの、とても悲しい境遇を拝見し、胸が詰まるような思いになりました。
 ネットカフェのアンドロイドさん達のことも、とても興味があります。
 どのような性格の方達なのでしょう。またの機会にでも教えていただけたら、幸いです。

 私が感じたクミノさんのイメージでどんどん膨らませてしまって、色々と書いてしまいまいましたが、もし内容にこれは絶対に違う!などというようなことがあったら、テラコン等ででもお知らせくださいませ。
 また別の依頼でお会いできることを、楽しみにしております。本当にありがとうございました。

                                鈴猫 拝