コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<PCシナリオノベル(シングル)>


真夜中の迷子

**


今はもう何時だろう?
リーアライズは公園のジャングルジムの上に座り、空を見上げた。
空には何時の間にかまあるく輝く月が昇っていた。
それをボンヤリと眺めて、彼は小さく溜息を吐いた・・・


**



髪を朱色の組紐で結上げ薄い水色の水干を着た、一見少年風貌の
少女、夜藤丸月姫は月明りの下を公園へと向かって歩いていた。
その公園は、国道から少し離れた住宅街の一角に位置している。
彼女がその公園を見つけたのは数日前、学校からの帰宅途中だっ
た。周囲を木々でぐるりと囲んだ、それはとてもシンプルな公園
だった。しかし、その公園は何処か不思議な形をしていた。
まあるい敷地内に転々と遊具が並び、その公園の中央にポツンと
ジャングルジムが建っていた。
それはまるで立体的な『魔方陣』の様で・・・。
彼女は、中学生でありながらもその傍ら、実は学校に内緒で占い
の仕事を行っている。『占い』という天性の才をより高めそして
精神集中をより高める為に、時々『月光浴』為る事を行っている。
『気』の流れが集中する場所で『月光浴』をする事で、より強く
己の力を引き出し、高められるのではないかと彼女は考えた。
公園の入り口に立ち止まり、空を見上げれば今宵は満月。
彼女は逸る気持ちを抑えつつ、公園へと足を踏み入れた。



**



誰もいない真夜中の公園。
昼間はあんなに明るい公園も、こうして夜訪れるとなんだか寂し
げで何だか物悲しい。
外灯の少ない公園内を月明りを頼りに目的のジャングルジムへと
向かう彼女の瞳に、月光に映しだされた人影が浮かび上がった。
ジャングルジムの一番上にちょこんと座って、まあるい月をボン
ヤリと仰ぎ見ている小柄な少年が一人。

「先客がいらっしゃいましたか・・・」

少しガッカリして月姫はその少年の方へと近づいて行くと、不意
に少年が視線を下ろし流れるように振り向いた。
月姫の姿を見つけ一瞬驚いた顔をした少年は、次の瞬間にはニッ
コリとその顔に笑みを浮かべた。
そして至極軽やかに、まるで引力を感じさせない程の軽やかさで
ジャングルジムから飛び降り月姫の前へとやって来た。
小柄な少年である事は遠目からでも感じていたが、近づいて来た
少年を見て思った以上に幼い面持ちである事に少し驚いた。小柄
な彼女自身と視線の高さがあまり変わらなかった。

「よかったぁ〜!俺、助かったよ!」

そう言って少年は人懐っこい笑顔を月姫に向けた。
その言葉に怪訝な顔をしていると、その少年は続けてこう言った。

「俺さ、なんか迷子になってさ〜」

照れ臭そうに鼻をかきながら笑う少年に、月姫は一瞬の間を空け
て言葉を発した。

「迷子・・・ですか?」

こんな夜中に?そんな疑問符が頭に浮かぶ。

「うん。俺、迷子。悪ぃけど、助けてくれない?」

同業者、もしくは同じ『月光浴』目的の人物かと思った少年は、
意外にも『迷子』であった。
月姫は驚きつつも、この不思議な少年を助ける事にした。

「わたくしは『占い師・月読丸』こと、夜藤丸月姫と申します。
わたくしで宜しければ、お手伝い致しましょう。」

「ホント!?ありがとー月姫!」

ニッコリと嬉しそうに笑う少年につられる様に、月姫の口元に
笑みが浮かんでいた。

「あ、俺の名前、リーアライズってゆーんだ!よろしくな!」



**


取りあえず、リーアライズの話を聞く事からはじめる事に。

「基本的な事なのですが・・・住所はお分かりですか?」

「・・・んーっとね・・・」

う〜〜〜〜ん、と唸った後

「わかんない。あ、でも俺ん家ね、いっぱい部屋があった。」

「まぁお金持ちなんですね?!」

「大っきくて、高くて、それでぇ白いの!そこの一番上に住ん
でるだ!でね、窓から『とうきょうたわー』ってゆー三角な家
が見えるんだよ!あーそー言えば隣の家も同じ大きさで同じ形
してたっけ?」

リーアライズの答に半ば諦めながらも、月姫はうーんと考えた。
そしてふと思いついた。

「それではわたくしのこの簪にしております『小柄』で家を透
視致しましょう。」

「え?マジ?そんな事できるの?月姫ってスゲェ〜!」

感心している少年を目の前に立たせ『小柄』をスッと翳した。
月光が簪に反射してキラキラして二人を淡く照らした。
リーアライズはジイッと月姫と『小柄』を交互に見つめていた
が、長い沈黙に耐え切れなくなって月姫に声をかけた。

「・・・・・・ね。わかった?」

「・・・・・・」

月姫はふぅと息を吐くと『小柄』から視線を上げリーアライズ
を見つめた。

「・・・こんなに何も『みえない』なんて・・・」

「ダメだったの?」

「すみません・・・見えませんでした。」

「・・・そっか。」

間の持たない微妙な沈黙の後、リーアライズはポンと手を叩い
た。

「お腹減ってない?」

「え?」

唐突な質問に月姫は少年の顔を凝視した。

「ね、お腹減ってない?」

「・・・え、えぇ多少は・・・でもどう」

最後まで言い終わらないうちに月姫は少年に手を引かれ、公園
の外へと出ていた。リーアライズはくんくんと鼻を動かし、ど
んどん先へと歩いていく。手を引かれながら月姫は不思議そう
に少年を見つめた。

「あの・・・どこへ・・・」

「あ〜〜〜っつた!あった!お店〜♪」

そう言って指差した先には煌々と夜道に浮びあがったコンビニ
があった。月姫は思わずリーアライズへと向き直った。

「どうしてここにコレがあると解ったのですか?」

迷子で公園から動けなかった少年なのに、どうして?
そんな疑問が月姫の頭に浮かんだ。しかし少年はニッコリと笑
ってこう言った。

「だって『食物』のニオイがしたしぃ〜?」

「は?」

「あ、俺ね肉まんが喰いた〜い!」

「え?あの、ちょっと。」

「あとねー・・・ピザまんとぉ〜アンマンとぉ〜あ、カレーまん
あるじゃん!」

「す、すみません。」

「え?」

キラキラとした瞳で振り向かれ、月姫は一瞬怯む。

「・・・2個までにお願いします。」

「は〜い♪」

少年の明るい声に小さく溜息を吐く月姫だった。



**



それから二人はコンビニ前に設置されているベンチに座り買っ
たばかりの肉まんを仲良く頬張っていた。月姫は隣で嬉しそう
に肉まんを食べる少年を見詰つつ、ふと夜空を見上げた。
高く建ち並ぶマンションの隙間から明るい月が覗いていた。

「わたくし・・・『月光浴』の予定でしたのに・・・これも『定め』
なのでしょうか。」

「ふへ?ひゃにが?」

小さな独り言に少年が食べながら小首を傾げた。

「いいえ何でも有りません。それよりも、こんな所でのんびり
と肉まんを食べていて良いのですか?ご家族の方が心配してい
るかもしれませんよ?」

そう言った途端、少年の顔からすぅと笑顔が消え、ちょっと拗
ねた様な顔になった。

「・・・心配してないよ。」

「もしかして・・・本当は『迷子』では無く『家出』ですか?」

「・・・違うもん。ただケンカして、ムカついて、家から飛び出
したら・・・何処居るのか解んなくなっちゃっただけだもん。」

これって迷子だろ?そう問う少年に月姫は苦笑を浮かべた。そ
して、先程『小柄』で透視出来なかった理由も何と無く解った
気がした。家に帰りたい、帰りたくない、その反転する気持ち
が有ったから見えなかったのかもしれないと。
合点がいった月姫は更に詳しい話を聞こうとした、その時。

スパーンッッ

小気味イイ音と共に怒鳴り声が降って来て目の前をみると・・・

「てめぇいい加減にしろっ!」

少年の頭を思いっきり叩き倒す青年が額に血管を浮かせながら
立っていた。

「痛ぇ!何スンだよ!」

涙目でギロリとその青年を睨みつけて立ち上った少年を、その
青年はもう一度スパーンと叩いた。

「今何時だと思ってやがる!フラフラしてんじゃねぇ!」

言葉自体は悪いが心配して捜しに来たらしい事がわかる。そし
て恐らくこの青年が少年の『家族』なのだろうと思った。
そして、目の前で繰り広げられているケンカ(痴話喧嘩に見え
なくも無い)の内容を察するに、家を飛び出したリーアライズ
が走り回っていたら何時の間にか元の位置に戻ってきていて、
マンション裏手の公園にいたらしい・・・と言うトコロだろうか?
未だに揉めている二人に仲裁に入ろうかと思った瞬間、突然に
青年がこちらを振り返った。

「お前がコイツの面倒見てくれたのか?」

「え、あ、いえ。」

「このバカが世話になったな。」

青年はそれだけ言うと再び少年へと向き直りもう一度頭を思い
切り叩いてから、まだ何か言っている少年の襟首を掴んで強引
に歩き出した。
呆気に取られてそれを見ていた月姫は、何かを思い出した様に
二人を呼び止めた。

「あの、お待ちください。」

その声に青年は立ち止まって振り返った。リーアライズも同様
に振り向き月姫と顔を合わせた。
月姫は自分の左手首、朱色の組紐になったブレスレットを外し
翡翠のプレート部分裏に何かを書き込んだ。
そしてそれをリーアライズの左手に巻きつけた。

「迷子にならない為のお守りです。」

少年は最初キョトンとした顔をしていたが、次の瞬間には嬉し
そうに笑って「ありがとう」と笑顔を見せた。
その様子を黙って見ていた青年は、再び無言で彼の襟首を掴む
と、やはり引きずる様に歩いて行った。

「コレ、ありがと〜!またな〜月姫〜!」

引き摺られつつも笑顔で手を振る少年に、月姫は手を振り返し
ながら小さく解らない様に溜息を吐いた。

「何故だかまた何処かでお会いする様な『予感』がしますね…」

月姫は明るく輝く月を見上げ苦笑し、そうポツリと呟いた。