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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ちかんオバケふぁいなる!? ちかん戦隊ファイブを倒せ!

「クリスマスね」
「クリスマスだな」
「クリスマスなんだわねー」
「クリスマスざます」
「はぁ‥‥」
 居並ぶ日本色魔連合メンバーの幹部達に囲まれて、ちかんオバケ三森裕介は、バツが悪そうに身を狭くしている。
 それもそうである。
 前回、三森裕介は、彼の名誉のためにと立ち上がってくれた墨田支部理事たけもとが、敵に捕らえられたのにも関わらず、助けられて逃げてきてしまったというのだ。
「全く、色情の為なら命もいとわぬ、それが日本色魔連合のポリシーぞ」
 江東支部理事やなぎはらが、茶をすすりながら呟く。
「ひどい目にあったわよー。もう一度死んじゃうかと思ったわぁ〜」
 たけもとがやなぎはらに泣きつくように言う。さすがに、そんじょそこらの色情霊ではない。まだ滅びていなかったようだ。
「もう一度、復讐戦を挑むざます!」
 港区支部理事かなもりが三角眼鏡を指で押さえながら、天井に向かって叫んだ。
「復讐戦か‥‥いいねぇ」
 クールな雰囲気を醸しだしつつ、新宿支部理事まつやまが煙草をふかす。
「クリスマスも近いしね」
 たけもとは腕を組んで、カレンダーをびしっと指差した。
「私達全員の趣味をかなえるためには、老若男女、みんなが集まる場所がいいわ! 狙いは定めたわよ! 某巨大遊園地のクリスマスパレードよ!!」
 おおお、と皆の歓声が上がる。
「さてと、じゃ、ゴーストネットに挑戦状書き込んでくるわね〜♪」
「‥‥あああ、たけもとさん、あまり早まっては‥‥また酷い目にあいますよぉ」
 三森は膝を抱えて、泣き顔になっていく。
 しかし、その三森を構ってやるものはなく、皆、それぞれの妄想に夢中になっているようだ。

●デザートアイランド
 デザートアイランド。
 千葉県裏屋巣にある広大なテーマパークである。
 遊園地業界として、その規模や収益、集客数も他を引き離している。
 その遊園地で開かれるクリスマスパーティを、楽しみに、続々と駅から流れてくる人ゴミの中にその三人はいた。
「わぁ、やっぱりすごい人ねー。今からドキドキしてきちゃったぁ」
 ロングコートの裾をふわりと揺らし、子供のような無邪気な笑顔を浮かべながら、後を行く二人に微笑むのは夜藤丸・絢霞(やとうまる・あやか)。
 22歳の市役所で勤める女性だ。人なつこい笑顔と小柄で可愛らしい雰囲気は、年齢よりもやや若く見えるだろう。
「ねね、見て。あんなに大きなクリスマスツリー! 雑誌では見たことあったけど、本物は初めてみたわー。素敵ねぇっ」
「‥‥全く」
 一人で大騒ぎしている姉を見つめ、気付かれぬように小さく息をつき、夜藤丸・星威(やとうまる・せい)は隣を行く夜藤丸・月姫(やとうまる・つき)に苦笑してみせた。
 星威は、背の高い優しげなマスクの青年である。皮のジャンバーに身を包み、片手はそっと、その隣を行く少女を守るように背中に伸ばされていた。
「姉上は何を考えてるんだか。こんな人ごみに月姫様を連れ出すなんて」
「‥‥いいえ」
 月姫はゆっくりと微笑んだ。
 ゆったりとした髪を、お姫さまのように和紙で包んだ、どこかふんわりとした美しい少女だ。
 又の名を「月読丸」といい、少年と称して雑誌などに占いを載せている、世間では名の知れた占い師でもある。
「絢霞様の楽しそうなお顔を見ているのも楽しいですし、良い息抜きになります」
「そうですか」
 星威は目を細めた。
「最近、お仕事が続いてましたからね」
「ええ。でも‥‥」
「でも?」
 月姫は少し憂うような表情を見せ、しかし振り切るように微笑んだ。
「いいえ、何でもないと思いますわ」
「‥‥そう、ですか?」
 星威は月姫を見下ろし、見つめ返す。月姫はその星威を見つめ返し、もう一度、にっこりと笑い返した。
「もー、何してるの、二人とも。早く、早くー」
 振り返って手を振る絢霞の声に、二人は先を急いだ。
 華やかな音楽が、三人を手招くように、どんどん大きくなっていく。
 人々の楽しげな声が、いやがおうにも、祭りの夜ということを思い知らせてくれた。

●ちかんオバケ対策委員会
「まったく困った連中よねー。ええ、うんうん、そんな感じよ、私も」
 携帯電話を片手に、賑わうデザートアイランドの中にあるカフェテリアのテーブルでは、シュライン・エマが紅茶を楽しんでいた。
 すらりとしたスタイルの良い、彫りの深い印象的な美人である。
 彼女の電話の相手は、ゴーストネットの管理人・雫だ。
「ぁあははは、私も見なかったことにしたい‥‥。・・・・ま、あね、でも、何とかなるでしょ。騒ぎになる前に捕獲したいところなんだけど、‥・・あっ」
 彼女の視線に、金髪に髪を染めた少し派手な印象の青年が入った。
 電話を切り、シュラインは彼に頬笑む。
「こんにちわ。・・・・顔が引きつってるわよ、真名神さん」
「はは・・・・」
 真名神・慶悟(まながみ・けいご)。若き才能ある陰陽師。度重なるちかんオバケの襲来に、さんざん付き合わされてきた仲間でもある。
「誰と話してた?」
 彼はカウンターからブラックコーヒーを受け取ると、席に腰掛け、軽く微笑む。
「雫ちゃん。こっちに来る予定だったみたいだけど、断念したみたい」
「正解だろう」
 ずず、と慶悟はコーヒーをすする。
「ヤングなギャルに、小学生男子、青年、人妻、色っぽい女の子・・・・だったか? 目標にされてはかなわないしな」
「私は、どの目標にもならないから平気だけど」
「ん?」
 自信げに微笑むシュラインに、ちらりと慶悟はコーヒーカップをくわえつつ、上向きな視線を向ける。
「さあ、それはどうかな。・・・・人妻あたり、危ないかも・・・・」
「何か言ったかしら?」
「ん、・・・・」
 慶悟はずずと、コーヒーをさらに口にして、黙りこむ。
 シュラインは肩をすくめて、小さく息をついた。

●刺客?
 (今度こそは、やめさせなければなりませんわ・・・・。もうこんなことは繰り返してはいけませんの)
 デザートアイランドの出入り口に、一台の白いベンツが滑り込む。
 その中から、鮮やかなブルーのドレスに身を包み現れたのは、ブロンドの美しい長い髪の少女だった。続けて、お供のメイド姿の少女も現れる。
「ファルファさん、参りましょう」
 決意を胸に、真剣な表情で、ファルナ・新宮(−・しんぐう)は呟く。ファルファも微かに頷いた・・・・気がした。
 二人は切符を求め、アイランドの中に入っていく。
 目的の彼がどこにいるのかはまだ検討もつかなかった。
 しかし、きっと会える。
 その直感は彼女の胸にしっかりとあった。

●接触
 場内の地図を片手に、絢霞は楽しそうに場内の風景を見回している。
「スーパーイカヅチとマウンテンツアーは欠かせないでしょ。まずは、あっちのサイドから行ってみましょうか?」
「ええ、それは姉上に任せます」
「はーい、それじゃこっちー」
 意気揚々と歩き出す絢霞。その後に続いて月姫と星威は、仲良く並んで歩いていく。
 賑やかな人波の中、その誰もが皆楽しそうに微笑んでいる。
 月姫はそっと目を細めた。
(夢を与える街なのですね、ここは)
 その時。
 彼女達一行を空から見つめる集団があることに、三人はまだ気付いていない。

『む・・・・あの子なかなかいい線いってるざます』
 三角眼鏡をかけ直し、かなもりはキラリと視線を光らせる。そこはデザートアイランドの真上。地上から20メートル程の場所だ。
『どれ? ・・・・あー、なるほどね、かなもりちゃん好みだねぇ〜。ってその隣にいる女の子の方が、俺には胸キュン!ものだけどな』
『女の子には興味ないざます』
『まあ、そっか』
 やなぎはらは笑い、『んじゃ、早速。二人で行きますか?』とニヤリと笑った。やなぎはらも、眼鏡をキランと光らせて、『ざますわね』と頷く。
 二人のオバケは不敵な笑いを浮かべると、地上に向かって急降下していった。

「あれ、かな」
 茶色の肌をむき出しにした岩山を急降下で滑り落ちるコースター。
 乗った人々の悲鳴を聞きつけ、星威は小さく呟く。絢霞は相変わらず、少し先の方を歩いていて、今は途中の屋台に近づき何かを注文しているようだ。
「怖いかもしれませんよ?」
 おどけたように月姫に言うと、月姫はくすりと柔らかく微笑む。
 星威は小さく頷き、また前を向いたその瞬間。
 邪悪な気配を感じ、彼の目は見開かれた。
「月姫様!」
 彼女を抱きしめ、彼は地面を強く蹴り、高く飛び上がる。
 ガンガン、と地面に激突する見えない何かの衝撃音。
 意識を集中すればその姿は、次第に見えてきた。
『いったぁぁぁ〜』
 三角眼鏡のOL風の制服を着た女が、地面に手をつき、頭を押さえていた。彼女はしばらく蹲っていたが、地面に降りた星威の方向をぎろりと睨みつけた。
『我々の存在に気付くとは、なかなかざますわね』
「お前たちは何者だ?」
 感じるのは、ただ邪悪な気配。その体中から放つ煩悩のパワーに眩暈がしそうだ。
『ふふふ、何者と問われて、答えないわけがないざます』
 女は立ち上がり、腰に手を当てた。刹那。
「きゃっ!!」
 星威の腕に抱かれた月姫が小さく悲鳴をたてた。
「月姫様?」
『むふ♪』
 星威の背後に、黒いマントを羽織った吸血鬼のような扮装をした男が立っている。
「何!?」
 背後をとられるなんて。
 星威は月姫を抱いたまま、体の向きを変え、構えをつくった。
「月姫様、大丈夫ですか!?」
「は、はい・・・・た、ただ、ちょっと」
「ちょっと?」
「・・・・触られただけですわ・・・・」
 頬を染め、小さく俯く月姫。
 星威の何かが、その時切れた。

●パレード準備
「ふ」
 今日の真名神・慶悟はいつもとは一味違う。
 何かふっきれたような陰鬱な笑顔を浮かべ、その全身からこみ上げてくるようなオーラを漂わせていた。
「我が影より・・・・潜みし者共・・・・十二神将よ出でよ ・・・・急々如律令!!」
 人目にあまりつかない建物の影を選び、彼は念を込めた符を、地上に向かって投げる。
 符は人の形をとり、彼の忠実な僕である十二の行者の姿となって現れた。
「・・・・至福のうちに奴らを、今度こそ纏めて送ってやろうじゃないか。・・・・ここまで俺を振り回したお前らへの、せめてもの餞別だ」
 慶悟は居並ぶ彼らを前に、何かメラメラと燃えるものを発しながら、ゆっくりと告げた。口元には不敵な笑みがいつしか浮かんでいる。
「摩利支天の行法により・・・・汝らの姿・・・・我が意に依りて変われ・・・・マリシエイソワカ・・・・」
 慶悟が手の平を向けた神将の一人が光に包まれる。
「ヤングなギャル!」
 叫ぶと、その姿は女子高生風の茶髪のあゆメイクの少女に変わった。
 さらに続けて慶悟は叫ぶ。
「小学生男子!」
「美青年!」
「人妻!!」
「可愛くて、大人しくて、色っぽい!・・・・そんな女がいるかぁっ!」
 化けようとして困った顔を見せる行者式神に、溜息をつき、何とか念を固める慶悟。
 三つ編み眼鏡っ子で童顔、体だけはナイスバディな少女。こんなところだろうか。
「お前達、デザートアイランド内を探索し、もし目標を見つければ、抱きしめて放さずに、しょっぴいてこい。行けっ」
 神将たちはその場から消えた。園内のどこかに散り、目標を探すことだろう。

「聖水散布?」
 デザートアイランドの職員にかけあい、聖水を散布する、という案を思い浮かんだシュラインは、早速交渉に出ていた。
「しかし、お客さんをぬらすというわけには」
 職員は頭を掻いて、困った表情をした。
「理由はともあれ、こちらとしてはお客さまに不快な思いをさせるわけにはいかないんです」
「そうですか・・・・うーん」
 シュラインは額に指をついた。
 オバケに備えて皆、聖水をかぶってください、では遊園地の者も半信半疑だろうし仕方ないか。
「・・・・それじゃ、これもまた無理なお願いとは思うのですが・・・・」
 シュラインは職員を見つめ、少し恥ずかしげに告げた。

●オバケ
『ふぅ・・・・』
 長い髪をさっとかきあげ、憂いに満ちた溜息をつくちかん戦隊ブラックまつもと。
 空の上から見下ろし、彼の目的にかなう女性は何と多いことだろう。
 ほとんどが家族連れというのは、少し悲しいが。
『誰にしようか悩んでしまう・・・・色男は辛いな』
『何いってんのよ! 触りまくりよ! あんたはママ、私は息子! 早く行くわよっ!』
 その腕を引っ張るちかん戦隊ブルーたけもと。まつもとはそのたけもとの額をつん、と軽く人差し指でつつく。
『全く、お嬢ちゃんは元気だな。ダメだよ、女性のハートをゲットするには、そんな強引な考えじゃ』
『な、なによっ』
 頬を微かに赤らめて、たけもとは慌てて言い返す。
『ちかんオバケに出来ることは触ることだけなんだから! 強引にいかなくてどーすんのっっ。まわりくどいのは苦手だわ!』
『困ったお嬢ちゃんだ。今度ゆっくり明け方まで話さないか?』
『あたしくどいてどーすんの! あんたが私のターゲットでないのはわかってると思うんだけど』
『わかってるさ、ただ、元気なお嬢ちゃんは嫌いじゃないのさ』
 たけもとの頭をくしゃっと掴むと、まつもとは微笑み、再び下の世界を眺める。
『パレードはもう少し後か。・・・・もうしばらく俺が動くのは我慢かな』


「そっちに行ったのね! 逃がさないわよ!!」
 叫び、高く跳躍し、合気道で鍛えた拳をちかん戦隊レッドやなぎはらに叩き込む絢霞。
『ぐほっ』
 吸血鬼スタイルのやなぎはらは、地面にめり込むように倒れ、手足をぴくぴくと動かす。
「月姫に触れるとはね、言語道断っていうものよ! わかった?」
『・・・・ま、ま、まいりました〜』
 小さく唸るやなぎはらの横に立ち、絢霞は「本当?」と体をかがめて、問い詰める。
『・・・・は、はい・・・・本当です・・・・』
 観念しきったように瞼を瞑り、涙ながらに訴えるやなぎはら。
 しかし、その手はふと、絢霞の腰の辺りに伸び、撫でている。
「わかってないじゃない!!」
 絢霞の拳が再びやなぎはらの腹に炸裂する。否、素早くそれをよけたやなぎはらは、宙に浮いていた。
『はは、ばれたか。・・・・元気なお嬢さんだ、こっちも本気を出しますよ・・・・』
「本気でも何でもかかってらっしゃい! この女の敵ぃぃぃ!!」

「姉上の声が・・・・」
 月姫を背後の建物の壁に庇い、お局OL風ちかんオバケかなもりと対面中の星威は心配げに、声の方向を振り向いた。
 騒ぎ声と破壊音が、大きく響いている。その周りには既に見物客が溢れ歓声も上がっていた。何かのショーと勘違いされているのかもしれない。
『ふふん。追い詰められた顔も可愛いわ、ベビーフェイスちゃん♪』
「誰がだっ!!」
 星威はかなもりに叫ぶ。
『その後の女の子は、ピンクに渡してあげるのがよさそうざますわね・・・・ゆーすけ? いないの?』
 かなもりは空に向かって呼びかけた。
 気弱そうな声がかかり、新たなちかんオバケが姿を見せた。詰襟の学生服、牛乳瓶の底眼鏡をかけたちかんオバケピンク、みつもりゆうすけである。
『・・・・いますけど、う、でもぼくは今回は・・・・』
『勇気を出すざます!』
 叱られて、ゆうすけはちらりと、星威の影に隠れた月姫を見つめた。
 愛らしい漆黒の大きな瞳、色白の肌、長い髪。心配げに二人を眺める罪を知らないような純真な瞳。
『・・・・うっ』
『トキメキを感じたざますわね。 さあ、突撃ざます!!』
『あうぅぅん。もうしないと決めていたのに〜〜〜!!』
 ちかんオバケ達は、星威と月姫めがけて正面から飛び掛ってきた。
 星威はゆっくりと全身で構えを作る。
「勝手なことほざいてるんじゃなーーーーーい!!!!」

 ちかんオバケは星になった。

●らぷそでぃ
 メイドのファルファと共に、鮮やかなドレスを纏い人の中を彷徨い歩くファルナ。
「ゆうすけさん、・・・・どうすればお会いできるのでしょう」
 ファルナは白い手袋をつけた指先を唇につけ、小さく息をつく。
 その息が白い雲となって、ふわりと流れていく。
「冷えてきましたね・・・・。夜になると、雪になるかも」
 ファルナは近くにあった時計を見上げる。時計はもう18時を過ぎようとしていた。
「パレードは、もうすぐ・・・・か。それまでにはお会いできるでしょうか」
 そんな予感がした。
 それを思い、ほぉ、と彼女はまた息をつく。
 刹那、彼女の真上に、大空の彼方からの飛来物が舞い降りてきた。
『ひゃああああああっっ』
「えっ?」
 ファルナは見あげる。
 詰襟の学生服。あの人はまさか。
「ファルファさん!!」
 メイドゴーレムが動いた。飛来物を射程距離内に入れ、攻撃を開始する。
「あ、待ってください。そうではなくて」
 どごーん。
 鈍い音を響かせ、ファルナへの上空からの急速接近する危険物をファルファは見事に排除した。
 跳ね飛ばされたゆうすけは、近くの池に激しいしぶきと共に沈んだらしい。ファルナは慌てて、その池のほとりに駆け寄った。
「ゆーすけさん!? 大丈夫ですか?」
 たくさんの気泡に支えられるようにして、ゆーすけが水の上に頭を出した。よれよれである。
「大丈夫ですか? しっかり!? ゆうすけさん!」
『も、もうだめかも・・・・ってあなたは?』
 ゆうすけは池のほとりまで泳ぎ着き、その少女を見つめた。美しいブロンドの髪、エメラルドの瞳の白い肌の少女・・・・確か名前は。
『ファ、ファルナさん?』
「覚えててくださったのですね。・・・・私、ゆうすけさんに会いに来たのですのよ。どうか、こんなところにいつまでもいないで、私と一緒に来てくださいませんか?」
『ファルナさんと?』
「ささやかですが、クリスマスディナーを私の家で準備いたしましたの。・・・・もしよかったら二人きりで召し上がりません? あ、いえ、ファルファも一緒ですが」
 ファルナは頬を少し赤らめ、恥ずかしそうに優しく語った。
 ゆうすけはみるみる赤くなり、彼女を見つめる。
『ぼ、ぼ、僕なんか、いいのでしょうか?』
 ファルナは優しくこくりと頷いた。
 ゆうすけは一瞬、血が上りすぎて、眩暈を感じ、水の中にぶくぶくと沈む。
 しかしすぐに復帰して、これが夢でないことをひどく驚いていた。
 ファルナはゆうすけを水から引き上げると、ためらいがちに微笑みながらも、じっと見つめながら囁く。
「ちかんオバケさん、・・・・いいえ、裕介さん。一度でいいからキスがしたいとおっしゃってましたよね・・・・今晩だけでよろしければ・・・・恋人同士になりませんか?」
『へ?』
「目を閉じてください・・・・恥ずかしいから」
 濡れた体に手を回し、ファルナはそっとゆうすけの顔に触れ、瞼を閉じさせると、唇を重ねた。
『!!!!!!!!』
「あら・・・・?」
 瞼を開いたファルナの足元で、ゆうすけは既に意識を手放していた・・・・という。

●パレード開始
 夜が暗くなってくる頃。
 冷え込みは一段と強くなっていた。
 客達の足は、デザートアイランドのメインストリートへと自然に集まってくる。
 この遊園地の最大の見所である、スーパーライティングパレードが始まるのだ。
「始まったな」
 慶悟はパレードの方に向かって歩き出していた。
 その側には、合流した星威、絢霞、月姫もいる。さらにはイケギャル風な少女と手をつなぐやなぎはらや、茶髪きらきらなジャニーズ風美少年に背後から抱きつかれているかなもりも一緒だ。
 けれど、このうえなく幸せなはずの、ちかんオバケ達の表情は何故か暗い。
 それもそのはず、その二人は星威や絢霞にこてんぱんにやっつけられたあげく、慶悟の式神に縛されているのだ。
 逃げる機をうかがいながらも、まるきり好みの姿をした式神に悪い気も起らない。これはとても辛い状態である。
「これを楽しみにきたのよ。・・・・ああ、ワクワクする」
 絢霞が微笑みながら、月姫を見る。月姫も小さく頷いた。
「見えないんじゃないか? 少し前に出るといい」
 慶悟が道を譲ると、月姫は礼をいい、列の先頭に出た。星威もあわてて、場所を彼女の近くに変える。
「ん?」
 気付くと列の最後。
 まあ、いいんだが。
 慶悟は少し眉を寄せながら、手に持ったコーヒーをずずりと口にした。
 やがて華やかな音楽を鳴らしながら、光り輝くイルミネーションで飾りたてられた乗り物が入ってくる。
 その乗り物の上には、この遊園地のメインキャラクター達が楽しげにダンスを踊り、人々に手を振っている。
「わぁ、素敵ね」
 絢霞が月姫の肩を抱き、歓声を上げた。
 客達の間からも、キャラクター達に手を振り返す。それは子供だけとは限らない。
 夢の国へと人の心を連れ出す素敵な魔法にかけられたような気分だ。
 遊園地のメインテーマだった曲が変わり、続けてクリスマス・ソングが鳴り響きだした。
 そしてそれにあわせて、5台目のイルミネーションカーにいた人魚姫が、柔らかくけれど凛とした声で、唄い出す。
 ♪Sirent night.... Horry night.....
「ん?」
 星威が気付いたのか、背伸びをし、その人魚姫を見ようと目をこらす。
「この声、もしかして?」
 絢霞が呟く。慶悟はくすりと笑った。
「そういうことだ」
 人魚姫に扮装したシュラインが、聖歌を奏でていたのである。
 音楽に載せた魔法で、ちかんオバケの残り二人を引き下ろそうという作戦であった。
 けれど、作戦はともかく、水色の長い髪の鬘をつけ、よく響く特別な声で聖歌を唄う彼女の魅力の、その場の誰もが酔いしれていた。

『ほぅ』
 ブラックまつもとは空の上からそれを眺め、表情を和ませていた。
『あの女、何者だ。この音楽には何か魔力を感じるな』
『そうかしら?私は何も感じないけど』
『たけもとはもう少し、勉強しないといけないな。俺はあの歌姫の挑戦を受けようかと思う』
 まつもとは長い前髪を振り払い、ようやく地上をめざして舞い降りた。
『んもぅ!! いつもいつも子供扱いしてぇぇっ! と、私も行くぅ!』
 たけもとも後に続く。しかし、彼女の目的は違っていた。
 捕らえられた仲間二人を人ごみの中に見つけていたのだ。その二人の側には、彼らが一目で飛びつきそうな可愛い子ちゃんが揃っている。
 さらにその脇にいる半ズボンの褐色の肌の少年を、たけもとが見逃さないはずはなかった。
『私のために見つけてくれていたのねー!! 愛してるわよー、二人とも!!』

 それは、死へのダイブだったのかもしれない。否、もう死んでいるのだけれど。

●嵐
 人魚姫の扮装をし、シースルーの上着を身につけ、優雅に唄っていたシュラインは、近づく気配に気付かないはずがなかった。
 観客をちかんオハケから守るために唄っていたはずなのだが、おびき寄せる効果になるとは少し意外だったけれど。
 シュラインは観客席の慶悟に、目を配り、小さく頷くと、立ち上がった。
 力強く声を張り上げるように、両手を持ち上げ、右手だけ高く掲げる。
 まつもとが空から舞い降りるその瞬間をめがけて。
「♪〜♪!!」
 彼女の拳がまつもとの顎を砕いた。
 見事なカウンターパンチである。ノックアウトされたまつもとは、そのままふわりと客の並ぶ方向へと落ちていく。
「縛せよ!」
 慶悟が叫ぶ。行者姿の式神達がまつもとを空中で捕らえると、そのまま連れ去っていった。
「・・・・ありがと」
 シュラインは唄いつつ、慶悟にウインクをしてみせる。
 慶悟は頷き、小さな声で呟いた。
「・・・・見事なパンチだった・・・・才能あるな、きっと」

 たけもとが急接近するのを、やなぎはらとかなもりは気付き、空に向かい、首を激しく何度も振っていた。
『な、なによ? どうしたの?』
 空中で立ち止まるたけもと。しかし、美しく可愛らしい顔立ちの半ズボン小学生は、たけもとに向かって両手を伸ばす。
「おねえさん、待ってたんだよ、ずっと」
 キラキラ。その笑顔に光がこぼれる。
 かなもりの心に衝撃音が走った。
『私もよーっっっ!!!』
 少年に飛びつき、抱きしめ返す。
 これが運命の出会いってものなのね!18年プラスαの人生、信じていてよかったわー!!!
 けれど。
『ね、ね? 坊や、そんなに強く抱きしめなくても、おねーさん逃げないわよ? ね?』
 痛いくらいに抱きしめられ、かなもりは慌てた。
『若いって・・・・すごいっていうけど、・・・・これは何か違うわよ、ね??』
「・・・・単純すぎて涙が出るな」
 慶悟の呆れ果てた声が響いた。
 式神に飛びつき、自ら縛されたかなもり。 これでちかんオバケ4人が捕らえられていた。

「もう一人いるんですよね? 真名神さん」
 パレードを見終えた後で、星威が尋ねた。
「ああ。だけど、もう遊園地にはいないようだ」
 慶悟は苦笑する。
「さて、ゆっくりとお前達は始末することにして、土産でも買って帰るか」
「それもいいわね。ね、月姫、好きな物なんでも買ってあげるわ。ショップが閉まらないうちに行ってきましょ?」
「はい。絢霞様」
 ショップの方に去っていく二人。星威も慶悟に微笑んだ。
「行かなくていいのか?」
「危険はもう回避されたのでは?」
「まあ、そうだな」
 捕らえられ縛り上げられた四人に、ちらりと視線を向け慶悟は笑う。
「鍛えあげて眷属にでもしてみようか」
「それは・・・・」
「まあ煩悩が強すぎて無理だろうな」
「そう思います」
 星威は笑った後で、やはり気になるのか、ショップの方へと向かっていった。
 残された慶悟はシュラインを待ちつつ、コートの襟を合わせ、白い息を一つはいた。視界の中に、小さな白い粒が目に入る。
 空を見上げると、雪が降り始めていた。
「ホワイトクリスマスは、物語の中だけだって、相場が決まってるものなのにな」
 そう呟きつつ、その視線はとても柔らかだ。
 クリスマスの夜はそうして更けていった。


 白いキャデラックに乗り込み、ファルナの屋敷へとやってきたゆうすけは、豪邸の広い一室に招かれ、用意された特別ディナーに目を見開いていた。
『こ、こ、こ、これは!?』
「ゆうすけさんの為に用意させていただきました・・・・お口にあえばよいのですが・・・・」
 ファルナは白いフリルのついたエプロンを身につけ、クリスマスケーキをワゴンに乗せて運んでくる。
『い、い、い、いえ、身に余る光栄です〜〜。そ、そ、それに、これもしかして、手作り料理ですか?』
「もちろん、そうですわ。・・・・ゆうすけさんのために心を込めてお作りしましたの」
 言いつつ、頬を赤らめるファルナに、ゆうすけはもう気絶寸前である。
 (あ、あああ、も、もう死んでもいい・・・・)
「さあ、早く席についてください。ご一緒に食べてくださいますよね?」
『あっ・・・・は、はいぃぃっ』
 ファルナはゆうすけを席に座らせ、自分も隣に腰掛けると、料理を小皿に取り、スプーンでその口元に運びながら微笑んだ。
「はい、どうぞ。あ〜〜んして下さい」
『は、はい〜・・・・あーん・・・・ってむぐぐぐぐぐぅぅぅ』
 ゆうすけは赤面しつつもそれを口にし、その後、真っ赤になり、さらに青くなる。
「どうかしました?」
「い、い、いえぇぇぇ、美味しいですっっっ」
 手料理というものがこんな摩訶不思議な味だったとは。今まで経験もないから知らなかったけれど。
 な、な、なかなか、勇気のいる味ですっっ。
 しかし、愛があるから平気ですっっ。
 何か心に勇気をふるいたてながら、裕介はファルナの料理にトライする。
 やがてあらかた片付いたテーブルの上。ほっとしたような溜息をつく、ゆうすけにファルナはそっと体を寄せた。
「・・・裕介さん」
『はっ!はいっっ』
 びくりと体をさらに緊張させる裕介。
「・・・・私は、裕介さんが思ってらっしゃるような女性ではありません・・・・こんな私では美奈さんの代わりにはなりませんが・・・」
『美奈・・・・』
 ゆうすけはぽつりと呟く。 
 それはゆうすけが生前、交際していた女性の名だ。ただ、その初デートの為に購入した車を、初めて動かしたとき、事故を起こして死んでしまったので、交際らしい交際はしていたわけではないのだが。
 ファルナは熱のこもった憂う瞳で裕介を見つめて、呟いた。
「・・・・私も裕介さんのことは嫌いではなありません・・・・ですから、もうちかんなんてもうやめてください。思いの果てを残さず、満たされればあなたはきっと、もう繰り返さないと・・・・思うの」
 そう言いつつ、頬を染めながら、着ていた服をそっとほどくファルナ。
 白い肩が露わになり、ボタンをほぐす指が胸元まで届いたとき、慌ててゆうすけはその手を止めさせた。
『や! やめてくださいっっ!! ファルナさん』
 変わりにゆうすけはファルナの体を強く抱きしめ、叫ぶように言った。
『ぼ、ぼくは平気ですっ! も、もうっっ、こんなのやめますっっ。だから、そんなこと・・・・僕はあなたを汚す資格なんてないのです・・・・だから』
 ゆうすけは空中に浮かび上がると、頬に涙を伝わせて、ファルナに頭を下げた。
『あなたの気持ち、本当に嬉しかったです。・・・・だから、さよならっっ』
「ゆうすけさんっっ」
 踵を返すように、ゆうすけは真っ直ぐに飛び上がった。天井を抜け、夜空に浮かび上がり、星の降り止まない空をただ上り続ける。
 彼の涙が結晶となり、雪として地上に降り積もっていく。

 ちかんオバケゆうすけは、それ以来姿を消した。
 ゴーストネットに不審な書き込みがかかれることも、それから無かったという。
 街には平和が戻り、新しい年が訪れた。

 しかし、これが最後のちかんオバケとは限らない。
 だって、第二、第三のちかんオバケ戦隊が、あなたの街を狙っている・・・・かもしれないのだから。

 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 0086 シュライン・エマ 女性 26 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
 0158 ファルナ・新宮 女性 16 ゴーレムテイマー
 0389 真名神・慶悟 男性 20 陰陽師
 1099 夜藤丸・絢霞 女性 22 市役所の臨時職員
 1124 夜藤丸・月姫 女性 15 中学生兼占い師
 1153 夜藤丸・星威 男性 20 大学生兼姫巫女護
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■             ライター通信                ■
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 明けましておめでとうございます。
 大変お待たせいたしました。このようにお待たせすることは、以後は無きように努めます。
 本当に申し訳ありません。
 
 この話をもちまして、ちかんオバケシリーズ、とりあえず第一部完結とさせていただきます。
 いつもよりさらに文章量が増しているのですが、・・・・ご容赦ください(涙)
 第二部があるのかどうかは定かではありませんが、裕介は多分、もう現れないような気もします。
 ファルナさん・・・・あなたは鬼だ!(笑)<失礼

 それでは2003年も皆様にご多幸がありますことをお祈りして。
 ありがとうございました。

                                鈴猫 拝