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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


親子のホワイトクリスマス
●父娘のプレゼント作戦?
 この日も彼は深い深いため息をついていた。
「ああ、女の子の欲しいもんって何だぁ?」
 無精ヒゲにサングラスの一見、怪しいお兄さん‥‥いや、これでも一児の父、奥津城徹(おくつき・とおる)は眉を潜めて悩んでいた。
「もうすぐクリスマス‥‥なんかプレゼントしてやりたいんだけど‥‥これといって浮かばないんだよな‥‥しかたない、誰かに相談してみっか‥‥」
 頭を掻きつつ、クリスマスで賑わう街を歩き始めたのであった。

 一方その頃。草間興信所でも。
「ねえ、草間さん。男の人って何が欲しいのかな?」
 別姓ではあるが、これでも徹の実の娘である深月明(ふかづき・あきら)は、ゆっくりと煙草を吹かしている草間に尋ねていた。
「さあてな‥‥相手によるなぁ」
「もう、真剣に考えて下さい!! ‥‥お父さんにプレゼントしたいのに‥‥」
 相手にしてくれない草間に明は苛立ちながら、側にあったソファーに勢い良く座り込む。
 と、突然ドアが開いた。
「あの、ここ、有名な草間興信所、ですよね?」
 そこに現れたのは美しい女性だ。右目の下にはほくろも見える。艶やかな黒髪が印象的だ。
「ええそうですよ。どうぞこちらへ。何か問題でも?」
 明とは違う態度で草間は黒髪の美女をソファーに座らせた。むっとする明を避けさせて、だ。
「あの‥‥その、つけられているんです。黒いコートの変な男に‥‥」
 女性の名は平井留美子。どうやら、ストーカーに後をつけられているそうだ。
「でも、何もしてこないんです。ずっと後をつけて‥‥だから、かえって怖くて‥‥お願いです、彼を何とかして下さい。もう、つけられて‥‥1ヶ月なんです」
「というわけで、明。よろしく頼むな」
「えっ!?」
「いやあ、俺、これから別の仕事なんだ。こんな美女の頼み、受けないってこと、ないよな? ‥‥給料弾むから」
「ええ、喜んでやらせていただきます!!」
 最後の言葉に明の瞳は光り輝く。
 果たして、彼らは無事、プレゼントを渡せるのだろうか?

●留美子とストーカー‥‥それとプレゼント?
 明達はさっそく留美子の所へ行き、護衛をすることとなった。話し合いの結果、留美子には悪いが、囮となってもらい、ストーカーをおびき寄せ、接触を図るという作戦となった。
「上手く行くかしら?」
 明は思わず呟いた。
「上手く行かなくてはこっちが困る」
 苦笑を浮かべながらそう告げるのは真名神慶悟。金髪に髪の色を抜いており、赤いシャツと黒のスーツと派手な格好をしているが、これでも歴とした陰陽師なのである。
「そうそう、ただでさえ今日は冷え込むんだ。さっさとストーカーさんに現れて欲しいもんだ」
 慶悟の隣で肩を震わせるのは、降野碕。彼もまた能力者である。もっとも、明達と一緒に行動するといつも貧乏くじを引いているような気がするが‥‥。
「心配いらない。既にヤツはこの近くにいる」
 そう彼らに告げるのは黒衣の修道服を身に纏った女性、ロゼ・クロイツだ。
「えっ!? もう来ているの!?」
 思わず明は声を大きくする。
「静かに。相手に気付かれる。まずは‥‥留美子と普通通りに話ながら、進もう」
 慶悟がそう明に注意した。
「普通通り‥‥え、えっと‥‥お父さんにクリスマスプレゼントをあげたいんだけど、どんなものがいいかしらっ!?」
 焦りながらも、明はそう続けた。
「あー、まだ決めていなかったのか? ‥‥男にやるプレゼントなら、やっぱ手編みのマフラーだろ?」
 碕はそうぶっきらぼうに言う。
「でも‥‥クリスマスまで時間がないから‥‥手編みのマフラーは無理かも‥‥」
 明は演技をしているつもりだったが、ストーカーがいるというのにもかかわらず、真面目に話していた。
「父親なら娘のくれた物は何でも嬉しいもんだ。特に娘が散々思案してくれた物なら尚更だ」
「それはそうなんだけど‥‥その思案している物がどれにしたらいいのか、なかなか決まらないから困っているのよね‥‥。そうだ! ロゼさんはどう? 何か良い案ある?」
 そう突然話を振られ、戸惑いを見せるロゼだったが。
「あ、あいにくそういうことには疎いのでな‥‥。役に立てず、すまない」
「気にしないで。ちょっと聞いてみただけだし‥‥」
 うんうんと頷きながら、明は今までのアドバイスを聞いていた。明の隣には不安そうにそれを見守る留美子がいる。
「‥‥そろそろ行く。いいな?」
 そう一言告げ、ロゼは突然、後ろへ向かって駆けだした。
「え? ロゼさんっ!!」
 明達の制止も聞かずに、ロゼは何処かへ行ってしまったのである。

●悩める父親の回答
「全く、参ったな‥‥クリスマスまで、後3日だっていうのに‥‥決まらねぇ‥‥」
 徹は未だ、悩んでいた。しかも。
「アイツの好きそうなもんが置いてあるところは、どれも俺が入りづらい場所なんだよな」
 眉を潜めながら、目の前のファンシーショップを睨み付けた。
「‥‥まだまだ修行が足りないか」
 そんな妙なことをいいながら、ふうっと徹は溜め息を付いた。

 そんな徹を見つめる者がいた。
「登録声紋に合致、エージェント奥津城徹です」
 無機質な声でメイド服の女性は告げる。しかし、告げる相手はここにはいない。
『奥津城徹? ああ、あの‥‥敵でも味方でもないあの人か‥‥』
 女性の頭の中にもう一人の声が響いた。
「どうしますか? クミノ」
『そうだな、何か悩んでいるようだ。モナ、彼に接触して欲しい』
「了解。接触します」
 メイド服の女性、いや、モナはクミノと呼ばれる者に言われた通り行動を開始した。
 クミノとはササキビ・クミノのこと。今は理由があって、この場所にはいない。かわりにモナというメイド風のアンドロイドが、クミノに代わって、他者と接触しているのである。

「ああ、お前か。あの時の‥‥」
 モナは無事、徹との接触に成功していた。徹の網膜に直接、クミノの映像を映し、それでやっと伝わったのだ。
『それで、何で悩んでいるんだ?』
 クミノの声でモナが徹に尋ねた。
「‥‥なんか慣れないな、それ。まあいいけどさ。‥‥明の‥‥いや、俺の娘のクリスマスプレゼントを考えていたんだ。けど‥‥なかなか良いのが浮かばなくてな」
 そう、徹は苦い顔をする。
『重要なのは演出。‥‥モナ、確か私のいつも使う店がこの辺にあったはずだ。徹に案内してくれないか?』
「了解。徹、ご案内します」
「ああ、よろしくな」
 奇妙な再会。けれどそれは徹にとって救いとなるのに、そう時間はかからなかったのである。

●ストーカーの正体。そして‥‥
 暗がりの道にその黒コートの青年は立っていた。目元をミラーのように加工されたゴーグルによって隠している。その彼とロゼは今、対面していた。
「我が名はロゼ・クロイツ。人を惑わすは人の所業にあらず。人を苦しみに陥れるはこれを‥‥悪魔と呼ぶ。貴様の様な邪な影の存在は‥‥在って然るべきものではない」
 そんなロゼの言葉を青年は黙って聞いていた。それにも構わずロゼは続ける。
「私のこの身はこの東京に在り、されどその存在は東京の一片にも明らかになっていない、彷徨えし者。彷徨えし傀儡。貴様一人、大事に遭わせたからと言って、どうということは無い者だ。情けをかけるつもりもない」
 ロゼはそう言い、腕に仕込まれた刃を出した。それに青年は僅かに微動する。
 動揺しているのだろうか?
 しかし、逃げるつもりもないようだ。ロゼは一気に青年に迫り、そして、腕の刃を青年の頬へ滑らせた。つうっと一筋の紅い傷が青年の白い肌に浮かぶ。
「これは私が貴様と会った証だ。件の女性にこれからも付き纏うのなら、神の名の許に貴様を滅ぼす」
「それは出来ません」
 やっと青年はその口を開いた。
「それよりも‥‥見たところ、あなたはお強いようだ。早く彼女の元へ戻った方がいい」
「何を‥‥言っている?」
 青年の言葉に、逆に面食らうのはロゼの方だった。
「彼女は狙われているのです」
 その青年の言葉。
 同時に。
「きゃあああああああっ!!!!」
 留美子の声が響き渡った。ロゼは急いで留美子の元へ走る。
「‥‥やはり、来ましたか」
 彼もその後を追った。

「留美子さんっ!!」
 明は名前を呼ぶのに精一杯であった。信じられるだろうか? 目の前には蒼く燃えるような毛皮に身を包んだ、3メートルもの狼らしきものがいる。その巨大な口には、留美子を銜えており、牙から留美子のものと思われる紅い血が滴り落ちていた。
 蒼い狼‥‥いや、魔獣といってもいいだろう。魔獣はその蒼く光る瞳をぎっと細めた。
「こんなことになるとは思わなかったが‥‥正解だったな」
 慶悟は印を結び、何かを呟く。
 ぱんと弾けるように留美子が消えた!
 いや、違う。代わりに魔獣に銜えられていたものが白い人型の紙へと変化したのだ。そう、ここにいた留美子は全くの偽物。本物は自宅で月杜雫と共にいる。
「へえ、こんなヤツが出てくるとは‥‥吸い甲斐があるかもな」
 碕もにっと笑みを浮かべながら、今の状況を楽しむかのように魔獣と対峙していた。
「明、ここは俺達が引き受ける。お前は逃げろ」
「でもっ!!」
「いいから、行けよ。たまにはいいところを見せたっていいだろさ」
 慶悟は何枚もの札を、碕はその右腕を魔獣に向けながら、相手の動きを読んでいた。
 二人とも意気込んではいるものの、相手の強さを計れずにいた。
 先程留美子を奪われたとき、魔獣の気配は感じなかった。
 留美子が襲われたとき、その魔獣の動きを捉えることは出来なかった。
 そう、二人は互いに確信していた。
 ヤツは強い、と。
「わかったわ‥‥。だけど約束して!! 必ず帰るって!!」
 そう言って明が駆け出した。明は二人の援護を受け、無事逃げられる‥‥ハズだった。
 魔獣が音もなく、明の行く手を阻むまでは。
「!!」
 明はその魔獣に息を飲み、足が竦んで動かなかった。
「グアアアアアアアッ!!!」
 魔獣の遠吠え。そして、その牙が明へと伸ばされたとき。
 キイイイイイイイイインンンンンンン!!!!
 高いもの同士がぶつかり合う音が響く。そして、キインと弾かれた。
「怪我はありませんね?」
 そこに現れたのは黒衣の青年。目元をミラーシェードで隠す、不思議な青年であった。その両腕には、まるで魚のエラのように突き出した、紅に染まる刃が魔獣の牙を弾いていた。
「あ、は、はい‥‥」
「明、立てるか?」
 駆けつけたロゼが明にかけより、手を貸す。お陰でやっと明は立ち上がった。
「マタ、オマエカ‥‥」
 魔獣が一言そう言って、何処かへと走り去っていった。
 青年は振り返り、明達を見る。
 青年の腕から出た刃はいつの間にか消えていた。
「お前は誰だ‥‥?」
 思わず慶悟が訊ねた。
「ダークブレイド。人はそう呼ぶ」
 そういって青年‥‥いやダークブレイドはコートを翻し、暗闇の中へと消えていった。
「ダーク‥‥ブレイド‥‥」
 明は彼の名を呟きながら、それを見送った。
 その後、留美子をつきまとう者は誰もいなくなったのは言うまでもない。

●明のプレゼント選び
「これなんでいかがですか?」
 雫は楽しそうにふりふりのレースのエプロンを取り出した。
「‥‥雫ちゃん、それ買ってもお父さんは喜ばないと思う‥‥」
 額に汗を浮かべながら、明は答える。
「あら、私、明さんにぴったりだと思ったんですけど」
「今日はお父さんのプレゼント選びっ!!」
「ふふふ、分かっています。ちょっとしたお遊びですよ」
 今、雫と明はデパートを訪れていた。そう、明の言う通り、プレゼントを選んでいるのだ。
「まあ、珍しいですわね。このネクタイ、剣の絵が入っていますよ」
 雫が見せたそのネクタイ。ふと明は思いだしていた。昨日出会った、あの青年のことを‥‥。
「明さん、明さん?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事しちゃった」
 そういう明に。
「ダークブレイドさんのこと、ですね」
「ち、違うってば!!」
 その誤魔化そうとする明に雫は微笑んだ。
「あーそうだ。このネクタイにするわ。それとあっちの方にあったエプロンにする。もちろん、レースのないやつ!!」
「はいはい。それじゃあ、先程買ったクリスマスカードと一緒にラッピングしてもらいましょう」
「うん、そうね」
 二人は落ち着き、やっと買い物を終えた。

 数日後、明の元へ慶悟と雫、碕、そしてモナが呼ばれることとなる。
 碕の意外なプレゼントである土鍋を囲んでの闇鍋パーティが開かれ、碕は見事なハズレを引き、トイレへ駆け込んだのはいうまでもない。
 明はシンプルなエプロンに、何処でも付けられるような落ち着いた色のネクタイ、それに加え、自分でメッセージを付けたクリスマスカードをプレゼントした。
 一方、徹は暖かい紅いチェックのマフラーをプレゼントに選んでいた。ラッピングが非常に凝っていたので、中身を出すまで時間が掛かったことは否めない。
 ともかく、こうして二人は無事、嬉しいプレゼントを受け取ったのだ。そうそう、明は雫からもぬいぐるみのプレゼントを受け取っていたことも付け加えておく。

 そんな楽しそうな彼らとは別の場所で。
「‥‥今度はあの人ですか」
 遠くで蒼い影を見つめながら、ダークブレイドは呟き、駆け出していたのであった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1026/月杜・雫/女/17/明の親友☆】
【0389/真名神・慶悟/男/20/腕のいい陰陽師】
【0423/ロゼ・クロイツ/女/2/強い? 退魔師】
【1166/ササキビ・クミノ/女/13/モナのご主人様】
【1088/降野・碕/男/19/三枚目な何でも屋さん?】

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■         ライター通信          ■
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 はい、どうも相原きさです。私の依頼に参加して下さりありがとうございました☆ 本当はパーティの模様とか、プレゼントを渡す場面とかも書きたかったのですが‥‥ちょっと無理でした。うう、非常に残念です。
 さて、今回も皆さん、驚かれたのではないでしょうか? 私もちょっと驚いたプレイングがあったので、非常に楽しんでノベルを書かせていただきました☆ 皆さんも楽しんでいただけると嬉しいです。
 今回からいよいよ始まる新しいシリーズ、ダークブレイド編。まだまだ続きますので、お楽しみに!
 今回のノベルはいかがでしたか? ダークブレイドと初会話したのはロゼさんのみ。まさか傷まで付けるとは思いもしませんでした。ですが、これで謎の彼との会話を実現したのですから、恐れ入ります。次回もパワフルなプレイング、期待していますね。
 それでは、今日はこの辺で。また来年も宜しくお願いしますね。次の依頼の参加をお待ちしています♪