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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


学園祭は踊る【2日目】
●オープニング【0】
 2002年11月、例年と色々な面で異なっている今年の天川高校学園祭、そしてエミリア学院文化祭は、無事に1日目を終えた。
 日程を同日にした効果は確実にあったようで、両校ともに来客数は前年より伸びていた。連動企画もどうやら上手くいっているらしい。
 演劇部が行っている演劇『ロミオとジュリエット』の評判もまずまずだ。ちなみに1日目の23日は天川高校で行われていたが、2日目の24日は上演場所をエミリア学院に移すこととなる。
 しかし喜ばしい話ばかりではない。天川高校では、お化け屋敷が謎の半壊を起こしたようで、徹夜で修復が行われているという話である。2日目開場までに修復が終わるか定かではなかった。
 それ以外にも、祭りの活気に隠れてしまっている事柄はあるだろう。楽しさの裏に何かが潜んでいても、それは別に不思議でも何でもない。出来れば祭りは素直に楽しみたいのだけれども。
 2日目の祭りの幕は、間もなく開こうとしていた――。

●防寒対策【5A】
 11時過ぎ、エミリア学院。曇り空ではあったが、多くの来場者がここを訪れていた。
 その来場者の中、ちと変わった装いの女性の姿があった。ロングコートを羽織って手袋を装着、その上に首にはロングマフラーを巻き付けている女性の姿だ。厚着でもしているのか、コートの下が膨らんでいた。
「寒いわね……」
 女性、巳主神冴那がぼそりとつぶやいた。確かに11月の下旬、次第に寒くはなってきている。けれども曇り空だが昼間ということもあって、言うほど寒くはない。人間の尺度としては、だが。
 冴那にしてみれば、もうこの時期となると寒い。ゆえにこの装いで、さらには懐炉も携帯していたのであった。そこまでして来ることもないとも思うのだが、寒さより好奇心が勝ったのだろう。
 冴那はゆっくりと中庭を歩いていった。両側には屋台がずらりと軒を並べていた。客足も悪くはない。その客の中に冴那は真名神慶悟の姿を見たが、とりあえずそのまま通り過ぎることにした。
「両手一杯ね……」
 冴那がそう言うように、慶悟の両手は屋台の食べ物で埋まっていた。食事の邪魔をすることもないだろう、冴那はそう思った。
(……食事を邪魔されると凶暴になるのだから)
 ぼんやりとそんなことを思い浮かべる冴那。恐らくは蛇たちのことを思い浮かべているのだろうが、あんまり違和感を感じないのは気のせいだろうか。
 冴那は校舎の近くに来ると、そばを歩いていたエミリア学院の女生徒を捕まえて声をかけた。
「中等部は……どこかしら?」

●冬美原の自然レポート【6A】
 11時15分頃、冴那は中等部の教室の1つに居た。場所は2−A、『研究展示・冬美原の自然』が行われている場所だ。
 場所がよく分からなかったので、人に尋ねながら(なおかつ回り道することになって)ここへやってきたのだ。
 教室内ではいくつかのブースに分けられ、各々少し違った切り口で冬美原の自然を紹介していた。あるブースでは冬美原の四季の移り変わりを紹介しているかと思えば、隣のブースでは冬美原各地の様子を紹介しているといったように。
 冴那が注目したのは、冬美原各地の様子を紹介しているブースだった。鈴浦海岸や鈴見川、鈴糸山などに生息する動植物についてレポートが紹介されていたのだ。
 残念ながら写真こそなかったが、鈴糸山に蛇が居るとの記述を目にして何だか納得した様子だった。自分たちの知り合いの生息を確認し嬉しく思ったのかもしれないが、外から見ている限りではよく分からない。
 と、そのまま鈴糸山のレポートに目を通していると、鈴糸山の自然を守る運動が展開されているという記述の後に、付け加えるような形で不思議な記述があった。
「……天使?」
 ぼそりとつぶやく冴那。そこには『最近では天使の棲む山であるとも言われるが、本当の所は定かではない』と書かれていたのだ。
「どうですか?」
 その時、不意に冴那に話しかけてきた者が居た。エミリア学院の制服に身を包んだ、背丈の低い可愛らしい女生徒だ。きっと冴那がじっとレポートに目を通していたから声をかけてきたのだろう。
「私たち、一生懸命調べて書いてみました。どうでしたか?」
 にこっと微笑む女生徒。冴那もぎこちなく笑いながら答えた。
「面白かったわ」
「そうですか!」
 女生徒が安堵の表情を見せた。よほど来場者の反応が気になっていたのかもしれない。
「ところで……」
「はい?」
「ここの……『天使の棲む山』とあるのは……どういうことかしら?」
 冴那が先程の箇所を指差して、女生徒に尋ねた。すると女生徒は、何故だか首を傾げてしまった。
「あれ? そんな文章なかったはずなんですけど……少し待ってもらえますか?」
 女生徒はそう言うと、他の女生徒の所へ行ってあれこれと尋ねていた。5分ほどそれが続いていたが、戻ってきた女生徒の話では、誰も書いていないということだった。
「悪戯……なんでしょうか」
 腑に落ちない様子の女生徒。確かに謎である。
「……本当に不思議ね」
 表情を変えることなく冴那が言った。ともあれ色々と不思議なことが起こっている冬美原なのだ。このくらいの不思議は些細なことと言えよう。
 それからしばらく展示を見た後、冴那は近くに居た女生徒を捕まえこう尋ねた。
「茶室は……どこかしら……?」
 時間は間もなく正午になろうとしていた。

●最後まで【7C】
 12時半過ぎ、エミリア学院の茶室では本日2回目の茶会の席が行われていた。ちなみに1席1時間強で、30分強の間隔を開けて行われるというスケジュールが組まれていた。
 茶室には茶を味わおうという者たちが多く訪れていた。その中には冴那の他、七森沙耶とウォレス・グランブラッド、そして真名神慶悟の姿も見られた。
 残念ながら冴那を含めた4人とも正客や次客の席に座ることは叶わなく、裏で点てた物を運んできてもらう『お点てだし』を味わうこととなってしまった。けれども『茶の湯』の雰囲気を味わう意味では十分な物だと言えるだろう。
 ただ『お点てだし』とはいえ、その味わい方で茶道の作法を心得ているかどうか自然と現れてくる訳で。
 外国から来たウォレスや、若い沙耶が作法に馴染みがないのは普通のこと。意外と言っては失礼かもしれないが、慶悟は作法を心得ている様子だった。外見だけを見ていると、とてもそうには見えないのだが。
 そして、錦蛇に出てこないよう言い付けてロングコートを羽織ったままの冴那はといえば、多少作法を心得ている様子であった。それもそのはず、冴那は昔――ひょっとすると千利休の頃かもしれないが――茶道を嗜んだことがあったのだ。
 茶を味わいながら、当時のことを思い出す冴那。当時は『諸々の事情』でほんの少しの間しか茶会の席には居られなかったが、今日はそのようなことはなかった。……時々奇異な視線をコートの方に感じてはいたけれども。
 ともあれ茶会の席は静かに滞りなく進み、何の問題も起きることなく終わったのだった。

●演劇『ロミオとジュリエット』【9】
 14時半、エミリア学院第3講堂。ここではエミリア学院高等部の演劇部と、天川高校女子演劇部による演劇が上演されようとしていた。演目はあまりにも有名な『ロミオとジュリエット』、ご存知シェイクスピアの作品である。
 客席はほぼ10割埋め尽くされており、かなりの盛況だった。客席を見回してみると巳主神冴那、シュライン・エマ、志神みかね、七森沙耶、ウォレス・グランブラッドといった面々の顔も見えていた。
 講堂に入る前に配られていた簡素なパンフによると、ロミオを演ずるのはエミリア学院側の部長で、ジュリエットを演ずるのは天川高校側の部長とのことだ。どのような演技を見せてくれるのか、楽しみである。
 『ロミオとジュリエット』のあらすじについては、有名な作品なので細々と述べることもないだろう。対立するモンタギュー、キャピュレットの両家の若き男女、つまりロミオとジュリエットが恋に落ちたゆえの悲劇を軸にした物語である。ちなみに悲劇ではあるが、シェイクスピアのいわゆる4大悲劇にこれは含まれてはいない。
 恋に落ち結婚し、最後には擦れ違いが元で死に至ってしまう。その間たったの5日間。あまりにも短く、あまりにもせつなく、そしてあまりにも密度の濃い若き2人の恋。現代でも見る者の心をつかんで離さない何かがそこにはあった。
「おおロミオ、あなたはどうしてロミオなの?」
 劇は滞りなく進んでゆき、舞台上ではジュリエットがもっとも有名な台詞を述べていた。
 それ以外にもこの劇ではもってまわった言い回しや、人によってはむず痒くなってしまうような愛の台詞もある。もっとも露骨な台詞に関しては、だいぶ抑えているようではあるのだが、それは高校演劇だから仕方のない部分だろう。
 やがてジュリエットが修道士ロレンスよりもらった薬を飲んで仮死状態になる場面に差しかかる。ジュリエットは薬を口に含むと、一瞬顔をしかめた。細かい部分だか、薬の性質を表現したいい表情だった。
 そしていよいよクライマックス。眠るジュリエットに口づけをし、ロミオは自ら持参した毒薬を飲んで生命を落としてしまう。毒薬を口に含んだ瞬間、ロミオの顔が歪んだ。これもいい表情だった。
 すぐ後に目を覚ましたジュリエットは目の前の光景、何より愛するロミオの死体を見付けてしまい――ロミオの手にしていた剣で自らの胸を刺して後を追ったのだった。大いなる絶望に背中を押されて。
 それからエピローグ部分があり、劇は終演した。幕が閉まり、客席からは拍手が起こる。幕の前にキャストが勢揃いをし、客席に向かって深々と頭を下げて感謝をしていた。
 高校演劇なので荒削りな部分があったり、至らない部分もあったが、全体としてはまずまずの出来映えであった。

●食べ尽くす?【11B】
「……それなりに面白かったかも……」
 講堂から出てきた冴那が、演劇の感想を口にした。専門的な知識がある訳ではないが、良し悪しは分かる。悪くはない出来だと思った。
 ちなみに上演中もずっとロングコートを羽織っていた冴那だったが、閉鎖空間かつ人の熱気により、外より快適な環境だった。
「お腹空いたわ……」
 ぼそっとつぶやく冴那。その言葉に反応したのか、コートの中の錦蛇ももそもそと動いて意思を表していた。
「そう……空いたのね。何か食べに行きましょうか……」
 冴那は静かにそう言うと、そろそろ撤収作業を始めようかという屋台の列に歩いていった――。

【学園祭は踊る【2日目】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0526 / ウォレス・グランブラッド(うぉれす・ぐらんぶらっど)
           / 男 / 紳士? / 自称・英会話学校講師 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全26場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・年末年始を挟み、大変お待たせいたしました。申し訳ありません。2003年となりましたが、2002年のお話をお届けいたします。
・前回と今回を読んでいただければ分かるかと思うんですが、学園祭のお話は水面下で色々と仕込んでいました。その多くは軽い物で、物によってはアイテム入手の機会もあったりしたが、中には1歩間違えれば洒落にならない物まで含まれていました。もっとも、洒落にならない物に関しては無事に回避されたのですけれど。
・後は細々と……今後の冬美原の展開に関わる事柄が出てきていたりもします。参考にしていただければと思います。
・アンケートについては、ちょっとした傾向を見るための物でした。妥当かな、という気がしましたね。
・巳主神冴那さん、13度目のご参加ありがとうございます。冬美原の自然レポートでの不思議な記述、いったいどういうことなんでしょうね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。