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<東京怪談・PCゲームノベル>


あやかし荘のクリスマス

1.準備に大忙し
クリスマスの準備にあやかし荘は大にぎわいだった。歌姫は『ジングルベル』を歌い続けている。
住人たち全員そろって、飾り付けに大忙しだ。
一方、因幡と三下は食品街にクリスマス用の食材を買い、三下は荷物持ちとして手伝っている。また、三下の提案で友人知人を呼ぶことにしたのだ。
「友達を誘うのは、もう少し後にして、買い物を終わらせてからが良いわね」
「そ…そうですね〜」
因幡は買い物リストを見ながら色々考えている。三下は荷物ですでに足下がおぼつかなかった。すでに両手に食材の入った袋5個は持っており、その両手で、ケーキや鶏一羽入った箱が4つもあるのだ。微妙なバランスを保ちながら前方確認は至難の業だった。
「このままじゃおもたくて落としそうだ…」
三下は汗をかきながら思った。

30分後、すべての買い物が終え二人はあやかし荘に帰るところだった。因幡は友人たちに携帯で連絡している、三下自身は荷物持ちでへとへとに疲れている。
「よし、三下君数人には連絡はいったわ」
因幡は笑顔で言った。
「それは良かったですね!…とっとっ」
「三下君!」
三下はバランスを失い、豪快にこけてしまった。荷物が宙を飛んだ。
因幡は顔を両手で覆い、惨劇の後をおそるおそる見ようとした。
しかし、荷物はなく三下は顔面を地面に思いっきりぶつけて倒れている様だけが写った。
「三下さんいやだなぁ☆荷物持ちでバランス感覚の修行してるなんて。言ってくれれば手伝うのに〜」
と無邪気な少年の声をきいた。因幡は周りを見渡す。
三下の後ろに小柄で少女のような顔つきの美少年が、片手にケーキと鶏の箱をもっていた。買い物袋はもう一方の腕と片足で軽々と持っている。
「水野君!」
「こんにちわ♪因幡さん☆」
水野と呼ばれた少年はにっこりと微笑み、ゆっくりと荷物を下ろし軽く会釈した。その後ろから同い年の少女が顔を出した。
「お久しぶりです、因幡さん」
「あら、元気にしている?しのぶちゃん」
「いつも水野君がご迷惑かけてすみません」
「いえいえ、今回は助かっちゃったわ」
しのぶと言う少女は、ぺこりとお辞儀をし、荷物を持つ手伝いをする。
水野は水野想司という中学生である。が、凄腕吸血鬼ハンターとしてハンターギルドの切り札として闇の世界に生きている。彼の性情は常識がかなりずれているため、危険人物でもある。唯一、同級生の森里しのぶのみ彼とまともに会話ができる人物である。
「安心してください荷物は無事ですよ」
「ぎゃ〜っ!!」
彼はまだ倒れている三下を踏みつけて、荷物を因幡に渡した。
「水野君!」
しのぶが彼に注意する。
「三下さんが死んだふりして僕に襲いかかろうと思ったから、とどめを…」
しのぶの拳が水野の頬にめり込んだ。
「そんなことあるわけ無いでしょ!」

彼らが帰ってきたとき奇妙なクリスマスリープが飾られた玄関のドアで足を止めた。
ベルの飾りの横にミカンが寄り添うように飾っているからだ。しかし、しかし違和感はない。
「なぜベルの隣にミカンが?」
「でも、色合いからあまり違和感はない感じはしますが…」
「おもしろいな♪藁で葉をまとめているみたいだから、クリスマスと正月を一緒に祝っているみたい☆」
「ははは」
皆は笑いなが中に入った
「さて、奮発して料理作らなきゃ!」
「私も手伝います」
「ありがとうしのぶちゃん」
因幡が腕まくりする仕草に対応するかのようしのぶがかけより、手伝いを申し出た。因幡はほほえみながら一緒に食材をもって、台所に向かう。
一方、三下たちはケーキの箱や、シャンパンの入っている袋持って
「じゃぁ僕たちはこれらを自室の冷蔵庫に入れてから飾り付けの方を手伝いますね」
といった。
別れ際、三下は後悔していた。チャンスを逃してしまったと。
しょんぼりと〈ペンペン草の間〉に戻り冷蔵庫に荷物をいれる。
顔に出るタイプの三下、嫌な予感がした。
だが後の祭りである。その表情を水野は見逃さなかった。彼は三下の袖を引っ張った。
「?」
「何か困っているみたいだね?僕が相談にのってあげるよ♪」
小声で三下に訊いた
「ほ…本当かい?」
三下も小声で返す。
水野は無邪気な笑顔で合図を送る。
三下は赤面しながら、勇気を出してこの幼い少年にこう言った。
「じ…実はね…僕はこのクリスマス会で、二人きりになった時…因幡さんに…あ…愛の告白をしたいんだ」
数秒の沈黙…
水野は狂喜しながら
「…三下さん♪僕と互角に戦う為に要求される強靱なる心の力…それを得る為に因幡くんとの一対一の果たし合いを君は望むと言うんだねっ☆買い物はその戦いに備えての武器準備というわけだねっ☆」
と言った
「え?一寸まってよ!なぜそうなるですかぁ?」
「そうじゃないですか♪愛の告白は勇気が要るじゃないですか。吸血鬼と生死を賭した戦いと同じですよ。告白は死合いです♪戦い勝ったものが愛の勝者なんです!さぁ荷物は他の人に任して、早速武器屋に行きましょう!大丈夫ですよ。クリスマスでしか手に入らないすばらしい武器が一杯あるはずですから!」
「まってよ!まってよ。僕は戦いたくないんだよぅ〜。」
彼の叫びを無視し、水野は人さらいのように三下を引きずっていった。
ちょうどそのとき飾り付けを終えた奉丈がやってきた
「何してるのです?」
「ああ、君は奉丈君!助けて!」
三下は何とか水野の腕をはずし、奉丈の後ろに隠れた。見るからに情けない。
「また何か〈本業〉ですか?忙しいですね三下さん」
「誤解だぁ!」
「だって、凄腕の化け物(フリークス)退治の水野君が居るのですから」
と彼は、水野に三下を指しだした。
「おおわかるね☆奉丈さん♪」
「噂はかねがね聞いています、水野君。以前お会いしたことあるかもしれませんがうろ覚えだったりするので、これを機に交流できると嬉しいですね」
「そだね♪三下さんは僕の好敵手だからね☆今から男を上げに行く準備するんだ♪」
水野がわくわく話す。
「そうですか!それはおもしろいですね。」
この二人には何か心通じる〈利害関係〉が一致したらしい。三下がそれを気づくことはないが…。
「じゃぁがんばってくださいね、三下さん。僕は因幡さんの手伝いに行きますから〜。夕食までにはもどってきてくださ〜い」
「ええ、そんなぁ〜!たすけてぇ〜」
三下の悲鳴は冬の晴れた空にむなしく響いた。

繁華街の裏路地を通り、小さな店構えの吸血鬼ギルド直営店〈イスカリオ13号店〉についた二人。水野はうきうきと彼を引きずって中に入る、もう三下には抵抗する気力さえなくなっていた。
中にはいるとこういった垂れ幕が歓迎した。
【聖夜にはご注意!悪霊、吸血鬼は人混みに紛れ込み皆を襲います!今回特別クリスマスセール!】
聖別された純銀で鍛え上げられたナイフや剣、魔法陣や呪を刻まれた拳銃と様々だ。怪しい店に、クリスマスの装飾がされ、剣の鞘や銃フォルダーなどはクリスマス仕様でよけい違和感を覚える。
「どれが良いかな〜」
水野はわくわくと獲物の物色をしている
「これが良いな♪おじさんこれ一つください」
「ん?これはおまえさんが使うのか?」
水野の声に反応し、店の奥から店主が現れた。
「いえ、後ろの三下さんが使うのです。」
「……ん〜、いくらおまえがこいつを好敵手と認めていても…儂にはそうみえないがな?」
「でも互角に渡り合った事は数知れないです☆一度負けたこともあるし。えと〜」
「ああ、わかった、わかった。考えないで良い、儂が詮索したこと自体が間違っていた。しかし、〈これ〉には問題があるぞ、おまえさんなみの実力者でもな」
「へええ」
二人が見つめている獲物がどんなものなのかに気なった三下は、おそるおそるのぞいてみる。
顔は青ざめ、背筋が凍り、そして叫んだ!
「前に碇編集長に出した(これだけ保留になっているけど)記事の伝説の魔剣〈愛情喰らい:ソード・オブ・ラヴスレイヤー〉!」
黒くほのかに赤が混ざる革の鞘に、質素な銀製の装飾の柄の片手半剣。鞘と柄には封印呪の施された鎖が巻かれて出せなくなっている。隣にはサンタクロースがトナカイ雪車に乗って駆けめぐるかわいい留め具とガードルが21000円で展示されていた。
「さすが三下さん☆」
「うーん、縁があるようだな、おまえさん良い目してるよ」
「僕はそんな魔剣に縁なんてほしくないよう!」
「確かにこれは恐ろしい魔剣だ。ありとあらゆる化け物を殺せる代わり、持ち主が慕い想う者を贄にする諸刃の剣。剣に支配された時点で家族を失い絶望した使い手は数多いな。かつての英雄もこれに呪われ自滅したと云われている」
店主は簡潔に剣の蘊蓄を述べた。
「すばらしい☆今の三下さんにぴったりだ!本当は僕がねらっていたのだけど、三下さんにプレゼントするね♪」
「……」
三下には反抗する権利すらない事を悟った。完全にこの魔剣の虜になる自分を思い描くと心が真っ白になっていった。
「あらら、うれしさのあまり気を失っちゃったよ。」
「使うときだけ注意しろ、本人の剣技レベル関係なしにおまえをも殺すかもしれないからな、必要なときにのみ持ち主に封を解けるようにするんだ」
「わかったおじさん♪あと、例の物ある?」
「ん?あれか?とっておいたぞ。持っていくか」
「うんありがとう♪」
彼は三下と自分より大きい剣の入った袋を担ぎ軽々と店を出て行った。

2.楽しい食事?
因幡と料理得意の有志が作ったクリスマス料理は見事なものであった。
ローストビーフとチキンの丸焼き、健康を考えた、スティックサラダ。コンソメスープに、ハニートースト。和食好きのためにおにぎりやおみそ汁もある(歌姫や嬉璃用とも言える)。
アルコール類は、ジャンパンの他に、カクテル用としてウィスキー、ウォッカなどを取り寄せていた。当然未成年用にロングドリンクもたくさん準備している。ほとんどは綾のセレクトであり、一級品だ。
三下は意外であるが、カクテルを作るのが得意なのだ。しかし趣味のレベル故、高レベルのカクテルは作れないので、簡単な物である(といっても難しい物が多い)道具も実は彼の私物である。あやかし荘では人気がある故休憩する間もない。
「度胸があれば、バーで勤めることができるのに」
「顔と性格がこれじゃぁね」
「もう、違いますって。夢は立派なジャーナリストになることなのですから。これは趣味です。で、何にします?」
あやかし荘の住人や関係人たちが、和気藹々と談笑しているのであった。
柚葉は手品で皆を驚かせ、歌姫はリクエストに応じ歌う。嬉璃は家族連れできた子供と昔の遊びに興じている。メンコなんて久方ぶりでは無かろうか?
因幡は同級生と談笑している。
「何とかしてチャンス…見つけないと…」

水野は退屈そうにコーラを飲んでいた。チャンスがほしい。何のチャンスか?もちろん彼にとって楽しみな因幡と水野の戦いである。死線をくぐり抜けてきた故、命の大切さが抜けてしまった。人らしさをどこかで落としてしまった。子供である彼にとって大事な物が抜けてしまったともいえる。森里しのぶは彼の「人らしさ」を探している唯一の友人である。いや、友人以上かもしれない。
「どうしたの?」
しのぶが自分と彼の分の料理を持ってきた。
「ん?どうもしないよ?」
「そう見えないけど?退屈してるんだ」
「はは…かなわないなぁ」
水野は、普段のようなおどけた調子を見せず、苦笑いで返す。
「いつも一緒だもん。分かってくるわ」
「水野君も、私も〈ふつうの〉人の中に入って行くのは苦手だからね。でも私は水野君のおかげで虐められることもなくなったし、楽しい学校生活を送れるようになったわ。感謝してる」
彼女は彼の手を握った。柔らかく温かい手と血に塗られた手が重なる。
にぎやかさの中に、静寂の場があった。彼は先ほどの退屈さで忘れかけていたことを思い出した。
「おっと、今のうちに…君にプレゼント」
と、ベルトポーチから小さいプレゼントの箱を差し出す。
「ありがとう」
「たいした物ではないけど、僕からの感謝の気持ち」
「…私もプレゼントあるわ」
彼女は、鞄から大きな袋を取り出した。かわいいリボンと女の子らしい包装紙。
「ありがとう、しのぶちゃん」
彼は照れくさそうにほほえんだ。
「中をあけるのは、家に帰ってからね?恥ずかしいから」
「わかった☆約束だね♪」
二人は照れながら笑った。
ふと、向こうで因幡と三下、奉丈遮那が何かをしている事に気づき、
「三下さんもカクテルの仕事終わったんだ♪いこ」
「あ、まってよ〜」
楽しそうに三下達の元に向かう。

「何々?」
「あ、水野君としのぶちゃん。いまね奉丈君に三下君の今後の運勢を見てもらってるの」
「へぇ〜♪」
「僕の未来はいつも真っ暗だよう〜見る必要もないよ〜」
三下は抵抗するが、すでに綾と嬉璃に押さえ込まれて身動きができない。
奉丈はにこやかにタロットのデックをシャッフルし
「念がそうしてるのです。マイナス思考は楽しいことでもつまらないことにしてしまいますよ。もっと強く意志を持たなきゃ」
奉丈は彼に諭した。
「こんなぺんぺん草、強い意志があろうと、なんもかわりゃせん」
「でも、生命力だけはあるやん。どっちかというと悪運が強いんちゃうか?」
「外野は黙ってみててください」
「愛嬌ないのう」
嬉璃と綾はふてくされながらも、占い見学をじっと見つめていた。
(ここは彼の占いを静かに見た方が良いね)
水野は思った。
彼のタロット捌きは芸術だった。さすがの水野も惹かれるものがあった。
「三下さんの運命は、いつも苦難の道に立たされています。それは永遠に…」
「うわ〜〜〜〜〜〜ん。何か希望とか幸せはないの?」
「見え隠れしますけど、自分で求めない方が良いと出ています。気づかぬうちに幸せという物は来ます。あなたの場合求めるものではないようです」
「いつも墓穴掘って生きているのぢゃな」
『♪Hey you〜世の中すりこぎだよ』
「金運については大丈夫でしょう」
「はっはは、わかってるやん♪あたしがついてるさかい金にはこまらへんで〜」
「お金より幸せがほしい〜」
「やはり修羅道を極めようとする、僕のライバル♪さすが三下さんだ☆」
「ううぅ〜水野君〜僕はね〜戦いなんか…」
彼が必死の抗議をするのだが、水野はすっかり占い談義で忘れていたことがある。
「あ、そだ」
「?」
「すみませんが、僕と三下さんと因幡さんの3人きりにしてくれますか?」
「??なにかおもろいことでもするんか?」
「真実を知りたい方は、この地図をたよりに来てください」
その地図は、あやかし荘に数多ある、開かずの間を指していた。
「これって?」
「では先を急いでますので〜」
「ちょっと水野君!」
三下と因幡の声が重なり合う。
水野は三下と因幡の手を掴み、有無を言わさず彼らを連れて行った。
「気になる…」
「またとんでもないことを…」
心配するしのぶと奉丈は彼らの後をついて行った。
柚葉が綾の背中から地図をのぞき込み、
「いつものことだし、もう少し後が良いかも?」
「そやな〜」
「まぁ、いつものことぢゃ。宴はまだ始まったばかりぢゃしの」
嬉璃は湯飲み茶碗で世界最高アルコール濃度(96%)のウォッカ〈スピリタス〉を飲んだ。


3.愛を喰らうもの
あやかし荘には開かずの間がいくらでもある。ある空間学者がこういった。
「あやかし荘自体が、異世界につながる門でもあり、現世や未来もしくは過去につながる道でもある。人の心に影響し、それに反映された世界でもありえる。精神世界の境界線だ」と。
7不思議にあげられないし、他の雑誌でも怪奇スポットとしても大きく取り上げられないのは、そうなのかもしれない。もっとも有力なのは情報操作であろうが。

「求めると得られない」
先ほどの奉丈の言葉が三下にとってショックだった。
因幡は何が起こるか分からなく、ただ水野に連れて行かれるままだった。
「因幡さん、因幡さん」
「なに?」
「大丈夫です…。僕が…何とかします…。絶対…たぶん」
「…」
三下は先が分かっているので、因幡を励まそうとするがなんとも説得力のない台詞だ。
水野はそんなことおかまい無かった。後ろから二人が追いかけていることも。
開かずの間は木造なのに石造のアーチであり、石の門であった。3人が近づくとひとりでに轟音とともに開いて石造りの下り怪談があらわれた。
「さて、多少の人数増えちゃったけど。いいかな?審判として認可しようっと♪」
後から奉丈としのぶがたどり着いた。
「何をする気なのかな?水野君」
「それはこの中に入ってからで♪」
水野は会談の壁に掛けられたたいまつをとり、道案内を始める
しばらく地下捜索のような道をたどり、光が見えてきた。
「さて三下さんはこれを」
水野は三下に長くて白い袋を手渡した。例の魔剣である。
「森里さんと奉丈さんは因幡さんのところについてあげてください♪あ、そうだ、その奥に武器庫があるから好きな物をとってきてくださいね♪僕と三下さんは反対方向から行きますから〜☆」
「武器庫!?」
水野以外驚きの叫びをあげた。
「いったい何を?」
その質問に答えることなく水野は先に行ってしまった。
「だいたい検討ついたわ…水野君…」
同級生は偏頭痛に悩むように頭を抱えた。
「なるようになるから彼の言うとおりにしましょう」
武器庫の中には様々な武器や鎧時代問わずしての隣接戦武器が並んでいた(白兵戦とは現代では銃器での射撃になる)。グラディウス、バックラーというローマの剣闘士が好んで使ったとされる武器や、騎士の基本装備であるランスとロングソード、プレートメイルもそろっていた。
因幡はその中から、刀を見つけ出し、剣道着を身につけた。現代人では武者鎧を身につけるほど体力はない。しかし、冑だけは臭いがきつく、あきらめた。
「皆さんも何か起こるか分からないから、武装しておいた方が良いわ」
「そうします」
奉丈は、レザーチュニックに棍棒、しのぶはレザーチュニックとバックラーをもって、光の先に向かっていった。

水野と三下はもう一つの光ある場所に着いた。
水野は、近くにあるテーブルにしのぶからもらったプレゼンをそっと置き
「さ、三下さん出番です♪強くなって僕と戦えるようになってくださいね☆」
「殺し合いじゃないんだよ!僕はただ告白したいだけだよ〜!」
「同じですよ、修羅道に入ったなら〜」
「だから〜っうわぁ」
水野は彼を押し、光の先に押しやった。

三下と因幡が迎えたのは、とどろくような歓声だった。どうもローマのコロシアムにたたされている気分である。
中には「殺せ!」「肉を裂け!」と暴力的発言が飛ぶ。
近くにVIP席に嬉璃達がいた。かなり高い観客席があり、ローマのそれより大きな物ではないかと予想はつく。
二人は、この状況で何も言えなくなった。
意気揚々と、レフリー服の姿で現れた水野がマイクを持ってコロシアム中央にたった。
「れでぃーすあんどじぇんとろめ〜ん。地下1千万の地下格闘ファンの皆様、クリスマス特別デスマッチを行います!」
彼の発言でさらに歓声が上がる。
「青コーナー、あやかし荘の管理人、因幡恵美っ〜!!」
「赤コーナー、修羅道を生きる我がライバル、三下忠雄っ〜!!」
「だから違うって!」
怒濤の歓声があがったが、彼が手を挙げると静まった。
「三下さんは因幡さんに愛の告白すなわち告白〜勇気を持って、修羅道を目指すため、因幡さんと果たし合いを行うのです。この神聖なる戦いは黙して観戦してください!」
「え?三下さん?あなたは…」
赤面する因幡だが状況が状況だけあまり困惑はなかった。
「あ、その、え〜とこれには深いわけが!」
「…相談相手間違えたみたいね…ここは決闘場…私も…あなたの気持ちを刀に込めて応えてあげる!」
因幡はもうこれはどうでも良い何とかなるというあきらめ口調だった。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜誤解だぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
殺るか殺れるかの世界に入った以上、言い訳は通じない。

「レディッーーーーーー、ファイ!」
水野の合図で銅鑼が鳴る。その瞬間に、因幡は正眼の構えに入ってにじり寄る。三下は布にくるまった剣を出すことなくそのままで構えた、布がじゃまで重い…。
下段に刀を構え、間合いを分からなくした瞬間。
「どうして抜かないの?」
と、三下の隙を見て間合いを詰めて因幡が訊いた。
「い…因幡さん!」
切り上げ一閃、三下はかろうじてこれをかわしたが、刃を返し2撃目が来る。三下はそれを剣で受け止めた。
衝撃で三下は転倒する。剣をくるめた布が切り裂かれ、魔剣の姿があらわになる。
“解放せよ”
三下に謎の声が聞こえた。
そのままとどめを刺す勢いで、因幡が詰め寄る。
(なるようになれ!)
彼は距離を置くため地面に転がり続け、剣の封を剥がした。
赤黒い鞘は燃え尽き、刃は魅了するほどの銀色のきらめきを放つ。沢山の血を吸ったとは思えないほどの見事な両刃の剣だ。今まで重くたかった魔剣が今や自分の体と一体化したように不自然なく構えることができる。
「やった♪」
水野は喜び小声で言った。しかし、後ろから何かで殴られる。
「うぐぅ」
ぱたりと倒れた後ろには棍棒を持って息の荒いしのぶと、それをとられ呆然としている奉丈がいた。
(女の子は…つよいなぁ)

そんなことはお構いなく、二人の戦いは続いた。魔剣を構えた三下は歴代の使い手の剣術を身につけたような身のこなしで、因幡の太刀筋を見切っていた。
「僕はあなたと戦いたくない!」
「でもこういう状況だと、観客から殺されるわよ!戦って!」
「しかしこの魔剣は、本当にあなたを一刀のもと殺す危険な物なんです!」
「なぜ?その確証は?」
「あなたにそれを向けたくなぁいんです〜!」
因幡が突きを入れるところを、三下は無意識に剣で受け流し、そのまま胴着もろとも彼女を切り裂いた。
因幡の胸から血しぶきがでる。そして倒れ込んだ。
三下は…
「うああああああああ」
狂気に犯され始め叫んだ。

「ああ!因幡さんが」
奉丈が、因幡が三下に斬られるところを目撃し、そのまま駆け寄った。
原因がどうでアレ、奉丈は好きな人の危険を作り出した目前の男が許せなかった。
因幡の持っていた刀を構え、
「三下さん…僕の占いが当たってしまった…それは僕の責任でもある…でもあなたを許さない!」
彼は狂気に叫んでいる男に向かっていった。

「ばか!」
気がついた水野に一喝する。しのぶは涙目でにらんでいた。
「え?え?」
「三下さんは…もう三下さんじゃなくなったわ…い…因幡さんを…」
「というと、三下さんが勝ったの?や……」
思いっきり頬をはたかれる。
「どうして殺し合いにしたの!あなたが何をしてるかなんて関係ない!でも、でも、友達を殺すこともあなたの仕事なの!?大事な人を、守るべき人を殺してどうするの?人生を無駄にしてどうするの?」
しのぶは大きな声でわぁわぁ泣く。
昔の記憶がよみがえった…
いつも虐められていた彼女を助けたこと…そしていろいろな人に出会い苦楽をともにしたことを。
なにより、今心許せるひとが泣いていることが、自分の愚かさに今さながらに気がついた。
「奉丈さんでは今の〈化け物〉を倒すことはできない」
「え?」
「三下さんと奉丈さん、因幡さん、そして…君を救う」

奉丈は防戦一辺倒だった。後ろには血の海に沈む因幡がいる。三下…いやすでに魔剣の物となった化け物は容赦なく剣を振るう。死角に入り込んでの攻撃をかわすのにやっとである。どんどん体力が消耗していく中、「因幡への想い」で魔剣の攻撃を防いでいた。また、四肢を斬られていくことでさらなる疲労と戦意を消失させる。
「ここまでか…」
と膝をついた。
魔剣が上段からの一撃を見舞う瞬間…
水野のナイフが三下の左手に突き刺さった。剣を止め、投げた本人をにらんだ。
“おまえは?”
「そうさ、あんたを購入して、その人にあげた張本人さ♪」
“封印されていても、様々な心が読めるのは知っているだろう?おまえが望んだようにしてやっただけだ。”
「気が変わったというところかな☆化け物…三下さんを返せ」
“何を言う…我が三下だ。おまえが求めていた修羅道の三下だぞ?”
「ちがう、三下さんは…そんな修羅ではない…僕にはない〈何か〉を持ち得る最高のライバルなんだ」
(…ん…)
愛刀のナイフを構え、魔剣に立ち向かう。
「奉丈さんごめんなさい…因幡さんを安全なところに」
「…そのほうはわしらに任せろ」
嬉璃達がかけより生きているか分からない因幡と負傷した奉丈を連れて行った。
数分間の沈黙…
「…心おきなく僕の力を使える…。そして…おまえを倒す…」
(やめろ…)
“潔いな”
お互いが構えた。魔気により、すでに観客は逃げていた。入り口にしのぶが見守り続ける。
(やめるんだ)
“我はおまえと同じ。殺めることが快楽、おまえがすべての情を捨てたとき最強の修羅になる…”
「おしゃべりは僕の専売特許だ♪おしゃべりは終わり!行くぞ!」
“…まいる!”
ナイフと剣の間合いと取り合い、激しい戦いが続く、懐にうまく滑り込んだ水野は剣ではなく三下の手を封じるように片方の手でつかもうとする。しかし、魔剣は三下の運動能力を100%引き出しているため、簡単にかわされ魔剣自体の間合いに入り、四肢を軽く斬っていく長期戦に出た。
(ぼくは…)
いくら、ハンターとしての切り札でも、いくつもの剣士が使った実戦豊富な魔剣では歯が立たないのか?
違う「しのぶとの約束」が彼を縛っている。
(水野君…ああ因幡さん…)
魔剣が彼をとらえた…。ナイフをたたき落としたあと、切り上げで首をねらうが、かろうじて水野はかわした。しかし、3撃目で刃先が水野の首をとらえた。
「死角をとられた…」
彼は死を覚悟した。初めてかもしれない。昔感じたものかもしれない。しかし、それはもうどうでも良い。
この先「死」しかないのだから…。
”覚悟”
魔剣がそのまま彼の頸動脈を切り裂こうとしたそのとき!
(僕は誰も傷つけたくない!)
”バカな!?”
「?」
魔剣が三下から落ちるように離れ其れは砕け散った。魔剣の力が暴走し閃光となってあたりを包んだ。


4.死闘の後
「ねぇねぇ起きてよ」
水野と奉丈はしのぶの声に起きた、気がつけばクリスマスパーティ会場だった。窓から差し込む日の光がまぶしい。
「あれ?決着??」
「僕は何をしていたのだろう?」
「水野君、また三下さんと戦っている夢を見ていたね」
「え?え?」
「僕としたことが、君と三下さんと一緒に張り合って飲み合いっこしたとは…」
奉丈はあのことを覚えてないらしい。
「アレ…コロシアム?」
「全くまだ寝ぼけておる、未成年が朝帰りだと親に怒られるだろうに」
嬉璃がミカンを食べながらやってきた
「一応連絡は取っておるから小言だけですむぢゃろう」
「すみません。羽目を外してしまったようで」
「なにかまわんいつものことぢゃ、けけけ」
奉丈の謝罪に、酔い覚ましの薬と水を差し出す事で嬉璃は応えた。
「ありがとうございます」
話によれば、クリスマスパーティ中、スピリタス一気のみ大会が開催されてしまい、三下、水野、奉丈の果てしなき戦いになったという。優勝者は意外にも三下だったらしい(※よい子はまねしないように。すごく危険です)。
「ところで、因幡さんと三下さんは?」
水野は訊いた。
「今は二人きりにしておいてやるんぢゃ。あのぺんぺん草にもクリスマスプレゼントぐらいあげないとな。」
「???」
二人とも二日酔いの頭痛で深読みする事はできなかった。
「ふ……」
「ははは♪」
「かっかっか」
管理人室には達筆な字で〈面会謝絶〉と書かれた張り紙がかかれており、中で三下は、因幡の膝枕の元でけなげな寝息を立てていた。因幡も、壁にもたれて静かな寝息を立てていた。
水野は思った。
「あの魔剣はどこ行ったのだろう?…ま、いいか☆」
手元にあるのは、魔剣でもナイフでも無い。心許せる人、しのぶからもらったクリスマスプレゼントだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0424 / 水野・想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター】
【0506 / 奉丈・遮那 / 男 / 17 / 占い師】

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■         ライター通信          ■
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初めまして滝照です、初仕事である私のシナリオに参加して頂きありがとうございます。
最初に参加された水野さんのあと、現実時間のクリスマス目前に奉丈さんが参加なされたことで、初仕事を終えることができました。
課程において、キャラの性格ではどう行動するだろうとか、どうつなげていくかをどうするかで悩みましたが、最終的にはギャグではなくシリアスになった感じで申し訳ないです。
これからも、おつきあいくだされば幸いにと存じます。
水野さんへ:ナイフの殺陣をもっと研究してから他のシナリオに取り入れたいと思っております。

滝照直樹拝
20030106