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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


学園祭は踊る【2日目】
●オープニング【0】
 2002年11月、例年と色々な面で異なっている今年の天川高校学園祭、そしてエミリア学院文化祭は、無事に1日目を終えた。
 日程を同日にした効果は確実にあったようで、両校ともに来客数は前年より伸びていた。連動企画もどうやら上手くいっているらしい。
 演劇部が行っている演劇『ロミオとジュリエット』の評判もまずまずだ。ちなみに1日目の23日は天川高校で行われていたが、2日目の24日は上演場所をエミリア学院に移すこととなる。
 しかし喜ばしい話ばかりではない。天川高校では、お化け屋敷が謎の半壊を起こしたようで、徹夜で修復が行われているという話である。2日目開場までに修復が終わるか定かではなかった。
 それ以外にも、祭りの活気に隠れてしまっている事柄はあるだろう。楽しさの裏に何かが潜んでいても、それは別に不思議でも何でもない。出来れば祭りは素直に楽しみたいのだけれども。
 2日目の祭りの幕は、間もなく開こうとしていた――。

●フードファイター?【5B】
 11時過ぎ、エミリア学院。曇り空ではあったが、多くの来場者がここを訪れていた。
 中庭には屋台がずらりと軒を並べていた。客足も悪くはない。その客の中に1人の青年の姿があった。真名神慶悟である。
 慶悟の手には屋台の食べ物が握られていた。片手だけではない、両手だ。右手にはお好み焼きを、左手にはバーベキューと焼きイカの串。もし手が3本あれば、3本目の手にはリンゴアメや飲み物が握られていたことだろう。
(滅多とない機会だからな。食い溜めをしておかねば)
 貧乏陰陽師である慶悟にとって、文化祭での屋台の食べ物というのはまさしく陰陽の導きと言ってもいい物であった。何しろ全般的に低価格なのだ。
 文化祭の屋台は基本的に、縁日で見かける普通の屋台とは違って利益を追求している訳でもない。中には利益を追求している所もあるがそれはさておいて。
 例えば普通の屋台で300円の物が250円だったり、中には200円ということもある。価格が下げられる一番大きな理由としては、場所代が含まれていないためだ。後は原価から見て、利益分をどうするかの調節だけだ。全般的に低価格の傾向となるのも当然だろう。
 味については……とやかく言うこともなかった。慶悟にしてみれば、不味くなければ及第なのだから。無論、安くて量があって美味しければ何も言うことはない。
 そうやって慶悟が屋台を食べ歩いていると、来場者の中に巳主神冴那の姿を見かけた。
 まあ、見かけただけである。何しろ両手が塞がっているのだ。近くに居たなら挨拶くらいはしただろうが、微妙に距離もあった。そういうことから、今は見送ることにした訳だ。しかし。
「……今日はそんなに寒かったか?」
 首を傾げる慶悟。11月下旬、確かに寒くなってきた頃ではあるが、何も真冬ではない。しかし慶悟の見かけた冴那は、何故かロングコートを羽織って手袋を装着、その上に首にはロングマフラーを巻き付けていたのだった。

●フードバトル?【6B】
「手強いな……」
 慶悟がふとした拍子につぶやいた。もっとも人間相手、ましてや妖かし相手の言葉ではない。対象はずらり軒を並べる屋台であった。
 食い溜めをしていた慶悟だったが、何気に数が多い屋台。その量もさることながら、洒落にならないような味の屋台もたまにあり、つい先述の台詞が出てしまったのである。ボクシングに例えるなら、余裕の対戦相手がたまにいいパンチを繰り出してきたということか。
 とはいえ、ある意味鍛えられている慶悟の胃袋は、そういった問題をクリアし続けていた。たいした胃袋である。
 そうやって文化祭を――もとい屋台を堪能していた慶悟だったが、浮かれているという訳ではなかった。
 幸いにして慶悟の周辺では騒ぎという物は起こっていなかったが、慶悟には少し気になることがあったのである。
(『浮かれた時ほど何かが起こる』……噂であったな……)
 往々にして、そのようなことは起こる。祭だからといって、何も起こらない訳ではないのだ。人々の浮ついた心の隙間を狙ってくる輩も居るのだから。
(とはいえ、楽しむべき部分は楽しまないとな)
 それは当然のことだった。
 慶悟は正午頃まで屋台を堪能した後、食後の茶を楽しむべく中庭を後にした。向かう先は茶室であった。

●喉を潤しに【7D】
 12時半過ぎ、エミリア学院の茶室では本日2回目の茶会の席が行われていた。ちなみに1席1時間強で、30分強の間隔を開けて行われるというスケジュールが組まれていた。
 茶室には茶を味わおうという者たちが多く訪れていた。その中には慶悟の他に、七森沙耶とウォレス・グランブラッド、冴那の姿も見られた。
 残念ながら慶悟を含め4人とも正客や次客の席に座ることは叶わなく、裏で点てた物を運んできてもらう『お点てだし』を味わうこととなってしまった。けれども『茶の湯』の雰囲気を味わう意味では十分な物だと言えるだろう。
 ただ『お点てだし』とはいえ、その味わい方で茶道の作法を心得ているかどうか自然と現れてくる訳で。
 外国から来たウォレスや、若い沙耶が作法に馴染みがないのは普通のこと。何故だかロングコートを羽織ったままの冴那は、多少作法を心得ている様子であった。
 そして意外と言っては失礼なのだが、慶悟も作法を心得ていた。外見だけを見ていると、とてもそうには見えないのだが。いったいいつどのようにして作法を覚えたのだろうか。
 ともあれ茶会の席は静かに滞りなく進み、何の問題も起きることなく終わったのだった。

●鏡巴トークショー【10】
 茶会の後、慶悟は天川高校へ向かった。目的は、昨日は都合上叶わなかった鏡巴のトークショーを見るためだ。
 天川高校に着いてもトークショーの時間までまだ間があったので、慶悟は少し他の場所を回ってから講堂へ向かった。なお、トークショーの開始は15時であった。
 開始数分前に入ったこともあり、席はほとんど埋まっていた。それでも空いている席に腰掛け、ゆったりと楽しもうとする慶悟。
 いよいよトークショーの開始。最初に主催である情報研究会の会長、つまりは巴の妹である鏡綾女が登場して簡単に挨拶を行った。
「昨日と違うよな」
 近くの席からそんなつぶやきが聞こえてきた。慶悟は昨日のトークショーを見てないので分からないが、どうやら昨日は別の者が最初に登場したようである。
 挨拶の後、大方の者が待ちわびていた巴の登場。上手から舞台に登場すると、大きな拍手と歓声に包まれていた。中には『と・も・え、さーん!』と叫ぶ者たちが居るのはご愛嬌。慶悟は苦笑しつつ、その者たちに視線を向けていた。
 トークショーの前半は、近況報告を兼ねたラジオパーソナリティとしての巴の話であった。
 普段の放送をどのように行っているのか、生放送中の失敗談、ラジオパーソナリティを志したきっかけなど、派手ではないが分かりやすく観客に語りかけるように話してくれていた。
 所々で『昨日もお話をしましたが……』と挟んでいるのは、2日連続でトークショーを見に来た観客のことを考慮してのことだと思われた。
(微妙に話を変えているようだな)
 観客の様子を見て、慶悟は何となくそう思った。無論昨日のことなど知るよしもないのだが、昨日も来ていたであろう観客が所々で納得や驚きの表情を見せていたのが気になったのだ。
 後半に入ると再び綾女が姿を見せ、普段の巴についての話が繰り広げられていった。姉妹ゆえ思いのほか深い話も飛び出すが、決して険悪な空気にはならず、穏やかなものだった。
「昨日お姉ちゃん、いかついファンの人に挨拶されて、少し戸惑ってたんですよ〜。その時のお姉ちゃんの顔、写真に撮って見せたかったかも?」
「けれど、礼儀正しい方でしたよ。皆さん、人は見かけではないんです。心が一番なんですよ」
 若干オーバー気味に話す綾女に対し、終始穏やかに話を切り返す巴。会話のキャッチボールを、巴は上手く切り返していた。さすがはパーソナリティといった所か。
「あ、これから何かお仕事とかないの? 最終日なんだから、言い忘れちゃダメだよ」
 綾女が巴に仕事の話題を振った。すると、巴は少し思案してからこう答えた。
「お仕事……になるか微妙なんですけれど、今少し調べていることがあります。恐らく来年にはお話し出来るのではないかと」
 当然ながらこのような発言には、観客より『教えてー!』コールが起こる。しかし巴は変わらぬ穏やかな口調で言った。
「今は内緒です」
 にこっと微笑む巴。そうして約45分の充実したトークショーが終了した。

●後夜祭【12B】
 トークショーが終わった後も慶悟は天川高校に居残って、後夜祭を覗いてゆくことにした。
 グラウンドではキャンプファイヤーを囲み、フォークダンスが行われていた。オクラホマミキサーを踊る輪の中には、沙耶とウォレスの姿があった。慶悟はそれを離れた場所より眺めていた。
「祭も終わり……か」
 しみじみとつぶやく慶悟。しばしの休息を味わっていたが、祭が終わればまたいつもの生活だ。ただそれまでは、この休息をじっくりと味わっていたかった。
 フォークダンスはオクラホマミキサーからマイムマイムへと変わっていた。やがては何故か東村山音頭にヒゲダンスまで。会場の受けは取れているようではあった。
「……誰が選んだんだ?」
 苦笑しつつ慶悟がつぶやいた。何しろ学園祭なのだ、こんなお遊びは今のこの瞬間しか出来ないのだから――。

【学園祭は踊る【2日目】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0526 / ウォレス・グランブラッド(うぉれす・ぐらんぶらっど)
           / 男 / 紳士? / 自称・英会話学校講師 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全26場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・年末年始を挟み、大変お待たせいたしました。申し訳ありません。2003年となりましたが、2002年のお話をお届けいたします。
・前回と今回を読んでいただければ分かるかと思うんですが、学園祭のお話は水面下で色々と仕込んでいました。その多くは軽い物で、物によってはアイテム入手の機会もあったりしたが、中には1歩間違えれば洒落にならない物まで含まれていました。もっとも、洒落にならない物に関しては無事に回避されたのですけれど。
・後は細々と……今後の冬美原の展開に関わる事柄が出てきていたりもします。参考にしていただければと思います。
・アンケートについては、ちょっとした傾向を見るための物でした。妥当かな、という気がしましたね。
・真名神慶悟さん、31度目のご参加ありがとうございます。特に騒ぎが起こることもなく、平穏な1日を過ごすことが出来ました。トークショーを見に行ったのはプラスだったかも?
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。