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<東京怪談・PCゲームノベル>


午前0時の迷路

**

シュライン・エマは執筆の期間中、あやかし荘に部屋を借りている。今日
は興信所でのバイトが思いの外時間が掛かり、現在帰宅の途についていた。
ふと、あかやし荘の玄関前にナニやら黒い塊が転がっているのが見えた。

「・・・?」

すわっ事件か?!ネタに使える?!と思ったシュラインはそぉ〜っと近づ
いて行った。すると、ボロ雑巾の様な塊はイキナリ振り向いた。
そして顔を見た途端ちょっとガッカリする。

「三下くん、どうしたの?何してるの?」

ボロ雑巾改め三下を見とめたシュラインは困惑気味に声をかけた。そして
思いっきり泣きながらシュラインに抱きつこうとした。が、間一髪で彼女
は横へ避ける。当然、三下は地面に激突。益々ボロボロな事に・・・

「ひ、ひ、酷いですぅっっ!!」

滝涙を流しながら訴える三下に取りあえず詫びを入れて、この状況かの説
明を求めた。
すると彼は涙声で自分の悲惨さを彼女にアピールした。

「・・・と、言うわけなんですぅぅ!中にどうしても入れないんですっ!」

「はぁ、玄関が変なわけね・・・。んー・・・」

暫らく玄関を見つめ某警部宜しく考えていたシュラインだったが、不意に
ポンと手を打ち玄関に手を伸ばした。
ソレを見た三下は慌ててシェラインを止めに掛かる。

「だ、ダメですよっ!危ないですって!!」

「んー・・・でも私が開けたらどうなるのかしら?意外と大丈夫だったりす
るんじゃない?」

そう言って思いっきり玄関の扉を開いてみた。すると・・・

「あら?大丈夫みたいよ、三下くん?」

丸くなって目を瞑っている三下に声をかけると、恐々と瞑っていた目を開
けた。そして先に見えたのは

「あ、あれ・・・本当だぁ!な、なんでぇっ?!」

疑問符を頭の上に飛ばしまくっている三下を一足早く玄関内に入っていた
シュラインが呼ぶ。

「ほら、はやく三下くん。」

かなり拍子抜けしながらも三下は恐々と玄関内へと足を踏み入れたその時!
一瞬後には目の前から三下の姿が消えたのだ。

「えぇっ?どう言う事?!」

そして次の瞬間には野太い声と共にホコリまみれの三下が玄関の丁度敷居
部分から飛び出してきた。

「ど、ど、どうなってるんですかぁっ!!」

「・・・これはどうやら嬉璃ちゃんの仕業みたいねぇ・・・」

「えぇっ!ぼ、僕何もしてませんよぅ!」

「ちょっと待っててもらえる、三下くん?」

「えぇっ?!」

かなり怯えた顔でこちらを見た三下にシュラインは内心苦笑した。

「大丈夫だって。玄関に入らなければいいんだから。私、ちょっと管理人
室まで行ってくるわ。」

後ろで涙声で訴えている三下を無視して玄関を後にしたシュラインの足は
管理人室へと向かっていた。

コンコン

管理人室は煌々と明かりが点いていた。扉が開き中から管理人である因幡
恵美が顔を覗かせた。

「こんな夜中にごめんなさい。ちょっと困った事が起きちゃったの・・・」

「え?どうしたんですか?」

中に入るとTVの前にちょこんと座って深夜番組を見ている嬉璃の姿があ
った。
シュラインは三下があやかし荘へと入れない経緯を説明した。

「それで三下さんは今外に居るの?」

「えぇ。それで・・・」

チラリと嬉璃に視線を向けると、彼女は小さく眉を上げた。

「もしかしたら何か知ってるかもって。ね?嬉璃ちゃん何か知らない?」

「・・・知っておったとしても相手は三下ぢゃろ?ほおって置けばいいんぢゃ」

「と、言う事はやっぱり嬉璃ちゃんの仕業なのね・・・」

その言葉に確信を持ったシュラインは深く溜息を吐いた。

「ね、どういう目的でそんなもの仕掛けちゃったわけ?」

嬉璃は仕方が無いという感じで二人の前に正座して古い紙切れを見せた。

「防犯グッズぢゃ。」

「はぁ?」

その言葉に恵美は間の抜けた声をあげた。

「この紙切れが、ですか?」

「違う違う、これは説明書ぢゃ。本体は玄関の下駄箱上においてある。」

そう言って嬉璃は紙切れをしまいこんだ。

「近頃は物騒な世の中になっておるぢゃろ?それでこの間骨董屋に行って
な、『防犯グッズ』を買ってきたんぢゃ。」

「骨董屋って・・・蓮さんとこの・・・?」

「なんでそこに防犯グッズが・・・」

「そうぢゃ!格安ぢゃったぞ。なんでも古の『ラビュリントス』とかいう
ヤツでな・・・」

「じゃぁそれが三下くんを困らせているのね。でもどうして彼だけに」

「やはり試運転(?)してみないと駄目ぢゃろ?」

「試運転もいいですが、何も今しなくても・・・」

取りあえず、シェラインは己の執筆時の集中力と安眠の為、嬉璃にそれを
解除してもらおうと交渉に入った、

その時・・・
遠く玄関から野太いあの悲鳴が聞こえて来たのだ。
当然、三下忠雄その人である。

「もう・・・世話が焼けるわね。取りあえず、行かなきゃダメみたいねー・・・
これは(溜息)」


**



新しいカクテルを考えていた九尾・桐白は、窓の外から突然聞こえて来た
野太い悲鳴に思考を一時中断させられた。一体何事だろうと、彼は廊下へ
出てみた。どうやらその悲鳴はあやかし荘玄関前から聞こえてきたようだ。

「まったく、こんな夜中にナニを騒いでいるんでしょうね?それにこの声
の主はきっと・・・」

玄関上の2階窓部分から外を見てみれば、なにやら男性が一人ボロボロの
姿で泣いているのが見えた。

「夜中にナニを騒いでいるんです?近所迷惑ですよ!」

窓を開け下を覗いて声を掛けてみればその男性はガバッと窓を振り仰いだ。

「やっぱり三下さんでしたか・・・(溜息)」

三下の姿を見とめて、九尾は窓を閉めようとした。すると三下は慌てて大
声を上げ引き止めた。

「や、ちょ、ま、待ってくださいっっ!!」

切羽詰った三下の声にヤレヤレといった風に再び窓を開け、のぞきみる。

「どうしたんです?」

「た、助けてくださいっっ!!」

「はぁ?」

先程のシュライン同様、思いっきり不審気な顔で問い返す。

「で?ナニから助けるのですか?」

三下はそれはもう嬉しそうに両手を胸の前に組んで、まるで祈るかのごと
く切々と自分の状況を説明しだした。
三下の『乙女の祈りポーズ』を多少気持ち悪く思いながらも、九尾は彼の
話を聞いてやった。

「・・・と、言うわけなんですぅぅ!中にどうしても入れないんですっ!」

「なるほど・・・話は大体解りましたが、・・・ところでシュラインさんは一体
何処へ行かれたのですか?」

「た、多分・・・管理人さんの所に・・・」

「そうですか。じゃぁもうじき結論が出ますね。」

未だに『乙女の祈りポーズ』の三下をちらりと見て先程の話の中で少し、
いや結構気になったことを九尾は問いただした。

「ところで・・・綾さんの入浴中に出くわしたそうですが・・・」

「えぇっ?!い、いや、あれは不可抗力で・・・っ」

「ほほう、では自分は潔白でたまたま玄関を開けたら浴室でたまたま綾さ
んが入浴中だったと?・・・そんな言訳イマドキ通じませんよ。まったく、
いくら自分に彼女が居ないからといって覗きはいけませんよ。」

赤くなっていた顔をさぁっと青くして三下はブンブンと頭を振った。

「だ、だ、だからっっぐ、偶然に、開けたら、め、目の前にぃ・・・」

しどろもどろになりながらも必死で言訳をする三下に、九尾はニッコリと
笑って更に追い詰めた。

「ところで三下さん。」

「え?」

「綾さん、スタイル良かったですか?」

「いや〜それは、まぁ(照)」

即答して顔を真っ赤になった三下に九尾はピクリと眉を動かした。

「しっかり見てるじゃないですか!!」

九尾は手近にあったタワシやバケツ等を窓から思いっきり三下に投げつけ
た。

「い、痛いですっ!ご、誤解ですぅぅっ!!」

次から次に振ってくるモノから見を避けるため、手っ取り早く玄関内へと
避難した。が、ここで彼は一つ失念していた。
自分が何故寒いのを我慢して外にいたかという事を。

したがって、つまり・・・


**

「うぎゃああああぁぁぁぁっっっ??!!」

**

絶叫と共に玄関を飛び出して来た三下に、九尾は呆れて言葉をかけた。

「何をしているんですか・・・学習能力の無い人ですねぇ・・・」

「だ、だ、だってっ九尾さんがタワシ投げるからっ!!」

滝涙で訴える三下を溜息を吐いた。
すると・・・どこからか嫌〜な気配と妙な呻き声が聞こえて来た・・・
ハッとして九尾は窓から玄関口へと身体を乗り出し視線を移すとそこには、
真っ黒で巨大な一匹の獣が玄関の扉をぶち破って現れたのだった。
ある一点を凝視して絶句している九尾を不審に思った三下も、その視線の
先にあった『巨大なモノ』を見止め、そして更にソレと視線なんか合わせ
ちゃったりして・・・

「ど、ど、ど、どっ」

「落ち着いてください、三下さん。」

あまりの事に腰を抜かした三下に九尾が冷静に声をかけた。
騒ぎに管理人室に居た3人も玄関へと現れ、その巨大な獣に唖然とする。

「やっぱり『ミノタウルス』でたワケね・・・」

「おぉっ!!凄い『防犯グッズ』ぢゃっ!!」

「ちょ、ちょっと二人とも何してるんですか!三下さん助けないと!!」

「おやその声はシュラインさんと管理人さん達ではないですか。」

三人の声に2階の窓から見を乗り出して悠長にも手を振る九尾。
対して、三下は涙声で訴える。

「お、落ち着けませぇんっっ!!うわゎゎゎっっっ!!!」

それは唐突に動いた。イキナリ三下目掛けて突進して来たのだ。

「きゃっ!」

今まさに飛び掛らんとした『ミノタウルス』がピタリと動きを止めた。

「さ、私がコレを抑えている間に三下さんを!」

振り仰げば九尾が鋼の糸を使い『ミノタウルス』の動きを封じ込めている
姿が見えた。

「すっごい!九尾さん!」

「よしっ!今のうちに」

「余計な事を・・・」

一人不満そうな嬉璃を残して、シュラインと恵美は急いで三下を引き摺っ
て玄関から遠ざけた。そしてピクピクと小刻みにに糸を切ろうとする『ミ
ノタウルス』を見やった。

「シュラインさんこれからどうするんですか?」

窓上から糸を操りながら九尾が下に声をかける。

「ね、捕縛はどれくらい持ちそう?」

「ちょ、ちょっとヤバイですね・・・」

それを聞きつつシュラインは嬉璃へと視線を向けた。

「嬉璃ちゃん、これの『防犯グッズ』どうやったら無効になるの?」

「良いぢゃろ、別に三下が喰われるだけぢゃ。」

「そうも言ってられないでしょ?ねぇお願い嬉璃ちゃん!」

因幡恵美の訴えに嬉璃は渋々と表へ出てきた。

「仕方ないのぅ・・・」

そう言って徐に、糸でつられた状態の『ミノタウルス』のお腹を人指し指
で軽〜く押した。すると瞬時に巨大な獣は小さな手のひら大の黒い置物へ
と変化した。糸を引張っていた九尾はホッと肩の力を抜いた。

「これで終わり?」

「そうぢゃ。」

あんまりな結末に目が点になる3人。

「えっと、嬉璃ちゃん・・・これが例の『ラビュリントス』?」

「まぁ深く考えるな。さて、寒いから管理人室でお茶でも飲むのぢゃ。九
尾も降りてこぬか?」

それだけ言うと嬉璃は一人でサッサとあやかし荘内へと入っていった。そ
して残された彼らはあまりの簡単なリセットにその場に脱力するのだった。


**


「あら?そーいえば三下さんは?」

管理人室で皆でゆっくりお茶を飲んでいると、唐突に恵美が三下の姿が
無い事に気がついた。

「自分の部屋でしょう。」

「疲れていたみたいだからね。」

「三下さんの事はほって置いて、お茶、冷めちゃいますよ?」

「そうぢゃそうぢゃ。アヤツのことなど心配せんでもよい。」

嬉璃の言葉にう〜んと小首をかしげながらも4人は眠気の覚めた午前様
をノンビリと過すのであった。


**

その頃玄関前では・・・

「・・・ひ、酷いですぅぅぅぅ」

玄関の扉を鍵で旋錠され締め出しを食った三下が小さなダンボールの中
でシクシクと泣いていた・・・


結局、一晩中彼はあやかし荘に入る事が出来なかった。(合掌)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 /シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト

0332 / 九尾・桐白  /男/27/バーテンダー

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■         ライター通信          ■
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こんにちわ。おかべたかゆきと申します。
ご参加頂き有難うございました。
新年明けそうそう〆切りギリで申訳ありませんっ(滝汗)
少しでも面白かったら幸でございますです・・・はい(走)

・・・でも三下さんを苛めすぎたかも・・・。