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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・地下都市 HEAVEN>
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そして誰もいなくなった
「ここを私の国にしてやるワ……ひとり残らず人間を排除してやル」
そう言い残して、女悪魔プロセルピナは消えた。
ギリシャ神話のゼウスとデメテルの娘でありながら、冥王ハーデスの妻となった娘。
そして今、HEAVENを我が物にしようとしている地獄の女王。
◇
その日の合法カジノバー【胡蝶の夢】は、こんな話で持ちきりになった。
「東G地区の連中が、ごっそり姿を消したらしい」
それはもう、神隠しにでもあったかのように忽然と姿を消したのだという。
ほんの少し前まで生活していた形跡は確かにある――だが、人影だけは皆無。
「何それ、新しい冗談?」
まるで相手にせずケラケラと苑川蝶子(そのかわ・ちょうこ)が笑うと、ドンッとカウンターを叩いて少女は反論した。
猫のような目をした金髪の、まるで少年のような娘だ。
「蝶子姉さん、信じてくれないの?ホントだよ、ホントに東Gの連中、いなくなっちゃったんだ」
自身も東地区に住む少女は、きっと不安なのだろう。
落ち着けるように彼女の頭を撫でて、蝶子はホットミルクをカウンターの上に出した。
「茶化してごめんね。取り敢えず、これでも飲んで落ち着いてちょうだい」
「うん……」
しぶしぶとだが、少女はマグカップを両手で抱えるように持ち上げる。
そして、思い出したように上目遣いで蝶子を見上げた。
「あのね……あたい、昨日の晩に笛の音を聞いたの。どこか遠くのほうでだったけど……よく考えたら東Gのほうだったかもしれない」
翌日から、その少女は【胡蝶の夢】に現れなくなった。
それだけでなく、東地区に定住していた常連たちも姿を見せなくなった。
(……まさか)
彼女の言葉を信じるべきだったか、と蝶子は唇を噛む。
唇が破れ、血がこぼれた。
『……蝶子』
その時、自室のテーブルの上に乗せた端末――テレビ電話が、受信音とともに声を運ぶ。
低く心地よいそれは、HEAVENを統治する男、三千院朱門(さんぜんいん・しゅもん)のものだった。
「朱門様……」
呼びかけは、掠れた声になる。
画面の向こうで朱門は眉根を寄せると、厳しい口調で告げた。
『東地区の住人は全て消えた。おそらく、あの女の仕業だろう……次は南だ』
「南地区でも、その兆候が?」
『ああ。すでに南N地区がやられた』
画面の前で、蝶子は愕然として両手を合わせた。
このままでは、HEAVENから全ての人が消えてしまう。
蝶子に出来ることは、ただ祈ることだけだ。
――力を持つ誰かが、赤い悪魔を阻止してくれるように。
◇
HEAVENのダウンタウンにひっそりと存在する、妖怪骨董堂【鬼哭】。
世界中の様々な妖怪がコレクションされたその店は、クライブ・冴羽という男の手によって運営されている。
「……で?私に何を聞きたいと?」
嫌味たっぷりにフンと鼻を鳴らし、クライブは大仰に足を組んでみせた。
【鬼哭】の奥にある、テーブルと椅子のある狭いスペース。
「似たような魔物や妖怪の話は知らないか?」
左手にだけ黒い革手袋をつけた男、霧原鏡二が膝の上で両手を合わせ、問う。
鏡二は年の頃なら20代半ば、髪も瞳も、身につけた衣服さえも全て黒でまとめ、全身からクールなオーラを放っていた。
地上の世界ではエンジニアとして、ハードウェア設計やシステムプログラミングなどを手がけている。
だが故あって、たびたびこのような怪事件に関わることも多かった。
「笛の音といえば、いくら知能レベルの低い人間でも、思い当たるモノがひとつくらいはあるでしょう?」
やけに挑発的に、クライブが小首を傾げる。
だがそれには過剰に反応せず、もうひとり――同じ部屋にいる紅一点、風見璃音が眉を少しだけ動かした。
「ハーメルンの笛吹、ね」
細身なためか実際よりも長身に見える璃音は、実は人間ではない。
人間に紛れて生活を送っているが、突然失踪した婚約者を捜して遠い山からやって来た、白狼族の姫である。
「笛の音に導かれるように、子供たちは街から消えてしまった。今回の話をあの蝶子っていう人から聞いて、まっさきに私はそれを連想したわ」
「だったら話は早い。どうぞお引き取り下さい、こう見えて閑ではないんですよ」
まるで追い払うかのように手を振るクライブに、鏡二は肩をすくめた。
「おいおい、それはないだろう。あんたも住人なら、他人事ではないだろうしな」
「他人事ですよ。私はこの街にいなければならないわけじゃない。いつでもコレクションを持って去ることができる」
血の色をした瞳でクライブは鏡二、それから璃音を一瞥すると、店の奥に消えていった。
残された璃音と鏡二は、互いに困惑した表情でため息をつく。
ふたりともつい先程、ここで出会ったばかりだが――目的が同じで手がかりがない以上、協力するのが得策だ。
双方、いつもなら誰の手も借りずに単独で調査を進めるタイプなのだが、そうも言っていられない。
「まずは無人になった東地区に行ってみたいと思う。魔物の類が絡んでいないかを探れるかもしれないし、運が良ければセキュリティカメラなどに何かデータが残っているかもしれない」
理に適った鏡二の提案に、璃音は快く賛成した。
「そうね。おそらくは、プロセルピナっていう悪魔本人じゃなく、今回の件を仕組んだ手下がいると思うんだけど……できたら詳しい能力を知りたいわね」
白い指を顎に這わせ、璃音は思案を重ねる。
本来だったらクライブに訊きたいところだが、もはや彼に話をする気がないのだとすれば、仕方のないことだ。
と、奥から書物などを抱えたクライブが戻ってきて、眉を跳ね上げた。
「まだ居たんですか」
「いや、もうすぐに失礼する」
苦笑混じりに鏡二が立ち上がり、璃音もそれに続いた。
その背後に、含みを持たせたクライブの声が追いすがる。
「霧原さんと言いましたっけ……貴方の左手の物、譲ってくれると言うならいくらでも情報を提供しましょう」
ピクリと鏡二の肩が揺れた。
彼の左手には、『悪魔の卵』と呼ばれるアメジストが埋め込まれている。幼い頃に闇の者の手によって行われた所業だ。
これがあるばっかりに、奇妙な出来事に巻き込まれるようになり、また月に一度は闇の者を喰らい、魔力を充填せねばならなくなった。
「悪いが、それは無理だ。外せるのかどうかもわからなければ、俺の命の保証もないのでな」
「残念ですね、大変な価値があるのですが」
心底残念そうに語るクライブに見送られ、ふたりは店の外に出る。
扉を閉めるために手をかけたクライブは、思い出したように璃音に視線を向けた。
「そういえば……貴女の親戚筋にある男を見かけましたよ。黒の王だという自覚はないようでしたけれど」
「……っ!」
鏡二といい、璃音といい、口に出していない事柄を次々に言い当てられ、驚嘆におののく。
だが璃音にとって気になるのは、それより先の――
「待って、黒狼様は今この街にいるの!?」
「さぁ、存じません」
ニッと不敵な笑みを浮かべて、クライブは扉を閉めた。
その後、どんなに璃音が押しても引いても、【鬼哭】の扉は開くことがなかった。
それからふたりは東地区を訪れたが、とくに何の収穫も得られなかった。
「本当に……話に聞いたままだな」
ある住居の中、それまで所持していた者が突然消えてしまったかのように、無造作にころがるヤカンを鏡二が足蹴にする。
だが、それに対する返答はなかった。
璃音はといえば、時折ひとりでブツブツと呟きながら、なにやら物思いに耽っているからだ。
「自覚がない……まさか、黒狼様が?いえ、そんな筈ないわ……でも……」
さきほどクライブに言われた言葉が、気になって仕方がない。
黒狼は間違いなく、この街に来た。だがまだ此処にいるのかどうかは、定かではなくて――。
「南地区に行ってみるか?」
「えっ、ああ……そうね。ごめんなさい」
鏡二の言葉に我に返った璃音は、余所行きの笑顔を浮かべた。
◇
薄暗い部屋の中。
中央街全体を見渡せるガラス窓から、苑川蝶子は下界を見下ろしていた。
「決着をつけるべき時が来たようだ」
低く響く統治者の声に、蝶子は窓に這わせた指先に力を込める。
部屋の中央で、椅子のもたれ背を鳴らしながら、三千院朱門は無表情に天井を見上げていた。
管制タワー【バベルの塔】最上階。
統治者本人と、その許可がなければ誰ひとりとして立ち入ることの出来ない空間だ。
「それはつまり、あたしたちの存在意義が問われるときが来たと言うことですよね、朱門様……?」
蝶子にしては珍しく、弱々しい声で呟く。
「ああ……そうだ……」
朱門の返答に、蝶子は額をガラス窓に押しつけて、小さく肩を震わせた。
◇
南地区はすでに人気がなく、静かだった。
噂を聞きつけた住人たちが、謎の消失を怖れて別の場所に移動してしまったからである。
その南地区の入り口で、彼らはバッタリ顔を合わせた。
すなわち、蝶子経由でこの件に関わることになったメンバーだ。
「あれ、あなた……」
白いワンピース姿の少女・朧月桜夜が指さしたのは、黒づくめの青年・霧原鏡二である。
また、別の方向から鏡二を指さす少年がもうひとりいた。山伏風の着物を纏った北波大吾だ。
「あー……たしか霧原サンだっけ」
「あんたたちも絡んでいたのか」
微苦笑を浮かべ、鏡二はここまで共に行動していた女性、風見璃音に2人を軽く紹介した。
鏡二と桜夜、そして鏡二と大吾は以前別の依頼で顔を合わせたことがあったため、友人とまではいかないが、それなりに交流がある。
「あなたたちも同じ件の調査を?」
これまでにも場数を多く踏んでいるのだろう、慣れたように璃音は尋ねた。
すると桜夜が、なぜか胸を張って答える。
「そーゆーコトみたいね」
一同はザッとこれまで集めた情報の交換をし、データを整理することにした。
桜夜が【AX】で手に入れたのは、おそらく今回の件はプロセルピナがHEAVENを自分の物にするため、邪魔な人間を排除しているのではないかということだった。
大吾が情報屋の刀流から聞いたところによれば、今度は南地区全体がターゲットになるだろうということ。
「笛の音で住人を連れ出してんだったら、絶対に術者がどっかにいるはずだろ?探知の術で、大元を探ってみるぜ」
大吾は脇にはいていた刀を抜き、短く呪文を唱えた。
刀身がわずかに輝きを帯びる。
「ダウジングっつーの?歩きながら呪力を探知して、なにかあれば反応するからさ」
「ならば俺は、精霊を飛ばして遠くの魔力を探査しよう」
同じく探査の力を持つ鏡二は、風の精霊を召喚すると簡単に命令をし、それらを放った。
「変な物音や匂いなら、私がわかるわ」
常人より優れた聴力と嗅覚を持つ璃音も、あたりに注意を集中させる。
一行は、まとまって歩みを進めながら、ささいなことでも何か予兆のようなものがないかを探して回った。
そ、その時。
ピイ―――――――――――
どこか懐かしいような音色が耳に届いて、素早く大吾は耳を塞いだ。
また、鏡二はとっさに風の精霊を自らの周りに放って音を遮断する。
あらかじめ、呪術効果のある特製の耳栓をつけていた桜夜も、とくに影響を受けることなく、その音を聞いた。
だが、その聴覚が仇となってか、璃音のみが笛の音の魔力の影響をモロに受けてしまった。
「うっ……」
頭を抱え、苦悶の表情を浮かべた璃音だったが、まるでなにかに導かれるかのように、一歩ずつ足を進めていく。
「ちょっ……大丈夫!?」
思わず桜夜が璃音の肩を掴み、軽く揺さぶるが、璃音の目はどんどん虚ろになっていった。
桜夜を振りきり、どこかへ向かって進もうとする璃音。
「ねぇ、どうしよっか!?」
桜夜が男性陣を振り返ると、鏡二がコクリと頷いてみせた。
「いや、そのまま彼女に案内してもらおう――笛の音に誘われた者がたどりつく先に」
気がつくと璃音だけでなく、まだこの地区に残っていた住人たちも、笛の音に誘われるように家から出てきはじめている。
「よっしゃ、行こうぜ!」
耳を塞いだまま気合いの声をあげる大吾を先頭に、桜夜と鏡二は追跡を開始した。
◇
「ここって――下水道の入り口?」
ゾロゾロと、笛の音に操られた人々が入っていくのは、第3階層へと続くゲートだった。
第3階層は下水道や発電施設などが広がる場所で、普通ならば一般人が立ち入ることなど殆どないはずだ。
「何かあるって言うのか、この下に――」
眉間にしわを寄せる鏡二の後ろで、大吾が上を向いて指をさす。
「おい、あれ!」
近くの住居の屋根の上に、まるで自室でくつろいでいるかのように寝そべり、笑みを浮かべている女が1人。
真っ赤な髪に真っ赤な服――プロセルピナだ。
「出たわね、あいつ……!」
キッと唇を噛み、桜夜が印を結んだ手をそちらの方向に向けた。
以前、プロセルピナには大いに屈辱を味わされた桜夜の瞳には、怒りの焔が燃えている。
プロセルピナは、遠目に見ても奇妙な形状をした横笛を手にしていた。
今はもう笛を吹くことをやめて、状況を面白そうに見守っている。
「あれがプロセルピナ……彼女が直接手を下していたのか」
まさか大ボスが直接手を下しているとは思ってもみなかった鏡二は、ほんの少しだけ驚きの表情を浮かべた。
「とりあえず俺は、こいつらが中に入っちまわないように、なんとかやってみるぜっ」
刀を構えた大吾は、新たに呪文を唱えて別の力を刃に乗せる。
まずは、今にもゲートをくぐりそうになっている璃音の首をめがけて、勢い良く刀を振り下ろした。
「!!」
電流を喰らったときのように、璃音の身体が弓なりにしなる。
だが寸止めで、刃自体は璃音の身体には触れてはいない。
瞬間的に身体からほとばしった術力が、璃音の身体から魔力を追いやったのだ。
「っ……ありがとう、助かったわ」
多少は痛そうに首の後ろを押さえながらも、その強い生命力を持ってして、璃音は気絶することなく正気に戻った。
「礼はいいから、姉さんもこいつら何とかしてくれッ」
次々に住人たちにも刀を振り下ろしながら、大吾が叫ぶ。
璃音は頷き軽く拳を握ると、手近なところから住人たちの鳩尾に軽く衝撃を与え始めた。
荒療治ではあるが、ほとんど無人だと思っていた南地区には予想以上に住人が残っており、そうでもしないと埒があかないのだ。
その間、桜夜と鏡二は、プロセルピナのいる場所まで風の精霊の力を借りて飛び上がり、女悪魔との対面を果たしていた。
「さーて、覚悟してもらいましょうかっ」
パキパキと指を鳴らしながら凄む桜夜に、プロセルピナはスウッと目を細める。
そして思いだしたかのように凄絶に微笑むと、舌なめずりをした。
「貴女この間ノ、弱い人間ネ。また私の邪魔をしに来たノ」
独特のイントネーションで喋るプロセルピナに、不意に鏡二は嫌悪感を覚えた。
左手に埋め込まれた魔力の源『悪魔の卵』が、次第に熱を帯びてきているような錯覚に陥りそうになる。
「生憎、お前の好き勝手にさせるわけにはいかないんでな」
「だったら叩き潰すまでヨ、目障りだもノ」
鏡二の台詞も一蹴し、そこでやっとプロセルピナは立ち上がった。
「東地区の人たちはどこにやったの」
全身から殺気を放ちながら、桜夜が問う。
女悪魔は不思議そうに首を傾げてから、ああと声をもらした。
「彼らなら、私の国にいるワ。今頃、低級悪魔の餌になってるでしょうけどネ」
「お前の国――?」
プロセルピナは地獄の女王。
今日と同じようにして誘導されていった東地区の人々の行き着く先は、地獄なのだというのだろうか?
この第3階層へと続くゲートの向こうが――。
その時、ワアッという声があがった。
彼らよりもやや遅れたが、【AX】の刑事たちが現場に駆けつけたのである。
その中には、警部である榛名浩二の姿もあった。
「また要らない人間が増えたわネ……」
不服そうに呟いて、プロセルピナが手にした笛を一気に握りつぶした。
それはまるで玩具に飽きた子供のように、あっさりとしたものだった。
呪具が壊れたことによって笛の音の効力は無効化され、住人たちも我に返る。
【AX】の刑事たちがプロセルピナのいる建物の周囲を包囲し、璃音と大吾もその中にいた。
勢力は、明らかにこちら側が有利である。
「やれやレ。せっかく面白いところだったのニ、興ざめしたワ」
プロセルピナは、ふいっと身体を翻し、虚空に消えていった。
無論、桜夜や鏡二、刑事たちはむざむざと逃がすわけにはいかないと連続して術を放ったが、どれも簡単にかわされてしまった。
こうして、この事件は後味の悪いまま、幕切れとなったのである。
◇
プロセルピナが消えた後、榛名浩二の元に一同は集合していた。
軽い怪我を負ったのは璃音と大吾だったが、どちらもすぐに手当を受けて、ケロッとしている。
「それより、何だったの?あのプロセルピナっていう悪魔――」
璃音には、まったくもってプロセルピナの行動が理解できないのだ。
面白半分、大した目的もなく、人々を弄ぶなど――神話では清純な乙女だったはずのプロセルピナだが、実際のところは相容れることなど出来そうもない。
「それよか俺、なんか消化不良で暴れ足りねぇんだけど……」
と嘆息するのは大吾である。
これだったら地上の世界でケンカでもしていたほうが、よっぽどスッキリするぜ――という台詞に、浩二は苦笑していた。
それとは対照的に、苛々しているのは桜夜だ。
「あーっ、もう!今回は絶対ギャフンって言わせてやるつもりだったのにぃっ」
プロセルピナと一戦交えられなかったのがよほど悔しいらしく、ずっと地団駄を踏んでいる。
その横であくまで冷静に、鏡二は浩二に尋ねた。
「さっきあの女が言っていたんだが――東地区の住人は『地獄』へ連れていかれたらしい。そこのゲートを通ると、いったい何処に辿り着く?」
HEAVENの構造を思い出す。
今いるここは第1階層――人々が生活する場所。
第2階層は地下鉄、第3階層は下水道などの施設があることはわかっている。
だがその下、第4と5の階層は――たしか封鎖されていて、迷宮が広がっているのではなかったか……?
その問いに、浩二はあいまいな笑みを浮かべてかぶりを振った。
「君たちには本当に感謝しているよ。だけどもう、HEAVENには関わらないほうがいいかもしれない。このまま地上に帰って、のんびり暮らすんだ」
「ちょっと榛名ちゃん、どういうことよソレ」
予想外の言葉に、桜夜が眉根を寄せる。
「HEAVENの下には、あの女の言うとおり『地獄』が広がっている。いや、その『地獄』を監視するために、このHEAVENが造られたと言ったほうが正しいかな」
そう言って浩二は、鏡二の肩を叩いた。
「これから先も、プロセルピナは何をしてくるかわからない。その度に地上人である君たちを巻き込むわけにはいかないよ」
「でも……」
こんなにも中途半端に関わってしまっている状態で、はいそうですかと知らん顔が出来るだろうか?
「でも私は、まだこの街でやりたいことがあるの」
揺るがぬ決意を胸にした璃音が、まっすぐに射抜くように浩二を見つめた。
やっと掴んだかもしれない探し人の手がかりを、ここで無くしたくはない。
大吾も、鏡二も、桜夜も、璃音と同じような表情をしていた。
それを見た浩二は諦めたように深々とため息をつくと、
「わかったよ。もし君たちが、本気でHEAVENに関わる気なら――三千院さんからキチンとこの都市について説明してもらうから。今日のところは、自分の家に帰るんだ――」
やさしい微笑を浮かべ、全員の肩をいたわるように叩いた。
◇
中央街を覆うドームの崩壊が始まったという報告が入るのは、その数日後のことである――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0074/風見・璃音(かざみ・りおん)/女/150歳/フリーター】
【0444/朧月・桜夜/(おぼろづき・さくや)女/16歳/陰陽師】
【1048/北波・大吾(きたなみ・だいご)/男/15歳/高校生】
【1074/霧原・鏡二(きりはら・きょうじ)/男/25歳/エンジニア】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、担当ライターの多摩仙太です。
まずは……しめきりを大幅に破ってしまい、大変申し訳ありませんでした!
数多いライターの中から私の依頼を選んで参加していただいた発注者様を裏切るような今回の行動……なにもかも、自己管理の出来ていない私のせいです。
本当に本当に申し訳ありませんでした。
とくにホームページのほうで1/20には納品……などと書いたばっかりに、お待ちになっていた方もいらっしゃるかもしれません。
何とお詫びして良いものか……少しでも作品を気に入っていただければ、救われるのですが……。
初めましての北波さん、霧原さん。
またお会いできて嬉しいです、の風見さん、朧月さん。
プレイングは皆さん一長一短で、4人合わせて丁度良い具合になっていたかな、という印象を持ちました。
これからも頑張って、いろいろな依頼にチャレンジして下さい。
ちなみに各PCさんの関係はテラコンの相関図を参考に致しました。
各PCさんの詳細描写は、3番目のシーンが個別になっていますので、そちらのほうを参照していただければと思います。
本来でしたら上手い具合に共通部分に挿入できれば良かったのですが、今回はそちらまで手が回りませんでした……。
さて、今後の予定なのですが。
次回は2月上旬、HEAVEN最後の物語のシナリオをアップする予定でおります。
今回のストーリーの中にいくつか伏線を張っていますので、興味があれば続けて参加していただけると面白いかもしれません。
因みにこれをもって、私は東京怪談(OMC)から期間未定で離れることになると思います……。
詳細はまたホームページのほうで告知いたしますので、よろしければアクセスお願いいたします。
それでは、今回は本当にどうもありがとうございました。
2003.1.21 多摩仙太
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