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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


幽霊スキー場へようこそ
〜 幽霊スキー場への誘い 〜

「没」
素っ気ない一言とともに、原稿がシュレッダーに放り込まれる。
もう見飽きるほどに見慣れた光景。
「そ、そんなああぁ」
ガックリと肩を落とす三下。
だが、いつまでもそうしていても事態は一向に好転しない。
「わかりました、書き直してきます」
三下はそう言って席に戻り、次の原稿を書き始める。
それが、いつものパターンだった。

だが、この日は少し違っていた。
「三下君、ちょっと」
自分の席に戻ろうとした三下を、碇が呼び止める。
「はぁ、なんでしょうか?」
三下が再び碇の方に向き直ると、碇は机の引き出しから一枚の封筒を取り出した。
「その原稿はもういいから、ここに行ってきて」
「はぁ」
今度は一体どこに行かされるのだろう。
そう思いながら、三下はおそるおそる封筒を開けた。





案に反して、封筒の中から出てきたのは何の変哲もないスキー場のパンフレットだった。
「あの、編集長、これは?」
不思議に思って聞き返す三下。
「見ての通り、スキー場のパンフレットだけど」
碇はそう答えると、パンフレットに載っていた地図を指さした。
「この場所を見て、何かに気づかない?」
しかし、地図をどれだけ見ても、三下には碇の言わんとすることがわからない。
「いえ、特に何も」
やむなく三下がそう答えると、碇はスキー場からやや西の地点を指してこう言った。
「そこはね、数年前まで自殺の名所だった場所の近くなのよ。
 バブル期に、あまり細かいことも調べずにスキー場を作ったらしいんだけど、
 そのせいで、スキー客に混じって大量の幽霊が出るそうよ。
 もっとも、危害を加えられたという話は今のところ聞かないけど」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 魔王と愉快な幽霊さんたち 〜

その翌日。
問題のスキー場から少し離れた森の中を、一人の男が歩いていた。
彼の名は海塚要(うみずか・かなめ)、現世に降臨した魔王である。

「ふむ、この辺りでいいか」
雪の積もった斜面に立って、彼は誰にともなくそう呟いた。
なるべくスキー場に近く、スキー場からはほとんど見えないであろう場所。
彼がこれから行おうとしていることのためには、まさに絶好のポジションであった。

「スキー場を彷徨いし霊たちよ! 我が下に集え!!」
その言葉とともに、魔力の波動が辺り一帯に広がっていく。
生身の人間であればまず感じ取れぬ程度の、しかし霊体であれば確実に感じられるほどのそれは、すぐに幽霊たちを呼び寄せるはずであった。

そして実際、幽霊たちは集まってきた。
斜面の上の方から、色とりどりのスキーウェアを纏い、スキーやスノーボードをしながら、であったが。
彼らの予想を遙かに上回る元気と明るさに、さしもの要も思わず目を丸くする。
そうしているうちにも、幽霊たちは次々と集まってきた。
ざっと、百人ほどはいるだろうか。
どの顔にも恐りや哀しみ、苦しみといった負の感情は見られず、人生……というには少々語弊があるのだが、とにかく、ここでの日々を楽しんでいる様子が見受けられた。

(ううむ、想像していたのとだいぶ違うではないか)
要がそんなことを考えていると、幽霊のうちの一人が要の前に歩み出て、興味津々といった様子でこう尋ねた。
「オレたちに、何か用ですか?」
「うむ、実はお前たちの力を借りにきたのだが……お前たちは、この近くで自殺した人間の霊ではないのか?」
要がそう疑問を口にすると、幽霊はきょとんとした顔で答えた。
「ええ、そうですけど」
「それにしては、自殺した者特有の暗さというか、そういったものが全く見受けられんのだが」
「まぁ、今はあのスキー場のおかげで毎日が楽しいですからね。
 あのスキー場が出来る以前は、そりゃみんな暗い顔をしてましたよ」

その後、幽霊たちが口々に語った話を総合すると。
彼らは皆それぞれの理由で自殺してはみたものの、結局成仏できずにこの世に留まってしまった。
しかも、ただ成仏できないだけでなく、この一帯から出られなくなってしまったのである。
辺りにあるのはただ森と山のみ。
この世の苦しみから死によって逃れようとした彼らを待っていたのは、永遠の苦しみ、というより、むしろ永遠の退屈であった。

彼らをその退屈から救い出してくれたのは、数年前に出来たスキー場だった。
スキー場と、それに隣接するホテルやロッジには、様々な娯楽があった。
しかも、シーズン中は人が入れ替わり立ち替わり訪れるスキー場ならば、新しい話題を仕入れることにも事欠かない。
かくして、彼らの永遠の退屈は終わり、楽しい日々が始まったのである。

「なるほど、それでスキー場に出入りしていたわけか」
要が納得した様子を見せると、幽霊は笑いながらこう尋ねた。
「それはそうと、オレたちの力を借りたいことってなんなんです?」
「うむ。実は、これを身につけてもらいたい」
そう言って、要は用意してきた猫耳と猫尻尾を取り出した。
居並ぶ幽霊たちの目が、一瞬にして点になる。
「これを身につけ、『リリカル☆ネコミミーズ』を結成するのだ!」
その要の言葉に、すぐに答えるものはいなかった。
ああ、この冷たい風の理由は、今が冬で、ここが山で、雪が積もっているから、だけなのだろうか?

少しの間の後、後ろの方にいた幽霊の一人が口を開いた。
「あ、私知ってる。それ、コスプレってやつでしょ?」
それを皮切りに、幽霊たちが一斉に騒ぎ出す。
「コスプレかぁ。なんか楽しそうじゃん」
「最近、スキーもスノボもマンネリになってきたしなぁ」
「そうか、最近はこういうのが流行ってるのか」
その反応がおおむね好意的なことに気づいて、要は改めてもう一度尋ねた。
「やってくれるな?」

次の瞬間、幽霊たちが要のところに殺到した。
「やるやる!」
「任せといて!」
「んじゃ、一つやってみますか!」
これでは、いくら魔王といえど、とてもさばききれたものではない。
「あ、こら、慌てずともちゃんと人数分以上は用意してある!
 だから押すな! 走るな! 割り込むな! ちゃんと一列に並べえぇっ!!」
要の叫び声は、しかし、幽霊たちの波に飲まれて消えていったのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 猫耳大決戦!? 〜

一緒にゲレンデに出た斎悠也(いつき・ゆうや)や高杉奏(たかすぎ・かなで)と別れてから約十数分後。
「ここから行くのがよさそうだな」
霧原鏡二(きりはら・きょうじ)はスキー場のもっとも西端にあるコース……中級者以下お断りの「エクストリームコース」に足を踏み入れていた。
先ほどから感じていた嫌な予感は、どんどん強くなっている。
このままでは、大変なことになってしまうかも知れない。
そんな奇妙な焦燥感に駆られながら、鏡二は「エクストリームコース」の急斜面を滑り降りていく。
すると、その途中で、鏡二の左手の「悪魔の卵」が強い霊気を感知した。
理由はわからないが、多くの霊たちが一カ所に集まっている。
そのことに気づいた鏡二は、すぐに方向転換してそちらの方に向かった。
ちょうど壊れていたフェンスの間をくぐり抜け、木々の間をすり抜けて、鏡二は霊気を感じた場所へと急いだ。

だが時すでに遅く、鏡二がそこに辿り着いたときには、すでに十分大変なことになってしまっていた。
……いろんな意味で。

ひときわ大きな木の根本で、雪だるまのごとく雪玉から顔を出している三下。
それを取り囲む、色とりどりのスキーウェアを着た猫耳+猫尻尾の幽霊たち。
そして、その前に立つ要と、対峙する水野想司(みずの・そうじ)の姿。
その想像を絶する光景に、鏡二は思わず自分の目を疑った。

「ふはははははっ!
 来たな、水野想司!!」
高笑いを上げながら、要がびしっと想司の方を指さす。
すると、想司も負けずに要を指さして叫んだ。
「やっぱり、要っちの仕業だったんだねっ☆」
「その通り!
 本来ならばこの三下という男を先に我が僕に加えてから貴様と雌雄を決する予定だったが、少々予定が狂ったようだ。
 だがしかし! もはやその必要もないっ!」
要はひときわ大きな声でそう宣言すると、自分の後ろに居並ぶ幽霊たちを指し示してこう続けた。
「猫耳、そして猫尻尾! これぞ真の萌え!
 真の萌えを知ったこの私にもはや敵はなし!
 今日こそ真の最強が誰であるか、貴様にわからせてくれるわ!!」

「萌え」と強さの間に一体どういう相関関係があるのか、鏡二には全く理解できない。
それは理解できないが、いずれにせよ、非常にヤバい状況であることは一目瞭然である。
(これは、早く三下さんを助けた方がよさそうだな)
そう考えた鏡二が、要と想司が二人の世界を形成しているうちに三下を救出すべく、一同の後ろに回り込もうとしたその時。
「違う! それではまだ甘い!」
要でも、想司でも、そしてもちろん三下でもない誰かの声が、木々の間にこだました。

驚きの声を上げる要。
きょとんとした顔の想司。
雪だるま状態のまま辺りをきょろきょろと見回す三下。

三者三様の反応を示す三人の前に歩み出たのは、一人のやせぎすの男だった。
「確かに、猫耳だけの状態から猫尻尾の不足に思い至ったのは立派です。
 ですが、猫耳、猫尻尾だけではまだ不十分と言わざるを得ません」
得意げな様子で要のミスを指摘する男に、要がくってかかる。
「これ以上、何が足りないというのだ!?」
すると、男はニヤリと不気味な笑みを浮かべて、背中に隠し持っていた「あるもの」を取り出した。
「あなた方に不足しているのは……これですよ」
その「あるもの」を見て、要を除く全員の目が点になる。
そして、その様子を見つめる鏡二も、やはり驚いて、というより、呆れてものも言えなかった。
「そ、それは……猫グローブ!?」
驚愕の表情を浮かべる要に、男は勝ち誇ったように語り始める。
「そう! これぞ猫耳、猫尻尾と並ぶ三種の神器の一つ、猫グローブです!
 この猫の手、そして肉球の魅力が加わって初めて、猫耳は真の萌えとなるのです!!」
「そ、そうだったのか……!!」
その言葉に打ちのめされるように、要ががくりと膝をついた。

するとその直後、今度は森の反対側からまた別の声が響いてきた。

「ちょっと待ったぁ!」
「こ、今度は何だ!?」
狼狽する要の前に、着膨れのせいかどうかは不明だが、まん丸な体型の男が現れる。
「ええい、さっきから聞いていれば勝手なことを!
 猫耳はあくまで猫耳であって猫ではない! ゆえに尻尾も肉球も不要!!
 それよりも、問題は猫耳の存在意義を危うくしている人間の耳にある!」
先ほどの男とほとんど正反対のことを言う丸い男に、要は苦悩の叫び声を発した。
「どういうことだ!?」
「耳が頭の上と横に合計四つもあるのはあまりにも不自然!
 その不自然を解消すべく、耳をそげとまでは言わないが、せめて猫耳装着時には耳が露出しないよう何らかの対策を施すべきだろう!!」
言われてみれば、この男の言うことも筋が通っていると言えないこともない。
「確かに、それも一理ある……」
半ば呆然とした様子で呟く要。
しかし、最初のやせぎすの男は、この丸い男の発言に猛然と反論した。
「何を言うか、この猫耳原理主義者め!
 なにが『猫耳はあくまで猫耳であって猫ではない』だ!
 それを言うなら、猫耳はあくまで猫耳であって耳ではないぞ!!」
それに対して、今度は丸い男の方が激昂する。
「おのれ、言わせておけば!」
二人とも相当この件についてこだわりがあるのか、あるいはただ単に短気なだけなのか、それは鏡二には判断がつかなかった。

そんな二人の様子を、要は唖然とした様子で見つめていた。
「ど、どうなっているんだ……」
誰にともなく呟く要に、想司がにこやかな笑みを浮かべて応じる。
「残念だったね……要っち、敗れたりっ☆」
それを聞いて、要はしばし呆然とした後、悔しそうに地面の雪を殴りつけた。
「くっ! 私に、この私に一体何が足りなかったというのだ!?」
両手を地に着いたままの要に、想司はいつもの調子でこう言った。
「要っちの『萌え』に足りないのは、猫グローブでも、耳を隠すことでもなく、『萌え』の心意気、言うなれば狂信的なまでの情熱だよっ☆
 自分が『萌え』たものが間違っていると言われたくらいで動揺するようじゃ、まだまだ『萌え』を理解しているとは言えないねっ♪」
その一言が、今度こそ要にとどめを刺した。
先ほどまでの勢いはどこへやら、すっかり打ちひしがれた様子の要に、いかにも楽しくてしょうがないというような笑顔を浮かべた想司が迫る。
「さあ、ご近所の皆様にご迷惑をおかけするコスプレ大合戦も、君の人生もこれでおしまいだよっ☆ 要っち……」
しかし、要はなんとか立ち直ると、大きくジャンプして大木の枝に飛び乗り、再び想司を指さしてこう言い放った。
「おのれ……だが、私はあきらめん!
 今日のところは一旦退くが、次はこうはいかぬものと覚悟しておけっ!!」
そして次の瞬間、要の姿は森の奥へと消えていった。





それとほぼ時を同じくして、鏡二はなんとか三下を雪玉から救い出していた。
三下は右足を痛めているようであったが、雪だるまになるほど派手に転がり落ちて片足だけで済んだとなれば、彼にしては珍しく幸運だったと言えなくもない。
「終わった……んでしょうか?」
半ば茫然としたままの三下に、鏡二はこう答える。
「とりあえず、元凶は去ったようです。
 あとは……まぁ、多少問題が残っていなくもありませんが、あれは私たちが口を出すことじゃないでしょう」
そう言った鏡二の目線の先には、相変わらず言い争いを続けている二人の男の姿があった。
「黙ってろ、異端者め!」
「なんだと、異端はそっちだろう!」
その不毛な争いの様子を見つめながら、三下がぽつりと呟いた。
「『宗派の争い釈迦の恥』って言いますけど、こういうのは誰の恥なんでしょうねぇ」
「当人たちでしょう、どう考えても」
そう答えて、鏡二は大きくため息をついた。

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〜 その後 〜

要は後悔していた。

想司との対決(?)に敗れた後、彼は悔しさのあまりこう叫んだ。
「『萌え』の心意気……狂信的なまでの情熱とは、どうすれば得られるものなのだ!」
まさか、その言葉を聞いているものがまだいたなどとは、思ってもいなかった。

そのせいで、彼は「猫耳の進歩と調和と発展を願う会・南関東支部・臨時集会」なる怪しげな会合に半ば無理矢理参加させられていた。
もちろん、要をここへ連れてきたのが先ほどのやせぎすの男と丸い男の二人であったことは言うまでもない。

(確かに、この連中には「『萌え』の心意気」がある、と言えるかも知れない)
「会合」の様子を見て、要はそんなことを考えていた。

「猫耳の進歩と調和と発展を願う会」などという名前の割には、全員が全員好き勝手な「理想の猫耳」論を展開し、ただひたすらに相手を折伏しようとしている様はもはや会合と言うよりバトルロイヤルと言った方が正しく、進歩も調和も発展もありはしなかった。

そして、その折伏の最高のターゲットにされたのが、新顔であり、かつまだ自分の中での「萌え」が完全には確立していない要であったのは言うまでもない。

「猫耳はあくまで猫耳であって、猫そのものではありません。
 だから、猫耳の装着こそが『萌え』の必要条件であり十分条件、つまりそれ以外の要素は全て不要だと私は思うのです」
「いや、猫耳は基本的には猫に近づくべきでしょ、やっぱり。
 そういう意味でさ、オレはワンポイントとしての鈴を『萌え』の必須条件として挙げたいと思うんだけど」
「違う違う違う! 猫耳ならなんでもいいというワケじゃねぇ!
 猫耳・猫尻尾は黒で統一! これぞ『萌え』! 黒猫にあらずんば猫にあらず!!」
「暴論だぞそれは!!」
「お前のようなヤツは、耳をネズミにかじられちまえばいいんだよ!!」

要は周囲のあちこちでまき起こるそういった争いを非常に興味深く感じると同時に、「鬱陶しいから全員まとめて吹っ飛ばしてやりたい」と強く強く思わずにはいられないのであった。

めでたくなしめでたくなし。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0759 / 海塚・要 / 男性 / 999 / 魔王
0424 / 水野・想司 / 男性 / 14 / 吸血鬼ハンター
1074 / 霧原・鏡二 / 男性 / 25 / エンジニア
0121 / 羽柴・戒那 / 女性 / 35 / 大学助教授
0164 / 斎・悠也 / 男性 / 21 / 大学生・バイトでホスト
0367 / 高杉・奏 / 男性 / 39 / ギタリスト兼作詞作曲家

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■         ライター通信          ■
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どうも、「人生万事クロスプレー」の撓場秀武です。
今回のノベルも例によって例のごとく、お正月休みまで計算に入れてなんとか間に合うという体たらく。
さすがに受注から一ヶ月弱は自分でも相当ヤバいと反省いたしております……お待たせしてしまって、本当に申し訳ございませんでした。

・このノベルの構成について
このノベルは全部で四つないし五つのパートに分かれています。
このうちオープニング以外のパートにつきましては複数パターンがございますので、もしよろしければ他の方の分のノベルにも目を通していただければ幸いです。

・個別通信(海塚要様)
最初にプレイングを見たときには不覚にも爆笑してしまいました。
そんなワケで、ほぼ全編に渡って猫耳幽霊話になってしまった感がありますが、いかがでしたでしょうか?
もし何かありましたら、ご遠慮なくツッコミいただけると幸いです。

ちなみに、本編中ではずいぶん熱く語らせておりますが、私は別に猫耳萌えではありません。
それよりは、むしろ妖精さんの方が……?