|
炎の大宴会!! ―秋の行楽大作戦!―
●オープニング【0】
ハイキング、鍋パーティと無事に終わらせた一行は、夕方に今日泊まることとなっていた温泉宿へと入った。その宿の名は『優楼館』といった。
チェックインを済ませ、各々の部屋に案内される一行。『優楼館』は別段大きく立派という訳ではないが、独特の雰囲気を醸し出していた。昔ながらの日本旅館という感じで、はっきり言って悪くはない。
『優楼館』には温泉があった。もちろん内風呂と露天風呂の両方だ。一部の者には残念なことかもしれないが、混浴ではないのだが。それでも内風呂は檜風呂、露天風呂は岩風呂という作りで風情がある。
一行は温泉でさっと汗を流すと、宴会の始まるのを待った。宴会が始まるのは夜の8時、宴会場で行われることとなっていた。2次会では何とカラオケも使用出来るということだ。
さーて、今夜はとことんいってみようかぁっ!!
●撃沈【−1C】
宿に着いたらまずは温泉だろうということで、温泉に入りに行った一行。その様子を少し覗いてみよう。
最初に触れた通り混浴ではないので男女は分かれている。が、造りとしては似たような物で、まずは脱衣所があって内風呂と洗い場、そこを通って露天風呂に出る、といった感じだ。無論、内風呂と露天風呂の間はガラスの扉で仕切られている。
「むー……まだ何だか眠いみたい……」
露天風呂に入りながら、シュライン・エマは眠そうな顔でつぶやいた。昼の鍋パーティの最中で何故か猛烈に眠くなったのだが、それがまだ覚めないのだった。
「大丈夫ですか?」
志神みかねがそんなシュラインを気遣う。こちらは逆に寝たせいか、目覚めた後はうって変わって元気になっていた。
「しゅらいん、大丈夫〜?」
シュラインの膝上に座っていた小日向星弥が、見上げるように言った。ちなみに膝上に座っているのは、露天風呂が少し深めだったためである。
「んー……」
ゆっくりと首を回しながら、生返事を返すシュライン。大丈夫、とは言い難いようだ。
「しゅらいんおねむだし、アヒルさんダメって言われたし、武彦とお風呂もダメだし……せ〜や、つまんないのぉ〜」
星弥が唇を尖らせて、つまらなさそうに言った。温泉に入る前にアヒルの浮き輪を置いていかされ、草間について男湯に行こうとしたら止められて、それでシュラインがこの状態。星弥の気持ちも分からないではない。
みかねがそんな星弥を見て、くすっと笑みを浮かべた。そして夕闇の中、遠くの山並みに視線を向けた。
(本当、来てよかったなあ……)
露天風呂は気持ちいい、夕闇に包まれているとはいえ景色も悪くない。今日は色々とあったが、これだけでも全部がチャラになるようにみかねには感じられた。
と――みかねが自然に浸っていると、突然星弥の大きな声が耳に入ってきた。
「あぁっ? しゅらいんっ、沈んじゃうのっ! 寝ちゃダメなの〜!」
「!?」
何事かと思いみかねが見てみると、そこにはぶくぶくと湯舟の中に沈みそうになっているシュラインの姿が。星弥がシュラインの胸にむぎゅうとしがみつき、何とか押さえようと頑張っているが、小さな子供の力ではちとおぼつかない。
みかねが慌ててシュラインを起こしに近付いた――。
●宴会直前【1】
夜8時前、宴会場。温泉を堪能した一行が、ぼちぼちと自分たち部屋から移動をしてきていた。
「いーちばーんっ、にゃっ!」
「にーばんにゃ〜☆」
宴会の膳が並べられた部屋に、勢いよく飛び込んでくる白雪珠緒と小日向星弥。しかしそれより先にやって来て、すでに鎮座していた者が居た。真名神慶悟である。
「……んむ……」
ちょうど慶悟は何か白黒っぽい粉か灰のような物を、包みから口の中へ入れて飲んでいる所であった。
「何かお薬ですか?」
慶悟がそれを飲み終えるか飲み終えないかの時にやって来た、草壁さくらが問うた。
「いや。呪い……だな、うん」
手の甲で口元を拭い、慶悟が答えた。
「あら、誰かもう胃腸薬飲んだの?」
続いてやってきた麗香は、宴会場に入って開口一番そう言った。どうやらさくらと慶悟の会話が耳に入ったらしい。苦笑する慶悟。
「お、すっかり準備が出来ているんだな」
そう言って入ってきたのは草間だった。肩の上には、こんこんがちょこんと乗っていた。そして草間は上座の方へ向かい、麗香の隣に座った。
肩から草間の膝上に降りてくるこんこん。それを見た星弥が、パタパタと草間の所へ駆けていった。
「そこはせ〜やが座るのぉっ」
かくして昼間同様、草間の膝上をこんこんと草間とで二分することとなったのだった。
「もてもてね」
「もてもてなのか?」
麗香のその言葉に、草間としては苦笑いを浮かべるしかなかった。
それからも続々と人がやってくる。喧嘩しながら現れた守崎啓斗と守崎北斗の双子の兄弟。首元にタオルを巻いて現れた巳主神冴那。楽しそうにあれこれ会話しながら姿を見せた志神みかねと雫。クーラーボックスを肩にかけた九尾桐伯にあれこれと尋ねている御子柴荘。三下の腕を引っ張って、嬉しそうに姿を見せた湖影龍之助。零に支えられながらやってきた、眠た気なシュライン・エマ。そして最後に現れたエルトゥール・茉莉菜。
これで総勢17人と1匹がようやく揃った。こんこん以外いずれも浴衣姿であった。
「それじゃあ乾杯するから、グラスに飲み物注いでね」
麗香が皆に言い放った。皆が飲み物を注ぎ終えた所で、麗香が簡単に挨拶をすることになっていた。
荘や龍之助がビール瓶片手に、皆のグラスに注いで回ろうとした時、北斗が小声で啓斗に言った。
「兄貴。あのふすまの向こう……」
「ああ」
頷く啓斗。2人は少し開いていたふすまの向こうに何かが居ることに気付いていた。いや、2人だけではない。この場に居た半数以上の者はそれに気付いていた。
「……誰だい?」
荘がビール瓶を持ったままふすまへと近付き、一気にふすまを開いた。
「あっ」
みかねが驚きの声を上げた。そこに居たのは戸隠ソネ子。だが、驚きはソネ子が居たことではない。ソネ子の腕の中に居た物に対してだ。
「コケッ……コココッ……」
腕の中に居て、ソネ子の髪の毛が絡まった状態の鶏が、ぐったりとした様子で鳴いた。
「あら、その鶏は確か……?」
茉莉菜にはその鶏に見覚えがあった。記憶が間違いでなければ、それは――。
「……どこに逃げたかと思ったら……」
ぼそりとつぶやく冴那。そう、冴那が鍋のために用立てていた鶏であった。だが何故ソネ子がその鶏を抱えているのだろうか。
「ヘンクマも、オナベも、見てた……カゲから……ズっと……」
無表情につぶやくソネ子。なるほど、この様子だと密かに一行の後をつけてきていたみたいだ。それゆえ、鶏を抱えていてもおかしくはない。
「まあ、それはどうだっていい。せっかくだから、こっちへ入ってこないか?」
草間がソネ子を宴会場へ呼び込んだ。これで総勢18人と1匹となった一同。皆のグラスに飲み物が注がれ、ようやく麗香の挨拶となった。グラスを手に、立ち上がる麗香。
「今日は早朝からお疲れさまでした。いつもは色々と忙しい日々だけど……たまにはこんな日もいいかもしれません。今夜は羽根を伸ばしてください。それでは……乾杯!」
「かんぱーいっ!!」
いよいよ宴会の始まりである。
●酒を飲め飲め【2B】
宴会が始まると、参加者のタイプは大きく3つに分かれることになる。食べるのに重きを置くか、飲むのに重きを置くか、それともその両方かだ。
飲むのに重きを置くタイプの代表格は、草間や麗香だろう。くいくいとグラスの酒が減っていっていた。
「武彦さん、ご飯も食べないと身体に悪いにょ……」
相変わらず眠た気な表情で、かつ語尾も若干不明瞭になっていたシュラインは、茶碗におひつから皆の分のご飯をよそっていた。そのそばには、テキーラの空き瓶が2本転がっていた。……って、いつの間に飲み干したんですかっ?
「ぅにゃ……ご飯用意等、何もしなくて良いなんて楽ぅ……」
上げ膳据え膳に幸せを噛み締めるシュライン。そりゃ、酒も進むことだろう。
で、酒を飲む者が居れば、当然酒を作る者も居る訳で。桐伯は手持ちの酒を用い、カクテルを作っていた。
「リクエストがあればご随意に」
皆に聞こえるよう、笑みを浮かべ言い放つ桐伯。店とは違って種類は限られるが、それでも桐伯は各自のオーダーにほぼ応じていた。
「へー、こんな酒あるんだ。どこの酒です?」
「ああ、それでしたらアイルランドの……」
普段目にしない酒を見た荘が桐伯に質問を投げかける。桐伯は産地やらその酒を用いたオーソドックスなカクテルやらを、とくとくと荘に答えていた。
「編集長、はい、酒注ぐっスよっ。あ、草間さん。その皿横に片すんで、もらえるっすか? ほらっ、三下さんも飲んで飲んで♪」
龍之助は主に三下たち3人の間をこまめに動き回っていた。そういう性分なのかもしれない。
「ひゅっ……ちょっと飲み過ぎた気が……はうぅ……」
そう言った三下の顔は、すっかり紅くなっていた。
(ああっ……酔った三下さんもいいっス! 酔い潰れたら、丁重に介抱するっスよぉっ!)
『丁重』がどの程度を指すのかは不明だが、龍之助は1人熱く胸の奥で決意していたのだった。
「きゅぅっ♪」
そんな中、こんこんが半分ほどビールが残っていたグラスを口にくわえ、一気に中身を飲み干した。
「わっ、こらっ!」
草間が慌てて窘めたが、時すでに遅し。こんこんは草間の膝上をするりと抜けると、ビール瓶を抱くように身体を巻き付けていったのだった。
……ひょっとして、酒癖悪い?
●天国か地獄【3】
「第267回! 月刊アトラス杯争奪、チキチキ炎のカラオケ大会っ!!」
夕食の宴会後、そのまま宴会場で2次会に雪崩れ込んだ一同。零がメモを見ながら、マイクを手にカラオケ大会の開会を宣言した。なお、メモは雫が即興で書き上げた物であった。
「……267回も開催されているんですか?」
小声で雫に尋ねる零。それは気にしちゃいけない話です。
「トップバッターは守崎北斗さん、それでは張り切ってどうぞ!」
そう言って北斗にマイクを手渡す零。ちなみにこれもメモにあったフレーズである。
「いくぞー! 電気グルーヴの『富士山』だー!」
イントロ部分で叫ぶ北斗。イントロや間奏が長い曲ではあったが、ライブに適した曲のため北斗は叫ぶように歌っていた。ラストの延々と繰り返されるサビ部分で息切れしなかったのは、さすが忍者と言うべきか。
続いてマイクを受け取ったのは荘だった。右手にマイク、左手にジョッキを持ちながら歌ったのは、80年代半ばの年代別メドレーであった。途中ビールで喉を潤しながら、演歌も混じるメドレーを張り切った様子で歌い上げていた。
3番手は茉莉菜だ。前の2人とは打って変わり、流れてきたイントロは何と中島みゆきの『うらみ・ます』。場が一瞬ざわついた。
「おや、中島みゆきですか……」
桐伯が一瞬カクテルを作っていた手を止めた。どうやら桐伯、中島みゆきの曲は好きらしい。
茉莉菜の歌声は音痴ではない程度で、可もなく不可もなくといった感じだった。が、妙にらしさが出ていた。
歌い終えた後で草間が選曲の理由を尋ねると、茉莉菜はさらりとこう答えた。
「だって、何か降りて来そうじゃありませんこと? ……あら、やだ。冗談に決まってるじゃありませんか。ふふふ……」
すみません、ちょっと冗談に聞こえないんですが。だが、さらに上手が隠れていた。
「どうせなら、山崎ハコの『呪い』とかもねえ……」
ぼそりつぶやく麗香。……いや、それこそ洒落にならないんですけど。
カラオケの最中も飲む者は飲み、食べる者は食べ続けていた。その証拠に、いつの間にやら冴那の傍らには高級酒の空き瓶が何本も転がっているのだから。
「何か目出たい気分だし、良いわよね……」
こくこくと高級酒を飲みながら言う冴那。明日の支払い、桁が1つ跳ね上がってる気もするが、まあそれはそれとして。
ソネ子は相変わらず無表情で食べ続けていた。そろそろ全ての器が空になるようだ。
「うふっ、うふふふっ……うふふっ☆」
すっかり真っ赤な顔となったみかねは、ご機嫌な様子で妙な行動に出ていた。一気にグラスやビール瓶を重ねてピラミッドを作っていたかと思うと、刺身の船盛りの船を激しく飛ばしたりしていたのである。
その際、みかねはそれらに全く手を触れることはなかったが、他の者たちは見て見ぬ振りをしていた。何せ相手は酔っ払ったみかねであるのだから……。
「うふふっ、美味しいです〜☆」
ああっ、また酒飲んでるしっ。
話は戻って、カラオケの4番手は啓斗だった。渋く『必殺仕事人』の何作目かの主題歌を歌い上げる。まあ悪くはない歌声であった。
5番手。何とここで麗香が登場してきた。
「麗香さん、ビューティフル〜」
顔も紅くほわんとした様子で、シュラインが声援を送った。傍らにはテキーラの空き瓶が4本……って、おいおい、2本増えてるぞっ!
流れ出すイントロ。が、幾人は聞き覚えがあるのだが、どうもタイトルが出てこない。何とも気持ちの悪い状態のまま、麗香が歌い出すのを待つ。
そして麗香が歌ったのは……早口言葉。何と麗香、『ドリフの早口言葉』を何故か選曲していたのである。間違えたのか、それとも本当に歌いたかったのかは謎だったが。
「ありゃ、だいぶ酔ってるな」
小さく溜息を吐く草間。そして膝上で丸まって眠っているこんこんに、冷たいおしぼりの乗せて介抱してあげていた。こんこん、飲み過ぎでこてっと寝込んでしまったのである。
6番手。登場したのは桐伯である。選曲したのはTMRメドレー。メドレーが始まると、マイクを手にダンス付きで歌い出す桐伯。宴会場に、驚きと感嘆の声が上がった。
「桐伯さん、ワンダフル〜」
「かっこいいです〜」
ワイングラス片手に声援を送るシュラインと、何故か意味なくその場でくるくると回っているみかね。だが2人が言うように、桐伯のダンスと歌はなかなかいい物であった。
ついに7番手。酔い潰れる寸前の三下を引っ張りだし、龍之助がマイクを握った。
「モンパチの『小さな恋のうた』歌うっス☆」
三下が倒れないよう肩に手を回してしっかと支えながら、嬉々として歌い上げる龍之助。歌の出来映えはともかく、その様子は何とも気持ちよさそうであった。
「と、氷が切れましたか。ちょっといただいてきましょうかね……」
氷が切れたことに気付いた桐伯は、中座して宴会場を出ていった。仲居さんに頼むより、自分で行った方が早いと踏んだようだ。
で、8番手。今度は3人組、珠緒と星弥とさくらの登場となった。歌うのはモー娘。のメドレー。似合うと言えば似合う選曲かもしれなかった。
「さあさあ、一緒に歌うにゃ〜♪」
人間の姿になった珠緒が、マイクを手に言った。気合い十分である。
「歌うのぉ〜☆」
にこぱーと笑顔を浮かべ、星弥も追随する。その顔はほんのり紅くなっており、耳と尻尾まで登場してしまっていた。星弥本人は気付いていなかったけれど。
「星弥ちゃん可愛い〜、タマちゃん美人〜」
ほわんと声援を送るシュライン。もちろんさくらにも声援を送ろうとした。
「さくら綺麗……」
と、そこまで言った瞬間、先程までのほわんとした様子はどこへやら。シュラインが一気に正気に返った。
(さ……さくらが歌っ?)
イントロが流れ出し、歌い出すまで後数秒。シュラインが慌てて叫んだ。
「逃げるのよ、武彦さん、零ちゃん!!」
しかし、その叫び声と3人が歌い始めたのはほぼ同時であった。3人の歌声は、いつの間にやらさくら1人の歌声となっていた。
そしてさくらは、最後まで一生懸命に歌い終えた。ふと気付くと、さくら以外の宴会場に居た者たちは、ほぼ全員畳の上に倒れ込んでしまっていた。どうやら気絶しているようである。
「……う……」
いや――ただ1人、慶悟は頭を抱えてうつむいていたが、気絶はしていないようだった。
さくらの隣を見ると、珠緒と星弥が笑顔を浮かべて立ったまま失神していた。そこに、氷を持って桐伯が戻ってきた。
「聞きましたか? さっき、旅館内に大量の鬼火が……」
桐伯が入口ではたと立ち止まった。そして宴会場の惨状に目を向けつぶやいた。
「……この惨状はいったい……?」
「あら……意識を失ってしまうくらい心地よい声だったのでしょうか?」
この様子に、少し照れながら首を傾げるさくら。空き瓶が数本、木っ端微塵に割れてしまっていた……。
●疑惑の草間【6】
翌朝。朝食の時間となっても宴会場へ姿を見せない草間を呼びに、雫と零が草間の部屋へ向かった。草間や麗香などは他の者たちと違って、各々単独で部屋を押さえていたのであった。いわゆる主催者特権という奴だ。
しかし呼びに行った2人も戻ってこない。今度はシュラインと荘が呼びに行くこととなった。
2人が草間の部屋の近くへ来ると、雫と零は草間の部屋の前で困ったような表情を浮かべて立ち尽くしていた。様子が妙である。
「どうしたんです?」
不思議に思った荘が2人に話しかけた。2人は顔を見合わせた後、零がシュラインに言った。
「シュラインさん、中覗いてもらえませんか? ちょっと分からないんです……」
「?」
何が分からないというのか。シュラインは怪訝に思いながら、草間の部屋に入ることにした。
「武彦さーん、朝よ……」
ふすまを開け、絶句するシュライン。布団の上にはまだ眠っている草間の姿。そしてその前には、銀髪で褐色肌の寝ぼけ眼をした子供がちょこんと座っていたのである。
「……え?」
シュラインが零たちの方を振り返った。
「だから、どう解釈すればいいのか、分からないんだってば」
雫も困惑した様子で言った。いったいこれはどういった状況なのか?
その時、中に居た子供が眠た気に一言言葉を発した。
「とおさまぁ」
その場の空気が、一瞬にして凍り付いた。例えて言えば、バナナで釘が打てるほどに。
「く……草間さんの隠し……」
荘は雰囲気を察し、慌てて言葉を途中で飲み込んだ。シュラインが能面のように無表情になっていたからである。
宴会場に戻った4人の口より、このことはすぐに全員に広まった。
「ふ……武彦さんが個室押さえたのは、子供と密かに会うためだったのね……そうだったのね……そうだったのね……」
「シュラインさん。よければ『這い寄る混沌』を提供しますが……飲ませますか?」
「あー、草間さんもやることが大胆っスね。三下さん、どうっ思うっスか?」
「あ、いや、えっと……ダメじゃないかと」
「……何やってるんだか。そのうち、さらに妙なあだ名がつくわよ」
「さすが怪奇探偵草間だ。やることなすこと……」
「……あー、兄貴。それは違うんじゃねえ?」
「よーし、その子の代わりに珠緒姐さんが養育費を請求してあげるのにゃっ! とりあえず猫缶1グロスのラインは譲れないにゃ!!」
「武彦、ひどいのぉ〜。せ〜やなんかもうどうだっていいんだ〜」
「うーん……お母さん誰なんだろ。ミステリーだし、ゴーストネットの掲示板で話題にしてみる?」
「……うふふ、ある部分は蛇なのかも……」
「オナカ……空いた……」
「草間さん、不潔です。エッチなのはいけないと思います」
「ええっ、そんなことする人だったんですかあっ?」
「あの……たぶん隠し子などではないのではないかと……」
「……よくやったものだな」
「草間さん、この後大丈夫ですかね?」
「色々と疑惑の多い方ですわね……本人の望む望まざるは別にして」
口々に勝手なことを言い合う面々。中には草間を擁護するような発言もあったが……この場ではほとんど効果はなかった。
この後、草間がどういうことになったのか。それはまあ、容易に想像は付くだろうから、ここではあえて述べないことにしよう。
ともあれ、これが後に伝わる『草間武彦隠し子騒動』の一部始終である。
【炎の大宴会!! ―秋の行楽大作戦!― 了】
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0033 / エルトゥール・茉莉菜(えるとぅーる・まりな)
/ 女 / 26 / 占い師 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
/ 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0102 / こんこん・ー(こんこん・ー)
/ 男 / 1 / 九尾の狐(幼体) 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
/ 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0218 / 湖影・龍之助(こかげ・りゅうのすけ)
/ 男 / 17 / 高校生 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
/ 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
/ 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
/ 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0375 / 小日向・星弥(こひなた・せいや)
/ 女 / 6、7? / 確信犯的迷子 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
/ 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
/ 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
/ 男 / 17 / 高校生 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
/ 男 / 17 / 高校生 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
/ 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】
【 1085 / 御子柴・荘(みこしば・しょう)
/ 男 / 21 / 錬気士 】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。なお、今回はマイナスの場面番号もありますのでご注意ください。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・年末年始を挟み、大変長らくお待たせいたしました。ようやく『秋の行楽大作戦!』シリーズの最終作をお届けすることが出来ます。『秋の行楽大作戦!』シリーズは、高原としてはちょっとした実験作だったんですが……その成果は今後の依頼にて御披露出来るのでは、と。
・今回のお話……といいますか、今回のシリーズ、こっそりと連動ネタを入れてたりしたんですが、お気付きになりましたか? お分かりにならないという方は、他の方の文章まで全て目を通していただければと思います。
・あ、本文に出てきました『ドリフの早口言葉』ですが、本当に通信カラオケに入ってました。機会がありましたらどうぞご確認を。
・シュライン・エマさん、39度目のご参加ありがとうございます。テキーラですか。プレイングにはああありましたので、高原としては1つ上を行ってみました。上げ膳据え膳はいいものですね。で……また草間の疑惑が増えましたけど、どうですか?
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。
|
|
|