コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


あやかし荘主催・新春百人一首の会

■さぁ、隠しましょう。
「百人一首か懐かしいのぅ」
古い袈裟を纏った護堂霜月さんは目を細めて、手の上の札を見て言いました。
「昔は良く遊んだものだ。『神速の霜月』などと渾名を付けられた事も在ったが……」
どうやら霜月さんはとっても昔から生きているので、この歌人の中にお会いした事がある方がいるようで、にこにこと嬉しそうに微笑んでいます。
そんな霜月さんの呟きを側にいた二人が感心したような声を上げました。
「へぇ、そんなあだ名を付けられてたなんて……よっぽど得意なんでしょうねぇ」
「かつての主も嗜んでおったが、其れほどまでの渾名が付けられるとは。貴殿は相当な実力者とお見受けする。うむ……実に楽しみだ」
「いえいえ。それ程でもありませんよ」
歌舞伎町の女王さまという藤咲愛さんと日本刀片手に持った忌引弔爾さんに照れたように返事を返す霜月さん。
三人で談笑しながら管理人室を出ました。
もうすでに他の参加者さん達は、それぞれ札を持ってあやかし荘の中へ散っていました。
霜月さんも自分に手渡された札を見ました。
渡された札は六枚。
清少納言や崇徳院などの作詠を懐かしそうに目を細める霜月さんは、長い時を生きてきたので昔に出会った人の事を思い出したりします。
そんな霜月さんに弔爾さんと愛さんはそそくさと札を隠す為に、先へと行ってしまいました。
霜月さんもどうしたものかと首を傾げました。
(ふむ…陳腐だが男子便所に隠しておくか)
そう考えた霜月さんはあやかし荘共同便所へと歩き出しました。
トイレへと向かう途中、横手の扉が開き歌姫さんが現れました。
歌姫さんは霜月さんに気付くと、少し驚いたような顔をしましたが、すぐにまるで子供が秘密事を打ち明ける時のように小さな声で歌います。
「ないしょ ないしょ ないしょの話はあのねのね〜♪」
唇の前に指を当て微笑する歌姫さんに霜月さんはあぁ、と頷きました。
そして、二人でクスクスと忍び笑い。
霜月さんはポンっと歌姫さんの肩を叩きました。
その時、歌姫さんには気付かれないよう彼女の着物の袂に札を滑り込ませました。
歌姫さんは何も気付かず、軽く会釈し管理人室の方へと去って行きました。
霜月さんはその後姿を見送ってから、また男子便所へと向かって歩き出します。
目的の男子便所に近づくと、その近くに階段があるのを見つけました。
薄暗く、照明の無い木造の階段。
霜月さんはそうだ、と残った数枚の札に鋼糸を巻きつけ始めました。
そして、札を階段の床板と床板の隙間にこじ入れ、鋼糸でそれとは分からないように吊るしたのです。
「これで良し、と」
満足気に頷き、霜月さんは残りの札をそれぞれビニール袋に入れ、トイレットペーパーの上や掃除道具入れのバケツの中へと隠したのです。

■さぁ、百人一首をしましょう。
皆、それぞれに隠し終え管理人室へと集まりました。
「では、早速始めるのぢゃ。歌姫」
嬉璃さんの言葉に歌姫さんは微笑を浮かべ頷き、すぅっと息を吸い込み伸びやかな独特の節回しで詠み始めました。
「和田の原〜♪」
そう、歌姫さんが言ったが早いか真っ先に部屋を飛び出して行った人がいます。
「ちょ、弔爾さん?!」
呆然と弔爾さんが出て行った時に開けたままになった扉に、三下さんは呼び掛けた姿勢のまま固まっています。
「せっかちな奴ぢゃのぅ。だが、わしも行くか」
「漕き出てみれば〜久方の〜♪」
歌姫さんが悠々と詠み上げる中、嬉璃さんも部屋を出、皆もそれに続き札探しへと飛び出しました。
霜月さんもつられて部屋を出ましたが、今読まれた札は自分が隠したものじゃなく、どこに誰が隠したのかも分からないのでどうしたものかと立ち止まりました。
その横を北斗さん、夏菜さん、英彦さんの三人が仲良く廊下の奥へと進んで行きます。
「ふむ……これは、自分の足と感を頼りにするしか無いか?」
そう呟き、とりあえず歩き始めた霜月さん。
しばらくすると、どこかからか一番初めの勝ち名乗りを上げる声がしました。
「あの声は……綾ぢゃな」
「おや。嬉璃殿」
桐の小棚の上にちょこんと座っていた嬉璃さん。
そして、どういう仕組みか再び歌姫さんの声が荘内に響き始めます。
「百敷や〜古き軒端の忍ぶにも〜♪」
「次の唄ですか……んむぅ、これも私の隠したものではありませんね」
「わしでも無いのぢゃ」
そう言うと嬉璃さんはひょいと小棚から飛び降りました。
「どこへ行かれるのですか?」
「三下を使って札を探させるのぢゃ。どうせ、あやつ独りでは何も出来ぬからな」
とてとてと歩き出した嬉璃さんの後を追うように霜月さんも歩きます。
その時、誰かの三下さんを呼ぶ声がしました。
「待ちやがれ、三下!!」
怒鳴るような鋭い声に、霜月さんは声の聞こえる方へと目を向けました。
どうやら少し先の左側にある曲がり角の奥から聞こえます。
「なんぢゃ?」
首を傾げ、角へ近づいた嬉璃さん。
そこから三下さん、そして彼を追いかける北斗さん達三人組みが飛び出し、驚いた嬉璃さんはバランスを崩し廊下に転がってしましました。
四人は気付かず、三下さんの部屋の方へ走り去って行きました。
「大丈夫ですか?嬉璃殿」
「な、なんぢゃ!あやつ等は!!」
立ち上がった嬉璃さんは肩を怒らせ、彼等が過ぎて行った後を追いました。
霜月さんもその後を追えば、どうやら三下さんが隠した札を奪い合った結果、柚葉さんが獲得したようです。
「成る程……他の方が隠した札を奪取する、という方法もありますか」
ぽつり、と呟いた霜月さんは何かを得たように頷きました。

■大乱戦其の五
「よを込めて〜鳥のそらねははかるとも〜♪」
朗々と詠み上げる歌姫の声に、霜月さんはおっと思いました。
それは、男子便所に隠したものの一枚だったからです。
すすっと集団を外れていく霜月さんに、三下さんが尋ねます。
「あれ?霜月さん、どこに行くんですか?」
「えぇ。ちょっと厠に」
そう言った霜月さんに三下さんは、あぁと納得したように頷き、霜月さんは男子便所へと向かいました。
少し駆け足で向かう霜月さんの背中を、何の疑問も持たず見送る三下さん。
荘内には唄声が響きます。
「世にあうさかの関はゆるさし〜♪」
一句、詠み終わりましたが誰も動く人はいません。
「あれれ?誰もいないの??」
柚葉さんがぐるぐると皆を見渡し言いましたが、誰も札を取りに行こうとしません。
しばらく、膠着状態で相手の出方を様子見していましたが、英彦さんが気付きます。
「…そういえば、霜月はどうした?」
「え?トイレに行くって言ってましたけど……」
三下の答えに、夏菜さんが大きな声を上げ駆け出しました。
「カードはトイレなの!」
英彦さん達も同じく駆け出しましたが、三下さんは訳がわからない様子で戸惑っています。
「え?え?」
「馬鹿者が!何故、それを早く言わないのぢゃ!」
ゲシっと蹴りを入れた嬉璃さんに情けない顔で三下さんはだって……と言いましたが、嬉璃さんの危惧したように少し遅かったようです。
皆がトイレに乗り込んだ時、霜月さんはビニール袋片手に立っているところでした。
「おや、皆さん気付かれたのですね」
そのビニール袋の中には札の姿。
霜月さんはにっこりと得意気な笑みを浮かべました。

■扉の向こう
真剣勝負の様相を呈してきたこの百人一首の会。
何十回目の句が詠まれます。
「千早振〜神代も聞かず立田川〜♪」
皆、顔を見合わせたまま動きません。
「からくれなゐに水くくるとは〜♪」
詠み終わっても誰も動きません。
「……今度は誰だ?」
英彦さんの言葉にそれぞれがそれぞれを牽制するように見ますが、無言のままです。
「千早振〜♪」
再び同じ句が繰り返され、夏菜さんが痺れを切らしたように全員の顔を見渡しました。
「ねぇねぇ。誰もいないの?」
誰も名乗りを上げない事で、霜月さんはハッと気付きました。
「あ…もしかしたら、この句は歌姫さんかも知れません」
「歌姫はん?」
眉を寄せ、首を傾げる綾さんに霜月さんは頷きます。
「えぇ。歌姫さんも札を隠していましたから」
霜月さんは札を隠している歌姫さんに会った時を思い出し、言いました。
「確か、あちらの部屋でした……」
歩き出した霜月さんの後を皆が続きます。
「なんだよ。詠み手にも札配ってたのかよ」
三下さんの肩に乗っている嬉璃さんを見ながら呆れたように言った北斗さん。
「まったく愚の骨頂だな」
前を向いたまま英彦さんも言います。
そんな二人に嬉璃さんは、ペシペシと三下さんの頭を叩き北斗さんと英彦さんを指差します。
「えい、煩いのぢゃ。三下、あの二人をやってしまえ!」
「えぇ〜?ムリですよぉ」
「無理だ無理だとばかり言って道理が通るか!やれといったらやるのぢゃ」
べしっと今度は強めに叩かれた三下さん。
ひえぇ〜と情けない三下さんを助けるように夏菜さんが嬉璃さんに言います。
「嬉璃ちゃん怒っちゃダメなのよ。ほら、もうすぐ歌姫さんが隠した所に着くし」
と、前を見れば霜月さんがひとつの扉の前に立ち止まっていました。
「ここが隠し場所?」
愛さんの問いに霜月さんは頷きました。
「ここから歌姫さんが出てくるところを見ましたし、間違いないでしょう」
「そうか……では、開けるぞ?」
そう、皆に確認します。
皆頷き、いつでも中へ入れる準備はオーケーです。
取っ手に手をかけ、弔爾さんは勢い良く扉を開け放ちました。
中へ飛び込もうとした十二名は固まります。
低く響く雄叫びはご近所の怪談アパートの噂のネタになるには充分です。
「な、な、な〜〜!?!?」
声にならない叫び声。
低い獣の唸り声と悲鳴を聞きながら、歌姫さんはいつものような微笑を少し心配そうに歪めながら、歌い出しました。
「ないしょ ないしょ 内緒の話はあのねのね〜♪」
こうして、第一回、あやかし荘主催百人一首の会は深けて行くのでした。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1069/護堂霜月(ゴドウ・ソウゲツ)/男/999歳/真言宗僧侶】
【0830/藤咲愛(フジサキ・アイ)/女/26歳/歌舞伎町の女王】
【0845/忌引弔爾(キビキ・チョウジ)/男/25歳/無職】
【0568/守崎北斗(モリサキ・ホクト)/男/17歳/高校生】
【0921/石和夏菜(イサワ・カナ)/女/17歳/高校生】
【0555/夢崎英彦(ムザキ・ヒデヒコ)/男/16歳/探究者】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
明けましておめでとう御座います。
二回目のご参加有難うございます。
どうぞ、本年もよろしくお願い致します(礼)

さて、あやかし荘主催・新春百人一首の会はいかがでしたでしょうか?
今回のお話はそれぞれの参加PCさんごとに違っています。
■大乱戦、では一〜六までありますので、探して読んでみるとまた面白いかと思います。

ちょっとしたバトルを加えてみましたが、もう少しはしゃがせても良かったかな?
と思っています。
如何でしたでしょうか?
感想、ご意見などあれば聞かせて頂けると幸いです。
では、機会がありましたらまたのご参加お待ちしております。