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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


歌よ響け
●序
「うちの経営はね、そのせいでがた落ちな訳なんだよね」
 草間興信所を訪れた中年の男性、亀田・惣一(かめだ そういち)はそう言いながら煙草をふかした。白い煙が、もわっと篭る。
「でも、カラオケに幽霊だなんて……」
 生前はさぞ歌好きだったんだろうな、とぼんやりと草間は考える。
「だがね、本当に出るんだよ。うちのカラオケボックスの110号室にな」
「そこで何らかの事件とかなかったんですか?」
「ないねぇ。最近オープンしたばっかりなのに、事件なんぞ起こってたまるかっていうんだよ」
「はあ」
 草間は目の前にいる男の態度に閉口する。
「パーティ用に大きい部屋なんだ。他の所とちょっと離れてあるんだが……」
 そのカラオケボックスは5階建て。1から9までの部屋があるそうなのだが、1階のちょっと離れた所に大きなパーティ用の部屋を設けているらしい。それが110号室。上に部屋もなく、隣とも離れているため、どんなに騒いでも大丈夫なように出来ている。ちょっとした小屋のような状態となっているという。
「そこを使ったお客さんがさ、霊現象が起きるって言うんだよ。画面が変になって女の声が聞こえたり、子どもの声が聞こえたり、たまにノックがしたり、ラップ音がしたり……」
 指折り数えながら言う所を見ると、他にもまだまだありそうだ。草間は長く続きそうな話を折り、「それで」と言う。
「その部屋の霊現象を収めればいいわけですね」
「そういう事だ。よろしく頼むよ」
 最後まで偉そうに威張り、亀田は去っていった。やっと帰ってくれた客に、草間はほうっと息を吐くのだった。

●興信所にて
 歌舞伎町にある、SMクラブ『DRAGO』。そこに女王として君臨する、赤い髪に赤い目を持った妖艶な女性がいる。藤咲・愛(ふじさき あい)だ。先日訪れた客が、愛の鞭から与えられる快感を堪能しながら面白い事を言っていた。
「うちはカラオケボックスなんですよ。幽霊のせいで、売上ががた落ちなんですけど」
「あらぁ、あなたの経営が良くないんじゃなくて?」
 ピシィ、と鞭が飛ぶ。
「そう言うわけじゃないですよ。で、探偵事務所に依頼したんですよ」
「へぇ?」
「草間興信所っていう……」
(あら)
 愛は鞭を飛ばす。頭の中は、草間興信所を訪れる事で一杯だった。
(そうだわ。折角だからあたしも行っちゃおうっと。ふふ、カラオケかぁ)
 愛はそう考え、妖艶に微笑む。
「そういえば、あなたのお名前を聞いてなかったわね?聞いてあげてもいいわよ?」
 鞭で客の顎を持ち上げ、にっこりと微笑む。冷酷さを秘めた、妖艶な微笑み。
「か、亀田惣一と申します」
「そう……覚えてあげててもよくってよ」
 ピシャリ。もう一度、愛の鞭が亀田に襲い掛かるのだった。

(あら、皆揃ってるみたいね)
 愛はそう考えると、草間興信所のドアをバアン、と勢い良く開いた。皆の目がこちらに集中する。そこには、草間と五人の男女が集まっていた。
「はぁい。ちょっと小耳に挟んだんだけど……カラオケの怪現象を依頼されたんですって?」
「一体何処で聞いたんだ?」
 草間が訝しげに尋ねる。
「客から。亀田さん」
 あっけらかんと愛は言う。途端、黒髪に黒い目を持つ影崎・雅(かげさき みやび)と長い黒髪に青い切れ長の目を持つシュライン・エマ(しゅらいん えま)がひそひそと耳打ちをし、くすくすと笑いあう。
「まずはその店に行かないか?まずは行かない事には何も出来ない気がするぜ」
 工藤・卓人(くどう たくと)が提案する。黒髪に緑の目を持ち、小麦色の肌が爽やかさを強調している。
「それもそうだな。寧ろ歌いに行けばいいんじゃないか?」
 雅が頷きながら提案する。
「話をするにも、行かねば何もいかんしな」
 護堂・霜月(ごどう そうげつ)が網代笠の歪みを正しながら言う。銀の目が、その奥できらりと光る。
「ストレス解消にも持ってこいだしね!」
 愛がにっこりと笑いながら言う。皆が「それは違う」と手を振る。
「依頼人の態度は気に入らんが、行ってやらんことも無いな」
 黒髪に緑の目を持っている雷蔵院・印虎(らいぞういん いんどら)がにいっと笑いながら言う。皆「それもある意味あってるが違う」と突っ込む。
「じゃあ、私はちょっと調べ物をしてから行くわ。皆、先に行ってて」
 シュラインは微笑みながらそう言う。皆「了解」と言って、草間興信所を後にする。目指すはカラオケボックス。

●かめたん
 目指すカラオケボックスはすぐに見つかった。大きな亀の看板が目印だと、調査書に書いてあったからだ。
「……あれ、だよな?」
 卓人は笑いを堪えながらそう言って、亀の看板を指差す。そして、雅がぷっと吹き出す。
「あははは!似合わない!」
 卓人の指差す看板を見て、愛もけらけらと笑う。
「やだぁ、かっわいいじゃないの!」
「可愛い……のであろうか」
 霜月が半信半疑、といったようにじっと看板を見つめている。
「俺様はああいう美意識の無いものは、気に入らないな」
 苦笑しながら印虎が言う。その看板には、可愛いのと可愛くないのの丁度中間のような亀の絵が大きく描かれており、「カラオケボックスかめたん」と書いてあった。
「誰が考えたのかしらね。……きっと亀田さんよ」
 くすくすと愛が笑いながら言う。
「そうであろうな」
 愛に同意し、印虎が言う。一行は、笑いを押さえながらカラオケボックスに足を踏み入れていくのだった。

 カラオケボックスの中は、普通だった。何処にでもあるカラオケボックス。有線放送が流れ、微かに客が歌っている声が響いてくる。
「草間興信所から来たんだが」
 卓人が言うと、受付のアルバイターが亀田を呼ぶ。亀田が奥から億劫そうに出て来た。
「ああ、やっと来たのか。遅かったな」
 横柄な態度に一同がむっとする。
「神である俺様に向かってその態度、いつか痛い目に会うぞ」
 ぼそり、と印虎が呟いた。
(あ、神なんのね)
 ぼんやりと愛は考える。この世には色々な人種がいる。その中に神がいても可笑しくはないかもしれないが。それに、それ以上に愛は気になっていることがあった。亀田の態度だ。いつも店に来ている様子と余りにも違う。
「あら、亀田さん。態度が大きいんじゃなくて?」
 愛が妖艶に笑いながら、甘い声で囁くように言う。思わず口から出てしまった言葉だ。皆の目が亀田と愛に集中する。
「ああ、愛様……!」
 亀田が気付いたようだ。目の前にいる女性の正体を。心なしか、顔が赤い。
「どうしてこのような連中と……」
 このような、という言葉にむっとする。
「失敬な奴だ。少しは礼儀を知らしめた方が良いのかも知れぬ」
 霜月がぼそりと呟く。
(あら、意外と過激なお坊さんなのね)
 愛は小さく苦笑する。そして、ポケットに手を突っ込む。中に入っているのは、常備している愛用の鞭。
「あら、あたしも調査員よ?あんまりオイタをしていたら……」
「愛さん、今はそんな時じゃないって」
 慌てて雅が制した。
「じゃ、110号室に案内してくれ」
 卓人が言うと、アルバイターに亀田が指示し、案内をしてくれた。110号室は、ちょっとした渡り廊下のような場所を通り、小屋のようなつくりになっていた。
「あ、先に入っててくれ」
 卓人はそう告げ、小屋の外を歩き始めた。雅らは先に110号室に入る。中は広く、綺麗だった。
「皆さん、この部屋をどうにかしてくださるんですよね」
 アルバイターが、恐る恐るといったように尋ねる。皆が頷くと、ほっとしたように笑う。
「私達、お客様から苦情があると、どうしてもこの部屋に来ないといけないじゃないですか。その時、やっぱり怖いんで」
「何か直接被害にあった事は?」
 雅が尋ねると、アルバイターは暫く考えてから「そう言えば無いですね」と答えた。
「なら、別にいいのではないかな?」
 印虎が言うと、アルバイターは苦笑する。
「そうは言っても、何となく怖いじゃないですか。絶対に何も怖い事はないと分かっているわけじゃないですし」
「まあ、そうよねぇ」
 愛も賛同する。アルバイターは一礼し、部屋を出ていこうとした。
「あ、待って。あたし亀田さんに話聞こうと思ってたんだ」
 そう言って愛は立ち上がり、「また後でね」と皆に投げキッスをして部屋を後にした。
「本当は、あんまり会いたくないんだけどねぇ」
「え?」
「ああ、何でもないのよ」
 不思議そうな顔で見てくるアルバイターに、ただにっこりと微笑む愛だった。

●応接間
 愛は、応接間に通された。後から亀田がいそいそと入ってくる。
「愛様……何のご用で」
「そんなに畏まらなくていいわよ。今は、あたしの鞭を受けに来たわけじゃないんでしょ?」
 愛がそう言うと、おずおずと亀田は真向かいのソファに座る。
「あたしね、霊現象について考えたんだけど……。女や子どもなんでしょ?」
「え?いや、特にそうってだけで出てくるのは男も老人も出てきますけど……」
「そんなにも?……ははーん」
 愛はにやりと笑って亀田に詰め寄る。亀田の顔が紅潮する。
「あなた、過去に何かあるでしょ?」
「ええ?な、無いですよ!」
 亀田が慌てて弁明する。愛はポケットに手を突っ込み、鞭を取り出す。ピシィ、と床に叩きつける音が応接間に響く。
「嘘はいけないわねぇ?」
「う、嘘じゃないですって!」
 ピシィ!再び鞭が床に叩きつけられる。条件反射のように、亀田は四つん這いになる。愛は亀田を見下すように立ち上がり、ピンヒールで亀田の背中を詰る。痛くはないはずだ。愛が痛みを快楽に変えているのだから。勿論、治癒の役割は持ってはいない。
 その時、コンコン、という応接間をノックする音が響いた。
「何だ?」
 亀田が小さく答える。
「草間興信所の方を、もう一人お連れしました」
 そう言いながら、アルバイターはドアを開けた。
「……愛、さん?」
 入ってきたのは、アルバイターとシュラインだった。覗き込んできて、動きを止めている。
「あら、シュラインさん。びっくりしたかしらぁ?」
「……したわね」
 呆気に取られながら、シュラインは答える。愛はふふ、と妖艶に笑う。
「し、失礼します」
 アルバイターは慌ててそこを後にする。亀田が妙に赤くなってシュラインを見た。
「な、何の用だ?」
「お話しを聞きに来たんですけど……」
「話だと?」
 睨み付けるようにシュラインを見てくる亀田に、ピシャリ、と鞭が飛ぶ。
「いい度胸してるわねぇ?子猫ちゃん。態度が大きくてよ?」
「は、はい!」
「……愛さん、とりあえず座らないかしら?」
 シュラインに言われ、愛は仕方ないといったようにソファに座る。愛用の鞭も、ポケットに仕舞いながら。亀田も慌ててソファに座りなおす。
「そろそろ吐いたらどうなの?過去に、変な事したんでしょう?」
 愛がピンヒールの踵で亀田の足をぐりぐりと詰りながら尋ねる。鞭は無くとも、女王様の健在だ。
「愛さん、痛いんじゃないの?」
 シュラインは詰られている足を見ながら尋ねる。だが、愛は誇らしげに微笑む。
「痛くは無い筈よ?少なくとも、今は」
 にっこり、と微笑む。
(後で、嫌ってほど痛くなるでしょうけどね)
「過去って……何もないですよ」
 亀田が汗をかきながら答える。シュラインが愛に耳打ちする。
「過去に何かあるの?この人」
「さあ?あるんじゃないかな?と思って」
 そうシュラインい答えながら、愛は亀田に詰め寄る。
「無いの?本当に?……もし嘘だと分かったら……」
 愛はポケットに手を突っ込み、再び鞭を登場させる。亀田は慌ててこくこくと頷いた。
「そうそう、亀田さん。ここにカラオケボックスを設置してから、何か声が聞こえたとかはないですか?」
 シュラインが尋ねる。亀田は一瞬はっとした表情を見せ、口を開く。
「声なら、霊現象で……ぎゃっ」
 ふてぶてしく答える亀田が、急に悲鳴を上げる。愛のピンヒールの威力だ。
「そうじゃなくて、宴会のような……」
(宴会?)
「そういうのは聞いてな……聞いてません」
「そう」
 にっこりと笑い、シュラインは愛を促して応接間を後にする。
「シュラインさん、さっきの何?」
「宴会?」
 こっくりと、愛が頷く。シュラインは意味深にふふ、と笑う。
「それは、皆と合流してから話すわ。ね?」
「了解」
(何だか、女同士の秘密の共有って感じでいいわぁ)
 愛は上機嫌でにっこりと微笑むのだった。

●宴会
 110号室に皆が揃う。調査員と、原因となっている霊達。
(あらあら、もう全部役者が揃っているのね)
 愛は小さく苦笑する。
「そもそも、この土地では宴会が行われていたらしいわ。囁くような声で」
 シュラインは、そう切り出した。
「近くの住人達も、その声を聴いて生活していたから、その声が聞こえなくなって寂しがっていたわ」
「でも、宴会の声なんて、煩かったんじゃないのか?」
 雅が尋ねると、シュラインは苦笑しながら答える。
「それがね、本当に囁くような声なんですって」
「じゃあ、もしかしてこの110号室の霊現象って……」
 愛が口を開くと、それを霜月が続ける。
「うむ。宴会をしているのであろうな」
「ああ、せこいぞ!俺様が愛と話したかったのに」
 印虎が妙な所で、霜月を睨む。
「成る程。これで謎がわかったな。……俺は霊道を見つけてもらったんだが、それは霊自身が強くこちらに来たいと念じなければ、被害は出ないようなものだった」
 卓人がそう言うと、雅がにやりと笑う。
「つまり、幽霊さん達はこの宴会に来たいと強く念じているんだな」
「まあ、そういう事よねぇ」
 愛はそう言いながら、周りの霊達を見回す。
「じゃあ、この中のリーダー格みたいな人に聞いてみたらどうかしら?」
「それもそうだな。……ええと、誰?」
 卓人が霊達に尋ねると、美女が手をあげる。先ほど印虎の問いに対して微笑んで返した霊だ。
「どうでしょう。私たちの出すクイズに正解したら、その条件を飲むという事で」
「条件?」
 シュラインが尋ねる。卓人は苦笑しながらその問いに答える。
「客にサービスしたらどうかって提案したんだよ。ほら、話題つくりにもなるし」
「あ、それいいかもしれないわねぇ」
 愛がにっこりと笑って賛同する。
「クイズは、私たちがカラオケの曲を選曲しますから、それを見事歌い切れたらあなた方の勝ちということで。ただし、一人一曲までとさせてもらいます」
「つまり、曲当てクイズ……か。面白そうだな」
 雅はにやりと笑う。「受けて立つぜ!」
 霊はにっこりと笑ってリモコンを上手に操り曲を入れていく。すると、妙に懐かしみのあるフレーズが響いた。
「ナツメロね!あたし!あたしが歌うわ!」
 愛が手をあげ、マイクを持つ。立ち上がり、自己陶酔しながら歌う。心なしか、鳴いているようにも見える。入れ込むタイプらしい。歌い終わると、霊達は大喜びしながら手を、もといラップ音をかもしだす。
 次に響くのは、コミカルな音。有名なアニメソングだ。
「どうする?歌える人は?」
 歌い終わった愛が尋ねる。これで愛はもう歌えないからだ。手を挙げるのは、雅・シュライン・卓人。
「でも、俺ロックのがいいんだけ……」
「じゃあ、卓人さんよろしくー」
 愛の独断でマイクが渡される。卓人の「ロックのが」という言葉は聞こえていないようだ。卓人はマイクを握り締め、力の限り歌う。コミカルなアニメソングが、ロック調の曲に変わる。霊達も大はしゃぎだ。
 次に響くのは、英語の歌詞の多いポップスだった。今、流行の。
「……では、私が」
 霜月がすうっと立ち上がる。皆の目が霜月に集中する。坊主がポップス。世の中が変わったものだと思いながら。が、霜月が歌い始めると皆の目は点になった。霜月は英語の歌詞部分を全て日本語ちっくに歌うのだ。それでも霜月はのりのりで、いつの間にやら懐から手ぬぐいを出してきて振り回している。皆の心は一つになる。……いいのか、坊さん!
「ふう……。覚えたばかりの歌で緊張したが……」
 歌い終わった後、霜月はそう言って手ぬぐいで額の汗を拭った。
(嘘ね)
 愛は思わず心の中で突っ込む。霊達も言葉には出さないものの、大分驚いている様子だ。
 次に流れたのは、演歌。誰も何も言っていないのに、自然と霊達の目は雅に降り注がれる。何かを期待するかのような目だ。
「あー……じゃあ、俺が」
 苦笑しながら雅は歌いだす。先ほど演歌を披露してしまったせいであろう。霊達も大はしゃぎだ。
 次に流れたのは、洋楽のバラード。シュラインがマイクを手に取ろうとすると、それを奪い取るように印虎がマイクを持ち、前に立つ。
「すまん!俺様は、これが歌いたいのだ!」
 印虎はそう主張すると、歌い始める。好ましくないといっていたのもなんとやら。ノリノリである。
「あの人……そんなにも歌いたかったのね」
 呆気にとられながらぽつりと呟くシュラインに、思わず皆が苦笑する。霊達も、その一連の出来事に大受けだ。
「すまなかったな……。今度、俺様が何か食事でも奢るからな」
 印虎はシュラインの手を取り、甲にキスする。シュラインは苦笑しながら「遠慮しますわ」と答える。
「では、最後ですね」
 霊が嬉しそうに言い、曲を入力する。シュラインが前に立って曲を待ち構える。声のエキスパートであるシュラインに、歌えない曲など無い……筈だ。流れ出したのは、ラップ。
「ええー!」
 思わずシュラインは声をあげる。
「シュラインさん、乗り切れ!大丈夫、何とかなるなる!」
 卓人が励ます。雅は人事だと思って笑い、愛は呆気に取られ、霜月は羨ましそうな顔をし、印虎は「俺様では無理だったな……」と呟いている。シュラインは半分自棄になりながら歌い始める。皆の心配もよそに、シュラインは完璧に歌いこなす。
「さすがだねぇ」
 雅がにやりと笑いながら言うと、シュラインは溜息をつきながら軽く睨む。
「見てたわよ?笑ってたでしょ」
「あははーごめんって」
 霊達を見ると、皆満足そうに手を叩いていた。嬉しそうだ。
「こんなに楽しい宴会は、久しぶりでしたわ。皆さん、有難うございます」
「条件、飲みます。微力ですけど」
 口々に言う、霊達。微力の方が害が無くていいと、皆ぼんやりと考える。
「じゃあ、そういう事で宜しくね」
 シュラインが言うと、霊達はにこにこと笑いながら頷いた。皆、安心して顔を見合わせる。
「じゃ、折角だから歌おうぜ!」
 雅の提案に、皆が同意する。カラオケの本を必死になって捲り始める。
「今度こそ、ちゃんとした歌を歌うんだから!」
 妙に真剣になりながらカラオケの選曲をするシュラインに、再び笑いが起こるのだった。

●結
 カラオケを十分堪能した後、亀田に報告に向かった。
「霊達は、ただ宴会を楽しみたいだけです。望まれればサービスをしてくれると約束してくれましたよ」
 シュラインの言葉に、亀田は訝しそうに見る。
「サービスって言われてもねぇ」
「だから、霊体験の出来るサービスがあるカラオケとしてやればいいじゃないか」
 卓人が言うと、亀田はうーんと唸る。
「意外とうけると思うぞ?何しろ、こんなカラオケボックスなど存在した事がないのだからな」
 印虎が言っても、亀田はいまいち煮え切らないようだ。
「珍しさにかけては日本一かもしれぬぞ。有名になるのは必至」
 霜月が言うと、亀田の肩がぴくりと反応する。後一押し。皆が感じる。
「ほら、良く聞くじゃない。肝試しに訪れる人が絶えません……みたいな霊スポットの話とか」
 雅が言うと、亀田は「そうかな」と言う。あと、もう少し。
「ともかくやってみたら?ねぇ?」
 愛が妖艶に微笑む。亀田は顔を赤らめながら何度も礼をする。
「はい、はい!勿論です!」
 その様子に、皆が釈然としない思いを抱く。一種の哀れみも含みながら。
「骨抜きだねぇ、おっさん」
 雅がぽつりと呟く。その言葉に皆が笑う。
「それで、草間興信所の方はいつ頃お帰りになるんですか?」
 亀田が皆に尋ねる。そういわれ、印虎は人数確認をする。シュライン・雅・卓人・霜月・愛、そして自分をいれて計6名。誰一人として欠けてはいない。
「皆、いると思うが?」
「いや、だってまだ110号室は……」
 皆で慌てて110号室に向かう。宴も酣、霊達のカラオケ大会。
「あのさ、今日はその辺でまた今度にしてくれないかな?」
 卓人が言っても、霊達はただにこにこと笑うだけ。まだまだ足りない、といわんばかりに。
「……はっ、この曲は!」
 その時流れたのは、今一番流行っているポップスだった。軽めの男性ボイスで人気の歌手の歌だ。霜月はマイクをさっと取り上げて熱唱し始める。勿論、英語部分は全て日本語読みで。
「……いいなぁ、あたしも歌っちゃおう!」
 愛の手が、カラオケの本に伸びる。リモコン操作を片手に。
「うぬ、ならば俺様とデュエットをしてもいいのだが」
 愛の隣にちゃっかりと座り、印虎が誘う。
「……よっしゃ、こうなったら気が済むまで付き合っちゃる!」
 雅もそう言ってカラオケの輪に入る。霊達がより一層嬉しそうにはしゃぎ始める。
「あのう……」
 亀田がおずおずとシュラインに話し掛ける。シュラインはにっこりと笑いながら提案する。
「じゃあ、今日はオールで借りさせてもらうわ。勿論、必要経費で」
「ええ?」
「あら、なんなら愛さんに頼みましょうか?」
「い、いえ!どうぞ!」
 亀田が去っていくと、シュラインも笑いながらカラオケの本に手を伸ばした。その歌声は、翌朝まで続くのだった。

 後日。草間興信所にかめたんからの報告が入る。件の110号室は、あれ以来手軽に楽しめる霊スポットとして中々の人気を誇っているのだという。しかし、それ以上に一人でカラオケに来る客に人気なのだという。何でも、一人で来ても寂しくない上に練習代わりになるとか。ただ、110号室に入る客はどうも時間延長の傾向があるらしい。
(無理もないわよねぇ)
 痛む喉に、愛は苦笑するのだった。

<依頼完了・喉飴購入予定付>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0825 / 工藤・卓人 / 男 / 26 / ジュエリーデザイナー 】
【 0830 / 藤咲・愛 / 女 / 26 / 歌舞伎町の女王 】
【 0843 / 影崎・雅 / 男 / 27 / トラブル清掃業+時々住職 】
【 1069 / 護堂・霜月 / 男 / 999 / 真言宗僧侶 】
【 1164 / 雷蔵院・印虎 / 男 / 999 / 探偵事務所所長+自称・神様 】

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■         ライター通信          ■
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お待たせ致しました。ライターの霜月玲守です。この度は私の依頼に参加いただき、有難うございました。如何だったでしょうか。
今回は得意な歌のジャンルを教えて頂きました。曲名の指名もあったのですが、一応ジャンルのみにさせて頂きました。ご了承していただけると幸いです。

愛さんには、先に亀田と面識を持っていただきました。如何だったでしょうか?
カラオケはナツメロで。自己陶酔までして下さるなんて、凄く素敵です。愛さんらしくて妙に納得してしまいました。勿論、涙つきで!

今回も、少しではありますが一人一人の文章となっております。お暇な時にでも、他の方と照らし合わせてみて下さいね。

ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それでは、またお会いできるその時まで。