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<東京怪談・PCゲームノベル>


冬の大将軍

☆序章・バー「ケイオス・シーカー」

 落ち着いた雰囲気で、静かなバー「ケイオス・シーカー」に、三下の泣き声が響き渡る。
「九尾さぁん、助けてくださいよぉ……一人であそこに行きたくないですよぉぉ」
 カウンターで泣いている三下。
 三下は店に来て、即座に目の前にいた九尾・桐伯に泣きついていた。
「どうしたんですか? ほら、これでものんで落ち着いて話して下さい。もしかしたら協力できるかもしれませんよ?」
「うぅぅ……ありがとうございますぅ……」
 そう言って、目の前に出されたカクテルを飲む三下。
 出されたカクテルを飲んで、落ち着いてきた三下は、嬉璃が風邪を引いた事を話し始める。
「嬉璃さんが風邪を引く筈なんて無いんですよぉ……だって、嬉璃さんって、座敷わらしですからぁ」
 三下の話を聞いた桐伯は、いつもと変わらない笑顔で三下に言う。
「そうですか……分かりました。嬉璃さんが風邪を引くなんて、普通の病気じゃなさそうですし、色々と面白そうだから、私も一緒に行ってあげますよ、三下君」
「ほ、ほんとうですかぁぁ? あ、ありがとうございますぅぅ」
 ぎゅっと抱きつくこうとする三下、さっとかわす桐伯。
「う、い、痛いですよぉぉ、九尾さぁん……」
「とっさの癖で避けてしまいました、すみませんね」
 頭を押さえて痛がって、ちょっと涙を流している三下を、桐伯は苦笑しながら見る。そして。
「ところで、行きたく無いって言っていましたけど、それが薬のある場所ですか? いったい何処なのでしょう?」
「え、えっとぉ……富士の樹海ですぅ……。蓮さんが言うには、樹海に咲く虹色に輝く花が、座敷わらしにもきく風邪薬の薬になるって言っていましたぁ」
「富士の樹海ですか……分かりました。準備するものがありますから、明後日に向かいましょうか」
「わ、分かりましたぁ……ありがとうございますぅぅ」
 再び潤む瞳。
 大の大人がこんなに泣いていいものかとも思いながら、三下を店から出す。九尾はドアから顔を出して、意味深な笑みで送り出す。
 三下の後ろ姿に対して、含みのある口調で。
「三下君……最後は見届けてあげますからね☆」
「え……えぇぇぇぇぇ!!!」
 もちろん取り乱して驚く三下。笑いをかみ殺しながら桐伯は。
「くすくす、冗談ですよもちろん。うちにツケがある内は死んでもらっては困りますからね」
「うぅ……わ、分かりましたぁ……」
 とぼとぼと歩いていく三下、その後ろ姿をにこにこと送り出す桐伯であった。

☆富士の樹海

 そして日は経過し二日後の朝。
 あやかし荘の前に集まった藤の樹海に探しに行く人達が、あやかし荘の前に集まっていた。
「三下さん、がんばって下さいね。私は嬉璃さんの看病をしないといけませんから行けませんけれど……桐伯さんと柚葉ちゃんがついているから大丈夫ですよね、きっと」
「は、はいぃ、がんばりますですぅぅぅ。お、男三下ぁ、絶対に嬉璃さんの薬を取ってきてみせますぅぅ!」
 ほのかに好意を抱いている因幡・恵美に励まされて、俄然やる気を出す三下。でも声は裏返っていたりする。
 実際恵美は、樹海に行くのは怖いから、という事で行かないのだが。
 そんな恵美と三下を見ている桐伯の足元に、柚葉がやって来て。
「えっと〜、えへへ、桐伯さんだっけ、宜しくね!」
 手を伸ばす柚葉。桐伯はそんな柚葉の頭を軽く撫でる。
「ええ、宜しくお願いしますね、柚葉さん」
 頭を撫でられたのが嬉しいのか、更に尻尾がふりふりと震える。
「は〜い♪ じゃぁ早く行こうよ、三下さ〜ん」
「え、は、はいぃ。 じゃぁ恵美さん、行ってきますぅ!」
「ええ、いってらっしゃい。無事でいて下さいね」
 にっこりと笑顔で送り出す恵美。
 そして、三人は三下の運転する車で富士の樹海へと向かった。

 富士の樹海へと到着する三人。時刻は昼過ぎ頃。
 樹海の横にある県営駐車場に降り立つ。周りには車が数台あるだけ。
 樹海へと入る準備を三下がする中、桐伯は、ポケットから一台の機械を取り出す。
「あれ、それは何? ラジオ?」
 興味を持った柚葉が、その機械を見て言う。
「これは携帯型のGPSです。まぁ、カーナビの携帯版、という感じの物ですよ。見てみますか?」
「うん、見る見る!」
 ぴょこんと桐伯の頭に乗る柚葉。後ろからGPSの画面を覗き、光る点を見る。
「この光る点が、今私達がいる所です。で……こうやって動くと、光る点も動くでしょう?」
 柚葉を肩に乗せながら、少し歩く桐伯。柚葉は凄く嬉しそうに。
「うんうん、本当だね! 面白い〜」
 とはしゃぐ柚葉。
「でもどうしてそんなのを使うの? ただ森に入って草花を探すだけでしょ?」
 どうやら柚葉は、富士の樹海はコンパス等が効かなくなる、というのを知らないようだ。
「富士の樹海の中でもぉ、この青木ヶ原の樹海は、岩が磁力を持っているんですぅ。だからコンパスとかそういうのは効かなくなるんですよぉ、柚葉さぁん」
 既に声が振るえている三下。
「あれ、三下さんもう怖がってるの? やっぱり弱虫だね! そんなんじゃ恵美さんにも嫌われちゃうよ?」
「で、でも怖い物は怖いんですぅぅ……」
 どっちが子供だか分からない、そんな二人の会話。
「三下君は子供ですからねぇ……私のお酒を飲んでも、すぐに酔いつぶれて他の人たちに運ばれていますし、それから……」
 延々と、三下が酒を飲んで無い事ある事を言う。三下は酒を飲んで覚えて無いものだから、否定できるはずも無かった。
 そんな会話をしながら、桐伯は樹海を見る。
 昼だからこそ樹海内部まで良く見えるが、だからこそ不気味な雰囲気をかもし出している。
「これは鋼糸も使った方が良さそうですね。 GPSだけでも充分だと思いますが、用心に越した事は無いでしょうし」
 と、自分の鋼糸を準備した。

☆樹海内部

 樹海内部。うっそうと生い茂る木々。
「ほ、本当に薬になる花なんてあるんでしょうかぁぁ……」
「そんなのは、誰も分かりませんよ。でも行くしか無いでしょう」
 三下を先頭に立たせ、どんどんと森林の中を進む三人。
「虹色ってどんな色なのかな? そんな花聞いた事無いよ?」
「でも、行くしかありません。第一嬉璃さんに何かあったら、あやかし荘も退屈になってしまうかもしれませんからね。さ、がんばって見つけて下さいね、三下君」
 まるで飼い犬のように三下を扱う。
「や、やっぱり僕ですかぁぁ?」
「花の特徴を蓮さんから聞いたのは、三下君だけなんですよ? 三下君の双肩に掛かっているんですから、がんばって下さいね」
「う、うぅ……がんばりますぅ……」
 と、仕方なくとぼとぼと先を歩く三下。
 途中にぼこんと出ている岩に何度も躓きながらも、更に奥に分け入って行く。

 何時間が経っただろうか。三人からだんだんと時間感覚が失われていき、段々と空が暗くなっていく。
「うー、ボクもう疲れたよぅ……まだみつから無いのぉ?」
 疲れた声でぺたりとへたり込む柚葉。
「す、すみませんですぅ……で、でも、きっとこの先にありますよぉ」
「さっきもそういってたよ〜……もう歩けないよぉ〜」
 座り込む柚葉。そしてそれをどうにかして動かそうとする三下。
(やれやれ……まぁ、こういう所はまだ子供なんでしょうね)
 と内心桐伯が呟き、そして柚葉に近づくと、そのまま肩車をする。
「これならどうですか? 疲れないでしょう?」
 突然持ち上げられた柚葉はちょっと驚き、そして高くなった視線で見る新しい景色に喜ぶ。
「うん、これなら疲れないね〜。 ありがとう、桐伯さん!」
「いえいえ。 さぁ三下君、早く見つけましょう。店が今日開店出来なくなってしまいます。そしたらその分ツケに加えときますからね?」
「な、なんでそうなるんですかぁぁ?」
 と再び苛められるのであった。

 夕方になり、陽がかなり落ち掛けてきた頃。樹海の中はかなり暗くなっている。
「あ、あれ……何か光っていますねぇ……」
 三下が見つけたのは、ほのかな光を放つ何か。
「んと……んー……もしかして、あれが虹色に輝く花じゃないの?」
 遠目に輝く花を見わける柚葉。
「行ってみましょう、ほら三下君走って!」
 言うが早いか、という間に桐伯は走り出す。遅れて三下が着いていく。
 そして、その花の下へと到着する。
「……確かに、虹色に輝いていますね。 どうです、三下君。蓮さんの言う花に間違い無いですか?」
 三下がポケットに入れていた、連の書いたスケッチと見比べる。
「これ……そうですぅ、これですぅ」
 喜ぶ三下。
「では、これを摘んで早く戻りましょうか。夜になったら帰れる道も帰れなくなりますからね」
「はい、分かりましたぁぁ」
 と、三下がその虹色の花を摘む。
 摘んでも、まだ虹色の輝きを放つ花。
「これで嬉璃おばあちゃんも直るね、じゃ急いで帰ろ〜、ね、桐伯さん」
 すっかり桐伯と打ち解けている柚葉が、桐伯をせかす。
「じゃ、急ぎましょうか。 三下君、ちゃんとついてきて下さいね」
 と、三下の手を取り、GPSと鋼糸の道標を頼りに来た道を戻っていく。
「ひ、ひぇぇぇ、は、走らないで下さいよぉぉぉ」
 三下は足を何度も躓かせながら、桐伯に連れられていった。

☆終章〜アンティークショップ・レン

「蓮さん、いますかぁぁ、花持ってきましたぁ」
 アンティークショップ・レンの入り口のドアを叩く三下。何度も叩くと、やっと蓮が出てくる。
「あら、三下君。無事に戻ってきたのね、てっきり樹海で干からびて死んでいるかと思ったわ」
「え、縁起でも無い事言わないで下さいぃ」
「ふふ、冗談よ冗談」
 口元に扇子を当てながら笑う蓮。そして、蓮は隣にいた桐伯と柚葉に気づく。
「あら、九尾さんも、柚葉ちゃんも一緒に行っていたのね。まぁ三下君一人じゃ、とても出来ないと思っていたけど、納得だわ」
「蓮さん、おだてすぎですよ。 で、この花で嬉璃さんは助かるのですね? 恵美さんも心配していますし、早く薬を作ってあげてください」
「はいはい、分かったわ。 すり潰すだけだからそんなに時間は掛からないわよ。ちょっと待っていてね」
 と言って、花を持って奥に行く蓮。
「さてと、あとはこれを持って帰るだけですね。そろそろ開店時間ですし、私は店に行くとしますか」
「あ、ありがとうございましたぁぁ……本当に助かりましたぁぁ」
 何度も何度もぺこりぺこりと頭を下げる三下。
「構いませんよ、困っているのをほっとくわけには行きませんからね。ま……また店に寄ってくれれば充分、また仲間を連れてきて下さいね」
 と言って、店の前を去ろうとする。すると、柚葉が走ってきて。
「桐伯さん、今度いつか、桐伯さんの店に行っていい?」
 じーっと見上げる柚葉。桐伯は微笑み、そして頭を撫でて。
「ええ、構いませんよ。お酒は出せませんけれど、色々な飲み物でもてなしてあげますよ」
「うん。分かった! じゃ、気をつけてね、桐伯さん!」
 店の前で、桐伯の姿が見えなくなるまで手と尻尾を振り続ける柚葉だった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【 0332 / 九尾・桐伯 / 男 / 27歳 / バーテンダー 】

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。あやかし荘・冬の大将軍、お届けいたします。
冬の風は長引きます、皆様も風邪を引かぬようお気をつけ下さいね。
(私も年末ちょうど風邪を引いてしまい、正月明けまで長引きましたので(汗))

依頼の方は特に失敗を考えていませんでしたので、成功になっています。
虹色に輝く花が本当に存在しているかどうかは考えないで下さいませ(汗)

九尾様>初参加いただき、真にありがとうございます。
三下君に対しての対応、ちょっとからかっている風にしてみましたがどうでしょうか?
一緒に柚葉が九尾さんに懐いてしまいましたが、それはご愛嬌と言う事でお許し下さい(汗)