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<東京怪談・PCゲームノベル>


あやかし荘主催・新春百人一首の会

■さぁ、隠しましょう。
「百人一首だなんて、小学生ぶりくらいになるかしらねぇ?懐かしいわ」
藤咲愛さんは目を細めてそう言いました。
「そうでしょう?どうですか、一緒にやりませんか?」
にこにこと言った恵美さんに愛さんは妖艶に微笑むと頷きました。
「そうね。ぜひ参加させて頂くわ」

「百人一首か懐かしいのぅ」
古い袈裟を纏った護堂霜月さんは目を細めて、手の上の札を見て言いました。
「昔は良く遊んだものだ。『神速の霜月』などと渾名を付けられた事も在ったが……」
にこにこと嬉しそうに微笑んでいる霜月さんに、愛さんは驚きました。
「へぇ、そんなあだ名を付けられてたなんて……よっぽど得意なんでしょうねぇ」
二人と一緒にいる忌引弔爾さんも
「かつての主も嗜んでおったが、其れほどまでの渾名が付けられるとは。貴殿は相当な実力者とお見受けする。うむ……実に楽しみだ」
と言いました。
「いえいえ。それ程でもありませんよ」
愛さんと日本刀片手に持った弔爾さんに照れたように返事を返す霜月さん。
三人で談笑しながら管理人室を出ました。
もうすでに他の参加者さん達は、それぞれ札を持ってあやかし荘の中へ散っていました。
今回のルールに愛さんは心がワクワクするのを感じ、嬉璃さんから渡された札を見ました。
良い感じで年月を重ねた和紙の手触りを楽しみながら、一枚一枚手繰ります。
蝉丸に三条院、和泉式部の作詠など七枚。
(隠し場所…ねぇ。私の胸ポケットの中ってのはダメかしら?)
ちょっと反則かな?と思いながら、愛さんは
「では、拙者はこれで……」
とそそくさと先へと行ってしまった弔爾さんにつられるように、霜月さんに会釈します。
「私も失礼しますね。後で、お会いしましょ」
艶美な微笑みを残して、愛さんはあやかし荘の中を一人歩き始めました。
隠し場所の当てがある訳ではない愛さんはとりあえず、ブラブラと歩きます。
と、恵美さんが飾ったのだろう雪帽子を被った立派な富士山の写真のカレンダーが目に映りました。
新年のカレンダー。
愛さんは、そうだわと手を打ちました。
カレンダーを捲り、一番最後―12月のカレンダーの裏に愛さんは自分の髪に刺していたピンで百人一首の札を二枚留めました。
「ふふふっ…今年もよろしく。ってね」
一人微笑む愛さんは、残りの札を持ってその場を離れました。
と、ちょっと先にある階段から柚葉さんが元気よく飛び出して来ました。
「あら、柚葉ちゃん」
「あ、藤咲さん!」
「柚葉ちゃんはもう全部隠しちゃったの?」
訊ねた愛さんに、柚葉さんは自慢気に今先ほど駆け上って来た階段を指差しました。
「へっへ〜全部下にばら撒いて来たんだ!」
「あら、そうなの。じゃあ、あたしもそうしよっと♪」
と、愛さんはギシっと音を立てる階段を下りました。
下りた所は一面薄闇の広がる無限とも思えるような空間。
愛さんはしばらく瞬きをして立ち止まっていましたが、少し考え階段近くの床へ札をばら撒きました。
「さ、管理人室に戻りましょ♪」

■さぁ、百人一首をしましょう。
皆、それぞれに隠し終え管理人室へと集まりました。
「では、早速始めるのぢゃ。歌姫」
嬉璃さんの言葉に歌姫さんは微笑を浮かべ頷き、すぅっと息を吸い込み伸びやかな独特の節回しで詠み始めました。
「和田の原〜♪」
そう、歌姫さんが言ったが早いか真っ先に部屋を飛び出して行った人がいます。
「ちょ、弔爾さん?!」
呆然と弔爾さんが出て行った時に開けたままになった扉に、三下さんは呼び掛けた姿勢のまま固まっています。
「せっかちな奴ぢゃのぅ。だが、わしも行くか」
「漕き出てみれば〜久方の〜♪」
歌姫さんが悠々と詠み上げる中、嬉璃さんも部屋を出、皆もそれに続き札探しへと飛び出しました。
愛さんも一人、とりあえず札を探しに部屋を出たのですが、どうしたものか首を傾げました。
「ん〜…あたしの隠した札じゃないのよねぇ。一体、誰が隠したのかしら?」
そう呟いた愛さんはゆっくり回りを見渡しました。
皆、やはりどうしようかと迷っているようで、ウロウロとしています。
そんな中、一人天王寺綾さんだけが早足で歩いて行きます。
愛さんはもしや、と思いその後について行きました。
綾さんはさっさと自分の部屋へ行き、中へ入っていきました。
愛さんは少し離れたところから見ていましたが、やはり札があるのかどうか気になりますので、部屋の中へ入ろうと、ドアへと近づきました。
と、扉が開き綾さんが満面の笑みを浮かべ現れ、高々と手と声をあげました。
「ゲット〜!」
その右手の中にはしっかりと札が握られており、愛さんはやっぱりと納得しました。
「いや〜うちってホンマにラッキーやわ〜。この分やと、うちが優勝間違いないんちゃう?」
ほほほ〜と、手にした札で自分を扇ぎながら言った綾さんに、愛さんはなんだか無性に腹が立ってきました。
綾さんはまぁ、どちらかと言えば成金タイプ。
対照的に愛さんは額に汗してこつこつと働いてきた労働者タイプ。
それに、人には少なからずあるものです。虫が好かない、というのが。
どうやら愛さんの場合、それは綾さんの事のようです。
自慢気に札をひらひらさせる綾さんに、愛さんは静かな闘志を燃やし始めたのです。

■大乱戦其の一
「あらざらむ〜此のよの外の思い出に〜♪」
響く歌姫の詠み声に愛さんは駆け出しました。
百人一首はすでに十枚目になっており、皆何故か一箇所に集まっていました。
駆け出した愛さんに置いていかれまいと皆も同じく走り出します。
あの後何度かやって行く内に皆、隠した人の後を追う方が手っ取り早い、と悟ったようで、かくして強烈な奪い合いが始まったのです。
今詠まれた愛さんの隠した札はあやかし荘のカレンダーの裏に張ってあります。
走る愛さんはカレンダーに近づくにつれ、さてどうしようかと考えを巡らせます。
このままでは乱闘必死。
愛さんはちらっと後ろに視線を走らせました。
斜め後ろにぴったりと弔爾さん、北斗さん、柚葉さんがつけています。
更に後ろに霜月さん。英彦さんに夏菜さん恵美さん綾さんと続き、最後が嬉璃さんに肩車をさせられている三下さんです。
突然、愛さんは止まると腕を横へ振り出しました。
驚いた後続集団はそれを避けようと、止まり、バランスを崩して皆、組み体操のくずれたピラミッドのように折り重なってしまいました。
「あ〜ら、ごめんなさい」
まったく悪びれた様子も無くそう言い、愛さんはちょうど横にあるカレンダーの後ろから札を取りました。
ふふふ、と床の上に折り重なっている皆を見下ろし、妖艶に微笑んだその顔は普段の愛さんの顔ではなく、お仕事バージョン。
歌舞伎町の女王様の顔に変わった愛さんは取った札を胸ポケットへ滑り込ませると、両手で髪を掻き揚げました。
「あ〜ん。夏菜、まだ一枚も取ってないのよ〜」
「くっそー!俺もだぜ!?」
悔しそうに言う夏菜さんと北斗さん。
そんな二人に冷たい微笑と共に、愛さんは言いました。
「あんた達はそこで仲良くオネンネしてなさいな。この勝負、あたしが貰ったわ」
そう言われて黙ってる夏菜さんと北斗さんではありません。
逆に二人の闘志に更に火を付ける事になり、あやかし荘にはまた歌姫さんの声が流れてきました。

■扉の向こう
真剣勝負の様相を呈してきたこの百人一首の会。
何十回目の句が詠まれます。
「千早振〜神代も聞かず立田川〜♪」
皆、顔を見合わせたまま動きません。
「からくれなゐに水くくるとは〜♪」
詠み終わっても誰も動きません。
「……今度は誰だ?」
英彦さんの言葉にそれぞれがそれぞれを牽制するように見ますが、無言のままです。
「千早振〜♪」
再び同じ句が繰り返され、夏菜さんが痺れを切らしたように全員の顔を見渡しました。
「ねぇねぇ。誰もいないの?」
誰も名乗りを上げない事で、霜月さんはハッと気付きました。
「あ…もしかしたら、この句は歌姫さんかも知れません」
「歌姫はん?」
眉を寄せ、首を傾げる綾さんに霜月さんは頷きます。
「えぇ。歌姫さんも札を隠していましたから」
霜月さんは札を隠している歌姫さんに会った時を思い出し、言いました。
「確か、あちらの部屋でした……」
歩き出した霜月さんの後を皆が続きます。
「なんだよ。詠み手にも札配ってたのかよ」
三下さんの肩に乗っている嬉璃さんを見ながら呆れたように言った北斗さん。
「まったく愚の骨頂だな」
前を向いたまま英彦さんも言います。
そんな二人に嬉璃さんは、ペシペシと三下さんの頭を叩き北斗さんと英彦さんを指差します。
「えい、煩いのぢゃ。三下、あの二人をやってしまえ!」
「えぇ〜?ムリですよぉ」
「無理だ無理だとばかり言って道理が通るか!やれといったらやるのぢゃ」
べしっと今度は強めに叩かれた三下さん。
ひえぇ〜と情けない三下さんを助けるように夏菜さんが嬉璃さんに言います。
「嬉璃ちゃん怒っちゃダメなのよ。ほら、もうすぐ歌姫さんが隠した所に着くし」
と、前を見れば霜月さんがひとつの扉の前に立ち止まっていました。
「ここが隠し場所?」
愛さんの問いに霜月さんは頷きました。
「ここから歌姫さんが出てくるところを見ましたし、間違いないでしょう」
「そうか……では、開けるぞ?」
そう、皆に確認します。
皆頷き、いつでも中へ入れる準備はオーケーです。
取っ手に手をかけ、弔爾さんは勢い良く扉を開け放ちました。
中へ飛び込もうとした十二名は固まります。
低く響く雄叫びはご近所の怪談アパートの噂のネタになるには充分です。
「な、な、な〜〜!?!?」
声にならない叫び声。
低い獣の唸り声と悲鳴を聞きながら、歌姫さんはいつものような微笑を少し心配そうに歪めながら、歌い出しました。
「ないしょ ないしょ 内緒の話はあのねのね〜♪」
こうして、第一回、あやかし荘主催百人一首の会は深けて行くのでした。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1069/護堂霜月(ゴドウ・ソウゲツ)/男/999歳/真言宗僧侶】
【0830/藤咲愛(フジサキ・アイ)/女/26歳/歌舞伎町の女王】
【0845/忌引弔爾(キビキ・チョウジ)/男/25歳/無職】
【0568/守崎北斗(モリサキ・ホクト)/男/17歳/高校生】
【0921/石和夏菜(イサワ・カナ)/女/17歳/高校生】
【0555/夢崎英彦(ムザキ・ヒデヒコ)/男/16歳/探究者】

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■         ライター通信          ■
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明けましておめでとう御座います。
ライターの壬生ナギサと申します。
どうぞ、よろしくお願い致します(礼)

さて、あやかし荘主催・新春百人一首の会はいかがでしたでしょうか?
今回のお話はそれぞれの参加PCさんごとに違っています。
■大乱戦、では一〜六までありますので、探して読んでみるとまた面白いかと思います。

表の顔と裏の顔(?)上手く書き分けたいなぁ、と思ってましたが
上手く書けていたでしょうか?
感想、ご意見などあれば聞かせて頂けると幸いです。
では、機会がありましたらまたのご参加お待ちしております。