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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


除夜の鐘を聞きながら
●オープニング【0】
 12月31日大晦日。2002年も残す所あと僅かとなっていた。
 さて、冬美原の各地の様子はといえば――。

 天川高校『情報研究会』部室。
「は〜、何とか部室の大掃除も終わったね。お疲れさまっ☆」
 大掃除が終わり、鏡綾女は手伝っていた皆の労をねぎらっていた。それからジュース片手に取り留めもない話を始める。話題に上るのはもちろん今夜のこと。
「うん、あたしはお参りに行くよ。ほへ? 誰とって……うーん、たぶん純と一緒じゃないかなあ? もし向こうで会ったらよろしくねっ」
 なるほど、今夜の綾女はどちらかの神社へ参拝するようだ。屋台も出るらしいので、食べることに関しては心配いらなさそうである。

 YSBラジオ会議室。
 ここでは今夜の年越し特別番組についての打ち合わせが行われていた。ちなみにアサギテレビとの同時放送となっている。
「渋滞して身動きが取れない時には、降りて歩いても構わないんですよね?」
 鏡巴が書類片手にスタッフに尋ねた。何でも22時前から冬美原各地をバスで移動して、朝5時まで放送するのだそうだ。仕事とはいえ大変なことだ。

 冬美原警察。
 遅い昼食、あるいは早い夕食に出かけようとしていた田辺良明は、署の玄関を出た所でぼそりとつぶやいた。
「どちらの神薙神社かは知らないが、何事もなければいいんだが……」
 神妙な表情の田辺。何か事件に関係する出来事でもあったのだろうか。

 麗安寺鐘突き堂。
 住職の麗安寺宗全は、鐘の外側を丁寧に拭いて清めていた。除夜の鐘を突くための準備中のようだ。
 やがて鐘を清め終わると、誰も居ない方に向いて何やらつぶやいた。
「……分かってますよね」
 近くの木が、微かに揺れたような気がした。

 さあ――年の明ける瞬間、あなたは冬美原のどこで何をしていますか?

●仏教レボリューション【1B】
 時刻は午後11時30分、麗安寺へと続く人通りの少ない道を2人の女性が歩いていた。といっても1人は少女で、もう1人はモデルのような容貌の女性という、対照的な雰囲気の2人であったけれど。
「えー、それ本当なのぉ?」
 女性――美貴神マリヱは、笑いながら隣を歩く少女、志神みかねに聞き返した。けれど笑ってはいるが、みかねの話を疑っている様子は見られなかった。
「本当ですよっ! 忍者の宗介さんっていう人は、かえるにもなれるんです!」
 まるで漫画のような話だが、実際に目の前で見てしまったんだから仕方ない。みかねは真剣かつ熱心にその時の一部始終を語っていた。
 さて、この2人が何故麗安寺に向かっているのかというと、除夜の鐘を突かせてもらうためだった。モデルの仕事で海外に居たマリヱだったが、ようやく年の瀬に日本に帰ってこれた。そこに、みかねが誘いをかけたのだった。
 久々の二年参りと鐘突きということもあり、マリヱは即快諾。みかねの方も、マリヱが同行するのならということで両親の説得も容易となり、今こうしてこの時間でも冬美原に居られるのである。
「それはそうと、麗安寺の住職さんはどんな人?」
 歩きながら、マリヱがみかねに尋ねた。
「あ、麗安寺の住職さんは格好良いんですよ! 何たって、ファンクラブもあるんですから!」
「ファンクラブ?」
 目をぱちくりとさせるマリヱ。
「お仕事であまり居ない間に、日本の仏教界って変わったのかなぁ……」
「違います、違いますっ! えっと……」
 みかねが慌てて説明を始めた。

●意外な事実【2】
「基本的に一般の方に突いていただくというようなことは、うちではしていないのですよ」
 宗全がすまなさそうにそう言ったのは、午後11時50分のことだった。麗安寺鐘突き堂前での話だ。
「え〜っ! 聞いてないよ〜っ!」
 真っ先に驚きの声を上げたのは、鐘突きを楽しみにしてやってきた倉実鈴波だった。そしてすぐに隣に居る従妹、倉実一樹に話しかけた。
「何でお前、教えてくれなかったの?」
「だって鈴波兄ちゃん、物凄く行きたそうにしてたんだもの。だったら、実際に行って見てもらった方が納得するかなって」
 一樹は鈴波と視線を合わせぬように言った。冬美原の住人である一樹は、麗安寺で一般による鐘突きを受け付けていないことを知っていたのだが、あまりにも鈴波が行きたそうにしてたので言い出せなかったのである。
「鐘の音も聞こえないし、ここまで来る道の人通りも少ないとは思ってたけどさぁ……」
 がっくりと肩を落とす鈴波。その後ろでは、同様の勘違いをしていた2人組が居た。
「ごめんなさいっ!」
 志神みかねはまるで米つきバッタのように、美貴神マリヱにぺこぺこと頭を下げていた。
「まさか受け付けてないなんて知らなくって……! せっかくの二年参りなのに、本当にごめんなさいっ!!」
「ええっとぉ……」
 何と言っていいか困ったようなマリヱ。しばし辺りを見回してから、視線がはたと宗全に止まった。
「……けど、噂の宗全さんに会えたから来た甲斐はあったかなぁ」
 マリヱが慰めるようにみかねに言った。そして小声でこう付け加える。
「私も若かったら、絶対高校のファンクラブに入ってたのに♪」
 実際に宗全に会ってみて、気に入った様子である。
「鐘つきとは……穢れを祓う行事。聞き間違いでなければ、『基本的に』と言ったと思うんだが」
 それまで黙っていた真名神慶悟が宗全に尋ねた。もっとも慶悟の場合、鐘突きではなく年の瀬の挨拶を目的の1つとしてここに居るのだが。
「ええ、言いましたね」
「だとしたら、基本的でないことがあるのか?」
 慶悟は宗全の言い回しに、引っかかりを覚えたのだった。すると、宗全はにっこり微笑んでこう答えた。
「時折、勘違いされて来られる方も居られるんですよ。そういう方々には、せっかくですから1度だけ突いてもらっています。ただ、最初と最後は突かせる訳にゆきませんが……私の仕事ゆえに」
「えっ、突くこと出来るのっ? やったぁっ!」
 真っ先に喜びの声を上げる鈴波。一樹が恥ずかしそうに鈴波のコートの袖を引っ張っていた。

●探り合い【3】
 同じ頃、参拝客で賑わう神薙南神社境内にて。
「先生、それじゃ行ってきまーす☆」
 少女たちは口々に同様のことを言うと、屋台の列に散らばっていった。宮小路皇騎は手を振り笑顔でその様子を見守っていた。
 皇騎は今日、エミリア学院の女生徒たちの保護者として神薙南神社を訪れていた。そして先程参拝を済ませ、女生徒たちはずっと気になっていた屋台の方へ走っていったのである。その間、皇騎は境内の脇で1人待機だ。
「色気より食い気……か」
 くすりと笑う皇騎。少なくとも目の前の女生徒たちにはその言葉が当てはまるようだった。
 それから皇騎は、辺りをゆっくりと見回した。差し当たっては知り合いの姿も見当たらない。まだ新年になっていないので、もしかすると年が明けてから姿を見せる可能性もあるけれども。
 などと思っていると、珍しい者の姿を皇騎は見かけることとなった。幾度も顔を合わせている冬美原警察の刑事、田辺である。
 目が合ったので、皇騎は会釈をした。田辺は手を上げて、こちらへ歩いてきた。
「初詣かね?」
「ええ。保護者として引率ですが」
 皇騎が事情を説明すると、田辺は笑って言った。
「さすがはエミリア学院の生徒だ。しっかりしている。保護者を連れてきたのは、いいことだろう」
「田辺さんも初詣ですか」
「うん? いや……一応勤務中だが」
 皇騎の問いかけに、言葉を濁す田辺。顔には『あまり聞かないように』と書かれていた。ゆえに皇騎は、あえてそれ以上突っ込みはしなかった。
「お、そうだ。さっき空を見上げたら、こんな大きな梟が居てだね……しかも2羽だ」
 田辺は明らかに話を変えようとしていた。手振りまでつけ、熱心に説明する。皇騎は微笑みを浮かべたまま、静かにそれを聞いていた。
「しかし、この大きさ……信じるかね?」
「信じますとも」
 皇騎が即答した。

●ゴング代わりの除夜の鐘【4】
 午後11時55分、冬美原中心部へ向けて新市街を走っていたマイクロバスは、それまで走っていた広い道路を左へ曲がった。
「……っと、脇道に入ったか」
 バスをずっと追い続けていた征城大悟は、自前のバイクを駆って見失わぬように同じく左へ曲がっていった。
 バスには、アサギテレビと同時放送の年越し特別番組の中継レポーターである巴が乗っていた。巴のファンである大悟はそれを追いかけ、同じように冬美原各地を巡っていたのであった。
 バスが急に左に曲がった理由は明らかだった。それまで順調だった車の流れが、渋滞してきたのだった。生放送で一刻でも早く目的地に着きたいバスが、渋滞を嫌って脇道へ入るのは当然のことだった。
(俺様のテクニックの見せ所だな)
 フルフェイスのヘルメットの中、にやりとする大悟。バイクの扱いには長けている上、しっかり地図も携えている。万一バスを見失ったとしても、再び追い付ける自信を持っていた。バイクであれば、車では行けない道をも行けるのであるのだから。
 が、バスが脇道に入って少ししてとんでもない事態が待っていた。バスの真ん前に、突然少年が飛び出してきたのである。
 慌ててハンドルを切り少年を避けたバスは、勢い余ってガードレールに激突し動きを止めた。少年は道路の上に横たわっていた。
「おっ!? 巴さんのバスに何やってんだ、ゴラァっ!!」
 かっと頭に血が上り、叫ぶ大悟。そのまま少年をしめてやろうかとも一瞬思ったが、それより先に巴のことが心配になってバスへ近付くべくバイクの速度を上げた。
 その間にバスからスタッフが1人降り、少年の元へ駆け寄っていった。しかし、またしてもとんでもない事態が待っていた。少年はむくっと起き上がったかと思うと、駆け寄ってきたスタッフを一撃で殴り倒したのである。
「うぐあああああああっ!!!」
 少年が獣のような雄叫びを上げた。目は血走っており、少年の様子が尋常ではないことを表していた。
 バスへ向かおうとする少年。その間、少年の進路を塞ぐように大悟のバイクが滑り込んできた。斜め45度、まさしく滑り込むという表現がぴったりだった。
「てめぇ、巴さんに何てことしやがる!!」
 大悟はポケットからパチンコ玉を数個取り出すと、目の前の少年目がけて勢いよく弾き出した。
 少年に的確に命中するパチンコ玉。大悟はバイクから降り、少年を殴りに向かった。まず右ストレート、次いで左フック、最後にアッパー。流れるように見事なコンボだった。少年は道路の上に、今度は本当に横たわることとなってしまった。
 そして――冬美原に除夜の鐘が響き始めた。

●2002年→2003年【5】
 午前0時、明けて新年。麗安寺鐘突き堂にて、宗全が最初の1突きを行った。重みのある鐘の音が辺りに響き渡る。その音は遠く鈴浦海岸まで届いていた。
「うわぁ……凄い音……!」
「凄い音ですね……!」
 耳を押さえながら一樹とみかねが言った。
「あぁ……何だかようやく日本に帰ってきたって感じ……」
 マリヱは耳を押さえることもなく、身体全身で鐘の音を味わっていた。やはり日本らしさがあるのだろう。
 宗全は立て続けに5度鐘を突くと、皆の方へ振り向いた。
「どなたが最初ですか」
「はいっ、俺です、俺!」
 手を上げる鈴波。そして嬉々として宗全と交代して鐘を突き始めた。
「……今年も世話になることもあるだろうが、その時はよろしく頼む」
 降りてきた宗全に慶悟が話しかける。事実上、これが新年の挨拶となった。
「いえ、こちらこそ」
 笑って答える宗全。そこにみかねがやってきて、宗全にこちらはそれらしい新年の挨拶をする。
「去年はお世話になりました。また、今年もよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げるみかね。宗全は慶悟に言ったのと同じ言葉をみかねにもかけた。
 結局、5度突き終わった所で鈴波はみかねと交代した。そのまま宗全の所へやってくる鈴波。
「宗全さん、冬美原でよく忍者の話聞くけど何かいわれでも?」
 鈴波は世間話のようにさらりと切り出した。宗全も表情を変えずさらりと答える。
「さあ……江戸の昔は冬美原城を守っていたようですが」
「親戚に忍者とか居たりします?」
「はは、何を馬鹿なことを」
 宗全が一笑に付した。それから、ふらふらとなりながら鐘を突いているみかねの元へ補助へ向かった。
「うーん……ま、いいや。さーて、この後は謎の生物と忍者の撮影に川へ……」
「鐘突きの後は絶対、初詣に行くからね!」
 鈴波の言葉を遮るように一樹がびしっと言った。渋る鈴波に対し、一樹は何とか説得しようとする。
「北神社近いから! 出店もあるから!」
 説得材料として、年上に言うようなことではない気もするが、鈴波にはそれが有効であった。
「え、出店あんの? なら行く」
 即答する鈴波。神社へ着くなり参拝そっちのけで買い食いでもしそうな気配である。
「北神社に行くのは、少し時間を置いてからの方がいいと思うがな」
 そこに慶悟が口を挟んできた。一樹が不思議そうに聞き返したが、慶悟は具体的な言及を避け、同じ言葉を繰り返した。
「あう……重かったぁ〜」
 ようやく5回突き終わり、みかねはマリヱと交代をした。
「清々しい音を響かせてあげましょう♪」
 交代するなり、そんなことを言い放つマリヱ。皆もどのような音が出るのか、興味深々となった。
 タイミングを見計らい、勢いよく鐘を突くマリヱ。鐘の音が響き渡る。その音は、先の3人よりも一際大きな音であった。
 音の大きさに驚き、耳を押さえる一樹とみかね。思わず拍手する鈴波。表情を変えない慶悟。
「あっ……ゴメン」
 本人も予想外の音の大きさだったのか、マリヱは他の皆に対して思わず謝っていた。悪びれた様子は見せていなかったけど。

●新年最初の事件【6】
 神薙南神社にも除夜の鐘は聞こえてきていた。けれど、境内に居た者にはその音を味わう余裕はなかったことだろう。
 境内に、刃物を振り回した血走った目をした青年が現れていたのだ。正確には、境内で青年が突然刃物を振り回し始めたと言うべきか。
 幸運にも青年による被害者は今の所出ていなかった。事件発生と同時に、警備に駆り出されていた警官が青年を取り囲んだからであった。参拝者も警官の誘導で速やかに青年から離れ、青年を取り囲む警官たちを遠巻きに見守っていた。
「先生……!」
 女生徒たちは皇騎の所へ戻ってきていた。いずれも不安そうな表情を浮かべている。
「大丈夫、じきに解決しますから」
 皇騎は女生徒たちを落ち着かせるようにそう言った。
「ほう、何か根拠でもあるのかね?」
 時折、獣のような叫び声を上げる青年の動向に注意を払いながら、田辺が皇騎に尋ねた。
「根拠は……因果応報、悪いことをすれば必ず裁かれると言いましょうか。それよりいいんですか? 行かなくて」
「肉弾戦は若い者に任せてるものでね」
 ニヤリと笑う田辺。確かに若い警官たちの中に、田辺のような中年男が混じってどうなるという訳でもない。むしろマイナスに働く可能性もある。
 膠着状態に陥る青年と警官たちの睨み合い。それが突如動き出したのは、急襲が原因だった。といっても警官の誰かや、他の者が飛び出したのではない。それは空からやってきたのだ。
「うわあっ!!」
 青年に空から梟が襲いかかってきた。それも2匹交互に。その大きさは先程田辺が語っていたのと同じ、もしかするとそれ以上かもしれない。
 大梟たちは、交互に急降下急上昇を繰り返し青年を翻弄する。やがて1匹の大梟の足が、青年の刃物を握る手を捉えた。
 青年の手から刃物が落ちる。警官たちがそれを見逃すはずがない。多勢に無勢、青年はたちまちに警官たちに取り押さえられることとなった。
「ふむ、解決したね。まるでこの結果が分かっていたようだ」
 青年が逮捕された様子を確認し、田辺がちらりと皇騎を見て言った。
「まさか。予言者ではないんですから」
 笑って言い返す皇騎。そんな皇騎の頭上高くを、2羽の大梟が飛び回っていた。
 その時、田辺の携帯電話に着信があった。
「ああ、川辺か。どうした?」
 電話に出た田辺の表情が強張った。いい内容ではなかったのだろう。
「神薙北神社で……ふむ……そうか。こっちでも事件が起きて、今解決した所だ。私もすぐにそちらへ行く」
 皇騎は田辺の言葉に、静かに耳を傾けていた。時計を見ると、時刻は午前0時12分を指していた。

●ある意味初夢【7】
 除夜の鐘が未だ鳴り響く中、大悟はバイクを神薙南神社に向けて走らせていた。前方に件のバスは見当たらない。
 けれど大悟はもうバスを追う必要はなかった。何故ならば、バスに乗っていた巴は今大悟の後ろに居るのだから。
 経緯を説明するとこうだ。少年に襲われたため警察を呼んだ中継スタッフは、そのために足止めを喰らうこととなった。バスもガードレールにぶつかってしまった以上、仕方のないことではある。
 しかし中継は続けなければならない。その上、グッドタイミングなのかバッドタイミングなのか、次の中継先である神薙南神社で事件が起こったとの連絡がスタッフに。
 どうすべきかスタッフが会議を始めようとした時、大悟がこう申し出たのである。
「不肖ながら征城大悟、2ケツで……すいません、後ろに乗っけて走っても……!」
 その時の大悟は直立不動、敬礼をしていた。スタッフはその案に乗り、巴も承諾をしたため――先述のような状態となったのである。
 ただ、大悟や巴も事件の関係者であるために、後程事情聴取のため警察に行かなければならなくなったが、今の大悟にとって些細な問題でしかなかった。
(夢みたいだ……巴さんが、俺の後ろに乗ってるなんてよぉ!)
 大悟は頬をつねって確かめたい気分だった。けどこれは夢じゃない。巴がしっかと大悟の身体につかまっているのも夢ではなかった。
 やがてバイクは神薙南神社に着く。時刻は午前0時17分。
「本当にありがとうございました……あなたが居てくれたおかげで、中継も何とか出来そうです」
 ヘルメットを外し、深々と頭を下げる巴。さすがに機材までは運べなかったので、巴は携帯電話でスタジオに電話をして中継を行うことになっていた。
「いや、いいっス。巴さんのお役に立てただけでも本望っス!」
 また敬礼をする大悟。巴がくすっと笑い、もう1度頭を下げると境内へと走っていった。

●鏡巴レポート【8】
 午前0時24分。麗安寺ではまだ宗全が除夜の鐘を突いていた。残りはもう数少なくなっていた。
「うう……冬でも怖いものは怖いんですね……」
 半分泣きそうになっていたみかねが、マリヱに連れられて鐘突き堂の前に戻ってきた。何故かみかね、何かを探すように墓地の中を歩き回っていたのである。
「当たり前じゃない。でも変なのは何にも居なかったからね。あたしの保証付き♪」
 みかねを安心させるように言うマリヱ。みかねがこくんと小さく頷いた。
「鈴波兄ちゃん、そろそろ北神社行く?」
 慶悟に止められ、麗安寺で時間を潰していた一樹が鈴波を呼んだ。
「あー、ちょっと待って。今、会話中でさー」
 そう答えた鈴波は今、様子を見にやってきた宗全のファンクラブの少女を捕まえて、あれやこれやと尋ねている最中であった。
「あ、そう? 宗全さんの弟さん、幼い頃からよそで修行中なんだ? 名前は? あ、知らない。なるほど、なるほど……」
 話の内容をメモに取る鈴波。一樹が大きな溜息を吐いた。本当に、その熱心さが受験の方に向けば、間違いなく合格だと思うのだが……。
「……やっと流れてきたな」
 どこから運んできたのかよく分からない屋台の食べ物を食べていた慶悟は、そうつぶやくと聞いていたラジオのイヤホンを外した。ラジオの内蔵スピーカーから、携帯電話から話していると思われる巴の声が流れてきた。

「私は今、神薙南神社に来ているのですが、新年間もなく起こった事件について触れなくてはなりません。
 詳しくはスタジオから伝えていただきたいのですが、神薙南神社境内で突然刃物を振り回した青年が、現行犯逮捕されました。
 また神薙北神社では、本殿の裏手で放火しようとしていた青年が倒れているのが発見されています。犯人の青年は、うわ言で忍者や僧侶に襲われたなどと話しているようですが、詳細はまだ分かっておりません。
 警察では現在、この2つの事件の関連を調べている模様です。繰り返します……」

【除夜の鐘を聞きながら 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0442 / 美貴神・マリヱ(みきがみ・まりゑ)
                   / 女 / 23 / モデル 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0662 / 征城・大悟(まさき・だいご)
            / 男 / 23 / 長距離トラック運転手 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全12場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・年末年始を挟み、大変お待たせいたしました。2002年から2003年に変わる瞬間の冬美原の様子をお届けします。オープニングの文章の形態で不思議に感じた方も居られるかもしれませんが、今回は高原にしては珍しい書き方をしています。普段の書き方と、どちらが好みでしょうか?
・もう少し行き先はばらけるかとも思ったんですが、麗安寺に固まったのはちょっと意外でした。ちなみに麗安寺が除夜の鐘の一般受け付けをしていないことと、午前0時から突き始めるということは、あえて伏せていました。
・さて、オープニングだけに出てきた綾女ですが、実は神薙北神社に居ました。もちろん、騒動に巻き込まれてしまっています。最初から神薙北神社に行かれた方が居たなら、また展開は異なっていたかもしれませんね。
・アンケートですが、今後の依頼を出す上で参考にさせていただきます。ありがとうございました。
・志神みかねさん、28度目のご参加ありがとうございます。というわけで、麗安寺で妙なものを見付けることは出来ませんでした。まあ、気になっていることの一端は本文中で表れてはいるんですけれども。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。