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<東京怪談・PCゲームノベル>


謹賀新年! はねつき女王決定戦!?

〜 波乱のルール変更 〜

「あ、シュラインさん!」
聞き覚えのある声に、シュライン・エマははっと顔を上げた。
丘のふもとから、あやかし荘へと続く長い階段。
その階段の前で、月見里千里(やまなし・ちさと)が手を振っていた。
「あら、ちーちゃん。あけましておめでとう」
シュラインが軽く一礼すると、千里も軽く頭を下げて、そしてこう聞いてきた。
「あけましておめでとう! シュラインさんも、三下さんに呼ばれてきたの?」
「ええ。その様子だと、ちーちゃんもそうみたいね」
シュラインの答えに、千里が「やっぱり」という顔をする。
「そうじゃないかと思ったんだ。それじゃ、早く行ってみようよ」
「そうね、そうしましょうか。あまり待たせるのもなんだしね」
そんなことを話しながら、二人は階段を上っていった。





二人が上についてみると、そこには出迎えに来た三下と、先に到着していた藤崎愛(ふじさき・あい)の姿があった。
「あけましておめでとうございます、シュラインさん、千里さん。
 新年早々、呼び出してしまってすみませんでしたぁ」
二人の方を見て、ぺこぺこと頭を下げる三下。
(年は変わっても、三下くんは変わらない、か)
そんなことを考えながら、シュラインはここに来るまでの間ずっと疑問に思っていたことを口にした。
「あけましておめでとう、三下くん。
 それで、事情はわかったけど……なんで私が呼ばれるわけ?」
その核心をついた問いに、三下は一瞬硬直すると、慌てて答えになっていない答えを返してきた。
「あ、これで全員じゃなくて、あともう一人来てくれるはずなんですけど」
「そうじゃなくて。
 私は特に肉体的に突出したものがあるわけでも、飛び抜けてお酒に強いというわけでもないんだけど」
シュラインがなおも問いつめると、三下は再びぺこぺこと頭を下げて謝り始めた。
「すみませんすみませんすみませええぇぇんっ!
 お正月で、連絡のつかない人も多いし、連絡がついても里帰りだったり旅行だったりで、全然来てくれそうな人がいなかったんですよおぉぉ」
「……まぁ、そんなことだろうとは思ったけど」
そう言って、シュラインは一つ大きなため息をついた。

「あ、もう一人誰か来るよ」
千里がそう言ったのは、ちょうどその時だった。
見ると、何やら風呂敷包みのような物を持った和服の女性――天薙撫子(あまなぎ・なでしこ)が、小走りに階段を上がってくる。
彼女は一気に階段を上り終わると、すでに他のメンバーが揃っていることに気づいて、軽く頭を下げた。
「すみません、遅くなりました!」
「あ、いえ、こちらこそ急に呼び出してしまってすみませんでした」
そう答える三下に、撫子は手にしていた包みを差し出した。
「せっかくのお正月ですから、皆さんで召し上がっていただこうと思いまして」
「あ、ありがとうございます!」
嬉しそうにそれを受け取る三下。
その三下に、先ほどから何かを探していた様子の千里が尋ねる。
「ところで、肝心の相手はどこにいるの?」

答えは、予想外の方向から聞こえてきた。
「ここにいるよっ」
その声とともに、近くの木の上から鳶色の翼をもつ少女が舞い降りてくる。
おそらく、彼女が青葉なのであろう。
「これで全員だよね? それじゃ、早速始めようよ」
いかにもやる気満々という様子の青葉。
しかし、それに愛が待ったをかける。
「あ、その前に一ついいかしら?」
「何?」
「羽子板じゃなくて、使い慣れてる方で戦いたいんだけど」
そう言って愛が取り出したのは、なんと鞭であった。
「あたし程の腕前になれば、的確に羽根に当てられるのよ。羽子板よりもリーチも長いしね」
確かに、リーチだけを考えれば、鞭の方が羽子板よりも圧倒的に有利である。
だが、はたして本当に鞭を使ってうまく羽根を打ち返すことなど出来るのだろうか?
まして、今回の相手である青葉は、風を起こして羽根の軌道を変えたりもするという。
その時に、細い鞭では不利なのではないだろうか?
シュラインがそんなことを考えていると、青葉はさして考えるでもなく、あっさりとこう答えた。
「ふーん……いいけど、間違っても私に当てないでよ」
そして、一同の方を見回してこう尋ねる。
「さて、ひょっとしてまだ他に何かある?」
青葉が「もちろん、もうないよね」という意味を言外に込めたのは明白であったが、それを知ってか知らずか、今度は千里が手を挙げた。
「あ、あたしからもいくつかいい?」
「今度は何?」
一度ならず二度までも出鼻をくじかれ、明らかにうんざりした様子の青葉に、千里はこう提案した。
「罰ゲームのお酒の量を、倍に増やすってのはどう?」
「倍に? まぁ、別にいいけど」
そんなことか、というように答える青葉。
それを見て、千里はさらにこうつけ加えた。
「でも、それだけじゃ面白くないから、それに加えて、負けた人は着ているものを一枚脱ぐ、ってのは?」
その唐突な提案に、一瞬その場にいた全員の目が点になった。
「え? なんでそうなるの?」
あまりのことに、さすがの青葉も抗議の声を上げる。
けれど、千里はあっけらかんとこう返した。
「その方が面白いじゃない♪
 それとも……ひょっとして、負けるのが怖いとか?」
「そこまで言うなら、やってやろうじゃない。
 ただし、当然全員このルールで、だからね」
あっさり挑発に乗った青葉が、事態をますますややこしくする。
「ねぇ、ちーちゃん……何変な罰増やしてるのっ」
シュラインはそう言ってたしなめようとしたが、その言葉は次の愛の発言で見事にうち消された。
「あたしは別に構わないわよ。別に見られて困るような貧相な身体はしてないし」
確かに、愛は背も高く、スタイルももっともいいと見て間違いない。
その愛が承諾したことで勢いづいた千里が、残る二人に迫る。
「はい、愛さんはOK、っと。あとはシュラインさんと撫子さんだけど?」
シュラインはあまり乗り気ではなかったが、千里の性格、青葉の様子、この場の雰囲気等を考えあわせると、どうやっても断りきれる状況ではなかった。
「あぁーもぅもぅもぅ! やるって言ったからには参加はしますって、うぅー」
半ばヤケになりながらも即決するシュライン。
しかし、撫子の方はさすがにそうはいかない様子だった。
「えっ、わ、わたくしは、その……」
「やるよね〜、撫子さん♪」
動揺する撫子に、有無を言わせぬ調子で千里が参加を促した、ちょうどその時だった。

「あのぉ」
不意に後ろから声をかけられて、一同が一斉に振り向く。
そこには、青葉にそっくりな少女の姿があった。
違っている点と言えば、青葉が短い髪なのに対して、この少女は髪を腰辺りまで伸ばしていることくらいだろうか。
「ええと、あなたが若葉ちゃん?」
シュラインが確認のためにそう問いかけると、少女は一度深々と頭を下げた。
「はい、私が若葉です。皆さん、どうぞよろしくお願いします」
そして、撫子の方を向いて、こう呼びかける。
「あやかし荘の皆さんの方は、三下さんが見ていて下さるそうですし、撫子さんは私と勝負しませんか?」
「えっ?」
驚いたような顔をする撫子に、若葉は微笑みながらこう続けた。
「青葉姉さんたちはいろいろルールに手を加えているようですけれど、私たちは普通に楽しみましょう」
その一言で彼女の真意を察して、撫子は彼女に感謝の意を表した。
「あ、ありがとうございます」
若葉は「どういたしまして」というようにもう一度撫子に微笑みかけてから、千里たちの方を向いて尋ねた。
「いいですよね、千里さん、青葉姉さん」
「ま、まぁ、若葉がそう言うんなら」
なぜか妙に歯切れの悪い様子で答える青葉。
千里は少し不満そうではあったが、青葉が折れてしまっては味方がいないと悟ったのか、すぐに若葉の申し出を承諾した。
「ん〜、まぁ、それならそれでもいっか。
 どうせ三下さんには中に戻ってもらう予定だったし、撫子さん一人だけ和服だから不利だもんね」
「ありがとうございます」
若葉は二人に礼を述べると、すぐに三下の方に事情を説明に行った。
つまり、若葉の最初の一言は嘘だったということになるが、皆もとより方便とわかっていたのか、誰もなにも言おうとはしなかった。

「すみません、三下さん」
説明を終えた若葉に、三下は苦笑しながら答えた。
「いえ、いいですよぉ、気にしないで下さい」
そこに、千里がくぎを刺す。
「もういいって言うまで絶対出てきちゃダメだからね」
「わ、わかってますよぉ」
そう答えて、三下はあやかし荘の中へと戻っていった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 嵐の前の何とやら 〜

撫子と若葉は、残りのメンバーからはやや離れたところに場所をとった。
場所を広く使えるように、というのが一番の理由だが、青葉はもちろんのこと、残りのメンバーもひょっとしたら「何か」をやるかも知れないので、それに巻き込まれないように、という理由もあるにはあった。
「それでは、始めましょうか」
「ええ」
そう言って握手を交わす二人。
「撫子さん、お先にどうぞ」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
撫子は若葉から羽根を受け取ると、若葉が準備を終えるのを待って、とりあえず普通に羽根を打ってみた。
緩い山なりの軌道で、羽根が若葉の方へと飛んでいく。
若葉は素早くその落下点に回り込むと、やはりごく普通に羽根を打ち返してきた。
(ひょっとすると、三下さんから聞いていたのは、全部青葉さんの方のことなのかしら?)
そんなことを考えながら、同じように打ち返す撫子。
その後も、しばらくの間、何の変哲もない、ごく普通のはねつきが続いた。

その平穏を破ったのは、若葉の方だった。
「それでは、そろそろ本気を出させていただきますね」
羽根を打ち返しながら、若葉がそう宣言する。
撫子は気を引き締めると、もう一度、ごく普通に打ち返した。

と、その時。
まだ羽根が上向きに飛んでいるにも関わらず、若葉が飛んだ。
おそらく、上空から打ってくるつもりなのであろう。
そう考えた撫子は、こんなこともあろうかと思って用意しておいた妖斬鋼糸を放った。
糸が若葉の足に絡まり、若葉は空中で大きくバランスを崩す。
とっさに羽子板を振ってはみたものの、羽根はそのはるか上空を越えて、若葉の背後の地面にぽとりと落ちた。
「なかなかやりますね、撫子さん」
若葉はそう言って笑うと、升いっぱいに酒を注いで飲んだ。
「ですが、次は負けませんよ」
とは言ったものの、若葉の打ち込みは、今回も緩い山なりのものだった。
(仕掛けてくる前に決める)
そう決意して、撫子は得意の剣術を応用した、鋭く強烈な打ち込みを繰り出した。
若葉もなんとか反応して打ち返すが、「かろうじて打ち返した」というレベルで、羽根の軌道は前にもまして高く、勢いはほとんどないに等しい。
その上、若葉は体勢を崩している。
もう一度打ち込めば勝てる。
そう感じて、若葉はもう一度羽子板を鋭く振り抜いた。
だが、羽根が羽子板に当たる音は聞こえてはこなかった。
「えっ?」
驚いて振り向く撫子の背後で、羽根が静かに地面に落ちる。
まさかと思って若葉の方を見ると、若葉はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「少し、軌道を変えさせていただきました」
「やりますね、若葉さんも」
撫子はそう答えると、升に酒を注ぎながら考えた。
(これは、いい勝負になるかもしれませんね)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 竜虎相打つ!? 〜

撫子と若葉の勝負は、一進一退のまま続いていた。
もちろん、それだけ二人の実力が伯仲しているということでもある。
しかし、それ以上に、「負けた方がお酒を飲む」というルールが、二人の試合をより白熱したものにしていた。
普通に考えれば、勝負が進むに連れて酒の量が増し、動きにキレがなくなってくるはずなのだが、この二人の場合、酒が入れば入るほど、より素早く、そしてより力強くなっていっていたからである。

そして。
二人とも一升ほどの酒を飲んだ今では、そのレベルはすでに常人の及びもつかないほどになっていた。

「はいっ!」
気合一閃。
渾身の力を込めて、撫子が強烈な一撃を放つ。
その一撃を、若葉は羽子板を引きながら受け止めた。
そして、まるで舞いでも舞うかのように身体を一回転させながら、うまく羽子板をひねって羽根の向きを変える。
すると、羽根は撫子の打ち込みとほとんど同じ勢いで、撫子の方に戻ってきた。

打ち返すのではなく、受け流す。
まさに、「柔よく剛を制す」の思想に基づいた返し手であった。

撫子には、さすがにそういった技はない。
けれども、自分が打ち込んだものを打ち返せるくらいの自信はあった。

「えいっ!」
もう一度、撫子が力一杯その羽根を打ち返す。
それを、若葉が再び受け流し、反転させる。

撫子が、三度それを打ち返そうとしたとき。
若葉の右の翼が、一度大きく動いた。
風に煽られて、羽根がわずかに軌道を変える。
本当に、ごくわずかな軌道のズレ。
それは、撫子が羽根を打ち返すことは阻止できなかったものの、打ち返した後の羽根の軌道を大きく変えた。

意図した向きとは大きく違った方向に、弾丸の如き勢いで羽根が飛んでいく。
その羽根の行く手には、「脱衣ルール」での戦いを繰り広げる四人の姿があった。

鈍い音を立てて、羽根が地面に突き刺さる。
それを見た四人が、ゆっくりと撫子たちの方を向く。
その何か恐ろしいものでも見るかのような表情を眺めているうちに、撫子はふと彼女たちとも勝負してみたいような思いに駆られた。
隣を見ると、やはり若葉も何か言いたそうな表情でこちらを見ている。

「あちらに混ぜていただきましょうか」
「そうですね、そうしましょう」
二人は顔を見合わせてそう言うと、一度大きく頷いた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 そしてお約束へ 〜

それから、さらに十数分後。

目の前で繰り広げられる「はねつきを越えた何か」を、愛はただ呆然と見つめていた。
隣では、青葉がやはり同じように呆然とたたずんでいる。

二人とも、すでに先ほどの千里と同様、身につけているものは「最後の一枚」のみとなっていた。
ちなみにその千里はといえば、すっかり酒が回ってしまったらしく、二人から少し離れたところで、彼女の次に脱落したシュラインに絡んでいる。

「どうしてこうも違うのかなぁ、同じ双子なのに」
不意に、青葉がぽつりと呟いた。
愛が青葉の方に目をやると、青葉も愛の視線に気づいたらしく、苦笑いを浮かべてこう続けた。
「私さ、昔から何やっても若葉には勝てないんだよね。
 若葉の方が運動神経もいいし、頭もいいし、天狗としての能力でもずっと若葉の方が上だしさ」
なるほど、と愛は思った。
青葉の普段の勝ち気な態度は、妹に対するコンプレックスの裏返しだったのである。
「青葉ちゃんは青葉ちゃん、若葉ちゃんは若葉ちゃんでしょ。
 双子だから比べられることが多いのもわかるけど、あまり気にしすぎちゃダメよ」
愛は諭すようにそう言うと、こう一言つけ加えた。
「それに、人を楽しませたりする才能は、青葉ちゃんの方があるんじゃない?」
青葉はきょとんとした顔で愛の方を見つめていたが、やがて、今度は照れたように笑った。
「そう言ってもらえると、少しは気が楽になるかな。ありがとう」

どういたしまして、と愛が答えようとしたとき。
二人の目の前を、「超高速で飛行する何か」が横切った。
(まさか)
二人がその「何か」の飛び去った方を振り向くよりも早く、その「何か」が――もちろん、はねつきの羽根である――あやかし荘のドアに直撃して、ものすごい音をたてる。
その音に驚いて、千里とシュラインも呆気にとられた様子でドアの方を見つめた。
羽根はドアの中央辺りに半ばめり込んでおり、そこを中心に蜘蛛の巣状の亀裂が走っている。
まさに、銃弾並の破壊力であった。
(これ、もうちょっと方向がずれてたら……)
そう感じて、愛は背中に氷を押しつけられたような思いがした。

と、その時。
全員が見つめる中で、不意に、ドアが内側から開かれた。
そして、そのドアから飛び出してきたのは……お約束通り、三下忠雄その人であった。
「一体なんなんです、今の……は……?」
最初こそ強い調子で言葉を発しはしたものの、すぐに尻すぼみに消えていく。

無理もない。
愛たち四人の姿を、三下は思いっきり見てしまったのだから。
しかも、直前までドタバタやっていた千里に至っては、少なくとも愛の見る限りでは、胸を隠すのも間に合わなかったはずである。

「あ、す、すみませんっ!」
一瞬の硬直の後、慌てて中へ逃げ帰ろうとする三下。
だがその時すでに遅く、三下は左右の肩を千里と青葉に掴まれていた。
「三下さん……見・た・わ・ね?」
その千里の問いかけに、三下はぶんぶんと首を横に振る。
「見てません、見てません、見てませんっ!」
すると、今度は青葉が口を開いた。
「私は嘘つきは嫌いだなぁ。根性叩き直してあげよっか」
このままではヤバイと思ったのか、三下が慌てて前言を撤回する。
「あああ、こ、これはあくまで事故で、本当にそんなつもりはぁぁ!!」
けれども、その発言はただただ事態を悪化させるだけだった。
「ふーん、じゃぁ、理由はどうあれ、やっぱり見たんだ」
千里はそう言うと、青葉と顔を見合わせ、こくり、と頷いた。
『問答無用!!』
かけ声とともに、肩を後ろに強く引っ張られた三下があっけなくその場にひっくり返る。
その三下に、二人の半裸の少女が飛びかかった。
「このエッチ! チカン! ヘンタイっ!!」
「あれほど、見るなって言ったじゃない!!」
そう言いながら、めったやたらに両手で三下を殴りつける。
そんなことをしたら、なおのこと見えてしまうのは明らかなのだが、お酒のせいもあってか、二人ともそこまで頭が回らないらしい。
「あ、愛さん、シュラインさん、助けて下さあぁいっ!」
二人の攻撃を両手でなんとかガードしながら、三下がすがるような声で助けを求める。
愛はあることを考えついて、三下のそばに歩み寄った。
「じゃ、今助けてあげる」
そう言って、左手で胸を隠したまま、右手でそっと三下の額に触れる。
すると、たちまち三下の様子に変化が起きた。
「あうっ! あ、愛さん、何を……あっ! な、何で……あううっ!!」
もともと赤みがかっていた顔が見る見るうちに真っ赤になり、苦痛を訴えるうめき声が不可解な快感による喘ぎに変わる。
「一定時間の間、触れた相手の痛みを快楽に変えることが出来る」という愛の能力によるものであった。
「じゃ、後はたっぷり楽しんでね」
それだけ言って、愛は再び三人から離れた。
シュラインが何か言いたそうに愛の方を見ていたが、愛はあえて気にしないことにした。

撫子と若葉が戻ってきたのは、ちょうどその時だった。
「そろそろ終わりにして、おせちでも食べましょうか?」
「そうですね。今日は本当に楽しかったです」
いつの間にかすっかり意気投合したようで、そんなことを話している。
「あら、おせち? いいわね」
愛がそう声をかけると、撫子はにっこり微笑んだ。
「愛さんとシュラインさんも、ご一緒にいかがですか?」
だが、シュラインは心配そうに千里たちの方を見てこう答えた。
「私はいいけど……あの三人は?」
そんなシュラインを、若葉と撫子が促す。
「いいんじゃないですか。三人とも、なんだか楽しそうですし」
「そうですよ。それより、いつまでもそんな格好してると風邪ひいちゃいますよ」
「そう言われれば確かにそうだけど……本当にいいのかしら」
なおも渋るシュライン。
「いいの、いいの。さ、早く行きましょ」
愛はそう言うと、さっさと服を着始めた。

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〜 その後 〜

はねつき大会から、数十分ほど後。
撫子、愛、シュライン、若葉、そして青葉の五人は、撫子の持ってきたおせちを囲みながら、のんびりととりとめもない話をしていた。

そうしているうちに、朝のうちにつぶれてしまっていたあやかし荘の住人たちも、気分がいくらか良くなったものから順に輪の中に加わってくる。
まず歌姫が、次に天王寺綾が現れ、そして三番目に座敷わらしの嬉璃が顔を出した。
「なんぢゃ、にぎやかぢゃの」
そう言って室内の様子を眺める嬉璃。
だが、撫子と目が合うと、嬉璃は驚いたような顔をして二、三歩後ずさった。
その反応を怪訝に思って、撫子がこう尋ねる。
「あの、どうかなさったんですか?」
すると、嬉璃は引きつった笑みを浮かべた。
「ん、ああ。
 もう大丈夫だと思ったのぢゃが、どうやらまだ少し酒が残っているようぢゃな。
 もう少し、奥で休んでくるかの」
それだけ言って、嬉璃は逃げるようにその場を去った。

「なんだったんでしょう?」
「酒が残ってたせいで、幻覚でも見たんやないか?」
一同はさっぱり事情が飲み込めず、ただただ首をひねるばかりだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0165/月見里・千里 /女性/16/女子高校生
0830/藤咲・愛/女性/26/歌舞伎町の女王
0328/天薙・撫子/女性/18/大学生(巫女)
0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト

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■         ライター通信          ■
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遅ればせながら、あけましておめでとうございます、撓場秀武です。
今回は季節ものということで早く書き上がるよう最善を尽くしたのですが……目標の七日どころか、気がつけば一月後半になってしまいました(汗)

・このノベルの構成について
このノベルは全部で五つのパートに分かれています。
このうちいくつかのパートにつきましては複数パターンがございますので、もしよろしければ他の方の分のノベルにも目を通していただければ幸いです。

・個別通信(天薙撫子様)
最初の千里さんの提案にどう反応するのがいいかちと微妙でしたので、結局安全策(?)で若葉の方のお相手をしていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
もし何かありましたら、遠慮なくツッコミいただけると幸いです。