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<東京怪談・PCゲームノベル>


真夜中の訪問者

 翌日の事である。
 あやかし荘の三下の下へ訪れた一人の少年がいた。
 小柄で少女のように繊細な顔立ちの少年、水野・想司(みずの・そうじ)であった。
 想司は三下の部屋に入るなり、背中に背負ったリュックを下ろして、中身をバッと広げてみせた。
「エクセレント〜三下さんっ☆さぁ、これを身に付けるんだ☆」
「え?これかい?い、一体何のために・・・?(汗)」
 想司の差し出した怪しげなそれを、三下をじとーっと見つめる。
 出来ればご遠慮したい気持ちになるそれは、冬に着るにはどうも寒い格好であった。
「もちろん、犯人を挑発するためさ☆」
「犯人を挑発・・・・?じゃ!想司くんは・・・・僕を助けてくれるのかい!??」
 想司の言葉に一気に歓喜した三下。
 あまりのうれしさに、想司の手を取って、目を潤ませる。
 命を狙われているにもかかわらず嬉璃や恵美のあの冷たさに、三下は藁にもすがりたい気持ちであった。
 もし丑の刻参りが成就してしまえば、自分は死んでしまうのだ。
 なのに、なのに、誰も助けてくれない。
 もう、誰でもいい!!
 あの恐怖から、助けてくれるのなら・・・・!!
 そう、心の中で叫ぶ。
 だが三下は甘かった。
 あぁ・・なぜ学習しない、三下忠雄。
 前にも同じような事がなかったか・・・?
 歓喜する三下を前に、想司はニカっと微笑んだ。
「何を言ってるんだい♪三下さん☆闘争という浪漫に血道をあげる修羅ならば、呪いの1つや2つ掛けられてこそ一人前さ!さぁ、これを身に付けて行くよ☆」
「へ・・・・?あの・・・呪いを解いてくれるんじゃ・・・?」
 すでに出て行こうとする想司の背中に問いかけたが、想司は聞いていない。
「想司くぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜ん!???」
 それは一体どうゆう意味なんだぁぁぁーーー!!!
 叫びたい気持ちで一杯の三下は、去っていってしまった想司に、仕方がなく、それを身に付けるのだった。


『水野ボンバイエinあやかし荘』
 大きく目立つ文字で書かれた旗が、三下の後ろではためいた。
 旗は目立った。
 どうやっても目立つ。
 目立つ旗を背負った三下は、あやかし荘内をくるりと回り、町内へ来ていた。
 三下が歩く所さきざきで不思議と鳴り響くお馴染みのBGM。
 その軽快なそのリズムは、今まさしくかの人が現れるかのような、そんな錯覚を起こさせる。
 赤いロープを身にまとった姿は、がっちりとしてて・・・。
 否、薄い胸板が、寒そうに折り曲げられている。
 敵を挑発するかのような赤いブーツはサイズが大きく、内股に歩くその様は貧弱そのもの。
 想司の用意した猪本ルックを身にまとった三下は、寒空の中、背中に旗を立て町内を練り歩いていた。
 あやかし荘での、綾や柚葉の冷たい視線が忘れられない。
 あきれた・・・というよりは、完璧に馬鹿にした視線は、三下の胸へ容赦なく刺さった。
 同じく、町の人々の視線が痛い。
 こそこそ隣同士で囁く主婦は、こちらに向かって何か言っている。
「うう・・・・」
 三下は泣きたい気持ちで一杯であった。
 もしかしたら、こんな事だったら、おとなしく呪いを受けた方がよかったのかも・・・・。
 ガクッと三下は肩を落とした。
 そんな三下を後ろから眺めつつ、想司は「ふふ」と含み笑いを漏らす。
「ナチス特務部隊を1人で壊滅させた伝説の猛者たる三下さんを葬るのに藁人形一個とはお笑い様だよっ☆そう!三下さんを殺せる唯一の人物は正に僕しかいないのさっ☆悔しかったら藁人形の数百個でも打ち込みにくるがいいっ♪全霊を賭けたその戦いを僕らは望みまくるのだから!」
 そう言って、わっはっは笑う想司が、まさに悪魔そのものに見えたのは、決して錯覚じゃない。
 三下はそう思わずにはいられなかった。


 そこからちょっと離れた、小さなビルの上。
 練り歩く三下と想司を見つめる一人の男がいた。
 長身の体は鋼のように細く鋭く、想司を見つめるその瞳は緑。
 金の髪が風になびき、時折視界を遮るが、いっときもその目は揺るがない。
 その目が想司を見つけてキラリと光る。
「とうとう・・・見つけました」
 緑の目には、微かな歓喜の色があった。
「あの運命の戦いから二年。この為に私はやって来た・・・!」
 銀のナイフと、刃鋼線、ライトサーベ○三点セットで自分を滅ぼした水野想司との宿命の対決をする為に!
 二年前、吸血鬼ハンターギルドをゆるがせた内紛において、想司を苦しめた男、ナイン・レナックは、再び水野想司を求めここに立っていた。
 レナックは、ギルドの革新派の切り札として作り出された殺人鬼であった。
 吸血鬼の不死性や破壊力を秘め、内紛の折には一般人を含め大量の死者を出していた。
 内紛の折、想司によって火口に落とされ、死亡したとされるレナックであったが、一体どうやってここまで生き残ったものか・・・。
 彼がいかなる手段を用いて想司の元へとやってきたのかはまったく謎である。
 レナックはじっと想司を見つめた。
 二年前、彼に負けてから、ずっとこの日を待ちわびて来た。
 彼の望みは、再び想司と対決すること。
 さぁ、運命のときが再び来たのだ。
 今こそは・・・・!
 だがその時である。
 レナックの目に、一人の男が飛び込んで来た。
「あれは・・・・・?」
 さして高くない身長に、曲がった猫背。
 落ちかかった眼鏡は情けなさそうに耳に引っかかっている。
 だが、レナックは一目見て見抜いた。
 彼こそは、現時点の水野想司の宿敵である・・・と。
 今でこそ覚醒はしていないが、彼が目覚めれば、強大な敵になるであろうことは必死。
 想司と組まれでもしたら厄介な事になるのでは・・・・・。
「ふむ・・・」
 レナックは考える。
「仕方がありませんね・・・」
 そう言って、頷いた。


 くずり。
 三下はあまりの寒さに鼻をならした。
 こうやって練り歩きだして、一体どれぐらいになるだろうか。
 そろそろ寒さも限界になりつつある三下は、意を決して、想司に向き直った。
「あの・・・!想司くん。そろそろ・・・」
 帰ろう。
 そう、言おうとした時である。
 何かが三下のすぐ横をかすめた。
「うあぁぁ!」
 ドスン!!
 大きな音がして、次の瞬間、煙が上がる。
「一体、何事が・・・・?汗」
 煙の中から出てきたのは、人の背中であった。
 しなやかな長身に、金の髪をした男である。
 その男の手刀が、確かに壁にめり込んでいた。
「ひっぃぃ・・・・」
 常人ではありえないその事態に、三下の口から思わず悲鳴がもれる。
「い、一体なにが・・・・!」
 この事態に、さすがの想司もいぶかしげに眉をひそめた。
「誰だい?」
 そんな想司の言葉を背に、その男、レナックは「ふっ」と笑う。
 口元を微かに歪めたレナックは、コンクリートの壁にめり込んだ手をバコッと抜いた。
 抜き去られた手には傷一つなく、抜いた衝撃で破片がぱらぱらと落ちる。
 はっきり言って、常人ではない。
「この時を・・・待っていたのです」
 ゆっくりと振り返る。
 その目は人にはありえぬ、緑。
「君は・・・・」
「そう、この日を待っていたのです。再び、キミに逢える日を」
「キミは・・・ナイン・レナック。まだ生きてたのかい☆」
 ニカっと笑って、想司は言った。


「忘れもしません。二年前のあの時。私を滅ぼしたキミと再び対決するこの日を、どんなに待ちわびた事が・・・・!」
 ばっと構えるレナック。
 だが。
「しかし・・・!ここは戦場の鉄則!」
 そう言って、レナックが向き直ったのは・・・。
「へ?」
 三下は突然向けられた矛先に、きょとんと目を丸くした。
「さぁ、藁人形で死ぬのと、素で寸刻みに解体されるのと、どちらがよろしいですか?特別に選らばせてあげましょう・・・・」
 レナックはそう言って「ふっ」と笑うと、次の瞬間、目にも留まらぬ速さで手刀を繰り出した!
「うわぁぁ〜〜〜〜!!!」
 もちろん、武術の心得などない三下が避けられるはずがない。
 レナックから繰り出される攻撃に、三下は手をバタバタさせて慌てた。
 わたわたとあとずさる。
 それが偶然にも、周りからはレナックの攻撃を避けているように見えた、らしい。
 一般的意見はどうであれ、すくなくても、レナックと想司にはそう見えた。
「ふ・・・・さすがですね。水野想司が見込んだだけはある・・・」
 レナックは手刀を納めると、目を細める。
「もちろん♪そんなことあたりまえさ☆最高の修羅、三下さんなのだから、それぐらいは朝飯前さ☆」
 違う!
 断じて違う!
 三下は心の中で叫んだ。
 もとい、声に出して叫ぶ余裕すらない。
 死ぬーーー!!誰か助けてーーーー!!!
 だが、三下の心が二人に届くことはなかった。
「だけどね。残念だけど☆」
 にこっと微笑む想司。
「三下さんを倒せるのは、僕だけさ☆」
「・・・・」
 瞬間、レナックの動きが止まった。
 顔に「なんだと?(青筋)」と書いてある。
「なるほど・・・・・。では、試してみようではないですか。どちらがタダオ・ミノシタを倒せるのか・・・。勝負です。今こそ!二年前の決着を!!」
 レナックは鼻息も荒く言い切った。
 ・・・・ちょっと待て。
 すぐ横で聞いていた三下は、一気に青ざめる。
「やろうじゃないか☆結果は判りきっているけどね☆」
 もはや二人はやる気まんまんであった。
「さぁ、行くよ?準備はいいかい?三下さん!」
 シャッキっと、想司はサーベルを取り出す。
「さぁ、行きますよ?タダオ・ミノシタ!!」
 レナックはサッと手刀を構えた。
 準備もなにも!!
 二人の魔人?を前に、三下は青くなって立ち尽くすしかない。
「うわぁぁーーー!!!」
 絶叫が、町内に響き渡った。


「あれー?何やってるんですか?」
 丁度恵美が管理人室の前を通りかかった時である。
 いくつかの部屋の掃除を終えて、他の部屋へと移ろうと思った恵美は、ちらりと見た嬉璃の様子に、通り過ぎた管理人室を再び除いた。
「ふむ・・・」
 一つ唸る嬉璃。
「えーっと・・・・嬉璃さん?」
 嬉璃は仏壇に手を合わせて拝んでいた。
 お線香に火をつけ、一本立てる。
 それでは、まるで誰かが亡くなってしまったようでは?
「お盆って、今の時期でしたっけ・・・?」
 首を傾げながら、恵美は室内に入って行った。
 そこで恵美が見たものは・・・。
 仏前に飾られている白黒の写真。
 それは、三下の写真であった。
「えぇ!??まさか・・・!三下さんが・・・?」
 恵美は思わず手にしていた叩きをパタッ落とした。
 まさかまさか!!
「そんな・・・・三下さんが・・・まさか!」
 こんな事になるなんて・・・。
 確かに今回、怖い目に合ったのは三下のせいだったけど。
 家賃は滞納するし、掃除はしないし。
 今までいろいろ文句は言ってきたけど。
 まさか、こんな事になるなんて・・・。
「そんな・・・・」
 恵美は目を潤ませると、嬉璃と共にそっと仏前に手を合わせた。
 その時である。
「人を勝手に殺さないでくださいーーーー!!」
 ガラっと外のドアを開けて入ってきたのは、写真の主、三下であった。
「あれ?」
「ふん、おまえなんぞ、これで充分ぢゃ」
 嬉璃はそんな三下を一瞥して、再び仏前に向き直る。
「恵美さーん!!助けてくださいよぉ〜・・・!!」
「えーっと・・・」
 どうなっているのかさっぱり判らない・・・が、ひとまず三下は生きているらしい。
「あれ?どういえば、三下さん、さっき尋ねて来た人と出かけませんでした?」
「ギクッ!」
「へ?」
 妙な反応を示した三下に、恵美は首を傾げた。
「あの〜・・・・?」
「恵美さん!」
「うわぁ!」
 突然がばっと掴まれて、恵美は思わずあとずさった。
「助けてください〜〜〜!!!
 三下が指指す方向には、なにやら大きな破壊音が。
「えーっと・・・」
 一体何が起きているのだろうか・・・・。
 恵美は訳がわからず立ち尽す。
「恵美、いいんぢゃ。ほおっておけ。あやかし荘が壊されてはたまらん」
「え?」
 あっさり言って部屋を出いく嬉璃の後姿を見ながら、やはり恵美は訳がわからない。
「一体なにが起きてるんですか?」
「恵美さーん!!」
 もはや、破壊音はまじかにまで迫ってきていた。
「どこに行ったんですか!??タダオ・ミノシタ!」
 誰かの声がする。
「三下さん、さぁ、勝負だよ☆」
 次の瞬間、大きな音を立ててあやかし荘の壁に激突するものがあった。
 巻き上がった埃がゆっくりと収まった後、姿を現したのは想司とレナックである。
「・・・・・」
 恵美はしばらく呆然と眺めていたが、何を思ったのか、無言で三下を外に蹴り出した。
「へ?」
 きょとんとする三下を尻目に、ドアを閉めると鍵をかける。
「え!???恵美さん!??恵美さぁっぁーん!!!」
 恵美の突然の行動に、三下は慌ててドアを叩いて恵美を呼んだ。
 だが、返事があろうはずがない。
「さぁ・・・・今こそ、決着の時だよ☆」
 ずいっと、想司が。
「さぁ・・・勝負を付けましょう。一体誰が最強なのか・・・・!!」
 二人に囲まれた三下に、もはや逃げ道はなかった。
「うわーん!!誰か助けてーーー!!
 叫んだ三下の声は、誰にも届いていない。
 想司とレナックという二人の魔人に見込まれた三下の明日はあるのか!??
 それは誰にも判らない。
 あやかし荘での、ある日の出来事であった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0424/水野・想司/男/14/吸血鬼ハンター
1199/ナイン・レナック/男/170/吸血殺人鬼

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、ライターのしょうです。
 大変遅くなって申し訳ありませんでした。
 あやかし荘「真夜中の訪問者」をお届けしたいと思います。
 レナックさん、はじめまして(^^)想司くん、三度目のご参加ありがとうございます。
 相変わらす情けない三下さんですが・・・・彼に明日は・・・ほんとにあるんでしょうか・・・(笑)謎なところです(爆)
 ご感想等、ここが違うなどでもOKですので、今後の参考にも気軽にご意見いただければ幸いです。
 では、また別の依頼でお会い出来る事を祈って・・・・。