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<東京怪談・PCゲームノベル>


あやかし荘主催・新春百人一首の会

■さぁ、隠しましょう。
『なかなか居心地の良い場所ではないか。ここに住んだらどうだ?弔爾』
「こんな妖怪屋敷屋敷に住めるかよ……」
「どうかしたんか?」
忌引弔爾さんに天王寺綾さんが不思議そうに尋ねました。
それもそのはず。弔爾さんはぶつぶつと独り言を言っている様に見えたからです。
でも実際は弔爾さんの持っている日本刀。その妖刀、弔丸が弔爾さんにとり憑き二人で会話しているのです。
「いや……」
弔爾さんは決まり悪そうに綾さんにそれだけ言うと、たくさんの人で更に狭くなったあやかし荘管理人室の壁にもたれ掛かり、ぼそぼそと弔丸に話し掛けます。
「百人一首なんざ、俺は知らないぜ」
『そんな事は当に分かっておる。誰も貴様をあてにはしとらん』
「あっそ……」
そんなこんなで弔爾さんの身体は弔丸が操る事になりました。

「百人一首か懐かしいのぅ」
古い袈裟を纏った護堂霜月さんは目を細めて、手の上の札を見て言いました。
「昔は良く遊んだものだ。『神速の霜月』などと渾名を付けられた事も在ったが……」
どうやら霜月さんはとっても昔から生きているので、この歌人の中にお会いした事がある方がいるようで、にこにこと嬉しそうに微笑んでいます。
そんな霜月さんの呟きに弔丸は感嘆の声を上げました。
「かつての主も嗜んでおったが、其れほどまでの渾名が付けられるとは。貴殿は相当な実力者とお見受けする。うむ……実に楽しみだ」
同じ様に、藤咲愛さんという女性も
「へぇ、そんなあだ名を付けられてたなんて……よっぽど得意なんでしょうねぇ」
と、驚いたように言いました。
「いえいえ。それ程でもありませんよ」
霜月さんは照れたように、歌舞伎町の女王さまという愛さんと弔丸に返しました。
三人は談笑しながら管理人室を出ます。
もうすでに他の参加者さん達は、それぞれ札を持ってあやかし荘の中へ散っていました。
弔丸も自分に手渡された札を思い返してみました。
渡された札は八枚。
能因法師に寂蓮法師となぜか法師の詠作が多かったけれど、それを隠すところは既に決めていました。
(やはり隠す場所は天井裏に限る)
と、どういう理屈なのか分かりませんが、弔丸は早速隠そうと二人に
「では、拙者はこれで……」
と、言うとさっさと先へ進みました。
『どこにばら撒くか決めたのか?』
身体の内側から聞こえるやる気の無さそうな弔爾さんの声に、弔丸はうむと短く答えます。
その視線の先は年季の入った木の天井。
足取りも軽く、二階へと駆け上がった弔丸は周りを用心深く見渡し、誰もいない事を確認するといきなり自分自身である鉄鞘に収まった刀身で床板を剥がし始めました。
『お、おいおい!何してんだよ?!』
慌てた声の弔爾さんに、弔丸は当然の事の様に
「書くし場といえば天井裏に限るからな」
と、言いました。
そんな弔丸に、弔爾さんは何やらブツブツ言っていましたが、天井に穴を開けた弔丸は軽くジャンプし悠々と天井裏へと上がった。
そして、持っていた札を適当にばら撒くと、下へ降りまた見た目には分からないように天井板をはめ込むと、満足気に手を叩いて頷きました。

■さぁ、百人一首をしましょう。
皆、それぞれに隠し終え管理人室へと集まりました。
「では、早速始めるのぢゃ。歌姫」
嬉璃さんの言葉に歌姫さんは微笑を浮かべ頷き、すぅっと息を吸い込み伸びやかな独特の節回しで詠み始めました。
「和田の原〜♪」
そう、歌姫さんが言ったが早いか真っ先に部屋を飛び出して行った人がいます。
それは弔爾さんの体を操っている弔丸で、後ろの方で三下さんが何か呼び止めるような声を上げたのを聞きながらも、廊下を駆けていました。
『おっ!もしかして、イキナリ隠したやつか?』
期待を含んだ声で訊ねて来た弔爾さんに、弔丸は答えます。
「いや、違う」
『ならなんで飛び出してんだよ。最後まで唄を聞けばいいだろーが』
「何を言う。こういうものは先手必勝ぞ!知らんのか?!」
胸を張ってそう言った弔丸に弔爾さんは頭が痛くなるのを感じました。
『阿呆か……』
「阿呆とはなんだ!阿呆とは!!」
むっと怒鳴る弔丸に弔爾さんは黙ったまま何も言いません。
「大体、貴様は何かと文句を言うが活力が足らん。今の若人は皆そうだ!ダラダラしおって…」
『……今はそんな話してる場合かよ』
ボソッと言った弔爾さんに弔丸が後ろを振り返りました。
見れば、皆管理人室から出て来て札を探しているところです。
「おおっ?これはイカン!」
慌ててまた駆け出した弔丸は、一階の奥の壁にある梯子の前まで来ました。
それはあやかし荘の七不思議。
屋根裏部屋へと続く梯子なのです。
「ふふふ…夏菜殿がこの先へと行くのを拙者、見逃さなかったぞ」
不敵に微笑むと、弔丸は梯子を上りました。
確かに夏菜さんは一階の屋根裏部屋へ行きました。が、それは他の人の目を欺く為。
屋根裏部屋に札はありません。
そんな事は知らない弔丸は屋根裏に上がると、薄暗い埃だらけの中を見渡しました。
『……なんもねーじゃねーか』
「そんなはずは無いのだが……」
眉を顰める弔丸。
そこへ、誰かが札を取った声が響きました。
「ぬぅ…ここではなかったか」
悔しそうに唸る弔丸に弔爾さんはふん、と鼻を鳴らしました。
「そこで何をしているんですか?」
声に下を見れば、恵美さんがいました。
弔丸は屋根裏部屋から飛び降りると、服についた埃を叩きながら、言いました。
「いや、ここに札が隠してあるのでは無いかと思うてな」
「そうだったんですか。でも、一枚目は取られちゃいましたね」
残念そうに言った恵美さんの後に、歌姫の声が聞こえ始めました。
「百敷や〜古き軒端の忍ぶにも〜♪」
「むっ!次の句か」
そう言うと、再び弔丸は駆け出しました。
「あ、弔爾さん!」
後ろの方で恵美さんの呼び声がしましたが、構わず弔丸は走ります。
しばらくすると、廊下の先でなにやら追いかけっこをしている集団。
「何じゃ?あやつ等は」
思わず立ち止まり、呟いた弔丸に弔爾さんがぽつりと言いました。
『…三下の奴が隠した札でも取ろうと思ってんじゃねーか?』
「何?!しまった!!」
再び走り出した弔丸。
『おい。どうするってんだ?』
「決まっているだろう?他の者に取られる前に取るのだ!」
チャキっと自分自身である刀を構えた弔丸に弔爾さんは絶句し、その身体能力を駆使して駆ける弔丸はすぐに追いつきました。
が、時既に遅し。
三下さんの部屋では柚葉さんが札を得た声が聞こえました。
「ちぃ…遅かったか」
舌打ちした弔丸だが、腕組みをし考え出しました。
「ふむ……無闇に屋敷内を探すより、隠した者の後を付ける方が得策か」
今更なに言ってんだよ……と、心の中で呟く弔爾さんですが、声に出して言わずこの百人一首は一体どうなることやらと、まぁ大した心配はしていませんが何気なく思ったのでした。

■大乱戦其の六
「嵐吹く〜三室の山のもみぢ葉は〜♪」
聞こえて来た唄声に、弔丸が一番に動きました。
目指すは二階の屋根裏。
廊下を駆け抜ける弔丸を皆が追う。
階段を駆け上がり、隠した場所の真下に来ました。
弔丸さんは腰に刀を構え、天井に向かって一振り、白線が閃きます。
「あ!天井がぁ〜!!」
恵美さんの声に、弔爾さんは余計に頭が痛くなって来ました。
『何も天井壊すこたーねーじゃねーかよ!!』
抗議した弔爾さんですが、弔丸さんは上を見上げたままバラバラと落ちてくる天板に混じる八枚の札を見ています。
「あ、札だわ!」
愛さんの言葉に真っ先に動いたのが柚葉さんと北斗さんでした。
落ちてくる札の一つ目掛け、跳んだ柚葉さんと北斗さんでしたが、その動きを目の端で捉えていた弔丸は抜いたままの刀身を振るいました。
空中の二人に当たる、と思った時、北斗さんが懐から取り出したくないでその一撃を防いだのです。
「北ちゃん!大丈夫?!」
「案じるな。峰打ちだ」
「峰打ちだ、じゃねー!!正気かよ?!」
そう怒鳴った北斗さんに弔丸は当たり前の事のように刀を構えなおし言います。
「何事も真剣勝負だからな」
そこへ霜月さんが一歩、前に出ました。
「そう言う事ならばお相手致そう。……遠慮はしませんぞ?」
「望むところだ」
二人の間に火花が散ります。
睨み合いに三下さんが緊張でごくりと喉を鳴らしたのを合図に、二人は一気に間合いを詰め二人は持っていた武器―弔丸は自分自身である刀。霜月さんは錫杖。で激しく打ち合いだしました。
「おいおい、マジかよ……」
「あ、あの!危ないですから止めて下さい!!」
恵美さんの悲痛な叫びにも止める気配はなく、二人は鍔迫り合いのまま睨みあっています。
と、そんな状況とは不釣合いな明るい声が響きました。
「あった〜。みっけ!」
見れば瓦礫の中から柚葉さんが満面の笑顔で札を掲げているのです。
「あ。」
すっかり札の事を忘れ、戦いに没頭していた弔丸はぼうっと柚葉さんを見ています。
弔爾さんはもう呆れて物も言えません。
「アラ、残念だったわねぇ」
愛さんの言葉に弔丸はがっくりと肩を落としました。

■扉の向こう
真剣勝負の様相を呈してきたこの百人一首の会。
何十回目の句が詠まれます。
「千早振〜神代も聞かず立田川〜♪」
皆、顔を見合わせたまま動きません。
「からくれなゐに水くくるとは〜♪」
詠み終わっても誰も動きません。
「……今度は誰だ?」
英彦さんの言葉にそれぞれがそれぞれを牽制するように見ますが、無言のままです。
「千早振〜♪」
再び同じ句が繰り返され、夏菜さんが痺れを切らしたように全員の顔を見渡しました。
「ねぇねぇ。誰もいないの?」
誰も名乗りを上げない事で、霜月さんはハッと気付きました。
「あ…もしかしたら、この句は歌姫さんかも知れません」
「歌姫はん?」
眉を寄せ、首を傾げる綾さんに霜月さんは頷きます。
「えぇ。歌姫さんも札を隠していましたから」
霜月さんは札を隠している歌姫さんに会った時を思い出し、言いました。
「確か、あちらの部屋でした……」
歩き出した霜月さんの後を皆が続きます。
「なんだよ。詠み手にも札配ってたのかよ」
三下さんの肩に乗っている嬉璃さんを見ながら呆れたように言った北斗さん。
「まったく愚の骨頂だな」
前を向いたまま英彦さんも言います。
そんな二人に嬉璃さんは、ペシペシと三下さんの頭を叩き北斗さんと英彦さんを指差します。
「えい、煩いのぢゃ。三下、あの二人をやってしまえ!」
「えぇ〜?ムリですよぉ」
「無理だ無理だとばかり言って道理が通るか!やれといったらやるのぢゃ」
べしっと今度は強めに叩かれた三下さん。
ひえぇ〜と情けない三下さんを助けるように夏菜さんが嬉璃さんに言います。
「嬉璃ちゃん怒っちゃダメなのよ。ほら、もうすぐ歌姫さんが隠した所に着くし」
と、前を見れば霜月さんがひとつの扉の前に立ち止まっていました。
「ここが隠し場所?」
愛さんの問いに霜月さんは頷きました。
「ここから歌姫さんが出てくるところを見ましたし、間違いないでしょう」
「そうか……では、開けるぞ?」
そう、皆に確認します。
皆頷き、いつでも中へ入れる準備はオーケーです。
取っ手に手をかけ、弔爾さんは勢い良く扉を開け放ちました。
中へ飛び込もうとした十二名は固まります。
低く響く雄叫びはご近所の怪談アパートの噂のネタになるには充分です。
「な、な、な〜〜!?!?」
声にならない叫び声。
低い獣の唸り声と悲鳴を聞きながら、歌姫さんはいつものような微笑を少し心配そうに歪めながら、歌い出しました。
「ないしょ ないしょ 内緒の話はあのねのね〜♪」
こうして、第一回、あやかし荘主催百人一首の会は深けて行くのでした。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1069/護堂霜月(ゴドウ・ソウゲツ)/男/999歳/真言宗僧侶】
【0830/藤咲愛(フジサキ・アイ)/女/26歳/歌舞伎町の女王】
【0845/忌引弔爾(キビキ・チョウジ)/男/25歳/無職】
【0568/守崎北斗(モリサキ・ホクト)/男/17歳/高校生】
【0921/石和夏菜(イサワ・カナ)/女/17歳/高校生】
【0555/夢崎英彦(ムザキ・ヒデヒコ)/男/16歳/探究者】

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■         ライター通信          ■
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明けましておめでとう御座います。
今回もご参加有難うございます。
どうぞ、本年もよろしくお願い致します(礼)

さて、あやかし荘主催・新春百人一首の会はいかがでしたでしょうか?
今回のお話はそれぞれの参加PCさんごとに違っています。
■大乱戦、では一〜六までありますので、探して読んでみるとまた面白いかと思います。

今回、他の方の本編では行動しているのは弔爾さんとして書かせて頂きました。
ので、そこら辺を区別する為、弔丸にはさん付けなしで書いております。
如何でしたでしょうか?
感想、ご意見などあれば聞かせて頂けると幸いです。
では、機会がありましたらまたのご参加お待ちしております。