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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


扉の向こうの君へ・・・

調査組織名   :草間興信所

執筆ライター  :朧月幻尉


<オープニング>

「校舎の中なんだと思います。」
 少年は草間武彦にこう言った。
「ペールグリーンのカーテンが風にそよいでいて、西日が眩しくって、僕は教室でまどろんでいるんです。たぶん、高校かな?どうしてそう思うのかは、自分でもわかりません。とっても懐かしい気持になるんですが、目が覚めれば、僕は・・・・・・」
 伏した視線はうっすらと哀しみさえ伺える。
 幼稚園の年少にしては、しっかりとした口調と物腰に半ば驚きながら草間は聞いていた。
「この夢の意味を僕に教えて欲しいんです!夢の中では大きな身体も、起きてしまえばこんなに小さい」
 先程からぎゅっと握り締めている手は震えていた。
 きっと、この少年の胸の内は焼付くような思いに駆られているのだろう。
「約束したんです、夢の中で・・・・・・12月24日の午後11時に会おうって。どんな感じの学校かは、はっきり覚えていますから。お願いです!学校を探してください!」


<それぞれのIndian summer day>
 侵攻の足を緩めた冬将軍を追い払うように、陽射しが全てのものに降りかかる。春のような陽光は一時の喜びを表しているかのように、銀の髪の上で柔らかなダンスを踊った。
 麗しき占星術師の姿を目に留め、綺麗だなと生島・柚樹は思った。
 そんな考えが自分を幼児らしく見せない原因なのだろう。そう思うと何ともいえない気分になったが、そんな思いは今日から数日でさよならできるはずだ。

 この人たちが依頼を完了してくれさえすれば。
 
 自分は自由になれる。
 何故、そう思うのか。何があってそう思うのかはわからない。午後の校舎を思い出すだけで苦しくなり、哀しくもなる。
 何時から校舎を思い出すようになったのかもわからない。何故、周囲の人にも自分は丁寧な言葉遣いをするようになったのか。
 一体、何が自分で、何が本当なのか。
 答えはその校舎にある。そんな気がした。
 
「どうしたのかしら?」
 不意に、深い湖のような色合いの瞳が細められた。
 エスメラルダ・時乃は穏やかな微笑を浮かべる。
「何でもありません」
 何処かしら硬さを感じさせる声で柚樹は言った。
 どうしてもエスメラルダにはこの少年が幼稚園児に見えない。
 それは彼女だけでなく、ここにいる皆が思っていることでもあった。
「思いつめたような顔をして何を云ってるの」
「すみません」
「心配しないでいいのよ・・・・・・わたくしはエスメラルダ・時乃。占星術師をしております」
「はい・・・草間さんから伺ってます。そちらが海原・みなもさんですよね?」
 柚樹は振り返って云った。
 呼ばれた少女はにっこりと微笑む。
「あたしのこと『さん』付けしなくていいのよ、『みなも』って呼んでね」
 身長の高さに不釣合いな愛らしい容貌は、彼女がまだ中学生であることを裏付けている。幼さを残した面(おもて)は整っているがゆえに非常に美しいと周囲に感じさせた。しかし、彼女をそう見せているのは、物腰と丁寧な言葉遣いからである。
 草間が彼女を『南洋系列の人魚の末裔』と言った時、正直、眉唾だと思った。不可思議が常の東京新宿で、その考えは通用しない。
 始めに草間に云われた事を、今もって柚樹は痛感した。
 そして、一目見て柚樹は納得したのだ。
 光を弾き返し揺れる髪は南洋の海を思い起こさせるピーコックブルー。瞳にいたってはサファイアようである。
 彼女が泳ぐ姿はさぞかし人々の心を奪うだろう。
 弾く水飛沫、遠くに見えるであろう椰子の樹、夕凪に揺れる赤い花。
 瞼の裏にそんな情景が浮かんで消えた。
「どうしたの?」
「え・・・」
 柚樹は現実に引き戻された。
「あ・・・はい、綺麗だなと・・・・・・」
 半ば、自嘲気味に柚樹は笑った。
 エスメラルダを綺麗だと思い、彼女に同じことを云った自分は子供のようではない。自分の考え方が他の幼稚園児を刺激し、いつでも虐められる対象になった。
「変な子ね〜」
 大きな瞳を縁取る長い睫毛を瞬かせて、みなもが言う。
「そうですか?」
 柚樹は笑う。
 少年のほうも負けず劣らず可愛らしい顔だ。そんな少年が大人びた表情を崩し、はにかんだような顔をすると、どこか嫣然とした表情になる。
 うっすらと笑んだ幼稚園児を見て、みなもは赤くなった。
「すごく頭良さそうに見えるなあ・・・ねぇ、柚樹くん。学校のことばんですけど、行ったことある場所なのかしら?もしくはテレビで見たとか・・・」
 柚樹は首を振った。
「何故だか『今』という気がしないんです・・・・・・」
「そうなの・・・タロットで占ったほうが早いかもしれないわね・・・・・・近所にいい喫茶店があるの。お茶でもしながら問題の校舎場所を特定しましょうか?」
 優雅な笑みを浮かべエスメラルダが提案する。
「へぇ・・・そんな喫茶店がるとは初耳だな・・・」
 先程から黙って話しに耳を傾けていた草間は意外そうに言った。
「仕事柄、いい仕事をするための場所の選定には気をつけてますの。とっても良い時間が過ごせる場所でしてよ」
「そうか・・・この書類に目処がついたら行くことにしよう」
「では行きますか?」
 エスメラルダが返答を求める。
 みなもが少し嬉しそうに言った。
「はい。そんな素敵な喫茶店なら行ってみたいと思います・・・柚樹くんはどうかしら?」
「異存はありません・・・」
 柚樹は小さく頷いた。
 幼児らしからぬ変わった返答に皆は肩をすくめた。

<喫茶店と運命を回す手>
「ここよ」
 エスメラルダは商店街の端にある小さなドアを指して云った。
「ここ・・・ですか?」
 意外だと云わんばかりの声をみなもは上げた。
 綺麗に磨き上げられてはいるものの、印象が薄すぎていまいち『素敵』には見えない。
 それどころか街の人々は気が付かないようだった。
 そんなことにも気に留めず、エスメラルダはドアを開けた。
 ・・・と同時に、何かの旋律を伴った音が止まる。それが歌であったらしいと、気が付いたのは一瞬後のことだ。
「こんにちは、マスター。お元気?」
 マホガニーのドアを開けると、エスメラルダはマスターに親しげに声を掛けた。どうやら、あしげくと言った感じに通っているらしい。
 彼女が草間興信所で云っていたように、居心地の良さそうな喫茶店に見える。落ち着いた雰囲気の喫茶店の内装は控えめな豪華さの中に気品を感じれた。
 暗紅色のカーテンにフローリングの床が印象的だが、決して目に痛くない色彩の扱いが絶妙だ。調度品は17〜18世紀のものであろうか、卓越した技術と感性の高さが伺える品々ばかりである。
 生けられた薔薇も『ブラックティー』『ニコル』『デリーラ』というもので、同じハイブリッド・ティーという高芯剣弁咲きの品種の中でも『ディオール』などとは違い、かなり落ち着いた色調の花だった。
 カウンターの向こうで、長い黒髪を無造作に纏めた妙齢の女性が笑いかけた。白いシャツに黒いパンツに身を包み、ギャルソンエプロンを着けた凛々しい姿にもかかわらず、何処か優しげな雰囲気がするのは何故だろうか。
「また歌っていたの?」
「あら、聞こえてたかしら」
「えぇ・・・相変わらずいい声だわ」
「ありがとう、エスメラルダさん」
「どういたしまして、本当にいい声だと思ってますのよ・・・・・・奥の部屋を使ってもいいかしら?」
「ええ・・・勿論よ」
「有り難う、マスター」
「やぁねぇ〜、お友達でしょ?香織って呼んでって云ってるじゃないのよー」
 そういうとケラケラと香織は嬉しそうに笑った。
「今回は、変わった取り合わせのメンバーね。奥の部屋を使うのは意識の集中しなくちゃいけないような御用で使うのでしょう?」
「そうよ」
 エスメラルダはふわりとミステリアスな笑みを浮かべて云う。
「なら、注文はいつもみたいに『薔薇たち』に云って頂戴ね♪」
「ええ、わかったわ」
 それだけいうと、エスメラルダは鏡に挟まれた扉を開け、中に入っていった。
 みなもと柚樹も急いでエスメラルダの後を追った。
 閉められると瀟洒な彫刻を施したドアは掻き消え、そこには鏡のみが残る。それを香織は見やると、満足そうな表情を浮かべた。
 そして、エスメラルダたちが来る前、そうしていたように、また歌を歌い始めた。

― ・・・は常に居ませども 現ならぬぞ 哀れなる人の音せぬ暁に ほのかに夢に見えたもう・・・・・・


「西日の当たる学校を占ってみましょう。西から日が入るのなら校舎の向きを考えればきっとおのずと割り出せるでしょうから、それほど時間はかからないはずですわ」
 そう云って、エスメラルダは黒のケリーバックから小さな箱を取り出した。天球儀が描かれている木の箱には鍵が掛かっている。
 金の鍵で箱を開けるとタロットカードを取り出した。
「タロットは他にも色々と種類がありますの。今回はスタンダートなものでいいかと思います・・・・・・そうそう、注文をしてしまわなくてはね。何を飲みます?」
「えぇっと・・・・・・あたしはロイヤルミルクティー。柚樹くんは?」
 羊皮紙に薄茶のインクで薔薇の描かれたメニューをみなもは柚樹に手渡した。
 しばらく覗き込んでから、柚樹は「同じものを・・・」と云った。
 どこまでも控えめで、幼児らしからぬ様子にみなもは肩をすくめてみせた。普通なら、ここぞとばかりにパフェだのケーキだのと要求する子供が殆どだというのに、まったくこの少年ときたらそんな要求すらしない。
 ここまでくると中身が子供ではないのだろうという気がしてならなかった。
 みなもはそう考えるに至った自分が多分正しいのだろうと思った。
 エスメラルダは文字通り薔薇に向かって注文した。
 本当に香織はやってくるのかとみなもは訝しんだが、注文した品は待たされること無く配膳された。
 驚きを隠せなかったが、みなもも追及することはしない。
 ここは新宿なのだ。
 ティーカップを置く香織の姿をみなもは見つめた。
 しかし、この部屋から立ち去る香織の動作はあまりにも自然過ぎ、いつのまにか部屋を出て行ったことに、みなもは気がつかなかった。

「範囲が広いのですが、目的がわかっているので今回は自由展開法は使いません」
 優雅、かつ、知性を感じさせる声音でエスメラルダが云った。 
「自由展開法って何ですか?」
 みなもが首を傾げる。
 当然、柚樹も分からないらしく、押し黙ったままエスメラルダの説明を待っていた。
「自由展開法というのは、展開する枚数・展開する項目名・展開する位置、全て好きなように指定できます。より雑多な情報が欲しい時には有効ですけど、それ故に必要な情報を判別するのに時間が掛かり過ぎてしまいますのよ。ターゲットは決まっているのですし、今回はケルト十字法を使いましょう・・・」
 慣れた仕草でカードをシャッフルし、柚樹にも同じようにさせると、三つの山に分ける。その山の一つを柚樹に選択させ、選ばれた山を一番上にして重ねた。
 それぞれに意味を持つ配置場所にカードを置く。
 最後の一枚になった時、思わずエスメラルダはうめいた。
「どうなさったんですか?」
 エスメラルダの様子に、みなもは訝しんだ。
「これを見ていただきたいのだけど・・・・・・」
「なにかあったんですか・・・アッ!」
「・・・ね?」
 展開されたカードの中に同じカードが混在していた。
 一番目の『質問自体やキーワード』を現すカードと一番最後の『質問に対する最終的な総意』を現すカードに同じカードが出ている。
 通常タロットは大アルカナと小アルカナをあわせた七十二枚のカードで構成され、トランプのように紛失した時に使う代用のカードは存在しない。
 同じカードが存在すること自体おかしいのだ。
「やり直したらダメなのかしら・・・?」
 エスメラルダの顔を伺うようにみなもは云った。
「多分、同じだと思いますわ・・・仕方ありませんわね、このままリーディングしてしまいましょう」
 そう云うとエスメラルダは開かれたカードの意味を解読していく。
 ・・・と同時に、エスメラルダ自身が何をすべきなのかも、このカードから読み取れた。
「場所がわかりましたわ・・・この並びからすると、海の近く。神奈川かしら。住宅街・異国の教えを伝える高校と出ましたから、緑区あたりのキリスト教系の高校をターゲットにネットで検索してみましょう」
 今後の行動をエスメラルダは宣言する。
 柚樹は頷いた。
 世界(THE WORLD)。21は目標が達成された事を意味する最高の位置に有るカード。あるはずの無い二枚の札。
 この二つをエスメラルダは問題の校舎へと持っていくことに決めた。
「海か・・・」
 海と聞いて、柚樹はまだ見ぬ校舎に思いをはせる。
 みなもを見て感じた憧憬はそのせいなのかもしれない。
 それがどれほど純粋な思いであっても、自分勝手な憧れをみなもに押し付けたような形になり、柚樹は心の中で彼女に詫びた。
 しかし、その思いが海と関連付けられた一方的なものではなく、本当の彼女を思う気持であるとは柚樹自身にも今は分かっていなかった。

<タイム・リミット>
 12月24日の午後11時のリミットまで、あと約十二時間。
 天上の薔薇という名を冠する喫茶店『ロサ・カンディータ』を出発し、目指す学校の位置をネットで検索、確認してから駅に向かった。
 ここから神奈川の学校に行くには何の問題は無いが、深夜の学校に侵入するとなると多少問題がある。
「取りあえず、来期に受験させたい生徒の母親のふりをして、校舎を探索して件のカーテンのある教室を探しておきましょう」
 とても来春に高校生になる子供がいるようには見えないエスメラルダを見、みなもは「どう控えめに見ても無理があるなぁ」と思ったが何も云わなかった。
 自分が男子だったら、子供役を仰せつかるところだが、何分にも自分は女で、学校は『男子校』だった。
 仕方なく母親にくっついてきた娘役、もしくは従姉妹役に徹することにした。
「柚樹くん・・・ここであってる?この校舎??」
 先程からずっと黙り込んでいる柚樹にみなもは話し掛けた。
 柚樹は頷いた。
「ここです」
「中を確認しようね・・・それからまた来よう」
「はい」
「では、行きましょう・・・」
 受付と書かれたドアの前に来ると、エスメラルダは中にいる人に声をかけた。
 事務所の受付の人たちはエスメラルダを見ると驚き、若いと(当然だが)いって彼女を誉めた。
 一方、みなものほうは髪の瞳も青という異邦人ぶりだが、スタイルもよく、何より優しげな雰囲気と穏やかな物腰が美しい少女だ。彼女を非常に好ましく思う人間はいても、彼女の髪だけ見て『不良』などと無粋なことを云う人間はここには居なかった。
 私立の高校ともなると県立の職員のように何かと口喧しく攻撃的な人間は少なくなるらしい。
 三人で探索していると一人の職員に声をかけられた。
 エスメラルダの方をチラッと見る様子から、どうやら下心アリらしい。
 その人物は教師の一人らしく、「是非、校舎の案内をしたい」と言われ、案内してもらった。
 もちろん、進入経路も確保出来たことは云うまでも無い。
 幸い、裏口の鍵は壊れているらしく、「何日も放置してあるとは許しがたい、用務員がぐうたらで困る」と愚痴をこぼしたのをエスメラルダは聞き逃さなかった。
 鍵は壊れたのではなく、生徒の一人が壊したのだろう。
 自分たちが生徒に舐められているのを棚に上げてよく言うものだと云われたらグウの音も出ないだろうが、今、目の前にいるのは自校に入学させたい子供の母親なのだという甘さと無自覚さが彼を饒舌にさせていた。
 そんな愚かな大人の話を無視し、柚樹はある教室のドアを食い入るように見つめていた。
 あそこが例の教室なのだろうと、みなもには何故だかわかった。

 早々に学校を出ると、横浜に向かう。予定の時間まで9時間もあるため、食事でもしようかということになったのだった。
 横浜から関内駅に向かい、中華街に出た。
 飲茶専門の海嘯飯店と中国喫茶で時間を潰し、みなもにいたっては友人へのクリスマスプレゼントのショッピングにいそしんだ。
 陽が落ちると暗くなるのは早い。
 して、昼間の暖かさが嘘のように寒くなる
 中華街の中はさすがにクリスマスカラーで彩られることは無かったが、さっき通りかかった関内の商店街は聖夜一色に染まっていた。
 柚樹は何ともなしに行き交う人々を見つめた。その中で自分だけが落とし穴に落ちたまま残されているような気分になる。
「どうしたの?」
 柚樹が虚ろな瞳をしていることに気が付いたみなもは、そのまま少年の隣に黙って立つことにした。
「もうすぐだ・・・」
 柚樹が云う。
「何がですか?」
 真意が知れず、みなもは訊ねた。
「わからない・・・ただ・・・・・・」
「ただ?」
「もうすぐなんだってことは分かるんだ・・・」
「それって柚樹くんには良い事なのかしら?」
「わからない・・・」
 そう云うと、柚樹はみなものコートの端を握り締めた。小さな手が震える。
 大人びた表情も何もかも脱ぎ捨て、柚樹という名のただの少年・・・ただの人間がそこにいた。
「十一時まででいいから・・・それだけでいいから・・・・・・僕のそばにいてください」
「えっ!?」
「お願いです・・・・・・」
「う・・・うん」
 見つめられ、みなもはたじろぐ。
 この少年はいつもたった一人でいた。
 この夢の記憶の中で子供として生きることが出来ないでいる少年は、最も孤独な少年だった。
 あの約束まで、あと二時間。
 もう、あの学校に行かなくてはいけない。
 そこへ行ってしまったら、もう、この大人びた少年には二度と会えないような気がした。
 みなもに出来ることはただ一つ。
 そばに居ることだけだった。

<扉の向こうの君へ・・・>
 エスメラルダは知り合いの中で最も高校生に近い年の人間を携帯で呼び出した。
 『姐さんの行くとこなら、今すぐ行くッスよ♪』と電話で宣言した時司・椿(ときつかさ・つばき)青年は、宣言した通りに彼女達を待たせることなく現れた。
「本当に・・・・・・今すぐ・・・いらっしゃいましたね・・・」
 あっけにとられたみなもは自己紹介も忘れて見つめてしまう。
 椿の自宅は東京の、しかも下町でここからは軽く一時間強はかかるはずだ。
「当然ッスよ!・・・ねぇ、姐さんvv」
 張り切って答える椿はどこかご主人の命令を待つ犬のように見えなくも無い。
「はじめまして、みなもチャン・・・俺、時司・椿。よろしく♪」
 にこやかに笑って、椿はみなもに握手を求めた。少々驚きつつも、みなもはそれに応じた。
「おッ!キミが柚樹クンか・・・・・・こんにちはvv・・・って、本当にかわいいな〜♪♪俺、小さい子に弱くてさ」
 いうやいなや柚樹の頭を撫でた。
 いきなりのことに驚いた柚樹は静止の声も忘れて椿を見やる。
「よーしお兄さんが人肌脱いでやろう!」
 そして、本当に着ていた服を脱ごうとしたところをおもむろに取り出したエスメラルダのハリセンで殴られた。
 エスメラルダの長い髪とコートの裾が宙に舞い、美しいラインを描いてハリセンが椿の頭を襲撃する。
 スパーンッ!という小気味良い音が夜の住宅街に響き渡った。
「・・・ッ痛〜ぅ(泣)」
「遊んでる場合ではないでしょうに・・・・・・」
「軽ぅ〜い、冗談ですってば・・・」
 そう云って、椿は思いっきり叩かれた後頭部をさする。そんな椿を見つめていた柚樹は堪えていた笑いに歯止めが利かなくなったのか、突如、笑い出した。
 やはり笑うと、大人びた表情はなりを潜め、随分と可愛らしい顔になる。本来ならばこちらの柚樹のほうが、あるべき姿なのだろう。
 そう思うと、みなもは切なくてしかたがなかった。
「そ、そちらが・・・時司・椿さん?エスメラルダさんの舎弟だと・・・聞いてますが・・・本当ですか?」
 堪えて切れ切れにいう柚樹は苦しそうに云った。目には涙さえ浮かんでいる。
 柚樹にはこの麗しき女性に舎弟と言って廻るような品の無さは感じられなかったため、話を聞いてからずっと不思議に思っていたのだ。
「あっちゃ〜、はっきり云われちゃったなぁ」
「す・・・すみません」
「いや、何・・・気にするなって・・・姐さん、学校に入るにしても・・・・・・あ、まぁ・・・冬休みだから大丈夫か」
「そうよ・・・人に見つかったら大変だわ。早く中に入りましょう」
 エスメラルダは云った。
「あ、じゃあ・・・学生のフリして、用務員さんかガードマンに『忘れ物をした』って云って中に入れて貰うよ」
「頼んだわよ」
「お任せあれ・・・じゃあな、坊主。心配すンなよ」
 そう言い残し、椿は校舎に向かった。

「生徒手帳?冬休みだから忘れちまったさ」
 用務員室に顔を出した椿は、あっさりと答えた。
「仕方ないなあ・・・」
 先程から酒の匂いをしきりにさせている用務員のオジサンは、酒気に首まで赤く染めていた。
「それに急いでいるから〜」
 ニッコリ笑って云う椿の言葉に、内心、彼は喜んでいた。
 はっきりいって、一日の中で最も平和なこの時間になれば既に労働意欲を失っている。
 やんちゃどころか、暴君この上ない生徒達が休みの校舎ほど居心地のいい場所は無かった。
 できれば、この『暴君さまさま』も早々にここから立ち退いていただいて、忠実なる僕(しもべ)の自由な時間を返していただきたいと切に願っている。
「早くしてくれよ」
 ここは責任ある大人らしく、慇懃に云ってみた。
 給料は子供からではなく、親である大人たちから頂戴している。この態度が、この生徒に対しては相応だろうと、用務員のオジサンは思った。
「アイアイ・サー」
「やれやれ・・・」
 一応、『はい』と答えた生徒の言葉に満足し、背を向けた。
 さっき、やかんに入れた徳利は、熱燗を通り越し、アルコールが抜けてしまっていることだろう。
 酒も時間も実に勿体無いことをした。さっさと一人だけの酒宴をはじめるとしよう。
 酒の匂いを周囲に残し、用務員は部屋に引っ込んだ。

「姐さん、お待たせッス!」
 丁度、例の教室の真下にある非常口のドアを開け、エスメラルダたちを招き入れた。
 もっとも、鍵は生徒達の手によって壊されていたが、見つかってしまった時のことを考えると、椿が一緒のほうが都合がいい。
 そう思って、エスメラルダは椿を先に行かせたのだった。
 階段を駆け上がる音が校舎に響く。
 柚樹も一生懸命、駆け上がった。自分のリーチでは大人に合わせて走るのは辛い。しかし、時間に間に合わなくなってしまう。
 関内からここまでの時間と、椿が呼びにくるまでの時間を足して、約一時間半弱。
 あと二十分程で約束の時間だった。
 時間に間に合った安心感からか、柚樹の表情は心しか明るい。
 紅潮した頬も相まって、少年らしく見えた。

 例の教室の前で少年は立ち止まった。
 皆も立ち止まる。
 柚樹の手が伸び、ドアの取っ手に触れた。
 深呼吸すると、柚樹は躊躇う風に皆を見た。
「行かないの?」
 みなもは云った。
 この先に、少年の望むものがある。
 躊躇いなど・・・不要だ。
 なのに、少年は踏み出すことが出来ない。
「僕は・・・僕は・・・・・・」
「あなたの望んだことでしょう?」
 エスメラルダは笑った。
「カードには何て出てたんですか、エスメラルダさん・・・」
 少年は俯いて言う。
「最初のカードは逆位置の世界(THE WORLD)。あなたの問題そのものを意味するの。かなわぬ夢。愛の犠牲。中途半端。挫折。失望。疑惑。不完全。忍耐強く挑戦する心。新たな恋より昔の恋人。物質への未練等を暗示する・・・・・・KeyWordは『悪夢』」
「『悪夢』・・・?」
 顔を上げた柚樹は苦しげに眉をひそめた。
 だが、エスメラルダの顔を見ない。
「そうよ・・・悪夢。覚めない夢・・・これが悪夢でなくてなんだと言うの?現実から逃げて、あなたは・・・」
 エスメラルダの心の中で浮かんだ謎は、見事に形をなし、的中した。
「薄々気が付いていたんです・・・この校舎を見てから」
「でも、あなたはここに来た。すべてを終わらせる為に・・・それはあなたの行動とカードが証明しています。障害と対策を意味する位置に塔(THE TOWER)が正位置で出ていたもの。塔(THE TOWER)は物質という三次元からの解放を意味するわ」

 塔のカードには落雷に打たれ、投げ出される男女が描かれている。しかし、投げ出された男女は傷を負っていない。雷は神の威光を意味するが故に、この男女を攻撃したのではないことを指し示している。雷とはインスピレーションのことだ。
 古来、塔は信仰の場であり、神に祈る為のものであった。それを所有化した男女が神(聖霊)から「ここは神と自分(精神・己が内の神聖)に向き合う場所である」との言葉を受け取った場面を現したものなのである。

 エスメラルダは続けた。
「これは『一切の執着を絶ち、本来の自分を思い出せ』『神のものを神に返し、皇帝(カイザル)のものは皇帝に返せ』という意味のカードなのよ」
「僕は乗り越えられますか?」
「それはあなただけが知っている答えでしょうに・・・でも、質問内容や質問に対する象徴的なカードは何よりも重要な位置だけど、そこに隠者(THE HERMIT)が出ていたわ。隠者は経験と包みを解かれた燈明、深い知性と隠されている秘密の存在を現すカード。真理を探究し不可解なものを解明する執着心を意味するの」
「どういうことなんですか?」
 堪らなくなって、みなもは云った。
 この少年が何かから逃げているのなら、手助けしたかった。それが自分自身の気持なら尚更だった。
「つまり、彼は困難を迎える準備があるということよ・・・潜在意識を指すカードもそれを後押しするように吊るされた男(THE HANGED MAN)が出ていたわ。吊るされた男は人生の苦難に直面して自分をなげうち闘う姿。忍耐する事の困難と大切さを意味するの。彼は準備が出来てる・・・さあ行きましょう」
「はい」
 少年は短く云った。
 これ以上の言葉は要らない。
 柚樹はドアを開けた。

<地上の星>
「だ、誰だ?」
 エスメラルダたちの姿を見とめ、中にいた数人の男達が振り返った。
 咄嗟に椿は身構える。
 しかし、男達からは戦意というより驚愕という感情しか感じられない。
 椿はファイティングポーズを解いた。
 机の上には小さなツリーとケーキが乗っている。そして、その隣には写真立てがあった。蝋燭の明かりだけで、どんな写真かは見えない。
 男たちはまだ三十代後半ぐらいだろう。
「キミ・・・ここの生徒かい?・・・いやぁ、俺たちこの学校のOBなんだ」
 一人の男が人懐っこい笑みを浮かべ、椿にいった。
「ま・・・まさか、ここで十一時に約束してたのって・・・」
「おぉっ!・・・俺たちだよ。何で知ってるんだ?」
 驚きを隠せないといったように彼は云った。
「キミは誰かから聞いたのかな?」
「い・・・いや、あの・・・」
 椿は何を云ったらいいのか判らず、言い淀んだ。
 まさか柚樹に頼まれてとは云いづらい。
「僕が頼んだんです」
 柚樹は凛とした声で云った。
「え?」
 男達は何をこの少年が言ったのか分からずに聞き返した。
「約束の場所に連れて行って欲しいと、僕がこの人たちに頼んだんです。僕には何処だったのか思い出せなかったから・・・・・・」
「ま・・・まさか、そんな・・・キミは優風か?井原・優風(いはら・ゆう)じゃ・・・」
「そんな!あいつは死んで・・・」
 俄かに信じられず、男達はどよめいた。
「信じられないが・・・あいつなら・・・あいつが一番楽しみにしてたから…」
 一番背の低い男が言った。
 男が懐かしそうに柚樹を見る。
「お前・・・そんなに来たかったのか?」
 優しい男の笑みを見た途端、柚樹の視界は涙で滲んだ。
 次々と過去が思い出される。

 優しく吹いてくる海の風。揺れるカーテン。眠気に誘われ眠ってしまった授業。暖かな午後の陽射し。クラスメートの声・・・・・・・

「ずっと・・・ずっと会いたかったんだ…」
 柚樹は云った。
 それは優風という少年の言葉でもあった。
「楽しかったんだ・・・」
「俺たちも楽しかったさ・・・」
 背の低い男は言った。
「お前が死んだ日は哀しくて、やりきれなかったよ・・・・・・」
「卒業式だったんだよなぁ・・・」
 他の男も言った。
 声が震えている。涙を堪えているらしい。
「三月だってのにさ・・・雪が降って」
「寒くってさぁ・・・大講堂にいるの辛かったっけな」
 のんびりと他の男が言う。こちらはスラリと背が高い。
「優風が一番はしゃいでたな・・・前の日に置いてっちまった自転車引いてさ。雪に埋まって中々動かなくって。普段はクールなお前がゲラゲラ笑ってんの・・・俺、初めて見た」
 茶髪の男が笑って云う。目は真っ赤だ。
「何で死んじまったんだよ・・・」
「ごめん・・・」
 柚樹は云った。
「ごめんじゃないぞ!これからも一緒だと・・・俺は思ってたのに・・・・・・同じ大学受かってたんだぞ!」
「うん・・・」
 柚樹は俯いた。
「・・・八城・・・もうやめろ・・・」
「わかったよ・・・」
 八城と呼ばれた茶髪の男は頷いた。
「これ・・・柚樹さん・・・いえ、優風さんの写真ですの?」
 先程からドアの前でやり取りを見ていたエスメラルダが云った。
「え・・・あぁ、そうだよ」
 八城はエスメラルダに写真立てを渡した。
 そこには眼鏡をかけた生真面目そうな表情の青年が写っている。
 何処となく、顔つきも表情も柚樹に似ていた。
「卒業式の日に雪が降ってさ、ホワイトクリスマスみたいだって……だから、俺たちが成功者の仲間入りが出来るような事を成し遂げようって約束したんだよ。タイムリミットは二十年後の十二月二十四日午後十一時さ』・・・・・・」
「だから今日だったのね」
「あぁ・・・でも約束した次の瞬間、優風(こいつ)は突っ込んできたトラックに吹っ飛ばされて・・・・・・俺は手を引っ張って助けることすら・・・・・・」
「八城・・・」
「俺はッ!」
「お前のせいじゃない」
「俺は隣にいたのに・・・真っ赤に染まった雪が・・・今でもッ!・・・忘れ・・・」
「もう・・・いいんだ・・・・・・」
 頭を抱えて泣き伏した八城に柚樹は近づいた。
「忘れて・・・いいよ」
「でも!」
「八城が苦しいんじゃ・・・僕が辛いよ・・・」
「優風・・・」
「死んで・・・ごめん」
 背の高い男が柚樹に近づいた。
「優風・・・いや、今は柚樹って云うんだってな。お前は生まれ変わったんだろう?なら、俺たちのことは覚えていちゃ、ズルしてることになるじゃないか」
「分かってる・・・・・・」
「だから…ここから出て行ったら・・・全てを忘れてくれ。お前の人生に俺たちの記憶は邪魔だ…これだけ俺たちのこと忘れたくないって思っててくれただけ嬉しいよ。お前、あんまり本心を言わない奴だったから・・・・・・」
「久住・・・」
「ほら、名前まで思い出すなよ。辛くなるだろう、お互い」
「うん」
「このドアを開けたら・・・扉の向こうに君の人生が待ってるから」
「うん」
「今度は一緒に生まれ変わろうな」
「・・・・・・わかった」
「じゃあな」
 柚樹は久住に背を向けるとエスメラルダの前に行く。
「僕・・・・・・行きます」
「わかったわ」
 ニッコリと微笑むとカードを取り出す。
 それは世界(THE WORLD)だった。
「タロットの最後のカードは正位置の『世界』(THE WORLD)よ。逆位置の『世界』で始まった願いは正位置の『世界』で終わる・・・あなたの意志が勝ったのよ」

 世界(THE WORLD)は勝利・最後の調和と世界・光明。21は目標が達成された事を意味する最高の位置に有るカード。最も強い意味をもち、完成や永遠の魂を意味する。KeyWordは「輪廻」

「後はあなたが『与えられた新しい人生』に勝利するだけだわ」
「難しいですね・・・・・・」
「だから人生は面白いのよ・・・恐いことなんて無いわ」
「はい」
 そう云うと、柚樹はみなもの方に向き直った。
「みなもさん・・・ありがとう」
「あたし・・・・・・何にも出来なかったわ」
 みなもは悲しそうな瞳で柚樹を見た。
「そんなことありません・・・みなもさんは約束を守ってくれましたし」
「約束?」
「十一時まで一緒にいてくれるって・・・」
「だって・・・・・・」
 依頼だし・・・と、云おうとしたが、みなもは云わなかった。
 柚樹は少し躊躇った後、思い切ったようにみなもに言う。
「僕にはそれで十分だったんです・・・みなもさん、有り難う。僕、君が好きでした。きっと、ドアの向こうに行ったら僕は君への気持を忘れてしまう・・・・・・この気持は優風という僕の人格のものだから」
「そんな・・・」
「すみません・・・身勝手で・・・僕は忘れてしまわなければいけないから、せめて本当の気持を言いたかったんです」
 前の人生で生きた記憶の中で、印象に強い場所が海の近くにある生まれた家だった。
 だから、そうカードに出た。
 しかし、南国を連想させる少女への思いは、その記憶のせいじゃない。
「柚樹くん・・・」
「・・・・・・ありがとう」
 そう云うと、柚樹はエスメラルダのほうに向き直る。
「ずるいよ・・・・・・」
 そう云ったみなもの声は柚樹に届かなかった。
「お願いします」
 エスメラルダは頷いた。
 二枚のカードを宙に投げると、金色の光を放つ。
 キラキラと輝き、皆の上に降りかかった。
 思わず椿は息を呑んだ。
 慕ってエスメラルダを追いまわしているが、その実力を垣間見ると畏怖せずにはいられない。
 本物の・・・星の力。
 降る燐光は雪のように柚樹を包む。
 柚樹はあの三月の雪を思い出した。
 何よりも懐かしい、季節はずれの雪を。

「メリークリスマス・・・神の恩寵が永遠にあなたにありますように」
 柚樹は八城達に向かっていった。
 それはたった一つの願い。
 一緒に同じ時を生きることは出来なかったとしても、思いは同じ。
 それに八城も応えた。
「あなたが神の国を見ることが出来ますように」
「我らが、共に主の願いと使命の一端を担えますように」
 そう云ったのは久住だった。
「アーメン・・・・・・」
 皆は十字を切った。
 みなもは神の国の訪れを心の中にこそ望んだ。

 誰もが心の中にまだ見ぬ神の国を見ることができたのなら、信じることが出来るのなら、争いなど・・・この地上から消える。

 私たち人間こそが地上の星。
 神は天上の薔薇の如く美しく輝く星。
 蓮の花が泥の中にこそ咲くのなら、私たちも咲き誇ることができる筈。
 私たちは自分たちの手で未来を変え、手に掴む。
 全てを自分で選択し、生き方を選び、自分の手で太陽を呼び出そう。

 八城も、久住も、他の友人達も、過去も置いて行くのではなく、遥か彼方で出会うために・・・・・・今は離れるだけ。

 柚樹はドアを開けた。
 扉の向こうには無限の未来がある。
 手にするかどうかは自分次第。

 それぞれの思いを胸に秘め、未来への扉を開けた。
 扉の向こう側で待っている、向こう側の君(じぶん)の元へ・・・・・・


 END

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0305 /エスメラルダ・時乃/女 / 25 / 占星術師

1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生

0314 / 時司・椿 / 男 / 21 / 大学生

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■         ライター通信          ■
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<光の中で・・・>

 降注ぐ光が柚樹を照らし出した。
 思い出しかけた記憶は一つずつ外されていくパズルのピースのように、本来の形を失い、瓦解してゆく。
 ・・・と同時に、生まれてからの記憶が鮮明に呼び起こされ、フラッシュバックしていった。

 両親の愛。初孫を得た祖父母の喜び。
 新任の保母さんの緊張と暖かな笑顔。

 忘れたくない思いの為に、受け入れなかった・・・たくさんの愛。

 全てを忘れて生きるのは恐い。
 だけれど、これほどまでの愛に囲まれて生きるのなら平気だ。
 そう・・・恐いことなんて何一つ無い。

「だから人生は面白いのよ・・・恐いことなんて無いわ」

 銀の髪のあの女(ひと)が言ったから。

 後は僕が『与えられた新しい人生』に勝利するだけ。
 僕は必ず勝つ。
 僕は僕が愛した神と、僕の手をずっと握っていてくれた・・・青い髪の少女に誓おう。

 僕はこの人生に勝利する。
 この世界に背を向けていた僕に、いつまでも惜しみなく愛を与えてくれた世界と人々に僕の人生を捧げよう。
 この誓いは扉を開けたら忘れてしまうかもしれないけど、必ず僕は思い出す。

 必ず人の役に立つ人間になるから・・・・・・

 さようなら。僕が愛さなかった世界(げんじつ)。
 さようなら。僕が愛し過ぎて、執着した友達(せかい)。
 また会おう。僕が初めて好きになった青い髪の少女(きみ)

 そして、僕が扉を開いたら・・・・・・新しい一日が始まる。


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★あとがきならぬ、後のまつり(汗)

 はじめまして、こんにちわ。朧月幻尉ですvv
 本来なら、クリスマスにやるはずだったお話・・・あはは
 注文来ンかったよ(汗)<<どうやらあやかし荘に殺到してたらしいわ・・・ロンリー(涙)
 本当は上のシーンは、本文中に書くべきなんですが、本文中に無いほうが綺麗なのでここに書きました。
 サイトにUPする時は、ぜひ上の文も使ってやってください。

 今回はエスメラルダお姉さまの能力全開なお話になりました。エスメラルダお姉さまが大好きな椿くんには垂涎の一品??
 本当に素敵な女性です♪
 でもでも、椿くんも好きです。なのに今回は戦闘シーンが無くってごめんなさい。
 イラスト見させていただきました。
 椿くんはカッコ良いですね。
 楽しんで書かせていただきましたvv発注、有り難う御座います。
 
 ご意見、感想など御座いましたら、お申し付けくださいませ。
 勿論、苦情も受け付けております(辛いですが、為になるのです)
 それでは、またお会いいたしましょう。

「メリークリスマス・・・神の恩寵が永遠にあなたにありますように」


                  朧月幻尉 拝
 
P・S・・・ちょっと遅いですけどね♪(^^)