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<東京怪談・PCゲームノベル>


THE RPG 地下5F


 時司・椿(ときつかさ・つばき)は一人気持ちよく部屋で一升瓶を傾けていた。自分でも知らぬ間にかなり呑んでいたらしく、変なものが見える。
「なんだこれ?」
 部屋の隅に大きな穴が開いていた。いつからこんなものがあるのか、時司は覚えがなかった。
「なんだろうなあ。明日調べてもらおう。」
 踵を返してテーブルに戻ろうとしたとき、ふらりとバランスを崩して、時司はその穴に落ち込んでしまった。さすがに時司が入れるほど大きい穴ではなかったので、酔いがすっかり回った頭で、少し首を傾げていたが、すぐにどうでもよくなった。

 

 かなりの高さを落下して、時司はようやく地面に辿り着いた。派手に転がったが受け身が取れたおかげでそんなに痛手ではない。
「うわ〜ここはどこ? 俺は誰? 俺は時司・椿。うん、大丈夫。」
 周囲を見回すと、やくざのような風貌の男と、その後ろでびくびくしている眼鏡の男がいる。
「来生・十四郎だ。お前も落ちてきたのか?」
 来生が握手しようと手を伸ばしてくるのが分かったが、時司はそれどころではなかった。
 壁についている小さな灯りが、古い石畳の床や壁、天井を照らしている。どこか陰気な雰囲気を持つここは、RPGのダンジョンのようだ。
 楽しくて思わず笑ってしまう。
「何ここ〜? もしかしてダンジョン? でもって、あんたは俺のパーティってわけだ。 うわ〜人相悪いなあ。キャラの職業はなに? あ、俺は戦士ね。……モンクでもいいけど。」
「……酔っぱらいか……。」
 来生はがっくりと肩を落としている。
 酔っぱらいな自覚は多少あったので、時司は否定はしないでおいた。
 噛み付かないと分かって、恐る恐る三下が来生の背後から出てくる。
「やっぱり俺モンクにしよ。あんた戦士ね。この人僧侶でいっか。弱そうだし。」
「三下です〜。」
「おーし、それじゃあレッツゴー!」
 時司はわくわくが止まらず、さっさと歩き出してしまう。
「とりあえず、宝箱を見つけ次第壊す!」
「少し落ち着け、少年。」
 来生の有り難い忠告を聞き流し、時司は腕を回した。
 武道部の力を思いっきり試したい。
 はやる気持ちを抑えられず、ともすれば走り出しそうだった。



 ダンジョンは非常に入り組んでいた。行き止まりに突き当たっては宝箱を見つける。
 来生は分かれ道に来るたびに職業柄手放せない筆記用具で印をつけ、手帳に簡単な地図を描いていく。 
「また行き止まりかよ。」
 溜め息をついて、来生は手帳に×印を書き込む。
「でも宝箱あるよ。中身はなにかな……あ、薬草だ。」
 時司はほうれん草のような形をした草を持ち上げた。宝箱は中身を出してから壊せ、と来生に言われてたので、きちんとそれを実践していたが、何もない箱を潰すのにはすぐに飽きてしまった。今ではもっぱら中身に興味がある。何か宝石でも見つかれば、憧れの人へのプレゼントにしたいなあ、などと妄想をふくらませているが、それらしきものは出てこない。
「はい、三下僧侶、持ってて。」
 三下はすっかり荷物持ちと化していて、大量の戦利品を抱えていた。魔法使いがいないので無用の長物となっているステッキ、同じく魔法使いのローブ。誰かを魔法使いにしておくべきだったか、と少し悔やんだが、適した人がいないので仕方がない。ぎざぎざの葉っぱの毒消し草も出てきたことには喜んだが。
 その他の装備として、三下は僧侶の四角い帽子を被らせ、木刀は戦士の来生に預けた。モンクの時司は何も装備できないのが残念なところだ。
「中ボスどこにいるんだろ。」
「ボス?」
「うん。だって、こういうのは中ボス倒したら鍵が手に入るもんだし。」
「戦うんですか?!」
 その単語だけで三下はぶっ倒れそうになっている。
「大丈夫だって、三下僧侶は俺たちの回復に回ってくれればいいからさ。」
「そんなことできませんよ〜〜。」
「薬草もいっぱいあるし、なんとかなるって。」
 時司は軽く言い切って三下に全く取り合わない。
「諦めろ。俺たちも酔ってたほうがよかったかもな。」
 ポンと来生に肩を叩かれたが、真面目な三下は全然安心できなかった。それでも、彼らについていくしか生きる道がないのは明らかだった。



 そろそろダンジョンにも飽きてきた頃、不意に時司が叫んだ。
「中ボスだ!」
 大きな羽の生えた竜のような獣のような怪物が時司の前に立ちはだかっている。
 ピリピリした空気に三下は飛び上がり、来生はさっと身構えたが、来生からは不思議そうな声が洩れた。
「……どこにいるんだ? 前は壁だぞ。」
「目の前にいるじゃないか!」
「……酔っぱらいの目には何かが見えるみたいだな。」
 こんなにはっきりといるというのに来生は何を言っているのだろうか。
 鍵が腹の中にあったりするならば、先にそれを手に入れるべきだろうかと時司は考えた。
「腹の中に手を突っ込む方が先かな……。」
 しかし、炎を吐かれるのは困る。どうしようかと時司が悩んでいると、後ろは後ろでなにやら作戦を練っているようだ。
 来生はこの先がまたしても行き止まりであることを見て取っていた。
「そろそろ道もなくなってきたな。」
 手帳の簡略化した地図を覗き込み、今までの分かれ道を全て行き尽くしていることに気付いた。
「そうですね。宝箱もたくさん開けましたし。」
 三下は言外にこれ以上持てないと言っている。改めて三下を見ると、荷物が多すぎてなにがなんだか分からなくなっていた。眼鏡をかけている顔がどこにあるかが、かろうじて分かる程度だ。
「ちょっとそこ! 俺の話聞いてる? ボスだってば!」
 一人放っておかれていた時司が喚いた。
「おう。援護してやるから頑張れ。」
「よし行くぜ!」
 戦士の助けが得られるのはありがたいが、怪物は自分一人でも十分大丈夫だろうと時司は思う。
 時司は威勢良く怪物に飛びかかった。思いっきり拳を打ち付ける。
 破壊力の凄まじい時司の拳は一撃で怪物を跳ね飛ばした。
 断末魔の叫び声をあげて、怪物が消える。
 さすが怪物の身体だけあって、かなり硬くて、打った拳が少し痛い。
「すごいです!!」
 三下はひたすら感心して拍手を送ろうとしたが、荷物のせいでうまくいかない。
「でもこれって、壁壊してしまったら、ダンジョンが壊れるんじゃないだろうな……。」
 来生が何か言っていたが、時司は目の前に広がった空間に歓声を上げていた。壊れた壁の向こうに部屋が現れている。
 時司は真っ先に部屋の中央にあるものに駆け寄った。
「ボスを倒した後に宝箱! 中身は……ん? なんかカードが入ってる。」
 逆に三下は部屋の端にあるドアに近づいた。
「扉がありますよ。あれ、鍵がなくても開きました。」
 三下が何の躊躇いもなくひょいっと扉をくぐってしまう。
「あー、エレベーターになってます! でも、ボタンも何もない……。」
 来生はカードの意味をすぐに悟り、時司を促して三下に続いた。
 盤上の差し込み口にカードを入れると、エレベーターは自然と地下4Fへと上がっていく。
「やけにハイテクだな。」
 てっきり階段かなにかで階下へ上がるものだと思っていた来生は少し感心したように呟いた。
「次は何かな〜。」
 時司は次なる冒険に今からわくわくしていた。



『ぱんぱかぱ〜ん。おめでとー。攻略時間5時間21分36秒! よくあの隠し部屋を見つけたね。次は敵も出てくるから頑張ってね〜。』
 そういえばなんで自分はこんなところにいるんだろうと、時司は不意に思わないでもなかった。



 To be continued...?


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0314 / 時司・椿(ときつかさ・つばき) / 男 / 21歳 / 大学生】
【0883 / 来生・十四郎(きすぎ・としろう) / 男 / 28歳 / 雑誌記者】


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■         ライター通信          ■
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初めまして龍牙 凌です。
この度は、あやかし荘にご参加くださってどうもありがとうございます。
この話は、時司さまと来生さまでは考え、視点がが変わっておりますので、それぞれの話を読んでいただければ2度楽しいかと思われます。
ハイテンションと冷静なツッコミと楽しく書かせていただきました。
ご満足頂けたでしょうか?
続けて地下4Fもプレイングしていただけたら幸いです。