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<東京怪談・PCゲームノベル>


あやかし荘主催・新春百人一首の会

■さぁ、隠しましょう。
「よぉ、おめでとさん!今年もよろしくなー」
紋付袴で現れた守崎北斗さんに、待ち合わせ場所で先に待っていた石和夏菜さんと夢崎英彦さんは目をパチクリさせました。
それでも夏菜さんは、はっと慌てたようにぺこんと頭を下げました。
「明けましておめでとうございますなの」
北斗さんはそんな夏菜さんに、おうっと片手を挙げました。
「何だってまたそんな格好してるんだ?」
少し呆れたような顔で訊ねた英彦さんに北斗さんは羽織の袂を広げながら言いました。
「ま、一応正月だしな。兄貴が着てけっつーからよ」
「とっても似合ってるのよ、北ちゃん♪」
「そっか〜?へへへ、あんがとな」
素直に感想を言った夏菜さんに照れたように笑う北斗さん。
英彦さんはやれやれと目を細めましたが、特に何も言わず歩き始め後ろの二人に言いました。
「お二人さん。早く行かないと遅れてしまうよ」
悠々と歩く英彦さんの後を夏菜さんと北斗さんは慌てて駆け寄り、三人は仲良くあやかし荘に向かったのです。

「夏菜、カルタ大好き」
にこにこと手渡された札を胸の所で大事そうに握りながら、夏菜さんは言いました。
「しっかし、変なルール考えたもんだよなぁ」
北斗さんも渡された札を見ながら、呆れたように言います。
「良いんじゃないか?普通のルールだとすぐに勝負がついてしまうからな。ま、この位動きのある方が面白いしね」
英彦さんはいつもと違うルールに楽しくなりそうだ、と心の中で呟きました。
が、先程の言い方に北斗さんはむっとしたようで、英彦さんに突っかかって来ました。
「なんだ?まるでいつもだったら勝つ、みたいな言い方じゃねーか」
「ま、当然だろう」
さらりと言った英彦さん。
「あー言いやがったな!」
飛び上がるように立った北斗さんは、びしっと英彦さんを指差し、こう宣戦布告をします。
「ぜってーお前にだけは負けねー!!みてろよー!」
そうして、北斗さんは管理人室を飛び出して行きました。
「やれやれ。血気盛んな事だ」
小さく肩を竦める英彦さん。
「ぢゃ、わしもばら撒きに行くか」
北斗さんの後に続き、嬉璃さん達も次々に立ち上がり管理人室を後にして行きます。
英彦さんも隠す場所を考えながら、渡された札を見ました。
僧正遍昭や柿本人丸、源重之等の作詠八枚。
それらを持ち、立ち上がりかけた英彦さんは視界の端で動いた物に何気なく目を向けました。
動いた物は夏菜さんで、ぽんぽんと先程まで嬉璃さんが座っていた座布団を叩いています。
「……何をしてるんだ?キミは隠しに行かないのか?」
話し掛けられた夏菜さんは慌てた様子で
「あ、うん。じゃ、隠してくるね!」
と、言うが早いか管理人室を飛び出して行ってしまいました。
「なんだ?」
首を傾げる英彦さんですが、何はともあれ札を隠しに行こうと部屋を出ました。
英彦さんが隠すと決めた場所は玄関。
綺麗に掃除された玄関の下駄箱にはたくさんの靴と来客用のスリッパが少々。
英彦さんはその下駄箱の靴の中やスリッパの下、下駄箱の扉の陰など適当に札を隠して行きます。
そして、最後に一枚だけ玄関の中で良く見えるところに置きました。
「これで、下駄箱の中まで探さないだろ」
と、ダミーを仕掛けた英彦さんは早々に管理人室へと戻ったのでした。

■さぁ、百人一首をしましょう。
皆、それぞれに隠し終え管理人室へと集まりました。
「では、早速始めるのぢゃ。歌姫」
嬉璃さんの言葉に歌姫さんは微笑を浮かべ頷き、すぅっと息を吸い込み伸びやかな独特の節回しで詠み始めました。
「和田の原〜♪」
そう、歌姫さんが言ったが早いか真っ先に部屋を飛び出して行った人がいます。
「ちょ、弔爾さん?!」
呆然と弔爾さんが出て行った時に開けたままになった扉に、三下さんは呼び掛けた姿勢のまま固まっています。
「せっかちな奴ぢゃのぅ。だが、わしも行くか」
「漕き出てみれば〜久方の〜♪」
歌姫さんが悠々と詠み上げる中、嬉璃さんも部屋を出、皆もそれに続き札探しへと飛び出しました。
「ええっと……久方の〜雲井にまかふ沖つ白波、だったか?」
前を歩く北斗さんは必死に思い出しながら、そう言いました。
そこに管理人室にいるはずの歌姫さんの残りの句を詠み上げる声が響きます。
「雲井にまかふ〜沖つ白波〜♪」
「よし!」
「よし、じゃないだろ」
後ろから突っ込みを入れた英彦さんに、北斗さんは眉を顰め振り返りました。
「これはキミの国語力のテストじゃないんだ。札を取らない事にはどうしようもないぞ」
「分かってるさ。んな事は……」
ぶぅ、と口を尖らせて言った北斗さんに夏菜さんがあたりを見ながら言いました。
「でも、どこにあるんだろうね?北ちゃんのカード?」
「いや、違う。夢崎、お前は?」
北斗さんにそう訊ねられ、英彦さんは首を振りました。
「敵に塩を送る気はないんだがね…俺でもないよ」
「じゃ、他の誰かか……良しっ!」
そう言うと駆け出した北斗さん。
「あ、待ってなのよ、北ちゃん!どこ行くの?」
夏菜さんにそう呼び止められた北斗さんは、体の向きを変え駆け足のまま
「隠した奴を探して札を取るところを捕まえるのさっ!」
にやっと笑い、再び体の向きを変えて走り出しました。
「待ってなの〜北ちゃん!」
そんな北斗さんを追って、夏菜さんも駆け出します。
「元気だねぇ……でも、ま、その方法が一番手っ取り早いな」
そう呟くと英彦さんも駆け出しました。
三人揃って、隠した人物を探しているとどこからかゲット〜!という声が聞こえました。
どうやら、先を越されてしまったようです。
「ちっ。やられたか」
舌打ちする北斗さん。
「ありゃりゃ」
夏菜さんも残念そうに声のした方を見ました。
声の主はどうやら綾さんだったようです。
すぐに、荘内に次の唄を詠む声が響いてきました。
「百敷や〜古き軒端の忍ぶにも〜♪」
「今度は順徳院か……」
英彦さんがそう呟いた時、廊下の少し先であっ、と声を上げる人物が一人。
見れば三下さんがそそくさとどこかへ行く姿に、三人は顔を見合わせました。
「あいつだ!」
言うなり、北斗さんは駆け出し、夏菜さんと英彦さんも負けまいと三下さんの後を追います。
すぐに三下さんに追いつく足を持っている三人の気配に、ふっと振り向いた三下さんの顔色が変わりました。
「な、な、な?!」
そう言葉にならない声を上げ、三下さんは逃げ出しました。
それを追う三人。
「待ちやがれ、三下!!」
「うわぁ〜〜なんで〜?!」
必死で逃げる三下さんは自分の部屋へ飛び込むと扉を閉めようとしました。
が、一瞬早く取っ手に手を掛けた北斗さんは勢いよく扉を開け放ち、部屋へと飛び込みました。
「ひぇぇえ〜!」
怯える三下さん。
だが、ゆっくり後ずさりする先に見えた三下さんの鞄に北斗さんの目が光りました。
「そこかぁ!!」
飛び掛った北斗さんに三下さんは慌てて鞄を抱き込み、隠した札を死守するつもりです。
「よこせ、三下!」
「だ、ダメですぅ〜〜!!」
必死に鞄を引っ張り合う二人の間に更に夏菜さんが加わり、鞄の蓋を開けました。
「へっへ〜頂き〜♪」
「あ、夏菜!!」
中に手を入れ、札を探ろうとしていた夏菜さんの手首を北斗さんが、がしっと掴み阻止。
「ちょっと離してよ〜北ちゃん!」
「い〜や!ダメだ!!」
今度は北斗さんと夏菜さんが睨みあっている横で、そ〜っと三下さんが鞄の中へと手を入れようとします。
「ぐえっ!?」
急に三下さんの上に英彦さんが乗りかかり、惜しくも三下さんの手は鞄に届かず地へ落ちてしまいました。
今まで静観していた英彦さんは漁夫の利を狙っていたのです。
「危ない、危ない。残念だったね、三下さん」
そう言って手を伸ばした英彦さんですが、その手首は二つの手によって止められました。
「……なんだ?この手は」
「これは俺の札だ」
「いーえ。夏菜のなの!」
バチバチと三者の間で飛び散る火花。
三つ巴戦が今まさに始まろうとした時、黄色い風がさっと三人の間を駆け抜けて行きました。
気がつくとそこに在ったはずの鞄がありません。
「一枚取りっ!」
と、声の方を向けば柚葉さんが札を片手に得意気な笑みを向けており、三人はがっくりと肩を落としました。

■大乱戦其の二
「天の原〜雲の通い路吹きとぢよ〜♪」
流れてきた唄に英彦さんはゆっくりと後ろへ下がりました。
その手にはポケットに忍ばせていた小さなカッター。
小さく刃を出し、皆に気付かれないように親指の先を切り滴り落ちる血で自分の前の床板に線を描きました。
それに気付いたのは恵美さんで、血を流している英彦さんに目を見張り声を上げました。
「どうしたんですか!?夢崎さん!」
その声に皆が振り向き、英彦さんはそんな彼等ににっこりと笑みを向けました。
「皆にはここでしばらく待っていてもらうよ」
「何言って……?」
すっと立ち上がり、身体の向きを変えて走り出した英彦さんを追おうとして歩きかけた恵美さん。
が、床板が異様な形に変形し、そこには在り得るはずがない30p程の高さの触手が先へ進むのを遮るように蠢くのです。
「ひぇ〜!な、なんですかアレ〜?!」
素っ頓狂な叫び声をあげた三下さんに、彼の肩に馬乗りになっている嬉璃さんが蹴りを入れ、言います。
「只の床板が仮初の命を吹き込まれたものぢゃ。気にするでない。ホレ、さっさと飛び越えるのぢゃ!」
「む、むりですよぉ〜〜!!」
半べそ状態の三下さん。
だが、その横から次々と飛び越えて行きます。
「あいつ……本気だな」
ぺろり、と唇を舐めた北斗さんは軽々と触手を飛び越え追いかけます。
「まさか、このような能力を持っているとは…油断ならないようですな」
「へぇ……面白い力ねぇ。楽しくなりそうだわ」
霜月さん、愛さん達も英彦さんに追いつこうとします。
が、どうやら一足遅かったようです。
玄関先で待っていたのは札を片手に余裕の笑みを浮かべる英彦さんの姿。
「遅かったじゃないか。ま、残念だったな」
「あ〜〜!!」
札を指差し、北斗さんと柚葉さんは地団駄を踏んで悔しがりますが、そ知らぬ顔で英彦さんは札を収めました。
そして、また唄が流れて来たのです。

■扉の向こう
真剣勝負の様相を呈してきたこの百人一首の会。
何十回目の句が詠まれます。
「千早振〜神代も聞かず立田川〜♪」
皆、顔を見合わせたまま動きません。
「からくれなゐに水くくるとは〜♪」
詠み終わっても誰も動きません。
「……今度は誰だ?」
英彦さんの言葉にそれぞれがそれぞれを牽制するように見ますが、無言のままです。
「千早振〜♪」
再び同じ句が繰り返され、夏菜さんが痺れを切らしたように全員の顔を見渡しました。
「ねぇねぇ。誰もいないの?」
誰も名乗りを上げない事で、霜月さんはハッと気付きました。
「あ…もしかしたら、この句は歌姫さんかも知れません」
「歌姫はん?」
眉を寄せ、首を傾げる綾さんに霜月さんは頷きます。
「えぇ。歌姫さんも札を隠していましたから」
霜月さんは札を隠している歌姫さんに会った時を思い出し、言いました。
「確か、あちらの部屋でした……」
歩き出した霜月さんの後を皆が続きます。
「なんだよ。詠み手にも札配ってたのかよ」
三下さんの肩に乗っている嬉璃さんを見ながら呆れたように言った北斗さん。
「まったく愚の骨頂だな」
前を向いたまま英彦さんも言います。
そんな二人に嬉璃さんは、ペシペシと三下さんの頭を叩き北斗さんと英彦さんを指差します。
「えい、煩いのぢゃ。三下、あの二人をやってしまえ!」
「えぇ〜?ムリですよぉ」
「無理だ無理だとばかり言って道理が通るか!やれといったらやるのぢゃ」
べしっと今度は強めに叩かれた三下さん。
ひえぇ〜と情けない三下さんを助けるように夏菜さんが嬉璃さんに言います。
「嬉璃ちゃん怒っちゃダメなのよ。ほら、もうすぐ歌姫さんが隠した所に着くし」
と、前を見れば霜月さんがひとつの扉の前に立ち止まっていました。
「ここが隠し場所?」
愛さんの問いに霜月さんは頷きました。
「ここから歌姫さんが出てくるところを見ましたし、間違いないでしょう」
「そうか……では、開けるぞ?」
そう、皆に確認します。
皆頷き、いつでも中へ入れる準備はオーケーです。
取っ手に手をかけ、弔爾さんは勢い良く扉を開け放ちました。
中へ飛び込もうとした十二名は固まります。
低く響く雄叫びはご近所の怪談アパートの噂のネタになるには充分です。
「な、な、な〜〜!?!?」
声にならない叫び声。
低い獣の唸り声と悲鳴を聞きながら、歌姫さんはいつものような微笑を少し心配そうに歪めながら、歌い出しました。
「ないしょ ないしょ 内緒の話はあのねのね〜♪」
こうして、第一回、あやかし荘主催百人一首の会は深けて行くのでした。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1069/護堂霜月(ゴドウ・ソウゲツ)/男/999歳/真言宗僧侶】
【0830/藤咲愛(フジサキ・アイ)/女/26歳/歌舞伎町の女王】
【0845/忌引弔爾(キビキ・チョウジ)/男/25歳/無職】
【0568/守崎北斗(モリサキ・ホクト)/男/17歳/高校生】
【0921/石和夏菜(イサワ・カナ)/女/17歳/高校生】
【0555/夢崎英彦(ムザキ・ヒデヒコ)/男/16歳/探究者】

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■         ライター通信          ■
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明けましておめでとう御座います。
ライターの壬生ナギサと申します。
どうぞ、よろしくお願い致します(礼)

さて、あやかし荘主催・新春百人一首の会はいかがでしたでしょうか?
今回のお話はそれぞれの参加PCさんごとに違っています。
■大乱戦、では一〜六までありますので、探して読んでみるとまた面白いかと思います。

英彦くんの冷静さを出すのがちょっと難しかったです。
私のイメージとして静観しつつ、漁夫の利を狙う奴とさせて頂きましたが・・・(笑)
感想、ご意見などあれば聞かせて頂けると幸いです。
では、機会がありましたらまたのご参加お待ちしております。