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<東京怪談・PCゲームノベル>


THE RPG 地下5F


「なんだぁ、あのクソガキ! 出たら覚えてろよ。ボコボコにしてやる!」
 来生・十四郎(きすぎ・としろう)が地の底から響くような呪いの声をあげる。人相の悪さも相まって、震え上がっていた三下は自分の置かれている状況も忘れてついアキラに同情してしまった。
「なんでたまたま目の前ですっ転んだお前を送りに来てこんなことに巻き込まれないといけないんだ? お前にもそれ相応の礼はしてもらうぞ。」
「ひ〜〜すみません〜〜。」
 三下はひたすら頭を下げるしかない。
「まあ、仕方ない。せっかくだからこの体験もネタにしてやるさ。」
 来生は、ゴシップやスキャンダル、風俗記事やオカルト記事など、怪しげな特集ばかりを集めた弱小三流雑誌「週間民衆」の記者兼ライターなのである。
 アキラが最後に言った言葉を思い出す。
「鍵を探せだと? とりあえず、こういうゲームじゃ宝箱があるはずだな。」
 探すぞ、と来生は周囲を見回した。古い石畳の床や壁、天井はRPGのダンジョンの雰囲気が良く出ている。壁に小さな灯りしか光源がないので、三下は視界の悪さにびくびくしていた。
 不意に後ろでドサッという音がしたので、三下は飛び上がり、来生にしがみついた。
「バカ! 離せ! 苦しい!」
 来生の喚き声に被さって聞こえてきたのは軽い声だった。
「うわ〜ここはどこ? 俺は誰? 俺は時司・椿(ときつかさ・つばき)。うん、大丈夫。」
 小麦色の肌に高い身長を持つ彼は、一人でひたすら喋っている。年は大学生くらいだろうか。
「来生・十四郎だ。お前も落ちてきたのか?」
 同じ境遇に落ち込んだ時司と握手でも交わそうかと手を出すと、彼は突然ぎゃははと笑った。来生に笑ったわけではなく、周囲の状況がおかしかったらしい。しかし、どこか壊れたような笑い声に、三下はさらに怯える。
「何ここ〜? もしかしてダンジョン? でもって、あんたは俺のパーティってわけだ。 うわ〜人相悪いなあ。キャラの職業はなに? あ、俺は戦士ね。……モンクでもいいけど。」
「……酔っぱらいか……。」
 訳の分からないことを羅列する時司に合点がいって、来生はがっくりと肩を落とした。
 噛み付かないと分かって、恐る恐る三下が来生の背後から出てくる。
「やっぱり俺モンクにしよ。あんた戦士ね。この人僧侶でいっか。弱そうだし。」
「三下です〜。」
「おーし、それじゃあレッツゴー!」
 時司は自己完結してふらふらと歩き出してしまう。
「とりあえず、宝箱を見つけ次第壊す!」
「少し落ち着け、少年。」
 酔っぱらいと足手まといという大変なお荷物を2人も抱え、来生は大きく溜め息をついた。
 ついてない運勢はまだ始まったばかりだ。



 ダンジョンは非常に入り組んでいた。行き止まりに突き当たっては溜め息と共に後戻りをすることを繰り返さなければならなかった。
 来生は分かれ道に来るたびに職業柄手放せない筆記用具で印をつけ、手帳に簡単な地図を描いていく。 
「また行き止まりかよ。」
 溜め息をついて、来生は手帳に×印を書き込む。
「でも宝箱あるよ。中身はなにかな……あ、薬草だ。」
 時司が手にしているのはどう見てもほうれん草である。初めてこれを見つけたときには、ポパイかよと来生は一人心の中で突っ込んでいた。時司は薬草と信じて疑わなかったし、三下はそれに乗せられて、薬草ってこんなものなんだと思ったようだ。もしかして、三下はほうれん草を知らないのだろうかと来生は思わず疑ってしまった。
「はい、三下僧侶、持ってて。」
 三下はすっかり荷物持ちと化していて、大量の戦利品を抱えていた。何にするか分からない短い杖、首の部分だけが丸く開いた大きな布。時司が毒消し草だと言った草は、毒草と言われても頷けるような怪しいものだった。
 その他の装備として、三下は変な四角い帽子を被らされており、木刀は戦士だからと言う理由で来生が持たされている。時司は何も装備できるものはないと言って一人身軽だ。
「中ボスどこにいるんだろ。」
「ボス?」
「うん。だって、こういうのは中ボス倒したら鍵が手に入るもんだし。」
「戦うんですか?!」
 その単語だけで三下はぶっ倒れそうだ。
「大丈夫だって、三下僧侶は俺たちの回復に回ってくれればいいからさ。」
「そんなことできませんよ〜〜。」
「薬草もいっぱいあるし、なんとかなるって。」
 時司は軽く言い切って三下に全く取り合わない。
「諦めろ。俺たちも酔ってたほうがよかったかもな。」
 ポンと来生に肩を叩かれたが、真面目な三下は全然安心できなかった。それでも、彼らについていくしか生きる道がないのは明らかだった。



 そろそろダンジョンにも飽きてきた頃、不意に時司が叫んだ。
「中ボスだ!」
 ピリピリした空気に三下は飛び上がり、来生はさっと身構えたが、時司の視線の先には壁しかない。
「……どこにいるんだ? 前は壁だぞ。」
「目の前にいるじゃないか!」
「……酔っぱらいの目には何かが見えるみたいだな。」
 苛立った時司の声に、来生は隠れて息を吐くしかなかった。どうやらこの酔っぱらいの目には何か別のものが見えているらしい。
「腹の中に手を突っ込む方が先かな……。」
 時司がなにやらぶつぶつとずれた作戦を立てている。
 来生はこの先がまたしても行き止まりであることを見て取っていた。
「そろそろ道もなくなってきたな。」
 手帳の簡略化した地図を覗き込み、今までの分かれ道を全て行き尽くしていることに気付いた。
「そうですね。宝箱もたくさん開けましたし。」
 三下は言外にこれ以上持てないと言っている。改めて三下を見ると、荷物が多すぎてなにがなんだか分からなくなっていた。眼鏡をかけている顔がどこにあるかが、かろうじて分かる程度だ。
「ちょっとそこ! 俺の話聞いてる? ボスだってば!」
 一人放っておかれていた時司が喚いた。
「おう。援護してやるから頑張れ。」
「よし行くぜ!」
 適当な来生の相槌だけで、時司は威勢良く壁に飛びかかった。思いっきり拳を打ち付ける。
 破壊力の凄まじい時司の拳は一撃で壁を突き破った。
「すごいです!!」
 三下はひたすら感心して拍手を送ろうとしたが、荷物のせいでうまくいかない。
「でもこれって、壁壊してしまったら、ダンジョンが壊れるんじゃないだろうな……。」
 来生の心配は時司の歓声によってかき消された。壊れた壁の向こうに部屋が現れている。
 時司は真っ先に部屋の中央にあるものに駆け寄った。
「ボスを倒した後に宝箱! 中身は……ん? なんかカードが入ってる。」
 逆に三下は部屋の端にあるドアに近づいた。
「扉がありますよ。あれ、鍵がなくても開きました。」
 三下が何の躊躇いもなくひょいっと扉をくぐってしまう。
「あー、エレベーターになってます! でも、ボタンも何もない……。」
 来生はカードの意味をすぐに悟り、時司を促して三下に続いた。
 盤上の差し込み口にカードを入れると、エレベーターは自然と地下4Fへと上がっていく。
「やけにハイテクだな。」
 てっきり階段かなにかで階下へ上がるものだと思っていた来生は少し感心したように呟いた。
「次は何かな〜。」
 時司は次なる冒険に今からわくわくしてる。
 まあ、彼のおかげで隠し部屋を見つけることもできたし。
 酔っぱらいも何かと役に立つものだと来生は思った。



『ぱんぱかぱ〜ん。おめでとー。攻略時間5時間21分36秒! よくあの隠し部屋を見つけたね。次は敵も出てくるから頑張ってね〜。』
 エレベーター内に響いたアキラの暢気な声に、来生は殺意を募らせた。
 来生の殺気に三下が気付き、一人怯えていた。



 To be continued...?


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0314 / 時司・椿(ときつかさ・つばき) / 男 / 21歳 / 大学生】
【0883 / 来生・十四郎(きすぎ・としろう) / 男 / 28歳 / 雑誌記者】


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■         ライター通信          ■
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初めまして龍牙 凌です。
この度は、あやかし荘にご参加くださってどうもありがとうございます。
この話は、来生さまと時司さまでは視点が変わっておりますので、それぞれの話を読んでいただければ2度楽しいかと思われます。
ハイテンションと冷静なツッコミと楽しく書かせていただきました。
ご満足頂けたでしょうか?
続けて地下4Fもプレイングしていただけたら幸いです。