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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


やさしい子守歌

■act.1  依頼
「ほら、最近寒いから」
 出されたカップを両手で包み込んだ灰原 建(はいばら・けん)は、幸せそうな顔をしながら、そう話を切り出した。
「外で昼寝なんてよほどの事情でもない限り、しないじゃない? それがさ、吸い寄せられるように集まって昼寝している奴らが、いるんだそうだ」
 しかも寒暖や雨・雪とか関係なく、ついで毎回メンツは変わるしで、誰もが皆、気が付いたらそこで寝ているらしい。
「取り敢えず凍死者が出る前に何とかしろーって話が回ってきてるんだけど」
 一気にそこまで話した建はカップの中身を飲み干すと、にこっと微笑んだ。
「調査を手伝ってくれる奴、いないかなぁ?」

■act.2ー1 どうしてそうなるの?
「大体昼寝って言えば、おこたが基本でしょ? どうしてこんな所で寝てる人が本当にいるのよっ」
 両手を腰に当て、むっとした顔でそう宣言したのは朧月桜夜(おぼろつき・さくや)だった。その場所は高層ビルが建ち並ぶオフィス街の一角の円形の公園。数本の桜に囲まれるように設置された真新しい木製ベンチに、眠るビジネスマンが三人いる。
 本当なら部屋でぬくぬくしていたい桜夜は、寒い中昼寝をしている人間が三人もいて、それも気持ちよさそうな表情なのに呆れてしまったのだ。
「さっきから見てたんだがな」
 仁王立ちの桜夜の横で、先に来てこの場所を見張っていた瀬水月隼は、小さく欠伸をかみ殺していた。
「それまで普通に歩いてた奴が、あの辺を見た途端にベンチに腰掛けて寝むっちまう」
「ふーん?」
 ということはあたしの出番、なのかしら? なんて思った桜夜だが、術を使う前に話を聞いてみましょう、と一番幸せそうに眠てるおにーさんに声を掛けた。
「ちょっと、おにーさん」「……」
 反応なし。
 今度は隼に目配せして、揺すってもらう。
「おい・にーさん、聞こえてるか?」
 隼に数度乱暴なほど揺すられたおにーさんは、1分ほど揺すられていたが、ようやく目を覚ました。
「なんだ君、うるさいな」「……このやろ」
 拳を握りしめた隼を止めず、桜夜はため息をつく。
「お兄さん、今何時か知ってる?」「え?」
 おにーさんは腕時計を見て……慌てて立ち上がる。
「うわぁ、会議の時間に遅れる!」
「ああっ、待ってっ。なぜこんな所で寝ていたの?」
「なぜと言われても……寝不足だなぁとは思ってたが。ともかく、急がなきゃ!」
 そしてそのまま質問しようとする二人を無視して、すたすたっと歩み去っていった。

 それは後2回繰り返される。

「なによ、寝不足って」「なんだろなぁ」
 ぷんぷん怒りだした桜夜の前で、隼は周囲を軽く見回した後、大きく伸びをしたと思うと、違和感なく誰もいなくなったベンチに腰掛けた。
 次の瞬間、桜夜の耳に気持ちよさそうな寝息が聞こえ始める。
「ちょっと、あなたが寝てどーするのよーっ!」
 同時にスコーンという音が周囲に響きわたった。

■act.3 目に浮かぶ風景
「ようするに、この場所に何かがあるわけよね」
 そう口火を切ったのはシュライン・エマ。
 最初から現場が、この公園のこのベンチ限定だと分かっていたけれど、目の前で仲間に眠られてしまったからには疑いようもない事実になった。
「でも、本当にお休みになるんですね」
 海原みなも(うなばら・ー)は、何気なくマフラーを解いている建の横で寝た仲間の顔を見ている。
「桜夜さんは大丈夫でした?」「あたしはね」
 横で痛そうに頭をさすっている隼をちらっと見た桜夜は、頬を膨らませていた。
「聞いたとこでは皆寝不足。忙しいのに寝てるのよ」
「でもさ……眠くなる前、なんか音が聞こえたぜ?」
 実は桜夜にひっぱたかれて起こされた隼は、桜夜を密かに睨み付けていた。
「ついでに木とか見えたけどさ……まぁ、俺の守備範囲じゃないって事は確かだな」「そうなんですか……」
 と言うことは、やっぱり人間がしている事ではないのだとみなもは確信、すぐ側の、すっかり葉を落としている木を見上げた。
「桜の木の下には、何かあるとは言いますけど……」
「うーん、確かになんかいる感じはまだしてるけど」
 そう呟いたのは、胸元に揺れる銀のクロスに触れながら、周囲を見回している建だ。
「こう寒いとおれ的にどれか特定しにくいんだよね」
「……あんたってば、本当に冬場は役立たないエクソシストなのね。もうちょっと真面目になさい」「う」
 呆れた顔のシュラインの鋭い指摘に、建は思わず胸を押さえる。当たっているので文句が言えない。
「じゃ、あたしがするわ。静かにしてて」
 ほんとに役立たずなんだから、と思いながら桜夜は、皆の見ている前でバックから呪符を取り出した。それをそのまま右手の指に挟むと、両手を合わせて目を閉じ、その口は願いを伝える言葉を紡ぎ始める。
 皆が注目している中、しばらく神経を集中していた桜夜は、一つの方向から霊気を強く感じて目を開けると、そちらの方にすたすたっと歩み寄った。
 そこにあったのは、真新しいベンチ。
「ベンチから霊気を強く感じるわ」「ベンチぃ?」
 隼は胡散臭そうな顔でベンチを軽く蹴った。
「間違いなく、これ」
「確かにこのベンチが設置されてから、被害が出るようになったのは確かだけれど」
 胸元の眼鏡を掛けたシュラインは、その真新しいベンチを見つめてみるが、眼鏡を掛けたのに、ぼんやりとしか見えないのは気のせいだろうか?
「とにかく! このベンチに何かついてるのは確かなんだし、ちゃっちゃと払いましょ」
 そう宣言して、手にした呪符をもう一度構えた桜夜の耳に、何か聞こえた気がした。振り返ると他の4人も何か聞こえているらしく、周囲を見回している。
 シュラインがふと口にしたのは、聞こえて来るままのメロディだった。
「さっきと同じだ!」「これは……子守歌ですか?」
 隼とみなもの声がきっかけだったのか、なんだか世界がぐらり、と回り始めた。

『木漏れ日あふれる大きな森
 子供達の駆ける音
 大きな幹を伸ばすもの
 
 きらきらきら
 
 笑顔と寝顔
 優しげな風
 木漏れ日を見つめる
 その目は誰のもの? 』
 
<ちゃりん>
 自転車のベルの音で、皆が我に返った。
「幻影……だったのですか?」
 ちゃんと元の場所に立っているのを確認したみなもは、きょろきょろと周囲を見回した。
「でも何でしょう、懐かしいというか癒やされると言うか……あ、だから子守歌?」
「疲れてる心には反応しそうね、たしかに」
「集団で見る幻影なんて、なかなかないでしょ」
 眼鏡を外しながらシュラインは、軽く頬をさすった。「ひょっとしてこのベンチ、どこかの森のご神木かなんかを使ってるんじゃなくて?」
「……ありえるよね。伐採された後、その欠片に霊気が宿ってても不思議じゃないしね」
 建はふーっと白い息を吐く。
「さて、どうしたものか」
「お願いしてみてはどうですか?」
 みなもは木漏れ日が通り抜ける桜の木を見上げた。
「この桜の木に花が咲き、緑にあふれた頃に人を誘ってあげて下さいって」
「それもどうかと思うけど」
 シュラインはくすっと笑った。
「少なくともその時期なら、訴える人いないわね」
「じゃ、私にまかせて。説教してあげる」
 と不気味に微笑んだのは桜夜。
「……説教じゃなくてもいいんだけど」
「役立たずは黙ってろ」「う」
 隼に睨まれた建の背中を、シュラインは軽く叩く。
「いいじゃない、風邪ひいた人の分を言ってもらえばいいんだし」「そうですよね」
 シュラインとみなもは、顔を見合わせると微笑みながら頷いた。

■act.4−1 暖かい微笑みの中で
「あいつ、聞いてくれたかしら?」
 部屋に戻った桜夜は、パソコンの電源を入れている隼にそう声を掛けた。ストーブの前に陣取り、目の前のテーブルには湯気の立つカップが二つ。
「さぁね」
「ま、最悪払えばいいだけだし……でも疲れたぁ」
 そう言いながら大きく伸びをした桜夜の横に、隼はカップを手にして腰掛けた。
「寒かったしな」
「そそ。やっぱり昼寝の基本はぬくぬくの場所〜」
 うふふ、と微笑んだ桜夜は、そのままごろーんと横になった。頭はもちろん、隼の膝の上。
「……このやろっ」
 毎回俺の膝の上で昼寝すんじゃねぇ! という隼の声は聞こえたかどうか。
 桜夜は幸せそうに寝返りを打ったのである。

                 おしまい

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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
               (応募順になっています)
【0444/朧月・桜夜/女/16歳/陰陽師】
【0072/瀬水月・隼/男/15歳/
      高校生(陰でデジタルジャンク屋)】
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/
      翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1252/海原・みなも/女/13歳/中学生】
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■       ライター通信        ■
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皆様 はじめまして!
へっぽこライター、小杉 由宇と申しますです。
この依頼に参加していただきまして、本当にありがとうございました!
実は……今回が初仕事だったりしまして(おい)、どうなる事やらと不安に思っていましたところ、皆様とお出会いする事が出来ましたです。
かなり皆様のイラストが影響していると思われる今回の物語です(笑)が、楽しんで頂けたかどうか、今はどきどきしております。

さて。
本文中、act.2と4は個別で内容が微妙に異なっております。他の方の部分も読んでいただけるとうれしいかな、などと思ってますです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
隼さま、参加ありがとうございました。
見事にベンチの精(?)のお誘いに乗っていただいたのですが、いかがでしたでしょうか?(まて) 桜夜さんとの仲をうまく表現できたかどうか不安です。

桜夜さま、参加ありがとうございました。
「うわ、読まれてるし」と素直に負けを認めたライターがここにおります(笑)。お昼寝、お楽しみ下さいね。

シュラインさま、参加ありがとうございました。
別にメッセも頂き、感動しております。かっこいいお姉さま、と言った感じに書いたつもりですが、いかがでしょうか? 灰原に奢られてやって下さいね(笑)

みなもさま、参加ありがとうございました。
あなたがいなければ灰原は最期まで出てきませんでした。なかなか可愛く表現できず、申し訳ないです(汗)

ちなみに。
灰原 建/25歳/日英ハーフのフリーター
         (多分エクソシスト)
でした。また出てきましたら後ろ指さしてやって下さいませ。

◇◆◇◆◇
最期になりましたが、感想や「こんなのうちの子じゃなーい」など苦情や文句等々、お伝えいただけるとものすごく嬉しいです。

それではまた、お会いする機会がありますことを!
                小杉 由宇 拝