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やさしい子守歌
■act.1 依頼
「ほら、最近寒いから」
出されたカップを両手で包み込んだ灰原 建(はいばら・けん)は、幸せそうな顔をしながら、そう話を切り出した。
「外で昼寝なんてよほどの事情でもない限り、しないじゃない? それがさ、吸い寄せられるように集まって昼寝している奴らが、いるんだそうだ」
しかも寒暖や雨・雪とか関係なく、ついで毎回メンツは変わるしで、誰もが皆、気が付いたらそこで寝ているらしい。
「取り敢えず凍死者が出る前に何とかしろーって話が回ってきてるんだけど」
一気にそこまで話した建はカップの中身を飲み干すと、にこっと微笑んだ。
「調査を手伝ってくれる奴、いないかなぁ?」
■act.2−3 頼まれたわけ
『調査の手伝い、してやってくれないかな?』
武彦さんの前で「情報整理がちょい苦手なんだ。助けて」と建に拝み倒されたシュライン・エマは、草間のその台詞で、今回の依頼の手伝いをしてあげることにした。
まぁ、建は興信所の仲間だから手伝う事にはやぶさかでもないし、この依頼、ライター家業のネタにもなるかもしれないわけだし。
そんなシュラインが今いるのは、現場である公園がよく見えるカフェだ。もう一人迎えに行ってくるからと、席を離れた建を待ちながら、まとめてきた書類にもう一度目を通している。
「しかし、こう状況が一致していると分かりやすくていいわね」
現場はこの公園の桜の木の下にあるベンチ限定。このベンチ自体は前のベンチが古くなったので取り替えられた物らしく、設置されたのは11月の頭らしい。
で、『昼寝』が始まったのは十一月の末頃からで、時間帯は昼の十二時から二時までの間が多く夜間は皆無。被害者の多くはこの公園近くのビルに勤務しているビジネスマンで、性別は半々。そして今までで最大の被害は風邪で一週間寝込んだ三〇代の男性、だった。
確かにこれくらいの被害では、文句を言われる立場になった今件の依頼人、公園管理人も警察に訴えるわけには行かなかったのだろう。
「皆大体寝不足だとか残業が多くて疲れてた人が多い、っていうところが、引っかかるわ……」
冬は役立たずなエクソシストである建が、何かこの場所には不思議な気があるんだけどね、と呟いていたのも気に掛かるわけで。
「ひょっとしたら、この事件を起こしている何かは、自分が悪いことをしているという意識はないのかもしれないわね」
そう呟きながら、シュラインは視線を窓の外に向けると、建がもう一人少女を連れてこちらに向かって歩いてくるのが見えた。丁度待ち合わせの時間。
レジで領収書を貰ったシュラインは、カフェを出たのだが……建達と合流する前に
「あなたが寝てどーするのよっ」
と言う怒鳴り声に、少しだけ眉をつり上げて見せた。
■act.3 目に浮かぶ風景
「ようするに、この場所に何かがあるわけよね」
そう口火を切ったのはシュライン・エマ。
最初から現場が、この公園のこのベンチ限定だと分かっていたけれど、目の前で仲間に眠られてしまったからには疑いようもない事実になった。
「でも、本当にお休みになるんですね」
みなもは、何気なくマフラーを解いている建の横で寝た仲間の顔を見ている。
「桜夜さんは大丈夫でした?」「あたしはね」
横で痛そうに頭をさすっている瀬水月隼(せみづき・はやぶさ)をちらっと見た朧月桜夜(おぼろつき・さくや)は、頬を膨らませていた。
「聞いたとこでは皆寝不足。忙しいのに寝てるのよ」
「でもさ……眠くなる前、なんか音が聞こえたぜ?」
実は桜夜にひっぱたかれて起こされた隼は、桜夜を密かに睨み付けていた。
「ついでに木とか見えたけどさ……まぁ、俺の守備範囲じゃないって事は確かだな」「そうなんですか……」
と言うことは、やっぱり人間がしている事ではないのだとみなもは確信、すぐ側の、すっかり葉を落としている木を見上げた。
「桜の木の下には、何かあるとは言いますけど……」
「うーん、確かになんかいる感じはまだしてるけど」
そう呟いたのは、胸元に揺れる銀のクロスに触れながら、周囲を見回している建だ。
「こう寒いとおれ的にどれか特定しにくいんだよね」
「……あんたってば、本当に冬場は役立たないエクソシストなのね。もうちょっと真面目になさい」「う」
呆れた顔のシュラインの鋭い指摘に、建は思わず胸を押さえる。当たっているので文句が言えない。
「じゃ、あたしがするわ。静かにしてて」
ほんとに役立たずなんだから、と思いながら桜夜は、皆の見ている前でバックから呪符を取り出した。それをそのまま右手の指に挟むと、両手を合わせて目を閉じ、その口は願いを伝える言葉を紡ぎ始める。
皆が注目している中、しばらく神経を集中していた桜夜は、一つの方向から霊気を強く感じて目を開けると、そちらの方にすたすたっと歩み寄った。
そこにあったのは、真新しいベンチ。
「ベンチから霊気を強く感じるわ」「ベンチぃ?」
隼は胡散臭そうな顔でベンチを軽く蹴った。
「間違いなく、これ」
「確かにこのベンチが設置されてから、被害が出るようになったのは確かだけれど」
胸元の眼鏡を掛けたシュラインは、その真新しいベンチを見つめてみるが、眼鏡を掛けたのに、ぼんやりとしか見えないのは気のせいだろうか?
「とにかく! このベンチに何かついてるのは確かなんだし、ちゃっちゃと払いましょ」
そう宣言して、手にした呪符をもう一度構えた桜夜の耳に、何か聞こえた気がした。振り返ると他の4人も何か聞こえているらしく、周囲を見回している。
シュラインがふと口にしたのは、聞こえて来るままのメロディだった。
「さっきと同じだ!」「これは……子守歌ですか?」
隼とみなもの声がきっかけだったのか、なんだか世界がぐらり、と回り始めた。
『木漏れ日あふれる大きな森
子供達の駆ける音
大きな幹を伸ばすもの
きらきらきら
笑顔と寝顔
優しげな風
木漏れ日を見つめる
その目は誰のもの? 』
<ちゃりん>
自転車のベルの音で、皆が我に返った。
「幻影……だったのですか?」
ちゃんと元の場所に立っているのを確認したみなもは、きょろきょろと周囲を見回した。
「でも何でしょう、懐かしいというか癒やされると言うか……あ、だから子守歌?」
「疲れてる心には反応しそうね、たしかに」
「集団で見る幻影なんて、なかなかないでしょ」
眼鏡を外しながらシュラインは、軽く頬をさすった。「ひょっとしてこのベンチ、どこかの森のご神木かなんかを使ってるんじゃなくて?」
「……ありえるよね。伐採された後、その欠片に霊気が宿ってても不思議じゃないしね」
建はふーっと白い息を吐く。
「さて、どうしたものか」
「お願いしてみてはどうですか?」
みなもは木漏れ日が通り抜ける桜の木を見上げた。
「この桜の木に花が咲き、緑にあふれた頃に人を誘ってあげて下さいって」
「それもどうかと思うけど」
シュラインはくすっと笑った。
「少なくともその時期なら、訴える人いないわね」
「じゃ、私にまかせて。説教してあげる」
と不気味に微笑んだのは桜夜。
「……説教じゃなくてもいいんだけど」
「役立たずは黙ってろ」「う」
隼に睨まれた建の背中を、シュラインは軽く叩く。
「いいじゃない、風邪ひいた人の分を言ってもらえばいいんだし」「そうですよね」
シュラインとみなもは、顔を見合わせると微笑みながら頷いた。
■act.4−3 これくらいは当然
桜夜がベンチに向かってがみがみ説教している間、シュラインはまぁ、ネタとしてはまぁまあよね、と自己分析していた。あの子守歌も優しげで良かったし。
そこまで思考を巡らせた後、シュラインは思い出したように建の腕を引っ張った。
「あ、そうそう」「はい?」
振り返った建の顔にびしっと突きつけたのは、さっきのカフェの領収書。
「もちろん、払ってくれるんでしょ?」
妖艶な笑顔のシュラインに、マフラーを巻き直していた建の手が止まった。
「後、コーヒーでも奢ってくれると嬉しいけど? ね、みなもちゃん」
「はいっ。寒いですものね」
「……はい、奢らせていただきます」
とほほ、と情けない顔をした建に、手伝ってあげたでしょ、とシュラインは優しく微笑んでみた。
どんな風に話としてまとめようかな、なんて思いながら。
おしまい
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
(応募順になっています)
【0444/朧月・桜夜/女/16歳/陰陽師】
【0072/瀬水月・隼/男/15歳/
高校生(陰でデジタルジャンク屋)】
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/
翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1252/海原・みなも/女/13歳/中学生】
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■ ライター通信 ■
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皆様 はじめまして!
へっぽこライター、小杉 由宇と申しますです。
この依頼に参加していただきまして、本当にありがとうございました!
実は……今回が初仕事だったりしまして(おい)、どうなる事やらと不安に思っていましたところ、皆様とお出会いする事が出来ましたです。
かなり皆様のイラストが影響していると思われる今回の物語です(笑)が、楽しんで頂けたかどうか、今はどきどきしております。
さて。
本文中、act.2と4は個別で内容が微妙に異なっております。他の方の部分も読んでいただけるとうれしいかな、などと思ってますです。
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隼さま、参加ありがとうございました。
見事にベンチの精(?)のお誘いに乗っていただいたのですが、いかがでしたでしょうか?(まて) 桜夜さんとの仲をうまく表現できたかどうか不安です。
桜夜さま、参加ありがとうございました。
「うわ、読まれてるし」と素直に負けを認めたライターがここにおります(笑)。お昼寝、お楽しみ下さいね。
シュラインさま、参加ありがとうございました。
別にメッセも頂き、感動しております。かっこいいお姉さま、と言った感じに書いたつもりですが、いかがでしょうか? 灰原に奢られてやって下さいね(笑)
みなもさま、参加ありがとうございました。
あなたがいなければ灰原は最期まで出てきませんでした。なかなか可愛く表現できず、申し訳ないです(汗)
ちなみに。
灰原 建/25歳/日英ハーフのフリーター
(多分エクソシスト)
でした。また出てきましたら後ろ指さしてやって下さいませ。
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最期になりましたが、感想や「こんなのうちの子じゃなーい」など苦情や文句等々、お伝えいただけるとものすごく嬉しいです。
それではまた、お会いする機会がありますことを!
小杉 由宇 拝
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