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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


一月の掃除

<オープニング>

「一月と言えば、やっぱ掃除だよな?」

草間が何とはなしに言った言葉に周りは少々「???」と驚いた
表情を浮かべた。
明日は大雪でも降るだろうか……と微妙に怖い事を考えもしてしまったが。
すると草間も皆からそういう反応が来る事は解っていたのだろうか。
かしかしとこめかみを掻く。
「いや、掃除って言ってもここを掃除するんじゃない。寺だ」
書類を探し出し、草間は数人を手招きする。
「この寺にな。妙なものが出没するんだと。で、それの掃除をな
頼みたいそうだ。出来たら浄化してほしいとさ」
「けど、それってお寺の方が出来るんじゃありません?」
「…出来ないから、こうして依頼が来たんだろ? で、どうする。
受けるやつ、居るんだったらすぐに行ってくれ。
なあに、寺の人が出来ない理由がわかってもここの奴等は逃げ出したり、しないよな?」

にやり。
草間はそんな形容がふさわしいような笑顔になると必要なものを
持たせ皆を送り出した。

―――一抹の不安を皆に抱かせながら。


<始まり―ある寺の一幕―>

それは、よく晴れた日のことだった。
いつものように…と言うより毎年恒例になっている一月の掃除をしようと
寺の住職が重い腰をあげて、とある部屋の前で立ち止まった。
どういうわけか、顔色は少し悪い。
…住職なのに新年早々、お酒を頂いてしまっているからとか二日酔いの
せいだとかではなく、嫌なものを見なくてはならないときの顔色の悪さ―――それを
想像してもらえればいいだろう。

「……この部屋を開けなくなって3年…か……」

ぼそり。
…つまり、今の呟きをまともに解釈すると3年分の埃がたまっている事になる。
一体、何故この部屋を開けなくなったのか。
それをこれから先に訪れる事になる草間興信所の面々に解決と経過の報告を
任せつつ話をはじめるとしよう。


<顔合わせ?>

「ちょっと待ってくれ!」
「あら、どうしたんです渋沢さん?」
叫ぶ一人の男性に向かい、にっこりと文句のつけようの無い微笑を
浮かべるのはシュライン・エマ。
翻訳家であり幽霊作家であり時折草間興信所でバイトをしている彼女は
今回のこの依頼に迷うことなく参加していたのだが、どうしてなのか目の前の
男性はひたすら頭を抱えている。
何故なのか理由もつかめずきょとんとするばかりだったときに漸くの返答。
「どうしたって…ね、今日掃除が目的なんですよねぇ?」
「はい、そう伺ってます♪」
「…掃除じゃなきゃなんだって言うの?」
今度はジョージの叫びをふたりの少女が答えた。
一人は海原・みなも。
中学生の少女で、こちらも「妙な掃除」に興味を持ち参加を決めた一人である。
そしてもう一人の少女は御堂・真樹。
こちらはみなもより年上の高校生の少女だ。
どの面々も依頼内容を草間から聞いて、ちゃんと参加しようと決めてきたのに
約一名はまだ「ぬぬ」と唸っている。
「…俺はさ、掃除だって言うからてっきり男手が多いと踏んでたんっすよ…」
ぽそ。
確かにジョージ以外は皆、女性だが……3人の女性陣はお互いに目を瞬かせあう。
それは今更言っても、もうどうしようもない事だと思う。
人員は確定してしまったのだ。
そういう意味を含め、シュラインは軽くジョージの肩を叩き「行きましょうか?」と告げた。
何はともあれ顔合わせ終了。
依頼、開始である。


<話・離し・ナシ?>

「で、住職さんは何でこの部屋を開けなくなったんだろ?」
「それは今から調べる事だしっ!! でも…ハッキリ言って出そうだよね、あれが」
「ああ、あれねえ……」
「あれですよねえ……」
真樹が同意を求めるように言った言葉にうんうん頷くシュラインとみなも。
黒いにっくき物体―――口にするのも勘弁してくれと思うあれが出そうなほど
部屋の前は鬱蒼としている。
住職はと言えば説明も何も無いままに「お待ちしてました」とだけ告げると
部屋へ案内してそそくさと消えてしまう始末。
全員おかしく思いながらも真樹はまず妖精へと調査を依頼した。
怪しいものや何かがいたらすぐに教えてくれるように。
ふわりと柔らかな風は解ったと告げるように真樹の周りに二度優しく吹いた。
「怪しいのはこれでよしとして…掃除しよっか」
「ええ、お掃除頑張りましょう♪水周りの掃除なら得意分野ですよ〜」
みなもは完璧にお掃除スタイルである。
セーラー服に汚れてもいいように100円均一で買ってきた白のエプロン。
持ってきた箒やはたきなどを手に持ち持って来れなかった掃除用具はお寺の人に
借りれば良いですよね、と呟いている。
そしてシュラインはといえば。
「…あら、何故撃退スプレーなんて…」
ふふ、と軽く笑いながら出そうだと言う事を想定していたのだろうか。
黒いものを一撃(?)で殺せるスプレーが握られていた。
ジョージは、皆の用意のよさに感心しながらも「幽霊なら美人が良いよな、美人が」と
呟き扉へと手をかけた。
軽く軋む音がしながら開かれていく扉。
瞬間。
「げっ」
「「「…………っ!!?」」」
見なきゃ良かった―――と言う声を出し扉を閉める4人。
「…マジですか」
「…武彦さん解ってて寄越したのっ?」
「…あ、あんなの見たくないっ」
「私ももう少しで暴れるところでした〜」
順からジョージ、シュライン、真樹、みなもが口々に「信じられないっ」と叫ぶ。
だが、これは仕事なのだ。
草間の…逃げ出したりしないよなぁ?と言う意味を漸く納得しながら彼らは盛大な溜息を、ついた。


<黙ってないで答えてよ>

「……どういうことなのか教えていただきましょうか」
にっこり。
シュラインは華やかな笑みを浮かべながら住職へ詰め寄る。
後で、みなもも真樹もうんうん頷き住職を睨み、ジョージはと言うと……
どっかと座り込み「話してくれなきゃテコでも動かん」な態勢である。
だらだらと冷や汗を流す住職。
確かに何があるか言わなかったのは住職本人の責任だが…彼にしても
どうあっても口にしたくないと思うものは少なからず存在するもので。
…坊さんだ何だといわれてもダメなものはダメ、だったりする。
だが。
そういう説明では誰しも納得できない事も解っている。
住職は腹を決めた。
「……あの部屋には自分の嫌いなもの、を映し出す鏡があるのです」
「鏡?」
「ええ……あれを出したのは3年前のちょうど、この時期の掃除の時でした。
その……"出すべからず"と言う紙と封印の符に奇妙だと思いながらも好奇心が
勝ってしまったと言いますか」
「うわ、凄いメーワクな話っ」
さっくり。
多分、表現する事が許されるならそんな感じの音の言葉を真樹が発した。
「ま、まあまあ話の続きを聞かないとあれですし……」
それを制するかのようにみなもは続きを住職へ促すようにするとにっこり微笑んだ。
だが、その笑みも「最後まで聞いて、呆れるようなことだったら容赦しない」と言う
気迫が感じられるのだが。
「……そしてあの部屋に飾ったのをきっかけに鏡は私たちが嫌いなものを
まざまざと見せ付けてきました……お陰であの部屋に入るに入れず3年の月日が流れ
このままではダメだと草間興信所へ頼んだわけなのですが……」
「ちょっと待ってくれ」
「は?」
「いや、住職さんの嫌いなものって何だ? 俺が見たのはバーゲン会場のおばさん方だ。
多分皆、自分の嫌いなものを瞬間的に見てたと思う。だが、住職さんは自分の嫌いなもを
見てたとしたら一体それはなんなんだろうなと思ってさ」
「そうね、私もそれは気になるわ」
ジョージとシュラインは無言の圧迫で「ちゃんと言うように」促す。
何度目かの冷や汗だろうか。
住職は自分の顔に流れる汗を掌でぬぐった。
「……私が嫌いなもの…それは…」
「「「「それは???」」」」
一同、ごくりと息を飲む。
静寂だけが場に満ちたのを見計らうかのように住職は漸くその苦手なものを口にした。
「納豆です!」
「「「「はぁ??!」」」」
「信じられますか? あの部屋を開けるたびに納豆の大群が襲ってくるんですよ?
幻覚だと解っていても、あの臭い、あのねばつきっ。
……たまったもんじゃありません」
「…たまったもんじゃねぇのはこっちも同じだっての」
「全くだわ」
「…それだけで3年も掃除しなくなるんですか真樹さん」
「さぁ……どうなんだろ。でも目の前に見本が居るし……」
さっくり。
再び、そんな音がしたような気がしながらも4人は作戦を練る事にした。


<一同場に集まり「さて」、と言い>

「…武彦さんは浄化と言っていたけれど……」
無理なんじゃないかしら?と言うのはシュライン。
苦手なものを映し出す鏡を普通の鏡に戻すには少し無理があるような気もした。
「そうですねえ…対話が可能なら私はやってみたいんですが……」
みなもは首をかしげながら考え込む。
何せ苦手なものだけに対話できる状態ではない。
特にその……みなもが苦手なものはシュラインと同じように黒い物体なのだが
あれが出てしまうと本来の人魚の姿に戻ってしまうしかなり暴れまくってしまうので
とてもじゃないが人前で出来る事ではない。
「あたしも対話できるならやろうと思ってたんだ…でもさ、無理だよね?」
真樹もみなもと同じように浄化を考えていた者の一人だ。
だが…虫!
あのにっくき、虫どもが自分めがけて飛んでくると思うだけで背筋に冷気が走る。
先ほどの住職ではないけれど「たまったものではない」のである。
「俺は出来そうもないならトンズラかますのもいいと思うけどなぁ?」
ジョージは楽観的にぽそりと呟いた。
仕事なのは解るが面倒なのは嫌いなのだ。
逃げれるときに逃げる。
これが一番の得策だとも思えた
「………却下」
シュラインの言葉の後にひやりとした冷気が走る。
こうなると残る手段は一つ。
「力技、に持ち込みましょうか」
「そうですね……では先行は誰が行きます?」
「そんなん決まってるじゃん!逃げると言ってたそこのにーさん♪」
「俺かっ?」
「だってねえ、考えてみたらおばさんが苦手っての一番打ち破り
易そうじゃない? あたしたちは生理的にダメだし向えないもん」
真樹のいきなりの指名に目を丸くするジョージ。
だがシュラインとみなもは「ああ!」と納得するばかりで。
……民主主義でジョージの発言権もないまま、その案は可決された。
選べる手段は『強行突破』
そしてジョージの持つ武器はタロットカード大アルカナである『死神』
しぶしぶながらジョージは部屋の中へと向かう事にした。


<砕く 砕かれる>

「…渋沢さん、ここで私たち待ってますからねっ。お気を確かにっ」
「ああ、キミのその言葉だけが今の俺の救いだよっ」
「「大げさな……」」
あまりにそれは大げさすぎるだろうと真樹とシュラインは頭を抱えた。
「うし!何はともあれ、行って来るさ!!」

そして数分後。
途中途中でかなりの叫び声が聞こえてきたが眩しすぎる閃光が弾けたかと思うと
鏡は跡形もなく砕かれた。
部屋に散乱するガラスの破片はかなり凄いものがあるけれど。
「ざっとこんなもんでどーよ」とジョージは言うとにっと不敵に笑った。


<一月の掃除>

「…触らせていただきますね?」
そう言いながら物品関係の掃除をするシュライン。
顔にはにこにこと柔らかな微笑が漂っている。
古いものは何と言うのか…温もりと言うのだろうか、温かみがあっていいと思う。
そして、その横では真樹が懸命に散らばったガラスの掃除をしている。
彼女曰く―――「やってと、あの人に最初にお願いしたのはあたしだし?
ま、この掃除くらいは責任とんないとね?」らしいのだが3年分の埃もたまりにたまっていて
中々一筋縄では終わりそうもない。
「3年分の埃って凄いものがあるんだね……」と呟いたかそうでないかは本人のみが知るところだが。

少しばかり場所は変わり廊下部分。
みなもは嬉しそうに廊下を水拭しつつ汚れた窓部分をぴかぴかに磨き上げている。
「綺麗にし甲斐がありますね♪」
その傍には、みなもが持ってきたお菓子をつまんでいるジョージの姿。
「そうだなぁ……」
「渋沢さんも疲れが取れたら掃除、付き合ってくださいね?
まだまだ掃除するところありますからっ」
びしっ!と指を突き立てるとみなもはシュラインの方へ廊下と窓の拭き掃除が終わったことを
告げに行き……「やれやれ」とジョージは溜息をついた。


<草間興信所―4人帰参―>

戦い済んで日が暮れて。
日が暮れたから帰りましょう…ではないけれど、へとへとの状態で
草間興信所へたどり着く4人。
妙にのほほん、とした草間がとてつもなく策略家に見えて4人は眉間の皺を
一層深いものにした。
「よ、皆お帰り…ってどうした? そんな怖い顔をして」
ぷち。
草間のその一言に皆の糸―――多分、堪忍袋だろうと思う―――が、切れた。
「怖い顔って…なるに決まってんだろうが!!」
「武彦さん、ああいうものがあるって実は知ってたでしょう?」
「あたしらにどうして苦手なものの対処法とか考えさせたのよーーー!!」
「草間さんっ、今回のはお掃除だったんですか浄化だったんですか、どっちなんですかっ?」
口々に言う言葉に草間も待った待ったと声をかける。
どこかに脂汗が浮かんでいるように見えるのは気のせいか。
落ち着かない心を静めるかのように草間はタバコへ手をのばし口にくわえた。
「…あー、まずは渋沢のは…まあ答えるのはやめておいて。エマの知ってたかと言う問いは
…そうだな、知ってたと答えておこうか。んで、御堂の苦手なもの対処法はだ。
…知ってた方がやりやすかろうと思ったんだが…まさか固まっちまってたか?」
其処まで言うと、ははっと草間は笑い……最後の問いに答えた。
「んで掃除か浄化は…って言う海原の問いだが、これに関しちゃどっちとも取れんってのが
答えだ。第一に苦手でも瞬時に浄化できるのが居たとしたら掃除は寺の奴に
任せて帰っちまうと言う案もあったろうが……今回のメンバーでは掃除と一緒に
大掃除と言う感じだったみたいだな? 本当にお疲れさん」
「…質問いいか?」
「「私も」」
「あたしも」
「なんだ?」
「浄化だけして帰っちまう…って言うくだりが凄く気になるんだけど俺」
「武彦さん、まさか住職の嫌いなものが納豆って知ってたんじゃ……?」
「何でそんな見てきたように詳しいの? まさか……」
「もしかお寺の中に居たなんて事ありませんよね?」
にやり。
4人の問いに対して草間は、依頼当初と同じ妙に思わせぶりな笑顔で答え…それらに対しての
回答は何もないままに終わった。
奇妙な疲労感が4人の間に広がり……探索を命じられていたが何もないまま
戻ってきた真樹の妖精が労わる様に4人の頭上を優しくなでる。
「…今度からはさ」
「ええ、今度からは……」
「うん、そうしたほうが良いと思うな……あたし」
「はい、気をつけて行く事にしましょうね」
今度から「掃除」と言う依頼がきたら少しばかり考えよう。
固く、心に誓う4人だった。








【一月の掃除】―End―



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/ 女 / 26 /
       翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1161/ 御堂・真樹 / 女 / 16 / 高校生 】
【1252/ 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生 】
【1273/渋沢・ジョージ/ 男 / 26 /ギャンブラー 】
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、ライターの秋月 奏です。
今回はこちらの依頼「一月の掃除」に参加有難うございました!!
えっと、今回は全員の方が初めまして、になりますね。
今後ともご縁がありましたらどうか宜しくお願いいたします(^^)
今回の依頼は何と言うかどたばたしてる依頼でしたが
たまあにゴーストネットではシリアス系も書いてたりしてます。
…何故かアトラスや草間では少しばかりどたばたしてるのを
書きたくなる傾向にあるようですが(汗)

ではでは、此処から個別の通信です。

シュライン様、プレイング有難うございます。
お名前は、いつも東京怪談の色々なところで拝見していましたが……
こちらに参加していただけて嬉しい限りです。
かなり近いところのプレイングでしたので道にそれることなく
話を動かす事が出来ました。本当にどうもありがとうございます♪
そして少しでも、こちらの話を楽しんでいただければ幸いです。

ではでは、この辺で。
また何処かで逢えます事を祈りつつ。