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<東京怪談・PCゲームノベル>


THE RPG 地下3F


 そこは異様な空間だった。天井が非常に高く、間にブロックが浮いている。
「うむ。これを登ればいいんだな!」
 龍の気迫を持つ時司・椿(ときつかさ・つばき)が勢い込んで言う。やる気満々なようだ。
「とうっ!」
 掛け声と共に飛び上がったとき 、すっとブロックが動いた。
「え?!」
 驚愕しても時すでに遅く、椿は盛大な音を立てて転倒した。
「いってー!」
「大丈夫かいな。」
 駆け寄って助け起こしてくれる少年を椿はぼんやり見つめた。すぐすぐ思考が戻ってこない。
「えーとあんた誰?」
「おいおい、冗談やめてーな。頭打ったんか?」
 心配そうに椿を覗き込んでくる眼鏡をかけた少年の顔を知ってるように思うが、椿には思い出せなかった。
「記憶喪失ですか?」
「えええ! そんな!」
 その後ろで首を傾げている青年とあわあわと慌てている青年がいる。
「いや、覚えているけど覚えてない。」
 椿の言葉に3人は顔を見合わせ、それぞれ口を開いた。
「うちらのこと、商人やとか魔法使いやとか僧侶とか呼んで一番楽しんでたやん。」
 眼鏡の少年は、淡兎・エディヒソイ(あわと・えでぃひそい)。
「嬉々として怪物倒してましたね。酔ってて違うものが見えたりしたみたいですけど。」
 何故かにっこりと微笑んでいる五降臨・雹(ごこうりん・ひょう)。
「もしかして酔いが覚めたんですか?」
 外見上全くそうは見えないが、実は諸悪の根源である三下。
 椿はさーと青ざめた。
「まさか、めちゃくちゃ迷惑かけたとか……。」
 最もあり得る過去に、椿は激しく反省した。
「本当にすいません。こうなったら三下さんだけでも担いで行きますから!」
「うわぁ!」
 文字通りひょいっと三下を抱え上げ、椿は軽くブロックを飛び越えていく。
「ちょお、自己完結してさっさと先行かんでや。」
「待って下さいよ。」
 エディヒソイと雹が慌ててその後を追った。本能のまま動くのは、素面だろうが酔ってようが変わらないらしい。
 動いているブロックは落ち着いて見ていたらタイミングが分かりやすく、見た目よりもずっと簡単に渡っていくことが出来た。
 しばらく単調な動作が続いて、この階は楽勝だ、と思った瞬間、不意に椿が足を止めた。
「やべ。これ無理。」
「どないしたん?」
 エディヒソイは不思議そうに前方を覗いて、沈黙する。雹は首を傾げながら、椿が指さす方を眺める。動いているブロックの側面がよく見える。
「……斜め、ですか?」
「そう。しかもその上、物理的に飛び移り不可能な動きしてるんですけど。」
 椿の言うとおり、斜めに動くブロックの上には、上下に動くブロックがある。ジャンプしても届かないような位置なのはどうしてなのだろう。
「私が糸を使いますよ。ここから糸を張ってその上を歩きましょう。みなさん靴は履いてますよね? 切れるんで注意してください。」
 にっこりと笑いながら忠告する雹の言葉の内容はなかなかに恐ろしいもので、三下は震え上がった。
 雹は手際よく糸を張り終える。糸を何重かにして、人の体重が支えられるくらいの強度を持たせた。
「ブロックが動いてますから糸が弛んだりしますね。上手くバランス取るようにして下さい。」
「難しそうやな。」
「私が先に行ってみますね。」
 雹がそろそろと糸を伝っていく。途中で糸がぐっと弛んだところは、身体を小さく折ることによって耐えた。危なっかしくも、雹は隣のブロックに移ることに成功した。
「次はうちが行くわ。」
 エディヒソイも雹の行動を真似て、なんとか糸を渡ることが出来た。
「さて、次は俺たちの番だ!」
「ちょっと待って下さいぃ! まだ僕の心の準備が……。」
「何言ってんだよ、三下さん。俺に担がれてるんだから、三下さんはなんも怖がることないだろ。」
「えええ、でも……。」
 渋る三下を放って、椿は糸に足を乗せた。酔いが醒めたおかげで、足取りも安定している。
 三下はつい下を見てしまった。いつの間にか結構な距離を登ってきていたらしく、遠い地面に視界がくらりと揺れる。ごくりと唾を飲み込むも、恐怖心は消えない。
「やっぱりダメです! 怖い〜〜!」
「うわあ! 動くな!」
 突然暴れ出した三下のせいで、椿が大きくバランスを崩した。
「危ない!」
 2人の悲鳴も空しく、椿は三下とともに糸から転がり落ちた。
「うわあああああああああ!」
 落下していく先で、地面にぽっかりと穴が開く。このまま下の階に落とす気だ。
「椿さん! 三下さん!」
 雹が糸を投げようとして思い留まった。これでは、勢いに任せて2人をバラバラにしてしまう。
「あ、せや。」
 エディヒソイがはっとして、腕を伸ばした。能力を使って重力操作をする。
 途端に、ふわりと椿と三下の落下が止まり、それどころかふわふわと浮き上がってきて、無事にブロックまで辿り着いた。
「え?!」
 ぽかんと3人はエディヒソイを見つめる。
「すんません。ついうっかりしてて、これあるの忘れとった。」
「……重力が操れるということは、重くするだけじゃなくて軽くすることも出来るってことですか。」
「そういうこと。」
 エディヒソイが片手を立てて謝るポーズを取った。際になるまで忘れていたことが自分でも恥ずかしいらしい。
「こんな便利なもんがあるんなら、初めっからこれで上に登ればいいじゃないか。」
 椿のもっともな意見に、エディヒソイは思案顔だ。
「でも、この力、自分には影響及ぼせへんねん。うちだけ置いてく気なんか?」
「じゃあ、どれかのブロックに乗って上まで行くとか、どうですか?」
「それ、やってみたけど無理やった。このブロックかなり特殊やで。」
 アキラの根回しの良さに、苛立ちよりも感心してしまう。楽にはクリアさせてくれないようだ。
「三下さん、余計な行動は死を招きますよ。あなた一人ならまだしも、私たちを巻き込むのはやめてくださいね。」
 笑顔のまま、雹がぶち切れて三下に詰め寄った。



 ようやく上まで這い登り、4人はほっと息を吐いた。いや、吐こうと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。
 目の前にいるのはお腹を空かせて目をぎらつかせているオオカミの群れ。
 人間の姿を認めた途端、襲いかかってきた。
「ぎゃああああ!」
 三下は悲鳴を上げて飛び退こうとしたところを雹に引き倒された。三下が逃げようとした背後は、今登ってきたブロックがあるところだ。もちろん、三下のことだから、ブロックに掠りもせずに下まで落ちるだろう。(エディヒソイが助けてくれるだろうが、忠告したことが役に立っていないことに、雹の手つきは乱暴なものになった。)
 前門のオオカミ、後門の崖。しかも、落ちたら下の階まで真っ逆さまだ。道はオオカミの群れの向こうにしかない。
「生物殺すのはなー。」
 イヤそうな顔をしながら、エディヒソイは飛びかかってきたオオカミの重力を操作することによって、飛びすぎたオオカミは背後の崖の下へと落ちていく。それでも、前方は相変わらずオオカミの群れで、活路は開けていない。
「うわあぁぁぁ! あのあのあの、ちょっと!!」
 三下が何やら喚き立てるので、雹は再び黙らせようかと振り返って、驚くべきものを見た。
「え?!」
 エディヒソイによって背後に落とされたはずのオオカミたちが戻ってきている。上手くブロックに落ちて帰ってきた、というようではなく、その空間自体から弾かれているようだ。
「うわっ! なんでやねん!」
 エディヒソイも慌てて逃げようとするが、両側を挟まれてしまって場所がない。
「椿さん、私が道を開けますから、三下さん連れて走って下さい。」
「よし来た。任せとけ。」
 椿は再び三下を担ぎ上げると、いつでも走り出せる体勢を整える。
「うち、血はちょっと勘弁して欲しいんやけど……。」
 エディヒソイの呟きは聞き入れられることなく雹が糸を操る。オオカミの身体は宙に浮いて、すぐにバラバラと肉片になって落ちてくる。
「うわあ、なんやこれ!」
 エディヒソイの悲鳴の通り、雹も眉を顰めた。降ってきたのは、赤ではなく、青い血液であった。匂いはまさしく血であると、雹には分かる。アキラが血液の研究でもしていたのだろう。
「本物のオオカミちゃうかったんや。アキラが作ったんやろうな。」
「そうでしょうね。」
 椿は雹の言葉を信じ、走り出している。雹は糸に絡みついた青い血を振り払い、次の獲物を引っかけていた。
「とにかく倒さないことには前に進めません。ロボットだと思って下さい。」
「……善処してみるわ。」
 ロボットよりは宇宙人だ、と思わないでもなかったが、エディヒソイは素早く意識を切り替えて重力をかけて押し潰していった。
 オオカミは牙を剥いて襲いかかってくる。下手に掠って血でも出て、更に興奮させてしまったら手がつけられなくなるだろう。
「どこまで逃げたらいいんだよ!」
「知らん。喰われたくなかったら、逃げるしかあらへんやろ。」
「まだ死にたくありません〜〜〜。」
「だったら、三下さん、ご自分の足で動いたらどうです?」
 4人はなんとかオオカミの群れから抜け出し、だだっ広い空間を逃げ続けている。前方に扉でもあれば、飛び込んで閉めてしまえばオオカミから逃げられるだろうに、そんなものがありそうな雰囲気は全くなかった。
 先頭を走っていた椿の足が空を切る。えっと思ったときにはすでに遅く、気付いたときには重力に従って下へと落ちていた。
「うわあああああ!」
 気付くのが遅れた後ろの2人も為す術もなく、底のない空間に引き込まれていった。



「いてて……。」
 頭をさすりながら椿は身を起こした。そこは狭い部屋だったが、畳がひいてあり、ちゃぶ台まで用意してある。自分の部屋に似ていると椿は思った。
「なんやここ。トラップに引っかかって下の階に落ちたわけやないねんな。」
「そうみたいですね。」
 エディヒソイと雹も身体を起こし、周囲を見回して呆然としている。三下はまだ目を覚ましていなかった。
「箱みたいなのがありますけど。」
「宝箱かな。」
「玉手箱やったりしてな。」
「そんなこと言ったら開けにくくなるだろ!」
 そう言いながら、椿が箱に手をかけた。ぽんっと音を立てて尻尾の生えた少年が飛び出してくる。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん。柚葉ちゃんだよー!」
「それ、何かパクってるだろ。」
 椿がツッコミを入れようとしたら、手が空を切った。きょとんと自分の手をまじまじと見つめてしまう。
「立体映像みたいですね。」
「そうなの! アキラが夜食をどうぞって遣わされてきたの!」
 ちゃぶ台にいつの間にか、ガスコンロと鍋が据えられている。食材は見あたらなかった。
「この部屋の中に宝箱があるから、その中を探してね〜だって。まな板と包丁もちゃんとあるから!」
 確かに柚葉の言うとおり、部屋の隅に同じような箱があるようだ。
「どれどれ。」
 何が入っているのかと椿が開いてみると、中には何故かほうれん草が入っていた。(椿はかつてこれを薬草だと呼んでいたが、現在酔いは醒めているのでそんなことは覚えていない。)
「こっちはトマトですよ。鍋に出来る食材じゃありませんね。」
「まーしゃあないやろ。うちに任しとき。」
 料理を作ることが趣味であるエディヒソイはわくわくと包丁を握りしめた。
 調理をエディヒソイに任せ、椿と雹は手分けして部屋の中から食材を探し当てた。途中で三下も目を覚ました。
「結局見つかったのは、もずく、大根、納豆、山芋、ホットケーキの粉、レタスにかまぼこ……一体何にするんだろうな。」
「……そして、何でその食材でこんなものになるのかも教えて欲しいです。」
 雹は鍋の中を覗き込んで、がっくりと肩を落とした。どこからどんな出汁が出たのか、汁がピンク色になっている。匂いは、すでに食べ物の領域ではなかった。
 三下は硬直しており、立体映像の柚葉ですら青ざめている。
「腕によりをかけたさかい。美味いはずやで。」
 エディヒソイはにこにことそう言い切る。それじゃあと椿が箸をつけた。引き出してきたのは、食べ物の原型すら留めておらず、しかも髑髏の形をしていた。
「食べるんですか?!」
「危ないと思いますぅぅ!」
「やめときなよ!」
 制止の声もどこ吹く風。椿はひょいっと鍋の中身を口に入れた。
「どや、美味いやろ。」
 エディヒソイは一人胸を張って威張っている。
「……ひっく。」
 椿の口から変な音が出た。
「え?」
「もしかして……?」
 雹が呆然と椿を見つめる。視線の先で椿はゆらりと立ち上がった。
「ふはははは、行くぞ、三下僧侶! ダンジョンが俺を呼んでいる!!」
 椿は壁へ向かって突進していく。
「ちょお、どこ行くねん!」
 エディヒソイが慌てて止めようとするが、椿はそのままするりと壁を越えていってしまった。
「え……?」
 腰を中途半端にあげたまま、唖然とその姿を見送った。
「マジ? また酔ったん?」
「……私としては、生きてる方が不思議ですけど。」



 部屋を出た先にはマグマの海が広がっていた。熱気が頬に当たって痛い。渡る場所は細い丸太しかなかった。
「しかも、あの丸太回転してへん?」
「遠すぎて糸も届きませんしね。」
「僕はもう無理ですぅぅ〜〜。」
「何を言う、三下僧侶。こんなものは楽勝だ。俺が手本を見せてやる! 真似すれば完璧だ!」
「いえ、真似すらできないと思うんですけど……。」
「行くぞ!」
 椿は意気揚々と丸太に飛びついた。丸太が回転しようが構うことなく、丸太に抱きついたまま渡っていってしまう。
「すごい……けど、椿さん以外には無理ですね。」
「せや、椿さんに糸つけたら、向こう岸にまで張れるんちゃう?」
「いい考えですね。」
 椿はまだ射程距離にいる。雹は椿の服に糸を引っかけた。絡まらないように、丸太が回転するたびに糸も回していく。 
「着いたぞー! みんなも早く来いよー!」
 椿の声が辛うじて聞こえてきた。雹が手早く渡れるように糸を張り、エディヒソイを促した。
「三下さん、あんま揺らさんでや。落ちかけたら重力操作で助けたるけど、頑張って自分で渡りや。」
「そんなぁ。」
「しゃあないやろ。重力は横には操作できへんねんから。」
「ちなみに、三下さんが揺らすとこっちまで迷惑がかかりますから、そこのところよく考えて行動して下さいね。」
 雹の微笑みは背筋が凍るほど恐ろしいものだった。
 観念した三下は意外に運動神経がよかったのか、下手に糸を揺らしたらマグマに突き落とされるより先に八つ裂きにされるという恐怖が勝ったのか、三下は何回かエディヒソイに助けられながらも、マグマの海を渡りきることが出来た。
「はぁ〜助かったぁ〜〜。」
 ぐったりと地面に突っ伏し、三下は大きく息を吐いた。生きてるってなんて素晴らしいんだろう、と真剣に思ってしまう。
「遅かったな。見ろ、出口だぞ!」
 みんなが丸太を渡っている間に、周囲を散策していた椿が指さす壁に、口が開いている。
「他は全部行き止まりだったからここだと思うんだ。」
 椿に促されて3人はその中へと入った。狭い箱のような空間で、疲れ切った三下は、壁を背に、その場に座り込んだ。
「鍵はないのか? このスイッチを押せばいいのかな。」
 椿がばんっとボタンを押すと、扉が閉じ、エレベータが動き出した。



『ぱんぱかぱ〜ん。おめでとー。攻略時間11時間02分55秒! 身体の次は頭! というわけで、次の階は謎解きだから覚悟して、頑張ってね〜。』
 馴染みになってしまったアキラの声を響かせながら、エレベータが上昇していく。
「所で時々子供の声がするんだが……俺って酔ってんのかな?」
 椿の呟きに、エディヒソイと雹と三下は顔を見合わせた。



 To be continued...?


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0314 / 時司・椿(ときつかさ・つばき) / 男 / 21歳 / 大学生】
【1207 / 淡兎・エディヒソイ(あわと・えでぃひそい) / 男 / 17歳 / 高校生】
【1240 / 五降臨・雹(ごこうりん・ひょう) / 男 / 21歳 / 何でも屋】
(受注順で並んでいます。)

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、龍牙 凌です。
続けてのご参加、どうもありがとうございます。
いろいろな能力の有効活用、如何でしたか?
特殊能力も長短があるもんですね。
プレイングが少々変わってしまったりしているかもしれませんが、ご了承ください。
地下2Fもプレイングして頂けたら幸いです。