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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


真夜中の子猫達


■ オープニング

「あの、私の姉を探して欲しいんです」
 と、事務所を訪れたのは、15、6歳位の美亜(みあ)と名乗る少女だった。
 珍しく普通の探偵らしい仕事ができると内心喜びつつ、少女の言葉をメモに書き留め始める草間。
「で、その姉さんの特徴は? どういう人で、どんな顔で、どんな髪型で……あるいは好みの服装の種類とか、なんでもいい、思いつくことを並べてみてくれ」
「特徴、ですか……うーん……」
 草間の言葉に、困った顔になる美亜。
「基本的に、外見や服装は自由に変えられるので、お話しても意味がないかと思います」
「……は?」
「ただ、美衣(みい)姉さんはすごく面食いで……気に入った男性の生気を吸っては、あっちをふらふら、こっちをふらふらしてるんですよね……特徴といえば、それが特徴でしょうか。妹として、そんな姉を見てると情けなくて……」
「……」
 生気を吸う……だと?
 美亜の言葉に、メモを取る草間の手が止まった。
 なにやら、雲行きがとてつもなく怪しくなってきたような気がする。
「あ、でも、もちろん相手を殺しちゃう程吸う事なんてしてませんよ。それは保証します、はい」
 黙りこんだ草間を見て、慌てたようにそう付け加える美亜。
 が、草間はそんな事よりも、もっと根本的な問題を口にした。
「……ひとつ聞きたいんだが、ひょっとしてその姉さんとは、人間じゃないのか?」
「はい、そうです」
 あっさり頷くと、美亜はみるみるうちにその姿を変化させていく。
「もちろん私も協力しますので、姉を捕まえるのを手伝ってください」
 と、草間に向かって言ったのは……2又に分かれたシッポを持つ、小さな黒猫だ。
「…………」
 自分に真っ直ぐに向けられたまんまるの瞳を見返して、静かにため息をつく草間。
 …………またこの手の依頼か……勘弁してくれ。


■ 結集・子猫狩り

 ──深夜。
 興信所から程近い公園に、いくつかの人影があった。
 公園、と言っても、そんなに大きなものではない。
 近所のマンションの住人が、子供を連れて遊びに来ている姿をたまに見るくらいの、小さな児童公園である。
 ブランコや滑り台などといった遊具が2、3見られるだけで、あとは取り立てて特徴らしい特徴もない。
 暗闇の中に沈んだ公園内に設置された水銀灯の明りの下には、今、何人かの姿が浮かび上がっていた。
「最後にもう一度だけ手順を確認しておくが……」
 と、その中の1人、草間が手にした携帯電話に言う。
「まず、俺達が囮になって、猫又の美衣さんとやらをここに誘い出す。あとは全員で捕まえる……そういう事だな?」
「ええ、そうです」
 小さな声が、それを認めた。草間達から20メートル程離れた、茂みの中である。
 そこにも、しゃがみこんだいくつかの影があった。ただ、こちらは草間達とは違い、隠れているようだ。依頼者である美亜がそこにいて、携帯電話を片手に草間と話している。
「……囮ねえ……素直にエサって言ったらどうなんだよ」
 草間の隣で、1人がつぶやいた。
 シニカルな微笑みを浮かべて探偵を見上げる顔は、まだ若い。青年と言うよりは、少年と言った方がいいかもしれなかった。
 名前は、瀬水月隼(せみづき・はやぶさ)。15歳の高校生である。
 ただし、裏ではデジタル関連を何でも扱うジャンク屋なども手がけており、その道ではかなり知られていたりするので、ただの高校生でも普通の15歳でもありえない。
 小脇には、彼の相棒とも言えるノートパソコンを抱えていた。
「まあ、確かにそうとも言えるかもしれませんけれど、でも、単におとなしくエサになるわけじゃないですからね。それはそうと、ひとつ美亜さんに聞いておきたいのですが……」
 と、新たな声。
 明りの下で、端正な顔が草間へと向いた。
 日英ハーフの整った容姿と、落ち着いたたたずまいを見せる1人の若者。
 深い色の瞳で見つめられれば、女性ならずとも、その胸をドキリとさせるのではないだろうか。
 もっとも、草間は顔色ひとつ変えなかったが……
 彼の名は、灰野輝史(かいや・てるふみ)。
 無論、この件の解決に尽力すべく集まった1人である。
 無言で、草間が携帯をオープン会話モードに切り替え、輝史へと向けた。
「はい、なんでしょう?」
 スピーカーから、美亜の声が流れる。
「……本当に、ここで待っていればお姉さんは現れるんでしょうか? 罠を張るにしても、もっと出現確立の高そうな……例えば人通りの多い場所などの方がいいのでは?」
「ああ、それでしたら大丈夫です」
「何故です?」
「姉さんの美形好きを侮ってはいけません。ここには美少年、美青年、美中年と、3つのタイプの美形が揃っています。これであと、素敵なロマンスグレーの方がいらしたら完璧なんですが……まあ、それはともかく、こんな絶好の目標が並んでいる場所には、たとえ宇宙の彼方からでも、たちどころに気配を嗅ぎつけて飛んできます。何があろうと、必ずです」
「……はあ」
 はっきりとそう言いきられてしまい、輝史が目をぱちくりさせた。
「なんだか知らないけど、随分良い性格みたいね、貴方のお姉さんって」
 美亜のすぐ側で、若干笑みを含んだ声。
 そこに、すらりとした細身の影が立っている。
 切れ長の瞳と、中性的な印象を持つ女性だ。
 名は、シュライン・エマ。翻訳家にして幽霊作家、草間興信所では臨時で事務仕事を手伝ったりもしている多才な女性である。
 ちなみに、今はジャケットの上に深い色のコートを羽織っていて、さりげなく男装をしていた。
 そのまま夜の雑踏に連れ出して、道行く人に彼女の性別を尋ねたら、半分くらいの人は間違うのではないだろうか。それくらい、決まっている。
 が、美亜の話によると、美衣はことそれに関しては天才的に”鼻が利く”らしく、決して見た目には惑わされないとの事だ。
 なんなら自分も囮に……という考えもあったのだが、それを聞いて今は素直に女性陣の中にいる。
「ま、いい男がいればオトモダチになりたいっていうのは、よっくわかるけどね。でも、キスして精気を吸うってのはちょっとアレかな、羨ましいっていうか……ああいえ、やっぱ問題だよね、あははっ」
 なんて、明るい声。
 夜目にも眩しい明るい色のダッフルコートを着た美少女がそこにいた。
 下はミニスカで、真冬だというのに当然のように生脚だ。健康的な脚線美を惜しげもなく披露している。
「……お前、一緒になって男襲うんじゃないぞ」
「何言ってんのよ、しっつれいねー」
 電話の向こうで隼がそう言い、頬を膨らませる。どうやら、彼と知り合いのようだ。
 彼女の名は、朧月桜夜(おぼろづき・さくや)。こう見えても腕利きの陰陽師である。
「……なんにしても、あとは現れるのを待つだけよね……」
 最後の人物が、静かにポツリとつぶやいた。
 長身で細身、月の光に冴え渡るような怜悧な美貌……
 ……ではあるのだが、モコモコのダウンジャケットに毛糸の帽子、下もスキーウェアみたいに綿の入った太い防寒ズボンで、耳には耳当て、手にはピンクのミトンもはめている。
 超一流のモデルも裸足で逃げ出すのではないかと思われるスタイルは、いまやそんな完全防備によって完璧に外気から守られていた。
 絶妙なくらいアンバランスな格好でこの場に現れた彼女を見て、最初は皆目を丸くしたのだが、当の本人は一言「寒いの、苦手なのよ」と無表情に言ったものだ。
 名は、巳主神冴那(みすがみ・さえな)。
「気侭な猫……気侭な蛇……通じるものはあるけれど、人の世に生きるものは、もう少し静かにしていなければね……蛇のように」
 ひっそりとつぶやかれた声は、他の人間達には届いてはいなかった。
 両手にはそれぞれ大きなバスケットを抱えているが……その中身は今はまだわからない。
 少なくとも、お弁当などではありえないだろう。
「ふふ、いつでもおっけーよ。この公園は、もう結界で封じてあるからね。入るのは自由でも、出るのは無理。そういう風にしといたから」
「……ふむ、無事に済めばいいがな」
 桜夜の楽しげな台詞に、草間がふと、そんな事を言う。
「なによ、心配性ね。囮の美中年さんは」
「……俺の事か?」
「他に誰がいるのよ」
「……」
 シュラインの台詞に、草間が側の輝史と隼に目を向け……最後にふんと鼻を鳴らした。
「あ、拗ねた」
「うるさい」
 電話に向かってぶっきらぼうに言い、タバコを取り出すと口へと放り込む。
「俺はまだ30だぞ」
「そうね、微妙なお年頃よね」
「……くそ」
 とうてい、シュラインにはかなわないようだ。
 100円ライターまでもが彼女の味方なのか、なかなか火がつかない。カチカチという音と、青い火花。両者共になんとなく空しい。
「ふふっ」
 シュラインと桜夜、そして美亜が小さく微笑み、輝史と隼も草間から顔をそらして苦笑した。
 と──
「……どうやら、来たようね」
 唯一無表情のままだった冴那の口が、小さく動く。
 同時に、それまで言うことを聞かなかったライターもようやく炎をともしたが……結局タバコに火を移す前に、再びポケットへと戻される事になった。


■ 子猫の誘惑・揺れる恋人達?

「きゃーっ! いいっ! 貴方達とってもいいっ! おいしそーっ! ねねねね、あたしといいコトしよっ! 今すぐしよーっ! おーっ!」
 静まり返った深夜の公園に、まるで場違いな黄色い声が響き渡る。
 公園の入口に新たにひょっこり沸いた人影は……美亜にそっくりだった。
 満面の笑顔で、まっすぐに男達へとトコトコ走ってくる。
「……本当に現れやがった」
「彼女が……そうなのか?」
「ええ、そのようです」
 頷く輝史。
 彼の目がすっと細まり、不思議な輝きを帯びている。
 よく見ると、微妙に左右の瞳の色が違っているのだが……この暗さでは気づく者はいないだろう。
 今、輝史は近づいてくる少女の”存在そのもの”を見ていた。
 ──アストラル視。
 物体をアストラル体──純粋なエネルギー体──として捕らえ、それを認識する。彼の持つ能力のひとつである。
 表面をいくら取り繕ろうと、物理的にその場所に存在する”もの”は変わることがないのだ。
 彼ははっきりと、そこにいる人間以外の姿を捉えていた。
 ……黒く小さい、シッポの先が2股に分かれた子猫を。
「んー、いいないいなー、3人だからー、オードブル、メイン、デザートって分けたい所だけどー、どの人もメイン級だよねー、あーん、もう、どうしよー、きゃー♪」
 なんて、並んだ男達の前で身をくねらせる少女。
「……だそうだ、メインは譲るぜ」
「いえ、遠慮しておきますよ」
「俺もだ」
 低く、そんな事をつぶやきあう男3人。
「勝手な事ほざいてくれちゃってー、あの子猫ちゃんてば」
「……まあ、いい性格ではあるわね」
「にしても、今夜は冷えるわね……」
「すみません、不肖の姉で……」
 女性陣の方ではそんな感想が上がり、美亜が恐縮して恥ずかしそうに視線を落とした。
「よし、じゃあとりあえず年の順がいいかなっ、うふふっ♪」
 などと、美衣の方はご機嫌な笑顔のままそう言うと、勝手に隼の前へと進み出る。
「……」
「……」
 自然と、残り2人が無言で脇に退いた。
「ちょ、ちょっと待て、俺かよ」
「そ。だいじょーぶ。おねーさんにまっかせて。これに関してだけは自信があるのよねー」
「……そう言われてもな」
「あ、なになに、女のコとのスキンシップに慣れてないの? だとしたらますますいいかも。おねーさんが手取り足取りいろんなトコ取って教えてあ・げ・るっ♪」
「…………勘弁してくれ」
 いつのまにか両手を握られ、目の前でウインクされて……思わずため息をつく隼だった。ひょっとしたら自分には女難の相でもあるんじゃないだろうか……なんてふと思ってしまう。
 一方、離れた所でなりゆきを見守る女性陣の方では……
「……ふーん……そう来たか……」
 妙に静かな声で、桜夜が低くつぶやいていた。
「ちょっと、どうかし──!?」
 なんとなくただならぬ雰囲気を感じ取ったシュラインが彼女へと手を伸ばしかけたが、途中でバチッと桜夜の身体から青白い火花が走り、思わず身を引く。
「うふふー、かわいー、食べちゃいたいー♪」
「そりゃどうも」
 美衣がぴとっと隼に頬をすり寄せ、甘い声をあげた。
 隼はやや困った顔をして、突っ立っているだけだ。
 囮なので邪険にするわけにもいかず、それにまあキスして少々精気を吸い取られるくらいなら、別にそれほどたいした事でもないだろう。その隙に、残りの2人がこの娘を取り押さえてくれるであろうし……
 彼自身は、そう思っている。
 ……が、そんな風には思っていない者も、すぐ近くにいた。
「は〜や〜ぶ〜さ〜〜〜っ!!!!」
「のわぁぁっ!!!」
 背後から恐るべき速さで駆け寄った桜夜が、勢いのままに高く空中へと飛び上がり、全盛期のタイガーマスクを思わせる位の鮮やかなドロップキックを隼の背中にお見舞いする。
 まさか背中から、しかも味方に攻撃されるとは夢にも予期していなかったので見事過ぎる程に決まり、隼はきりもみしながら夜空を舞って、派手に地面へと叩きつけられた。
「この浮気者! 何よ何よ! ちょっとなつかれたくらいで鼻の下伸ばして! 恥を知れ恥を!!」
 気を失いかけそうになってうめいている隼の胸倉を掴み上げ、がっくんがっくん揺すって怒声を浴びせる美少女。
「……ちょっと待て……誰が鼻の下なんか伸ばしたよ……それにお前な、今の状況を考えて行動を……」
「おだまりっ! 日本男児なら口ごたえなんかするなっ! おとなしく自分の非を認めて腹切りなさい腹を!!」
「……なんでそうなるんだよ……」
 思わず天を仰ぎ、弱々しい声を上げる隼であった。

「……気のせいかしら、早くも計画が脱線転覆してるように思えるんだけど」
 茂みの中で、冴那の声。
「気のせいじゃないと思うわ、うん……」
 シュラインが肩を落とし、それを認めた。
「あ、あの、大丈夫なんでしょうか? えと、あの、姉さんも心配ですけど、あちらのお2人もかなり大変な事になってるような……」
 両拳を口に当て、ややオロオロしだす美亜。
「……美亜さん」
 彼女の肩に、シュラインがそっと手を置いた。
「この際、彼らの事は忘れましょう。今は貴方のお姉さんを捕まえるのが先決よ。貴方は他の事は気にしないで。私も気にしないから」
「……えっと……いいんですか?」
「もちろんよ」
 シュラインの首が、重々しく縦に振られる。
「私達がしっかりしないとダメよ。いい?」
「ま、そういう事よね」
「は、はい……」
 不安そうに2人の女性を見上げる美亜であった……

「と、とにかく落ち着いて下さい桜夜さん。今はそんな事で揉めている場合では……」
「なによなによ! 灰野さんまで隼の味方なのっ!! どーせみんな男は可愛いコの味方なのよね! フケツだわ! ケダモノよっ! みんなみんな保健所に連れてかれてオシリにふっとい注射打たれちゃえばいいのよ! 馬鹿馬鹿ぁ〜〜っ!」
「いえ、あの、別にそういうわけでは……」
「……い、今のコイツに何言っても……無駄だよ。一旦スイッチが入っちまうと、他人の話なんか……聞きゃしねえからな」
 とりあえず止めに入った輝史に、隼が達観したような言葉を告げた。現在彼は桜夜に押さえつけられ、逆エビ固めで責められているまっ最中だ。言葉が時々途切れるのはそのせいである。
「……ですが、大丈夫なんですか? かなり苦しそうですが……」
「大丈夫も何も……こうなったらもう、船乗りにでもなったつもりで乗り切るしかねえんだよ」
「……船乗り?」
「洋上で超弩級の台風に出くわしたら……神に祈りつつ、後は通り過ぎるのをじっと待つしかねえ……そういうこった……」
「なるほど……大変ですね、それは」
「……とりあえず慣れちゃいるが……撃沈されねえように祈っててもらえると助かるぜ」
「わかりました……貴方に大地の女神の恵みがあらんことを……」
「よしてくれ……女神はごめんだ」
 輝史の祈りの言葉に、顔をしかめる隼。
「またそーやって女の話なんかしてーーーーっ!!」
「馬鹿野郎、してねえっつーんだよ!」
「問答無用っ! こーしてやるーーっ!!」
「おぁっ!」
 くるりと体勢を変え、今度は腕ひしぎ逆十字の形に持っていかれる。手首と、肘と、肩の関節が綺麗に極められていた。この場にプロレスファンがいたら、喜んで解説を始めたかもしれない。
「……」
 残念ながらファンでもなく、レフェリーでもない輝史は……細くため息をついただけだ。この闘いが終わるのを、今はじっと待つしかなかった。

「なーんだ、このコ、カノジョ持ちなのかー。可愛いーけど、他人のモノはちょっと興ざめかなー」
 なんて、美衣は美衣であっさりつぶやくと、くるりと身体を後ろに向ける。
「というわけでお待たせっ♪ やっぱり時代は素敵なおじさまよねっ♪」
 と、笑顔を向けた先にいるのは……草間である。
「俺の事か?」
「もっちろんよ、おじさまっ♪」
「……まだ30なんだが……」
「うん? 何か言った?」
「…………いや」
 渋い顔で首を振る草間だった。
 美衣はそんな微妙な男心などどこ吹く風で、慣れ慣れしく腕を絡ませると、ぴとっと身体をすり寄せる。
「ん〜、やっぱ男はある程度年齢を重ねないとダメよね〜。味噌と同じで、熟成期間が必要なのよ、うんうん」
「……かといって、若い男が嫌いなようには見えないが?」
「ふふっ、それはそれよ。ボジョレヌーボーを飲みたい時もあれば、年代モノのワインを楽しみたい時もある……そんなトコ」
「ふむ、ものは言いようだな」
「なによ、そんな冷めた言い方してー、ひょっとして、心の中まで冷たいのかな。そういう人には見えないけど」
「……さあな」
「ふーん、まあいいや。確かめてみれば分かる事だし」
「確かめる?」
「そうだよ。こうやって……」
「お、おい……」
 軽く微笑むと、美衣は目を閉じ、背伸びをして顔を近づけてくる。
 両腕は首へと回され、引き寄せられた。
 すぐそこに、無邪気で可愛らしい少女の顔。
「……」
 なるほど、これなら世の男共の大半はあっさり彼女の「ごはん」になるだろう。
 草間はそう思ったが……それだけだ。他の感情、感想は特に湧いてこない。
 ただ、どうしようかとだけ考えた。
 このまま口付けを受けても別にいいのだが……さて。
 草間の胸の中に、誰かの顔が浮かんだ……気がした。
 それがはっきりとした形になって現われようとした、まさにその瞬間、
「ちょっと待ちなさい!」
 という声と同時に、強く襟首を引かれる。像を結ぼうとしていたイメージが、はかなく消えた。
「あん」
 タイミングをずらされた美衣が、不満そうな声をあげる。
 草間が振り返ると……
「むざむざエサになる事はないでしょ。違う?」
 何故か恐い顔をしたシュラインが、そこにいた。
「あ、ああ」
 言葉以上の迫力に押されて、頷く草間。
「誰、この人? おじさまの愛人?」
「誰が愛人よっ!」
「じゃあ……奥さんとか?」
「えっ?」
 そう言われて、とたんに頬を赤らめる。
「や……やだ。そんなんじゃないわよ。わ、私と武彦さんが……そんな……ね、ねえ……」
「……?」
 モジモジするシュラインに、眉を寄せる草間だった。
 他の事ならいざ知らず、彼にとって女心というものは、まだまだ謎が多い。

「……やれやれ、ますます面白くしてどうするのやら……」
「お、面白いって……そうでしょうか……?」
 茂みの中から、声がする。
 無論、冴那と美亜である。
 シュラインはというと、美衣が草間に身をすり寄せたあたりから急に表情を険しくしだし、両者の顔が接近し始めると、止める間もなくいきなり飛び出して行ってしまったのだ。
「あの人、私達がしっかりしないとって言ってたのに……」
 小さくつぶやく美亜は、わけがわからないといった表情である。
 冴那は、そんな猫又の少女にじっと目を向け、
「人間って、色々複雑なのよ」
 そう、言った。
「複雑……」
 首を捻った所を見ると、彼女には通じなかったらしい。
「まあ、そのうちわかるわ。それより、こっちも行きましょ。もう隠れてても意味ないでしょ」
「あ、それもそうですね」
 2人が、揃って立ち上がる。
 そのまま通路へと歩き出して……すぐに冴那の足が止まった。
「? どうしたんですか?」
「ええ、ちょっと……落し物」
 一言告げると、2、3歩下がってしゃがみこみ、そこにあるものを拾い上げる。
 手のひらサイズの四角い物体は……使い捨てカイロだ。
「これがないと、駄目なのよ。寒いから」
「そう……ですか」
 そして再び歩き始めたが……数歩と歩かないうちにバサバサと音がして、これまたやっぱり数個のカイロが、冴那のダウンジャケットの下から滑り落ちた。
「あらあら……やっぱり安物は落ち着きが悪いわね。シール付きのにすればよかったわ」
 無表情のままでつぶやくと、先程と同じように、戻ってカイロを拾い集める。その姿は、とびきりの美女にはとうてい似つかわしくない。
「…………」
 ひょっとして、草間興信所に頼んだのは間違いだったのかな……と思う美亜だったが、さすがに言えなかった。


■ 猫又乱舞・イタズラ子猫を捕まえろ!

「姉さん! いいかげんにしてっ!!」
 その場に駆けこんだ美亜が、姉に指を突きつけ、声を張りあげた。
「あら〜、美亜ちゃんじゃない。元気ー?」
 一方の美衣は、ニッコリ微笑んでヒラヒラと手を振る。
「ひょっとしてこの男の人達って、美亜ちゃんのオトモダチ? だったら紹介してよ〜。1人だけでハーレム作ろうなんてずるいぞ〜」
「誰がそんな事するもんですかっ!!」
「なによぉ〜、そーんなに怖い顔してー。もー、相変わらずカタイなあ、美亜ちゃんてばー」
「姉さんが柔らかすぎなんですっ!!」
「……あー、ちょっといいか」
 言い合う姉妹の間に、草間が割って入った。このまま放っておくと、単なる姉妹喧嘩で終わってしまいそうだ。
「我々は美衣さんに依頼されてここに集まったんだ。君のしている事を止めさせるためにな」
 美衣をじっと見て、はっきりとそう告げた。もはや当初の計画がほとんど崩壊している以上、ヘタに隠してもボロが出るだけだろう。そういう判断である。
「ふーん、そうなんだ……」
 それを聞いた美衣は、相変わらず笑みを浮かべたままだったが……
「そういうことだから、もうこんな事やめようよ。ねっ」
 という、妹の言葉にペロっと舌を出すと、
「やーだよ。こんな楽しいことやめられないもんっ。にーげちゃおっと。あはははっ!」
 言うなり、空高く飛び上がった。さすがに元が猫だけあって、跳躍力は人間の比ではない。あっというまに公園の出口へと去っていく。
「あ、姉さんっ!!」
「……ふむ、まあ、そう来るだろうな。あの性格では」
 目で後姿を追いながら、草間は落ち着いたものだ。
「確か、結界が張ってあるのよね」
 と、シュラインが草間の隣に並ぶ。彼女も今は動揺が収まり、平常に戻っていた。
「……追いかけたほうがいいわよ」
 背後で、静かな声。
「え?」
 振り返ると、冴那だ。
「結界というのは、術者が集中していないと効果が落ちます。その術者があれでは……」
 そう解説したのは、輝史である。
 一同の目が、同じ方向を向いた。
「た……確かにその通りだと……俺も思うぜ」
 苦しげな声でつぶやいたのは……隼である。
 鬼の顔をした桜夜によって、今はコブラツイストをかけられていた。
「……大丈夫か?」
 草間が尋ねる。
「俺がか? 結界がか……?」
「両方だ」
「……どっちもヤバイな。風前の灯火だ」
「そうか、それは大変だ」
 真面目な顔で、草間が頷く。
「行きましょう」
「そうね」
「……だな」
「姉さん、あっちに行ったみたいですよ!」
 一行が、猫又を追って走り出す。
「……」
 冴那だけが、ポツンと残った。
 じっと、間接技カップルを見つめている。
「……なんだよ、助けてくれるのか?」
「いいえ……なんだかおしくらまんじゅうみたいであったかそうだなって思って……」
「よかったら代わるぜ。いつでも言ってくれ」
「それは遠慮しとく」
 迷った様子もなく即答すると、冴那もようやく皆の後を追って歩き出す。
 すぐにパサパサと音がして、使い捨てカイロが地面に落ちた。
「……冬場の外出って、本当、不便よね」
 しゃがみこみ、落ち着いた動作で拾い始める冴那。
 緊迫感や、急いでいるという気配は皆無である。
 ……面白い姉ちゃんだな。と思った隼だったが、それどころではなかった。
 またもや桜夜が体勢を入れ替え、今度は卍固めで隼の間接を責め始めたからだ。
「隼の馬鹿馬鹿馬鹿ぁ〜〜〜っ!!」
「だからいい加減落ち着けってんだよ〜〜っ!!!」
 隼の悲鳴と、あとは骨のきしむ音だけが、夜の公園にこだまするのだった……


「……」
「……」
「……」
「……」
 美衣を追って公園から飛び出した4人の足は……すぐに止まっていた。
 皆無言である。
 公園出口のすぐ脇に、郵便ポストが立っている。
 ……2つ並んで。
 見た目はそっくりなのだが、急に飛んだり走ったりしたせいか、ぜいぜいと息が荒い。
 ……片方の郵便ポストの。
 しかも、そっちの後ろには、どうみても猫のシッポとおぼしき物体がついており、ヒラヒラと揺れている。
「……えーと……これでうまくごまかせたつもりなのかしら、この子猫ちゃんは……」
 やがて、腕を組んだシュラインが、冷静に言った。
「すみません。姉さん……昔から変化の術はあんまり得意じゃなくて……」
 こたえる美亜の方が、なんだか恥ずかしそうだ。
「とりあえず、これを取り押さえてしまえばいいわけだな」
「……ですね」
 草間と輝史が頷き合い、さりげなくポストの左右に立つ。逃げ場を封じなくてはなるまい。
「まったくもう……なんだか気が抜けるわね」
 そして、シュラインと美亜が、怪しすぎるポストの前へ。
 ポケットから何かを取り出すと、ふわふわと振る。
 シュラインの手にあるのは……猫じゃらしだ。
 柔らかい棒の先に、毛玉の付いたアレである。
「ほらほら、こっちをごらん」
 ポストの表面が、ぶるっと震えた。
 郵便マークの上くらいに、真ん丸い目がふたつ現れ、揺れる毛玉に合わせて左右にきょろきょろ動き始める。
「どこまで我慢できるのかしらねー」
 クスクス笑うシュライン。
 こらえているのだろうが、やがてポスト全体が猫じゃらしの動きに合わせて揺れはじめた。上にはぴょこんと耳まで飛び出している。もはや誰の目にも正体は明らかだろう。
「……よう、楽しそうな事やってるな」
 そこに、なんだか疲れたような声が投げかけられた。
 公園の入口から3つの影が新たに出てくる。
 隼、桜夜、冴那だった。
「あはは、追い詰めたんだ。楽勝じゃん」
「……お前が言うな」
「なーによぅ」
 などと言い合う隼と桜夜は、今は普段通りに見える。
 思う存分隼に気持ちを……というか技をぶつけて、桜夜の怒りが鎮まったらしい。
 もっとも、隼の方は目にも力がなく、既に疲労の色が濃そうだったが……
「……どうやら、今回は楽ができそうね。何よりだわ」
 などと、冴那はあくまでマイペースだ。
「一応、最終手段としてこんなモンまで用意したんだけどな。必要なかったか」
 そんな事をいいつつ、隼が何かを振ってみせる。
 小さなガラス製の……香水ビンだ。
「なに、それ?」
「マタタビのエキスを凝縮した液体さ」
 桜夜に聞かれ、そうこたえる隼。
「マタタビに含まれるマタタビラクトンって物質は、猫の脳に作用して、酩酊状態……まあ、要するに酒に酔ったような気持ちにさせるらしい。マタタビの実は昔から猫の万病の薬って言われててな、乾燥させたヤツは人間用の漢方薬としても有名なんだぜ。確か木天蓼(もくてんよく)とか言ったはずだ」
「……ふーん」
 解説を聞いた桜夜がひょいとビンを手に取り、しばしじっと眺めていたが……いきなりしゅっと隼の首筋のあたりに吹き付け、クンクンと匂いを嗅いだ。
「なーんだ、特に匂いとかないんだね」
「な、お、お前何してんだよ!」
「へ? 何がよ?」
 隼の口調も顔色も、明らかに変わっていた。
「俺は最終手段だって言ったろうが! こいつはマタタビの実数百個分のエキスを凝縮してあんだぞ! 普通のマタタビでさえとんでもなく猫が興奮すんのに、使い所を間違ったらお前……」
「……ど、どうなんのよ……?」
 その問いかけのこたえは……
「にゃおーーーーん!!」
「ふにゃーーーーっ!!」
 という、2つの声だった。
「のわぁぁっ!!」
 びゅっと走った黒い影が隼に襲いかかると、その身体を地面へと押し倒す。
「ば、馬鹿よせ! やめろ! く、くすぐったいだろうがよ! うひゃひゃ! わーっ!!」
 隼に覆い被さり、動きを完全に押さえたのは……美衣と美亜だ。
 しかも、うっとりとした顔つきでもって、マタタビエキスのかかった首筋のあたりを舐めている。
 身をよじって逃れようとする隼ではあったが、相手は酔った猫又が2人だ。ただの人間である彼では、とうていかなわない。
 そして……
「なぁにしてんのよ隼ーーーーーーーーっ!!!」
 その姿を目にして、柳眉と髪の毛を逆立てる美少女が1人。
「何をって……お前のせいだろうが! うひゃひゃ! こ、こら! そこはよせーー!」
「きーーーーっ! なによなによ! うれしそーな顔して!! 悪いのはあたしのせい? じょーだんじゃないわよっ! 相手が猫だからって、マタタビなんか持ってきたあんたが安直なんだっての!」
「わっ! わーっ! よせこの! うひゃひゃひゃ! だからそこはやめろってーーー!」
「ええい! 人の話をきけーーーーーっ!!!」
 一声叫ぶと、地面の上でジタバタやってる3人に、桜夜も飛びかかる。
 1人の少年を巡って繰り広げられる戦い……というと聞こえはいいが、この場合は少なくとも美しさはまるでない。
「……で、どうしろと?」
 重々しくつぶやく、草間。
「やっぱり何事も簡単には終わらないのね……真理だわ」
 冴那も小さく頷く。
「……」
「……」
 シュラインと輝史は、どちらも自分のポケットのあたりを服の上から押さえていた。
 実は、彼らもマタタビを持参していたのだが……目の前で展開する光景に、絶対にこれは使うまいと心に誓う。
 どうやら、事態は完全に混乱へと転がり始めたらしい。


■ 猫、猫、猫、我奇襲ニ成功セリ

「にゃおぉぉぉ〜〜〜〜〜ん!!」
 美衣の声が、夜空に高くこだまする。
 それと同時に周囲に無数の気配が沸いた。
「な、なに今度は……?」
 闇の中に、数え切れないほどの小さな光点が現れる。
 よく見ると、それは……
「猫ね」
 冴那が、一目で見破った。
 わずかな光を反射して輝くそれらは全て、猫の瞳だったのである。
 にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!
 鳴き声を上げて物陰から飛び出してくる猫、猫、猫。
 数十、いや数百は下るまい。
 それらが津波となって、この場に一斉に押し寄せてきた。
「おわーーーっ!!」
 向かった先は……ただ一点。マタタビの甘い洗礼を受けた隼の身体だ。
 桜夜はすぐに飛び下がって逃れたが……
「……は、隼……?」
「…………」
 返事は……ない。
 そこにあるのは、猫の大群が固まってできた塊である。
 三毛、茶トラ、アメショー、アビシニアン、チンチラ、ペルシャ、ロシアンブルー、白黒ブチ……ありとあらゆる種類の毛並みが集まり、固まったでっかい球体。
 中ほどから突き出しているのは……間違いなく隼の腕だった。
 個々の猫達は、それぞれにゃーにゃー鳴きながらモコモコ動いている。
「いやーーー隼ーーーーーっ!!」
 夜気に響く、乙女の悲鳴。
「あははー、なーんか世界がまわってるりるー♪」
「おらおらー、もっとマタタビもってこーぃ! きゃはははは!」
 猫又姉妹は肩を組み、すっかりご機嫌な様子でくるくる踊っていた。
「……なんか、ますますややこしいことになってきたわね」
「……ですね」
「でもって、これってひょっとして、取り押さえなきゃならない相手が2人に増えたって事かしら」
「……ですね。しかもその相手は、今やヨッパライです」
「ヘビーね……」
「はい……」
 シュラインと輝史が、どこか遠い声でそんな会話を交わし、
「……だからこういう依頼は嫌なんだ」
 本当に嫌そうな顔で、草間がタバコを咥えた。ただし100円ライターもまた機嫌を損ねたようで、火のつく様子がまったくない。
「こんのぉ! もう許さない! 覚悟しなさい猫又っ!!」
 姉妹にびしっと指を突き付け、桜夜が叫んだ。すっかり目が燃えている。
「ふふーんだ、やれるもんならやってみろー♪」
「お礼にいっぱいご奉仕するにゃん♪」
「この馬鹿猫……三味線にしてやるっ!! 隼の仇っ!!!」
 怒りのオーラを全身から放射しつつ、桜夜が飛びかかっていく。
「仇って……猫にたかられただけですから、隼君の命には何の心配もないと思いますが……」
「この場合、彼を助けるのが先よね、普通……」
 そんな冷静なツッコミも、桜夜の耳には届かなかったようだ。
「くたばれーーー!!」
 桜夜が懐から次々と術符を取り出し、放つ。
 炎が、氷が、雷撃が、真空の刃が乱れ飛び、空気を切り裂き、闇を染め上げた。
「きゃーこわーぃ♪」
「あらよっとー♪」
 が、完全に頭に血が上って術がうまく制御できていないのと、猫又の身の軽さで、それらはことごとくかわされてしまっている。
「ええい動くな! おとなしく当たんなさい!!」
「やーだよーだ♪」
「おーにさーんこーちらー。あはははー♪」
 酔っ払った猫又姉妹が身をくねらせ、さらに桜夜を挑発する。
「怒ったーーっ! もう怒った! 力の限りに怒ったーーーっ!!」
 身を震わせ、天に向かって吼える桜夜。
 と同時に、地面のあちこちにぼうっと光るサンスクリット文字が現れ、次の瞬間、そこから巨大な手が次々と伸び上がってきた。
「な、なにアレ!?」
「……陰陽道……というより、密教系の術に近いですね。オリジナルのようですが……たぶん前もって仕掛けていた罠ではないかと……」
 輝史がそう解説する。
 ……その通りであった。
 桜夜は公園に集合する前に、あらかじめ公園内とその周辺にあちこち術を仕掛けておいたのである。
 もちろん、万が一のための保険のつもりだったのだが……いまや完全に保険の意味はなくなっている。
「あははー、きもちわるーい♪」
「やーん、そんなトコ触っちゃやだー♪」
 路上に林立する手の間をぴょんぴょん跳ね回る猫又姉妹は……あくまで楽しそうだ。
 高さも太さも数メートルに達すると思われる手が彼女達を捕まえようとするのだが、その動きは猫又と比べればあまりにもスローモーであり、とても追い切れてはいない。おそらくはこの罠自体、効果範囲に踏み込んだ者を不意に襲って捕らえるような意味しかないのだろう。その辺は仕掛けた桜夜が一番分かっていそうなものだが……
「おとなしく捕まって、あたしに成敗されておしまいっ!! 今すぐっ!!」
 髪を振り乱して叫ぶ彼女は……どうも後先考えて行動しているようには見えなかった。
 さらに、路上の植え込みや木の上から、細いワイヤーやネットが次々に放たれる。そちらはどうも隼が仕掛けた罠のようだ。
 ただし、それらも全て制御できている動きとは到底思えず、でたらめに発射されている。桜夜の術の発動による振動や光に反応して、勝手に動作しているようだ。
 隼が無事なら、そんな無秩序な作動は絶対にさせないのだろうが……肝心のその彼は、今は猫に埋もれてしまっているのでどうしようもない。
「……これじゃ、あたし達は近づけないわね」
「ええ、今行ったら、こっちも攻撃目標にされかねませんでしょうから」
「どうしようもないわね……」
「はい……」
 シュラインの言葉に、コクリと頷く輝史だった。
「打つ手なし……というか、処置なしだな。困ったものだ……」
 細くため息をつく草間。タバコの火は結局ついていない。
「じゃあ、あたしがなんとかしてみるわ。まずはあっちから……」
 静かな声と共に、ピンクのミトンがすっと傍らの猫玉を指し示した。
「……どうするんだ?」
 草間が尋ねたが、
「まあ、それなりに、ね」
 とだけ、こたえる冴那だ。
 そして、足元に置かれたバスケットの前にしゃがみこみ、蓋に手をかけた。
「……寒いでしょうけど、あたしのためにがんばって頂戴ね」
 低く告げ、ゆっくりと……開けた。
 ぽとりと、何か四角いものが中からこぼれ落ちる。
 ……使い捨てカイロだ。
 ぽとぽとと、2個、3個と続き、さらに何か黒い塊が盛り上がった。
 音もなく中より這い出してきたのは……無数の蛇。
 それも、鋭角的に3角形に尖った特徴のある頭は、マムシに違いない。
 何十、何百という毒蛇の群れが、ひとつの流れとなってまっすぐに猫の塊へと突き進んでいく。
「……わかっていると思うけど、殺しちゃだめよ。食べてもだめ。いいわね」
 さすがに返事こそなかったものの、彼女のしもべ達は、忠実に主の言葉に従った。
 隼に群がっている猫の1匹1匹にそれぞれに巻きつき、彼から引き剥がすと、強く締め上げ、気を失わせる。
 マタタビに酔ってヘロヘロになっている猫達は、さしたる抵抗も見せなかった。
「…………う´〜〜、えらい目にあったぜ……」
 上半身が現われたあたりで、隼は残りの猫をなんとか振り落とし、立ち上がる。
 あちこちひっかかれたり噛み付かれたりしたのか、服は多少破け、顔にもわずかの傷が見られた。
 おまけに……両膝に手をやって肩で息をする姿からして、相当に疲弊している様子だ。
「とりあえず無事でよかったわね」
 シュラインが側に寄って声をかけたが、
「……どこが無事なもんか」
 彼は表情を歪めて、そう返事をしたものだ。
「災難でしたね」
「ああ、もうしばらく猫なんて見たくもねえ。くそ」
 輝史には、心からそう返した。
 ……が、
 その猫達の方は、そうは思っていなかったらしい。
 にゃ〜ぉ……
 という声にビクっとして振り返ると、いくつもの4つ足の影が光る眼を彼へと向けていた。
「……うーん。うちの子達の数が足りないわね。それにもともと冬眠の時期だから、そんなに活発にも動けないし……あとはなんとかして頂戴」
 落ち着いた声は……冴那である。
「……な……」
 それを聞いて、頬をひくつかせる隼。
「じょ、冗談じゃねえ! 俺はごめんだ!」
 そう叫ぶと、後は背中を向けて走り出した。
 ……専門用語で、逃げたとも言う。
 うにゃーー!
 その後を、奇声を上げつつ追いかけ始める数十匹の猫達。
「……彼も大変ね」
「いえあの……彼だけじゃないかもしれません」
「え……?」
 言いにくそうな輝史の言葉に、再び前を見るシュライン。
 そこには、隼を追いかけず、蛇にも絡め取られていない猫達が、まだ数十匹程残っていて、じっと自分達を見上げていた。
「……えっと……これってひょっとして、私達と遊びたいとか……そういう事なのかしら。できれば遠慮したいんだけど……」
「俺もです。ですが、何しろ相手は酔ってますからね。あんまりこちらの意思は通じないんじゃないかと……そもそも猫ですし」
「そ、そうね……でも」
 と、シュラインが大きく息を吸い込む。
 そして──

「にゃおぉぉぉ〜〜〜〜〜ん!!」

 高らかに、鳴いた。
 それは、先程猫又姉妹がこの猫達を呼び寄せたのとまったく同じ声音だ。
 彼女の特殊能力である、完璧な声帯模写の成せる技だった。
 シュラインがその気になれば、この世に出せない音はない。
 老若男女の人間の声はもちろん、男女の区別も、動物のものであってもまったく同じに再現してしまうのだ。
 人間の耳には聞こえない高周波や低周波の音すら、再現可能なのである。
 そして今、その美声の能力を耳にした猫達は……
「……」
「……」
 猫達は……
「えっと……」
「……まるで変化ありませんね」
「な、なんの、まだまだ!」
 腕まくりをして、さらにシュラインが力を振るう。
 犬の声、虎の声、ライオンの声、車の音、OSの起動音、有名歌手のモノマネ(形態模写付き)……等々、色々と試みたのだが……
「……通じないみたいですね」
 輝史が、言った。彼の目で見ても、猫達から動揺したような気配が一切伝わってこない。
「……仕方ないわね。これだけはやりたくなかったんだけど……」
 額に汗を流しながら、シュラインがつぶやく。
「どうするんですか……?」
「……決まってるでしょ」
 彼女は輝史をじっと見上げ……
「……後は任せたわ」
 肩をぽんと叩いたかと思うと、背中を見せて走り出した。
「え? あ、あのちょっと……!?」
 いきなりの行動に、さすがの輝史も面食らう。
「だって、罪のない猫ちゃん相手に手荒な事なんてできないでしょ! だから任せたわ! 頼んだわよ!」
「……いえあの……そう言われても……」
 あらためて、猫の群れに目を向ける輝史。
 無数の視線がじっと自分へと注がれているのを見て、思わず1歩下がってしまった。
 これが夜な夜な人を食い殺す化け猫とかならば、彼も一切遠慮などしないし、そういう手合い用の技も術も充分に体得している。
 が、しかし、何の変哲もないごく普通の猫となると、どう相手をして良いのやら……
「……」
 しばし無言で見つめあい、やがて彼は……静かにこうつぶやくのだった。
「…………やもうえませんね」
 そしてやっぱり背中を見せて、脱兎と化す。
 にゃーーーっ!!
 なんだか嬉しそうな声をあげつつ、残りの猫達が一斉にその後を追っていった。


「ええいっ! ちょこまか動くなっ! これは命令よっ!!」
「きゃー、お姉さんこわーぃ♪」
「そんなんじゃ、嫁の貰い手がないぞー。あはははー♪」
「あんだとこのーーーーーっ!!!」
 桜夜と猫姉妹の戦いも、相変わらず続いていた。
 歩道の石畳はめくれあがり、道路は所々が陥没し、街路樹は何本かがへし折れ……と、あたりはもはや巨大台風でも通り過ぎたような惨状と化している。
「……」
 とりあえず普通の人間である草間は、こんな非常識な乱戦を止める手立てを持たないので、ただ見守るしかない。
 目の間を揉みながら、彼は1人思っていた。
 ……うちの近所でこんな派手な騒ぎを起こしたら、また悪名が轟くな……と。
 そう。間違いなく、たとえとぼけたとしても、人はこの行いを、怪奇探偵事務所として名高い草間興信所と結びつけるだろう。
 そしてまた、そういう依頼がどんどん等比級数的に増えていくのである。
 ……哀れ草間武彦30歳。
 本来望んでいる普通の探偵業務が、彼の前に舞い降りてくる日は果たして来るのであろうか……
「……だめね、このままじゃ」
「なに?」
 いきなり聞こえた声に振り返ると、冴那が立っていた。
「このまま彼女に任せていても、あの猫又の2人を捕まえる事なんてできない……そう思わない?」
「あ……ああ、そういうことか。うむ、そうだな」
「……どうかしたの? なにか浮かない顔してるじゃない」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
「そう……」
 草間が目線をそらすと、冴那もそれ以上何も尋ねなかった。
「じゃあ、こうしましょう。あたしが片方の娘を何とかするから、あなたはもう片方の娘をなんとかする……いいわね?」
「……なんとかするって……どうするんだ?」
「言葉の通りよ。なんとかするの。それだけ」
「……」
 じっと見つめられて、頷く草間だ。
 あまり温度を感じさせない瞳からは、不思議な迫力……というか説得力を感じさせる。
 この人物ならば、確かにどうにかするだろうと、見る者を妙に納得させるのである。
「じゃあ、そういうことで、よろしく」
 軽く手を振ると、あとはまるで散歩でもするような気軽さで、さっさと戦場の方向へと歩き始めた。
 と──その身体がふいに消える。
「なに!?」
 草間が思わず声をあげた。
 が、すぐに飛び回る猫又の頭上に再び姿を現し、さらに目を見開く。
 冴那の手には、残されたもうひとつのバスケットがある。
 それを、くるりと逆さまにした。
 真下にいるのは、猫又娘の1人──依頼者である美亜だ。
 彼女に向かって、バラバラと何かが降り注ぐ。
 それはやっぱり無数の使い捨てカイロだったが……やがてそれとは明らかに違う、巨大で長い影がぼたりと落ちた。
 正体は……ニシキヘビだ。
 全長はおそらく5メートルはあるだろう。その長大な姿が、落とされると同時に美亜の全身に絡み付き、一気に締め上げていた。
「いやーん! なにコレー! きゃー!」
 などと言いつつバタバタ暴れる彼女ではあったが、怪力では明らかに大蛇の方が上だったようだ。
 やがて、
「……きゅぅぅぅ……」
 と、細い息を漏らすと、あっさり気を失ってしまう。
 その時には、冴那はもう、次の目標のすぐ後ろにいた。
 どうやって移動したのかまったくわからない程のスピードで美衣の後ろに現われると、
「いくわよ」
 ポツリとつぶやいて、草間を見る。
「……?」
 なんの事だと思った彼だったが、すぐに謎は解明された。
 無造作に美衣の首根っこを押さえると、
「えい」
 そのまま、宙に放り投げる。
「あ〜〜れ〜〜〜!」
 軽く、としか見えなかったのだが、少女の身体はたっぷり10メートル以上は飛んで、草間の目の前へと落ちてきた。
 空中で身を捻ってストンと見事に着地したのは、さすがに猫といった所だろう。
「きゃー、おじさまー! 会いたかったー♪ あたしと愛をしよー! 今すぐしよー! きゃー♪」
 草間を見ると、すぐにそんな事を言いつつ、両手を広げて抱きつこうとする。
 何があろうと態度の変化がまるでないあたりも、ある意味見事……と言えるかもしれない。
 対して、草間は……
「いい加減にしないか!」
 美衣の肩を押さえ、強い口調でそう言った。
 当の猫又少女ばかりか、いまだ怒りに燃える桜夜すら、思わず立ち止まり、草間へと目を向ける。
「……さっきも言ったが、俺達は君にこんな事をやめさせるためにここに来た。だがそれは、君の身を心配する妹さんに頼まれたからだ。君は確かに自由に好き勝手やっていて毎日が楽しいだろう。が、その姿を見て妹さんは悲しみ、苦しんでいるんだぞ。そんな事を考えた事があるのか?」
 美衣の目をじっと見て、草間が語りかける。
「ふん、だ。なによぉ……お説教なんてまっぴらだからね! 聞きたくないわよ、そんな事」
 と、美衣の方はとたんにそっぽを向く。
「いいだろう。聞きたくなければ聞くな。だが、俺は君の説得を仕事として受けた。受けた以上は必ずやり遂げる。それが俺のけじめだ。だから君がこういう生活をやめない限り、何度でも止めるぞ。いいか、何度でもだ」
「……セキニンカンって奴? なにさ、そんなの今時流行んないよ」
「そんな事知るか。お前がお前の好きな事をやるように、俺は俺で自分の信じた事をやる──それだけだ」
「ふーん……意外と頑固なんだね。それとも単に意固地なのかな」
「なんとでも言え」
「ふふっ、でも……」
「……なんだ?」
 急に、美衣の顔に笑みが広がった。草間を見る瞳の中にも、明らかに強い興味の輝きがある。
「そーいう人、嫌いじゃないよ。そーだなー、そんなに言うなら頼みを聞いてあげてもいいけどー、その代わりこっちのお願いも聞いて欲しいなー」
「……取引というわけか……条件は何だ?」
「それはね……」
「それは?」
 美衣の笑みが、ますます深く、そして悪戯っぽくなる。
 彼女は……言った。
「おじさまに、あたしだけのメインディッシュになって欲しいなっ♪」
「はあ……?」
 草間の首に手を回すと、唇を寄せていく。
 それが、あとちょっとで彼に届こうとしたとき──
「だめっ!! 絶対だめーーーーーーっっ!!!」
 大音声と共に、シュラインが駆け込んできた。
 その背後には、彼女を追う猫の群れ。
 振り上げた爪と、暗闇に光る目は……シュラインも一緒だ。
「うわーーーっ!」
 夜空に響く、草間の声。
 次の瞬間、彼の姿はシュライン&猫軍団の中に埋没し……見えなくなる。
「……人間って、本当、色々複雑よね」
 その様を目にして、1人つぶやく冴那であった──


■ エピローグ・そして子猫的日々

「ねーねーダーリン。あたしー、今日でもう3日も人の精気吸ってないんだよー、偉いでしょー、誉めて誉めてー」
「……あ、ああ。偉いな、うん」
「きゃー、誉められちゃったー。じゃあご褒美のキスー」
 と、草間に顔を近づけようとする美衣だったが、
「……はいはい、武彦さんの仕事の邪魔よ。離れて」
 すぐにシュラインが間に割って入り、両者の距離を引き離す。
「もー、なによー、邪魔しないでよー」
「邪魔してるのはあんたでしょ!」
「ふん、だ。怖い顔しちゃってさー、そんな顔ばっかしてたら、お肌の曲がり角は乗り切れないぞー」
「あんたに言われる筋合いはないっ!!」
「きゃーこわーい、ダーリン助けてー」
「だから武彦さんをダーリンとか呼ぶのはよしなさいっ!!」
 草間を挟んで、視線をバチバチ言わせるシュラインと美衣である。
 一方の草間はというと……
「……なんでこうなるんだ……」
 疲れきった表情でそう漏らして、うなだれるのみだ。

 ──あれから4日あまりが過ぎた、昼下がりの草間興信所である。
 一応依頼である美衣の捕獲と説得はなんとかなったのだが、その美衣が草間を気に入ったようで、毎日興信所に入り浸っては草間にちょっかいをかけているという状態になっていた。
 まだ美衣の行動については多分に不安な部分があるので、執行猶予期間みたいなものだという向きもあるのだが……単に草間が猫又に取り憑かれてしまったのでは……という見方もあったりする。
「……すみません、連日お邪魔してしまって……あの、やっぱりご迷惑……ですよね?」
「いえ、そんな事ないですよ。私はとっても楽しいです」
 申しわけなさそうな美亜に、零が無邪気に微笑みかける。
 腕の中には太ったトラ猫がいて、零の手にあるドライキャットフードを一心不乱に食べていた。
 足元には数枚の皿が置かれ、ミルクや、やはりキャットフードが山盛りに盛られている。
 そこに群がり、がっついている猫、猫、猫。
 猫又の美衣、美亜だけでなく、彼女らの仲間……というか友達であるノラ猫達まで一緒に遊びに来るので、連日事務所は猫屋敷と化していたりするのだ。
 さらに今日は猫だけでなく……
「……ん〜、ぽかぽかして、良い天気ね……和むわぁ……」
 窓際で、眠たそうな声。
 来客用のソファのひとつが、窓から差し込む陽の光を目一杯受ける位置へと移動されており、優美な肢体が長い足を組んで座っている。
 ……冴那だった。
 今回の事件の報告書を提出するために顔を出しているはずなのだが、そんな気があるようにはとても見えない。まどろむように軽く目を閉じた表情は、とても穏やかだ。身体にはいつものように、長大なニシキヘビがゆるく絡んでいる。
 もちろんというかなんというか、他の蛇達も彼女に同行していて……
「あー、だからお前ら、キーボードの上に乗るなつってんだろーがよ」
 言いながら、愛機のノートパソコンにじゃれ付いてきた猫の首を掴み、テーブルの下へと置いてやる隼。
 やや不満そうに声を上げる猫だったが、すぐに近づいてきたでっかいマムシに興味が移ったのか、そっちと遊び始めた。
 ……事務所内は今、数十匹の猫と、同じく数十匹の蛇が蠢き、じゃれ合うという恐るべき様相を呈している。
 目に見える部分はもちろん、テレビの裏や、デスクの下、どうやって入ったのか、戸棚や引出しの中にまで猫や蛇が入り込み、そこかしこで好き放題に遊びまわっていたりするのである。
 たまに来る来客者……たぶん仕事の依頼人も、部屋のドアを開けた瞬間に顔を青くして回れ右をするというありさまだった。ほぼ仕事になっていない。
「……毎回苦労が絶えませんね、ここも」
 ソファとテーブルが置かれた応接用のスペースで、そんな声。
 苦笑を浮かべているのは、輝史である。
 他のメンバーも、全員報告書作成のために来ているのだ。
「きっとなんか前世で因縁があって、おかしなモンに呪いでもかけられたんだろ、草間のダンナ」
「かもしれませんね」
 隼の言葉に、頷く輝史だ。
「そう? あたしはこういうの楽しくて好きだけどなー」
 と言うのは、隼の隣の桜夜。
「……お前と違って、俺達は繊細なんだよ」
「あんだとー!」
 それを聞いて、桜夜は隼の頬に貼られていたバンソーコーをむしり取った。
 あの夜、猫に埋もれて引っかかれた時の傷だ。
「いてっ! 何しやがる!」
「ふんだ!」
 頬を膨らませ、ぷぃっと桜夜が横を向く。
「……まあまあ」
 すぐに、輝史がとりなすように声をかけたので、それ以上の言い合いには発展しなかったが……
「……」
 チラリと隼の目がその輝史へと向き、なんとも言えない表情になる。
 彼の膝の上には、いかにも品の良さそうな白い毛並みのチンチラがいて、彼に頭を撫でられつつ、安らかな寝息を立てていた。
 対して、自分の方はというと、やたら元気がいい事だけが取り得といった雑種が数匹、肩や膝、時々頭の上にまで乗ってきてまとわりついている。最初のうちは払いのけていたのだが、いくら追っ払っても戻ってくるので、しまいにはもう好きにさせていた。ついでに今は、胸ポケットから小さなマムシも一匹顔を覗かせていて、チロチロ舌を出している。
 さらにやるせないのは……それらが全て「オス」だという事だ。
 輝史の膝にいるのや、その周りにいるのは、どれもおとなしい奴ばかりで……しかもたぶんメスだろう。確かめた訳ではないが、なんとなくそう思う。
 ため息をつきつつ、隣へと目を戻す隼。
「……なによ?」
 そこでジロリと睨んでくるのは……もう見慣れた顔である。
「なんでもねえよ」
 それだけをぶっきらぼうに告げてやる彼だった。

「ねーねー、こんなつまんないトコにいないでさー、どっか遊びにいこーよ、ダーリン♪」
「ダーリンって呼ばないでってば!!」
「へえ、零さんって、お掃除が得意なんですか、凄いですねえ。私も姉さんも、そういうの全然ダメで……」
「ああいえ、他の事はあんまりできないので、大した事ないんですよ」
「……ほんと、和むわぁ……」
「あははー、隼、ほらほらこのコ、すごい牙だよー」
「……おまえ、それマムシだぞ」
「さてと、報告書の方は、大体こんなものでしょうね」

 草間興信所に、人と、猫と、その他の声がこだまする。
「……なんでいつもうちはこうなんだ……」
 その中で小さくつぶやく草間だったが……無論他の声にかき消されてしまうのだった。
 怪奇探偵草間武彦の名声(?)は、かくてまた世間に轟いていくわけである。

■ END ■


◇ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◇

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】

【0072 / 瀬水月・隼 / 男性 / 15 / 高校生(陰でデジタルジャンク屋)】

【0444 / 朧月・桜夜 / 女性 / 16 / 陰陽師】

【0996 / 灰野・輝史 / 男性 / 23 / 霊能ボディガード】

【0376 / 巳主神・冴那 / 女性 / 600 / ペットショップオーナー】


◇ ライター通信 ◇

 どうもです。ライターのU.Cでございます。
 すっかりめっきり納期ギリギリとなってしまいました。申し訳ございません。(平謝
 今回は草間興信所を巻き込んでの猫又コメディというのを目指してみたのですが、いざできあがってみると、ラブコメ要素が強くなっております。
 私を野放しで放っておくと狂ったようにラブコメを書き始めるという噂がありまして、決してそのような事はない(……はず)のですが、何故かラブコメ書く事が多いのも事実です。いえ、実際好きですけど。
 とにもかくにも、そんな事でお送りします今回の物語、楽しんでいただければ幸いです。

 シュライン様、今回もご参加ありがとうございます。
 草間探偵のピンチ(?)を救って頂くのは、やはり貴方様しかおりません。秘めた想いが鈍感な探偵さんに届く日が来る事を、不肖私も応援させて頂きますとも。がんばってください。明日という字は「明るい日」と書きます。きっと大丈夫です。

 隼様、またのご参加ありがとうございます。
 かなり愉快……というか大変な事になってしまいました。申し訳ございません。気がつけば今回はかっこいい活躍が見当たらないという結果に……桜夜様は暴走してますし……いやはや。なにはともあれ、お疲れでした。ゆっくりとお休みになって、英気を養ってくださいませ。

 桜夜様、またのご参加ありがとうございます。
 何故か猫又だけでなく、隼様とも激しいバトルを展開してらっしゃいます。それが解決に繋がるかどうかは別として、今回一番激しかったのはやはり貴方様でございましょう。げに恐ろしきは恋心という事でしょうか。今回の本当の敵は、猫又ではなく、それだったのかもしれません。ですが、こちらとしましては、そのおかげでかなり盛り上がりました。ありがとうございます。盛り上げ方を多少間違えたかもしれませんが……

 輝史様、今回もご参加ありがとうございます。
 メインがバトルではないので、あまり派手な描写等はできなかったのですが、それなりに華麗に決めてらっしゃいます。逃げたりもしてますが……まあ、それはそれ、コメディという事でお許し下さいませ。マタタビを魔剣化して……とかも考えたんですが、それをやっていたら隼様の隣にもうひとつ猫玉ができていたかもしれません。やればよかったですかね……フフフ。

 冴那様、またのご参加ありがとうございます。
 最後は貫禄で、解決に貢献して頂きました。貴方様がいたからこそ、無事に(?)解決できたものと思っております。ありがとうございました。冬場なので厚着で登場……としてみたのですが……やりすぎだったでしょうか? 美しいイメージを損ねていません事を祈るのみです。

 最後に、参加して頂いた皆様、並びに読んで頂いた皆様には深く御礼申し上げます。ありがとうございました。
 なお、この物語は、全ての参加者様の文章が全て同じ内容となっております。その点ご了承下さいませ。

 ご縁がありましたら、また次の機会にお会い致しましょう。
 それでは、その時まで。

2003/Feb by U.C