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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・仮面の都 札幌>


調査コードネーム:湯煙殺人事件?
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :界境線『札幌』
募集予定人数  :1人〜4人

------<オープニング>--------------------------------------

 いらっしゃいませ。
 ええと、どちらさまでしょうか?
 ‥‥冗談でございますよ。
 道警の笹山さまですね。
 本日は何用でございましょう。
 はあ‥‥。
 登別温泉街で起こった殺人事件ですか‥‥。
 失礼ですが、それこそ警察の仕事ではありませんか?
 不可解な事件が起こるたびに私を訪ねられても‥‥。
 血を抜き取られた死体が一つ。
 やはり、猟奇犯の仕業ではないですか?
 私どもの範疇に入ることではないかと思いますが。
 吸血鬼、ですか?
 おやおや。
 警察が、そのようなことを信じるようでは、この国の将来に不安を抱いてしまいます。
 冗談ですよ。
 そんなに怖い顔をしないでくださいませ。
 いずれにしても、科学捜査に行き詰まったからこそ、このような陋屋に足をお運びになったのでしょうから。
 現場は地獄谷ですか。
 あそこは観光地ですからね。
 だれにも見られずに犯行に及ぶのは至難かと。
 でも、目撃者はなし、ですか。
 難しいですね。
 発見された状況は‥‥ほうほう。朝、突然死体があった、と。
 夜のうちに殺されて、運ばれたということでしょうか?
 それともその場で?
 血痕がなく、防御創もない?
 ふむ‥‥。
 まるで、死体がそこまで歩いてきたような話ですね。
 承知いたしました。
 私どもでも、少し調べてみましょう。
 結果については、保証いたしかねますよ。






※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日と木曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。


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湯煙殺人事件?

 ひらひらと。
 雪が舞い降りてくる。
 だがそれは、地面と抱擁を交わすことなく消えてゆくのだ。
 まるで、添い遂げられぬ宿命の恋人たちのように。
 けっして交わらぬ土星の輪。
 カッシーニ間隙のような溝が、大地と空の間にある。
「切ないものですねぇ」
 窓枠に長身を預け、斎裕也が言った。
 金色の瞳には憂愁の光が揺れている。
「浴衣姿で格好つけても、あまりサマにならないと思うけどな」
 羽柴戒那がからかう。
 どんなときでもポーズを決めないといけないらしい。
 きっと、そういうイキモノなのだ。
「なんですか。それは」
 苦笑を浮かべる斎。
「キミの正体を知らない女だったら、ころっと騙されるだろうな」
 戒那も笑いながら、年少の友人の側に寄った。
 漫然と、窓に映る景色を眺める。
 北海道は登別の温泉街。
 いたる所から湯気が吹き上げ、さながら霧の中にたたずむ街のようだ。
 東京在住のふたりが、どうしてこんなところにいるかというと、たいして深くもない事情がある。
 それは、
「悠也。温泉のペアチケットをもらった」
「へぇ。どこのですか?」
「登別だ。一緒に来るか?」
「喜んで」
 とまあ、これが顛末だ。
 色気もなにもない会話であるが、それは、まあ仕方がない。
 ふたりは恋人同士でもなんでもなく、ただのルームメイトである。
 だいたい、戒那からみれば一四も年少の斎など、恋愛対象にはならないだろう。
 年の離れた弟。
 そう彼女は思っているが、自分の心の中にある迷宮は、自分自身でもなかなか脱出できないものである。
 嫌いな人間と一緒に住んだりしないし、一緒に旅行したりもしない。
 とはいえ、男として女として愛しているかというと、答えは霧の彼方に霞んでいる。
 嫌いでない、と、好き。
 この間には、なかなかどうして無限の距離があるらしい。
「どうしました? 戒那さん」
 黒髪の青年が呼びかけ、それによって、赤毛の美女の意識は現実へと立ち戻った。
「なんでもない。久しぶりにのんびりできるから、気が緩んでいるんだろう」
「年度末試験で忙しかったですからねぇ」
「まったくだ。イマドキの大学生に勉強しろというのも野暮だと思うけどな。それでも一夜漬けくらいはして欲しいもんだ」
 にやりと笑う大学助教授。
 もちろん、大学生の斎に対する嫌みである。
 彼が夜のバイトをしていることは、戒那ならずともよく知っている。
「まったくですねぇ」
 どこ吹く風で微笑する斎だったが、その頬を汗が伝うのを助教授は見逃さなかった。
「大丈夫なのか?」
「ええ‥‥まあ、なんとか‥‥」
 なんとも頼りになる返答だ。
 温泉宿でのんびりしていて良いのだろうか。
「でもまあ、試験は終わっちゃいましたし」
 たしかに、この段階で学生にできることなど何もない。
 人事を尽くして天命を待つ、というやつだろう。
「それほどたいしたもんじゃないと思うぞ」
 ごく冷静なツッコミ。
 普段ならば、なにか言い返すところだが、青年はじっと窓の外を見ている。
「どうしたんだ?」
 小首をかしげる戒那。
「通りを見てください。面白いものが見えますよ」
 言われて視線を転じると、
「‥‥シュラインだ。なんだってこんなところに?」
「さて。それは俺にも判りませんねぇ」
「それに、一緒にいる男、あれは誰だ? 草間ではないようだけど」
「巫さんですよ。ご存じありませんでしたか?」
「‥‥不倫?」
 ずれたことを言う。
 思わずもっと誤解させてやろうかとたくらむ斎だったが、少し考えてからプランを捨てる。
 バレたときが恐ろしすぎるから。
「巫さんには他にちゃんと恋人がいますよ。新山綾さんっていう」
「新山‥‥あの女か」
「知ってるんですか?」
「史上最年少で元帝大の教授に抜擢された女だ。名前くらいは聞き覚えがあるさ」
「いまは北斗学院の助教授をやってますよ」
「降格で左遷だな。なんかあったのか?」
「まあ、いろいろと」
 言葉を濁す斎。
 ある陰陽師の一族と日本政府の間に繰り広げられた暗闘は、彼を含めた一部の者しか知らない。
 月刊アトラスとかいうインチキオカルト雑誌が書き立てたこともあるが、そんなものを信じる人間など、日本中探してもいないだろう。
「それは良いとして。じゃああの二人は、なんで登別にいるんだ?」
「仕事でしょう」
「草間は北海道にまで手を伸ばしてるのか‥‥」
「いえ‥‥おそらく別件です。噂の雑貨屋さんが絡んでるんじゃないですかねぇ」
 蠱惑的な微笑が、青年の顔に刻まれた。
 トラブルの予感。
 シュライン・エマと巫灰慈が現れたということは、彼らでなくては解決できない事件が起こったということだ。
「面白くなりそうです」
 呟く。
 やれやれ、と、戒那が肩をすくめた。
 せっかく、世俗を離れてのんびりできるかと思ったのに。
「神も仏もあるもんか、ってね」
 内心で、信じてもいない神さまに舌を出す美貌の助教授だった。


「なんたらサスペンス劇場みたいだな」
 赤い瞳の浄化屋が言う。
「二時間で解決しないといけないわけ?」
 蒼い瞳の興信所事務員が応える。
 幾度も難事件を解決してきたコンビだ。
 その意味では、テレビドラマの探偵たちと変わらない。
 違いがあるとすれば、おこっているのが現実の事件だということだ。
「‥‥奇妙な話よね」
 肩をすくめるシュライン。
 地獄谷で発見された、血を抜き取られた死体。
 ちょっとしたミステリーだ。
「ま、事件の半分は奇妙なもんだがな」
 苦笑する巫。
「じゃあ残り半分は?」
「ありふれて不愉快ってやつさ」
「なるほど」
 軽く頷く興信所事務員。
 日本だけでも一億二千万の人間が住んでいるのだ。
 トラブルが起きない方がおかしい。
 紛糾の結果として、殺人にまで発展することもあるだろう。
 珍しくもなんともないが、だからといって気持ちの良いものでもない。
 ようするに、巫の台詞はそういう意味である。
「で、この事件、どう読んでいるの? 灰慈」
「難しいところだな。綾か武さんでもいりゃあ、この段階でも核心的なことが言えるんだろうが」
 浄化屋が挙げた二人は、あいにくと今回の捜査には加わっていない。
「無い物ねだりしても仕方ないわよ」
「まったくだ。三割バッターがいないチームじゃ、二割五分のバッターが四番を打たないとな」
 笑う。
 半分は謙遜だ。
 もし彼らが打率二割五分のバッターだとすれば、日本警察の打率は一割を切ってしまうだろう。
 これまでの実績と経験が両輪となって支えており、倨傲で飾る必要のない二人であった。
「死因が、ひとつのカギになるんじゃないかしら?」
「失血死なら、殺人か自殺の線が濃厚なんだけどな」
「窒息死だものね。どうなってるんだか、サッパリよ」
「首を絞められたってわけでもないのにな」
 嘘八百屋を介して北海道警察から提供された情報を再確認する。
「硫黄ガスの中毒とかは?」
「ガス中毒なら解剖で出ねぇか?」
 反問する巫。
 警察の情報を頭から信じ込むのは危険だが、さしあたり大前提がなくては何もできない。
 彼らは過去透視の超能力者ではなく、与えられた情報から物事を推理するしかないのだ。
「殺人に限らねぇが、事件が起こったってことは、それで利益を得たヤツがいるってことだよなぁ」
「積極的消極的を問わずね。事故や自殺だったら別だけど」
 シュラインが後を引き継ぐ。
 つまり、亡くなった人が生きていると困る。
 たとえば、その人に何か弱みを握られているとか。脅されているとか。
 これが消極的な動機である。
 積極的なものなら、怨恨なり金銭がらみのトラブルなりが有力だ。
「つっても、殺されたにしては状況が穏当なんだよな。防御創もねえって言うしな」
「それなのよねぇ。顔見知りの犯行ってセンで考えるべきなのかしら」
「でもよぅ。どうやって殺す? いや、殺すのは可能だとしても、どうやって地獄谷まで死体を運ぶよ?」
 原生林のなかではない。
 観光地なのだ。
 死体などを抱えて彷徨いていれば、パンダを背負って歩くのと同じくらい目立つだろう。
「目撃者でも出てくれば、もうちょっとラクになるんだけど」
「無理だな。観光旅行で来てる連中なんぞ、とっくに移動しちまってる。誰だって旅行中にトラブるのはご免だからな」
 諦めたように言って、浄化屋が首を振った。
 ふたたびシュラインが肩をすくめる。
 実際問題、旅行先で恐喝やひったくりなどに遭っても、ほとんどの人が被害届などださない。
 よほど大切なものを盗られない限りは。
 もちろん、いくつかの事情がある。
 ツアーなどの場合、限られた日程のなかで動いているから、警察で調書を取られたりする時間的な余裕がないということ。下手をすれば出発時間に遅れてしまうし、そうでなくとも、その日の観光予定は完全に潰される。
 それに、そもそも警察の所在地が判らない、という事情もでてくるのだ。
 しょせんは、旅の途中で立ち寄った街である。
 地理不案内なのは、むしろ当然だろう。
「いずれにしても、目撃者探しは時間のロスになるだけね」
「そうそう。それこそ伊豆とかまで追っかけて訊くってわけにもいかねーし」
「なんで伊豆なのよ?」
「伊豆で囮捜査ってのは、王道だからなぁ」
「はぁ?」
「昔の名作にもあるぜ。『伊豆のおとり小(林少年)』って☆」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
 念のために解説すると、そんな作品はない。
 おそらくは、川端康成の『伊豆の踊子』と、江戸川乱歩の明智小五郎シリーズに登場する小林少年をかけているのだろう。
「‥‥‥‥‥」
「‥‥あのですね‥‥シュラインさん?」
「‥‥何か言い訳があるなら、聞いてあけなくもないわよ」
 にっこりと笑う青い目の美女。
 とても綺麗だった。
 冥界の女王さまみたいに。
 視線が絡み合う。
 浄化屋の頬を、冷たい汗が流れた。
「見つめ合うと素直におしゃべりできない、ってヤツですか? シュラインさん。巫さん」
「何年前の流行歌だ? それ」
 横合いから声がかかった。
 えらく状況を誤解した台詞だったが、巫を大きく息を吐く。
 突然の闖入者は、少なくとも彼にとって時の氏神だった。
 むろん登場したのは、戒那と斎である。


「そういうことなら、俺の能力(ちから)が役に立つだろう」
 説明を聞き終えた戒那が提案した。
 数的に二倍になっただけでなく、犯罪捜査に向いた能力を持つ大学助教授が加わったことにより、戦力はぐっと増強された。
 はずなのだが、
「どうでしょうね‥‥」
 思慮深げに、斎が腕を組む。
「どうも‥‥なにか引っかかります‥‥」
 要領を得ない言い方だ。
 実際、金瞳の青年自身も明確に疑問を言語化できずにいるようだ。
「そう言われてみると、たしかにおかしいところはあるぜ」
「どういうこと? 灰慈?」
 いち早く感応した巫に、シュラインが訊ねる。
「つまりな。どうして嘘八百屋が動いたかってことさ」
 時期的に疑問があるのだ。
 事件が表面化してから、そう日時が経っているわけではない。
 これが、迷宮入り直前の事件とかいうのだったら話は判る。または、数ヶ月前に起こったホステス連続誘拐事件のように人命が係っているか。
「嘘八百屋が動いた以上、警察はあんまり口を出せねぇ。さらに上の方までパイプが繋がってるからな。あの男は」
 だからこそ、そう滅多なことで警察はあの雑貨屋を頼らない。
 奇妙な主人も、頼まれない限り関わろうとしない。
「そこで思い出して欲しいんだけどよ。この事件って、アイツが動くような事件かい?」
 ぐるりと、浄化屋が仲間たちを見回す。
 たしかに不可思議な事件だ。
 しかし、警察が面子とプライドを捨ててまで、あの雑貨屋にすがるだろうか。
 少なくともこの段階で。
「ちょっとおかしいわね。たしかに」
 青い目の美女も頷いた。
「だから、人外の仕業だと断定したんじゃないか?」
「それは違います。戒那さん」
 ゆっくりと首を振る斎。
 警察は人妖や超能力の存在を公認しない。
 それらを公的に認めるとしたら、近代の警察機構ではなく宗教団体であろう。
 当然である。
 警察の依って立つところは、すなわち科学捜査だ。
 超能力や超常現象などを、軽々しく警察が口にするようでは、この国の未来は累卵の上でタップダンスコンテストを開催するようなものだ。
「事実を事実として認めない、というのも充分にいかがわしいがな」
 苦笑する戒那。
 特殊能力を有する彼女としては、皮肉のひとつも飛ばしたくなったのだろう。
 もちろん、警察の姿勢自体は正しい、とは思っているが。
 一人残らずとはいかないまでも、過半数が能力者にでもならない限り、差別や偏見の嵐が巻き起こることになる。
 下手をすれば魔女狩りだ。
 善悪ではなく、人間とはそういうイキモノだから。
「ねえ。亡くなった人と笹山警部の関係って、どうなってるのかな?」
 ふと心づいたように、シュラインが口を開く。
 巫と斎が頷いた。
 彼らもまた、同じ橋を渡ったのだ。
 面白くはないが、嘘八百屋が捜査に介入した場合、科学捜査よりも特殊能力が優先される。
 では、それによって最も利益を得る人間は誰か。
「より正確にいうと、地味で周到な日本警察の捜査を忌避するのは誰か、っていうことだね」
 笑いを含んだ口調で言った助教授が、のんびりと歩き出した。
 どのような結論が待っているにしても、一度は現場を見ておきたい。
 やや遅れて、年少の三人が続いた。


 ごつごつとした岩肌。
 間断なく噴き出す湯気。
 まるで地獄の光景のように。
 トレンチコートを着た壮年の男が黙然とたたずんでいる。
「お呼びだてしてすいません。笹山警部」
 男の前に立った蒼い瞳の美女が口を開いた。
「やっと真相が掴めたんでな」
 赤い瞳の男が、野性的な微笑をたたえて姿を現す。
 金瞳の助教授と大学生とともに。
「亡くなられた方。飯田さんの死は、低酸素症(ハイポキシア)によるものです」
 濃度の高い二酸化炭素を大量に吸引したことによって死に至る。
 火山帯の近くや洞窟、森や谷などでは、そう珍しくもないことだ。
 大昔には妖怪の仕業にされたが、歴とした自然科学現象である。
「抜き取られた血の量は四〇〇ミリリットル。どこかで聞いたような数字だろ? 成人男性の献血上限さ」
「ちなみに献血した場所は、札幌は大通り駅の地下にある献血ルームです。もちろん知ってますよね。笹山さん」
 戒那と斎が告げる。
 四人が調査を始めて二日。
 全ての糸は繋がっていた。
「あんたは飯田ってヤツと一緒に献血をした。そしてその後、地獄谷で待ち合わせの約束をしたんだ。ここに二酸化炭素が充満しているのを承知の上で」
「血を抜いた日に五〇キロ以上の移動。そして山道。低酸素症。屈強な人でも無事では済みません。すべて計算の上だったわけですね」
 巫の台詞をシュラインが補強する。
 これが、この殺人事件の手段だった。
 そして動機は、
「どうして、娘さんの恋人を殺す必要があったんですか?」
 斎が問いかける。
「‥‥それは‥‥」
 ぽつりぽつりと、笹山が語りはじめた。
 彼の娘は、大学生である。
 年齢は斎と同じ二一。
 その恋人が飯田だった。
 とりたてて珍しいカップルではない。
 したがって、娘が妊娠してしまったことも、べつに珍しいことではないだろう。
 学生と二年目社会人。
 飯田が堕胎を勧めたことも、当然とはいわないまでも、納得することができる。
 子供を産み育てるということは、生半可なことではない。
 学生気分の抜けていない二人に、そんな覚悟はなかったのだろう。
 だが、消したものは命だ。
 笹山にとっては、大切な初孫だ。
 仕方がない、の、一言で諦めきれるものではない。
 だが、彼は娘を憎むことはできなかった。
 だから、恨みの矛先は、飯田へと向かったのである。
「‥‥そうやって、あんたも人間の命を消したってわけだ」
 浄化屋の言葉は淡々としていた。
 責めるというより、諭すというより、哀れんでいるようにも見える。
「警察が捜査を続ければ、いずれは貴方のところまで辿り着く。それを避けるために嘘八百屋に働きかけたでしょうが」
「‥‥嘘八百屋の主人は言ったはずよ。結果については保証できないって」
 そう。
 保証できないというのは、犯人に辿り着けないという意味ではなかった。
 笹山が望むような結果にならない、ということだったのだ。
 パトカーのサイレンの音が近づいてくる。
 通報は、すでに済ませてあった。
 項垂れる笹山。
「ああ、そういえば」
 岩に背を預けていた戒那が赤い髪を掻き上げる。
 そして、紅唇が言葉を紡いだ。
「‥‥いまわの際にね。アンタの娘と堕した子供に詫びていたよ‥‥」
 それは、この土地の記憶。
 彼女にだけ見えた、一人の男の最後。
 鉛色に立ちこめる雲が、白い結晶を降らせていた。
 はらはらと。
 愚かな人間たちと、
 すべての罪を覆い隠すように。









                          終わり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0143/ 巫・灰慈     /男  / 26 / フリーライター 浄化屋
  (かんなぎ・はいじ)
0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)
0164/ 斎・悠也     /男  / 21 / 大学生 ホスト
  (いつき・ゆうや)
0121/ 羽柴・戒那    /女  / 35 / 大学助教授
  (はしば・かいな)

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■         ライター通信          ■
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昨日、弟の一周忌に行ってきました。
月日の経つのははやいもので、一年になるんですねぇ。
あの頃、もう小説なんか書けないって思ったものですが。
人間というのは、けっこうタフにできているみたいですね。
いまだに、積もった雪を見ると心は騒ぎますが、でも、この痛みもいつか消えてゆくんでしょうねぇ。

さて、
お待たせいたしました。
「湯煙殺人事件?」お届けいたします。
如何だったでしょう。
二時間もののドラマみたいな作りでしたが。
一番近かったのはシュラインさまでしたね。
惜しい! もう一歩推理を進めていればビンゴでした☆
楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会いできることを祈って。