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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『すいきょうさま』の怪【調査編】
●オープニング【0】
 師走に入る前後より、ゴーストネットの掲示板ではある話題が見られるようになっていた。
 最初は匿名の書き込みだったようだ。『ようだ』と書いたのは、サーバにトラブルでもあったのか、今はもうその書き込みが残っていないからだ。だが瀬名雫を含めて、書き込みを目撃した者は多く、以降その話題がよく書き込まれるようになったのである。
 その話題とは『すいきょうさま』なる物だ。雫の記憶では最初、次のように書かれていたそうである。
『池のほとりで水面を覗き込みながら、「すいきょうさま、私の未来を教えてください」と3回唱えると、未来の自分が水面に映ることがあるんだって』
 けれどもその後には、こうも続いていたのだとか。
『でも映ることはまれで、すいきょうさまの機嫌が悪いと神隠しに遭っちゃうらしいよ』
 まあ……よくある類の噂話だ。事実、その後にいくつも『何ともなかった』という書き込みがあったのだから。雫自身も試してみたが、やはり何もなかったそうだ。
 しかし、書き込みの傾向が変わってきたのは最初の書き込みがあってから、10日近く経った頃だった。
『うちの子供がもう3日も帰ってこないんだ……! すいきょうさまの話をしたら、とても興味深く聞いていたようなんだが……本当に神隠しなのか?』
『すいきょうさまを試しに行くって言ってた友だちが行方不明なの!』
『お姉ちゃんが消えちゃったの! たった5分、あたしが池から離れてただけなのに……』
 こういった内容の書き込みが、現在までに10件前後あったのである。そしていずれもまだ見付かっていないそうだ。
 しかし、『すいきょうさま』を試して何ともなかった者も数多く居る。果たして、本当に神隠しが起こっているのだろうか。それとも……?

●何故に見付からない【1E】
「おかしいなあ……」
 狐に摘まれたような表情を浮かべ、1人の細身の少女が警察署の中から出てきた。七森沙耶である。
「……どうして見付かってないんだろう」
 ぶつぶつとつぶやきながら、警察署を後にする沙耶。何も落とし物をしてやってきた訳ではない。無論、補導されたということも断じてない。
 沙耶が警察署を訪れたのは、件の『すいきょうさま』に関わる失踪事件の調査のためである。
 失踪事件の起こった場所はてんでバラバラだったのだが、運良く担当の警察が重なっている箇所があり、沙耶は手始めにそこを訪れたのだ。
 尋ねた主な理由は次の1点。事件発生後、池をさらったのかということだった。答えはイエス。だがしかし、手がかりが見付かったのは1つの池からだけで、それも池の中ほどからマフラー1本と靴片方という寂しい結果。共に行方不明者本人の物だと認められたのが幸いだったろうか。
 けれど、それが沙耶には妙に感じるのだ。何故その2つが見付かって、肝心要の本人が見付からないのかと。
 基本的に池は、海や川と違って閉じられた世界だ。あまりにも深いということがなければ、丹念に探せば見付かるはずだろうに、と。
 無論まだ死んでいると決まった訳ではないが、靴片方を池に落としたまま、人がどこかに行くものだろうか?
 それにおかしな所はまだまだ色々とある。
「未来が見える……すいきょうさまって言うけど……?」
 まず、掲示板の書き込みを見る限り、未来が見えた者は誰1人として居ないのである。もちろん、行方不明者は未来を見ている可能性もあるけれども、それを証明する手立てはない。
 それから、判明している行方不明者が中学や高校に通う少女たち、そう沙耶と同年代の少女たちに限定されているのもおかしな話だ。まるでわざわざ選んでいるようにも思える。
(やだな……胸騒ぎがする)
 無意識に沙耶は、銀の十字架のペンダントを握り締めていた。
「……もう少し聞き込みしてみて、靴が見付かった池に行ってみようかな」

●明暗【2E】
「やっほー☆」
 その場に、明るい声が響いていた。七森沙耶が靴が片方見付かった池にやってきた時の出来事である。
「え、雫ちゃん? どうしてここにっ?」
 目を丸くする沙耶。いや、雫だけではない。傍らには天薙撫子の姿もあった。
「あたしも調べてる最中なんだよっ。そうしたら、ばったり出会っちゃって……奇遇だよねっ」
 苦笑する雫。撫子がメモ帳片手に、穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「それで今、すいきょうさまは漢字だと『水鏡』かなとか、色々と聞いてた所なんだけど……どう?」
 やや神妙な顔つきになり、雫が沙耶に尋ねてきた。
「うん……それだけど」
 沙耶は行方不明者が、沙耶と同年代の少女たちに限定されていることを話した。すると撫子が口を開いた。
「ええ。今ちょうどそのことを話していた所で……おかしな話ですよね」
「あ、もう1つ気になることがあって」
「何でしょうか?」
「未来が見えた人って、誰か居た?」
 沙耶がそう言った瞬間、雫が短い声を漏らした。
「あ……そういえば、見たって書き込み全然ないよねっ! 神隠しの方に気を取られてたけど……」
「神隠しに遭ったのは、中高生の少女たち。未来が見えず何事もないのは、それ以外の者たち……」
 撫子は手にしていたメモ帳を閉じると、それを懐へ仕舞った。
「念のため、未来が見えなかったという方にも連絡を取ってみましたが、何事も異変はないとのことでした。結局の所……未来が見えるかどうかを現時点で確かめる術はなく、存在するのは神隠しに遭った者と、何事もなかった者」
 撫子は大きく息を吐くと、周囲をじっくりと見回した。それに呼応するかのように、沙耶もゆっくりと周囲を見回し始めた。恐らく周囲の霊視を行っているのだろう。
「……何か見えた?」
 ややあって、雫が2人に尋ねた。けれども、2人とも力なく頭を振った。
「何か、ゴミみたいな霊気は残ってるんだけど」
「残りカスだけで、霊気を発している物が全く見当たらないんです」
 口々に言う沙耶と撫子。どうも場所に問題があるのではなさそうだ。
 そこで危険な行動ではあるが、実際に件のおまじないを唱えて『すいきょうさま』を呼び出してみることを決断した。
 最初に試みたのは撫子だった。池のほとりから水面を覗き込み、おまじないをきっかり3度唱えてみた。
 が――いくら待っても、水面には何の変化も起こらない。
「どうやら、わたくしではすいきょうさまのお気に召さないようです」
 撫子は僅かに冗談混じりで言うと、順番を沙耶に変わった。
「……どうか気を付けてくださいませ」
 撫子の言葉に、沙耶は大きく頷いた。
「沙耶ちゃん! 無理しちゃダメだからね!」
 雫の心配混じりの励ましの言葉を背中で受け、水面を覗き込んだ沙耶はおまじないを3度唱えた。
 けれども、今度も水面には何ら変化が起こらない。沙耶の顔がただ映っているだけである。
「ダメみたい、だね」
 そう沙耶がつぶやいた時、異変が起こった。水面に映っている沙耶の顔が、大きくニヤリと笑ったかと思うと、水中からぶよぶよとした白い手が伸びてきて、突然沙耶の身体を引きずり込んだのである。
「きゃああぁぁっ!!」
 激しい水の音に混じり、沙耶の悲鳴が響き渡った。
「させません!」
 咄嗟に撫子がぶよぶよとした白い手に、妖斬鋼糸を巻き付けた。しかし。
 水中――それも撫子の死角だ――から、撫子の顔目掛けて物凄い勢いの水が放たれたのである。例えるなら、野球の速球が直撃したような……。
「きゃあぁぁっ!!!」
 不意を突かれ、遠くへ吹き飛ばされてしまう撫子。それでも妖斬鋼糸は手放さなかった。結果、ぶよぶよとした白い手が片方ちぎれ、地面の上へと飛んできたのである。
「沙耶ちゃん!」
 雫が駆け寄ろうとした時、沙耶の頭はほとんど水中へ沈もうとしている所であった。
「来ちゃダメ! 来たら雫ちゃんまで、いっ!」
 残ったもう一方のぶよぶよとした白い手が、沙耶の頭を完全に水中へと沈めてしまった。
「沙耶ちゃぁぁぁぁぁん!!」
 雫の絶叫を、撫子は朦朧とした意識の中で耳にしていた……。

●悪い夢の中で【3B】
 遠くの方から物音が聞こえてきていた。その物音は次第に大きく、はっきりとなってゆく。
 それは泣き声……それも悲しくすすり泣く、少女たちの声のように感じられた。
「……ん……んんっ……」
 呻き声まで聞こえてきた。いや、聞こえてきたというのは正しくないだろう。呻き声を発したのだ。発したのは――沙耶。沙耶は薄暗い狭い空間で、横たわっていた。
「んっ……あ、痛……」
 沙耶はゆっくりと上体を起こし、静かに目を開いていった。
 目の前に、格子が見えた。鉄格子ではない。青緑色をして上から下へ絶えず流れている……水格子だ。
(えっと、確かあのおまじないを唱えた後で、変な白い手が出てきて……)
 そこまで思い出し、はっとする沙耶。右側から、すすり泣く少女たちの声が聞こえてきていたのだ。
 一気に右側を向くと、そこには沙耶と同年代と思しき少女たちが10人ほど居た。
「ひょっとして、すいきょうさまで行方不明になった人たちっ!?」
 思わず大きな声で言い放つ沙耶。少女たちは一瞬びくっとして、沙耶の顔を見た。そしててんでバラバラに頷いてゆく。
(よかった……無事だったんだ)
 状況はどうあれ、生きている少女たちの姿を見て、安堵する沙耶。けれども少女たちは、しくしくと泣きながらこのようなことを言い出した。
「ああ、何て可哀想……」
「ここに居ると、いつ殺されるか怯えながら暮らさないといけないのに……」
「少し前にも1人連れ出されて……それきり戻ってこないのよ?」
「聞こえてくるのよっ! 何かをすするような音! 何かを舐めるような音が!!」
 それを聞いて、沙耶は愕然とした。そして全てを悟った。『すいきょうさま』は未来を見せる者じゃない、罠にかかった少女たちを自らの餌にするだけの存在であると。
「誰も助けてなんてくれないんだわ……もう絶対に」
 少女の1人がそう言った瞬間、沙耶は反論の言葉を口にした。
「ううん! きっと助けに来てくれる……絶対にっ!!」
 きっぱりと、迷いのない口調で言い放つ沙耶。だが少女たちは溜息を吐くと、再びしくしくと泣き始めた。
(大丈夫、絶対に……来てくれる……)
 沙耶は銀の十字架のペンダントを強く、強く握り締めて念じていた。

【『すいきょうさま』の怪【調査編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0102 / こんこん・ー(こんこん・ー)
               / 男 / 1 / 九尾の狐(幼体) 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも)
                   / 女 / 13 / 中学生 】
【 1273 / 渋沢・ジョージ(しぶさわ・じょーじ)
                / 男 / 26 / ギャンブラー 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お届けするのが遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。以後、今以上に気を付けたく思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
・さて、本文ですがこのような流れとなりました。皆さん『すいきょうさま』の意味を色々と考察されていて、プレイングを読んでいてとても楽しかったです。何しろそのものズバリの方、居ましたからねえ……驚きです。
・途中で他の方と合流されているかと思いますが、この組み合わせはアトランダムに行わせていただきました。何気に面白い組み合わせになったかな、と思いました。
・他にも色々と書きたいことはありますが、それはまた次回にて。
・本文にあれこれとヒントはちりばめてありますので、ぜひとも次回のプレイングの参考にしていただければと思います。その上でどのように行動されるのか、高原は非常に楽しみにしております。
・次回『完結編』は、草間興信所の方より出ますのでくれぐれもご注意ください。
・七森沙耶さん、21度目のご参加ありがとうございます。本文を読んでいただければお分かりのように、現在『すいきょうさま』に囚われの身となっております。ゆえに、唯一行方不明者と接触可能な人物となっています。次回どのようにされるかは、お任せいたしますので。
・宣伝になりますが、コミネット・eパブリッシングにおいて『温泉へようこそ☆ ―ソーラーメイド さなえさん―』という高原の新作の購入受付が開始されております。もし興味があるという方は、チェックしていただければ幸いです。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。