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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『すいきょうさま』の怪【調査編】
●オープニング【0】
 師走に入る前後より、ゴーストネットの掲示板ではある話題が見られるようになっていた。
 最初は匿名の書き込みだったようだ。『ようだ』と書いたのは、サーバにトラブルでもあったのか、今はもうその書き込みが残っていないからだ。だが瀬名雫を含めて、書き込みを目撃した者は多く、以降その話題がよく書き込まれるようになったのである。
 その話題とは『すいきょうさま』なる物だ。雫の記憶では最初、次のように書かれていたそうである。
『池のほとりで水面を覗き込みながら、「すいきょうさま、私の未来を教えてください」と3回唱えると、未来の自分が水面に映ることがあるんだって』
 けれどもその後には、こうも続いていたのだとか。
『でも映ることはまれで、すいきょうさまの機嫌が悪いと神隠しに遭っちゃうらしいよ』
 まあ……よくある類の噂話だ。事実、その後にいくつも『何ともなかった』という書き込みがあったのだから。雫自身も試してみたが、やはり何もなかったそうだ。
 しかし、書き込みの傾向が変わってきたのは最初の書き込みがあってから、10日近く経った頃だった。
『うちの子供がもう3日も帰ってこないんだ……! すいきょうさまの話をしたら、とても興味深く聞いていたようなんだが……本当に神隠しなのか?』
『すいきょうさまを試しに行くって言ってた友だちが行方不明なの!』
『お姉ちゃんが消えちゃったの! たった5分、あたしが池から離れてただけなのに……』
 こういった内容の書き込みが、現在までに10件前後あったのである。そしていずれもまだ見付かっていないそうだ。
 しかし、『すいきょうさま』を試して何ともなかった者も数多く居る。果たして、本当に神隠しが起こっているのだろうか。それとも……?

●12→18【1F】
「……はい。本当にありがとうございました。どうぞお気を落とされぬよう……それでは失礼いたします」
 深々と頭を下げた後、和服に身を包んだ女性が1軒の家から出てくる所だった。
 女性は道路に出て歩き出すと、懐よりメモ帳を取り出して何やらペンを走らせていた。女性らしき名前や年齢、その他外見の特徴などが事細かにそこには記されていた。
「今の家は16歳の娘さんでしたね……」
 その女性、天薙撫子はメモ帳に向けていた視線を少し上にずらした。そこには1軒前の家を訪れた際に得たデータが記されていた。同様に、女性らしき名前や年齢――こちらは17歳と記されている。
 1つ前のページに戻ると、13歳と15歳。もう1つ戻ると17歳と15歳。さらに戻ると16歳、14歳……という風に、年齢が一定の範囲内に収まっていた。しかも、そのいずれもが女性――少女である。
(偶然……ではなさそうですね、どうやら)
 撫子は『すいきょうさま』に関わる失踪事件の調査に乗り出していた。件の書き込みは撫子も気にはなっていたが、何しろ年末年始のこと。実家の神社の所用に追われてしまい、手付かずとなってしまっていたのだ。
 そこで諸々と一段落した今、こうして調査のために行方不明になった者たちの家を尋ね歩いているのである。ちなみに、他にも同様の試みをしている者たちが居るようだ。
 無論、その前に『すいきょうさま』についても調べてみた。が、それがどうも奇妙なのだ。
 何と言えばいいのだろう……件の書き込みと同じく、ある日突然表に出てきたようなものだった。つまり、調べた範囲内では書き込みの前から『すいきょうさま』を知っていた者が誰一人居なかったのである。
 で、不思議に思いながらも聞き込み調査を行ってみると、書き込みだけでは見えなかった事柄も見えてきた。
 行方不明になった者たちは、皆別々の時、別々の池で姿を消したようなのだ。こうなってくると、単純に池に妖かしのヌシが棲みついているとも思えない。
「本当におかしな話です」
 神妙な顔をして撫子がつぶやいた。

●明暗【2E】
「やっほー☆」
 その場に、明るい声が響いていた。七森沙耶が靴が片方見付かった池にやってきた時の出来事である。
「え、雫ちゃん? どうしてここにっ?」
 目を丸くする沙耶。いや、雫だけではない。傍らには天薙撫子の姿もあった。
「あたしも調べてる最中なんだよっ。そうしたら、ばったり出会っちゃって……奇遇だよねっ」
 苦笑する雫。撫子がメモ帳片手に、穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「それで今、すいきょうさまは漢字だと『水鏡』かなとか、色々と聞いてた所なんだけど……どう?」
 やや神妙な顔つきになり、雫が沙耶に尋ねてきた。
「うん……それだけど」
 沙耶は行方不明者が、沙耶と同年代の少女たちに限定されていることを話した。すると撫子が口を開いた。
「ええ。今ちょうどそのことを話していた所で……おかしな話ですよね」
「あ、もう1つ気になることがあって」
「何でしょうか?」
「未来が見えた人って、誰か居た?」
 沙耶がそう言った瞬間、雫が短い声を漏らした。
「あ……そういえば、見たって書き込み全然ないよねっ! 神隠しの方に気を取られてたけど……」
「神隠しに遭ったのは、中高生の少女たち。未来が見えず何事もないのは、それ以外の者たち……」
 撫子は手にしていたメモ帳を閉じると、それを懐へ仕舞った。
「念のため、未来が見えなかったという方にも連絡を取ってみましたが、何事も異変はないとのことでした。結局の所……未来が見えるかどうかを現時点で確かめる術はなく、存在するのは神隠しに遭った者と、何事もなかった者」
 撫子は大きく息を吐くと、周囲をじっくりと見回した。それに呼応するかのように、沙耶もゆっくりと周囲を見回し始めた。恐らく周囲の霊視を行っているのだろう。
「……何か見えた?」
 ややあって、雫が2人に尋ねた。けれども、2人とも力なく頭を振った。
「何か、ゴミみたいな霊気は残ってるんだけど」
「残りカスだけで、霊気を発している物が全く見当たらないんです」
 口々に言う沙耶と撫子。どうも場所に問題があるのではなさそうだ。
 そこで危険な行動ではあるが、実際に件のおまじないを唱えて『すいきょうさま』を呼び出してみることを決断した。
 最初に試みたのは撫子だった。池のほとりから水面を覗き込み、おまじないをきっかり3度唱えてみた。
 が――いくら待っても、水面には何の変化も起こらない。
「どうやら、わたくしではすいきょうさまのお気に召さないようです」
 撫子は僅かに冗談混じりで言うと、順番を沙耶に変わった。
「……どうか気を付けてくださいませ」
 撫子の言葉に、沙耶は大きく頷いた。
「沙耶ちゃん! 無理しちゃダメだからね!」
 雫の心配混じりの励ましの言葉を背中で受け、水面を覗き込んだ沙耶はおまじないを3度唱えた。
 けれども、今度も水面には何ら変化が起こらない。沙耶の顔がただ映っているだけである。
「ダメみたい、だね」
 そう沙耶がつぶやいた時、異変が起こった。水面に映っている沙耶の顔が、大きくニヤリと笑ったかと思うと、水中からぶよぶよとした白い手が伸びてきて、突然沙耶の身体を引きずり込んだのである。
「きゃああぁぁっ!!」
 激しい水の音に混じり、沙耶の悲鳴が響き渡った。
「させません!」
 咄嗟に撫子がぶよぶよとした白い手に、妖斬鋼糸を巻き付けた。しかし。
 水中――それも撫子の死角だ――から、撫子の顔目掛けて物凄い勢いの水が放たれたのである。例えるなら、野球の速球が直撃したような……。
「きゃあぁぁっ!!!」
 不意を突かれ、遠くへ吹き飛ばされてしまう撫子。それでも妖斬鋼糸は手放さなかった。結果、ぶよぶよとした白い手が片方ちぎれ、地面の上へと飛んできたのである。
「沙耶ちゃん!」
 雫が駆け寄ろうとした時、沙耶の頭はほとんど水中へ沈もうとしている所であった。
「来ちゃダメ! 来たら雫ちゃんまで、いっ!」
 残ったもう一方のぶよぶよとした白い手が、沙耶の頭を完全に水中へと沈めてしまった。
「沙耶ちゃぁぁぁぁぁん!!」
 雫の絶叫を、撫子は朦朧とした意識の中で耳にしていた……。

●泣きじゃくる雫【3A】
 シュライン・エマと草壁さくらが急いで草間興信所に戻ってきた時、すでに事務所には他の者たちの姿があった。
 所長である草間武彦はもちろんのこと、渋い顔をした真名神慶悟、壁にもたれ腕組みをしている渋沢ジョージ、濡れたタオルで顔を冷やしている天薙撫子、困ったような表情を浮かべる海原みなも、草間の肩の上にちょこんと乗っているこんこん。それと――泣きじゃくっている雫。総勢8人と1匹だ。
「沙耶ちゃんがっ……沙耶ちゃんがぁ……」
 雫は七森沙耶の名前を呼びながら、ぼろぼろと涙をこぼしていた。
「何だか……大変なことになったみたいね」
 重苦しい空気の中、シュラインが口を開いた。
「大事だ。沙耶がすいきょうさまとやらに捕まったんだからな。しかも、それだけじゃあない」
 草間が煙草を取り出し……火をつけずに、口にくわえた。
「どういうことですか?」
 さくらが草間に尋ねた。すると、何故か慶悟が後を受けて話し出した。
「……悪い知らせがある。行方不明者らしき少女の手と足が、見付かった」
「最悪の展開だね。おかげで警察に事情聴取されるわ、疑われるわ……それで戻ってきたら、この事件っしょ」
 ややおどけたように言うジョージ。けれども、サングラスの奥の瞳は笑っていなかった。
「順序立てて話そう。実はだ」
 草間がここまでの経緯を話し出した。まず、みなもとこんこんがずぶ濡れの鞄を持って事務所にやってきたことが最初だった。
 続いて、遺体の一部を発見し事情聴取を受けていた慶悟とジョージがやってきた所で、泣きじゃくる雫からの電話。それが、沙耶が『すいきょうさま』に捕まったという内容だった訳だ。
「不覚でした……本当に、申し訳なく思います」
 悔しさを顔に滲ませる撫子。撫子は、雫とともに現場に居た1人であった。
「自分を責めるな。済んだことは仕方ない、これからどうするかだ」
「きゅうぅぅぅっ!」
 草間が撫子を気遣うと、それに同意するようにこんこんが前脚を上げて鳴いた。
「ほら、こいつだってそう言ってる」
「……絶対に助け出さないといけませんよね……!」
 皆の顔をまっすぐに見つめてみなもが言った。そう、助け出さなければならない。沙耶も、他の者たちも全員。
 そのために、全員が最善を尽くす必要があった――救出のチャンスは、まだ消え失せてはいないのだから。

【『すいきょうさま』の怪【調査編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0102 / こんこん・ー(こんこん・ー)
               / 男 / 1 / 九尾の狐(幼体) 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも)
                   / 女 / 13 / 中学生 】
【 1273 / 渋沢・ジョージ(しぶさわ・じょーじ)
                / 男 / 26 / ギャンブラー 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お届けするのが遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。以後、今以上に気を付けたく思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
・さて、本文ですがこのような流れとなりました。皆さん『すいきょうさま』の意味を色々と考察されていて、プレイングを読んでいてとても楽しかったです。何しろそのものズバリの方、居ましたからねえ……驚きです。
・途中で他の方と合流されているかと思いますが、この組み合わせはアトランダムに行わせていただきました。何気に面白い組み合わせになったかな、と思いました。
・他にも色々と書きたいことはありますが、それはまた次回にて。
・本文にあれこれとヒントはちりばめてありますので、ぜひとも次回のプレイングの参考にしていただければと思います。その上でどのように行動されるのか、高原は非常に楽しみにしております。
・次回『完結編』は、草間興信所の方より出ますのでくれぐれもご注意ください。
・天薙撫子さん、10度目のご参加ありがとうございます。今回はちょっと申し訳ない役回りになってしまったかなと思いますが、行方不明者の共通項を見つけ出そうとするプレイングはよかったと思いますよ。事実、共通項はあった訳ですからね。
・宣伝になりますが、コミネット・eパブリッシングにおいて『温泉へようこそ☆ ―ソーラーメイド さなえさん―』という高原の新作の購入受付が開始されております。もし興味があるという方は、チェックしていただければ幸いです。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。