コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『すいきょうさま』の怪【調査編】
●オープニング【0】
 師走に入る前後より、ゴーストネットの掲示板ではある話題が見られるようになっていた。
 最初は匿名の書き込みだったようだ。『ようだ』と書いたのは、サーバにトラブルでもあったのか、今はもうその書き込みが残っていないからだ。だが瀬名雫を含めて、書き込みを目撃した者は多く、以降その話題がよく書き込まれるようになったのである。
 その話題とは『すいきょうさま』なる物だ。雫の記憶では最初、次のように書かれていたそうである。
『池のほとりで水面を覗き込みながら、「すいきょうさま、私の未来を教えてください」と3回唱えると、未来の自分が水面に映ることがあるんだって』
 けれどもその後には、こうも続いていたのだとか。
『でも映ることはまれで、すいきょうさまの機嫌が悪いと神隠しに遭っちゃうらしいよ』
 まあ……よくある類の噂話だ。事実、その後にいくつも『何ともなかった』という書き込みがあったのだから。雫自身も試してみたが、やはり何もなかったそうだ。
 しかし、書き込みの傾向が変わってきたのは最初の書き込みがあってから、10日近く経った頃だった。
『うちの子供がもう3日も帰ってこないんだ……! すいきょうさまの話をしたら、とても興味深く聞いていたようなんだが……本当に神隠しなのか?』
『すいきょうさまを試しに行くって言ってた友だちが行方不明なの!』
『お姉ちゃんが消えちゃったの! たった5分、あたしが池から離れてただけなのに……』
 こういった内容の書き込みが、現在までに10件前後あったのである。そしていずれもまだ見付かっていないそうだ。
 しかし、『すいきょうさま』を試して何ともなかった者も数多く居る。果たして、本当に神隠しが起こっているのだろうか。それとも……?

●泡のごとく【1D】
 ネットカフェの利用者は確実に増えている。単純に増えているのではなく、利用者層の拡大を伴って増えているのだ。すなわち若年層から老年層まで。
 それはそうだろう、自宅にパソコンがなくとも気軽にネット環境に触れることが出来る場所であるし、何か急な用事でネットに接続可能な場所なのだから。
 そのネットカフェに、細身で腰の辺りまである長い髪の可愛らしい少女の姿があった。先程からパソコンの前に座り、何か懸命に検索を繰り返しているようである。
 少女は近くの中学校の制服に身を包んでいたが、珍しいことにその髪は南海のごとく青き色をしていた。瞳ともなればさらに蒼く、とても澄んでいるように見受けられた。
「…………?」
 少女――海原みなもはキーボードから一旦手を離すと、静かに首を傾げた。そしてぽつりと一言。
「おかしいですね」
 みなもが調べていたのは、件の『すいきょうさま』に関わる事柄だった。行方不明者がすでに何人も出ており、学校でも同級生たちが話題にしていることもあって、みなもも放っておけなくなったのである。いつ身近な人間も消えてしまうか分からないのだから。
 そこでネットの検索サイトを利用して、ダイレクトに『すいきょうさま』のことや、それに関連する事柄にまで広げて調べてみたのだが……どうもおかしいのだ。『すいきょうさま』に関する事柄が、あまりにも少ないのである。
 引っかかったのは、ゴーストネット同様の2、3の掲示板程度。何だか急にこの話がぽっと出てきた印象が強いのだ。
 掲示板に書かれていた行方不明の現場と思われるいくつかの池も、それがある公園もここ1、2年に改装されたり潰されたりという話もない。まして、神様が祭られているという話や、何かが棲んでいるという噂もない。
 転落して死亡した者も過去には居るが、それでも一番最近で10年前だ。今回の出来事に関係があるとも思えない。
 しかし、行方不明者が今居ることは事実。
「単純に考えれば……」
 みなもは別の検索結果を見て言った。そこには河童など、水中に棲まいし妖かしたちの悪戯の伝説などが記されていた。
(池の底に、河童に類する者に引きずりこまれた?)
 事故でなければ、飛び込んだか、突き落とされたか、それとも引きずり込まれたかのどれかだろう。
 けれども未来を知ろうとした者が、自殺するとは思いにくい。一緒に来ていた者が、突き落とした者の影も形も見てないのも妙な話。となると、残るのは最後の1つ。みなもが思うような推理となってしまう。
 みなもは小さく溜息を吐いた。
「これは実際に潜って調べてみないと」

●一寸先は……【2B】
 都会の池は概して汚いものである。下手すれば一寸先は何ら見えやしない。それでも昔に比べると、それでもましになった所はあるのだろう。
 そのましになった部類に入るある公園内の池の底を、ゆっくり静かに動く影があった。しかし青緑の水の中、はっきりとその姿は見えない。
 だが、その方がその影には都合がいいのだろう。もし池の水が清く澄んでいたなら、次の日の新聞一面にこんな記事が出ている所だ。『都会に人魚現れる!』などと。
 池の中を、人魚が泳いでいたのである。
(わぁ……よく見えない)
 その人魚――みなもは、水中の視界の悪さに辟易していた。ある程度予想はしていたが、やはり南洋の海中とは雲泥の差である。
 今みなもが居る池は、行方不明者が1人出ている池だ。実際にこうして潜ってみて、現地調査しようという訳だ。
(でも、やらないといけません。頑張らないと)
 みなもはこくんと頷いて自らに言い聞かせると、池の中をくまなく探索し始めた。
 視界が悪いゆえに調査は難航していたが、それでも確実に着実にみなもは調査を進めていた。
 結果分かったことは、変哲のない魚たちが棲んでいる以外には、生物らしき姿は全く見えなかったということ。それと、怪し気な領域も皆無であったということ。これだけでは調査失敗に見えるかもしれないが、大きな収穫もあった。
 それは水草に絡まっていた通学鞄を発見回収したこと。まだ中身は確かめていないが、もしこれがこの池で行方不明になった者の持ち物であれば、ここで何かしら起きていたという証拠にはなる。
(早く地上で中身を確認しないと!)
 鞄をしっかと抱え、嬉々として水面に上がってゆくみなも。
 そしてみなもが久々に水面から顔を出すと――。
「きゅぅぅぅっ?」
 目の前で、銀色の体毛に包まれた子狐のこんこんが、とても驚いた表情を見せていた。

●行き詰まった時の【2D】
「本当に、びっくりさせちゃったね……ごめんなさい」
 地上に出てきて、人魚の姿から人間の姿に戻ってたみなもは、こんこんの頭を撫でながらそう言った。
「きゅぅっ☆」
 こんこんは胸の辺りを叩き、ボディランゲージで大丈夫とみなもに伝えた。それを見たみなもは、くすっと微笑みを浮かべた。
「きゅう?」
 それからこんこんは、そばにあったずぶ濡れの学生鞄を前脚でちょんちょんと突くと、小さく首を傾げた。
「これ? これは池の中で見付けた鞄よ」
 こんこんに説明してあげながら、鞄を開けてみるみなも。中から水が流れ出すとともに、いくつか中身も出てきた。
 出てきたのは教科書にノートにCDなどなど。幸運にも学生手帳まで見付かり、それはみなもも名前を知っている女子高の物であった。
 もちろん紙類は水を吸ってふやけてしまっており、鉛筆やペンの文字も滲んでしまっているのだが……違和感があった。
 掲示板でこの池の名前が出てきたのは、1週間も前。しかし目の前に並んでいる品々のふやけ具合は、昨日今日水の中に落ちたばかりの物。果たしてこれはどういうことなのか?
「すいきょうさま……『水凶様』? それとも『水狂様』? 何だか変なことばっかり……とても普通とは思えない……」
 鞄の中に品々を仕舞い、思案顔になるみなも。さて、これからどうしたものか。
 と、その時だ。こんこんが鞄をパクッとくわえ、突然駆け出したのである。
「あっ! 待って、どうしたの!」
 驚き呼び止めようとするみなも。するとこんこんは、みなもの方を振り返り、前脚で手招きをした。まるで、『ついてくるです♪』と言うかのように。
(……何か分かったのかな?)
 おっかなびっくり、こんこんの後を追いかけるみなも。こんこんは走って走って走り続け、やがてある建物の前にやってきた。
「きゅぅぅっ♪」
 地面に鞄を置き、高らかに鳴くこんこん。その建物はみなもも知っている場所だった。
「……助言をもらおうってことなの?」
 みなもはこんこんに確かめるように言った。こくこくと頷くこんこん。
「うん、どうした?」
 2階の窓から1人の男が顔を出した。草間武彦――草間興信所、所長である。

●泣きじゃくる雫【3A】
 シュライン・エマと草壁さくらが急いで草間興信所に戻ってきた時、すでに事務所には他の者たちの姿があった。
 所長である草間武彦はもちろんのこと、渋い顔をした真名神慶悟、壁にもたれ腕組みをしている渋沢ジョージ、濡れたタオルで顔を冷やしている天薙撫子、困ったような表情を浮かべる海原みなも、草間の肩の上にちょこんと乗っているこんこん。それと――泣きじゃくっている雫。総勢8人と1匹だ。
「沙耶ちゃんがっ……沙耶ちゃんがぁ……」
 雫は七森沙耶の名前を呼びながら、ぼろぼろと涙をこぼしていた。
「何だか……大変なことになったみたいね」
 重苦しい空気の中、シュラインが口を開いた。
「大事だ。沙耶がすいきょうさまとやらに捕まったんだからな。しかも、それだけじゃあない」
 草間が煙草を取り出し……火をつけずに、口にくわえた。
「どういうことですか?」
 さくらが草間に尋ねた。すると、何故か慶悟が後を受けて話し出した。
「……悪い知らせがある。行方不明者らしき少女の手と足が、見付かった」
「最悪の展開だね。おかげで警察に事情聴取されるわ、疑われるわ……それで戻ってきたら、この事件っしょ」
 ややおどけたように言うジョージ。けれども、サングラスの奥の瞳は笑っていなかった。
「順序立てて話そう。実はだ」
 草間がここまでの経緯を話し出した。まず、みなもとこんこんがずぶ濡れの鞄を持って事務所にやってきたことが最初だった。
 続いて、遺体の一部を発見し事情聴取を受けていた慶悟とジョージがやってきた所で、泣きじゃくる雫からの電話。それが、沙耶が『すいきょうさま』に捕まったという内容だった訳だ。
「不覚でした……本当に、申し訳なく思います」
 悔しさを顔に滲ませる撫子。撫子は、雫とともに現場に居た1人であった。
「自分を責めるな。済んだことは仕方ない、これからどうするかだ」
「きゅうぅぅぅっ!」
 草間が撫子を気遣うと、それに同意するようにこんこんが前脚を上げて鳴いた。
「ほら、こいつだってそう言ってる」
「……絶対に助け出さないといけませんよね……!」
 皆の顔をまっすぐに見つめてみなもが言った。そう、助け出さなければならない。沙耶も、他の者たちも全員。
 そのために、全員が最善を尽くす必要があった――救出のチャンスは、まだ消え失せてはいないのだから。

【『すいきょうさま』の怪【調査編】 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0102 / こんこん・ー(こんこん・ー)
               / 男 / 1 / 九尾の狐(幼体) 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも)
                   / 女 / 13 / 中学生 】
【 1273 / 渋沢・ジョージ(しぶさわ・じょーじ)
                / 男 / 26 / ギャンブラー 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お届けするのが遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。以後、今以上に気を付けたく思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
・さて、本文ですがこのような流れとなりました。皆さん『すいきょうさま』の意味を色々と考察されていて、プレイングを読んでいてとても楽しかったです。何しろそのものズバリの方、居ましたからねえ……驚きです。
・途中で他の方と合流されているかと思いますが、この組み合わせはアトランダムに行わせていただきました。何気に面白い組み合わせになったかな、と思いました。
・他にも色々と書きたいことはありますが、それはまた次回にて。
・本文にあれこれとヒントはちりばめてありますので、ぜひとも次回のプレイングの参考にしていただければと思います。その上でどのように行動されるのか、高原は非常に楽しみにしております。
・次回『完結編』は、草間興信所の方より出ますのでくれぐれもご注意ください。
・海原みなもさん、初めましてですね。いい行動の動機だと思いました。現地調査はさすがですね。見つけ出した鞄、おかしかったですよね? 何となく、想像はつくのではないでしょうか。考察はなかなか鋭く思いましたので。あと、OMCイラスト参考にさせていただきました。
・宣伝になりますが、コミネット・eパブリッシングにおいて『温泉へようこそ☆ ―ソーラーメイド さなえさん―』という高原の新作の購入受付が開始されております。もし興味があるという方は、チェックしていただければ幸いです。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。