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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


<呪い屋神社>

 その男は事務所の中に入ってくるなり、床に膝を付き荒い呼吸を繰り返す。
「ど、どうしました?」
 零がそう聞くと、男は顔を上げて涙を溜めた瞳で必至に訴える。
「お願いです!!!あいつをっ!!あの女を抹消してくれっ!!!」

 冬の寒さより。財布の中身の寒さより。冷たい風が事務所の中に吹き荒れた。

「別の場所に行け」
 草間は、にべもなく答えると煙草に火をつけて男の存在を視界から抹消した。
 だが、男は強かった。
 目に涙を一杯にためているくせに、強かった。
「何を言ってるんだ!!?あの女を抹消しなければ、世の中に平和なんてありえない!!」
 男はフルフルと握った拳を震えさせながら続ける。
「どっかの国と国の仲が悪いのも!!!今の日本が腐敗していっているのもっ!!!!空が青いのも、ポストが赤いのもっ!!!!皆皆、あの女のせいだ」
「警察を呼ぶぞ」
「呼べ!!そのくらいじゃ、俺は引き下がらないぞ!!!」
 男は泣きながら叫ぶと、草間の前のテーブルに1枚のチラシをバンッ!!と叩き付けた。
 そのチラシを胡散臭そうに見つめながら草間は手に取ると、唖然として言葉を失った。そんな草間を不思議そうに見て零は後から、チラシを覗き込んで一緒に言葉を失った。
 そこには。


『ここで、呪えば明日から貴方も嫌いな奴と縁が切れるvvv憎いあいつ恨みのあるあいつ。そんな人がいる人は、体1つで我が神社へ♪藁人形・とんかち・釘お貸ししますので、貴方の恨みをぶつけて下さい!!我が神社なら、呪いの成功率1000%!さぁ、貴方も一緒に呪ってみませんか?(^−^)』


 明らかにふざけているとしか思えないポップな飾りのチラシには、そう書かれていた。ちなみに、チラシに載っている神社の写真が、何となく、それっぽい雰囲気をかもし出している・・・・。
 草間は震えそうになる手を必死に抑えて、男に聞いた。
「これが、どうかしたのか?」
 男は滝のような涙を流しながら、切々と語りはじめる。
「昔、別れた女が、そこで俺を呪っているらしいんだ・・・」
「・・・マジか?」
 思わず、そう聞き返してしまった草間に男はコクンと1つ頷く事で答える。
「マジです。あいつの友人が・・・証拠写真を撮ってくれました」
 男は涙を流しながら、二ヘラと笑い草間に「見ます?」と聞いた。だが、男の様子から見ない方が賢明だと判断した草間は首を横に振った。
「いや、いい。遠慮しておく」
 そう答えてから、煙草を思いっきり吸って吐いた。
「で?あんたの依頼は?」
「この女を抹消してくれ」
 抹殺を通りこして抹消。この世にいた痕跡すら消せ。と男は必死に訴えているのだ。
「・・・俺の所は殺人請負屋じゃない。だが、まあ・・・調べてやってもいい」
「調べる?」
「ああ。女が本当にやってるなら、やめさせるようにな」
 草間はそう言うと、煙草を灰皿で揉み消して苦笑した。
「だから、これから呼ぶ奴らの前でもう1度、落ち着いて説明してやってくれ」
 疲れきった草間は、溜め息混じりにそう言った。


<本編>
 麻生 雪菜(あそう せつな)は携帯に掛かってきた草間からの依頼を聞いて、思わず眉をしかめてしまった。
「呪い・・・・ですか?」
 思わず不信そうな声になってしまったのも無理は無い。いきなり電話で『依頼人に呪いを掛けている女を止めて欲しい』と言われてしまえば、誰でも不信がるだろう。
「・・・・分かりました。とりあえず、そちら方へ伺わせて頂きます」
 雪菜はそう言って電話を切ると、溜め息混じりに草間興信所へと足を運ぶ事にしたのだ。
 何時も通りの賑やかな街を通り抜け、草間興信所の扉を開けようとした時に思わず雪菜はドアノブを握り締めたまま回れ右をしたくなった。
「な、何?」
 扉の向こうからは男の呻き声ともなんとも言えぬ声が轟いていたのだ。
「・・・・・」
 仕事として色々な人物に携わってきたが・・・・。この声の主とは、あまり話したくないと切実に感じてしまう。
 思わず帰りたいかも。と想い始めたとき、後からポンと肩を叩かれ雪菜は後を振り向いた。
「よ、お姫サマ」
 にっこりと笑顔を浮かべ雪菜の後に立っていたのは渋沢 ジョージ(しぶさわ ジョージ)だった。
「あなたですか。あ、もしかして草間さんに呼ばれて?」
 雪菜は柔らかく微笑みながらジョージに聞く。
「違う違う。たまたま、外を歩いていたら雪菜が入ろうとしてるのが見えたから。新しい依頼なら、俺も一緒に話を聞こうかなーと思ってな」
「そうだったんですか」
 雪菜は少し考えるように目を伏せると、ちょっと困ったように扉の向こう側へと視線を移しながら、困ったように言葉を続ける。
「私・・・草間さんに呼ばれて来たのですけれど・・・何だか、扉の向こう側・・・・」
「だぁぁぁぁぁ!!!!うっせぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 雪菜の言葉に被るように、少年の荒々しい声が聞えてきたと思ったら、次の瞬間にはパタリとまるで何も無かったかのように扉の向こうは静かになった。
「・・・・?」
 雪菜とジョージは顔を見合わせると、そのまま扉を開けて中に入る。先に雪菜が入ると、そこには数人の男女がソファの上で寝ている男を取り囲んでいた。
「全く。情けない男ね」
「本当だな。こんな男のために呪いまでする事もないだろうに」
「そこまで追い込まれてしまっただけでしょう」
 長い髪をまとめ綺麗な眉を寄せて男を見つめる女と、その女の隣にはセーラー服を着た女子学生。そして、その隣には緩くウェーブの掛かった髪をまとめ苦笑を浮かべている青年。
「とりあえず、止めれるもんなら止めないとな」
「その方がいいですね」
「どーします?」
 そして、ぐったりとイスに座る少年の頭の上には子狐。その隣には可愛らしい女の子がいる。
「・・・・あ、あのぉ〜〜〜」
 雪菜はためらいがちに何故だか疲れ切っている男女に声を掛ける。
「何?」
 雪菜の呼びかけに応えたのは、切れ長の瞳が印象的な女だった。
「私、あの草間さんに呼ばれて来たのですけれど」
「武彦さんに?」
「はい」
 雪菜が1つ頷くと、セーラー服を着た少女がソファで気持ち良さそうに眠る男を一瞥してから雪菜とジョージを交互に見る。
「もしかして、この男の事件の依頼?」
「えっと。草間さんに『依頼人に呪いをかけている女を止めて欲しい』と、そう言われて来たのですけれど」
「じゃあ。間違いなくこの男の依頼ね」
 そう言うと、切れ長の瞳が印象的な女はふんわりと笑って雪菜に手を差し出した。
「私も今回、この依頼を受ける事になったの。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「そちらの人も。依頼を受けるのよね?」
「ああ。よろしくな」
 雪菜と握手を終えた女がジョージに手を差し出すと、ジョージは嬉しそうに女の手を握った。
「で?ここにいる全員が依頼をうける人数か?」
 ジョージは辺りを見渡しながら、そう聞くと女は笑って頷いた。
「そうよ。まずは、自己紹介ね。私はシュライン エマ」
「俺は北波 大吾(きたらみ だいご)だ」
「矢塚 朱姫(やつか あけひ)よ」
「奉丈 遮那(ほうじょう しゃな)です」
 遮那の声を聞いた途端、ジョージが驚いたように目を丸くした。
「え?キミ、男!?」
 あまりにも不躾な驚き方に、女の子だと思っていた雪菜も顔を少しだけ赤らめながらジョージの袖を引っ張りながら目線でジョージを諌める。
「あ・・・っと。悪い。いや、でも・・・」
 ジョージが何か言うよりも早く、遮那がニッコリと笑って首を横に振った。
「気にしないで下さい。慣れてます」
「慣れてる・・・」
 雪菜は少しだけ苦笑を浮かべて呟いた。
「あ、で。俺らは依頼の内容の詳しい事が分からないんだけど。依頼人は?」
「待って待って!!こんこんの自己紹介も聞いて!!!」
 大吾の頭に乗っている子狐がジョージの言葉を遮って、そう言った。
「「え?」」
 思わず雪菜とジョージはまじまじと大吾の頭の上の子狐を見つめる。どこから、どう見ても子狐だが聞き間違いでなければ・・・。
 今、人の言葉を喋った。
「おら。いきなりだから2人が驚いてるだろーが」
 大吾は、そう言うと頭に乗っているこんこんを手で掴んで自分の膝の上に置いた。
「こいつは九尾の狐。見た目もこんなんだし、喋り方もこんなんだが・・・たぶん、役に立つ」
「たぶんって失礼だなー」
「これでも大分、言葉は選んでやってる」
「失礼すぎる〜〜〜」
「2人ともいい加減にしなさい」
 はぁと溜め息混じりにシュラインが2人の言い争いを止めると、雪菜とジョージに向き直った。
「とりあえず、あの子も一緒にやるから。よろしくね」
「それで」
 シュラインの言葉を引き継ぐように朱姫が口を開く。
「依頼人だけど、寝てるから」
「・・・寝てる?」
「そ。話を聞いてくと、だんだんだんだんと叫び声とかエスカレートして手におえなくなったから」
「俺が眠らせた」
 よじよじと、こんこんが再び大吾の頭に乗っていくのを止めないで大吾が答えた。
「大体の話は聞いたしな」
「あ、じゃあ」
「入ってくる前に扉の向こうまで聞えた怒鳴り声は」
「そ、俺」
 大吾は頷くと、2人に1枚の写真を出して見せた。2人は差し出された写真を見ると、そこには木に向かい何かを打ち付けている女の姿があった。
「これ・・・」
「それが、問題の女性だそうですよ」
 そう言いながら遮那はもう1枚の紙を2人に差し出した。
「それと、これがもう1つの問題の場所」
 明るいポップな売り文句。はっきり言って・・・。
「センス悪いな」
 ジョージは素直な感想を述べてから、遮那の方を見た。
「僕も同意見です。依頼内容の方ですが、どうやら女は確実に依頼人である男を呪っているようです」
「悪夢を見たり、不意の事故が多かったりな。話を聞いていると、どうやら呪いを受けているのは確実なんだよ。で、男はこの女の抹消を依頼してきたんだ」
「抹消・・・ですか」
 大吾の言葉に雪菜は眉を潜める。人が傷つくのを嫌う心優しさを持つ雪菜らしい表情にジョージは笑みを浮かべながらシュラインに聞く。
「これの出所は?」
「女の友達らしいわよ。だから、これから二手に分かれて行動しようっていう話が出ているの」
「女の友達とこの場所についての情報収集係り。そして、この神社に向かって必要とあらば女を止める係りとね」
 桐伯がそうにっこりと説明すると分かった様に頷いた。
「あの、私達はどうすればよいですか?」
「ん〜、そうね。どっちに行きたい?」
「俺、神社!!」
 ジョージは手を上げて元気よく答えた。その行動に雪菜が不思議そうな目線を向けると、ジョージは楽しそうに写真をヒラヒラさせながら笑顔を浮かべる。
「イイ女だったら俺が口説くのもアリっしょ?…雪菜、そんな冷たい目で見ないの、イイ女を口説かないのは失礼デショ?」
 あからさまに不機嫌な目線を向ける雪菜の頭を撫でながらジョージは悪びれも無く答える。そのジョージの様子に、雪菜はハァと溜め息を付きながらシュラインに向き直って答えた。
「私も神社の方へと伺わせて頂きます」
 それから、瞳を伏せながら悲しげに首に下げている銀の細い十字架のネックレスに手を置いて、呟くように小さな声を出した。
「そう簡単に人の命を絶つ願いを・・・・して欲しくは無いです」
「それじゃあ、それぞれ仕事に分かれましょうか」
 シュラインが言うと、それぞれが頷いて草間興信所を後にした。


□情報収集1□
 シュラインと遮那は閑静な住宅街を歩きながら、手に持っているメモを頼りに女の友達の家を捜していた。
「依頼人の情報が正しければ、この辺り・・・のはずですけれど」
 遮那がそう言うと、シュラインがメモに目を落としてから頷いた。
「そうね。もう着いてもいいはずなんだけれど」
「あ!ありました!!ここです!!!」
 ちょうど角にあたる茶色い煉瓦の洋風式家を見つけて、遮那はシュラインに手招きをした。
「ここ?」
「はい!ほら『本庄』って」
「本当。見つかってよかったわね」
 シュラインは笑みを浮かべながらインターホンを押した。ピンポーンと軽いチャイムの音が鳴った後に、インターホン越しに女性の声が聞えてきた。
「はい?」
「私、シュライン エマと言います。『零奈』さんの事で美嘉さんにお話がありまして」
「・・・零奈?あの、ちょっと待って下さい」
 カチャンとインターホンが切れる音がした後、シュラインと遮那は向き合って頷いた。
「どうやら、ご本人に当たった様ね」
「早く終るといいですけれどね」
「それは、私達次第よ」
 シュラインが答えると、玄関の扉が開いた。
 中から出てきた少女を見てから、シュラインと遮那は軽く会釈をして手に持っている写真を取り出した。

□呪い屋神社1□
「それじゃあ、男の人が・・・」
「まぁ。全面的に悪いと言えば悪いのです」
 桐伯は苦笑を浮かべながら雪菜に言った。依頼人である男の事情を聞いていなかった雪菜とジョージに、2人が来る前までのことを話しているのだ。
「情けないな。男なら浮気はばれないようにやれってんだよ」
「違う」
 ジョージの言葉に朱姫はするどく突っ込み、言葉を続ける。
「だいたい、他に彼女が3人ってどういう事なんだかな。呆れるより怒るより、人間性を疑うな」
「・・・同じ男として耳が痛いですね」
 ほんの少しだけ苦笑して桐伯が答えると、呪い屋神社の方を見つめている大吾に向き直った。
「どうですか?そちらは」
「・・・やっぱし、納得いかねーな」
 大吾は頭に乗っているこんこんを引き摺り下ろすと、首根っこを捕まえて呪い屋神社の方へと差し出すように前に押し出した。
「な、何するんだよ〜〜」
 バタバタと暴れるこんこんに大吾は怒鳴るでもなく、ただ静かに聞いた。
「お前、あそこに何か見えるか?」
「え?」
「呪い屋神社。見えるか?」
 大吾の唐突な言葉に、それまで談笑していた他の面々も言葉を止めた。
「俺には大きな木が1本。ただ、それだけしか見えない」
 こんこんは静かに深呼吸をして、静かに呪い屋神社のある場所を見つめる。それから、しばらくした後でこんこんは大吾の方を振り向いて答えた。
「こんこんにも、そう見える」
「どういう事?」
「たぶん。霊力のある人間の目は誤魔化せないって事だ。ただ、よほど注意して見ないと分からないようだがな」
 そう大吾が言うと、朱姫も深い深呼吸をした後で呪い屋神社の方を静かに見つめた。
「・・・・本当ね。それに、段々と雲行きが怪しくなって来てるわ」
 肩にかけてある破魔の弓と矢の入っている袋を握り締めた。
「霊が・・・集まってきている」
「どうしますか?」
 桐伯が一歩前に出て大吾の横に並ぶ。
「シュラインさんからの連絡を待ちますか?」
「そうだな。後、五分だけ待って・・・連絡が来なかったら、入ろう」
「まぁ、今の所は問題の女も来てないし大丈夫だろう」
「そうだといいな」
 ジョージの言葉に頷いてから、大吾はポフンと音を立ててこんこんを頭の上に乗せると、胸騒ぎを大きくさせる神社を見つめた。

□情報収集2□
 シュラインと遮那は女の友達から事情を聞くと、近くのネットカフェへとやってきていた。
『初めて付き合っていた男に・・・そんな酷い裏切りをされたら。誰だって、恨みぐらい持つでしょうけれど・・・でも、あの子が呪いなんてするはずなくて』
 女の友達の言葉を思い出しながら、遮那はパソコンのキーボードを叩いていく。探索に掛ける文字列を並べながら、横で思案顔で物思いに耽っているシュラインに声を掛ける。
「さっきの言葉が気になりますか?」
 遮那の言葉にシュラインは苦笑して頷く。
「ええ。話を聞いたら突然の変わりようだっていうじゃない・・・あ、後『丑の刻参り』も付け加えてくれる?」
「はい」
「それに、丑の刻参りって見られたら本人に呪い全部返るんじゃなかった?それなのに、何故か何もないなんて・・・可笑しいと思ってね」
「確かに・・・そうですね。あ、これで探索かけていいですか?」
 探索の文字列を見て、シュラインはコクンと頷いた。
「お願い。・・・本当に胡散臭い神社ねぇ」
「そうですね」
 それから数秒してから画面に探索で引っかかったURLが出てきた。
「以外に多いですね。こんな胡散臭い探索文字ばかりなのに」
「世の中は不思議だらけって事でしょう」
 シュラインは、そう答えると遮那と一緒に気になる言葉を捜しながら、画面をスクロールさせていった。
 ちょうど、1番下に当たる場所に『呪い屋神社っていう場所の秘密』という言葉を見つけ、遮那はスクロールさせていた指を止めた。
「・・・これ、見てみますか?」
「ええ。その方がよさそうね」
 シュラインが答えると、遮那はその言葉のURLをクリックした。そこは、個人で不思議な現象を調べてネットにUPしているというサイトだった。
「これね」
 シュラインが指差した所には、『呪い屋神社について』と書かれている箇所があった。その場所を更にクリックしていく。

『呪い屋神社っていう神社があるんだけれど、本当はそこは何もない空き地。ただ、一本だけそびえたつ木だけが切り倒せないっていう噂。何でも、その木には1人の少女が呪いを掛けたんだって。その呪いっていうのが、100の呪いを木に植え付ける事で自分の願いを手に入れるっていう、とんでもない呪い。少女は永遠の命を手に入れるために、その木に100の呪いを集めている。だから、呪いたい人間がいる。そんな強い想いを持った人間のもとに『呪い屋』神社の紙が届くんだ。でも、届いても行ってはダメだよ。呪いなんかしたら、全部跳ね返るからね。それに、100の呪いが溜まったら、その少女が国を壊すって言う事みたいだし。まぁ、伝承だから、どこまで本気かは分からないけれどね』

「・・・シュラインさん」
 画面を一通り見終わると、遮那が固い声でシュラインに呼びかける。シュラインは唇を噛み締めてカバンの中から携帯を取り出した。
「すぐに、連絡してくるわ」
「はい」
 遮那は、携帯をかけながら入り口まで出て行くシュラインを見送りながら再び画面を見つめ。それから、その画面をプリントアウトした。
「大丈夫でしょうか・・・彼ら」
 もし、この画面に書かれている事が本当だとしたら。向こうは、とんでもない事態になる。

□呪い屋神社2□
 携帯を切ると、桐伯は自分を見つめている面々に振り返った。
「シュラインさんからの情報によると、ここは何も無いそうです」
「え?」
 雪菜が不思議そうに問い返すと、桐伯は電話越しにかかってきたシュラインの情報を話し始めた。
「ここは何も無いはずの場所なのです。地図の上にも存在してない。ただ、呪い屋神社という場所は、ある一定の条件が揃うと出現する場所なのです」
「条件?」
 大吾の言葉に桐伯は頷く。
「誰かを呪いたいという強い気持ち。それがある人の元へと、あの紙が届くそうです」
「・・・なるほどね」
「つまり」
「誰かを呪いたいという気持ちの人間が、呪い屋神社を出現させるって事か」
 朱姫とジョージが固い声で言うと、桐伯は頷いて呪い屋神社を見つめた。
「時間が無いみたいね」
 朱姫が言うと、大吾が1つ頷いた。
「殺気が強くなってる・・・行くか」
 そう言うと、呪い屋の敷地内へと入っていった。
 全員が呪い屋神社の敷地内に入ると、その瞬間。風が蠢き、周りの空気が一瞬で変わった。
「・・・ご丁寧なお出迎えだな」
 大吾は竹刀入れから刀を取り出し、ゆっくりと構える。その横では、同じように破魔の弓を取り出して、構えを取っている朱姫。こんこんも大吾の頭の上から降りて人間の子供に変身している。
「さて、どんな出迎えでしょうかね」
 桐伯もゆっくりと辺りを見渡しながら、緊張した面持ちで構えを取る。
「分かりませんけれど・・・あまり、歓迎できない感じですね」
 雪菜が、そう言った瞬間雪菜の上から奇声を上げ落ち武者姿が落ちてきた。
「雪菜っ!!!」
 ジョージは声をあげると、銃を取り出して落ち武者に的確に打つ。
 バンバンと大きな音の後、雪菜は落ち武者を横に避けた。
「はぁ。やっかいね」
 朱姫は呆れたように辺りを見渡した。そこには、落ち武者姿の幽霊とも人間ともつかぬ者たちがわらわらと出てきていたのだ。
「どうしますか?」
「簡単だ」
 桐伯の問いに大吾は答えると、目の前にいた落ち武者に刀を差し込んで上へと振り上げた。そのまま横にいた落ち武者へと上から下に刀を振り下ろす。
「雑魚は雑魚。数だけ集めても、俺らには勝てない。だろう?」
 ニヤリと楽しそうに笑う大吾に、他の面々は頷いてから背中を合わせた。
「ざっと、百くらいか」
「1人頭、16〜17くらい?」
「はー、肩がこるな」
 大吾が辺りの敵を見渡して数をはじきだすと、朱姫とジョージが疲れたように声をあげた。
「とりあえず。死なないように頑張りましょうか」
 桐伯はそう言うと、奇声をあげて向かってきた落ち武者に糸を絡めて発火能力を発揮させた。
「いくぞ!!」
 一気に襲ってきた落ち武者を合図に、それぞれがばらけて一体一体を倒していく。
 確実に仕留めていく過程の中で、大吾は奥にある木の下に誰かが倒れているのを見た。
(誰だ?)
「危ない!!」
 声に驚いて後を振り向くと、目前まで迫っていた落ち武者がいた。大吾は下へとしゃがみこむと、そのまま足を振り上げ落ち武者の首に回し蹴りをする。ずるりと、下に落ちていく落ち武者の背中には矢が1本刺さっていて、落ち武者の向こう側を見ると朱姫が矢を放ったところだった。
「助かった」
「どういたしまして」
「ついでに。悪ぃけど、俺は向こうの木に行くから!」
「は?いきなり!!ちょっと!!!」
 走りだした大吾を見送る形になった朱姫は「何なの!?」と悪態をつきながら、次に襲い掛かってきていた落ち武者に弓を向けた。
「北波さん!」
 ちょうど木の傍で落ち武者の相手をしていた雪菜は、走ってきていた大吾に驚いて声を掛けた。
「どうしたのです?」
「木の下に誰か倒れてるだろう?」
「え?木の下・・・」
 雪菜は木の方を振り向こうとした時、上から再び降ってきた落ち武者に大鎌『サロメ』で切る。漆黒の刃で斬られた落ち武者は闇に斬られた場所から闇に取り込まれ消滅して行った。
 落ち武者がいなくなったところで、再び木の下に目を向けるとそこには白い着物を着た女が蹲るように倒れていた。
 雪菜と大吾は走って、その女を抱き起こす。
「おい!!大丈夫か!?」
 大吾が声を掛けると、女はゆっくりと瞳を開けていく。それから、驚いたように大吾と雪菜を見つめて大声をあげた。
「いや!!やめて!!!いや〜〜〜!!!!」
 取り乱すように大吾の手を振り払おうとする女に、雪菜は優しく静かに言い始める。
「落ち着いて下さい。私達は何もしませんから・・・」
「ああ。あんたが『零奈』か?」
 大吾が女の名前を言うと、ぴたりと動きを止めて二人を見つめた。
「どうして・・・私の名前を?」
「それを言うと、時間が掛かるから後でな。それより、何があったんだ?」
「分からない・・・ここで何時もみたいに藁人形を木に打ち付けてたら」
 そう言うと女は木を見つめて震えた。
「何かが動き出して・・・それから、それから」

『誰?私の邪魔をするのは』

 遠くとも近くとも。どちらとも取れる場所から聞えてきた声に雪菜と大吾はバッと辺りを見渡す。だが、辺りには何も無く異様な雰囲気で木が揺れているだけだった。
「顔くらい見せたら、どうだよ」
 大吾が挑戦的に言うと、木が一際強く揺れた。
『貴方達の前にいるじゃない』
 声は面白そうに答える。大吾と雪菜は前を見ると、そこには何時の間にか赤い赤い着物を着た美しい少女が立っていた。
『ねぇ、貴方達だぁれ?』
「あいにく。だれかまわず名を名乗れるわけじゃなくてな」
 大吾の言葉に少女はクスクスと笑うと、木にもたれて長い髪を揺らした。銀色に揺れる髪は、見ているだけで幻想的で、少女が何者であるかを感じさせる。
「お前が元凶か?」
『元凶?何の?』
「この辺りを覆い尽くしている・・・・異様な雰囲気のです」
『異様・・・なのかな?私には気持ち良いけれど。だって、この子』
 少女は女を指差すと、楽しそうにクスクスと笑う。
『この子が呪いを私の体に打ち込んでくれたおかげで、ようやく百の呪いが集まったわ・・・。私の夢がやっと叶う』 
「夢?」
『そう・・・永遠の命を手に入れる』
「永遠な」
 大吾は興味なさそうに答えると、女を雪菜に預けて立ち上がった。
「永遠なんて生きてもしょうがねーだろ」
 刀を構え少女へと振り下ろす。
「俺が終わりにしてやるよ」
『貴方にできるかしら?』
「壊・滅・崩!!!炎の力よ、形となって現れよっ」
 大吾が叫ぶと辺りに焔が現れ少女へと突撃する。しかし、少女は炎を手で受け止めると、にっこりと笑って軽々と炎を消した。
『この程度で私を相手にしようなんて・・・わからない?私の後ろにいる、気持ちの良い恨みの声が』
「・・・ちっ」 
 大吾は舌打ちをすると、後にいる雪菜に声を掛けた。
「そいつを護れ。ちょっとこの辺りを巻き込むからな」
 雪菜は大吾の言葉に頷くと、女を抱き寄せ『サロメ』を構えた。
「招・魂・飛!!!魂を元あるべき場所へと押し戻せっ!!!!!!!!!!!!!!!」
 そう叫ぶと、大吾は刀を振り上げ少女へと振り下ろす。
『出来る訳ないでしょう?』
 大吾の刀を受けながら、そう言う少女に大吾はニヤリと笑いながら答える。
「やってみなくちゃ、分からないだろうが」
 静かに息を整える。炎に炎をぶつけても勢いを増すだけ。炎を消し止めるためには、水となって相手の行動を読み取る。
 どんな相手でも、水となり雰囲気を読めれば隙が出てくるはずだ。
「い・・・・」
 一瞬の隙。だが、大吾はそこを見逃さなかった。自分に勢いをつけるために、刀を想いっきり振り下ろすと、叫んだ。
「っけぇぇぇぇぇ!!!!!」
『・・・ぎゃぁぁぁぁああああ』
 体を斬られ、少女は声を上げるとそのまま炎に包まれ消滅した。
 その瞬間、辺りを包んでいた異様な雰囲気が溶け、辺りに散らばっていた落ち武者達も姿を消した。
「終った・・・か?」
 大吾は疲れたように下に座り込むと、女の方を見て笑った。
「なぁ。あんたさ」
「・・・・え?」
「俺らに依頼しない?」
 バタバタと雪菜と大吾の所へと駆けつけてくる桐伯たちを見ながら、大吾は言葉を続ける。
「俺らに依頼しろって。あの男の事。安全だぜ?」
 雪菜は大吾の言葉に微笑みながら、女の体を離した。
「少なくとも、呪いなんか危ない事やめた方がいい」
 大吾の言葉に女は涙を流した。

□人を呪わば穴2つ□
 草間興信所の扉を開けると、そこには先に帰ってきていたシュラインと遮那がソファで再び男との相手をしている所だった。
「あ!」
 遮那は嬉しそうに、帰ってきた六人を出迎えた。
「お帰りなさい。心配してたんですよ」
「ああ」
 大吾は、そう答えるとスタスタと男の所へと歩いていく。その様子を見守りながら、他の5人は疲れた体を休める為に、ソファやイスに座る。
「さて。今回の依頼は終った。あの女がお前を呪うことは2度とない」
 そう大吾は言うと、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて男の両肩を手で掴む。
「それと、これは女からの伝言と依頼だ」
「へ?」
「『この最低のクズ野郎』」
 男は間の抜けた表情を浮かべると、耳元で聞えた大吾の声にピクンと体を揺らした。
 それから、スクッと立ち上がると阿波踊りだか、何だか分からない踊りをしながら扉の外へと消えていった。
「何をしたんだ?」
 何時の間にか現れた草間が出て行った男を見つめつつ、そう聞くと大吾は楽しそうに答えた。
「俺のお気に入りの言霊の1つ。酔っ払いを躍らせる言霊」
「あれじゃあ、警察と仲良くなるぞ」
「それはそれでいいんじゃねーの」
 大吾は楽しそうに答えると、ソファに座って大きく背伸びをした。
「あー、疲れた」
「こんこんも」
 そう言うと、こんこんは大吾の膝の上に座って寝息をすぐに立て始めた。その様子を見て、大吾も眠気に襲われたのか、驚くほどに早く目を閉じて夢の中へと落ちていった。
「こっちも、お疲れのようだな」
 ジョージは3人が座れるイスの上で、雪菜と朱姫2人だけで座り寝ているのを見て微笑んだ。
「ご苦労様」
 シュラインが持って来たタオルケットを大吾と、雪菜と朱姫に掛けると窓際のイスに座った。
「なぁ、キミってさ」
「はい?」
 イスに座りシュラインが淹れてくれたコーヒーを飲みつつ、声を掛けたジョージの方へと桐伯は振り向いた。
「バーを経営してるんだろ?」
 横に座りながら聞くジョージに桐伯は「ええ」と答える。
「どこで、それを?」
「いつぞやのカクテルコンテストで見かけた」
「そうなのですか?」
 コーヒーを飲みながらジョージはニヤリと笑った。
「今度、キミの店を教えてよ。良い酒がありそうだ」
 桐伯は面食らったような表情を浮かべると、クスクスと楽しそうに笑った。
「ええ。喜んで。ぜひいらして下さい」
 シュラインは窓の外を眺めながらコーヒーを飲んでいた。その横には、歩きつかれたのか遮那が小さな寝息を立てている。
「お疲れさん」
「武彦さん」
 シュラインは横に立っている草間を見上げると、柔らかく微笑んだ。
「武彦さんから、そんな言葉をかけてもらえるの・・・もしかして、初めてじゃない?」
「かもしれないな。だが、今回はお前も何だか疲れてるようだったからな」
「疲れ・・ていうかね」
 シュラインは茶色い波を打つコーヒーを見ながら目を伏せた。
「恋をすると・・・相手の浮気も許せなくて、呪いまで走っちゃうんだなって」
「そうか」
「私も、そうなるのかな。って、ちょっと思っただけ」
「・・・安心しろ」
 草間はシュラインの頭に手を置くと、口の端をあげて微笑んだ。
「お前ほどの良い女はそうそう居ないからな。お前と付き合ったら浮気なんかする暇ないぞ」
 その言葉にシュラインは、目を見開いた後。クスクスと笑った。
「キザね」
「そうか」
「ええ。すっごく」
 シュラインは、そう答えながら草間を見つめていた瞳を外へと向けた。

 
 願わくは。
 呪いをするような、自暴的な恋ではなく。
 幸せだと思える恋をしていってほしい。
 そんなことを思いながら。
 


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1297/ 麻生・雪菜 / 女 / 17 / 高校生】
【1273/ 渋沢・ジョージ / 男 / 26 / ギャンブラー】
【0086/ シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0332/ 九尾・桐伯 / 男 / 27 / バーテンダー】
【0102/ こんこん・ー / 男 / 1 / 九尾の狐(幼体)】
【1048/ 北波・大吾 / 男 / 15 / 高校生】
【0506/ 奉丈・遮那 / 男 / 17 / 占い師】
【0550 / 矢塚・朱姫 / 女 / 17 / 高校生】

※並び順は申し込まれた順になっております。

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■         ライター通信          ■
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 本気で本当にごめんなさい(涙)
 納品がギリギリになってしまいました(涙)本当に、ギリギリまで間に合わないかもしれないとあせっておりましたが、何とか納品に間に合いました・・・。ギリギリですけれど(涙)
 本当に申し訳ございませんでした(涙)

 今回はちょっと趣向を変えてみました。全員が統一の文でお送りしておりますが、場面ごとに出てくる人物を変えてみたのです・・・。が、皆様の反応が気になる今日この頃でございます(^^;

 今回は初めましての方も多く、それぞれの人物をそれぞれの人物を会わせたり話せたらなぁと想っていたのですが、私の力不足でそれもできませんでした(涙)次こそは!!(決意)

 そして、時間の無さから皆様のプレイングをきちんと生かしきれなくて申し訳ございませんでした。
本当に自分の力のなさと計画力のなさに涙が出てきてしまいます(涙)

 私信です。
 シュラインさん、お名前の件ではご指摘ありがとうございました(^^;)私、勘違いをしておりました(苦笑)本当に本当にすいませんでした(ぺこり)

 それでは、少しでもこの話を読んで『ああ、こういう話好きかも』、『うん、楽しかったゾ』と思っていただければ、これ以上の幸せはございません。
 また、どこかでお会いできることを祈りつつ。