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<東京怪談・PCゲームノベル>


THE RPG 地下2F


「えっ、この階って頭脳がいるのか?!」
 アキラの言葉に、時司・椿(ときつかさ・つばき)は目を剥いた。冷や水を浴びせられ、酔いも吹っ飛ぶ勢いだ。
「あ、俺今難しいこと考えたら意識が……。」
 ふら〜とその場に倒れこんでしまう。
「うわっ、白目剥いとんで大丈夫かいな。」
「椿さ〜ん、しっかりしてくださーい。」
 淡兎・エディヒソイ(あわと・えでぃひそい)と三下が慌てて椿を助け起こす。
 すぐに我に返った椿はじっと三下を見つめる。
「あんた頭よさそうだよな。眼鏡してるし! よし、三下僧侶、君に全てを任せた! というか今こそ君の出番だ!! 俺の分まで頑張ってくれ!」
「えええっ! 何言ってるんですか?!」
「そういや、エディー商人も眼鏡してるな。学生だしなっ! 期待してるぜ!」
「おいこらおっさん、あんたも学生やろうが。」
 エディヒソイは高校生だが、椿もまだまだ立派な大学生だ。つまり、学生としては現役である。
「だって俺、体育会系だし……。」
「関係あらへんわ!」
 げしっとエディヒソイにどつかれ、椿がひーんと泣きながら床を転がった。三下がその周りでおろおろとしている。
「何してるんですか。先に行きますよ。」
 付き合っていたらいつまで経っても前に進めないことを見て取って、五降臨・雹(ごこうりん・ひょう)がさっさと目の前の扉を開いた。否、開こうとしたが鍵がかかっているようで開かない。
 いきなり、扉にくわっと口が出来た。
『お前は何者だ!』
「ぎゃーーーー!!」
 あまりに異常な光景に三下が絶叫した。エディヒソイはそのうるささに耳を塞いだ。
「……すでにもう始まっているってことですね。」
 ふむと考え込んだ雹の背後で、椿は再び失神している。
 雹はぽんと手を叩いて答えを述べた。
「大丈夫です。調子いいですよ。」
『それでは頑張ってくれたまえ。』
 ギギィと扉が自動的に開いた。口は消え、元のドアに戻っている。
「……なんやったん?」
 エディヒソイはわけが分からずぽかんとしている。
「お前は誰だ、英語にするとwho are you?ですよね。それをちょっと入れ替えてhow are you?ってことにするんです。だから、この階に来るまでどうだったかって聞いていたわけですね。」
「すごいです! 雹さん!」
 三下が惜しみなく拍手を送るが、エディヒソイは胡散臭げに雹を見やった。
「でもそれって、めっちゃ適当やな。ほとんど当て勘の世界やん。」
「それともなんですか? アキラの哀れな下僕たちって言われたかったですか?」
「……それは嫌や。」
 エディヒソイは何かにものすごく敗北したような気分になった。



 気を取り直して(椿は目を覚まさなかったので、エディヒソイに引きずられていくことになった。)、先へ進むとちょっとした空間が広がっていた。
「なんやここ。あそこまで飛べ、言うんやないやろうな。」
 エディヒソイの言うとおり、通路は扉を抜けたところで終わっており、3メートル四方ほどのブロックが向こう岸との間に浮いている。覗き込むと下は真っ暗で、どこまで落ちるのか想像も出来ない。
「ってい!」
 どこからか掛け声が聞こえて、三下は怯えて背後に飛び退いた。
「のわっ!」
 三下が逃げたせいで、襲い掛かってきたものはちょうど線上にいたエディヒソイを捕らえた。椿を引きずっていたせいで、機敏に対応が取れなかった。
 何か綱状のものが身体に絡みつく。抵抗したが余計に絡まっただけだった。
「うわぁ!!」
 ぐんと引っ張られ、エディヒソイは通路から転げ落ちた。
「エディーさん!!」
 慌てて雹が糸を繰ろうとしたが、それより早くエディヒソイは浮いているブロックへと連れてこられていた。
 いつの間にか、そこには人影が出現している。
「あれは! 嬉璃さんと柚葉ちゃん!」
「じゃじゃじゃ〜ん、そうそう! 柚葉ちゃんだよ〜。」
 柚葉は尻尾は生えているが、何故か今はきつねの耳までついていた。
「ちっ、三下を狙っておったのに。逃げ足だけは速い奴ぢゃ。」
 本当に忌々しげに呟く嬉璃には猫の耳と尻尾がついている。
「どうしちゃんったんですかぁー、二人とも?!」
「可愛いだろ! アキラがつけてくれたんだよ〜。」
「あのクソガキ、ろくなことしませんね。」
 とりあえず敵と判断して雹は、1本の糸を高速で繰り出してみたが、プロックの前で弾かれてしまった。それに気付いた柚葉がにっこりと笑う。
「大丈夫だよ〜。僕たち、これからエディー相手にクイズ大会するだけだから〜!」
「マジで?!」
 ブロックの上で、よく分からない箱の前に立たされたエディヒソイがぎょっとする。
「これってもしかして、俺が間違えたら一蓮托生とか言うんちゃうやろな!」
「そんなにひどいことはしないよ〜。」
「大丈夫ぢゃ。安心して死ねぃ。」
「ええええっ?!!」
 上手く逃げれなかったら、自分があの場所にいたのだと思うと、三下も椿同様気絶の1つでもしたくなった。
「私たちに出来ることは見守るくらいですね。三下さん、諦めましょうか。」
「ううっ、その笑顔が怖いですぅ。」
「むしろ、あなたがあそこに捕まらなくて感謝してるんですけどね。」
 雹に邪気に溢れる笑顔を向けられ、三下は悲鳴すらも凍りついた。
「全く、情けない奴ぢゃの!」
 ふ〜やれやれと嬉璃は肩を竦めた。柚葉が勢いよく片手を挙げる。
「は〜い、では始めよ〜!」
「出来るところまでやったるわ。なんでも来いや。」
 腹を括ったエディヒソイが気合の証明に腕まくりをした。
「じゃあ第10問です!」
「ちょい待って。何問から始まって、何問で終わるんこれ。」
「気にしないで!」
「……分かった。」
 アキラのやることにいちいち目くじらを立てていたら身が持たないことはすでに経験から学んでいる。
 エディヒソイはさっさと頭を切り替えて、持っている紙を読み上げる柚葉に集中した。
「子供が池落ちました。さて、落ちたのは、男の子か女の子かどっちでしょう?!」
「そりゃ男やろ。」
「あったり〜。」
 柚葉からぱちぱちと盛大な拍手が贈られる。
 即答したエディヒソイに雹が感心した。
「池に落ちると、ボッチャンって音がするから坊ちゃん。つまり、男の子ってことですか。」
「え、そうなん? 池に落ちるのって男くらいやろって思うてんけど。」
「…………なんか心配になってきました。私に代わって欲しいです。」
 がっくりと雹は肩を落とした。もちろん答えなど分からなかった三下は、険悪なオーラを放出している雹に硬直している。
「続いては第9問ぢゃ!」
「……なるほど、意味が分かったわ。」
「父親と子供が遊びに行って子供が怪我をした。急いで病院に連れて行くと外科医が『なんで私の子供が!』と叫んだ。これってどういうことぢゃ?!」



 危なくもなんとか正解を答え続けたエディヒソイの前に出口が見え始めた。
「これが最後の問題です!」
 はいっとエディヒソイの前に皿が置かれる。米に茶色い半液体がかけられている。湯気が立っており、匂いは辛そうだ。
「この料理の中には何の材料が入っているでしょう?!」
 柚葉にスプーンを渡され、エディヒソイは恐る恐るそれを口にして、自信満々に叫んだ。
「ハチミツ!」
「……何食べたんですか?」
 雹にはカレーにしか見えなかったのだが、そんなキワモノな料理だったのだろうか。前の階で食べさせられ(かけ)た料理を思い出し、エディヒソイの味覚に自信の持てない雹は唸った。
「でもでも、よくテレビで、蜂蜜とりんごのカレーの宣伝してるじゃないですか。それかもしれませんよ?」
 三下が必死に言い募るが、試験官が頷いてくれなければどうしようもない。果たして、エディヒソイの味覚は正しいのだろうか。
 エディヒソイはじーっと柚葉と嬉璃に見つめられている。
「ファイナルアンサー?」
 重々しく問われて、エディヒソイは確信が揺らめきかけたが、なんとか踏ん張る。
「もち、ファイナルアンサーや。」
 答えも告げられないまま、2人の4対の瞳に責められ、エディヒソイは非常に居心地が悪い。
「もうなんやねん、はよ正解言ってえな。」
「この妙な時間が嫌なんですよね……。三下さん、不正解、覚悟しておいたほうがいいですよ。どうなるんでしょうねえ。5Fまで落とされたら冗談じゃないですよね。」
「聞こえてるわ!」
「仲間割れはよくないよ〜。」
「だったらもったいぶってへんとさっさと答えを言わんかい!」
「答えはこれぢゃ!」
 ガガガガと地面が揺れ出す。予想できた状況に、雹は諦めの溜息をついた。
「間違ってたん?!」
 エディヒソイの悲鳴が轟音の中に響いた。



 エディヒソイは頭を抱えて来るかもしれない衝撃に備えていたが、しばらくすると音がやんだ。恐る恐る振り返ると、宙に浮いていたブロック部から通路が現れている。反対側を見ると、向こう岸にも繋がっていた。
「もしかして、正解?!」
「そうだよ〜。おめでとー。」
「やっぱり三下ですればよかったのう。つまらんわい。」
「そんなっ。嬉璃さ〜〜ん、それはないですぅ。」
「それじゃあ、頑張ってね〜。」
「三下、足を引っ張るでないぞ。」
 アニマルな柚葉と嬉璃の2人に見送られて、通路を進んでいく。
 不意に左右に道が開けた。
「なんやまた迷路かいな。」
「そうでもないみたいですよ?」
 雹は目の前の壁をじっと見つめている。エディヒソイもそれを覗き込み、書いてある内容を読み上げた。
「BJ GZAO →5。……なんや暗号か。」
「あ、暗号?! そんなものどうやって解くんですか?」
「さあ。なんやろ。矢印ついてるし、右へ5歩進んだらええんちゃう?」
「そんなわけないでしょう。」
 雹の一刀両断され、エディヒソイは内心凹んだ。しばらく暗号文と睨み合っていた雹がぼそっと呟いた。
「GO LEFT。」
「へ?」
「雹さん、分かったんですか!」
「この→5って奴、アルファベットを右に5つずらすって意味じゃないですかね。」
 エディヒソイと三下は揃って首を傾げつつ、指を折る。
「始めはBやから、C、D、E、F、Gで、Gやな。」
「次はJですから、K、L、M、N、Oで、Oですね。」
「んで次がLになって、ZはまたAに戻るとE、F、T。……LEFT。ってことは、GO LEFT。……ほんまや。」
「左に行けってことですね。雹さんすごいですぅ。」
 2人でひとしきり感心している間に、雹はすでに先に歩いて行ってしまっている。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ!」
「そうやで。うちなんて椿さん抱えとんのに。」
 いまだに目覚めない椿を引きずって、エディヒソイと三下は慌てて雹の後を追った。



 雹は次々と暗号を解いていく。古代文字を代用した暗号文を鮮やかに解いて見せたときには、エディヒソイと三下は呆然と雹を見つめてしまった。
「考古学は得意分野なんですよ。」
 なんでもないことのように言って、雹は開いた扉をくぐっていく。三下が入った時点で扉が自動的に閉まり、鍵がかかってしまった。
「あれ、行き止まりってか、部屋やん。」
「他に出口はないみたいですし。間違ったんでしょうかね。」
「三下さん、そんなことを言うのはこの口ですか?」
「ひぃぃぃ〜〜〜。すみません、言い間違えましたぁ〜〜。」
「ケンカするのはいいとしても、殺さんといたってや。」
 気が立っている雹は三下の首に糸を巻きつけていた。エディヒソイは仲裁に入るでもなく、部屋の中を散策している。
 部屋の壁には目ぼしいものが見つからなかったので、入ってきた扉に近づいた。
「あ、なんか書いてあるで。なになに? 四字熟語を50個言え。……やって。」
 エディヒソイが振り返ると、三下がぜえぜえと喉を鳴らしているところだった。間一髪絞め殺されずに済んだらしい。
「なんなんやろ? 五里霧中とかでええんかな?」
「でしょうねえ。阿鼻叫喚、言語道断、暗中模索、晴耕雨読、窮鼠噛猫、大山鳴動、弱肉強食、花鳥風月、臥薪嘗胆、荒唐無稽。」
「そんなすらすら出てくるなんてすごいな自分。」
「感心してないで、考えてくださいよ。」
 雹の視界の端で、むくりと今まで気絶していた椿が身体を起こした。
 滂沱の涙を流しつつ、瞳の中はそれを弾き飛ばしそうな勢いの炎を燃やしている椿に、雹は嫌な予感を覚える。
「おっ、やっと起きたんか。大丈夫か?」
 エディヒソイが今の問題を教えようと口を開く前に、雹が不用意な発言を留めようとするよりも早く、椿が扉に向かって叫んでいた。
「超絶美形で知的聡明な品行方正で清廉潔白な龍力が宿ったステキな俺こと時司椿くん!」
「……………………。」
 全員で思いっきり沈黙してしまった。
「超絶美形は四字熟語ちゃうやろ。」
「は? 何が?」
「四・字・熟・語。椿さんも他にもっと考えて。」
「???」
 椿はきょとんと首を傾げている。雹は片手を上げてそれを制した。
「えーと、もしかしてそれ、一番初めの答えですか?」
「一番初めの問題ってなんやったっけ?」
「確か、お前は何者だ、じゃなかったですかね?」
 答えた記憶がないため、エディヒソイと三下の記憶は曖昧だった。
「……ちょお待って、それじゃあ、あれ、自己紹介なん?!」
「えー、そんなに驚くことか?」
「当たり前やっ!」
「なんでー?! 眉目秀麗って言わなかっただけ謙虚だろ!」
「これぞまさしく、厚顔無恥ですね。」
「言いすぎだろ、それは! 繊細な椿くんは傷心したぞ!」
「そうですか? でも、回答としてそれを答えてたら、絞め殺してましたから。」
 後ろにハートでもつきそうににっこりと雹に微笑まれ、椿は凍りついた。エディヒソイと三下もその余波を浴びて硬直する。
 地獄絵図を眺めながら、三下が涙ながらに呟いた。
「僕たちって呉越同舟だったんですね……。」
 このダンジョンで一体何があったのか、椿は知る由もなかったが、ずっと気絶しててよかったかもしれないと思った。



『ぱんぱかぱ〜ん。おめでとー。攻略時間4時間29分11秒! 次の階はついてからのお楽しみ! 頑張ってね〜。』
 あまりに大騒ぎだったので、部屋が動き出していたことに誰も気付かなかった。
 憎っきアキラの声でようやく冷静を取り戻した。
「そういや、三下僧侶、仕事遅刻したらクビってどういうこと? 首を切られるような恐ろしい職場に通ってんのか?」
 椿は会社の様子がよく分かっていないらしい。ある意味それと同義かもしれないと三下は仕事場の編集長を思い出して天を仰いだ。



 To be continued...?


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1240 / 五降臨・雹(ごこうりん・ひょう) / 男 / 21歳 / 何でも屋】
【1207 / 淡兎・エディヒソイ(あわと・えでぃひそい) / 男 / 17歳 / 高校生】
【0314 / 時司・椿(ときつかさ・つばき) / 男 / 21歳 / 大学生】
(受注順で並んでいます。)

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、龍牙 凌です。
続けてのご参加、どうもありがとうございます。
この階は少し大人しかったのではないかと思います。
…そうでもないかもしれませんね。
なにやら仲が悪いみたいですが、どうなんでしょう。(笑)
ちなみに、第9問の答えは有名なので知ってますよね?
答えは「外科医は子供の母親だった」です。
満足していただけたでしょうか?
それでは、最終話になる地下1Fもプレイングして頂けたら幸いです。