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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


クリア・ノイズ!

□■オープニング■□

 インターネットカフェ・ゴーストネットOFF。
 そこにあるすべてのパソコンに、ゴーストネットオリジナルオンラインゲーム『ノイズ』がインストールされているのをご存知だろうか。
 そこに行かなければプレイできないにも関わらず、常時20人以上がログインしているというそのゲームは、一部のマニアに絶大な人気を誇っている。その秘密は、音のパズルという斬新な戦闘スタイルにあるのかもしれない。


面白い!!  投稿者:ミサ  投稿日:200X.02.01 10:35

 面白いですね、『ノイズ』。
 音のパズルなんて凄く新鮮でいい感じ♪
 それにこのゲーム、戦闘のコツさえ掴めばレベル上げなくても
 結構対応できるんでいいですね。どうしても苦手だったら
 回数重ねてレベル上げればいいし……。
 1人でも充分楽しめるのが○です(*^ー゜)b

そうだね  投稿者:秋成  投稿日:200X.02.01 11:08

 ソロでも遊べるってのがいいよね。
 日本のネットゲーってさ、パーティープレイを推奨しすぎてて
 1人じゃ強くもなれないし遠くまで行けないってのが多スギ。
 その点『ノイズ』は、1人でも行く気になればどこまでも
 行けるから、やれることは少なくても自由度は高いよ。
 いつも友達と来れるってわけじゃないしね^^;

幽霊?   投稿者:ミサ  投稿日:200X.02.01 11:44

 レスありがとうございます^^>秋成さん
 1人でも遠くまで行けるのは嬉しいですねー
 ところで、実は私昨日始めたばかりなんですが、早速妙な
 噂を聞いちゃいました(>_<)
 『偽りの草原』に幽霊が出るってホントですか??

見たよー  投稿者:水城  投稿日:200X.02.01 12:13

 横レス失礼★
 幽霊かどうかはわからないけど、変なモノ見たよー
 友達と一緒にいたんだけど、不思議なことに見たモノが違うん
 だよね…… かといってイベントキャラとは思えなかったし。
 あそこなんかある(いる?)のかなぁ?
 ゲーム内で会ったらよろしくね♪>ミサちゃん


 さぁ、この謎を解くのは誰……?



□■視点⇒御影・瑠璃花(みかげ・るりか)■□

 わたくしが『ノイズ』の噂を聞いたのは、執事の榊からでした。
「ねぇ、榊。何か面白い話はなぁい?」
 モデルの仕事もお休みで、暇を持て余していたわたくしは、そんなふうに榊に訊いたのです。
 すると榊はどこからともなく現れて、わたくしに教えてくれました。
「瑠璃花様。近くのネットカフェに、面白いゲームがあるそうですよ」
「あら、どんなゲーム?」
 わたくしは実は、ゲームに目がありません。どのくらいかというと、我が御影財閥の経営する玩具会社の会長に就任しているくらいです。ゲームは今後最も売り上げの伸びる玩具だと、わたくしは踏んでいます。そんなわけで、日々どんなゲームに人気があるかなどの調査は怠らないのです。
 榊はサングラスをくいっと上げると。
「『ノイズ』というタイトルで、ゴーストネットOFFオリジナルのオンラインゲームです。何でも、戦闘が音のパズルらしいですよ」
「まぁ! 面白そう〜♪」
 音のパズルという響きだけで、わたくしには充分でした。わたくしは音楽が大好きでしたし、同じくらい大好きなゲームと音楽を同時に楽しめるのでしたら、やらない手はありません。
 早速わたくしは榊を連れて、そのネットカフェへ出かけました。


 カウンターで会員証発行の手続きをしていただき、席につきました。榊はとりあえず邪魔なので、その辺にいるようにと注文をつけておきます。
 ネットゲームの基本はまずアカウント登録です。専用ページを開き、簡単にできる仕様になっていました。親切設計です♪
 次はいよいよログインです。『ノイズ』を起動させて、先程登録したアカウントとパスワードを入力します。無事に入れたら、次はキャラ登録。『ノイズ』には男性キャラと女性キャラ2種類しかないようでしたので、迷わず女性キャラを選びました。名前はモデル名でもあるMICHAELです。
 ログインボタンを押すと、何だか広い場所の中央にわたくしのキャラが現れました。
(あら……)
 第一印象。
 画像はあまりキレイじゃありません。もっとも、画像にあまり力を入れていないことは、キャラグラフィックの少なさからもわかるのですが。
 わたくしはまず、オプション画面を開いて、一通りヘルプを読みました。ゲームをやる時にまずオプションを開くのはわたくしの癖なのです。
 ヘルプにそって、文字色やプロフィールなどを設定していきます。ついでに戦闘の方法も読みました。これは文句なく面白そうです。
 お金は最初から多少持っているようなので、とりあえず周りのお店で回復アイテムを買いました。備えあれば憂いなしです。
(そういえば……)
 と思いたって、戦闘に出る前に攻略BBSを探しました。思ったとおり、専用の板があります。
 過去ログを見ながら、初心者向けのダンジョンを探しました。やはりこれをやらないと、何だか心配ですから。
 さぁ、準備も完璧でついにダンジョンへ突入です!
 と張り切ってみましたが、ダンジョンへ向かう途中で早速初めての敵さんに遭ってしまいました。「天使の声」という名前の敵さんです。
(……? あれれ?)
 ヘルプには、敵さんの出すノイズ(不調和音)を調和音に変えてクリア(消去)するとありましたが、肝心の敵さんの音が聞こえません。
(わわわ)
 こうしている間にもどんどんとMポイントが減っていきます。これがゼロになると先程の場所に戻されてしまうそうです。
 音が聞こえないのは、音自体が小さいのと周りがうるさいからでしょう。そこでわたくしは、パソコンの脇に置いてあったヘッドフォンを差しこんで、かぶりました。
(わぁ……v)
 今度はよく聞こえます。
 さぁ、ここから反撃です!
 「天使の声」さんが出すノイズは、ヴォイス音で聞き取りやすく、また数も少なかったので、初めてのわたくしでも充分対応できました。本当に初心者向けです。
 折角なので、その辺りで何度か戦闘の練習をしてから、徐々に目的のダンジョンへと近づいていきました。
 わたくしが目指したダンジョンは、「妖精の湖」という所です。湖を取り囲むようにダンジョンが広がっていて、道も一本なので迷わず、ボスもいないそうなので、練習にはもってこいだそうです。
 着いてみると、思っていたとおり湖の画像もあまりキレイじゃありませんでした。でもその時には既に、そんな画像も気にならなくなっていたのは確かです。
(だって音が……こんなに素敵なんですものっ)
 ヘッドフォンをしてみたら、する前まではほとんど聞こえていなかったBGMすら、しっかりと作りこまれていることに気づきました。戦闘でのノイズはそれ以上です。
(おもしろ〜い♪)
 ダンジョンの中では、区切られたエリアごとに違った敵さんが出るようで、聞こえるノイズもかなりの種類がありました。
(これうちの会社で出せないかな〜?)
 そんなことを考えてしまうくらい、わたくしにとってはとても新鮮で面白いゲームでした。何よりとても、性に合っていたのです。
 もともとわたくしは聴音などお茶の子さいさいですから、コツを掴んですぐにうまくなりました。時間的にはあまり経っていませんからレベルは低いですが、パズル自体にはかなり自信が持てます。
(――ふぅ〜)
 ダンジョン「妖精の湖」を5周くらいして、さすがに疲れてきたわたくしは最初の場所へ戻ることにしました。ヘルプによると、確かセンターという場所です。
 一度ログアウトして再ログインをすれば、自動的に戻れるということですが、それでは何だかつまらないので、わたくしは歩いて戻ります。「天使の声」さんに会っても、もう秒殺です!

     ★

 センターへ戻ると、少しずれた場所で数人のキャラが集まっていました。
(何かやっているのかな?)
 近づいてみて、ビックリです。
 メンバーの中に、わたくしの大好きな歌手であるlirva(リルバ)の名前を見つけたのですから。
(羽澄おねーさまいらっしゃるのかしら)
 画面から視線を外してキョロキョロして見ても、背の低いわたくしでは見つけられそうにありません。
「――榊、羽澄おねーさまがいないか見てちょうだい?」
 画面に顔を戻してから告げると、またどこからともなく現れた榊が「かしこまりました」と返事をしました。
 それからわたくしは、自分のキャラをlirvaというキャラに近づけます。
(とりあえずは……)
 本物かどうかはわかりませんでしたが、声をかけたかったのです。『ノイズ』を始めてから、まだ誰とも会話していませんでしたから。
(それに一度)
 パーティーを組んでみたかった、というのもあります。本物ならば心強いですし、他の方であってもコミュニケーションを楽しめばいいのですから問題ありません。
『皆さんこんにちは〜^^』
 声をかけると、5人のうち3人くらいのキャラがこちらを向いて挨拶を返してくれました。
『こんにちは』
『こんにちはです〜』
『よぉ』
 lirva様もそれに含まれています。
 わたくしは思い切って、パーティーに誘ってみました。
『よろしかったら皆さん、わたくしとパーティーを組んでいただけませんか?』
 すると、ファルク様という男性キャラの方が。
『レベルからして、あんた初心者か。悪いがこれからちょっと用事あるんだ』
 そうお答えになりました。
『そうですの……。それは残念ですわ。ぜひlirva様とパーティーを組んでみたかったのですが』
『何だ、lirva狙いか(笑)』
『ちょっと待って。その口調、もしかして本物の瑠璃花ちゃん?』
 ファルク様の発言に続いて、lirva様の発言が流れました。その内容に、わたくしはまた驚きます。
『まぁ……では本物の羽澄おねーさまですの?』
(嬉しい偶然)
「榊、羽澄おねーさまどこにいるの?」
 リアルでも会いたいと思って榊を呼ぶと、戻ってきた榊は「わかりません」と言いました。
「わからない?」
「はい。この部屋の中にはいらっしゃらないようです」
「あら……」
 でも『ノイズ』は、このネットカフェでしかできないはずですから、建物の中にはいるはずなのです。
『羽澄おねーさま、どこにいらっしゃるの? わたくしお会いしたいですわ』
 ゲームの中で羽澄おねーさまに尋ねると、おねーさまはファルク様の方を向いて。
『いいかしら?』
『――まぁ、6人までならパーティー組めるからな』
『じゃあ瑠璃花ちゃん。カウンターへ行って個室Aに案内してもらってね』
 次にまた、わたくしの方を向いて言いました。
『わかりました。では少し待っていて下さいね〜』
 そうログを残して、わたくしはいったんログアウトしました。
 カウンターへ行って、羽澄おねーさまが言っていた場所へ案内してもらいます。
 これまでいた大きな部屋から続く、小さなドアを開けると、そこには数台のパソコンが置いてある小さな部屋がありました。
「あ〜、羽澄おねーさま! こんな小部屋にいらっしゃったのね。どうりで見つからないはずです〜」
 中にはおねーさまと、先程いたキャラの人数分人がいらっしゃいました。
「こんにちは、瑠璃花ちゃん」
 相変わらずキレイな笑顔で、羽澄おねーさまが笑いかけてくれます。
「これから何をするんですの?」
 ゲーム内のキャラだけではなく、リアルでも集まっている意味がわからなくて、わたくしは問いました。すると奥のおにーさまが答えてくれます。
「幽霊退治さ」
 口調からいって、きっとファルク様でしょう。
「幽霊さん? 出るのですか?」
 わたくしが首を傾げると。
「噂だけどね。それを確かめに行くんだよ。本当だったら、退治もするかもしれないけど」
 羽澄おねーさまが答えてくれました。
「それって、わたくしも同行してよろしいのですか?」
「もちろん。だから呼んだんだ」
「わぁ。ありがとうございますっ」
 何だか、とっても面白そうに思いました。不思議と全然、怖いという思いはなかったのです。
(羽澄おねーさまと一緒)
 だったからかもしれません。
 それから皆さんは、わたくしのために自己紹介をして下さいました。
 わたくしがファルク様だと思った方は、やはりファルク様で、本名を瀬水月・隼(せみづき・はやぶさ)様といいます。ファルク様は魔道士です。強力な攻撃音階を使うことができます。
 羽澄おねーさまのキャラ・lirva様は転調士。ノイズを任意に転調することができます。自分の得意な調に変えるとこちらが有利になるのです。
 羽澄おねーさまのお知り合いだという海原・みなも(うなばら・みなも)様のキャラは、収集士。気に入ったノイズを捕まえて、聞いたり戦闘で使ったりできます。
 もう一人、羽澄おねーさまのお知り合いの赤埴・友有(あかはに・ゆう)様は、わたくしと同じで今日始めたばかりだそうです。まだ職業についていないのも同じです!
 最後に、レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)様。キャラは創曲士といって、通常の戦闘では意味のない職業だそうです。創曲士が活躍するのはキャラ同士のデュエルの時で、自分で作った曲で対決できます。
 ちなみにこれらの説明はすべてヘルプからの引用だったりします。
 本名とキャラの名前が違うのは、わたくしと羽澄おねーさまと隼様だけのようです。混乱するといけませんから、これからは本名で呼ぶことにします。
 さて、自己紹介を終えたわたくしたちは、それぞれログインをして、いよいよ幽霊退治へ出発です!

     ★

 隼様をリーダーに6人パーティーを組んで、わたくしたちはダンジョン『偽りの草原』に向かって走っていました。
 『偽りの草原』は、センターから見て北西の奥に位置するようです。敵のレベルが高く、初心者や低レベルでは気軽に入ることができないそうですが、パーティーを組んでいると大丈夫だと教えてもらいました。戦闘をパーティーパズルモードにしておけば、初心者がいても負担にならないのだそうです。
 ほとんど敵さんに遭遇せず、たどり着いた『偽りの草原』の入り口は、何故か古城の大門のように見えました。少しも草原が感じられません。戸惑うわたくしたちに、隼様が説明して下さいます。
『偽りの草原は、その名のとおり草原じゃないのさ。城の壁に描かれた草原は永遠に続いているように見えて、実は部屋でいくらでも区切られてる』
『部屋を移動する度に、繋がった部屋ではなく離れた部屋に飛ばされる仕組み――だったわよね。攻略BBSにボスまでのルートは載っていたようだけど?』
 レイベル様が繋げました。下調べは充分なようです。
『俺たちは、ボスを倒しに来たんじゃないんだぜ?』
 隼様はそう告げると、さっさと中へ入ろうとしました。羽澄おねーさまがそれをとめます。
『ちょっと待って。幽霊の出現条件は? 教えてくれるんでしょ?』
『移動しながらな。時間かかるかもしれないんだ。――あ、初心者は無理に合槌とか打たなくていいからな。俺を見失わないようにだけ気をつけてくれ。2部屋離れると自動的にパーティーから外れるぞ』
 隼様の長文でログが一気に流れました。
(なるほどー)
 確かに、わたくしには走りながらの発言は無理のようです。隼様を追いかけながら合槌を打とうと頑張っていましたが、結局一度も打てませんでした。ここは、お言葉に甘えたいと思います。
 それからすぐに、隼様は門の中に消えていかれました。わたくしたちはまた、それを追いかけます。


 『偽りの草原』――古城の中に入ってから、敵さんとの遭遇率がとても上がりました。
(た、たのし〜)
 それがまた凄く楽しいのです。ノイズは複雑になり、数も多いのですが、ほとんどの音を隼様が拾ってくれます。わたくしは残ったノイズの分だけお手伝いさせていただきましたが、これがまた初心者用よりは全然難しくて面白いのです(多分隼様は、わざと少し残して下さっているのだと思いますが)。
『ファルク……集音器を装備したの?』
 戦闘の合間に羽澄おねーさまのログが流れました。
(集音器?)
 ノイズを集める機械だとすれば、戦闘の回数が増えたのはそのためでしょうか。
『そう。幽霊発生条件その1だ』
 走りながらでも、隼様はすぐに答えます。
『幽霊に遭遇した奴らは、大抵二つに分けられる』
 隼様は説明を続けました。発言が途切れ途切れなのは、やはり走っているからでしょう。
『レベル上げに入った奴と、ボスを倒した後の奴』
『共通点は集音器だったんだ』
『レベル上げに来る奴らは当然集音器を装備してくる』
『ボスを倒しにきた奴らは当然倒した後宝箱を開ける』
『ここのボス箱(ボス部屋の宝箱)は集音器かNジャマーどちらかが出るんだ』
『たまたま集音器を手に入れた奴らが、ついでにここでレベル上げしちまおうって考えたら』
『結果は同じだろう?』
(なるほどです!)
 何故幽霊を探しているのかといったいきさつは聞いていませんが、隼様の説明は充分に理解できました。
 隼様はさらに説明を続けます。
『逆にな、幽霊を探しにきた奴らは集音器なんてつけない』
『戦闘は邪魔なだけだからな。つけるならNジャマーの方だろう』
『だからこそ会えなかったんだ』
(探しているからこそ、会えない)
 楽を求めるからこそ。
 何だかそれは、人間を皮肉っているようにすら思えました。
 そのシステムを考えた人は、なかなか侮れません。
『では、その2は?』
 隼様の緑の文字色に染められたチャットウィンドウに、不意に水色の文字が割りこんできました。みなも様の色です。
 隼様は相変わらず足をとめずに。
『ランダム』
 短くそう答えました。それにレイベル様が繋げます。
『なるほど。レベル上げをする時は適当に移動するものね』
『そういうこと』
 先程から色々と走り回っていた理由が、やっとわたくしにもわかりました。
『でもそれじゃあ、本当にいつまでかかるかわからないね』
 羽澄おねーさまがそう告げた時でした。
『……そうでも、ないみたいだぜ?』
(!)
 不意にBGMがやみ、隼様の発言音が酷くクリアに聞こえたのです。
(何かしら……?)
 やっと立ちどまった隼様の近くに、皆さんが集まります。もちろんわたくしもです。
 とても静かでした。
『羽澄おねーさま……』
 今さら少し怖くなって、わたくしは羽澄おねーさまの傍へ移動しました。うまく言えませんが、雰囲気が、何だか怖かったのです。
 これから何が起こるのかと画面を凝視していると、不意に画面の上端の方に何かが現れました。
『あっ……』
 打ちこんだのはわたくしではありません。そこまで冷静ではなかったのですから。
『あれか!』
 目を凝らして見ると、そこには何か実体のないモノが浮かんでいました。『何』であるのかはっきりとは言えません。明確に何かを形作っているわけではないのです。確かにそれは、『幽霊』としか呼びようのないモノでした。
(ホントに現れちゃった〜〜)
 もう「面白そう」では済まないのです。
 凍りついたように、わたくしたちは動きませんでした。そしてその幽霊(?)さんも、動きませんでした。
『そう言えば、何かをされたとか言った奴はいなかったな』
 隼様はそう発言した後に、気を取り直したように言いました。
『まぁいい。とにかく、今のうちに確認しよう。どんなふうに見えてる?』
 それが何か重要なことのようでしたので、わたくしはすぐに打ちこみました。
『何か白いモノが見える。うまく表現できないけど……幽霊と言えなくは、ない』
『あたしには黄色い……猫みたいなモノに見えます』
『私は赤に見えるわ。しいていえば、人間みたいな形してるけど』
『わたくしには、ピンクのもやもやに見えますぅ……』
 皆さんのログと同時に流れます。
(あら……?!)
 そしてその違いに、驚きました。
(人によって違うモノが見えている?)
『俺には青く見える。青い火の玉』
 隼様が告げました。
 やはりそれも違います。
(まだ言っていないのは……)
『お、俺にはみなもと同じに見えるんだけど……?』
『えっ?!』
 友有様の発言に、皆さんが驚きのログを流しました。
『って、おい。あんたキャラ重なってるじゃん。それって結構失礼なことなんだぜ?』
『えっ? ごめん』
 皆さん幽霊に気を取られて見逃していましたが、確かに友有様のキャラはみなも様のキャラと重なっていました。わたくしは『ノイズ』が初めてとは言ってもネットゲーム自体は初心者ではありませんから、それが失礼なことだと知っていたのです。しかし友有様は、どうやらネットゲーム自体が初めてのご様子。みなも様の上から避けようとして、また必要以上に動き回ってしまう友有様を、わたくしはとても微笑ましく思いました。そのおかげで大分怖さが和らいだので、感謝しなければなりません。
『――ねぇ、それが重要なんじゃない?』
 そんな和んだ空気の中、不意にレイベル様が言いました。
『こいつが出現した時に立っていた場所によって、見え方が違うんだとすれば……』
 今度は羽澄おねーさまが繋ぎます。
『なるほど。それならお互いの画面を見て証明できるわね』
 相変わらずよくわからなかったのですが、おねーさまの言葉に従って、皆さんの画面を確かめてみることにしました。視線を外すと、他の方も同様に動いているようです。
 おねーさまやみなも様の画面を見ると、確かにわたくしの画面に見えるモノとは違っていました。
『ビンゴ★』
 指でも鳴らしそうな、隼様のログが流れます。
(それにしても……)
 ずいぶんと凝った演出です。ここまで徹底されているのだから、バグとは思えません。
(むしろ……)
『ちょっと待って下さいよ〜? イベントアイテム(集音器)が必要で、ランダム移動必須で、こんな演出っていったら、すごぉ〜くレアイベントっぽくないですか?』
 久しぶりにログを流しました。それに隼様が答えてくれます。
『同感』
 それから少し間を置いた後。
『だとしたら何故皆、イベントキャラではないと思ったのか』
 羽澄おねーさまが疑問を投げかけました。浮かんでくる疑問と解答に、わたくしも徐々にすべてを理解していきます。
『ホントは怖くて逃げちゃっただけかもしれませんよ』
 羽澄おねーさまの疑問に答えたのは、みなも様でした。
『あたしたちは、最初から幽霊を探しに来たから逃げなかった。でも他の人が違う目的で来ていきなり音が飛んであんなリアルなモノ見たら、びっくりして引き返しちゃうんじゃないかな。人によって見えるモノが違うというのも、やっぱりとっさには怖いだろうし』
『それで、逃げたってバレるのが嫌で、わからないけどとりあえず嘘ついたわけか』
 隼様が続けました。
 なるほどありそうな話です。
『それにしても……本当に何もしないな、あの幽霊。何のために出てきたんだ?』
 ずっと話を聞いていた友有様が、不意にそんな言葉を流しました。もしかしたら、怖くてずっと幽霊を眺めていたのかもしれません。本当に、その幽霊は全然動きませんでした。
『うーむ』
 そう発言しながら、隼様が幽霊に近づいていきます。
(これはイベント)
 誰もがそう納得しようとしていましたから、誰もとめませんでした。
 でも。
『?!』
 隼様が幽霊と接触した瞬間。
(戦闘画面に……?!)
『きゃ〜〜〜』
『えっ?』
『何?!』
 一瞬で様々な声が飛び交います。
『いきなりかよ!』
 そう発言しながらも、隼様は既に戦闘モードでした。今度ばかりは本気でしょう。しかしやはり、幽霊さんがお強いのか、多少音が落ちています。わたくしはこれまでと同じように、それを拾ってお手伝いしました。
(え……どうしてっ?)
 しかし何故か、こちらのMポイントは減っていくばかりです。ゼロになるとセンターへ戻されてしまいます。これまで雑魚を一掃してきた隼様の得意技を使ってみても、何故かこちらのMポイントが減っていくのです。
『何だよこれぇ……っ』
 賢明に打ちこみながらも、隼様はそんなログを流しました。
 幸いにもパーティーパズルモードに設定していたおかげで、こちらのMポイントは全員分のMポイントを足したものですから余裕はあります。ですが、いずれにせよこのままでは負けてしまうでしょう。
(勝てると思ってきたわけではないけれど)
 わたくし、負けるのは好きじゃありません。
 何よりこの幽霊さんとの戦闘の、本当の意味を知りたいのです。
 知るにはおそらく、勝つしかないのでしょう。
『なんでこっちのポイント減りまくってるんだ?』
 戦闘に参加していない友有様が、そんな発言をしました。
『多分、拾い切れていない音があるんだと思います。でも、あたしには聞こえない……!』
 同じく見守っていたみなも様が返します。
 そうなのです。ヘルプには確かに、そう書いてありました。音を拾いきれなければ、徐々にこちらのMポイントが削られていくのです。わたくしがヘッドフォンをしないで戦闘に入ってしまった時も、同じようにどんどんと減っていましたから。
(でも――でも!)
 隼様とわたくしは、確かにすべての音を拾っていたのです。たまに漏らしたものも、レイベル様が拾って下さっていましたから、本来ならば減るはずはないのです。
(どうして……?!)
 やっぱりバグですの……?
 徐々に疑惑がわきあがる中、不意に。
 見守っていた羽澄おねーさまの音が鳴り始めました。最初はわたくしを含め、皆さん戸惑っていたようでした。何故なら、おねーさまは在り得ないはずの音を奏でていたからです。
 けれど。
(まぁ……!!)
 これまで減り続けるだけだったMポイントが、何故かぴたりと止まったのです! 逆に敵さんのMポイントが徐々に減り始め、余裕の出てきた隼さんがこちらのMポイントを少しずつ回復していきます。
『素晴らしいです〜羽澄おねーさま!』
 わたくしが打ちこむと、それに続いて。
『頑張って!』
『もう少しだ』
 そんな応援のログが流れる中を、やがて一つのメロディが流れてゆきました。さっきまでは、タイトルも知らないおそらくオリジナルの曲でしたのに。敵さんのMポイントが残り少なくなって、突然変わりました。
『あれ? 何か聞き覚えのある曲だな』
 最初に反応したのは友有様。わたくしももちろん、知っていました。
『これ、ジュ・トゥ・グゥですわ』
 クラシックも大好きなのです。
『確か意味は――君が欲しい、でしたよね』
 みなも様がつけ加えました。
 やがて戦闘が終わり、勝利のファンファーレが流れます。
 そしてその瞬間。
(?!)
 もしかしたら、誰かが驚きのログを流したのかもしれません。けれど画面から溢れ出る光が、見ることを許しませんでした。
 顔をそむけ目を覆います。
(眩しい……)
 その光は数秒で輝きを失い、画面に目を戻すと。
『ここは……?!』
 それが誰の発言でも構いませんでした。誰もがそう思ったからです。
(草原――!)
 わたくしたちは、どこまでも広がる草原の中にいました。それが先程までの城中ではないことは、明らかです。
(どちらも創られた世界)
 ですが空気が、全然違いました。
 空はどこまでも高く、緑は風に揺れています。
『ここが偽りじゃない、本当の草原?』
 そんな発言をしたのはみなも様でした。
『偽りの草原のイベントをクリアして、本当の草原に来たっていうのか……?』
 『こんなイベントがあったなんて』と繋げて、隼様はそこに立ち尽くしてしまいました。何となく、わたくしたちもそこから離れられません。ただ友有様だけは、どこか変な場所をクリックしてしまったのか、ちょろちょろと動き回っていました。
『友有様大丈夫ですの?』
 問いかけてみても、返事はありません。おそらくそんな余裕もないのでしょう。
 しかしやがて。
『あれっ?』
 短いログが流れました。
『何か人がいる』
『え?!』
『どこ?』
『またイベントキャラか』
 やっと止まった友有様の傍へ移動すると、確かに画面ギリギリにキャラの姿が見えました。
『行ってみる?』
 問ったのはレイベル様。
『行くしかないだろ』
 答えて先に進むのは、やはり隼様です。
 それからわたくしたちは、まるで儀式のように。
 隼様のあとに続きました。

      ★

 きつく閉じられたままだった羽澄おねーさまの目が、やがてゆっくりと開きました。
「あっ、羽澄おねーさま! 大丈夫ですか?」
 嬉しくなって、わたくしはおねーさまを覗きこみます。
 おねーさまは何だか状況が呑みこめていないらしく、呟きました。
「――私は……?」
「集中力が限界以上に引き出された状態が続いたんだもの、倒れて当たり前よ。でも安心なさい。ちょっと休んだからもう良くなったでしょ?」
 わたくしの隣に立っているレイベル様が、そんなふうに説明しました。
「それ言うなら、『ちょっと休めば良くなるわ』じゃないのか?」
 隼様がそう言って笑います。
 それでも釈然としない顔のままの羽澄おねーさまに、みなも様が何かを囁きました。
 おそらく、レイベル様が羽澄おねーさまを診て下さったということでしょう。
「ありがとう、ございます」
 羽澄おねーさまが軽く頭を下げると。
「いえいえ、こちらこそ。いいモノ見させていただいたわ」
 レイベル様は目を細めて笑いました。その言葉に、わたくしも先程のことを思い出してしまいます。
(――あの時)
 わたくしたちは草原で、本当の『幽霊』に出会ったのです。
『ようこそいらっしゃいました。真実の草原へ――』
 そんな言葉から、その幽霊さんは一方的に話し始めました。
 『ノイズ』はゴーストネットのオリジナルゲームではありますが、その開発は完全にNファクトリーというグループに任されているそうです。会社ではなく、単なる趣味の集まりに。
 それだけでも充分驚きですが、さらに。そのグループの最終目的は、音による感情操作だというのです! そのための実験の場としてとりあえず『ノイズ』を作り、ゲームの中に人を集めていたということでした。
(ただ)
 実験はまだ、行われていません。
 わたくしたちにそれを伝えた幽霊――藤堂様は、肝心のその音を作る大事な役についていらしたそうです。初めはただ面白そうという興味だけで参加していた藤堂様ですが、徐々にその目的の恐ろしさに気づいてゆきました。
「抜けたい」
 そう告げた藤堂様にお仲間が出した条件は、後釜を見つけること。藤堂様自身と同じ能力を持つ人材を。
 それで作られたのがあのイベントだったのです。
 イベント遭遇自体に高い条件をつけたのは、あまりに遭遇される回数が多くてもまずかったから。
(何故なら)
 その力を持った人物がメンバーにいなければ、100%戦闘に勝つことができません。あの戦闘をバグだと思い苦情が殺到することは目に見えていました。いくらバグではないと言ったところで、聞こえている音はすべて拾えているはずなのですから、明らかにこちらの言い分の方が説得力がありません。
 そうして自分の後釜を探すイベントを作り上げた藤堂様でしたが、実は最初からそのつもりはなかったそうです。ですから真実を伝えるために用意したこの草原のフィールドにプロテクトをかけて、自分以外には削除も変更もできないようにしました。
 そして逃げた。
『皆さんには、ご迷惑をかけてしまいましたね。お詫びといっては何ですが、イベントクリアの報酬として、レアアイテムを用意してあります。どうぞお持ち下さい』
 すべてを話した藤堂様はそう言って、わたくしたちにそれぞれアイテムを下さいました。
 そして羽澄おねーさまには。
『あなたにはこれを。先程の戦闘データを改竄するプログラムです。聞こえないはずの部分はすべてカットされて、戦闘に負けたとして処理されるようになっています』
 羽澄おねーさまはそれを受け取りました。それは多分、おねーさまが藤堂様を許したという証拠なのだと思います。
 それからわたくしたちは、再び光に呑まれました。ここへやって来た時と同じように数秒で輝きが消えた後、わたくしたちが立っていたのはセンターの中央でした。他の方から見れば、ダンジョンからログアウトで帰ってきたようにしか見えないと思います。
 それぞれに複雑な想いを重ねて、わたくしたちはそのままヘッドフォンを外しました。
 そしてわたくしが隣を見ると。
「? 羽澄おねーさま?」
 羽澄おねーさまがヘッドフォンをつけたまま、キーボードの上に突っ伏しています。実はその時には既に、おねーさまは意識を失っていたのでした。
「羽澄さん?!」
 焦りの声が飛び交います。
(もしかして……)
 先程のアイテムのせい?!
 そんなふうに考えて、とても心配になりました。
(羽澄おねーさま〜……)
「落ち着いて。私はストリートドクターよ」
 不意にレイベル様がそんなことを言いました。
(ストリートドクター?)
 それがどんなものなのか、残念ながらわたくしは知らなかったのですが、「ドクター」であることはわかりましたので、少し安心しました。
 レイベル様は店員さんにお願いして、羽澄おねーさまを他の部屋に移しました。事務所の中に柔らかいソファがあるそうで、そこがちょうどよかったのです。
 そのソファに羽澄おねーさまを寝かせて、レイベル様はおねーさまの額に手を当てました。
(それだけで大丈夫なのかしら……?)
 心配になりましたが、相手はプロですから口を出さないことにします。
 レイベル様はしばらく手を当てた後、こちらを向いて。
「心配ない。じきに目を覚ますわ」
 笑ってそう言いました。何だかとても安心したわたくしは、ちょっと泣きそうなくらいでした。そうして羽澄おねーさまが目覚めるまで、皆さんと一緒にずっとお傍にいたのです。


 それからわたくしたちは、色んなことを話し合いました。『ノイズ』自体はとても素晴らしいゲームで、それを悪用されるのは嫌だという気持ちは、皆一緒でしたから。
(藤堂様が言っていたような)
 実験的な現象が何か起こったら。
 どうせなら、自分たちで解決していこうと誓いました。
(『ノイズ』自体を消してしまうのは簡単)
 でもそうしたって、きっと何も変わらないのです。Nファクトリーは新しい実験フィールドを作り出し続け、誰かに壊され、それをくり返すだけなのです。それならば、今あるこのフィールドで何もさせないことの方が、遥かに意味のあることのように思えました。
(藤堂様も)
 それをわかっていて、この世界を消さなかったのだと思います。
(わたくしも)
 少しでも協力できるのならば。
(この『ノイズ』の世界を、守っていきたい)
 強くそう思いました。
 そしていつか、「楽しませる」目的だけで、『ノイズ』が成立することを信じています――。








                            (了)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/   PC名   / 性別 / 年齢 /   職業   】
【 1282 / 光月・羽澄   / 女  / 18 /
             高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【 1252 / 海原・みなも  / 女  / 13 /  中学生   】
【 0072 / 瀬水月・隼   / 男  / 15 /
                 高校生(陰でデジタルジャンク屋)】
【 1316 / 御影・瑠璃花  / 女  / 11 / お嬢様・モデル】
【 0606 / レイベル・ラブ / 女  / 395  /
                      ストリートドクター】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして。若葉マークライターの伊塚和水といいます。
 この度はご参加ありがとうございます_(_^_)_
 全員のプレイングを最大限活かしたところ、多少長くなってしまいましたがいかがでしたでしょうか? 少しでも『ノイズ』の世界を楽しんでいただけたなら幸いです。
 「わたくし」という御影様の一人称を自然に活かすために、全編に渡って「です・ます」口調にしてしまいました。ちょっと堅苦しい感じもありますが、可愛らしさは出せたのではないかな〜と思っております。もし普通の方がいいなと思いましたら、遠慮なく教えて下さいませね^^
 それでは、次の作品も頑張らせていただきます!

 伊塚和水 拝