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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【3】
●オープニング【0】
「おかしいんだよね」
 1月末の放課後、『情報研究会』会長の鏡綾女は部室でぽつりとつぶやいた。その表情は何か釈然としない様子。
「何がおかしいの、綾女さん?」
 副会長の和泉純が尋ねると、綾女が堰を切るように一気に喋り出した。
「決まってるでしょ、お正月のいくつかの事件のことだよ。神薙北神社での放火未遂に、神薙南神社での傷害未遂。それにお姉ちゃんの番組のスタッフ襲った奴……どれもこれも、逮捕された後の正確なニュースって流れてきてないよね? 入院したなんて噂は耳にしたけど……」
 そうなのだ。いずれの事件も進展したとのニュースは聞こえてこなかった。聞こえてくるのは、噂ばかり。いったい何がどうなっているというのだろう。
「ね、気になるよね? ね?」
 くるりとこちらに顔を向け、同意を求めてくる綾女。確かにそれも気にはなる。だが気になるといえば、去年から懸念となっている事柄もいくつか見受けられる訳で。
 さて、何から調べてみたものか――。

●雪が舞う、雪が舞う【1】
 その日――朝から冬美原は、曇り空の中に時折雪が舞うという天気だった。幸いにして雪が積もることはなかったが、それでも寒さは強かった。何しろ、雪が舞うほどだったのだから。
 けれども、このような天候の中でも、熱心に物事を調べようという者たちは居る訳で――。

●季節外れのハイキング【2A】
 冬美原・旧市街。その東方、高台の森の中にあるエミリア学院よりもさらに東――そこには鈴糸山と呼ばれる山がある。
 冬美原で鈴糸山といえば、自然も多くハイキングに適した山として有名で、冬美原の小学校・中学校に通っていれば間違いなく1度は訪れている場所である。
 少し前、ここにオフロードのコースを作ろうとする動きがあったが、すぐに鈴糸山の自然を守ろうとする人々による反対運動が始まった。その結果、鈴糸山の開発を規制する条例が近々可決される見通しとなっている。
 そんな鈴糸山のハイキングコースを、頂上に向かって女性が1人で歩いていた。手にバスケットを提げ、厚手のコートを羽織った女性だ。
 それも中に厚着をしていたり、使い捨てカイロを多く詰めているのか、コートが妙にもこもこと膨らんでいる。雪が時折舞う今日のこと、少なくとも防寒対策はばっちりのようである。
 コートの女性――巳主神冴那は、不意に立ち止まるとゆっくりと空を見上げた。先程まで止んでいた雪が、ちょうどまた舞い始めた所だった。
「冬美原の雪に混じって降って来る物……。天使、なんてことは……あるのかしらね?」
 表情を変えずにつぶやく冴那。それは冬美原で耳にした噂の1つだった。
 それから冴那は再び歩き出すと、少ししてハイキングコースを外れ、葉の落ちた木々の中に足を踏み入れていった。

●尋ね歩いて【3A】
 1年でも極めて寒いこの時期に、厚着こそしているが寒さに弱いはずの冴那が何故野外のこんな場所を歩いているのか。もちろんそれには理由があった。
 昨年11月、何気なく見に行ったエミリア学院の文化祭。中等部の教室で展示されていた、鈴糸山に関するレポートで冴那が見てしまった記述。
 そこには『最近では天使の棲む山であるとも言われるが、本当の所は定かではない』という一文が。これこそが今日、冴那を動かしている理由だった。
(天使、って天の遣いのことなのね……。何かを伝えに来るっていう……)
 木々の間、寂し気な風景の中を歩いてゆく冴那。時に立ち止まって辺りを見回し、時に岩の隙間などを覗き込む。何かを探しているのは、様子からも明らかだった。
 岩の隙間を覗き込むのも幾度目となったろうか。その隙間には、冬眠中と思しき蛇の姿があった。
 冴那は隙間を覗き込んだまま、蛇に向かってこう言葉を発した。
「眠っている所を悪いのだけれど……」
 そう前置きして、あることを隙間の中に居る物に尋ねる冴那。尋ねたのは、『鳥のような羽根の生えた、人間のような姿をした物を見たことがないか』ということ。すなわち、『天使を見たことはないか?』と聞いているようなものだ。
 しばし冴那は身動きをしなかったが、ややあって小さく溜息を吐くと、蛇に礼を言ってその場から離れていった。
 冴那は蛇の姿を見付ける度に、同じ質問を繰り返していった。だが、返ってくる答えはほぼ同じ。『言ってる姿の奴は、見たような見ていないような。だけどあまり興味がないから、よく見ていない』というもの。
 こんな情報ではたいして役に立たない。が、少し考えてみればあることが見えてくる。誰も『そんなのは見ていない』だとか『何も分からない』とは答えていないのである。
 とりあえず冴那が聞き込んだ蛇たちは、『何か』を目にしたことがあるのだ。もちろん目にしたのが普通の人間である可能性は大いにあるが、だったら皆が揃いも揃って同じ答えを返すはずもないだろう。ゆえに。
(……ここには確かに『何か』が居るのかも……)
 そう冴那が考えるようになるのも、ごく自然な流れであった。
 一通り蛇たちに聞き終えた後、そのまま冴那はハイキングコースに戻ることなく、鈴糸山の頂上目指して歩いていった。
「山は……頂上に行くのが一番ね……」
 それは山登りにおけるあるセオリーだった。

●迷い道の先に【4A】
 間もなく頂上が見えてくるという時。冴那は左手側の遠く下方で、何か物音が聞こえたような気がした。地面に落ちた小枝を、踏み締めて割ったような音だった。
「…………?」
 物音のした方角に、顔を向ける冴那。向こうに誰か居るのだろうか。冴那は頂上に向かうのを中断して、物音のした方角に進行方向を変えた。
 やや下りながら木々の間を歩いてゆく冴那。10分ほど経った頃、冴那は妙なことに気付いた。
「ここ……さっきも通ったわ……」
 見覚えのある木が、冴那の目の前にあった。独特な形状をしていたので、何となく覚えていたのだ。
 だが、この10分進みこそすれ、戻ったような記憶はない。下り続けていたのだから、なおさらである。
 何故なら、気付かないうちに曲がって歩いていた可能性もなくはないが、だったら1度は上っていないとおかしいのだ。錯覚を起こすような地形でもない限り、下り続けるはずがない。
「……どっちだと思う?」
 ぼそりつぶやく冴那。するとコートの首の辺りがもぞもぞと動き、襟の隙間から蛇が1匹鎌首をもたげてきた。ガラガラヘビだった。
 ガラガラヘビは辺りを数秒見回した後、ある方角を向いたまましばし動きを止めた。それから寒いのか、慌ててコートの中に引っ込んでいった。ガラガラヘビが向いた方角は、進行方向から右に約90度。やや頂上向きであった。
 再び歩き出す冴那。すると少しして、話し声が歩いている方角から聞こえてきた。
「ほら、早く。仕事が待っているのですから」
「姉様、ちょっと待ってくださいよぉ……」
 女性の声だ。話の内容からすると、姉妹の様子。話し声を耳にした冴那は、そこからそっと歩いていった。
 そして、冴那は見たのだ。ふと空を見上げると――白く大きな鳥のような羽根を背中に生やした、銀髪の美しい女性が空から降りてこようとしていたのを。
「これが……天使?」
 冴那は銀髪の女性が降りようとしている所に視線を向けた。そこには、銀髪の女性によく似た金髪の女性の姿があった。だがこちらには羽根は見当たらなかった。どちらも、初めてみる顔だった。
 銀髪の女性が地上に降り立つのを見計らって、冴那はゆっくりと2人に近付いていった。けれどもちょうど4歩歩いた所で、あいにく気付かれてしまった。はっとした表情を浮かべ、2人が冴那の方を向いたのである。
「誰っ? 出てきなさい!」
 先に口を開いたのは、銀髪の女性だった。冴那は言われた通り、2人の前に姿を現した。
「あなたはここで何をしているのです」
 金髪の女性が、冴那の顔をじっと見ながら静かに問いかけた。それに冴那は淡々と答える。
「……噂を確かめに来ただけよ。『鈴糸山には天使が棲んでいる』という……」
「見ましたか」
 続けて問いかけてくる金髪の女性。冴那はこくんと頷いた。銀髪の女性が、驚いたように金髪の女性を見た。
「姉様……」
「大丈夫、何も心配は要らない。敵意は感じない。言っている通り、ただ確かめにきただけ」
 銀髪の女性に諭すように、金髪の女性が言った。それから冴那の方に向き直る。
「見られた物は仕方がありませんね。あなたが見た物、それを否定するつもりはありません。しかし……他言無用。私たちには、大切な仕事があるのですから」
「仕事……それは何?」
 疑問の言葉を口にする冴那。しかし次の瞬間、2人の姿はかき消すようになくなっていた。辺りを見回しても、どこにも2人の姿は見当たらなかった。
「……大切な仕事……」
 冴那は金髪の女性が言った言葉を、口の中で繰り返してみた。

【噂を追って【3】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0442 / 美貴神・マリヱ(みきがみ・まりゑ)
                   / 女 / 23 / モデル 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0464 / 七森・拓己(ななもり・たくみ)
                   / 男 / 20 / 大学生 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 16? / 古木の精 】
【 0800 / 宝生・ミナミ(ほうじょう・みなみ)
               / 女 / 23 / ミュージシャン 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全35場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、冬美原に流れる噂について調べてゆくお話の第3弾をお届けいたします。ちょっと今回、とんでもない事態となっています。参加者全員、場面【1】を除いて全くの個別となっております。それだけではありません。封鎖対象となっている情報が、山のように出ております。封鎖対象となった情報を得られた方で、情報を公開されたいという場合は、次回以降の冬美原依頼でのプレイング欄や自由記入欄において、公開する旨を記入していただければ結構です。
・さて、冬美原に隠されていた真実も段々と明らかとなり、世界が動き始めました。流れをどちらへ傾けるか……それは皆さまのプレイング次第ということで。
・巳主神冴那さん、16度目のご参加ありがとうございます。本文ではお弁当を出す機会がなかったんですが、恐らくは頂上に着いてから食べたのではないかと思います。それで、天使の件は情報封鎖対象となりますので。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。