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噂を追って【３】
●オープニング【０】
「おかしいんだよね」
１月末の放課後、『情報研究会』会長の鏡綾女は部室でぽつりとつぶやいた。その表情は何か釈然としない様子。
「何がおかしいの、綾女さん？」
副会長の和泉純が尋ねると、綾女が堰を切るように一気に喋り出した。
「決まってるでしょ、お正月のいくつかの事件のことだよ。神薙北神社での放火未遂に、神薙南神社での傷害未遂。それにお姉ちゃんの番組のスタッフ襲った奴……どれもこれも、逮捕された後の正確なニュースって流れてきてないよね？ 入院したなんて噂は耳にしたけど……」
そうなのだ。いずれの事件も進展したとのニュースは聞こえてこなかった。聞こえてくるのは、噂ばかり。いったい何がどうなっているというのだろう。
「ね、気になるよね？ ね？」
くるりとこちらに顔を向け、同意を求めてくる綾女。確かにそれも気にはなる。だが気になるといえば、去年から懸念となっている事柄もいくつか見受けられる訳で。
さて、何から調べてみたものか――。
●雪が舞う、雪が舞う【１】
その日――朝から冬美原は、曇り空の中に時折雪が舞うという天気だった。幸いにして雪が積もることはなかったが、それでも寒さは強かった。何しろ、雪が舞うほどだったのだから。
けれども、このような天候の中でも、熱心に物事を調べようという者たちは居る訳で――。
●聞き込み【２Ｄ】
神薙南神社――その境内に、参拝客や巫女たちを捕まえては、話を聞いて回っている女性の姿があった。
「ええ、外国の方もお見えになられますよ。ただ、どこの国の方だとか、どんな言葉を喋っていたかまではちょっと……」
困ったように女性の質問に答える巫女。
「じゃあ、３人組の外国人に心当たりは？ 身なりはきちっとしていて……」
なおも質問を投げかける女性。しかし、巫女はますます困った様子。
「グループで来られる方も珍しくはないですから……申し訳ありません、少し分かりかねますわ」
（これ以上は聞いても無駄かな）
そう判断した女性――宝生ミナミは、巫女に礼を言って話を終えた。
「どうもありがと。それじゃ」
そうしてつかつかと巫女から離れてゆくミナミ。石畳にブーツが乾いた音を立てていた。
（せめて顔でも分かれば、もう少し聞き様もあるものの）
ミナミはそんなことを思いつつも、新たに境内に現れた参拝客に近付いていった。
●屈辱【３Ｄ】
ミナミが何故にこのような聞き込みをしているのか。その理由は去年の秋の出来事にまで遡る。
冬美原情報大学で研究開発が行われているネットワークＲＰＧ、そのバグ退治――文字通り『退治』だったのだが――の一件に関わった際、ミナミは神薙南神社の近くで妙な外国人３人組を見かけたという話を聞き込んだ。その大きな特徴は、少なくとも中国語とロシア語を操ることが出来るというもの。
話を聞いて、３人組が出入りしていたというアパートに向かったミナミは、２階の一室にノートパソコン、携帯電話、そして黒の可愛らしいテディベアが、怪し気な魔法陣が描かれた布の上にちょこんと置かれていたのを発見した。
ミナミが何事かと思い、部屋に足を踏み入れたその時だ。突然テディベアが牙を剥き出しにして、喉元を狙うように襲いかかってきた。間一髪かわしたミナミは、執拗に襲ってくるテディベアと戦闘を繰り広げた。その戦闘は助けもあって、辛くも勝利することが出来た。
しかし――勝利したとはいえ、テディベアに襲われ多少なりとも冷や汗をかかされたことを、ミナミは根に持っていた。もちろん、怪し気なセッティングを行った輩に対してだ。その最有力容疑者が、ミナミが聞き込みを行って探している３人組である。
恐らく３人組は、バグの件にも深く絡んでいると思われて――。
●アパートの前で【４Ｄ】
そうこうしているうちに、参拝客への聞き込みを終えたミナミ。表情は暗く厳しい。
「やっぱり顔が……」
ミナミは奥歯をぎりっと噛み締めた。顔を知らないというのは、聞き込みの上でやはり大きな壁となってしまっていた。
この分では、聞き込みを続けても成果はあまりないだろう。調査が暗礁に乗り上げようかとしたその時、ふとミナミはあることを思い出した。
「そうだ！ 確かあのアパートは……！」
駆け出すミナミ。境内を飛び出し、件のアパートへ向かってゆく。２分ほどでアパートの前に到着すると、入口にはロープが二重に張られ、『管理地・許可なく立入を禁ず』という看板が立っていた。
「やっぱり」
じっと看板を見つめるミナミ。そしておもむろに携帯電話を取り出すと、どこかに電話をかけ始めた。
「もしもし、山出不動産さん？ 神薙南神社の近くにある、そちらの管理下にあるアパートのことで……」
ミナミが電話をかけた相手、それはこのアパートを管理する不動産屋であった。看板には連絡先が載っている。そこに連絡すれば、何か情報が得られやしないかと考えたのだ。
しかし、甘かった。
不動産屋の話によると、アパートが管理地となったのは、１年前からのこと。すなわち１年前の時点から、アパートに正規の住人は存在していなかったことになる。つまり、不動産屋は誰が出入りしていたのか、把握していないのだ。
（勝手に使ってた……）
まあ、そういうことだ。人に言えないようなことを起こすには、こういった場所が適していたのだろう。
ミナミは一応、件の３人組についての話を不動産屋の耳に入れておくことにした。すると不動産屋は、とても驚いていた。
「あ、そうなんですか？ だから窓ガラスが破られたりしてたんですね……あー、ありがとうございます」
と、最後には礼まで言われる始末。ミナミはただ苦笑するしかなかった。
電話を切ると、ミナミはこれからどうすべきか思案した。このまま３人組を追い続けても、今の方向性では糸が極めて細すぎる。いつ切れてもおかしくはない。
「別の方角から責めてみるといいかも。となると、資料が多そうなのは……」
アパートを離れ、歩き出すミナミ。いったいどこへ向かおうというのか？
●意外な事実【５Ｃ】
１時間後――ミナミの姿は、鈴丘新聞社の資料室にあった。それもマイクロフィルムを閲覧出来る、機械の前にだ。
目を皿のようにして、マイクロフィルムが映し出された画面を見てゆくミナミ。上から下、右から左へと頭を動かし、やがてぴたっと止まった。
「あった」
目的の記事を見付け、ミナミが小さな声でつぶやく。記事の内容は、神薙東神社・神薙西神社の再建に関する物だった。時代は明治前期である。
何故こんな記事をミナミが見ているのか。そこには１つの仮説があった。
この正月、神薙北神社では放火未遂事件が起きていた。それと、件の３人組によると思しき、ネットワークＲＰＧ研究開発に対する妨害工作。テストデータとして使用されていたのは、この冬美原のデータ。強引に結び付ければ、どちらも冬美原に対する排除行動と考えられる。
そこでミナミは、現存する神薙北神社・神薙南神社が何らかの役割を担っているのではないか、ひいては過去に失われた東西の神社にも何か秘密が隠されていたのでは……と考えるに至ったのだ。その結果、過去のデータを調べることとなったのである。
しかし、肝心の東西の神社に関するデータは見当たらない。代わりに見付かったのが、今見ている記事を含む、いくつかのマイクロフィルムだった。
（『神薙東神社・神薙西神社の再建を求める民衆の声、高まる』と……『反対派の声なおも強く』か）
明治前期、廃仏毀釈の影響が色濃く残っていたのだろう。再建を求める声があっても、反対派の力も強かったであろうことは容易に想像出来る。
ミナミは準備していたマイクロフィルムを、次々と取り替えて記事を見ていった。
すると奇妙なことが、出てくること出てくること。
大正時代に再建の声が強まった時には関東大震災が発生し、至急援助すべしという声に再建運動が飲み込まれていった。
昭和初期に再び声が強まったと思ったら、今度は大平洋戦争勃発。日本全体が、そのまま泥沼に突入していった。
戦後間もなくに声が強まった時には、今度はＧＨＱによる介入発生。またしても再建はならなかった。
以降、再建を求める声はあれど、大きな運動となるまでには至っていないようだ。
マイクロフィルムを見終えたミナミは、疲れ切った表情で大きく溜息を吐いた。
「単なる偶然……とは、あたしにはどうしても思えない」
ここまで再建運動が潰されていることを知ってしまうと、偶然とは到底思えない。裏に何かが介在しているのではないか、そう疑ってしまう。
（やっぱり、神社には秘密があって、それをよく思わない者たちが居るのかも。何かの計画の邪魔になると考えて……）
３人組の正体の一端だけでもつかんでやろうと思っていたミナミだったが、ひょんな所から深い謎に行き着いてしまっていた。
【噂を追って【３】 了】
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【 整理番号 ／ ＰＣ名（読み）
／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業 】
【 ００８６ ／ シュライン・エマ（しゅらいん・えま）
／ 女 ／ ２６ ／ 翻訳家＆幽霊作家＋時々草間興信所でバイト 】
【 ０２４９ ／ 志神・みかね（しがみ・みかね）
／ 女 ／ １５ ／ 学生 】
【 ０３７６ ／ 巳主神・冴那（みすがみ・さえな）
／ 女 ／ 妙齢？ ／ ペットショップオーナー 】
【 ０３８９ ／ 真名神・慶悟（まながみ・けいご）
／ 男 ／ ２０ ／ 陰陽師 】
【 ０４４２ ／ 美貴神・マリヱ（みきがみ・まりゑ）
／ 女 ／ ２３ ／ モデル 】
【 ０４６１ ／ 宮小路・皇騎（みやこうじ・こうき）
／ 男 ／ ２０ ／ 大学生（財閥御曹司・陰陽師） 】
【 ０４６４ ／ 七森・拓己（ななもり・たくみ）
／ 男 ／ ２０ ／ 大学生 】
【 ０５１６ ／ 卯月・智哉（うづき・ともや）
／ 男 ／ １６？ ／ 古木の精 】
【 ０８００ ／ 宝生・ミナミ（ほうじょう・みなみ）
／ 女 ／ ２３ ／ ミュージシャン 】
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■ ライター通信 ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてＰＣを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、１から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は（オープニングを除き）全３５場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、冬美原に流れる噂について調べてゆくお話の第３弾をお届けいたします。ちょっと今回、とんでもない事態となっています。参加者全員、場面【１】を除いて全くの個別となっております。それだけではありません。封鎖対象となっている情報が、山のように出ております。封鎖対象となった情報を得られた方で、情報を公開されたいという場合は、次回以降の冬美原依頼でのプレイング欄や自由記入欄において、公開する旨を記入していただければ結構です。
・さて、冬美原に隠されていた真実も段々と明らかとなり、世界が動き始めました。流れをどちらへ傾けるか……それは皆さまのプレイング次第ということで。
・宝生ミナミさん、４度目のご参加ありがとうございます。よっぽどあのことを根に持っていたんですね。けど、悪くないプレイングだと思いましたよ。結構いい所を突いていると思いますし。それで、再建運動に関する件は情報封鎖対象となっていますので。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。
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