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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【3】
●オープニング【0】
「おかしいんだよね」
 1月末の放課後、『情報研究会』会長の鏡綾女は部室でぽつりとつぶやいた。その表情は何か釈然としない様子。
「何がおかしいの、綾女さん?」
 副会長の和泉純が尋ねると、綾女が堰を切るように一気に喋り出した。
「決まってるでしょ、お正月のいくつかの事件のことだよ。神薙北神社での放火未遂に、神薙南神社での傷害未遂。それにお姉ちゃんの番組のスタッフ襲った奴……どれもこれも、逮捕された後の正確なニュースって流れてきてないよね? 入院したなんて噂は耳にしたけど……」
 そうなのだ。いずれの事件も進展したとのニュースは聞こえてこなかった。聞こえてくるのは、噂ばかり。いったい何がどうなっているというのだろう。
「ね、気になるよね? ね?」
 くるりとこちらに顔を向け、同意を求めてくる綾女。確かにそれも気にはなる。だが気になるといえば、去年から懸念となっている事柄もいくつか見受けられる訳で。
 さて、何から調べてみたものか――。

●雪が舞う、雪が舞う【1】
 その日――朝から冬美原は、曇り空の中に時折雪が舞うという天気だった。幸いにして雪が積もることはなかったが、それでも寒さは強かった。何しろ、雪が舞うほどだったのだから。
 けれども、このような天候の中でも、熱心に物事を調べようという者たちは居る訳で――。

●関連性【2F】
「これは……」
 エミリア学院・コンピュータルーム準備室。宮小路皇騎は難しい表情を浮かべ、モニタ画面を見つめたまま考え込んでしまっていた。
 モニタ画面に表示されているのは、鈴丘新聞社のサイト。皇騎はニュースを検索出来るサービスを利用している最中だった。
 検索していたのは、今年の正月に神薙北神社・神薙南神社で起こった事件についてだった。皇騎は事件の追跡調査を行おうとしていたのである。
 だが、予想外の結果が返ってきてしまった。事件発生・容疑者現行犯逮捕というニュースこそ出ていたが、その先のニュースがまるでないのだ。
 そこで同日に起きていた、YSBラジオスタッフが襲われた事件についても調べてみた。すると、こちらも同様。捕まった以降のニュースが全く出てきていないのだ。皇騎が難しい表情になってしまうのも当然のことだった。
 しかしさすがは皇騎である。2つのニュース記事を読み比べ、共通項を見つけ出していた。それは『容疑者の回復を待って詳しく事情聴取する見通しである』という一文。今なお続報が出ていないことからすると、容疑者たちは全員回復していないのだろう。
(噂には聞いていたけれど)
 ここまではっきりと、事実であると突き付けられるとはさすがに予想を上回っていた。
「……ん?」
 皇騎はふと、あることを思い出した。そういえば、以前にも似たようなケースがあったはずだと。
 思い出すが早いか、皇騎はタタタッとキーボードを叩いていた。パッと画面が切り替わる。データベースから出てきたのは、昨年夏の麗安寺での自殺未遂騒動についてのことだった。
 これも最初にニュースが出てから、続報となるニュースは出ていない。そして件の少年、古畑正平は未だ入院中との話。まるで今回のケースと同じではないか。
「匂うな……」
 ぼそっとつぶやく皇騎。同じケースなど、そうそう起こるはずもない。裏に同じ理由が潜んでいなければ。
 そして正平が出てくれば、対となって思い出される者がもう1人――。
「葵……和恵、と」
 キーを叩く皇騎。また画面が切り替わり、和恵に関する噂やデータがいくつも表示される。順調に記録を伸ばしている和恵だが、今もなお記録は伸び続けているらしい。噂では、日本記録にあと僅かまで迫っているという話もある。
(いくら何でも、おかしすぎる)
 それは直感というべきものだった。まあ、和恵が大いなる潜在能力を秘めていて、それが急激に開花した可能性もゼロではない。しかし、同じ時期から急激に記録を伸ばしていた正平が、壊れてしまっているのだ。皇騎が何らかの疑いを抱き、関連性を感じるのも仕方ないことだろう。
「少し、出かけてくるか」
 皇騎はそう言うと、静かに椅子から立ち上がった。

●関係の構築【3F】
 冬美原警察・1階ロビー。警察署を訪れていた皇騎は、ある人物が来るのを待っていた。それは――。
「やあ、待たせたかね」
 皇騎にそう声をかけ、中年男が階段を駆け降りてきた。捜査課に勤務する刑事、田辺良明であった。
「いえ。それより、お忙しい所に申し訳ありません」
 笑みを浮かべ会釈する皇騎。田辺はいやいやと手を振った。
「何、ちょうどきりがついた所だよ」
 皇騎が警察署を訪れたのは、警察の情報も気にかかっていたからだった。そこで知り合いである田辺を訪ねていった、という訳だ。
 別に実家のコネで情報を入手する方法もあったのが、後々の良好な協力関係を意図して、あえてこのような手順を踏んだのである。
「どうかね、腹は減っていないかね?」
「は?」
 皇騎が一瞬きょとんとした。予想外の方向に話を振られてしまったからだ。
「実は昼がまだでね。いいチャーシューメン食わせる店があるんだが、一緒にどうだい?」
 皇騎は腹具合を確かめてみた。多少空いてないこともないし、ここで断って気分を損ねる必要もないだろう。
「お供しましょう」
 そうして皇騎と田辺は、警察署を出てラーメン屋に歩いていった。

●本題へ【4F】
「どうだい、あそこのチャーシュー肉厚だろう? それに大盛りだと、麺が見えなくなるほど並べてくれる」
「ええ、悪くはなかったですね」
 昼食を終えた2人は、近くの公園を訪れていた。さすがに寒いので、カイロ代わりの缶コーヒーをポケットに入れてはいたが。
「で……今日来た理由は何かね。何か、聞きたいことでもあったんじゃないのかね」
 ニヤッと笑って、田辺が言った。さすがに警部補の肩書きは伊達ではないようだ。
「いえ、ただお忙しいのかなと思いまして。例えば、事件に追われているだとか。正月には、目の前でありましたからね」
「うむ、あった。あの事件もあれだ……容疑者に回復してもらわんと、全く先に進まない」
 まるで世間話をするかのように話を切り出す皇騎と、やれやれといった様子で答える田辺。それからしばらく、当たり障りのない会話を続けてから、皇騎はこう切り出した。
「それはそうと、少し思う所があるんですが」
「何かね」
「私見ですが……冬美原で起こっている様々な事件、裏で何か画策している人物が居るのではないかと」
「面白い見解だ。君は推理小説が好きかね?」
 自らの見解を述べる皇騎に対し、田辺が茶化すように言った。が、すぐに普通の表情に戻って言葉を続けた。
「確かに居るだろう。そうとしか思えない事例は、現にいくつも存在している。具体例を挙げる訳にはいかないが……まあ、君なら挙げなくとも分かるだろう。聞いたよ、某財閥の御曹子なんだって?」
 それを聞いて、皇騎は苦笑した。やはり調べられていたか、と。まあ何かと事件に関わっていて、調べられていない方がおかしいのだが。
「ま、それはそれとして……画策する人物を、私は許す訳にはいかないがね」
「それは警察官だからですか?」
 苦笑したまま尋ねる皇騎。田辺が静かに答えた。
「人間だからだよ」

●『飴』の正体【5D】
「警察官である前に、人間として許せないんだ」
「……なるほど」
 何となく、分かるような気がした。
「それと、田辺さん」
「何かね」
「『飴』と聞いて、何か思い当たることありませんか」
 皇騎が『飴』と言った途端、田辺の右手がピクッと動いた。それを皇騎は見逃さなかった。
「何か、ご存知なんですね?」
「……どうして知っているんだね」
「ちょっとしたことで入手したんです。入手先は明かせませんが」
 すると田辺は大きく息を吐き出した。とても深い溜息だった。
「ドリーム・クリスタル、世間ではDなどと呼ばれているようだがね」
「その……Dですか。それはいったい何なんです」
「麻薬の一種だよ。2年ほど前、冬美原で発見された麻薬だ。これを飲めば、たちどころに超人的な力を発揮出来る夢のような薬……それがドリーム・クリスタルたる所以だ。しかし、所詮は麻薬だ。次第に人体に影響を及ぼし、幻覚を見るなど禁断症状に襲われるようになる。夢は夢でも、悪夢へと真っ逆さまだ」
 そこまで話すと、田辺は缶コーヒーを取り出して、プルトップを開けた。
「Dの一番厄介な点は、薬物検査を行っても99%反応が出ないという部分だ。それが捜査の足枷となって、Dの広がりをなかなか抑えることが出来ない」
 田辺が缶コーヒーを一口飲んだ。話はまだ続く。
「ここまで調べるのに、2年だ。2年かかった。それまでに……何人の命が失われたと思うね? だからこそ、許せやしないんだ。裏で画策している人物はね」
「そうでしたか……」
 大きく頷く皇騎。脳裏に、和恵の顔が浮かんでいた。

●帰り際に【6B】
「これ、連絡先です」
 帰り際、皇騎は田辺に携帯の電話番号やメールアドレスなどを記した連絡先のメモを手渡した。
「手伝えることがあれば連絡をください。こちらもお願いするかも知れませんが……」
「うむ、分かった。何かあれば、連絡するかもしれん。とりあえず、旨い皿うどんを食わせる店を見付けたら……」
「そういう話は、メールの方でお願いしたいですね」
 そう言って皇騎は笑った。田辺もニヤリと笑みを浮かべた。

【噂を追って【3】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0442 / 美貴神・マリヱ(みきがみ・まりゑ)
                   / 女 / 23 / モデル 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0464 / 七森・拓己(ななもり・たくみ)
                   / 男 / 20 / 大学生 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 16? / 古木の精 】
【 0800 / 宝生・ミナミ(ほうじょう・みなみ)
               / 女 / 23 / ミュージシャン 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全35場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、冬美原に流れる噂について調べてゆくお話の第3弾をお届けいたします。ちょっと今回、とんでもない事態となっています。参加者全員、場面【1】を除いて全くの個別となっております。それだけではありません。封鎖対象となっている情報が、山のように出ております。封鎖対象となった情報を得られた方で、情報を公開されたいという場合は、次回以降の冬美原依頼でのプレイング欄や自由記入欄において、公開する旨を記入していただければ結構です。
・さて、冬美原に隠されていた真実も段々と明らかとなり、世界が動き始めました。流れをどちらへ傾けるか……それは皆さまのプレイング次第ということで。
・宮小路皇騎さん、21度目のご参加ありがとうございます。ようやく事件を追いかけていた甲斐があった、という感じでしょうか。グッドジョブ、ですね。結果、かなり大きな情報を手に入れることとなりました。当然ながら、『飴』の件は情報封鎖対象です。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。