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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


呪いのアルバイト!?

------<オープニング>--------------------------------------
「なに?これ?」
 許可登録制掲示板の掲載記事のチェックをしながら、雫はすっとんきょうな声をあげた。

タイトル:お手伝いしていただけませんか?  発言者:陽子
『はじめまして。S神社の巫女をしております、陽子と申します。
今日はうちの神社でアルバイトをしてくださる方を募集したいと思い書き込みしました。
内容はあるものを回収する際のちょっとした手作業です。日曜大工程度の技術を持った方だととても簡単だと思います。
ちょっぴり深夜のお仕事になるので夜更かしが苦手な方には向かないかもしれません。
それから、重要なことなのですが、何事にも動じない方で秘密を厳守していただける方が一番の条件です。
よろしくお願いいたしますね。
連絡は TEL○○○○ー××ー×△△●まで。
作業道具(釘抜き等)貸与。 賃金 アフターケア料込み…───』

「………あるものって…アレよね?」
 ぽつり、乾いた呟きがもれる。S神社といえば、恋愛成就のお守りで有名で近隣の女子高生やOLに人気のスポットなのだ。。
 もっとも、一人娘の巫女さん目当てに訪れる男性参拝者も少なくはないらしいが。
「まさか、そういう反面があったとはねぇ…」
 はぁ、溜息を吐きながら、雫は『記事を登録する』のボタンをクリックする。
「…そういえば、あの神社の裏山って何かでそうな雰囲気なのよねぇ…」
 新着のアイコンが付いたタイトルをほくそ笑んで見つめながら、雫はチャレンジャーな希望者の行く末を思い描いていた。

【巫女装束と……?】
「本日はお集まりいただいてありがとうございます、私は当神社の巫女を務めております、神野陽子と申します。どうぞよろしくお願いいたしますね」
 桜ノ杜<さくらのもり>神社──。
 長い髪をうなじの辺りで白い組み紐で縛り上げた巫女装束の少女がぺこり、とお辞儀をし、集まった三人に微笑みかける。
「まずは自己紹介ですね、えっと、あたしは海原みなも、っていいます。一番年下ですし、呼び捨てで構いませんから」
 深い海の底を連想させるような青い髪と瞳の少女が、にこりと笑って挨拶をする。そうすると一瞬、近寄り難い神秘的な雰囲気がふんわりと和んだ。
「……生巫女さんがダブル…」
「はい?」
 自分よりも頭一つは高い青年の小さな呟きに、陽子、みなもの二人がきょとんとして問い返す。その視線に我に返った青年は、慌てた様子で笑い、
「あ、いや、ははっ。何でもないよ、うん。俺、時司椿、21…何となく名前で呼ぶのは勘弁な」
 かしかしと後頭部を掻いて、快活そうに笑う。陽子達と同じような神主装束の袖口から覗く小麦色の肌が好青年然としていた。
 それゆえに、椿という優雅な花の名前で呼ばれるのに抵抗があるのだろう。自己紹介の後、照れくさそうに付け加えていた。
「うちは淡兎・エディヒソイ、17や。こないな格好してんねんけど、日本語はバッチリや」
 にかっ、少年というより青年と呼んでも差し支えない容姿はその体に流れている北欧の血の賜物であろう…何故かなまりのある言葉で笑いかけると、銀髪をさらりと揺らし眼鏡の奥の青い瞳を細める。
「そうそう、うちの事はエディーって呼んだってや、頼むで」
 容姿とのあまりのギャップに唖然と見つめる一同を前に、エディーは両手を合わせ拝むような真似までしてみせた。
「…ええっと、お仕事の内容はあるものの回収と言いましたが…」
 しばしの沈黙の後、気を取り直した陽子が説明を始める。そこへみなもがはい、と手を挙げ、
「もしかして、噂の黒いお守り袋ですか?」
 みなもの言葉に陽子は一瞬驚いたような表情になる。他の二人も興味深げな視線をみなもに向けてきた。
「ええ、そうです。ネット上でも噂になっているようですね…。丑の刻参りというものがあるのですが…」
「んーと、確か…あのわら人形を五寸釘で刺してカーンカーン……ってやつ?」
 陽子の言葉に椿が眉間に皺を寄せながら答える。何かのテレビ番組で見たがあまり気持ちの良いものではない。
「…この神社のお守り袋の内、黒い袋のをわら人形の心臓の辺りに置いて釘で打つと、必ず復讐できるとか…おどろおどろしい噂、聞きましたけど…」
 さすがにそれ以上は悪いと思ったのか、みなもは言葉を濁す。事前に雫やネット上でかき集めた噂は、その程度ではなかったが。
 赤いお守り袋をおそろいで持つと必ず結ばれる…といった可愛らしいものから、神社の裏には恐ろしい鬼が出る…と言った神社の噂まで、色々である。
 まぁ、あくまで噂に過ぎない、と思ってここまできたのだろうが…だが、陽子は否定するでもなく曖昧に笑って、
「ある意味では真実なんですよね…それ。実はお願いしたいのはそのわら人形の回収なんです」
 苦笑しながら、作業道具となる釘抜きや、回収したわら人形を包む為の白い紙をテーブルの上に並べ、どうぞ、と促す。
「なーる程ねぇ…内容の割に実入りがええから何かあるやろとは思っとったが…」
 早速、与えられた道具を物色していたエディーの手がピタリ、と止まる。それに遅れるようにしてゴトリと重たい音がし、他の二人の視線もそちらに行く。
「…なんで、こないな物騒なもんがあんのや?」
 呆然として問うエディーに、やはり陽子はにこやかに答えた。
「もしもの時の為、です。時々、犯罪者さんが裏の雑木林に隠れることがありますので」
 何事にも動じない、つまりはそう言うことか、と三人は痛いほど理解したのだった。

【龍と拳銃使い】
「ああ…なんで男と…」
 無数に散らばっているであろうわら人形を回収する為二手に分かれる事になり、ペアとなったエディーと椿だったが、和やかムードとは行かなかった。
「そりゃ、うちの台詞や。何が悲しゅうて、アンタみたいな酒臭いヤローと一緒に山ン中歩かなあかんねん」
 女性に対してのそれとは随分違う態度で、エディーは夜更かしする為睡眠薬代わりに酒を飲んで爆睡してから来たという相手にツッコミを入れていた。
「……酒臭くて悪かったよ」
 ぽつりと返ってくる言葉にあえて答えず、油断無くあたりを伺う。始めて袖を通した神主装束の懐に手を入れ、冷たい感触を何度も確かめる。
 陽子が「もしもの時の為」に用意した拳銃を受け取ったのは彼だけだった。普通の少女に見えるみなもも、「龍」としての力を持つという椿も拳銃を扱えないから、と辞退したからだ。
 幸いというか、ハワイの友人からやはり「もしもの時の為」に講習を受けていたエディーは拳銃を扱うことが出来る。
 霊的なものは椿が蹴散らし、実体を持つ者はエディーが、と役割を決めて呪具を回収していた。
「…それにしても、この辺り、妙に霊が多くないか?仮にも神社の裏山だろう?」
 しばらく無言で雑霊を蹴散らしていたらしい、椿が解せないという口調で呟く。それに答えようと口を開きかけた時、エディーの動物的勘とも言えるものがそれを捕らえていた。
「……あれ、なんやろ?」
 生い茂る木々が少しだけ開けた場所。
 青白い月の光の下、幾重にも注連縄を結ばれた巨石のまん前で、枝ぶりの良い木で今まさに、首を吊ろうとしている男が居た。
「…っつ!この感覚は…」
 つられてそちらを見た椿の顔が引きつっている所を見ると、霊的なものも関与しているのだろう。
 だが、それをあれこれ問いただす暇は無かった。男の足が宙を蹴る。びぃん!と勢い良く張る荒縄。
「やめろーっ!」
 ズダーン!!
 叫んだ椿がおそらく力を放ったのだろう、彼の全身からほとばしる淡い光を追いかけるように、エディーは銃を撃っていた。

【桜ノ杜の秘密】
「殺生岩というものを御存知でしょうか?」
 裏の森での自殺未遂騒ぎも、本人を惑わしていた悪霊を椿が祓い、首を締め上げていた縄を撃ち抜いたエディーの活躍で無事収まり、普段着に着替えた面々に陽子は静かな様子で尋ねる。
「確か、九尾の狐が退治された時変化した岩だったっけ?」
 椿のこめかみの辺りをぽりぽり掻きながらの答えに深く頷いて、
「はい。岩に変化しても近くのありとあらゆる生き物を死に至らしめるのに心を痛めたある高名な僧が、清めの錫杖で打ち据えた所、いくつかのかけらに砕け散りあちこちに飛んでいったのです…その一つが…」
「…裏にあったあの注連縄で囲まれたあの岩っちゅー訳やな?」
 腕組みをしながら言葉尻を奪ったエディーに陽子は肯定すると、更に話を続ける。
「私達は代々、封印を施しながら見守ってきたのですが、砕けて力が弱まったといっても邪なものには変わりはなくて…血を求める思念に雑霊が影響されて…先ほどの自殺未遂の方に時司さんが見たという黒い影もそんな雑霊の一種でしょう」
「じゃあ、あたしがネットで見た色んな噂も、同じように岩の思念に引かれて…って事なんでしょうか?」
「そうなのかも知れません…でも、ここのお守りにはある程度、邪な思念を吸い取り浄化するように力をこめてあるはずなんです…だから、本来ならお守りを手にした時点で恨みとかそういうものは消えるはず…なんです」
 だから、お守りを手にした時点でお守りを呪具に使うなどという噂が流れるはずがないのだ……──。
 眉間に皺を寄せて黙り込んでしまった陽子が顔を上げる。その視線を追えば、境内で年老いた宮司が集めた呪具へ炎による浄化を施していた。
 朗々と流れる神への言葉。思わず神妙な表情になる三人に、陽子は聞こえるかどうか分らないくらいの声音で呟いた。
「…何者かが、神域を汚そうとしている…?」

【エピローグ】
「本当にありがとうございました、エディーさん」
「ええて、実入りのいいアルバイトでうちも得したし。こんなんでええならいつでも呼んだってや」
 別れしな、ぺこりと頭を下げる陽子に、エディーは上機嫌で応える。実際、深夜とはいえ数時間の間で2万近くの収入は学生にとっては願っても無い美味しいバイトである。多少の危険くらい問題ではなかった。
「でも、エディーさんにはあの方を運んでいただいたりしましたし…」
 自殺未遂者を社務所まで運ばせてしまったと謝ってくるが、もともと自ら進んで希望したのである。
「ほんまに大丈夫やて、細っこいように見えとっても、うちはほんまは力持ちなんやで…な〜んて」
 こちらの話に大真面目に耳を傾ける陽子が可笑しくて、ぱたぱたと手を振りながら笑ってしまう。
「うち、重力操れんねん。せやから重い、軽いいうんは関係ないんや」
 身長の差で見上げてくる相手にかがんで視線を合わせてそう伝えると、やっと陽子は安心し微笑み返してくる。
「あ…、もしよろしければこれ、どうぞ。ここのお守りです」
 にこにこと手渡されたのは桜の形をした可愛らしいお守り。飾り紐のに小さな鈴がついていて女の子には好まれそうなデザインだった。
「へぇー、携帯のストラップとかによさそうな感じやな」
 自分にはちょっと可愛すぎないか、というのが顔に出ていたのだろうか、陽子はくすくす笑うと小さく付け加える。
「ご自分で使わなくとも、彼女さんに差し上げても構いませんよ」
 さらっと言われ、思わずエディーは眼鏡の奥の瞳を丸くして、やがて愉快そうに笑い出す。
「…ちゃー。かなわんわ〜。そんなら、ありがたくいただきます」
 おどけたように言って、既に挨拶を済まし、原チャリにまたがって遠ざかっていく椿の後を自分も歩き出す。
「またなー、陽子さん」

 朝焼けの清浄な空気を胸一杯に吸い込んで、たまにはこんな朝早くに散歩してみるのもいい、とエディーは思っていた。

<おわり>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1252 / 海原みなも / 女 / 13 / 中学生】
【0314 / 時司 椿  / 男 / 21 / 大学生】
【1207 / 淡兎・エディヒソイ / 男 / 17 / 高校生】
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■         ライター通信          ■
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 はじめまして。新米ライター聖都つかさと申します。このたびは初の作品にお付き合い頂いてありがとうございました。
 手探りで書き始めたので、至らないところも多々あるかと思いますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
 尚、【巫女装束と…?】【桜ノ杜の秘密】以外はキャラ毎にルートが別になっていますので、読み比べると微妙に違いがあるかと思います。よろしければご覧下さいませ。
 ちなみに桜ノ杜神社は、東京にある櫻●神社とは一切関係がありません(苦笑)。

 エディーさん、キャライラストのシャープな印象と大阪弁というギャップに思わず驚きつつ、とても魅力的なキャラさんだと思いました。何分、大阪弁とは程遠い地域の人間なのでエセな大阪弁になっているのが心苦しいのですが…。

 ではでは、またもし機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
 このたびは本当にありがとうございました。