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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【3】
●オープニング【0】
「おかしいんだよね」
 1月末の放課後、『情報研究会』会長の鏡綾女は部室でぽつりとつぶやいた。その表情は何か釈然としない様子。
「何がおかしいの、綾女さん?」
 副会長の和泉純が尋ねると、綾女が堰を切るように一気に喋り出した。
「決まってるでしょ、お正月のいくつかの事件のことだよ。神薙北神社での放火未遂に、神薙南神社での傷害未遂。それにお姉ちゃんの番組のスタッフ襲った奴……どれもこれも、逮捕された後の正確なニュースって流れてきてないよね? 入院したなんて噂は耳にしたけど……」
 そうなのだ。いずれの事件も進展したとのニュースは聞こえてこなかった。聞こえてくるのは、噂ばかり。いったい何がどうなっているというのだろう。
「ね、気になるよね? ね?」
 くるりとこちらに顔を向け、同意を求めてくる綾女。確かにそれも気にはなる。だが気になるといえば、去年から懸念となっている事柄もいくつか見受けられる訳で。
 さて、何から調べてみたものか――。

●雪が舞う、雪が舞う【1】
 その日――朝から冬美原は、曇り空の中に時折雪が舞うという天気だった。幸いにして雪が積もることはなかったが、それでも寒さは強かった。何しろ、雪が舞うほどだったのだから。
 けれども、このような天候の中でも、熱心に物事を調べようという者たちは居る訳で――。

●露店を求めて【2H】
「は、露店ですか? うーん、そういうのは旧市街じゃないかなあ」
「ありがとう、旧市街って西口っ?」
「いえ、東口です」
「そうっ、ありがとうっ!」
 冬美原駅構内。駅員と言葉を交わしていたエスニックな顔立ちの細身の女性は、駅員に礼を言うと大急ぎで東口から飛び出していった。
 女性の名は美貴神マリヱ、国際派ファッションモデルである。3日後には、仕事のために日本を出立する予定となっている。
 それゆえ今は準備を要する時期であるはずなのだが、何故か冬美原にやってきているマリヱ。いったい何が目的だというのか?
 それは、ある品物を探すためであった。その品物とはストラップ――よく携帯電話なんかにつけている物だ。
 冬美原に流れている噂に、面白い形のストラップが流行っているという物があった。その噂を耳にしたマリヱも、ちょうどストラップが欲しいと思っていた所。そこでせっかくだし、日本に帰ってきた記念として買ってゆこうと思い立ったのである。
 とはいえ、どこに行けば手に入るのか、マリヱにはまるで分からない。そこで手始めに駅員に聞いてみたのが、先程のやり取りだ。
 東口から飛び出して、駅前を歩いていると、さっそく露店をいくつか発見した。
「あったーっ☆」
 喜び勇んで露店へ向かうマリヱ。意図も簡単に見付かったものだと、その時は思っていた。が、喜びはたちまち落胆へと変わってしまった。
「うちじゃストラップは扱ってないよ」
 露店の主人から、マリヱはそう言われてしまったのである。どうやらこの並びの露店では、どこもストラップを扱ってはいないということだ。
「……どこか、ストラップ扱っている所、知りませんかぁ?」
 やや甘えるように、店主に尋ねてみるマリヱ。すると効果てきめん、店主は顔を緩ませながら、こう教えてくれた。
「そうだなあ……もうちょっと先にある露店なら、扱ってるかもしれないな」
「もうちょっと先って、あっち?」
「ああ、あっちだ。200メートルくらいかな?」
「ありがとうねっ!」
 マリヱは短く礼を言うと、教えてもらった方角へ走っていった。だが200メートル所か、300メートル進んでもそれらしい露店は見当たらない。影も形もなかった。
「あれぇ?」
 首を傾げつつ、ゆっくりと引き返してみるマリヱ。そして200メートル地点まで戻ってきた時だ。地面に、何か記されていることに気が付いた。
 立ち止まり、しげしげと地面を見つめるマリヱ。そこには何故か、微分の計算式が記されていた。
(落ちてるって言うか……残ってるって言った方が正確なんじゃあ?)
 きっと噂がどこかでねじ曲がってしまったのだろう。マリヱはそう自分に言い聞かせた。
 でも、こんな物が残っているということは、確かにここに件の露店があったということだろう。けれども、今はどこへ行ったというのか。
「あれー? 今日は露店出てないねー」
「たぶん他のとこ行ってるんじゃない? あたし、そこまで行く気ないけど。んじゃ、また今度にしよっか」
 と、その時、女子高生らしき2人組の会話が、マリヱの耳に入ってきた。マリヱはすぐに振り返ると、女子高生たちに話しかけた。
「ねっ! ここの露店、どこに居るか知ってるのっ?」
 突然話しかけられて、驚いたのは女子高生たちの方である。
「えっ? あっ……知ってますけど……」
「どこっ!? 知ってるなら、ぜひとも教えてほしいのっ!」
「えっと確か……新市街の、ディスカウントストアの前でも出してるって言ってた気が……」
「そこにはどう行けばいいのっ?」
「西口のバスターミナルで、5番乗り場のバスに乗って……」
 マリヱの勢いに気押されながらも、行き方を説明する女子高生。マリヱは一通り行き方を聞くと、女子高生たちに礼を言って、今度は西口へ向かっていった。
「絶っっ対! 見付けて手に入れてやるんだからっ!!」
 そんなことを叫びながら。ここまで来たら、もはや半ば意地となっていた。

●発見!【3G】
 西口のバスターミナル、5番乗り場のバスに飛び乗ったマリヱは、女子高生から教えられた通りのバス停でバスを降りた。そしてそこから少し歩くと、前方に大きな建物が見えてきた。
「これがディスカウントストア、かな?」
 つぶやくマリヱ。間違いなくそれは、話にあったディスカウントストアであった。その証拠に、店の前に露店がいくつも並んでいたのだから。
「やっ……と見付けたぁーっ☆」
 顔をほころばせ、駆け出してゆくマリヱ。今度の喜びは、落胆には変わらなかった。
「いらっしゃい! お嬢さん、うちのストラップどうだいっ?」
 マリヱが近付くと、威勢よく店主の1人が声をかけてきた。見ると3つの露店が、似たような品物を集まっていた。まさしく噂通りである。
「よかったぁ〜、ずっと探してたのっ!」
 にっこり笑って言い放つマリヱ。そうして並んでいるストラップに目をやった。
「……あれ?」
 意外、といった声をマリヱが出した。想像と違うといった風にも聞こえる。
 マリヱの目の前には、様々な形のストラップが並んでいる。それはいいことだ。でも、その形にはどれも見覚えがあった。
「これって……」
「どうだい、面白いだろう? 人呼んで、数学記号ストラップ! こんなの、他の所じゃ売ってないよっ!」
 得意げに言う店主。確かに『π』や『∫』といった形のストラップを扱う所は、まずないだろう。けど面白いかと問われたら、判断に苦しんでしまう。
(面白いの基準が違うのかなぁ?)
 マリヱはそんなことを思ったが、せっかく探し歩いてきたのだ。とりあえず1つ買って帰ることにした。
 しばし思案してマリヱが選んだのは、『∬』という形のストラップだった。探していたという言葉が効いたのか、ちょっとだけ安くしてくれた。
「毎度あり! これ持ってると、意外な時に面白いことが起こるかもよ」
 マリヱはお釣を受け取る時、ちらりと店主の腕を見てみた。腕捲くりをしたシャツの下から、刺青が覗いていた。それを見たマリヱは深く納得をした。
 刺青で、腕にオイラーの公式が入っていたのである。

●……おや?【4G】
 ストラップをようやく手に入れて、マリヱは冬美原駅に戻ってきた。ともあれ目的を果たすことが出来て、嬉し気な様子であった。
「あ〜、ほっとしたら喉が乾いちゃった。お茶を一口……っと」
 マリヱは自動販売機に向かうと、どの飲み物にするかを決めてから、コインを入れた。そしてボタンを押そうとした瞬間――虫の知らせを感じた。
(え?)
 きょろきょろと周囲を見回すマリヱ。けれども、危険の徴候はどこにも見当たらない。不思議に感じつつも、マリヱはボタンを押した。
 すると、自動販売機から物凄い音が聞こえてきて、周囲を歩いていた者たちの視線が集まってきた。
 何ということか、大量の缶が自動販売機の取り出し口から溢れ出してきたのである。
「……何でぇ?」
 呆然として、マリヱがつぶやいた。さてはて、いったいどうしたことやら――。

【噂を追って【3】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0442 / 美貴神・マリヱ(みきがみ・まりゑ)
                   / 女 / 23 / モデル 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0464 / 七森・拓己(ななもり・たくみ)
                   / 男 / 20 / 大学生 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 16? / 古木の精 】
【 0800 / 宝生・ミナミ(ほうじょう・みなみ)
               / 女 / 23 / ミュージシャン 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全35場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、冬美原に流れる噂について調べてゆくお話の第3弾をお届けいたします。ちょっと今回、とんでもない事態となっています。参加者全員、場面【1】を除いて全くの個別となっております。それだけではありません。封鎖対象となっている情報が、山のように出ております。封鎖対象となった情報を得られた方で、情報を公開されたいという場合は、次回以降の冬美原依頼でのプレイング欄や自由記入欄において、公開する旨を記入していただければ結構です。
・さて、冬美原に隠されていた真実も段々と明らかとなり、世界が動き始めました。流れをどちらへ傾けるか……それは皆さまのプレイング次第ということで。
・美貴神マリヱさん、3度目のご参加ありがとうございます。噂になっていたストラップは、ああいう物でした。さて、意外でしたか? 最後のあれに関しては、アイテムの詳細説明を読むと納得出来るかもしれません。
・次のアイテムをお送りします。次回以降冬美原でプレイングをかけられる際、臨機応変にアイテムをご使用ください。
【19:数学記号携帯ストラップ】
・効果時間:所持中永続
・外見説明:プラスチック製の様々な数学記号がついた携帯ストラップ
・詳細説明:一見、多少風変わりな携帯ストラップ。しかしこれを持っていると、意図しない時に『何か』が起こることがある。ただしその『何か』は、よいことかもしれないし、悪いことかもしれない。

・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。