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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 それは土の中に

------<オープニング>--------------------------------------
 霊峰八国山。
 東京郊外にあるこの山に住む妖怪たちは、何か困った事があるとすぐに草間武彦の元にやってくる。
 今日もまた一匹…
 と思いきや、今日、草間興信所のドアを叩いた者は妖怪ではなかった。
 厚手のジャケットを着こなした若い男だが、彼の胸元は爪でえぐられたような傷が、三筋出来ていた。
 「よう、あんた。
  ちょっと相談に乗ってくれないか?」
 男は中に居た草間に声をかける。
 飄々とした風を装っているが、胸の傷は致命傷になりかねないと草間は思った。
 「お、おい、流砂か?
  どうしたんだ一体。」
 かつて霊峰八国山で松茸泥棒をしていた盗賊、式紙の流砂。
 彼は草間達と1戦交えた後、松茸泥棒から手を引き、霊峰八国山で知り合ったみなしごの子ネズミ妖怪達の後見人的な事をしていたのだが…
 「見ての通りさ。
  そういうわけで、ちと俺に代打を出してもらいたくてな。」
 ふっと笑って言う男の顔色は真っ青だった。
 「わかったから、とりあえず事情を話せ。
  話の途中で死ぬなよ。」
 草間の言葉は半分以上本気だった。
 「そうだな、あんたが依頼を受けるまでは死なないでいてやるよ。」
 流砂は語り始める。
 数日前の事だった。
 流砂がたまに世話をしている土竜(モグラ)ネズミの兄弟、忠一と忠次は、いつものように霊峰八国山の地面の下で平和に暮らしていたのだが、そこに招かざる客がやってきた。
 爪と牙、そして大きな体を持った四足の客達は『土食らい』と呼ばれる一族で、知能もやさしさも持たない怪物達だった。
 周辺のものを食い尽くしては移動を繰り返す『土食らい』達は、土竜ネズミの兄弟も標的にしている。
 なので『土食らい』に立ち向かった流砂なのだが、何匹か退治したものの傷を負って逃げてきたという。
 「地上におびき出して戦ってみたんだが、結構数が居てな。
  何匹かは退治したから、後、頼むわ。」
 流砂は静かに言う。
 「お、おい。
  わかったから死ぬなよ。」
 怪物退治の助っ人より、まず医者を呼ぼうとする草間だった。

 (依頼内容)
 ・『土食らい』という怪物の団体が地面の下で暴れて、霊峰八国山の地面の下を住みかとする妖怪達が困っています。誰か助けてあげてください。
 ・式紙の流砂という男が重体の為、医者の方も募集です。 
 ・式紙の流砂、土竜ネズミの兄弟は『畑を荒らすな!』に登場しています。参照してみるのも良いかもしれません。

 1.八国山へ

 何気にあわただしい、草間興信所。
 「武彦さん、おはよう…ていうか、どうしたの!?」
 シュライン・エマが、いつものようにバイトにやってきた。
 彼女は草間の脇に居る、胸に傷を負った男を見て驚く。見覚えのある盗賊だ。
 「死にかけてるみたいですね。」
 斎・悠也が、シュラインと一緒に居た。
 「おお、お前ら、丁度良い所にきたな。」
 「とにかく、話は後ね。」
 てきぱきと応急手当を行なうシュライン。
 「おいおい、まだしばらくは死なねぇから、あせるなよ。」
 流砂は、ふっ、と笑う。
 「死ぬとか、軽がるしく言っちゃだめ。」
 言いながらシュラインが応急手当をする間に、草間が彼女達に事情を説明した。
 「なら、尚更、土竜ネズミの為にも死んじゃだめよ。」
 流砂の傷が余りに深いので、シュラインは心配そうな様子を隠せない。
 「死ぬよりは生きていた方がいいですね。
  …ともかく、居合せたのも何かの縁です。
  お手伝いしましょう。」
 話を聞き終えた悠也が、流砂の様子を伺いながら言った。
 「この状況で『じゃあ、俺はこれで』って帰ってく奴だったら、私は絶交するわね。
  それより武彦さん、医者のアテはあるの?」
 相変わらず死にそうな様子の流砂を見ながら、シュラインが草間に尋ねる。
 「ああ、それは何とか。」
 レイベル・ラブという医者と話がついたと、草間は言う。
 また、護堂・霜月が先に八国山へ向かったとの事だ。
 「なるほど。しかし、『土食い』をどうします?
  話を聞いた感じだと、地上におびき出した方が戦いやすい感じがしますが。」
 悠也の言葉に、そうね。とシュラインも頷く。
 「…まあ、地中に居られるよりはマシって程度だな。」
 流砂が小さくつぶやいた。
 「えーと、霜月さんが先に山へ行ってるのよね?
  とりあえず、あの人と合流してから話しましょうか。」
 流砂の容態は気がかりだが、医者も来るというし、ひとまず山へ行こうとシュラインは言った。
 悠也に異存は無く、2人は山へ向かう事にする。
 「あ、そーだ、武彦さん。
  火炎瓶とか灯油の固まりとか、何か火の着きそうなもの無いかしら?
  上手く行くかわからないけど、土食らいに食べさせて、腹中で引火出来ないか試してみたいんだけど。」
 出かける寸前に思いついたシュラインが草間に尋ねる。
 「なるほど、面白いな。
  ちょっと待ってろ。
  確か、高純度のアルコールと霊気を含ませた油を混合した秘薬がどっかに…」
 言いながら、草間は奥の倉庫に入っていった。
 倉庫の中の事なら、私の方が詳しいかも。と、シュラインも後を追う。
 「そういえば、この前整理した時に見かけた気がするわ。」
 シュラインがそれらしい瓶を、幾つか見つけた。
 「その火薬瓶、火力がやたら強いから気をつけろよ。」
 草間の言葉に、シュラインは頷く。
 「じゃ、行きましょう。悠也。」
 書斎に帰ってきたシュラインは、悠也に言った。
 草間は、流砂をほっとくわけにも行かないし、他の助っ人とも連絡を取るから残るという。
 なので、シュラインと悠也の二人は草間達を残して霊峰八国山へと向かう。
 「俺は、俺のやる事をやるか。」
 草間は再び、人の手配に奔走するのだった。
 一方、一足先に山についた護堂・霜月は、地中妖怪が皆、長老の所に逃げ込んだ事を確認した。
 ならば、シュライン達が来るまでの地中妖怪達に話を聞いておこうかと、霜月は周辺の妖怪に聞いて回る。
 「俺が朝ご飯にアリでも食べようかと思ったら、あいつらがやってきたんだ。」
 アリクイの様に長い舌をした土竜の妖怪、『アリクイ土竜』が話し始める。
 「食われたくないから、俺があわてて逃げたら、あいつら俺の代わりに巣ごとアリ達を食べやがったんだ。
  あいつら、おかしーよ。
  自分が必要な分だけしか食べないのが、山のルールじゃねーか。
  あいつらは、趣味で食ってやがるぜ。」
 地面から上半身を半分だけ出してしゃべるアリクイ土竜は、舌が長くて言葉をしゃべる以外は普通の土竜に見える。無害な事以外、取り柄は無さそうだった。
 こうしてシュラインと悠也が来るまで、霜月が色々聞いた感じ、『土食い』は主に山の南部に多く現れる事。同時に行方不明になった地中妖怪も南部に多い事などがわかった。
 「確かに、東京らしからぬ所ですね。」
 ようやくやってきた悠也は、のどか過ぎる光景に感想を述べる。
 ぱっと見渡した限り、無害そうな妖怪達が並んでいる。
 地潜り狸という地中妖怪などは、しゃべらなければただの狸にしか見えなかった。
 まあ、そういう所なのかと悠也は思った。
 シュラインは、土竜ネズミ達が無事かどうか辺りを探す。
 土竜ネズミの兄弟、忠一と忠二は、すぐに見つかった。
 「耳が良いお姉さん、お久しぶりです。」
 土竜ネズミ達が言った。
 「あんた達、大丈夫だった?」
 見た感じ、怪我などはしてないようである。
 「でも、紙のお兄さんが怪我してどっかに行っちゃいました…」
 多分、流砂の事を言っているんだろう。
 彼なら大丈夫だと、シュラインは土竜ネズミ達に言った。
 シュラインの言葉を聞いて、土竜ネズミ達は安心したようである。
 後は、『土食らい』を退治すれば、本当に安心なのだが…
 「で、どうする?
  話を聞いた感じだと、南の方で『土食い』を退治して、逃げ遅れた妖怪がもし居るなら保護するのが良いかなって思うんだけど、どうかしら?」
 一通り状況を聞き、シュラインが霜月と悠也に言う。
 「俺は賛成です。」
 「そうですな。」
 悠也と霜月は賛成する。
 「でも、『土食らい』って結構危ない奴みたいよね。
  ここの妖怪達は安全かしら?」
 地中妖怪達が多く集まってるこの場所を狙って、『土食い』が襲ってこないか、シュラインは心配だった。
 「それは、無用の心配でしょう。」
 答えたのは長老でも陸奥でもなく、悠也である。
 「大丈夫にゃ。
  悪い子が来たら、おしおきするにゃ。」
 長老が言う。
 その通りだと、悠也は思う。
 悠也の血は、長老化け猫の強い妖気を感じていた。
 相手が知能の無い化け物妖怪なら尚更、本能的に長老を恐れて近づかないだろう。
 例えやって来たとしても、長老をどうにか出来るとは思えない。
 「そう?
  じゃあ、私達行くけど、気をつけてね。」 
 ここの妖怪を知ってるだけに、まだ心配なシュラインだったが、陸奥達も居るし大丈夫だろう思い、了解した。
 「皆さんも、気をつけて下さい。」
 『土食らい』を退治に向かう三人を、陸奥が見送った。
 
 2.『土食らい』退治

 八国山の南部。
 「私、『土食らい』を探してみるわね。」
 シュラインが言った。
 自分は戦闘力が特にあるわけじゃ無いけれど、耳は良いので地面の中を動くものを探す事は出来ると、彼女は言う。
 見つけた後は、あんた達の仕事だからね。と、霜月と悠也に言う。
 「虎と戦いたくても、絵の中から出さなくては戦いようがありませんしな。
  よろしく頼みます、シュライン殿。
  見つけた後は山の自然をなるべく傷つけない程度に派手にやるとしよう。」
 ふっふっふと笑うのは霜月だった。
 「一休さんじゃあるまいし…
 ともかく、俺が周囲に結界を張っておきますから、それなりに思う存分やっていいですよ。」
 霜月が派手に動くなら、自分はサポートに回ると悠也は言う。
 「それじゃあ、始めましょうか。」
 シュラインは言って、三人は静かに歩き始める。
 数分、周囲を探索する。
 「…近くに、何匹か居るわ。
  地面が震えてる。
  何か大きいものが地面を掘ってる感じ。間違いないと思うわ。」
 足を止め、シュラインが小声で言った。
 霜月が無言で、持っていた袋から何かの塊を取り出す。
 「来る途中に肉屋で買った鶏の肉ですが、まあ、囮の餌には充分でしょう。」
 血が滴るような鶏の生肉を、霜月は地面に浅く埋める。
 地味な餌だと思ったが、余り準備の時間も無かったし仕方が無い。
 「結界を張ります。シュラインさん、中にどうぞ。」
 悠也が蝶型の和紙に息吹をかける。
 紙の蝶は、生きているかのように空を舞った。
 悠也は蝶を媒体にして、結界を張る。
 シュラインは結界の中に入り、悠也は少し下がった所で様子を見る。
 「孔雀明王風天舞。」
 霜月は何やら唱えると、空に浮き上がった。
 結界の中に避難するシュライン、空から攻撃に回る霜月。少し離れた所で状況に応じてサポートに回る悠也といった構図だ。
 こうして準備を終えた三人は、『土食らい』が来るのを待つ。
 「近づいてきてるわ!」
 シュラインが叫ぶまでも無く、地面を伝わる振動は他の二人にもわかった。
 地面が波打って、近づいてくる。
 土の中の『それ』は、霜月が仕掛けた鶏肉の所まで接近し、食らいつく。
 地面の浅い所まで来たので、『それ』の厚い毛に覆われた背中が地面に出た。
 霜月は間髪入れずに風天神を召還し、カマイタチで『土食らい』を撃った。
 『うぉーん。』
 霜月の放ったカマイタチに背中を切り裂かれた『土食らい』は、泣き声を上げた。
 「これは、いかん。」
 孔雀明王の術で空に浮いていた霜月は思わず頭を抱える。
 『土食らい』の泣き声はただの泣き声ではない。聞く者の心を惑わし恐怖を与える妖力のようだ。
 その泣き声を聞いて集中の途切れた霜月は術が途切れ、地面に墜落する。
 それ自体は大したダメージで無かったが、地面に落ちた彼の目前には『土食らい』が迫る。
 そこに、風の刃が流れた。
 悠也が放った風刃が、『土食らい』を切り裂いたのだ。
 だが、致命傷には届かない。
 再び泣き声を上げる『土食らい』。
 「…全く、嫌な事がある度に泣くのでは駄々っ子と同じですね。」
 悠也が苦しげに言う。
 「あいつ、背中側は丈夫みたいね。
  腹部を狙ってみたら、どう?」
 結界の中で様子を見ていたシュラインが言う。
 「中途半端に攻撃して、泣かれるのも面倒ですしな。
  一気に片付けるとしよう。」
 霜月が答えて、特大のカマイタチを放つ。
 カマイタチは『土食らい』の腹部から喉元にかけて切り裂く。
 『土食らい』は、泣き声を上げる事すらなく倒れ、動かなくなった。
 「なるべく、泣き声を上げさせない事が課題ですね…」
  悠也の言葉に、他の二人も頷いた。
 腹部を狙って、一撃必殺といった所だろうか。
 「まだ、何匹か居るみたいよ。
  がんばって地道に退治しましょう!」
 結界の中に居て、泣き声の影響を受けていないシュラインは、一人、元気そうだった。
 霜月と悠也が回復するまで少し待ち、三人は『土食い』退治を再開した。
 今の戦闘で、泣き声に術を遮られて地上に落された霜月は、それならばと鋼糸を張って空に陣取る。
 一方、シュラインは草間にもらったよく燃えそうな瓶を餌と一緒に置いて、『土食い』に食わせてみたが、上手く引火出来ずに苦戦する。
 それでも、三人はしばらく『土食い』を退治し続けた。
 シュラインが探し、霜月が撃ち、悠也がサポートする役割分担にも慣れた頃、しばらく『土食らい』の気配は消えた。
 だが…
 「来る!
  今までのより大きいわよ!」
 シュラインが強い口調で言った。
 『土食らい』らしき気配が、急速に近づいてくる。
 大きくて速い。
 「二人とも気をつけて!」
 緊張感のこもったシュラインの声に、霜月と悠也も頷く。
 振動が二人にも聞こえるようになり、地面が波打って近づいてくる。
 「確かに…大きい!」
 霜月が鋼糸に乗った。
 「親玉が、怒って出て来たのかも知れませんね。」
 ここが使い所だろうと、悠也が流砂から受け取った紙を蝶にして、結界を張る。
 悠也が結界を張るとすぐに、『土食らい』は姿を現し、シュラインと悠也の居る結界を襲った。
 体長は5メートル程。
 他の『土食らい』の倍以上の大きさに思えた。
 「迷わず成仏致せ!」
 上空から、霜月のカマイタチが『土食らい』を切り裂く。
 『うおぉぉーん』
 特大の泣き声が響き渡る。
 山中に響く、泣き声。
 山に居た者達は、皆、声を聞いた。
 『土食らい』が暴れて、霜月の張った鋼糸が切り裂かれた。
 再び地面に落ちた霜月に『土食らい』が迫る。
 
 3.それは土の中に

 「…最後の最後で、貧乏クジを引いてしまいましたかな?」
 護堂・霜月は仲間達につぶやいた。
 「見方によっては当たりクジとも言えますよ。」
 答えたのは斎・悠也だった。
 「当たりでも貧乏でも、どっちでもいいわよ…」
 とにかく目の前にいる特大の『土食らい』を何とかしましょうと、シュライン・エマは言った。
 3人は、悠也の張った結界に一時避難していた。
 「物理的な攻撃にはかなり強い結界だと思うんですが、あんまり持ちそうにもありませんね。」
 どうしたものかと、悠也は言う。
 流砂の和紙を借りていなかったら、結界もすでに壊れてそうだ。
 先程から、『土食らい』は結界に体当たりを繰り返す。
 何の細工も無いただの力押しなのだが、それで、結界が破れかけているのは事実だ。
 「もう少し回復すれば、多少はやりようも…」
 『土食らい』の叫び声を間近で聞いて、精神的に強いダメージを受けた霜月が苦しげにつぶやく。
 だが、『土食らい』は彼の回復を待ってはくれないようだった。
 あと2回も『土食らい』の体当たりを受けたら、結界は破られそうである。
 そんな現場に東の方から、女性が2人やってきた。
 20台の女性と、まだ中学生位の少女である。
 レイベル・ラブとササキビ・クミノだった。
 「なんだ、やけに大きいではないか。」
 レイベルは、5メートル程の体長がある『土食らい』を眺めた。
 「物理的な攻撃である限り…強さは問題では無いです。」
 ササキビ・クミノはそう言って駆け出し、結界と『土食らい』の間に割って入る。
 『土食らい』がクミノに衝突する寸前、それは彼女を取り巻く障壁に遮られ、止まった。
 「大丈夫。物理攻撃は私の体には通りません…
  私の周りの『障壁』は、そういうモノ。」
 クミノは、顔色一つ変えない。
 「それは…便利な事です。」
 つぶやいたのは、霜月だった。
 「そして、受けた攻撃に応じて現代兵器を召還します。」
 小さく言うクミノの手には、いつのまにか大型の機関銃が握られていた。
 「そんな大きい銃なんか、使えるの…」
 呆れているのはシュラインだった。
 「やれるだけ、やってみる…
 でも、多分だめだと思う。
 後は…頼みますね。」
 言いながら、クミノは機関銃のトリガーを引く。反動で、彼女は背中にある木に叩きつけられる。
 「くぅ…」
 彼女の口から苦しそうな声があがる。
 別に物理攻撃ではないから、こういう時には障壁は彼女の身を守ってはくれない。
 それでも、クミノが握り締める機関銃から放たれる無数の弾丸は『土食らい』を襲う。
 血しぶきが上がり、そして、
 『うぉおおおおおーん!』
 今までで1番大きい泣き声が、響き渡った。
 皆、顔をしかめる。
 クミノの障壁は、物理攻撃以外の攻撃には無力ではないが、無敵でも無かった。
 「やっぱり…だめね…」
 クミノは泣き声に耐えられず、その場に倒れこむ。
 息はしているが、意識は無い。
 手に持った機関銃も同時に消滅していた。
 「充分です。後は任されましょう。」
 「どなたか存ぜぬが、ご苦労でした。」
 言いながら悠也と霜月が結界から飛び出し、風刃とカマイタチで『土食らい』を牽制する。
 その隙にシュラインがクミノを助けて結界の中に回収しようとしたが、
 「死にたくなければ、やめた方が良いぞ。」
 結界に近づいてきたストリートドクター、レイベル・ラブが言った。
 「どういう意味よ?」
 レイベルのぶっきらぼうな言い方に少し腹を立てながら、シュラインが言った。
 「その娘の『障壁』は、側にいる親しい者を問答無用で殺す作用があるんだよ。
  だから、死にたくなかったら下がっておれと言っている。」
 レイベルは言いながら、ササキビを担ぎ上げる。
 「そ、そうなの…」
 クミノは心配だが、命も惜しい。シュラインはとまどう。
 「だから、私に任せておけ。
 私は死んでも勝手に生き返るからな。」
 レイベルは死んでもいつのまにか生き返る事が特技である。
 「この娘を安全な所に置いたら、すぐに助けに来てやる。
 ただし、私がこの娘の障壁に殺されなかったらな。」
 そう言って、レイベルはササキビをかかえると走り出した。
 「ごめん、頼むわね!」
 確かに、レイベルでもないとササキビと一緒には居れそうになかった。
 霜月と悠也は、なおも『土食らい』に苦戦している。
 シュラインは何とか二人をサポートしようと、様子を見る。
 レイベルは100メートル程、クミノを抱えて走った。
 ここまで来れば、大丈夫だろう。
 クミノを置いてシュライン達の所に帰ろうとしたが、急に体に力が入らなくなった。
 「ふむ…
 奴らの手助けは出来そうに無いか。
 私が生き返るまでには、結果も出ているだろうしな。
 それにしても、今日はよく死ぬ日だ…」
 ぶつぶつと言いながら、レイベルは目を閉じる。
 彼女の呼吸と心臓は、停止していた。
 そんな二人に関わらず、まだ戦闘は続いていた。
 「ちょっと良い攻撃が入る度に泣かれては、いつまでたってもキリがありませんな。」
 霜月が少し困ったように言う。
 クミノの攻撃で大分弱った『土食い』だったが、攻撃を受ける度に相変わらず泣き声を上げる。
 一気に攻め込む事が出来ず、あせりがつのる霜月と悠也だった。
 そこに、また2人、女性がやってくる。
 20代の女性と中学生位の少女という組み合わせ自体は、先程のレイベル達と一緒だった。
 一条朱鷺子と、海原みなもである。
 「うちの犬にしばらく時間稼がせるから、2人とも少し休みなさいよ!」
 朱鷺子はそう言って、地面に犬と書き始める。漢字のイメージを具現化するのが彼女の能力だった。
 「今まで、みなもちゃんと別の所に居たのよ。もうひと押しみたいだし、何とかがんばりましょう!」
 朱鷺子は元気が良い。
 「あんたに言われるまでもないわよ。」
 シュラインの顔に笑みが浮かぶ。
 朱鷺子の『犬』が『土食らい』に向かう。
 その隙に、霜月と悠也が壊れる寸前の結界まで引いてくる。
 「霜月さん、手伝いますね!」
 海原みなもは、悠也と一緒に霜月のサポートに回る。
 「でも、どうするの?
 あの泣き声が、やっかいよね。」
 朱鷺子が一堂に言う。
 良い所まで攻めても、泣き声のせいで決め切れずに逆に追いこまれてしまうパターンが続いている。
 「一気に決めるしかないわけですよね…
 そうだ、シュラインさん、草間さんの瓶、使いましょうよ。
 まだ、幾つかありましたよね?
 アレを口に放りこんで火を着ければ、上手くすれば、声を出させないように出来るかも知れないですよ。」
 言ったのは悠也だった。
 「火を着ける方法、ある?」
 先ほどは、それが思うようにいかずに失敗した。
 「それなら、私が『爆』って書いた紙を貼っておくわ。そうすれば、時限爆弾みたく出来るから。」
 「口に入れる狙いどころは、泣き声を上げる瞬間ですな。」
 朱鷺子と霜月が言う。
 「じゃあ、シュラインさん、俺達が攻撃してあれを泣かせますから、開いた口に瓶を放りこんでもらえますか?」
 悠也が言った。
 「瓶、幾つかあるんでしょ?
 私も『燕』でも呼んで瓶を持たせてみるからさ、一緒にやろうよ。
 口の中に入りさえしたら、後は私が『爆』の字で爆発させるから!」
 言いながら、朱鷺子が『爆』とマジックで紙に書いて、瓶に張りつけていく。
 「そうね、わかったわ。」
 そろそろ、朱鷺子の犬も食われそうだ。時間が無い。
 「お願いしますね、シュラインさん。」
 みなもが言う。
 そして、朱鷺子の『犬』が食われた。
 「みんな、お願いね!」
 シュラインの声を受けて、霜月、悠也、みなもの3人が、それぞれ『土食い』を攻撃する。
 「鋼糸を全て使ってしまったのは失敗でしたな。」
 錫場1本で『土食い』に殴りかかるのは霜月だった。
 得意の鋼糸が、1本でも良いから欲しかった。
 みなもはペットボトルに詰めた水を高水圧で噴出し、細い糸の様にして操って『土食い』を襲うが上手くいかない。
 「うーん、やっぱり霜月さんみたいに上手に糸、使えないです。」
 悔しそうに言うみなもだったが、はっとして霜月と顔を見合わせた。
 みなもは無言でペットボトルを霜月に手渡す。
 「水龍鋼糸よ、『土食らい』を撃て!」
 霜月が唱えながら水の糸を操り、同時に錫場で撃ちかかる。
 「鋼糸…では無いと思いますよ。」
 悠也が首を傾げながら風刃を繰り出す。
 「あの…水の糸を生み出してるのは、あたしですからね?」
 みなもがペットボトルの水を噴出させながら、『土食らい』を蹴り上げた。
 たまらず、『土食らい』が泣き声を上げる。
 シュラインと朱鷺子はそこまで、ひたすら泣き声を我慢する事だけを考えていた。
 苦しい顔をしながらも、シュラインは泣き声に耐えて瓶を投げる。
 瓶は上手く『土食らい』の口に入る。
 「い、行って、燕さん!」
 朱鷺子も苦しそうに言って、瓶を抱えた燕が『土食らい』へと向かうが、しゃべった分だけ動き出しが遅れてしまった。
 燕は閉じられた『土食らい』の口に衝突する。
 「私の燕さんが…
 燕さんの仇!
 『爆!』」
 自分が燕を爆破しようとしていた事も忘れて、朱鷺子は叫んだ。
 シュラインの瓶が弾け飛ぶ。
 「うお、これは…」
 悠也が後ずさる。思った以上の爆発だった。
 「火力が強すぎませんか…」
 みなもが呆れている。
 『土食らい』は上半身半分、吹き飛んでいた。
 当然、息はしていない。
 「武彦さん、何て物持たせるのよ…」
 ここまで効果があるとは思わなかったシュラインは、呆れる。
 「ま、まあ、結果オーライというやつでございましょう。」
 とりあえず、死体から離れた所で休もうと霜月が言った。
 朱鷺子が最後の力を振り絞って新たに呼んだ蟻達に『土食らい』の死体を埋葬させながら、一堂はその場を離れようとした。
 「む…何やら終わってしまったようだな。」
 レイベル・ラブが、ふらりとやってきた。
 彼女の話によると、
 『結果は知らないけど、もう、終わってるはずね…』
 そう言ってクミノは1人で先に帰ったという。
 「障壁の能力を封じぬ限り、奴は他の者と一緒には居れぬからな…」
 レイベルが、少し低い声で言った。
 一堂はレイベルを連れて、北へと歩く。
 また1人、誰か近づいてくる。
 化け猫の陸奥だった。
 「なんだか凄い泣き声がしたんで来たんですけど、どうやら大丈夫みたいだったですね。
 皆さん、おつかれさまです。
 後は僕達が何とかしますんで、もう休んでいて下さい。」
 彼に言われるまでもなく、戦う力が残ってる者は居なかった。
 一堂はしばらく長老の所で休んだ後に山を離れる。
 その後、『土食らい』が再び現れたという報告は、未だに草間の所には来ていない。

 (完)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
 【1069/護堂・霜月/男/999/真言宗僧侶】
 【1027/一条・朱鷺子/女/27/OL(食品関係・業務課所属)】
 【1252/海原・みなも/女/13/中学生】
 【0164/斎・悠也/男/21/大学生・バイトでホスト】
 【0606/レイベル・ラブ/女/395/ストリートドクター】
 【1166/ササキビ・クミノ/女/13/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】

 (PC名は参加順です。)
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■         ライター通信          ■
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 毎度ありがとうございます、MTSです。
 今回は三チームに別れて展開する話になりました。
 同じグループの方のノベルは、細部を除いて似たような内容になってます。
 また、今回は戦闘がメインになってしまったので、
 そういう意味ではシュラインにはつらいかなーと思ったのですが、どうもおつかれさまでした。